icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院61巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

特集 改革期における事務長像

改革期における病院事務長とは

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.948 - P.953

 バブル経済崩壊後のわが国経済の低迷,また少子高齢社会への急激な移行は,戦後わが国が築き上げた社会保障制度自体を大きく揺るがし始めている.また,近年のわが国経済のデフレ化の現象は,医療の世界にも徐々に浸透してきている.
 戦後の国民皆保険制度の導入は,わが国の経済成長に伴う社会資本の充実,また栄養状況の改善,さらには医療機関の整備などにより,世界最高水準の平均寿命の達成,また先進国においても最高の保健医療の体制を確立することができた.しかしながら,国民皆保険制度に伴う社会保険診療報酬体系の充実は,わが国の医療提供体制の整備を可能にした反面,個々の医療人の,あるいは医療機関の組織体としての企業体としての育成を排除してきた.また経済成長の拡大に伴う社会保険診療報酬の毎回のアップは,なんらの経営努力も必要とせず,リスクに挑戦する態度すら消滅させてしまったように思われる.

改革期における公立病院事務長の役割

著者: 武弘道

ページ範囲:P.954 - P.957

 これは書きにくいテーマである.公立・公的病院の事務長の役割は,民間病院の場合と異なってなかなか定義しにくいものである.それは民間病院においては理事長(医師)がはっきりとした人事権・予算権・契約権などの経営の権限を持っていて,事務長はそれを補佐する役目をすればよいのに対して,国立病院や自治体立病院においては院長の権限すらはっきりしていない状況にあるからである.
 本誌編集委員会が「改革期」という言葉を入れたのは,平成16年4月1日から始まる国立病院の独立行政法人化とそれに併行して起こるであろう自治体立病院の変革を頭に入れてのことと考える.

改革下—こんな病院事務長はいらない!?

著者: 郷好文 ,   雨谷剛

ページ範囲:P.958 - P.962

そもそも事務長はどこからやって来るのだろう? 「私は医療のほうは素人で……」
 コンサルタントの立場から経営改善策立案のため事務長にインタビューすると,まずこう前置きをされることも多い.ではあえて質問したいと思う.
 「事務長さん,あなたは何の玄人(くろうと)なのですか?」

【座談会】成長か,衰退か—改革期における民間病院事務長の対応

著者: 相田俊夫 ,   小野政秀 ,   戸根経夫 ,   林茂

ページ範囲:P.963 - P.970

 林(司会)本日は「改革期における民間病院事務長の対応」ということで,病院の事務部門のトップ,いわゆる事務長さんにお集まりいただき,お話をうかがおうと思います.一口に民間病院といっても,ワンオーナーの医療法人から,財団法人,社会福祉法人など様々な形態があります.また,設立母体,開院からの生い立ちなどによって事務管理部門の位置づけや機能は大きく異なってくると思います.そこで,最初にそれぞれの病院の開設目的や,地域における役割などについてお話をいただければと思います.それでは,倉敷中央病院の相田さんからお願いいたします.
 相田 当院は,2003年に開院80周年を迎えます.実業家の大原孫三郎により「社会から得た富は社会に返す」という理念の下で開設された施設の一つで,「世界水準の医療を地方に」ということで地域に根ざした医療提供を行ってきました.また,患者さんのアメニティの充実にも古くから取り組んできた病院でもあります.

【資料】病院団体などによる事務長研修会

ページ範囲:P.971 - P.973

国立保健医療科学院
病院管理専攻科
 病院の幹部となる人材を養成するため,病院管理に関する基礎的な専門教育並びに管理能力の啓発を目的とするものである.

グラフ

壮大な夢に向かって進む企業立病院—トヨタ自動車株式会社トヨタ記念病院

ページ範囲:P.935 - P.940

 「世界のトヨタ」のフレーズはだれもが耳にしたことがあるだろう.トヨタ記念病院はそのトヨタ自動車株式会社の経営する企業立病院である.
 営利目的による病院経営を規制した1948年の医療法改正以来,一時期は100を超えた企業立病院も,現在では60余りとなっている.そのなかにあってトヨタ記念病院は,麻生セメント株式会社飯塚病院(1,157床),NTT東日本関東病院(665床)に続いて,3番目に病床数が多い.元々,豊田市挙母工場内の診療所から1938年にスタートした当院は,時代の流れとともに成長を重ね,今や「トヨタ」の病院ではなく,西三河北部医療圏を中心とした地域の基幹病院として,その役割を確立している.

