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雑誌目次

雑誌文献

病院61巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

特集 医師臨床研修必修化は病院に何をもたらすか

新たな医師臨床研修制度の概要

著者: 中島正治

ページ範囲:P.446 - P.449

 平成16年4月からの医師臨床研修の必修化に向けて,そのあり方の検討や準備が進められつつある.
 今回の医師臨床研修制度の改正は,昭和43年にそれまでのインターン制度が廃止され,現在の医師臨床研修制度が努力義務として導入されて以来,35年ぶりの大きく抜本的な改正であり,また,わが国の今後の医療供給体制にも大きな影響を与えるものとも考えられることから,医療関係者のみならず患者,国民からの期待も大きなものがある.

臨床研修必修化における研修プログラムと受け入れ施設のあり方

著者: 島田和幸 ,   布施勝生

ページ範囲:P.450 - P.456

 卒後臨床研修必修化をめぐって,財政的基盤が成否の鍵を握っているとの主張が研修医を受け入れる病院側から強く表明されている.研修医がアルバイトなどをせずとも普通の生活ができるだけの給料が支払われるべきなのは至極当然のことである.また,研修医を指導するスタッフを充足できるだけの人件費がないと,研修医を単に労働力としてしか処遇しかねないことも,現実の経験が示している.
 すなわち,財源抜きの話だけでは戦前の「竹槍主義」にも通ずる「敗北主義」に陥る危険が大きい.国全体の財政・経済構造が危機に瀕している中で,このような「構造改革」を成し遂げねばならない状況は,まさにタイミングが悪い.やりくりの中から最終的にどのようなシステムが生まれるのか,厚生労働省を中心としたグループの叡智が期待される.まず「行政当局の責任」が問われている.

臨床研修必修化に伴う臨床研修指定病院の課題

著者: 奥村秀弘

ページ範囲:P.457 - P.461

 近年,医療過誤の報道は絶えることなく,医療に対する国民の信頼は翳りを見せている.医療関係者は医療事故の防止と医療の質の向上に向けてさらなる努力を積み,国民の信頼を取り戻す努力が必要である.この事実は医療者,ことに医師や看護師などの卒前・卒後研修がいかに重要であるかということを如実に物語るものである.

卒後臨床研修におけるこれからの病院の果たすべき役割

著者: 山田實紘

ページ範囲:P.462 - P.465

 平成12年11月30日,医師および歯科医師の卒後臨床研修の必修化を規定した医師法および歯科医師法の改正を含む「医療法等の一部を改正する法律案」が国会で可決,成立した.本法律は平成16年4月1日から施行されるが「診療に従事しようとする医師は,2年以上,医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において,臨床研修を受けなければならない」と定められていて,卒後研修の場として臨床研修病院の果たす役割が期待されている.
 筆者は地域医療の実践に携わる病院管理者の立場として,この改正による臨床研修の必修化と,それに伴う研修プログラムの整備には大きな期待を寄せている.なぜなら臨床の場における医師の質の確保は急務であり,研修システムの充実が結果として優秀な医師を育成し,地域医療の質の向上につながると判断するからである.

卒後臨床研修におけるこれからの病院の果たすべき役割

著者: 山口晃弘

ページ範囲:P.466 - P.469

 平成16年度から医師の臨床研修の必修化が決まり,いよいよ動き出そうとしている.わが国では欧米諸国と比較し,人口に対する病床数が多く,それに伴う医療従事者の不足はよく知られている.ことに医師の不足は顕著で,英・米国の100床当たりの医師数と比較すると,わが国は英国の3分の1,米国の5分の1程度と指摘されている.
 このような医師不足の中で,2年間の卒後臨床教育が臨床研修病院で十分に果たせるかという疑問もある.本稿では臨床研修病院における研修医の現状とこれからの対策について考察してみた.

