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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 病院のカウンセリング機能

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.269 - P.269

 「病院のカウンセリング機能」という,これまでほとんど論じられることのなかったテーマが本誌の特集に取り上げられることは,ある意味で画期的なことではないかと思っている.しかもこのテーマは,日本の医療や病院を考えていくうえで,今後非常に重要なものとなっていくのではないかと筆者自身は認識している.

 カウンセリング機能という時,それは様々な意味を持ち得るものである.最も広くは,患者あるいはその家族が医療従事者に対して行う「相談」を幅広く含むものとなるし,狭くは精神科領域における精神療法などを主に念頭に置いて言われる場合もあるであろう.またこれらの中間に位置するものとして,患者や家族が病気の過程で直面する様々な心理的な不安や,退院後のことなどに関する「心理的・社会的サポート」を意味する場合もある.

病院のカウンセリング機能

著者: 広井良典

ページ範囲:P.270 - P.274

 「病院のカウンセリング機能」というテーマは,ある意味で非常に新しい話題であり,逆に言えば,これまであまり正面から論じられることのなかったテーマと言える.

 ここで議論の混乱を避けるために,本稿でいう「カウンセリング機能」の大まかな意味内容ないし定義について確認しておきたい.病院のカウンセリング機能という場合,大きく言って,次の二つの意味を持ち得るだろう.

 第一は,精神科領域における,精神医学(ないし心理学)などの知見をバックグラウンドとした(心理療法などの一環としての)カウンセリングであり,その限りで比較的限定された意味のものである.第二は,より広い,あるいは一般的な内容のもので,種々の疾患の患者が持つ様々な心理的不安や,退院後のことに関する社会的な悩み,あるいは家族が持つ多様な不安などに対し,「相談」といった形などを含めて行われるものであり,患者や家族に対する「心理的・社会的サポート」と言い換えてもよい内容のものである.

 このようにカウンセリング機能という言葉は広狭様々な意味を持ち得るが,本稿では主として後者の(広義の)意味で用いることをあらかじめお断りしておきたい.

総合病院の精神科におけるリエゾン精神科医の役割

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.275 - P.278

 総合病院の精神科が他科とかかわる機能は,コンサルテーション―リエゾン精神医学と言われる.コンサルテーション精神医学とは他科からの精神科依頼に対して助言する機能であるが,リエゾン精神医学は以下のように様々な意味で使われている.

 1.コンサルテーション―リエゾン精神医学と同義語として使われる場合:厳密に言えば,コンサルテーション精神医学とリエゾン精神医学は意味が異なり,両者は区別して使われるべきであるが,依然としてこのように区別があいまいであったり区別しない使い方は多い.

 2.患者―医療者関係,患者―家族関係などの関係性を扱う機能を意味する場合:「リエゾン」が「関係性」を意味することから,このように患者を取り巻く関係性を,診断や治療の際に扱うことをリエゾン精神医学ということがある.

 3.他科入院中の患者を精神科が併診する場合:「リエゾン」が「連携」を意味しているため,「精神科が一緒に診ていく」という意味でリエゾン精神医学が使われている場合である.

 4.リエゾンを構造としてとらえている場合:リエゾン精神医学とは,厳密には,ある病棟やセンターに精神科医が常駐したり,回診やカンファレンスに定期的に参加して,チームの一員として機能することを意味している.例えば,救命救急センターに常勤の精神科医がいたり,リハビリテーションの症例検討会に精神科医が定期的に参加して医療チームの一員として機能する場合などである.

 一方,コンサルテーション精神医学とは,前述したように他科に入院・通院中の患者に生じた精神症状についての相談に応じ,適切な対応を講ずる機能である.このような厳密な差異はあるが,実際に患者・家族が精神科医の前にやって来る際には,主治医からの診察依頼があったり,何度も入院患者と会っている際に家族に出会ったり,症例検討会で精神科医が家族に会うべきだという結論になり面接の機会を設ける,など様々な道筋があるが,それらを区別することは意味がない.そこで,出会いはどういう経緯であろうが,リエゾン精神科医の前にやってきた精神科的介入が必要な身体疾患患者やその家族へのカウンセリングについて述べる.

