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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻11号

2003年11月発行

雑誌目次

特集 どう生かす診療情報

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.901 - P.901

 医師も病院も,長い間,患者や住民に診療情報を発信することをしてこなかった.近年,医療を受ける側から説明が不十分であるという不満が声高に語られるなど,医療における情報提供は大きな論点となっている.医療を提供する側も,インフォームド・コンセントを励行して入院診療計画書を手渡すなどの情報提供に努め,最近は一定の定着をみているが,それでも医療の実情を国民に十分に理解してもらうには至っておらず,結果として昨今の容認しがたい医療費抑制を招いてしまったのではないかとの反省の声も聞かれる.

 このような中で,改めて今後の病院が提供すべき情報について考えておく必要がある.特に,最近では患者・家族が診療そのものに関する情報を知りたいとする機運が強くなってきており,カルテ開示を求める動きはその端的な例である.厳しい環境下で患者の確保に迫られている病院にとって,患者の求める診療情報を知り,それらの情報の提供の現状と今後のあり方を探っておくことは,基本課題であろう.また,医療機関の広告規制も急速に緩和され,法制上の見直しとその運用も大きく変わったといえる.現在,広告は法制上どこまで可能となっているか,特に診療にかかわる情報の広告については踏まえておく必要がある.

今,病院にどんな診療情報が求められているか―病院における診療情報のあり方

著者: 山内一信

ページ範囲:P.902 - P.906

 カルテ開示か,あるいはカルテを整える環境を整備するべきかの議論が起きて数年になる.これらの議論がされているうちに,今年の春には個人情報保護法が成立し,事実上カルテ開示が法的に認められることになった.ただこの法律にはいくつかの問題点もみられ,開示に際して解決しなければならない点がある.

 厚生省(現厚生労働省)は平成12年度から14年度の3年間にわたり,「カルテ等の診療情報の提供のための支援事業」を興し,これを日本診療録管理学会に委託し,筆者らがその成果をまとめることとなった.今回,編集部から,その成果を紹介してほしいとの依頼を受けたので,その事業の結果と私見とを交え,診療情報のあり方について述べたい.

広告規制の緩和と診療情報の提供

著者: 栄畑潤

ページ範囲:P.907 - P.911

 最近,医療提供体制の改革が矢継ぎ早に進められている.特に医療の質の向上と効率化を進めるためには医療機関間の競争が不可欠とされ,そのために患者・国民に医療情報を提供し,患者が医療機関を選べるようにするべきとの指摘が強い.このような中で近年,様々な医療情報の提供の促進に向けて,いくつもの動きが起こっている.医療情報の提供は,今,めまぐるしいほどの改革の動きの中にあるといっても過言ではなかろう.本稿ではこのような動きをまとめて紹介するとともに,今後の改革を展望してみたい.なお,本稿の意見にわたる部分は,筆者の個人的な主張であることを付記しておく.

患者がほしい医療に関する情報

著者: 坂本憲枝

ページ範囲:P.912 - P.916

 近年,今までの医療提供側中心の医療の体系を,「患者中心」,「患者本位」に変えていく必要があるとして,患者主体の医療が提供されようとしている.患者にとって「患者中心の医療」,「患者本位の医療」とはいったいどんな医療であろうか.

 それは患者自身が納得できることであり,明らかで,なるほどと実感できることである.すなわち,自分の診療結果にアクセスする権利や知る権利などの基本的な権利が認められることに加え,情報の開示や医療の透明性が担保されることである.

 患者主体の医療が行われるためには,患者も今までのおまかせ医療から抜け出し,医師と患者が双方の信頼と協力のもとに病気を克服していくことが大切なこととなる.また,患者が主体的に医療と向き合うためには,的確な判断を行うためのもとになる情報が必要である.

 インターネットからの情報提供が進み,広告の規制緩和などの枠組みもできるなど環境整備も進み,医療についての意識も変わりつつある現在,医療の受け手=患者にとって容易に情報が入手できるようになったのであろうか.医療サービスを受ける患者の立場から,医療に関する情報の現状を述べてみたい.

