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医療従事者のための医療倫理学入門
13.終末期医療における倫理的決断(1)—基本的分類と議論の範囲
著者: 浅井篤1 大西基喜2 福井次矢3
所属機関: 1京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療倫理学 2京都大学医学部附属病院総合診療部 3京都大学大学院医学研究科臨床疫学
ページ範囲:P.172 - P.174
文献購入ページに移動この領域では,長年にわたって幾つもの概念や原則が提出され,終末期における医学的な決断の倫理的正当性が検討されてきた.一方,非常に広く複雑な分野だけに呈示された分類や概念に対する混乱や誤解,定義に関する異論が絶えない.例えば,医師の行為を表す「治療の中断」,「治療の差し控え」,「自殺をしたいという希望を表明している患者の要求に従って大量のトランキライザーを処方する」,「医師が塩化カリウムを患者に注射して直接的積極的に死を早めること」などが,「尊厳死」や「自然死」に当たるのか(ゆえに倫理的に許容されるのか),「安楽死」に当たるのか,それとも「殺人」に当たるのか(ゆえに許されないのか),については議論が極端に分かれている.また,植物状態患者での経管栄養は「基本的で必須な(basic and essential)ケア」なのか(ゆえに中止してはならないのか),それとも医療的介入の一つなのか(ゆえに中止し得るのか),抗生物質投与は通常治療で(ゆえに差し控えてはならないのか),人工呼吸は「侵襲的」なのか(ゆえに差し控えてもよいのか)などについてもコンセンサスは得られていない状況である.「自殺幇助」と「自発的安楽死」は倫理的に区別されるのか否かも,論者のよって立つ哲学によって極端に異なっている.また,「大量のモルヒネを,患者の死を早めるとわかっていながら,苦痛緩和の意図で使用すること」と「大量のモルヒネを患者の死を早める意図で使用すること」に倫理的差異はあるのか否かについても議論が分かれている.
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