カウンセリング機能とソーシャルワーカーの役割

著者: 笹岡眞弓

ページ範囲:P.279 - P.282

 今や「カウンセリング」の言葉は巷にあふれ,「癒し系」は時代のキーワードの一つになった.「心のケア」も高齢化の只中にあるわが国の社会にとって,欠かせない学際的な領域になりつつある.ましてや病をえた時,人が「心理的なサポート」を求めるのは極めて自然な行為であり,時代から説明する必要もないことである.その上,世の趨勢は病院にそのような機能を求めることを,当然のこととして認知しつつある.

 ここで言う「そのような機能」がどのレベルを指しているのかについては,提供する側も提供される側も,個人によって,また状況によって様々であろう.カウンセリングのレベルも,精神療法から心理療法そのもの,あるいは表に示すソーシャルワーカーの役割の一つであるカウンセラーとして行うもの,さらにはカウンセリングマインドを持った行為全般を指すものなど多岐にわたる.

 本稿では,ソーシャルワーカーが行う「心理社会的(psychosocial)」サポートを,カウンセリング機能として述べていきたい.

 医療ソーシャルワーカー(medical social worker;MSW,現在では在宅支援センターと兼ねる者も多数おり,むしろ単にソーシャルワーカーと呼ぶことが多い)はいまだに全国に1万人弱しか存在せず,したがって配置率は1%を切っている.ようやくソーシャルワーカーを置く国立病院が増えてきつつある.地域によって,病院によって期待される役割は様々だが,本来病院におけるカウンセリング機能をもっぱら担ってきたのは,ソーシャルワーカーだったという自負はある.そこで本稿においては,簡単に歴史を振り返り,昨年改訂された「医療ソーシャルワーカー業務指針」を参考に,その仕事の実態に触れ,ソーシャルワーカーの行う「変わらないものへの変更を促さない支援」におけるカウンセリング技術の必要性について整理する.

病院における臨床心理士の癒しのはたらき

著者: 菊池浩光

ページ範囲:P.283 - P.288

 受療者の心理的・社会的サポートは,決して新しいニーズではない.ずっと存在していながら,近代科学を背景にした医学では問題の外に置かれてきたものである.

 そもそも人間同士のコミュニケーションの営みである医療現場で,個性と個性の関係を断ち切って考えたり,多面性を抱いた人間の治療に当たって,身体,心,社会の関係を断ち切ること自体に無理があると思うのだが,身体のみに注目し,機械的,操作的に受療者を扱ってしまう言葉や態度は,今も無自覚に医療者から発せられている.

 受療者が医療者に対して感じてきた怒りと悲しみというのは,まさにこの部分ではなかっただろうか.名前(個性)を持った個人としてではなく,客観化され無名化されモノとして扱われることへの怒り,反発したくても専門家の前では屈服せざるを得ない悔しさ.こういった医原性の葛藤を,癒す側が与えていたという場面が少なからずあったことは否めないだろう.しかもこのようなコミットメントに,医療者自身はなかなか気づけないものだ.

 病院は身体的,心理的,社会的,そして霊的な痛みが集約されたステーションのような場所である.それゆえ病院は,癒しを最たる使命としてきた公共機関であるわけだが,「受療者の癒しのニーズを中心においた医療サービスの提供」という観点に立った時には,スタッフ,システム,そして医療風土の課題が山ほどあるように思える.

 本稿では,その一端ではあるが,まだ数としては少ない病院における臨床心理士の取り組みの現状を報告し,臨床心理士による癒しの機能の可能性について考えていきたい.