個人情報保護法と診療情報

著者: 藤原静雄

ページ範囲:P.917 - P.921

 個人情報は使い方次第で毒(権利利益の侵害)にも薬(自己および他人にとっての有用性)にもなる.大量の情報がネットワークを通じて瞬時に世界中を駆け回るIT社会においてはなおさらである.平成15年5月23日に成立した(同月30日に一部施行,本格的施行は2年以内)個人情報保護法1)も,この有用性と個人の権利利益の保護とのバランスをとることに腐心している.以下,病院の診療情報を念頭に置いて,個人情報保護法が医療の現場に及ぼす影響について概観することとしたい.

【座談会】私はWebサイトをこう活用している

著者: 神野正博 ,   中田郷子 ,   原芳邦 ,   明神和紀 ,   大櫛陽一

ページ範囲:P.922 - P.931

 大櫛 東海大学で医療情報学を教えている大櫛と申します.私は最初,大阪府に就職して地方公務員として,17年間医療現場を回っていました.出身は工学部で,医学部ではありませんが,1988年に医学部の教授に就任して現在に至っています.

 私は最近,医療情報の開示および共有によって医療の仕組みを少しでも改善したいということで,電子カルテなどいろいろなシステムを開発しています.本日は,インターネットだけでなく,Web技術を使ったイントラネットについても話題にできたらと思っています.

 それでは,神野先生から自己紹介を兼ねてコンピュータ・Web利用歴などをお願い致します.

グラフ

「医療と介護の複合体」を推進し,地域に密着した医療を実践―医療法人つくばセントラル病院

ページ範囲:P.889 - P.894

「医療と介護の複合体」を経営戦略に

 つくばセントラル病院は,竹島 徹院長(現理事長・院長)が1988年12月1日,128床の個人病院として開設.1993年3月,医療法人に改組.その後緩和ケア病棟20床を開設(2000年10月),医療保険適用療養型病床51床を増床し(2001年4月),199床の規模となった.また同法人は,1997年3月に牛久市唯一の老人保健施設「セントラルゆうあい」を,2000年3月には社会福祉法人若竹会「牛久さくら園」を開設.さらに,訪問診療・看護・介護・薬剤指導・リハビリテーション・栄養指導,訪問配食などの在宅療養サービスも充実させてきた.

 これらは,「民間中小病院である当院のとるべき道は“医療と介護の複合体”にある」という竹島院長の方針に沿うものである.「介護の後ろ支えがあってはじめて,当院の目指す地域密着型の医療を成し得る」と竹島院長は考えている.

特別寄稿

医療安全における「分析手法」の考え方・選び方

著者: 相馬孝博

ページ範囲:P.932 - P.937

背景

 人間が関与して生じた事故(望ましからざる結果)を分析する手法は,製造業においては,より信頼性のある製品を提供すべく,原子力や電力の分野においては,より信頼性のあるシステムを提供すべく研究が進められてきた.数多くの分析手法が,信頼性工学や認知工学の視点から,様々な研究者によって提案されてきているものの,逆に多数の手法が存在するということは,決定的な手法はいまだ存在していない証左ともいえる.近年,医療事故を科学的に分析するために,これらの手法が応用されるようになったが,「何を使ったらよいか」については,一定の共通認識は存在せず,各分析者に委ねられているのが現状である.本稿では,医療分野に適用可能性のある分析手法について,それぞれの特性や限界を概観してみたい.

レポート

医療消費者が自ら使う電子カルテ―「マイ電子カルテ」

著者: 大櫛陽一 ,   原寿夫 ,   遠藤郁夫 ,   田代祐基 ,   大島譲二 ,   野原吉孝

ページ範囲:P.938 - P.941

 医療機関での電子カルテは,医療機関の新設やリニューアルに合わせて導入されることが多くなってきた.しかし,医療消費者が自ら使用できる電子カルテがなかった.実は医療消費者こそ電子カルテが必要である.癌を含む生活習慣病では,その予防のために生涯にわたる健康データの蓄積が重要である.これはPersonal Health Database(PHD)と呼ばれている.本人がPHDを家庭で参照できて,ライフスタイル変容のトリガーとなり,その効果を実感できることが必要である.