HOSPITAL INDEX

全国緩和ケア病棟・ホスピス病棟設置施設・2

ページ範囲:P.942 - P.942

特別寄稿

アメリカの医療における心理的・社会的サポートの経済評価—「ケアとしての医療」の充実に向けて

著者: 篠田知子 ,   広井良典

ページ範囲:P.974 - P.979

はじめに
医療における「心理的.社会的サポート」の意味
 昨今,疾患構造の変化により,医療に対するニーズが変化してきている.以前は感染症などの急性疾患が主要疾患であったが,現在では生活習慣病.悪性新生物(がん)などの慢性疾患が主流である.この場合,急性疾患(特に感染症)においては薬物療法に代表される「医学的介入」が主たる治療となるが,慢性疾患においては,病院などの医療機関における狭い意味での「医学的介入」にとどまらず,日常生活の延長上での長期的疾患管理,および患者やその家族に対する「心理的・社会的サポート(psychosocial support)」が必要であり,これは疾病の治癒過程そのものに大きな影響を及ぼすものである(ここでは患者が持つ療養生活で生じる様々な心理的不安などに関するサポート,退院後のことや社会復帰に関するサポートなどを広く「心理的・社会的サポート」と定義する).
 ところが現在のわが国の医療においては,患者やその家族は心理的・社会的サポートを受けられずに悩み,医療専門職もまた十分なサービスが提供できないことに苛立ちを覚えていることが最近行った調査で明らかになった1).一方,医療機関としては,現在の医療保険制度・診療報酬体系では十分に評価されているとは言い難い心理的・社会的サポートに,ケアの重点や財源をまわすことが難しいのが現状である.ある意味では,こうした心理的・社会的サポートの不足ということが,現在のわが国の医療が抱える最大の問題であると言っても過言ではないと筆者らは考えている.

救急医療研修—臨床研修必修化に伴う研修医の受け入れ体制をどうするか・2

大阪大学医学部附属病院における救急医療の臨床研修

著者: 杉本壽

ページ範囲:P.980 - P.982

 2004年度から卒後臨床研修が義務化されると,内科・外科と並んで救急医療が必修となる.これに伴い全国の臨床研修指定病院は,充実した救急研修を提供する体制を早急に築くことが求められている.今回,救命救急センターを併設する国立大学病院の立場から,当高度救命救急センターにおける研修医の受け入れ体制の現状と必修化後に向けての取り組みについて記すようにとの依頼を受けた.

病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題—急性期病院の立場から・9

医事業務から派生する専門職の役割と機能

著者: 小松茂樹

ページ範囲:P.984 - P.985

 病院にマネジメント機能が十分に働いているところはどのくらいあるのだろうか? 民間病院の200床ぐらいまでの病院では,院長のリーダシップにより病院の経営,運営がなされているところが多いようだ.例えば,実態に即した病院の組織機能図や業務分掌図まで作成しているところは意外と少ないのが現状ではあるまいか.これは病院の組織化が遅れている証拠だと思う.
 幸いというべきか,当院でも平成11年に病院機能評価を受審した際に,組織の検討と規定類の見直し整備を行ったのが実態である.その意味でも第三者の評価を受けることは,病院機能評価にしてもISO (国際標準機構)の受審においても,病院の実態を把握し,組織化,業務の標準化,文書化を図る上で大きな手段となる.受審の過程におけるリーダシップとその目標に向かって努力する職員のエネルギーを結集するマネジメントの技術は,以後の組織運営に大きな力となる.

看護管理=病院のDON・24

看護業務の変化

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.988 - P.989

病院の変化
 平成13年医療施設(動態)調査・病院報告の概況によれば,平成13年10月1日現在,病院は9,239施設,1,646,797床であり,前年に比べ27施設(0.3%),456床(0.0%)減少しているという.病床の種別では,一般病床は28,598床(2.8%)減少し,994.315床となった一方で,療養病床が31,057床(12.9%)増加し,272,217床となった.全体の数字だけみれば,大きな変化ではないようにみえるが,詳細にみると変化は急激だと思う.
 第1に,平成12年10月からの1年間で,病院の廃止が162施設あり,開始が140施設ある.ただし,このうち64施設は個人病院から医療法人に変更したものである.このことは,病院が倒産したわけではないが,なんらかの事情で経営権が委譲されたことを意味する.第2に,平成15年8月までに現在の一般病床は,一般か療養か自主的に判断することが求められているが,今後,療養病床が急増し,一般病床が減少するということは容易に予想できる.第3に,病床利用率はほとんど変化していないが,精神,感染症,結核病床を除いた病院病床利用率は,83.9%であるが,49床以下では74.8%に過ぎないのである.