アメリカの病院におけるカウンセリング機能

著者: 篠田知子 ,   金井菜穂子

ページ範囲:P.289 - P.295

 病院におけるカウンセリング機能は,近年その重要性が高まっている.その背景には,疾患構造の変化や高齢化により,「病気」の概念が身体的なものだけではなくより広い視点でとらえられるべきものに変容してきているということがある.実際WHO(世界保健機関)はその憲章前文の中で,「健康とは,身体的にも精神的にも社会的にも完全に良好な状態をいい,単に疾患にかかっていないとか虚弱でないということではない」と定義している.これらの変化に伴って,必要とされる医療の性質,そして病院に期待される役割も変わりつつある.

 医療現場において,カウンセリングという言葉は様々な場面で様々な使われ方をしている(注1).本稿では,カウンセリング機能を患者や家族に対する「心理的・社会的サポート」として広義にとらえることにし,以下の三つに分けて,検討していきたい.

 ①相談に対するアドバイス

 疾患,入院,社会復帰などに伴う患者の疑問に対し具体的なアドバイスを行うこと.

 ②不安などへの心理的・感情的サポート

 困難な状況に直面している患者の不安,悲嘆や不満感情などを傾聴し,共感的に理解して心理的・感情的サポートを提供すること.

 ③心理・精神療法

 心理的な問題を抱える患者に対し,心の中で何が起きているかの理解を促すことで症状を緩和し,必要に応じて人格の深い部分での変化を目的とする.

患者・家族への心理的・社会的サポート

アドボカシー室の設置

著者: 鶴田正敏

ページ範囲:P.296 - P.299

アドボカシー室設置の趣旨

 七沢リハビリテーション病院脳血管センターでは,「患者の立場に立った医療を実践する」という病院理念に基づき,患者・家族の苦情・提言などを真摯に受け止め,患者の「人権と権利,利益の擁護」の視点から適切に対応することによって,患者・家族に良質かつ適切な医療を提供することを目的に平成13年4月,アドボカシー室が設置された.

 本来,サービスを受ける患者・家族の声は,病院や職員に対する率直な評価であり示唆であるはずである.その声を真正面から受け止め誠実に対応することは,患者・家族と病院の間の信頼感を高め,かつ医療の質の向上にもつながる.さらに,患者・家族は病院側に苦情や提言を言いたくても医療上不利益を被るかもしれないと我慢してしまうことが多い現実もまた否めない.

 こうした背景から,当院では病院を守るスタンスとしての相談窓口ではなく,彼らの視点で迅速かつ適切な解決を促進するシステムの必要性を強く認識し,患者・家族の立場を守るスタンスの相談窓口を設けた.

遺伝カウンセリング室における患者・家族へのサポート

著者: 近藤達郎 ,   石丸忠之

ページ範囲:P.300 - P.303

 分子遺伝学の進歩などによる診断技術や医療技術の向上が,逆に遺伝性疾患患者・家族が自己決定を強いられる場面や,生命倫理的な諸問題に遭遇する機会を増やしているのは事実であろう.このような方々の精神的負担を軽減する目的で,長崎大学医学部附属病院に遺伝カウンセリング室が,平成12年4月24日に開設された1~9).長崎県は厚生省(現厚生労働省)が平成11年より打ち出した「遺伝相談モデル事業」に呼応し,保健所・保健センターや各市町村の保健師の方々との連携の下,県単位で保健所―市町村と当遺伝カウンセリング室との連絡網としてのシステムを作り上げた.本稿においては当遺伝カウンセリング室の活動内容を報告し,われわれがどのように患者・家族に接しているかを紹介する.

ホスピスにおける心理的・社会的支援への取り組み

著者: 高野和也

ページ範囲:P.304 - P.307

ソーシャルワーカーの業務とその目的

 ピースハウス病院は22ベッドの病院で,すべてのベッドをホスピスケアに当てている.このようなホスピスの形態は独立型(free standing)と呼ばれ,当院は国内初の独立型ホスピスである.本稿では,ホスピスにおける心理的・社会的支援への取り組みについて,ソーシャルワーカーの立場から紹介したい.