【座談会】医師臨床研修必修化は病院に何をもたらすか

著者: 尾形逸郎 ,   岸本晃男 ,   原田研介 ,   星北斗 ,   大道久

ページ範囲:P.470 - P.477

 大道(司会)本日は「医師臨床研修必修化は病院に何をもたらすか」というテーマで4人の先生をお招きし,お話を伺いたいと思います.
 医師の臨床研修制度は昭和43年に,いわゆるインターン制度に代わるものとして導入されました.この研修制度は努力規定で,医師国家試験合格後2年間研修に努めるものとするという法的な規定の下で今日まできました.しかし,この制度も時代の要請に応えるものとは言えなくなってきており,時代にふさわしい医師を養成する上では新しい臨床研修制度が必要です.具体的には,医師となった者は必ず所定のカリキュラムに基づいた研修を受けて,国民の要望に応え得る能力を身につける必要があるということで医師の卒後臨床研修の必修化という流れが生まれました.

【資料】医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会「中間とりまとめ(論点整理)」

ページ範囲:P.478 - P.481

1.はじめに
 我が国の医師卒後研修については,昭和43年にそれまでのインターン制度が廃止されたことに伴い,現在の医師臨床研修制度が努力義務として設けられた.以来,医学医療の進歩への対応や医師臨床研修の質の向上を目的として研修内容や研修施設の基準に関して,様々な改善が加えられてきた.
 近年,高齢化に伴う疾病構造の変化や医療の高度化,患者と医師のコミュニケーションの在り方の現代化など,医療を取り巻く環境は大きく変化している.こうした状況を踏まえ,医師の資質の向上を図るため,平成12年,医師臨床研修を必修化することを含む医師法等の改正が行われた.

グラフ

利用者ひとりひとりのために時代のニーズに即応し増改築を実現—社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院聖隷浜松病院

ページ範囲:P.433 - P.438

 聖隷浜松病院は創設以来,常に利用者のニーズを先取りし,地域住民の信頼を獲得してきた.当院の設立母体である聖隷福祉事業団は,1930年に「隣人愛」に基づいた結核患者のケアをスタートさせたが,このキリスト教の教えである「隣人愛」は,今も病院経営の礎として宿っている.
 さて抗生物質の登場によって,時代のニーズは感染症治療から高度医療技術を必要とする急性期疾患治療へと移り変わる.当時,原動機付き自転車が町に出始め,交通事故が増加傾向にあった浜松では,急性期・高機能病院が必要とされていた.こうした地域の医療ニーズに応えるべく,1962年,聖隷浜松病院は産声を上げた.以来,利用者のニーズに即応し進化を重ね,開設当初114床の病院は現在744床にまで発展し,地域の信頼を確固たるものとしている.2001年3月,増改築を終えバージョンァップした聖隷浜松病院が目指すものに迫ってみたい.

HOSPITAL INDEX

臨床研修指定病院・8

ページ範囲:P.440 - P.440

特別寄稿

死亡高齢者の医療費は本当に高いのか—入院医療費の年齢階層別分析・1

著者: 白木克典 ,   荒岡茂 ,   石井暎禧

ページ範囲:P.482 - P.486

 近年,国の医療費総抑制策を背景として,一部の医療経済学者や評論家から「高額な老人終末期医療費が国民医療費膨張の大きな要因となっており,今後は介護中心のサービスに切り替えていく必要がある」といった趣旨の主張がなされてきた(注1).このような論調に対して,地域の病院で急性期医療に携わるわれわれは少なからぬ疑問と違和感を抱き続けた.それはおおむね以下の3点に整理される.
 第1に高齢者の終末期とはどのようにして決められるのか?第2に死亡した高齢者には他の世代に比べ濃厚な(=医療資源多投入型)医療が本当に実施されているのか?第3に「老人医療レセプト・データ」(注2)など月単位で集計されるレセプトの加工・集計に基づく従来の死亡患者医療費分析によって医療提供の実態が明らかにされ得るのか?

