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雑誌目次

雑誌文献

病院60巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

特集 人材開発と管理職研修

エンプロイヤビリティの形成・向上を支援—従業員自律・企業支援型の人材育成

著者: 岩松かほる

ページ範囲:P.678 - P.681

日本型のエンプロイヤビリティ
 長期継続雇用,年功賃金制,新卒一括採用といった日本的雇用慣行が見直しを迫られる中で,働く人たちの「エンプロイヤビリティ」,すなわち企業に雇用され得る能力・市場価値のある職業能力が強く問われている.日本経営者団体連盟(以下,日経連)では平成10年7月に教育特別委員会の下部委員会として「エンプロイヤビリティ検討委員会」を設置し,市場価値の創造という観点も踏まえた企業における人材育成・能力開発のあり方について検討を開始した.そして,翌,平成11年4月「エンプロイヤビリティの確立をめざして—従業員自律・企業支援型の人材育成を—」と題する報告書に取りまとめ発表した.
 「エンプロイヤビリティ」という言葉は,倒産やリストラで職を失った人たちが再就職しやすいように身につけておくべき能力や資格,いわゆる「転職を可能にするための職業能力」といった意味合いで使われることが多かった.しかし,日経連が提唱する「日本型エンプロイヤビリティ」は,「他社への転職を可能にする職業能力」という狭い範囲にとどめず,「現在働く企業の中で発揮され,かつ継続的に雇用されることを可能にする能力」という積極的な視点を加えた幅広い意味合いの「雇用され得る能力」としてとらえている.そして,その根底には人間尊重の経営理念がなくてはならないというのが基本的な考え方である.

人材開発としてのQC活動

著者: 波田宗紀

ページ範囲:P.682 - P.685

 益田地域医療センター医師会病院は高度専門医療サービスの提供,益田圏域の無医地区解消のため,へき地中核病院の承認を受けてのへき地医療サービスの充実,高齢化に対応すべく老人デイケア施設の整備,市内の小・中・高校の健診から一般健診・人間ドックに対する保健予防体制・システムの整備を図って保健予防,診療,リハビリテーションの三位一体の一貫した地域医療サービスを提供することを念願し,「新たな時代に対応した益田地域独自の医療サービス体制を創造したい」と社団法人益田市美濃郡医師会の地域医療に対する情熱によって昭和61年5月1日に開設された.
 しかし,開設当初の様々な体制不備が尾を引き,各部署に多くの問題点がありながら問題を避けて通ったり,問題を問題と感じなくなっている状態であった.したがって経営状態も好転の兆しが全くうかがえず先行き不安が増すばかりとなり,問題解決で一番簡単な「人のせい」にする風潮が増してきた.

職員研修業の管理者研修の実際―経営管理能力強化のための職員研修/価値が計りにくい「価値あるモノ」の上手な磨き方/「人を動かす能力」と「経営力」の涵養/「探索型組織風土」づくりを目指す職員研修

著者: 持田充 ,   谷津田義久 ,   宮川元司 ,   川原邦彦

ページ範囲:P.686 - P.691

 当社は社団法人日本能率協会を母体としたマネジメントコンサルタント会社であるが,ヘルスケア分野では病院の経営改善コンサルティングを中心に,医療分野の各種調査や研修事業を行っている.病院の研修事業では全国の自治体や私立病院協会,全国社会保険協会連合会,日本病院会などの公的団体での管理者研修だけでなく,個別の病院を対象にした管理者研修も行っている.最近では後者の研修が多く,その実績は年間約60病院前後になっている.
 今回は,当社における病院管理者研修の実績を踏まえ,最近のニーズと内容について述べることにする.

病院団体などによる研修事業―医療従事者の資質の向上を目指す/自治体病院職員としての自覚・認識の高揚を図って/看護管理者の育成/病院管理に関する研究成果を取り入れた研修事業/トップマネジメントとして経営診断・経営指導

著者: 中山耕作 ,   小山田惠 ,   岡谷恵子 ,   小内良和 ,   頼富真吾

ページ範囲:P.692 - P.697

 医師,看護婦をはじめとする多数の職種で構成される病院のチーム医療にとって,病院職員の教育研修は最も重要な課題の一つで,病院経営の基本にも位置づけられます.当会では,医療従事者の資質の向上,病院の経営改善,機能向上を目指して病院業務の各職域における専門的事項およびその関連事項について研究研修活動を行っており,その内容は「日本病院会雑誌」に順次掲載しております.

