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雑誌目次

雑誌文献

病院61巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

特集 院内機能の分散化の動き

病院における集中と分散

著者: 大道久

ページ範囲:P.860 - P.864

病院の発展の過程に見る機能の「集中」
 医療の成り立ちを振り返ると,「集中と分散」の歴史を見て取ることができる.病を得た者は医の心得のある者を訪れ,医術が施されて医療が成り立ったとされる.病者は居を定めた医者を頼って集まり,病者の世話をする者もまたあい寄って,今で言う医療施設が成立する.病者が居宅で家族の世話を受けるという範囲にとどまっていたであろう時代が長かったことを考えれば,医療を得ることのできる特別の施設が成立したことそのものが,敢えて言うなら医療の「集中」の最初の姿と見ることができる.
 時代は一気に下って,わが国で病院が成立しようとする時期,専門医として養成された医師は自ら開業をし,あるいは病院に招聘されて自分の専門分野の医療を展開する.手術などの医師自らが行う医療行為はもちろん,看護についてもどちらかといえば診療の補助であり,医師の専門領域の看護であった.薬剤も検査も同様に医師の専門性に包括され,ここに医師を頂点とする診療科のユニットが成立する.

最近の病院建築に見る分散化の動き—「中央化」から「分散化」へ,そして「集約化」へ

著者: 久保田秀男

ページ範囲:P.865 - P.869

 病棟と外来にあった手術室は中央手術室に,そして中央材料滅菌室,中央放射線部,中央処置室,中央カルテ室,中央倉庫,中央厨房と,病院が拡張し続けた時代の病院建築の歴史は「中央化」への歴史であり,中央化が近代的病院のシンボルであるかのようであった.しかしそれらは,医療の高度化や職種の専門化に向けての一つの流れであるものの,増え続ける患者と慢性的なスタッフ不足に対して,患者を効率的に「さばく」ためのスタッフ側の論理によるものであった.そして病院建築では今,情報化の手を借りて,患者主体の医療サービスを目指した「分散化」が見直されている.そしてそれは,新しい病院づくりに向けての新たな「集約化(センター化)」への道程でもある.

ITがもたらした病院機能の分散化:分散化された病院機能の最適な統合化こそ患者満足度を向上させる/病院業務の院内・院外への分散化

著者: 山路雄一 ,   日本アイ・ピー・エム株式会社ヘルスケア事業部

ページ範囲:P.870 - P.873

本テーマは「ITがもたらした病
 院機能の分散化」であるが,病院情報システムの基本的な役割も,「分化を最適に総合化する」ことであると考える.医療の進歩とともに診療行為や検査,各診療共助の仕事も細分化され専門化される.しかし,診断や治療の観点から細分化された情報を総合的にとらえ判断していくことは当然必要である.ここに情報システムの重要な役割があると考える.
 医療分野のIT化は,他の産業に比べ10年遅れているといわれてきたが,近年,電子カルテシステムを中心に急速な進展が開始され始めている.今日までの病院情報システムは,「分散と集中の効果的適用」をテーマに,その時代の情報技術を積極的に活用して,情報システムの先進病院が多大な努力を傾注され築いてきたものである.

院内の診療機能の分散化—看護部門の分散化

著者: 川合政恵

ページ範囲:P.874 - P.877

 21世紀の医療「患者本位の医療」の動きが医療界全体で始まりだした.病院は医療を受ける人のためにあるのであり,患者さんの目線から見た医療をどのように実現していくのか,病院機能の変革が迫られている.
 島根県立中央病院では1992年から新病院建設計画に着手し,「医療の主人公は患者さんである」とする医療理念を具現化した病院機能を構築し,病院建築では「患者さんへの癒しの環境」をテーマとしたデザインを表した.徹底して「患者さんが医療の主人公である」病院づくりを追求し,医療の提供体制や病院機能に,そして病院建築に組み込んだ.その核となるのが,患者本位の医療システムとして構築した電子カルテシステム—病院統合情報システム(Integrated Intelligent Manage—ment System)である.21世紀の新しい医療スタイルを先取りし,1999年8月1日,全国に先駆けて導入した.

院内の診療機能の分散化—薬剤部門の分散化

著者: 林昌洋

ページ範囲:P.878 - P.880

 病院の薬剤部門は調剤を中心とした伝統的な業務をもとに,薬学的な技術の分化あるいは管理対象の細分化に合わせて,幾つかの専門的な機能に分化し発展してきた.その主なものとして,医薬品管理業務,製剤業務,医薬品情報業務,患者指導管理業務,薬物血中濃度解析業務,試験・研究業務などが上げられる.
 こうした薬剤部門の各機能を施設内にどのように構築し配置するかを考える場合には,医療機関の規模や医療における施設機能を考慮する必要があるものの,近代的な薬物療法を支える薬局機能としてはいずれも必要不可欠なものになっている.

