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雑誌目次

雑誌文献

病院61巻1号

2002年01月発行

雑誌目次

特集 医療の規制改革と病院

【てい談】医療の規制改革は何を目指すか

著者: 伊藤雅治 ,   八代尚宏 ,   河北博文

ページ範囲:P.14 - P.21

 河北(司会) わが国において規制改革は長年の課題であり,始まりは,1982年の士光敏夫氏の第2次臨調だといわれています.近年では,規制緩和推進3か年計画の中で,規制改革委員会が平成12年12月に見解をまとめています.その後,平成13年4月に総合規制改革会議が設置され,7月に「重点6分野に関する中間の取りまとめ」が発表されました.こうした流れを踏まえて,規制改革を行えばわが国の医療はどうなるのかについて議論したいと思います.
 本日は,厚生労働省医政局の伊藤前局長,総合規制改革会議の委員でいらっしゃる日本経済研究センター理事長の八代先生においでいただきました.初めに,医療においてなぜ規制改革が必要であるかについて,総合規制改革会議の立場も含めて,八代先生からご意見をお願いします.

産業としての医療の可能性

著者: 川原丈貴

ページ範囲:P.22 - P.26

現在の構造改革の流れ
 平成13年4月に小泉内閣が高い支持率のもとに成立した.これは長引く不況を背景に,閉塞感の漂う日本経済の建て直しを小泉内閣に期待してのことである.小泉内閣は構造改革に力点を置き,構造改革に関する様々な改革案が公表されている.
 平成13年6月から7月にかけて,経済財政諮問会議の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(いわゆる骨太の方針)」,総合規制改革会議による「重点6分野に関する中間とりまとめ」,産業構造改革・雇用対策本部による「中間とりまとめ」が公表されるなど,現在の産業全体にわたる構造改革について,盛んに議論がなされている.

雇用の確保に医療の果たす役割

著者: 鴇田忠彦

ページ範囲:P.27 - P.31

 日本の政治史上おそらくはまれと思われる高い支持率を得て発足した小泉政権は,構造改革を掲げて,財政改革や規制緩和に精力的に取り組んでいるようである.それらは以前から多くの人々に提唱されながら,従来の政権の下では聖域とされて,郵政事業や道路公団などの民営化などをはじめ,ほとんどの改革は困難であるとされてきた.それはいうまでもなく,これらの事業に関係する官僚を含めた人々は,強力な政治的圧力によって政府与党に影響力を行使し,政治家もまたそのような関係を積極的に形成することで,支持基盤を固めてきたからである.
 あるいは極言すれば戦後日本の政治機構は,わずかな時期を除いて,各種の規制によって発生する既得権益を追求・維持・拡大するrent—seekingと,それを再配分することを,その主たる役割としてきた.したがって皮肉なことに小泉政権の最大の敵は,野党でなくむしろ与党内部であり,ほとんどの与党の政治家はいわゆる族議員として,これまでの選挙で既得権益の擁護によって支持されてきたのである.

営利医療の潜在力

著者: 小幡文雄

ページ範囲:P.32 - P.37

 医療界およびその所轄行政当局の認識として,医療は「公益性」のある事業であり,したがって営利企業の参入は不適当である,とする考え方が一般的である.また,営利企業が参入すれば,利用者が便益を得るというよりむしろ不利益を被るので,医療は非営利組織によって担われなければならない,と考えられている.しかし,現代の社会においては,「公益性」の高い事業でありながら株式会社によって運営されている事業は,電力,ガス,銀行,運輸,通信など多数存在する.また,便益の問題についても,中曽根行政改革の成果である旧国鉄の民営化(株式会社化)は,利用者の利便性向上に寄与するところ大であったとの認識が一般的である.
 このように,現代の資本主義経済システムにおいては,「公益性」を理由にアプリオリに,ある事業を行う組織が非営利組織に限定されることはない.「公益性」の高い事業の担い手を営利法人・非営利法人のいずれにするかは,利用者の便益とそのための費用負担(直接的負担のみならず,税や非効率性といった社会的負担を含む)の比較衡量をベースに,それぞれの国が,それぞれの歴史的背景・文化の下で,その政治過程を通じて行う,経済システムのあり方についての選択の問題である.