都立病院における入材開発の試み—都立病院「病院運営に関する研究会」について

著者: 足立山夫

ページ範囲:P.698 - P.701

 都立病院における医師の管理職人材開発を目的とし,東京都衛生局病院事業部では,「病院運営に関する研究会」を平成6年7月に発足させた.都立病院には,八つの総合病院と六つの単科病院の計14病院があるが,一般医師に対しては都立病院間の人事異動は行われていない.事務系の職員が頻回に異動することと大きく異なるが,医師は患者の診療に直接結びついているため,異動すると患者の診療上混乱が生ずるとの判断によるものであろう.もっとも管理職である部長,医長についても,各診療科が大学の医局単位で構成されていることが多く,異動により大学医局との関係に混乱を起こしかねないとの思いもあり,原則として異動の対象とはなっていない.
 しかし,副院長,院長については,診療にかかわる部分があるとはいえ病院の管理運営に直接関与する管理職として,その職責は十分果たすべきであり,また,その能力が求められていることから,また新しい意識づけの必要性からも原則異動の対象となっている.各診療科部長の職にある者の中から将来,副院長,院長の任にふさわしい人材を育成しておくことは病院運営上極めて重要であると言える.ここに「病院運営に関する研究会」が発足した理由がある.その内容と人材開発の実績について概要を述べてみたい.

グラフ

急性期の高度医療を提供する都市型病院—財団法人住友病院

ページ範囲:P.666 - P.671

 琵琶湖を源流とする淀川は大阪市中心部で北を流れる堂島川と,南を流れる土佐堀川に分かれる.その分岐点となる中之島は,水運の要衝として江戸期を通じて「天下の台所」と称され繁栄してきた大阪の「礎」となった地である.現在でも大阪市役所や中央公会堂などを有し,大阪の行政・文化の中心地となっている.その中之島の南西,土佐堀川を見下ろす岸辺に住友病院はある.

HOSPITAL INDEX

高度先進医療医療機関・5

ページ範囲:P.672 - P.672

〔島根県〕
島根医科大学医学部附属病院 〠 693-8501出雲市塩冶町89-1 培養細胞による先天性代謝異常診断/潰瘍性腸炎に対する遠心分離法による白血球除去治療
〔岡山県〕
岡山大学歯学部附属病院 〠700-8525岡山市鹿田町2-5−1 顎関節の補綴学的治療/接着ブリッジによる欠損補綴並びに動揺歯固定/光学印象採得による

対論

地域医療の視座をめぐって・1

著者: 増田進 ,   佐藤保生

ページ範囲:P.702 - P.708

 編集部 「地域医療の視座をめぐって」という漠然としたテーマですが,最近の保健医療を政策面でみますと,いろいろな動きがあります.例えば,公衆衛生の分野では保健所の福祉事務所との統合などをはじめとしたリストラ,様々な保健事業の市町村への委譲,老人保健法の成人病検診の見直しなども行われています.また,介護保険制度の発足と,それに伴う老人保健による機能訓練事業の「撤退」への動き等々,さらにこれまで地域で医療活動を展開してきた医療機関も,介護保険によりその基盤を揺るがされつつあるという事態もあります.
 増田先生は,沢内村で約40年にわたり,病院長として,また沢内村の健康管理課長として,沢内村の保健医療に携わってこられましたが,「定年」を迎えたということで,昨年,同じ岩手県内の三陸沿岸にある田老町病院の院長に就かれました.

特別寄稿

臨床医の立場からみた公立病院の理念・2

著者: 遠藤和郎

ページ範囲:P.709 - P.713

(7月号より続く)
12.理念を認識する
 理念は一度決めたから,それで終わりというものではない.額に入れて壁に掲げるものでもない.達成するものである.ようやく理念を掲げた当院が次にやるべきことは,すべての職員に理念を認識させることである26).すべての職員が理念を認識するためには,①理念をわかりやすい言葉で表現する,②理念をすらすらいえるようにする,③理念の具体的な実現方法を伝える,④理念が正確に伝わったか確認する,といった過程が必要となる.
 沖縄県には日本医療機能評価機構の認定施設が6施設ある.そのうち5施設に電話をし,交換手に理念を問うたところ,即座に答えられた施設は一つもなかった.企業のあり方のみならず,その理念「我が信条27)」で有名なジョンソン・エンド・ジョンソンの社員に,当院の廊下で理念を問うてみた.彼は額に汗を浮かべながら「顧客に対する責任」の項をゆっくりと,かみ締めるように語ってくれた.世界175か国に9万人以上の職員を抱えている同社が,一流企業である証を垣間見る思いがした.同社は理念を実行に移すために「クレドーサーベイ」という独自のアクションプランをとっている.

