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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

特集 デフレ下における病院

巻頭言

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.93 - P.93

 バブル経済崩壊後の不良債権処理の遅れは,わが国経済の低迷を来しデフレ経済状況に突入した.また,経済の低迷に伴う税収不足,さらには急激な少子高齢社会への移行は,わが国社会保障制度の抜本的な改革を余儀なくしている.

 戦後のわが国の社会保障制度は,右肩上がりの経済成長の下に運営されてきた.また,社会保障における保健・医療・福祉分野の中心である病院もこれらの経済成長下での運営を行ってきた.現在のデフレ経済下における病院運営は,まさに戦後のわが国の病院が初めて経験する社会環境であり,緻密な対応が必要である.デフレ現象は,大都市における企業の「勝ち組」,「負け組」の区別を明確にしてきた.また,企業の生き残りのための合併・分社化,またそれに伴う種々の経営対策の断行は,病院の今後の経営に脅威すら感じられる.デフレ下における社会環境の変化,また改革のスピードがアップされた医療制度改革の進行は,病院における二重の対応を要求してきている.医療制度改革に伴う地域医療機関としての役割,またデフレ下における地域住民の厳しい医療サービスへの要求への対応いかんで,企業と同様に医療機関も「勝ち組」,「負け組」に二分化されると思われる.

サービス企業におけるデフレ対応

著者: 阿部剛

ページ範囲:P.94 - P.99

デフレとは何か?

 「デフレ」とはなんだろうか?

 一般には,物価が持続的に下落する現象を指す経済用語である.

 政府は2001年3月に「日本経済は緩やかなデフレにある」と正式にデフレ状況にあることは認定している.

 昨年平均の全国の消費者物価指数は前年比で0.7%下落し,戦後初めての3年連続のマイナスとなった.

 最近ではオーストラリアやカナダが物価下落の経験を持つが,1年程度で歯止めがかかっている.わが国の状況はこれと比べるべくもない,より深刻なものとなっている.

 現在の国内の物価下落は,需要不足や低価格の輸入品の流入,海外における技術革新などが原因とされる.デフレは,消費者にとっては購買力の増加につながるが,現状のように長期化すれば企業収益の減少や所得低迷,実質的な債務の負担増を招くこととなる.

 今,わが国では,物価下落と景気悪化が連鎖的に進むデフレスパイラルに陥る懸念も強まっている.

 デフレスパイラル(図1)とは,

 ①需要不足で物価が下落.

 ②企業の生産縮小や収益悪化.

 ③雇用・所得環境が悪化.

 ④家計部門の悪化で物価がいっそう下落.

 以下①~④の繰り返しというように,悪循環を繰り返しながら不況がより深刻化する現象を示す言葉である.

医療のデフレ下における医療ニーズの開発

著者: 大隈暁子

ページ範囲:P.100 - P.104

デフレ下における病院経営

 1.デフレ経済社会と企業

 日本経済は「デフレ」に陥り,「デフレ・スパイラル」も懸念される状況にある.バブル崩壊後の混乱と不景気は「失われた10年」といわれたが,その後見舞われたのが「デフレ経済」であり,物価下落に歯止めがかからず,全国の消費者物価指数は1999年10月以降,前年比で下落を続けており,デフレは 4年目に突入している.また,総合的な物価指標であるGDPデフレーターは,1994年以来,実体的には9年連続の減少を記録している.

 このようにデフレが深刻化している中,今後の好材料も乏しく,また,「構造改革なくして景気回復なし」のデフレ政策下において,この景気低迷は長期化の様相を呈している.

 一方,上場企業の2002年9月期中間決算発表において,リストラ主体の業績回復も多い中,2003年3月期通期で過去最高益を見込む企業も少なくない.多くの企業が減収減益で赤字決算に陥り,その存続さえ危ぶまれる危機的状況にある一方で,デフレ不況を成長の機会とし,ますます強くなった企業も存在している.その格差は,経営戦略に基づく経営革新に求めることができるが,それら成功企業の多くには,ブランド価値の向上に努め,顧客との関係性を再構築しながら,顧客ニーズの開発に邁進しているところに共通点を見いだし得る.