米国病院界におけるバランスト・スコアカード—2・設計対象・事例と評価

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.487 - P.492

設計対象
 バランスト・スコアカード(BSC)は多様なレベルの組織単位に設計され得る.企業組織全体や部門レベルの組織単位に対して設計されることが多いが,チームレベル,さらには個人レベルの組織単位に対して設計されることもある.病院BSCの設計対象としては,病院全体レベル,病院内の特定部門・センターレベル,医療チームレベル,医師個人レベルなどの組織単位が考えられ得る.しかし2000年代初頭までにおいては,病院全体レベルと特定の部門・センターレベルの組織単位に対するBSC事例が中心であり,チームレベルや医師個人レベルでのBSC事例はあまり見られない.
 病院界においては,特定疾病への医療サービスに対して,患者満足度,臨床的成果,機能的成果,コストといったバランスの取れた視点から評価・管理をするマネジメント手法(クリニカル・バリュー・コンパス)も見られ,これは一見BSCに類似する.しかし,BSCは基本的に責任と権限を有する組織単位(最小単位の場合,個人)に対して設計されるものであり,いわば一般産業界における提供製品・サービス単位である疾病単位に対して設計するクリニカル・バリュー・コンパスはBSCとは異なるマネジメント手法である.つまり,BSCが組織業績を評価・管理するのに対して,基本的にクリニカル・バリュー・コンパスは提供サービスの業績を評価・管理しているのである.また,クリニカル・バリュー・コンパスでは,その設計対象の性格上,BSCに見られる学習と成長の視点は少なくとも前面に出てきておらず,評価の視野の包括性はBSCよりも狭い.ただし,クリニカル・バリュー・コンパスが対象とする特定疾病ごとに責任と権限を有するチームが編成され,そのコンパスの視点枠組みでチームの業績管理がなされているような場合には,クリニカル・バリュー・コンパスはチームを対象に設計されたBSCの一種であるととらえることもできる.

病院長からみた安全管理—医事紛争からの教訓

著者: 長野展久

ページ範囲:P.493 - P.497

 医療事故あるいは医事紛争へと発展する事例は,年々増加の一途をたどり,10年前には年間300件程度であった医療事故民事訴訟新規受付件数が,2000年には767件と2倍以上に増加している.そして新聞やテレビからは,大学附属病院や国公立病院で発生した重大な医療事故が連日のように報道され,記者会見で深々と頭を下げている病院長の姿を見るのも珍しいことではなくなった.そして最近の判決では,医療者側の責任が厳しく問われるようになり,有責率(過失と認定される割合)は70%近くにも及ぶという.その背景因子として,医療の高度化,医療に対する患者側の過度の期待,患者の権利意識の向上,病院側の対応のまずさ,マスコミ報道の影響などが指摘されているが,根本的な問題は,社会全体が医療事故を通じて「医療の質」に疑問を投げかけていることにあると思われる.
 このような声に対して,われわれ医療従事者も十分に応えていかなければならないが,昨今の報道をみても明らかなとおり,決して満足のいく状況とはいえない.特に病院全体を統括する病院長の立場では,「患者の安全と安心の確保」と「病院の経営上の対策」として,「リスクマネジメント」の体系的な仕組みを構築するのは最重要課題といえるが,いまだ解決されるべき問題が山積みになっていると思われる.

医療を支えるファシリティマネジメント7話・1

今,なぜファシリティマネジメントか?

著者: 柳澤忠

ページ範囲:P.498 - P.499

 ファシリティマネジメント(facil—ity management,以下FMと略記)という言葉をご存知でしょうか?もしご存知なら,貴方はかなりアメリカ好きか,建築や施設の世界に関心が強い方なのでしょう.
 ところで,医療経営全般での「質」の問題を解く考え方(コンセプト)の一つとして,ぜひFMを知っていただきたいのです.今月から7回,話題を提供したいのでお付き合い下さい.