院内の診療機能の分散化—リハビリテーションの分散化

著者: 及川忠人

ページ範囲:P.881 - P.883

 東八幡平病院では平成13(2001)年9月より回復期リハビリテーション病棟を立ち上げた.これまで約10か月の経験であるが,従来の機能訓練室中心のリハビリテーション医療に比較しての効果,課題および展望について述べ,病院機能の分散化という視点から回復期リハビリテーションの意義についても併せて考察を加えたいと思う.

院内の診療機能の分散化—栄養部門の機能の分散化

著者: 堀籠章史

ページ範囲:P.884 - P.886

 病院における栄養部門〔以下,法令,通知などを引用する場合を除き,単に食事サービス(部門)という〕の機能の分化の問題は,関連諸制度の改廃などに深くかかわっているので,医療ならびに医療保険制度の歴史的変遷とともに,規制改革の流れをたどりながら,この問題に対する考察を進めることとしたい.

院内の診療機能の分散化—物品管理の分散化

著者: 酒井順哉

ページ範囲:P.887 - P.891

SPD導入は諸刃の剣
 近年,医療資材(医薬品,医療材料)の見直し,定期的な棚卸,医療資材物流管理システムの導入が実施されていない一般病床400床レベルの医療機関では,医療材料のデッドストック,期限切れ在庫の発生や医事請求漏れによって,少なくとも年間1億円以上のむだな支出が発生しているものと推測されるが,当該医療機関の診療現場ではそのむだに気づくこともなく,病院経営を悪化させる一因となっている.
 これを解決すべく,医療資材の管理・供給に特化したSPD (supply processing and distribution)部門の組織化を行う,医療資材バーコードを用いた医療資材物流管理システムが導入され,診療現場における医療材料のデッドストック・期限切れ解消や医事請求漏れの防止に役立っている.

グラフ

軸足は地域に,視線は世界に—開院5周年を迎えたりんくう総合医療センター(市立泉佐野病院)

ページ範囲:P.847 - P.852

 りんくうタウンは関西国際空港の開港に伴い,世界への玄関口となる未来型の都市として建設された新都市である.このりんくうタウンと関西国際空港を結ぶ連絡橋のほど近くにりんくう総合医療センターはある.同センターは,府立泉州救命救急センター,市立感染症センター,市立泉佐野病院の3施設が機能統合されており,泉州地区(大阪府南部)における1〜3次医療までの機能を幅広く担っている.この総合医療センターの中核施設である市立泉佐野病院は2002年10月で開設5周年を迎えた.
 市立泉佐野病院は,1952年に医療過疎地であった泉州地区の基幹病院として泉佐野駅の近くに開設された.しかし,時の流れとともに施設の老朽化・狭隘化が進み,医療技術の進歩に対応しきれなくなり,1990年にりんくうタウンへの新築移転を決定した.これに伴い,住友病院で内科部長を務めていた岸野文一郎氏を院長として招聘し,新病院開設に向けての経営改革を開始した.

HOSPITAL INDEX

全国緩和ケア病棟・ホスピス病棟設置施設・1

ページ範囲:P.854 - P.854

特別寄稿

医療安全政策の国際動向とその方向性—4.補償制度

著者: 藤澤由和 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.892 - P.896

 前回は海外における医療事故情報取り扱いといった観点から,安全報告システムおよび安全報告改善システムに関する動向を報告した.安全報告システムに関する各国の動きは,医療事故を未然に防ぐための事前対応の根幹をなす医療事故情報の取り扱いシステムに関するものであった.今回は医療事故が生じた後の,いわば事後的な医療事故処理過程における医療事故情報の取り扱いに関する観点に焦点を当てて,説明責任システムの海外における動向を検討する.具体的には,今回と次回にかけて,医療事故補償制度および患者やその家族からの苦情の取り扱いやその対応に関して海外の動向を概観することとする.

レポート

杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センターの運営と課題

著者: 土屋清志 ,   福井トシ子

ページ範囲:P.897 - P.901

杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センターの紹介
 杏林大学医学部付属病院は昭和45年開設以来,東京西部地区三多摩の中核的医療センターとしての役割を担い,さらに,平成6年4月より厚生省の承認を受けて特定機能病院として新たなスタートを切った.
 平成12年には耐震・免震構造の外来棟と第1病棟を完成させ,総合周産期母子医療センターはこの新しい第1病棟の中にある.杏林大学医学部付属病院全体の許可病床数は1,162床,外来患者数1日平均2,028名,入院患者数1日平均836名(2001年統計)である.