デフレ下と医療

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.105 - P.108

デフレ下の病院の経営方針

 出口の見えないデフレは,医療や病院経営にも大きな影響を与えている.「デフレ下にどうしたらよいのだ」という短兵急な質問に答える術はないが,何を考えなければならないのかということであれば,幾つかのポイントがあるように思う.それは,人件費をどのように考えるのかといったやりくりの次元もあれば,将来の経営戦略をどのように考えるかといった中長期的な課題もある.しかし,事業の持続性という観点からは,事業体の経営品質を向上させるほか方法はないように思う.

 デフレ下の医療や病院経営は,どのようにすればよいのであろうかという問いに対する答えは,病院経営の品質の確保ということではないかと思うのである.

デフレ下における病院の財務

著者: 頼富真吾

ページ範囲:P.109 - P.115

 今後の病院財務を考える上で,過去にさかのぼり,病院財務がどのような特徴を持ち,どのように推移しているのか,その平均像を見ることも重要と思われる.

 社会福祉・医療事業団では,毎年,直接融資をしている貸付先より,病院や介護老人保健施設などに係る施設の情報や決算の内容を報告いただいている.今回は,そのデータに基づく分析内容を紹介する.

 法人の貸借対照表と損益計算書から病院財務の実態を明らかにするため,客体を1病院のみを開設する医療法人に絞った.

 また,比較分析に用いるデータは,バブル崩壊後の1990年度,1996年度,1999年度の3か年度分とした.

医療のデフレ下における対策

特別医療法人化

著者: 竹内實

ページ範囲:P.116 - P.117

 わが国社会全体のデフレ化の中で,医療制度改革の流れが医療提供体制の変革を余儀なくさせている.国民皆保険制度や老人医療無料化に支えられて20世紀後半にでき上がった病院医療にも当然大きな変化が起き始めている.

 2002年5月末現在の全国の病院数は9,222,そのうちの約60%を占める5,503病院が医療法人を経営主体としている.この医療法人制度は1948年の医療法制定とともに発足した.さらに1963年の租税特別措置法の規定により特定の医療法人が認定されるようになり,公的かつ適正に運営されている法人として2002年3月31日現在325法人が認可されている.特定の医療法人になると,出資持分の放棄に伴い相続税の免除,一律22%の法人税の軽減税率が適用されている.

 そして,1998年に施行された第3次医療法改正において,「公益性の高い法人」として創設されたのが特別医療法人である.

 特別医療法人の設立主旨としては,以下に示す条文が上げられている.「地域において重要な役割を果たしている民間医療機関の経営安定による永続性の確保のため,一定の用件を満たし公的な運営が確保されている医療法人を特別医療法人として位置づけ,その収益を医業経営に充てることを目的とした収益業務を実施することが出来るものとし地域における医療の安定的な提供体制を整備するものである」.

デフレ経済化の医療ニーズの開発

著者: 川原弘久

ページ範囲:P.118 - P.120

日本経済と医療経済

 現下の日本経済がデフレスパイラルに陥っていることは,多くのエコノミストが指摘しているところである.デフレの怖いところは経済成長がストップし,税収が落ち込むとともに企業の経営悪化のため人減らしや給与カットが行われ,健康保険収入が減少することにある.これらは医療費の総額調達に支障を来す.したがって,ミクロの医療経済は税収の落ち込みと健康保険料の徴収不足の両面から影響を受け,結果的に医療費の抑制を来すことになる.

 さらに,日本における今日の景況の中で深刻なのは,信用収縮を起こしているところである.もとよりそれは金融不安に端を発しているが,その結果医療機関は資金調達に苦しむことになる.したがって,今日病院経営は深刻な状況にある.しかも4月の診療報酬改定からいまだ半年を経過したばかりであるが,既に賃金カットや賞与のカットがみられている.このまま次回の改定まで病院の経営を維持するのは大変困難である.しかも,2年後の改定もさらに医療費抑制を伴うであろう.なぜならば医療財源は枯渇しているからである.