データファイル

今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針・1—(平成13年6月21日,経済財政諮問会議)

ページ範囲:P.713 - P.713

〈新世紀維新が目指すもの—日本経済の再生シナリオ〉(略)
第1章 構造改革と経済の活性化(略)第2章 新世紀型の社会資本整備(略)第3章 社会保障制度の改革—国民の安全と生活の安定を支える
1.国民の「安心」と生活の「安定」 を支える社会保障制度の確立
(1)国民の安心と生活の安定を支える セーフティーネット(略)
(2)「自助と自律」を基本とした持続可 能で安心できる制度の再構築(略)
(3)時代の要講に応える(略)
(4)「価値」ある効率的な仕組みへ(略)(5)活力ある「共助」の社会の構築(略)

今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針・2—(平成13年6月21日1,経済財政諮問会議)

ページ範囲:P.735 - P.735

②患者本位の医療サービスの実現
 患者自身が理解し納得して選択できる患者本位の医療サービスを実現する.このため,インフォームドコンセントの制度化,医療・医療機関に関する情報開示,医療情報のデータベース化・ネットワーク化による国民への情報提供の拡充,医療関係者相互の評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保,医療機関の広告規制の緩和等を行う.

総合規制改革会議「重点6分野に関する中間とりまとめ」—(平成13年7月24日,総合規制改革会議)

ページ範囲:P.740 - P.742

I.総論:規制改革に取り組むに当たっての基本理念
1.「システム全体の変革」の重要性について
 「規制改革」は,供給主体間の競争やイノベーションを通じて,生活者・消費者が安価で質の高い多様な財・サービスを享受することを可能とするものである.すなわち,自由な環境の下でビジネスチャンスを拡大し,社会全体としての生産要素の最適配分を実現することによって,経済を活性化するものである.このように,「生活者・消費者本位の経済社会システム構築」と「経済の活性化」を同時に実現する「規制改革」を,政府は,最優先課題として積極的に推進することが必要である.
 規制改革を推進するため,政府としては,従来より例えば個々の事業者又は事業者団体からの要望に積極的に対応すること等により,「個別の規制改革」を重点的に進め,大きな成果を上げてきた.また,規制改革を分野別に進めるという手法も採ってきた.しかしながら,規制改革をより効率的に進め改革の実を上げていくためには,これらの手法に加えて,それぞれの分野の「あるべき姿」を念頭に置き,政策目標・理念を明確にした上で,競争促進のためのルール作りや予算措置等関連制度の見直しも含めた「体系的・包括的な規制改革」,すなわち,「システム全体の変革」についての取組を,意識的に強化していくことが効果的である.

レポート

医療機関における取引費用とITの活用

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.714 - P.717

 人口の高齢化,疾病構造の変化など医療外部環境の変化また国民医療費増加により,医療機関は自らの方向性を戦略的に考えることが必要になってきた.例えば,急性期から慢性期医療まで行う垂直統合,急性期のみあるいは慢性期のみに特化する水平統合,あるいは専門外来クリニックなど専門に特化する方向が考えられる.要するに医療機関の効率的経営(注1)が求められている.
 日本福祉大学二木教授によると,日本ではIDS (Integrated Delivery System,保健・医療・福祉連合体.注2)化が進んでいるという.一方米国では,日本より早くIDS化が進展すると同時にIT (information technology)の拡大により,医療機関のネットワーク化も進展している.これらの現象は「組織内に医療に関する種々の機能を内部化することと外部化することのどちらが医療機関にとって効率的か」(注3)という問いかけに言い換えることができる.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道 part3・8

これからの民間中小病院の生き残る途—井上病院の事例をとおして

著者: 田中煕

ページ範囲:P.718 - P.719

⦿2001年6月井上病院周辺の現状
 井上病院は,今年5月リニューアルを完了し,今,新たな気持ちで再び医療に取り組んでいる.足掛け4年を要した工事も,終わってみれば,昨日までの喧騒が嘘のようである.
 病院:66床,うち37床が一般,29床が療養型病床群というケア・ミックス型.