【資料】医療における規制改革の経緯

著者: 編集部

ページ範囲:P.38 - P.39

 行政改革の推進機関である臨調・行革審などにより,1980年代以降,様々な規制の見直しがなされてきたが,1990年代に景気低迷が長期化したことにより,規制緩和は経済政策の最重要課題の一つとなった.日本社会を取り巻く環境は,経済のグローバル化,少子高齢化,情報化(IT革命),環境問題の深刻化など大規模かつ急激に変化しており,これらへの対応の遅れが,経済回復が遅れている原因に上げられている.経済の再生と豊かな国民生活の実現のため,規制改革は構造改革の一環としていっそう推進されている.

グラフ

アメニティの向上と医療機能の整備—沖縄県立中部病院

ページ範囲:P.1 - P.6

 沖縄県立中部病院(宮城征四郎院長)が昨年10月,同一敷地内に新病院を建設移転した.中部病院は昭和21年にコザ市(現沖縄市)に沖縄中央病院として開設され,昭和41年に中部病院と改称,現在地の具志川市に移転した.以来,沖縄県医療の基幹病院として,救命救急医療を中心に急性期医療を展開してきた.
 旧病院から新病院への移転は,10月半ばに2週間かけて行われた.この間,沖縄県中部医師会および中部地域7病院の協力を得て大きなトラブルもなく,移転作業を終えることができた.

HOSPITAL INDEX

臨床研修指定病院・3

ページ範囲:P.8 - P.8

特別企画 病院機能と医師評価・2

新評価体系における医師評価について

著者: 大道久

ページ範囲:P.42 - P.45

 日本医療機能評価機構の病院機能評価事業での新しい体系の枠組みの医師評価について,その位置づけなどを紹介いたします.
 まず,病院機能評価事業の最近の状況ですが,事業を開始して4年余りたちました.現段階では9,200ほどの病院のうち累積で748病院(全体の8.1%)から受診申請をいただき,548病院が審査を終了し,499病院が認定されています(2001年6月末日現在).

レポート

全社連病院における検査精度管理の改善

著者: 久満董樹 ,   山口亨

ページ範囲:P.46 - P.50

改めて検査精度管理を考える
 医学生であった1960年代前半,私は大学の内科研究室で夜間アルバイトをしていた.まだ検査室が中央化しない時代で,肝臓疾患を扱うその研究室では,いわゆる「肝機能検査」を医師が行っていた.私が担当したのは膠質反応とビリルビンの定量で,夕刻研究室にゆくと,当日採取された10人分ほどの患者血液が準備されていた.血清分離とインキュベーションの合間に汚れた流しの器具類を洗い,終わると検量曲線から得た値をノートに記載して帰宅することを繰り返した.ある時,室長からなかなか精確な検査をしているとほめられ,秘かにいつも同一血清を紛れ込ませてモニターしていた事実を告げられた.今に言う精度管理を受けていたのである.
 インターン時代には,インターンも新人医師も白衣のポケットに末梢血検査用のメランジュール2本を入れ,採血をすると病棟の片隅にある顕微鏡室で数取器を叩くのが当たり前であった.早朝の教授回診に間に合わせるために「新しくて速い」ことが「精度」よりも優先された時代でもあった.インターン研修を終えるとき,前述の研究室で,市販されたキットを用いて「肝疾患におけるコリンエステラーゼ値測定の意義」と題した小さな報告書を書かせてもらったのが,内科への入局と肝臓病とのかかわりのきっかけになった.