 今回,ならびに次回の改定において,厚生労働省は給与のカットや多少の人減らしを要求しているのではない.大幅なダウンサイジングを期待しているのである.すなわち,一般病床の減少であり,今日の改定で80万床に,次回の改定では60万床に減少させるといわれている.このアナウンスを確実に理解しないでいる医療施設は泥沼に落ち込む可能性がある.

リース・レンタルの活用

著者: 石井光春

ページ範囲:P.121 - P.123

これからの病院経営

 現在わが国は政治・経済・社会制度などあらゆる面において大きな変革期を迎えている.マクロ経済面では,バブル経済崩壊以降長期にわたる景気の低迷により企業業績は悪化し,所得や雇用の不安を招く局面にまで至っており,これにより個人消費は落ち込み,企業業績はさらに悪化するという,デフレスパイラルと呼ばれる悪循環に陥っている.さらには,企業倒産の増加や株式市場の低迷から金融環境に対する不安も増大している.一方,行政制度などの面においては,深刻な税収不足などによる財政悪化に加えて,少子高齢化による社会保障制度の財政不安などにより,もはや従来の枠組みの下での運営が困難な状況になっており,あらゆる面から制度改革が進められようとしている.

 このような環境の中,医療業界においてもかつてなかったような大きな変革の波が押し寄せている.その中で特に影響が大きいと思われるのは,①医療制度の改革,②金融環境の変革であり,この二つが密接に関係し合い,これからの病院経営はますます厳しさを増していくと思われる.

 現在進められようとしている医療制度の改革では,国民の医療負担の増加と診療報酬の見直しが骨子となっており,デフレ経済下で深刻化している患者数の減少に拍車がかかり,病院間の競合はますます厳しさを増すものと推測される.こうした中で,この競合に勝ち残るためには,医療サービスの向上に向けた設備投資を積極的に行う必要があるが,その方法についてはより効果性の高い手段を講じることが重要となる.

顧客管理(コールセンターの開設)

著者: 神野正博

ページ範囲:P.124 - P.126

 世の中デフレの時代だ.物の値段が下がり,給与所得も下がろうとしている.また,診療報酬改定でわれわれ医療機関の収入もデフレ基調となった.

 100円ショップや衣料品,電化製品などデフレを引っ張ってきたものは,いずれも海外の安い労働力をはじめとしたコスト削減と画一的大量生産によるものであった.一方,ハイクオリティを標榜するホテルやブランドショップは,依然として高い値段をとりデフレとは無縁の状態である.五つ星ホテルは,徹底した個別対応によって顧客の満足を追求し,ブランドショップもまた高級感と希少性とともに,質での安心感で顧客に迫っているのである.

 顧客は医療においても,大量生産と画一的なサービスを求めるのであろうか? ここで受益者にとっての医療費は自己負担増という「値上がり」=インフレベクトルがかかっていることを忘れてはならない.したがって,受益者は高コストに見合う個別対応とブランドを求めているものと考えなければならないだろう.医療は今後は個人の特質に合わせたテーラーメイド医療へと向かうという.ただ,その前に個人のニーズに応え,それを満足感に変えていくという個別の対応が求められ,それこそが患者にとっての「医療の質」の大きな要素を占めるように思われてならない.

 個への対応・質の確保を求められる一方での医療機関にとっての医療費デフレ,この二律背反の中で,いかに対応していくか….われわれは今まで以上に知恵を絞らなくてはならない時代を迎えようとしている.

グラフ

脳神経外科を中心に国際レベルの高度先進医療の展開を目指す―新館竣工2周年を迎えた特定医療法人深田記念会松井病院

ページ範囲:P.81 - P.86

 岡山を出発した“L特急しおかぜ”は瀬戸大橋から予讃線を経由して瀬戸内海岸線を宇和島まで走り抜ける.観音寺までは1時間,瀬戸内海の風光明媚な景観に一時を委ねるには短い.東京から岡山まで“特急のぞみ”を利用すれば4時間半で観音寺駅に降り立つ.瀬戸大橋の開通は中国・四国の両地域を短時間で結び新しい文化圏を創り出したといっても過言ではないだろう.特定医療法人深田記念会松井病院は観音寺駅より車で5分ほどの,周囲を小山に囲まれた自然豊かな田園地帯にある.本館竣工2周年を迎え地域の病院として定着しつつある同院を取材した.