病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・8

医療事故と患者安全

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.720 - P.721

⦿病院医療事故死亡者
 今,病院界で医療事故への関心が高まっている.度重なる医療事故,連日のように報道される医療に対する不信は,大きな社会問題に発展している.病院内の医療事故の多くに看護職が関与し「看護婦,受け渡しミス」,「必要な薬品の入れ忘れ単純ミス」,「人工呼吸器のスイッチ入れ忘れミス」,「誤注・誤薬」などといわれると,人ごととは思えないし,とても辛い.医療事故を個人の責任ととらえ糾弾することは,再発を防止するためのシステムを院内に確立することに比べ,たやすい.しかし,この問題は,必ずしも専門家でない筆者でも,なんとかできないものかと深く考えている.なんの役にも立たないかもしれないが,多くの看護部長に「かばうな,かくすな,おびえるな」と話している.
 病院の医療事故は千差万別ではあるが,明らかに病院が事故をかくそうとしたり,職員同士でかばい合うということが事後に発覚すると,最悪の事態を招く.実際に,医療事故の発覚した病院の関係者の話を聴くと「かばおう,かくそうという心理が働く」という.事故後の病院は,緊張が極度に達し「看護職がおびえて,単純ミスが起こりやすくなる」ともいう.医療事故は万人に不幸だ.

ボランティア:住民に支えられて—諏訪中央病院・8

やさしさ体験 夏のチャレンジ—高校生のボランティア活動

著者: 田辺庚

ページ範囲:P.722 - P.722

 当院では,昭和61年に移転新築されて以来,毎年8月に高校生を対象としたボランティアサマーワークキャンプを開催しており,今年で早16年目を迎えます.
 初年度は15名の地元高校生が病院に宿泊し,入院患者さんの食事や入浴の介助,話し相手などをしたり,デイケアや訪問看護を体験しました.夜には地域の知的障害を持つ子どもたちと一緒にカレーライスを作ったり,花火を楽しんだりしました.若者たちが病院に出入りすることで院内が明るくなり,お年寄りが喜んだことは言うまでもありません.また,患者さんやお年寄り,障害のある方が一所懸命に生きる姿に触れることで,高校生に優しい心と思いやりが芽生え育ち,地域に優しさを広げられたらと期待しています.

癒しの環境

お化粧と癒し

著者: 岩井好子

ページ範囲:P.723 - P.723

 「化粧水もつけていないから……」,「手入れしてないから……」.鏡の前に座った方の多くが,まずおっしゃる.化粧ボランティアをした高齢者施設や病院でのことである.
 「患者に化粧は必要ない」.確かに,ファンデーションや口紅でシーッが汚れる.洗顔だって思うにまかせない.第一,顔色がわからない.治療のために入院しているのだから,化粧など必要ないというのもうなづける.

連載 事例による医療監視・指導・19

遠隔診療について

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.724 - P.725

 IT化の波が医療の分野にも訪れています.本誌の2001年3月号でも﨑原永作先生が「IT革命は病院医療をどう変えるか」欄で「遠隔診療—沖縄県における離島医療支援ネットワークのかたちで」と題してお書きになっておられますが,本号では遠隔診療についての事例を取り上げます.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第82回

愛知県厚生連渥美病院

著者: 川島浩孝

ページ範囲:P.736 - P.739

 2000年10月,新しい渥美病院(316床)がオープンした.1967年2月に旧敷地に移転新築された渥美病院は,渥美郡内唯一の地域中核病院として地域医療における重要な役割を担い続けてきた.移転以来数次にわたる増改築を重ねてきたものの,老朽化・狭隘化は限界に達し,さらなる高度医療への期待に応えるべく新敷地を求めて移転新築が決定され,2000年5月新病院は竣工を迎えている.