集中治療室に入室した患者の社会的問題へのアプローチ

著者: 平原隆子 ,   浦田麻衣子 ,   榎本久美子

ページ範囲:P.902 - P.905

 虚血性心疾患などで集中治療室に入室した患者は,突然社会や家族から隔離され治療を受ける.身体的な苦痛とともに,社会的および家庭的役割を担ってきた患者にとっての不安は計り知れないものがある.
 集中治療室入室後は,社会的背景が見えにくいが,家庭や職場のことが気になり治療に専念できない患者に出会うことが多い.また,不穏など精神症状を呈する患者から「仕事にいかなければ」などの言葉が聞かれることもあり,根底にこのような不安があるためではないかと感じることがある.

救急医療研修—臨床研修必修化に伴う研修医の受け入れ体制をどうするか・1

日本医科大学付属病院救急医療修練プログラムの検証

著者: 山本保博 ,   小井土雄一 ,   川井真

ページ範囲:P.906 - P.909

 平成16年度より「新たな医師臨床研修医制度」が始まる.その骨子は専門に特化した臨床研修から,プライマリーケア中心に幅広い診療能力を身につける研修へと変更させることである.現在の医療は専門分化が著しく進んだ弊害として,医師と患者のコミュニケーションの中で全人的な幅広い診療能力を求めるという社会の医療ニーズとかけ離れたものになっている(図1).救急医療に関しても,これまでは卒後全く研修する機会がなく,心肺蘇生すらまともに学んだことがないという医師を多く生んできた.
 今回の「新たな医師臨床研修医制度」は基礎的な診療ができる医師を育てるのが狙いである.その中で,救急医療の研修が必修化されたことは,何科の臨床家になるにしても非常に有意義であることは言うまでもない.しかしながら,毎年8,000人の研修医に質の高い救急医療研修を提供できるかということに関しては多くの問題があると言わざるを得ない.本稿では,長年研修医を受け入れてきたわれわれの経験を述べ,その解決すべき問題点につき検討してみたい.

病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題—急性期病院の立場から・8

病院における医事課の機能と役割

著者: 小松茂樹

ページ範囲:P.911 - P.913

 とにかく現場が好きである.毎朝玄関で患者様と朝のごあいさつをし,自動再来機の前でお世話をさせていただけるのはとても楽しい日課である.東大和病院に来てはや4年,会議や公休でいない日を除くと休んだことがない.朝8時30分からの受付開始には,課員の8名ぐらいが自主的に外来フロアーに出て受付の対応をしている.20分ぐらいで250名ほどが受付を済ませる.この受付システムが確立するまでには1年ほどかかったが,現在では患者様同士のトラブルがなくなって喜ばれている.筆者は事務次長としてこの病院に来たが,医事課長が空席だったので自ら兼務を買って出て午前中の半分はフロアーマネジャーみたいなものである.
 医事業務に携わって30年余が過ぎた.その分だけ経験が長いので,この機会に病院における医事業務について,現場の視点で書かせていただきたい.

看護管理=病院のDON・23

コミュニケーション

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.914 - P.915

コミュニケーション技術の重要性
 言ったことが相手に正確に理解され,言われたことを完全に了解できれば,この世はかなり楽しいはずだ.人々は,理解し合うために苦労しているものの,日常の些細なことから,民族と民族との相互理解といったことまで,容易にコミュニケーション障害に陥ることがある.それゆえ,人間関係や人間集団あるいはリーダーシップの分野でコミュニケーションは,永遠のテーマだ.コミュニケーションとは,イメージや身振り,言葉や文字,映像や記号を媒介し,なんらかの意味を表現したり,伝達したり,あるいは解読する行為である.そして,組織においてコミュニケーションは,情報の伝達,指示,調整や動機づけなどの基礎的な機能を果たし,不可欠な要素である.
 コミュニケーションに関する書物,研究あるいは議論は山のようにあるが,積極的に学習することによって,各種のメッセージを100%理解したり,相手に正確に理解してもらえるようになるかは疑問である.人は多くの場合,自らが特定の相手に伝えたことを「理解された」と思いこんでしまうが,結果として,全く理解されてなかったり,誤解されたり,場合によっては正反対の意味に取り違えられたりすることが少なくない.もちろん,この逆のこともある.