特別寄稿

21世紀初頭の医療改革と民間病院の役割―幻想の「抜本改革」から着実な部分改革と自己改革へ(前編)

著者: 二木立

ページ範囲:P.129 - P.135

はじめに

 私は,一昨年(2001年)11月,『21世紀初頭の医療と介護―幻想の「抜本改革」を超えて』を出版した1).この拙著で私が最も強調したことは,通説とは逆に,「医療保険の『抜本改革』は幻想であり,わが国で必要なのは部分改革の積み重ねと医療者の自己改革である.それを行えば未来は決して暗くない」(はしがき)ことである.

 ただし,私は「守旧派」ではなく,「医療者が国民が納得できる部分改革を提言できず,自己改革を行わなかったならば,未来はやってこない」とも考えている.そのために,拙著では,個々の医療機関レベルでの3つの自己改革と個々の医療機関レベルの改革を超えたより大きな2つの改革を提起した.私は,国民皆保険制度を維持しつつ医療の質を引き上げるためには,世界一厳しい医療費抑制政策を転換し,公的医療費の総枠を拡大する必要があると考えているが,これらの改革を実施しない限り,国民の医療不信は解消できず,それは実現しないとも思っている.

 拙著出版後1年余が経過したが,「医療保険制度抜本改革」は,医療関係者の間では,死語となりつつある.厚生労働省幹部は,一昨年3月以降,「医療保険抜本改革」という用語の使用を意識的に止めているし,日本医師会をはじめとする医療団体幹部も,最近は,それが困難・不可能なことを異口同音に認めるようになっている.

 他面,同じ期間に,医療提供制度改革については,2種類の抜本改革論が強まった.一つは株式会社の病院経営参入論,もう一つは一般病床半減説である.そこで私は,昨年 9月に,両説を批判した以下の2論文を発表した.「株式会社の(医業経営)参入には反対だが,医療法人制度の改革も必要」2),「一般病床半減説は幻想」3)

 本稿では,これら3つの拙著・拙論をベースにしつつ,最新の情報と文献を加えて,「21世紀初頭の医療改革と民間病院の役割」について,次の3つの柱に沿って,包括的に検討したい.まず,21世紀初頭の医療・社会保障制度改革の3つのシナリオとその実現可能性について簡単に述べる.次に,医療提供制度に関する上述した2つの「抜本改革」論について順次検討し,その実現不可能性を示す.最後に,医療者自身が取り組むべき自己改革と制度の部分改革について,問題提起を行う.その際,読者の関心と心配が特に強いと思われる一般病床半減説と病院病床の機能分化については,拙論「一般病床半減説は幻想」よりもさらに踏み込んで検討する.いずれについても,①私の事実認識,②私の価値判断を含まない「客観的」予測,③私の「主観的」評価・価値判断の3つを峻別するとともに,それぞれの根拠を示す(evidence-based).

研修医を適正な目標と判断力を持った職業人に育てるには―洛和会音羽病院における入職時研修プログラム

著者: 角田誠

ページ範囲:P.136 - P.140

 初期臨床研修に関しては学会や研究会などで多くの討議がなされ,スーパーローテーションを理想的な形式とする認識が定着しつつある.ローテーション教育は,広い知識と技能を短期間に効率的に修得することを可能にする極めて優れた教育手法といえる.しかし反面,失うものも多い.例えば,短期間で次の診療科へと移っていくため,指導医や患者様との関係が希薄になりやすいといった問題点もある.ローテーションは卒前教育をしっかり行えば本来必要なく,ストレート方式のほうがずっと充実感があるとする意見も根強いのである.ストレート方式は,半年から場合によっては年余にわたる長い期間を同じ指導医と診療を共にする,いわば「徒弟制度」である.そこで培われてきた道徳教育や手間のかかる学会発表の指導などは,ローテーション教育の普及により,むしろ不十分になったことは事実であろう.