病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・18

採用管理

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.500 - P.501

⦿基盤人事制度の再検討
 看護婦・士から看護師と名称は変わったが,看護師を取り巻く様々な環境は急激には変化しない.しかし,病院間の競争が激化する昨今,生き残る病院となるためには,看護サービスの提供者である看護スタッフの能力を最大限に引き出す看護師に対するマネジメントが重要な課題となり,看護師を取り巻く環境も変化させなければならない.そして,看護師の環境を変えるキーパーソンとなり,看護師へのマネジメントのリーダーとなるのが,最高責任者であるDONである.
 DONの業務は多岐にわたるが,最も重要な業務は,看護師を含む人材マネジメントである.人材マネジメントは,人材フローつまり基盤人事制度をどのように行うかで決まる.基盤人事制度とは職員の採用,配置,異動,教育,昇進,退職などである.基盤人事制度とそのシステムの運用は,組織要件,個人要件,社会的要件により成立する.

病院管理フォーラマ 事務長の病院マネジメントの課題—急性期病院の立場から・3

病院改革とは—急性期病院への道

著者: 正木義博

ページ範囲:P.502 - P.504

⦿経営と医療
 済生会熊本病院は,平成7年4月新病院を建設移転した.それまでは熊本市西部の旧市街にあったが,どうしても近くに移転先を見いだすことができず,郊外の新しいバイパス沿いで,熊本市の南部に移らざるを得なかった.患者さんがこれまでと同じように来るか,救急車がきちんと入ってくるか,かすかな不安は残ったが,これまで当院が患者さんや地域に行ってきたことや,それに対して患者さんの当院に対する信頼感を考えると,この不安は次第に消えていった.無事,移転が済み新病院での診療が開始されたが,患者さんは予想どおり旧病院と変わらず,かえって次第に増加していった.
 筆者が当院に入ったのは同年8月で,既に新病院での診療が始まっていた.病院経営は開院当初ということや,記念行事費,移転費用などで3か月間は採算がとれなかったが,7月からは黒字に転じた.当時から,月ごと,診療科ごとの収支採算状況表を作成していて,大半の診療科は黒字であったが,中には赤字の診療科もあった.しかし,病院全体の採算はとれていて,特段早急に手を打たなければならないということはなかった.しかし,この先,経営を取り巻く環境は次第に厳しくなっていくことは明白で,当院の経営がどのような展開になっていくのか予想できず,どのような手を打つべきか悩み始めた時でもあった.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第92回

公立置賜総合病院

著者: 三谷恭一

ページ範囲:P.505 - P.509

 公立置賜総合病院は,山形県と置賜地域の長井市,南陽市,川西町,飯豊町を構成団体とする置賜広域病院組合により新設された病院です.既存の3病院と1診療所を初期医療,慢性期医療を担うサテライト医療施設として再編成し,同院はその基幹病院として建設されました.同院では重点医療として,救命救急医療,悪性新生物,循環器疾患などに対する高度な診断治療を行うとともに,リハビリテーション医療を充実させた病院となっています.
 敷地は,各サテライトからはほぼ等距離に位置し,周辺を田んぼと果樹畑とに囲まれた田園風景の中,置賜盆地の山々を背景に,同院は大らかな姿を現わしています.

事務長の医療よもやま話・5

地球にとって人間は増殖するがん細胞だ!

著者: 岩﨑公平

ページ範囲:P.511 - P.511

●母なる地球
 宇宙の無数にある惑星の中で,地球のように水のある惑星は数少ない.誰かの恋心と違って,水はあらゆる物質の中でも一番熱しにくく冷めにくい.水は優れた温度調節機能を持っている.地球表面の最高温度は40℃,最低温度は−30℃程度で温度差は高々70℃だ.比べて,お隣の水のほとんどない火星は最高が25℃,最低が−120℃と温度差は地球の2倍の145℃もある.母なる地球の海・湖・川の水,水蒸気は,体液だ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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