施設管理・5

聖路加国際病院のコージェネレーション

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.916 - P.917

 2002年8月上旬〜9月下旬にかけて,ヨハネスブルク(南アフリカ)で環境・開発サミットが開催され,地球温暖化防止に関する様々な環境対策が議論された.省エネルギー,新エネルギー,CO2排出量削減なども話題の一つに取り上げられ,国から各自治体,地域,さらには各施設のレベルに至るまで,今や従来の石油依存体質からまさに抜け出す時が到来したと言っても過言ではないだろう.
 このような状況を踏まえ,今回は医療福祉施設関係のコージェネレーションシステム(以下,CGS)の導入状況,当院が1992年2月に竣工して以来現在も使用しているCGSの概要・運転状況・今後の課題などについて述べてみたい.

栄養管理・5

腎疾患患者の栄養管理

著者: 市川和子

ページ範囲:P.918 - P.919

⦿院内におけるチーム医療
 3年前に新任の教授を迎えて,腎臓内科は腎臓・リウマチ内科と改名され,腎臓単科に自己免疫性疾患を診療するリウマチ内科が併設された.チーム医療のスタッフは,医師をはじめとし,看護師,薬剤師,臨床工学技士と管理栄養士を含むコメディカルスタッフで構成されている.患者構成は表1に示す.
 1.入院患者の栄養管理
 腎臓専任の管理栄養士は2名で,週1.5〜2日,教授回診と病棟カンファレンスに参加して入院患者の病態把握と栄養指導を行っている.最近は入院期間の短縮化を目指して,治療効率のよいクリニカルパスの導入も検討している.そのため患者の入れ替わりも速く,短時間で患者情報を得るためにはカンファレンスに参加することは必須であり,意義深い.

医療を支えるファシリティマネジメント7話・6

変化に対応する施設経営

著者: 柳澤忠

ページ範囲:P.920 - P.921

 現在,医療の世界では絶えず変化があり,医療制度改革の盛んな議論の中で,個々の施設の将来計画決定については待ったなしの状況にあります.10か月近い猶予があるとはいえ,2003年8月までにすべての病院が一般病床(急性期),療養病床(慢性期)の機能分化の意思決定を迫られています.建築的にも大問題で,患者1名当たりの病床面積や廊下幅を,新設・既設に分けて具体的に示された基準に適合させなくてはなりませんし,機能を特定すると施設面でも全面的な見直しが迫られます.
 今日1日が昨日と同じように過ぎればよいのかもしれませんが,長期的にも短期的にも昨日とは違う状況を予想した場合は変化に対応した経営(change management)が求められています.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第97回

国立病院長崎医療センター—「医療の灯台」をめざした新しい病院像

著者: 寺岡宏治

ページ範囲:P.922 - P.926

整備の考え方と計画のポイント
 国立病院長崎医療センターは,1)21世紀に向けて開かれた高度かつ先駆的なヒューマニティのある医療の実践
 2)より多くの人たちがより高度な医療を受けられ,一人ひとりの人格を尊重した環境整備

データフアイル

医療提供体制のあるべき姿/病院機能評価認定証発行病院

ページ範囲:P.928 - P.931

はじめに
 近年,国民・患者の医療に対する関心や期待が高まり,医療の質の向上や医療安全の確保が,極めて重要かつ緊急性を要する課題となっている.
 わが国の医療提供体制のあり方を含めた医療制度改革については,内閣府総合規制改革会議から発表された重点6分野の「医療における規制改革」,厚生労働省の「21世紀の医療提供の姿」,社会保障審議会医療部会の「医療提供体制に関する意見」等,様々な観点から報告がなされている.また,厚生労働省には医療制度改革推進本部,自民党には医療制度改革ワーキンググループが設置され,医療制度改革が推進されようとしている.
 四病院団体協議会はこのような状況に対応するために,医療制度改革検討委員会を発足した.医療提供の当事者として,医療の質の向上,医療提供体制の整備を中心に,利用者の視点に立った「医療提供体制のあるべき姿」をまとめたのでここに報告する.

事務長の医療よもやま話・10

スローフード,スローライフ,そしてスローメディシン?

著者: 岩﨑公平

ページ範囲:P.933 - P.933

●戦後の高度成長
 戦後50年の間,わが国は高度成長を遂げ,世界の中でも自他共に認める近代国家となった.第二次世界大戦は頼みの神風も遂に吹かず,世界の戦争史上初めて原爆を落とされ,大敗を喫して終結した.東京,大阪の都市部をはじめ,日本各地が荒れ野と化した.精神的にも敗戦の痛みは大きく,日本人の心は打ちひしがれた.が,そこはもともと忍耐力があり勤勉な日本人.国土を整備し,米を作りまず腹一杯ごはんが食べれるようにした.次に教育に力を入れ,誰もが読み書き,四則演算ができる知識水準の高い国民となった.
 資源のないわが国は資源を輸入し,高度な加工技術により付加価値の高い製品を作り輸出し,利ざやを稼いだ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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