精神科急性期治療病棟の現状と経営的課題

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.51 - P.55

 精神科医療における治療技術の進歩,コミュニティケアの進展を背景に,急性期または短期入院治療で退院していく患者群が増えてきている.
 一方,精神科救急医療体制の整備も全国的に進められており,精神科救急輪番制が各都道府県では1から4ブロックに分けて実行されてきている.

データファイル

平成14年度医療制度改革について

ページ範囲:P.55 - P.55

 (略)医療保険制度は,医療提供体制の在り方,医療技術の発展,介護保険制度や年金制度との関わりも強く,単独で論ずることの限界はあるものの,医療制度改革が緊急の課題であることを踏まえ,次のとおり総括するとともに,併せて,当部会における様々な議論を別添の「社会保障審議会医療保険部会における議論の概要」として整理した.
 1.我が国の医療保険制度は,第二次世界大戦前に始まり,戦後,ベバリッジ報告の影響の下で,年金保険,失業保険,労災保険とともに社会保険を形成し,1961年に国民皆保険を達成した.今日,医療保険制度は,社会保障制度の中核を担っており,国民生活に不可欠の役割を果たしている.しかし,少子高齢化が一層進展し,1990年代以降経済が低迷する中で,医療制度については累次の改正が行われたものの,抜本的な改革が実現されないままに,医療保険財政は悪化し,制度としての持続可能性が危ぶまれる状況に至っている.

病院管理フォーラム 施設管理・1

聖路加国際病院における施設管理体制

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.56 - P.57

 聖路加国際病院(以下,当院)は1992年2月の竣工引渡しから数えると約10年が過ぎようとしている.建築設備的には,ある程度落ち着いた運転・運用のものから,大規模なオーバーホールや更新を視野に入れはじめなければいけないもの,あるいは病院固有の運用変更に伴う大規模改修を余儀なくされているものまで,日々様々な検討をしながらメンテナンスを進めているのが実状である.そのため,自ずと各種費用面,対応するスタッフの問題,さらにそれにも関連するが,従来の項目にも増した委託すべき保守点検項目のチェックなど,検討すべき課題も多い.
 今回,編集部より施設・設備の保守・点検の考え方,運営体制,日常の実践内容,今後の課題などにつき多面的に紹介する機会をいただいたので,何回かに分けて述べてみたい.

看護管理=病院のDON・13

看護職の賃金管理

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.58 - P.59

⦿看護職の賃金体系
 病院の看護職の賃金体系は,病院の設立種別によりかなり差がある.賃金は,職員がその労働の代償として受ける報酬である.給与形態には,一般に勤続や経験を重視する「年齢給・勤続給」,仕事の価値を重視する「職務給」,職務遂行能力を重視する「職能給」,仕事の成果を重視する「業績給」などの考え方がある.一般的に賃金は,基本給,扶養手当,勤務手当,住宅手当,通勤手当などの所定内賃金と残業手当(超過勤務手当)などの所定外賃金で構成される.
 看護職の賃金に差があるといっても,勤続年数・経験に応じた年功序列型をとっていることが多い.1995年の日本看護協会による調査によれば,調査対象者の病院の6割以上が,国家公務員医療職俸給表(三)を適用しているか,もしくはこれに準じて上下させた給与表を基にしている.国家公務員俸給表は,行政職,医療職,教育職,研究職などの職種ごとに俸給表があり,等級と号俸により基本給を規定している.医療職は,医師が(一),医療技術者(二),そして看護職(三)という俸給表を適用している.国家公務員俸給表は,民間給与の実態を考慮して人事院が勧告して,政府が決定してきた.国家公務員医療職俸給表(三)を適用する看護職の給与は,級号俸による俸給支給額(基本給),扶養手当,調整手当(地域加算),特別調整額(管理職手当),住居手当,超過勤務,特別勤務(危険手当),寒冷地手当,宿日直手当,通勤手当を合計して毎月支払われる.このほかに期末・勤勉手当(賞与・ボーナス)が,夏期,冬期,年度末に支給される.