 また,高齢化社会では本人のQOLの向上と,医療の効率化のために地域医療が重要である.地域医療を効果的に行うには,医療情報の共有が必要である.医療画像を含む大量の情報の共有には電子メディアが適している.しかも,本人が携帯して管理することは,セキュリティ対策のみならず,本人の意識改革にもつながる.

 われわれは,1986年から健康カードによるPHDを開発している.当時は,医療画像も記録できる携帯メディアとして光カードを用いていた1).最近になって,スマートメディア,SDカード,メモリースティックなど多種類の携帯電子メディアがディジタルカメラや携帯電話に使われるようになってきた.今回,これらのどのメディアでも可能なカード型PHD,すなわち医療消費者向け電子カルテ―「マイ電子カルテ」を開発した.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・20

病院変革の嵐と情報洪水の狭間で

著者: 鈴木紀之

ページ範囲:P.943 - P.945

病院経営現況

 2003年8月31日を期限として,病床の区分届出が病院に求められた.いよいよ,日本の医療における病院のあり方に手をつける段階に入るのだと実感する.もちろん,従来から,様々な形で日本における医療のあり方,診療の体制,病院の機能の検討がなされ,地域における医療計画も見直し策定がされてきている.また.医療法,診療報酬の改定もなされてきているが,今回の病床区分届出は,日本における病院の機能を療養型と急性期型に大きく規定していく,極めて重大な手順になると認識される.

 この届出は,単なる手続きにとどまらず,病院においては,自院の今後の運営に対する決意と覚悟を表出するものであり,利用者・住民にとっては,自身・家族の生命と健康を託す医療体制構築の出発点になるはずの,大きな節目になることであろう.当然,各病院では,慎重な検討協議を経て対処されたことであろうが,病院の意思決定に当たっての合意形成プロセスそのものが,今後の医療経営の難局に立ち向かう第一歩といえる.意思決定に当たっては,地域の医療需要,地域性,自院の理念・基本方針や,職員の意識,マンパワー確保の見通し,資金計画,保有する資産,負債の評価など,様々な要素を勘案して決定を見ていると思われる.

看護管理=病院のDON・35

看護業務の電子化

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.946 - P.947

院内情報の電子化

 病院の院内情報の電子化が,急速に進んでいる.手書きの文書が配布されることもなくなり,文書の電子化は確実に進んでいる.ただし,電子化された文書が,院内情報として共有化され,円滑にシステム化されているかどうかということになると,どこの病院でも万全とはいえないのが現状である.それでも,すべての院内情報を電子化し,原則ペーパーレスを達成した病院もある.

 小型携帯端末やベッドサイドに設置した端末があり,その場で体温,血圧などの情報を入力することができれば,看護師は,ベッドサイドで入力した情報をすぐに中央(ステーション)で知ることができるし,医師は,その場でこれまでの経過を含めたリアルタイムの情報を知ることができる.手書き情報を減少させるメリットは,書いたメモを置き忘れたり,手にメモしたりする必要がなくなるとか,赤・青鉛筆(ペン)などで色分けした温度板の記入が不要となるといったことから,転記作業がなくなり,グラフ化するのも容易になることである.管理業務に不可欠な各種の日計,週計,月計,年計表などは,あらかじめシステム化しておけば,いつでも最新のデータをみることが可能である.

施設管理・10

病院機能評価を受審して―施設・設備管理の視点から(1)

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.948 - P.950

 聖路加国際病院は,平成14年12月に,財団法人日本医療機能評価機構(Japan Council for Quality Health Care,以下,JCQHC)による第2回目の審査を受けた.その後,平成15年2月にその時の詳細な内容の審査結果報告書が出されている.