 当院でも教育の機会を増やそうと全診療科長が協力して,早朝や夜間に講義,演習,討議を行っていたが,当然ながら初期臨床研修医(以下,研修医)には担当している患者様の診療を最優先とするよう教育しているため,出席率は必ずしも良好とは言えなかった.出席を強制すれば,二つのスケジュールで同時に縛ることになるので,その状況におかれた研修医の苦しみは想像に難くない.

 幸い筆者は卒後12年目の年からシニアレジデントも含めた研修全般の世話係を担当してきたので,彼らと年齢が近い.そこで研修医と対話しながら,ローテーション教育を円滑に行い,研修医の満足感を得るためにはどうすべきかを模索してきた.本稿においては,その中で得た臨床研修を実施する上での課題などについて述べてみたい.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・11

地域が求める医療のマネジメント

著者: 冨田信也

ページ範囲:P.142 - P.143

地域の高いニーズ

 医療法人財団河北総合病院は,1928(昭和3)年に東京都杉並区で30床の内科・小児科の病院を開設して70年余りを経て今日に至っている.創立20周年を迎えた1948(昭和23)年は医師法,保健婦助産婦看護婦法ならびに医療法が公布された時であり,当時の先輩たちはこの年に医師のインターン生を採用して今日の臨床研修病院としての基盤を作り,早くからその役割を担った.病院開設以来,一貫して基本的な方針は地域医療の質の向上に寄与すること,そして臨床に携わる医療者の育成である.

 私たちは西暦2028年に創立100周年を迎える.そこから今日を見て,医療のあるべき役割・機能を考えていこうとしている.身近な地域社会の中で医療を考える時,24時間,いつでも,安心して利用できる医療が側にあることは,地域の人々の要望の中でも最も高いものとして挙げられる.必然,私たちは杉並地域内の24時間体制で機能する救急病院を意識して,中長期事業計画を進めていくことになる.

 医療法人財団河北総合病院の中心にある総合病院の病床は315床で,平均的在院日数は13日前後である.この総合病院を囲んで,同じ杉並地域内には135床のリハビリテーション病院,在宅ケアセンター,健診センター,透析センターなどがシステムとして連携して機能している.

看護管理=病院のDON・26

看護研究マネジメント

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.144 - P.145

看護研究の必要性

 医学書院のポケットダイアリーの付録をみると,医学・医学関連の学会の一覧が出ている.まず,日本医学会分科会として96の学会があり,その他の医学関連学会は550,うち看護系学会は33を数え,改めて,その多さを実感した.誰が言い出したのかはわからないが,「看護師は勉強好きで,強迫観念でもあるかのように勉強し,研修に出ている」などといわれている.個人的には,勉強することも,研修を受けることも大いに結構なことだと思う.ただ,看護師の勉強好きが「何か不安があるので勉強して安心したいのではないか」とか,研修が「外出する機会になっている」などという意地悪なニュアンスで伝わる場合もある.

 看護師は専門職として,常に新しい知見を求めることを必要とされる.新しい知見の多くは,外部の新しい情報が基本となって,その情報を判断し体得したものが知恵となり,業務にフィードバックされる.どのような業務でも同様だと思うが「実践は問題発見の場であり,研究は問題解決の方法を提供し,研修は質を維持させるためにある」と思う.つまり,実践,研究,研修は,一連のものであり,研究のための研究ということは,ごくまれである.このことは,なぜ看護研究が必要なのかという理由になると思う.何が問題かが明確であればあるほど,それを解決するために研究が必要であるということが明確になる.また,研修は,なんらかの研究結果が伝達される場という位置づけになるはずである.看護の質を向上させたり,マネジメントを徹底するために研究することは当然であり,研究の成果を業務に活用することが重要である.