病院管理フォ—ラム 栄養管理・6

望ましい栄養管理をめざして

著者: 河原和枝

ページ範囲:P.986 - P.987

栄養管理の必要性
 医療費抑制政策の一環として,包括医療が導入され,定額払い方式が拡大する現在,患者の栄養管理の重要性が見直されつつある.また,栄養士法が改正され,国民の健康管理に対する管理栄養士の役割が明記された.このように栄養士の役割が期待される状況下で,われわれ管理栄養士が,本来の栄養管理とは何かをよく理解し,真剣に取り組まなければ,その存在意義は抹消されかねない.
 かねてから,川崎医科大学附属病院では,病棟へ出向いて患者様を知ることが栄養管理の第1歩であると考え,病棟専門担当制を実施してきた.前回,前々回で糖尿病,腎臓病のチーム医療の実際を紹介したが,今回は病院全体での活動状況を紹介する.

医療を支えるファシリティマネジメント7話・7(最終回)

医療を支える多様な人材と豊かな環境

著者: 柳澤忠

ページ範囲:P.990 - P.991

 看護の神様フローレンス・ナイチンゲールは建築家だったと筆者は考えています.彼女の「看護覚え書」の第一章は「換気と保温」,第二章は「住居の健康」だということをご存知ですか?健康を保つのに環境と建築がいかに大切であるかを次のように主張してくれました.
 「病気につきもので避けられないと一般に考えられている症状や苦痛などが,実は病気の症状などでは決してなく,新鮮な空気とか陽光,暖かさ,静けさ,清潔さなどが欠けていることから生じる症状であることが非常に多い.看護とは患者の生命力の消耗を最小にするように,このような環境を整えることを意味すべきである」1)

IT革命は病院医療をどう変えるか・15(最終回)

革命は病院医療をどう変えるか

著者: 山本晧二

ページ範囲:P.992 - P.995

IT革命の意味
 少し色あせてきた感があるが,最近,IT (Information Technology)革命(情報技術革命)という言葉をよく耳にする.ホームページで検索すると実にたくさんの人がいろいろなことを書いている.しかし,それが何を意味するのか判然としない.元々,情報技術そのものは連続的に発展してきており,突然に革命的な何かが起こったわけではない.かつてイギリスで興った産業革命では,蒸気機関という新しいエネルギーを手にした人間が,綿紡績産業にそれを応用して漠大な利益を得たが,このことが産業構造を変え,革命と呼ばれるようになったといわれている.情報技術革命も構造的にはこれと同じである.情報技術の発展に伴って今まで困難であった何かができる.そしてそのことを利用して人間にとって莫大な利益を生む何かが生まれ,社会が変わるならば,それを生み出した情報技術は革命と呼ぶに相応しいであろう.つまり,情報技術が飛躍的に発達してもそれが社会を変えるほどのものでなければ革命とはいえない.
 このような観点から強いていうならば,情報技術革命とは,インターネットの爆発的普及ならびに高速・大容量通信が可能となったことにより,広大な情報空間をわれわれが手にしたことを意味するのかもしれない.実際,社会のあらゆる面でグローバル化が進み,医療を取り巻く環境も大きく変わってきている.そして,2001年度の情報通信白書でもIT革命を情報通信技術革命と意訳している.しかし,社会に漠大な利益をもたらすという観点から考えるとまだ何か物足りない.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第98回

昭和大学病院中央棟—「サービスホール型プラン」によるコンパクトな大学病院

著者: 佐々木健夫

ページ範囲:P.998 - P.1003

 1928年に医学専門学校として創立された昭和大学は,現在では八つの医学部附属病院(総病床数3,283床)を擁している.
 東京都品川区旗の台にある「昭和大学病院」はその中核病院であり,病棟中心の入院棟(1980年開院)と中央棟(1999年開院)が区道を挟んで隣接している.両棟は2階と地下2階の連絡通路で結ばれ,一体の病院として運営されている.

事務長の医療よもやま話・11(最終回)

病院は気楽な稼業か?

著者: 岩﨑公平

ページ範囲:P.1007 - P.1007

●今までは病院側の都合優先,アメニティは二の次
 ナイチンゲール病棟をご存じの方は,昔の病院をよく知っている方だ.10床以上のただっ広い病室の真ん中にナーススタッフがいて,部屋の周りにベッドが並んでいる.ベッド間には仕切りがなく,患者さんのプライバシーもない.とにかく効率的な治療優先の病室だ.
 外来診察室についても,診察室の会話が隣の診察室や廊下にまで聞こえる病院もある.3時間待ちの待合い室のいすは,固くて座りこごちが悪くても無頓着.廊下の天井は給排水の配管が剥き出し.今まではまず病院側の都合ありき,お客様である患者さんのためのアメニティは二の次だった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?