 今回は審査前の病院側の対応等について,主に施設・設備管理面の内容について紹介する.なお,可能なものは前回受審した平成9年時点の内容も取り上げたい.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・8

「患者の声相談窓口」に寄せられた医療過誤を疑う相談の事例

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.952 - P.953

 東京都健康局では医療監視担当部署の中に「患者の声相談窓口」を開設しています.この窓口では,電話や来庁して相談に訪れた患者の医療問題全般にわたる相談にお答えしています.件数からいうと,医療内容に関する医学的な相談が多いのですが,医療ミスや医療過誤ではないかとの相談も,窓口に多く寄せられています.

 本号では,この相談窓口に寄せられた相談の中から,医療ミスを訴える患者とそれに対する病院の対応について考えてみたいと思います.

医療機関のマーケティング戦略─産科の受療行動からみえるもの・7

なぜ病院は選ばれなかったか―女性が助産院を選択するとき

著者: 河合蘭

ページ範囲:P.954 - P.956

1%の助産院出産が注目されるのはなぜか

 病院は,もちろん多くの女性に選ばれていて,病院で出産する人は全産婦の半数を占める.残りの半数は診療所である(以下,病院と診療所を合わせて医療施設という).ここで取り上げる助産院での出産は,日本の全分娩のうち1%に過ぎない.

 ところが,助産院出産や自宅出産は,この10年ほどの間,マスコミの脚光を浴び続けてきた.報道では,助産院や自宅でのお産は「温かいお産」,「家族に見守られたお産」の代名詞だ.医療施設も,「助産院のような温かいお産を提供します」とパンフレットなどに書き始めている.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・8

チャリティとボランティアが支えるイギリスのホスピス

著者: 安達正時

ページ範囲:P.957 - P.959

 2002年8月12日,BBCのトップニュースを,末期がんと闘いながらロンドントライアスロンを完走したJane Tomlinsonの笑顔が飾りました.Janeは12年前に乳がんと診断され,さらに既に肺と骨に転移していることがわかっていました.レポーターから,「一番きつかったのは,いつですか」と質問され,「始めの3分間」と笑顔で答えている姿は,闘病の苦しさを感じさせない明るさに溢れていました.

 彼女はこのトライアスロンへの参加によって,Cancer Research UKのための寄付金50,000ポンド集めることに成功しました.Cancer Research UKは,The Cancer Research CampaignとImperial Cancer Research Fundとが統合し,2002年2月に再スタートした,チャリティによって運営されている,がん研究所です.企業や個人から年間17,600万ポンド以上の寄付金を受けています.3,000人の研究者が,治療や発症を抑える薬の開発,患者のQOL向上のために日々努力を重ねています.

 イギリス国民のがん治療へ関心は高く,イギリス政府の2000年医療改革では,Cancer Planとして2004年までに緩和医療への投資を5,000万ポンド増額するとし,さらに,がんの研究に2,000万ポンド投資するとしています.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第109回

東京都江東高齢者医療センター―設計:東京都財務局営繕部建築一課 (株)磯崎新アトリエ

著者: 早川紀明

ページ範囲:P.960 - P.967

計画

 1994年に,東京都により,「痴呆性高齢者等の様々な医療・福祉ニーズに相談・診療から看護・介護に至るまでの一貫した総合的なサービスで応えていくモデル・先駆的施設」として東京都江東高齢者医療センターの基本構想が策定された.

 東京都の福祉改革に従って,2000年12月に,病院の運営を民間法人により行い,公募方式により事業者を選定することになった.この運営形態の変更について,公募紙面では「都立病院改革の先駆けとし,また全国の公立病院の経営改革にもインパクトを与える病院改革のモデルとする」と説明されている.

 この公募の結果,2001年4月に学校法人順天堂が運営事業者として選定された.学校法人順天堂は,2002年6月の病院開設から2年間は都からの委託方式により病院を運営し,その後は自主事業方式に移行していくことになっている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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