IT革命は病院医療をどう変えるか・7

電子カルテシステムを内包するペーパーレス統合情報システム(SHIMANE-IIMS)(3)—完全電子化は病院経営に何をもたらすか

著者: 沖一 ,   清水史郎 ,   大田宣弘 ,   川合政恵 ,   瀬戸山元一 ,   中川正久

ページ範囲:P.726 - P.728

 診療情報の電子化は,規制緩和の命題のもとに1999年4月22日の厚生省(現厚生労働省)三局長通知として勢いよく飛び出し,次世代の病院運営にも新しい展望をもたらした.
 これまで医療界は,各種の法律に擁護(規制)されて,他の産業に比べて特別扱いを受け続けてきたが,その壁が医療の現場からの自助努力による改革ではなく,外圧により崩れ去った感は否めない.完全な電子情報の共有が可能な法整備はまだ完壁ではないが,医療情報の電子化に対する多くの問題は,解決に向けて進捗している.この流れは,単に施設内の診療情報が電子化されたことにとどまらず,他の診療機関あるいは介護支援センター,在宅看護支援センター,地域リハビリテーションなどの関連機関はもとより受診者の自己管理のための医療情報の共有化にも道を開き,今までの診療サービスの提供者による一方的な提供から受診者のニードと選択による自己決定の支援としての情報提供に変化してくるなど,ネットワークを介してさらなる付加価値を求めて施設外に出ていくプラットフォームに他ならないことも示している.そこで,統合的な電子化を決定した要因とその際の医療情報が病院経営にもたらす方向性について,ほぼ2年にわたって統合情報システム(SHIMANE-IIMS)を運営した実績とそこから生じた新たな課題について述べたい.

医療経営の総合的「質」の検討・8

安全確保のための作業管理—製造業と共通するいくつかの問題について

著者: 久米均

ページ範囲:P.729 - P.732

 製造業の分野で用いられている品質・安全の管理方法のすべてがそのまま医療の分野で適用できるとは思わないが,いずれの分野も人間集団の組織的活動という点では同じであり,共通する要素が多くある.新聞・テレビで報道されている医療トラブルの多くは医療技術というよりは作業の問題である.製造業においても製造技術のみならず作業上の問題も多く,技術面では違いがあっても作業管理の面では多くの共通点がある.本稿ではこの観点から品質データ,識別,変更管理の問題について考えてみたい.

医療従事者のための医療倫理学入門

19.HIV感染症の診療に伴う医療倫理的問題

著者: 大西基喜 ,   浅井篤 ,   福井次矢

ページ範囲:P.733 - P.735

〔ケース〕
 HIV陽性者として,外来で経過観察されていたKさん(44歳,男性)が吐血した.通院していたA病院はHIV患者を入院させる態勢にないとして,地域のB中核病院に搬送した.そこもHIV感染症は拠点病院に送るのを原則としていたが,Kさんは出血性のショックを起こしているため緊急入院させた.緊急内視鏡はHIV患者には適さないとされ,胃潰瘍の暫定診断で消化器病棟に入院した.Kさんは同性愛者で,1年前にたまたまHIV陽性が判明していた.Y研修医は担当医になるよう指導医からいわれたが,どうにも不快な感じを払拭できなかった.漠然と同性愛やそれと関連する感染に嫌悪感を感じ,かつその感染症のために自らの感染の危険まで冒さなければならないことが納得できなかった.結局,自分の気持ちを整理しきれないまま,異例にも,指導医に担当変更を申し入れてしまった.

琉球弧から・8

鬼手仏心

著者: 天願勇

ページ範囲:P.743 - P.743

 骨太の医療構造改革
 参議院選挙が終わり,小泉純一郎政権の下で構造改革の大きな柱の一つ「医療改革」が行われる.国内総生産(GDP)が落ち込み,実質経済成長率も低迷するなか,政府は各分野に「痛みを伴う改革」を呼びかけている.経済財政諮問会議が打ち出した主な改革メニューは,年金・医療・介護の3本柱のバランスを取るため,医療費を抑制し,医療制度を改革することである.改革の方針は①供給体制の効率化,②サービスの標準化と質の向上,③根拠に基づく医療(EBM)情報の提供,④病院の機能評価と機能分化,⑤病院経営の近代化,を中心に検討される.
 「患者本位」の医療を実現するための具体策は,インフォームドコンセントの制度化,医療機関に関する情報開示,医療情報のデータベース化・ネットワーク化による国民への情報提供の拡充,医療関係者相互の評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保,医療機関の広告規制の緩和などである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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