栄養管理・8

臨床栄養治療への取り組み―臨床における管理栄養士の役割

著者: 幣憲一郎 ,   清野裕

ページ範囲:P.146 - P.149

 わが国の平均寿命は世界のトップレベルを維持しているが,急速な高齢化とともに生活習慣病の罹患率が年々高くなり,今後,国民が健康で長生きできるかは疑問である.食生活の欧米化や生活様式の変化が影響していることは言うまでもなく,各種疾患の発症予防から治療まで栄養管理の持つ意味合いは大変重要なものとなっている.特に,疾病構造の変化や疾病のしくみが解明されることにより,個々人の病状・病期により不足している栄養成分が違うこと,また,クローン病に代表される炎症性腸疾患などでは,使用できる食品が個人により異なること,さらに,移植など術後管理の概念についても,術前あるいは術直後の栄養状態を良好に管理することが予後に大きな差違を及ぼすことなど,栄養治療の考え方に変革が起こっている.すなわち,入院時提供される食事も「術後管理のための段階的な食事」,「急性疾患に対する庇護的な食事」,さらには「長期にわたる慢性疾患への食事」といった疾患別により分類された食事を一律に提供するのではなく,「個人の病状・病期に応じたその時に必要な食事」を提供するために,ひとまとめにされていた食事管理の概念が払拭されることが,オーダーメイド医療(栄養治療)への第一歩であると考えている.すなわち,医師より指示された栄養量の食事を単に提供するのではなく,臨床現場において患者の栄養状態を把握・評価し,現時点で必要とされる,また,提供できる食事形態とは何かを,臨床の場で患者を診て判断することが必要であると考えている.

 例えば,摂食行動に問題のある患者へ「嚥下食」を提供する場合,これまでは,医師の指示により一般的に誤嚥しにくい食品を一律に提供していたが,担当管理栄養士制を導入し,医師や看護師,言語聴覚士との連携を行うことにより,患者個々に合わせた嚥下訓練食や嚥下造影検査食などの提供が可能となった.すなわち,これからの医療現場では,各専門職(医師,看護師,管理栄養士,薬剤師など)がそれぞれの立場で,患者の病態,病状などを把握し,情報交換を行うことが必要である.場合によっては,病棟専任栄養士を配置することにより,診療科特有の患者の栄養管理状況を把握し,患者に合わせた栄養治療を行うことが可能となり,ひいては入院日数の短縮ならびに患者のQOLの向上に貢献できるものと考えている.

救急医療研修─臨床研修必修化に伴う研修医の受け入れ体制をどうするか・4

岡山大学医学部付属病院救急部における卒後臨床教育

著者: 氏家良人

ページ範囲:P.150 - P.153

 平成16年度から臨床研修が必修化される.これまで卒後研修の中心であった大学付属病院から研修医は魅力ある研修施設へ流れる可能性がある.巷では大学病院,特に国立大学付属病院は卒後研修において“負け組”になる可能性が高いと言われている.

 岡山大学医学部付属病院では,病院長がセンター長を務める卒後研修センターが中心となり,平成14年度研修医から,16年度を想定した研修プログラムを作成し,研修を開始した.14年度は7名のスーパーローテーション希望研修医がそのプログラムに沿って研修し,15年度は20名弱の研修医に対して,厚生労働省の最終的研修プログラムに沿った研修を行うことになっている.こうして,16年度の必修化を迎える準備を整えているが,救急部の研修に関して岡山大学医学部付属病院の取り組みを述べることとする.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第100回

【座談会】これからの病院はどのようなカタチになるのか

著者: 岡本和彦 ,   五代正哉 ,   大石茂 ,   佐藤基一 ,   長澤泰

ページ範囲:P.156 - P.164

 長澤(司会) 今回は『アーキテクチャー 保健・医療・福祉』欄の連載100回目ということで,これを記念して「これからの病院はどのようなカタチになるのか」というテーマで座談会を行いたいと思います.

 本日は,社団法人日本医療福祉建築協会のユースクラブ注)で,医療福祉建築の将来について自由な討議や活動をしている方々をお招きいたしました.

 それでは,将来に向かって若い方々がどのようなことを考えているかを,まずは皆さんに一言ずつ,キーポイントのようなものをお話しいただいて,それからテーマを絞りながら座談会を進めたいと思います.岡本さんからお願いいたします.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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