IT革命は病院医療をどう変えるか・9

【てい談】ITは日本の医療をどう変えるか・1

著者: 佐味祐介 ,   村上陽一郎 ,   開原成允

ページ範囲:P.60 - P.64

 開原(司会) 本誌では1年間にわたり「IT革命は病院医療をどう変えるか」という連載を行い,事例の紹介を中心にITが病院医療にどのようなインパクトをもたらすか検証してきました.今回は少し観点を変えて,もう少し大きな立場で「ITは日本の医療をどう変えるか」というテーマで,2人の先生をお招きして話をしたいと思います.
 最初に一言ずつ自己紹介を兼ねて今おやりになっていることをお話しいただき,それから具体的な話をしていこうと思います.それでは佐味さんからお願いいたします.

医療経営の総合的「質」の検討・13

医療への品質管理の導入を考える

著者: 光藤義郎

ページ範囲:P.66 - P.70

 筆者は,社団法人日本品質管理学会「医療経営の総合的質研究会」のメンバーとして医療分野への品質管理の適用・導入を研究してきた.本稿では誌面の許す範囲で今まで検討してきた考察の一端を述べる.

医療従事者のための医療論理学入門(最終回)

24.判断能力に問題がある患者の診療における倫理的問題・2

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   福井次矢

ページ範囲:P.71 - P.73

 前回では,判断能力に問題がある患者の診療の倫理性について,われわれが直面する根本的な問題について述べた.今回は,事前指示の意義と限界,医学的無益性(medical futility),そして,ケースにおける倫理的判断について論じたい.

学会・研究会から

21世紀の病院経営などを討論—第16回全国医療法人経営セミナー,京都で開催

著者: 編集室

ページ範囲:P.73 - P.73

 社団法人日本医療法人協会(豊田堯会長)/同京都府支部主催の「第16回全国医療法人経営セミナー」が,11月17日(土),京都市のリーガロイヤルホテル京都で開催された.今回のセミナーは日本医療法人協会京都支部(武田隆久支部長)の企画運営によるもので,シンポジウム「21世紀の病院経営—病院機能体系化への対応(一般病床と療養病床)」,厚生労働省保険局医療課の矢島鉄也企画官の講演「医療保険制度の動向」,麻生文雄総本山醍醐寺座主(真言宗醍醐派管長〉の「心の時代」などが組まれた.
 シンポジウムは日野頌三日本医療法人副会長の進行で進められ,3人の演者が報告した.

戦略的病院経営の勧め・4(最終回)

戦略管理

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.74 - P.79

 戦略管理は戦略策定過程の第3段階,最終局面に当たり,分析に基づいて選択された戦略を実際に執行していく過程である(図1).その過程には,まず使命や戦略に基づいて「全体目標を立て,部門や部署に落としこんで執行させる」過程と,「意識・組織・知識などの経営基盤を作る」過程と,そして「各部門の評価と全体の戦略に基づいて新たな戦略を立てる」過程の三つの段階に分けられる.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第87回

山形県立中央病院—県民の健康と生命を支える安心と信頼のシンボル

著者: 白石俊彦

ページ範囲:P.80 - P.84

緑の中の病院「山形県立中央病院」が開院
 山形県立中央病院が山形市の北方に移転新築され「県民の健康と生命を支える安心と信頼のシンボル」として2001年5月1日に開院した.成人病センター,救命救急センターと一体的に整備され,広域センター的病院として機能することになる.
 建物は地上11階建て,延べ面積62,200m2,病床数660床の病院施設で,健康の森公園,県立保健医療大学と合わせて約27ヘクタールの敷地に整備された.隣接して流れる村山高瀬川,周囲の公園の樹木,また蔵王山系,朝日連峰,月山が眺望できるなど恵まれた自然環境の中にある.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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