 当院におけるソーシャルワーカーの主な業務は,ホスピスケアについての問い合わせや相談への対応である.当院に入院するにはどうしたらよいか,という問い合わせをはじめ,ホスピスケアについて知りたい,ホスピスを勧められたので電話してみた,患者にどのように病気のことを伝えたらよいか,身内ががんと診断されてどうしたらよいかわからない,などという相談に応じている.

 このような相談窓口をソーシャルワーカーが担当している主な理由は,ソーシャルワーカーが持つ視点にある.ソーシャルワーカーは,患者・家族が望む生活や人生を実現するためには,誰に相談し,どのようなサービスを活用したらよいか,という見方をする.この業務の主な目的は,当院の入院基準に当てはまる患者を選別したり,入院の手続きについて説明することではなく,患者・家族が現在困っていることについて相談に乗ったり,患者・家族が今後の生活をどこで誰とどのように送りたいのかに応じて必要な配慮をすることである.あくまでも患者・家族の希望が主体であり,患者・家族のニーズを当院のケアだけで満たすことができない場合は,院外のサービスを患者・家族に紹介している.

 ソーシャルワーカーはこのような相談業務を電話や面談,電子メールで行っている.窓口はソーシャルワーカーであるが,相談業務は医師やナース,その他の職種との共同作業であることはいうまでもない.

特別寄稿

21世紀初頭の医療改革と民間病院の役割―幻想の「抜本改革」から着実な部分改革と自己改革へ(後編)

著者: 二木立

ページ範囲:P.308 - P.312

医療者自身が取り組むべき,自己改革と制度の部分改革―私の価値判断1,4)

 最後に,第3のシナリオ(公的医療費の総枠拡大)実現のための医療者の自己改革と制度の部分改革について,私の価値判断とその根拠を述べる.私は,個々の医療機関レベルでの自己改革と,個々の医療機関の枠を超えたより大きな改革とに区別して,改革を提起している.

 1.個々の医療機関レベルでの3つの自己改革

 まず,個々の医療機関レベルの自己改革として,①個々の医療機関の役割の明確化,②医療・経営両方の効率化と標準化,③他の保健・医療・福祉施設とのネットワーク形成,または保健・医療・福祉複合体化の3つが必要である.

イギリス・ブレア政権の高齢者介護・福祉政策(下)

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.313 - P.315

 前号では,イギリスにおける高齢者介護・福祉政策の大きな流れを見るために,保守党によるコミュニティ・ケア改革,その後登場したブレア政権の「第三の道」の特徴やそれを具体化した「現代化」と称する新しい公共サービス・マネジメント(new public management)について紹介した.

 今回は,高齢者分野を中心とする介護・福祉政策のより具体的な問題点や改革の取り組みと,それらから得られるわが国への示唆を考察したい.

日本版「診断群分類」―医療現場の視点から・1

著者: 桑原一彰 ,   松田晋哉 ,   今中雄一 ,   伏見清秀 ,   橋本英樹 ,   石川光一 ,   掘口裕正 ,   阿南誠 ,   佐々木徳明 ,   上田京子

ページ範囲:P.316 - P.319

 急速な人口高齢化と医療技術革新によるコスト増大などで,日本の医療保険制度は財政的難局にある.また各方面でのいかに効率的資源配分を行うかの議論は日々紙面をにぎわしており,医療の分野も避けては通れないであろう.しかし現実にはどのような病院で,どのような医療行為が行われ,どのようなコストでどのような臨床アウトカムが行われているかの医療の質の評価,効率性評価,医療行為に基づく病院管理評価などのための客観的なデータが欠乏している.これはひとえに臨床情報,財務情報管理のための標準的フレームワークと,それによる継続的な評価体制がないためである.

 一方,現在,日本の入院医療の問題点が指摘されている.欧米に対して長い平均在院日数,病院機能の未分化(急性期,慢性期医療のあり方,病診連携など),不十分な施設環境(狭い,汚い,暗い),医療費における地域格差,施設間格差などである.これらの問題を説明・解決するために,客観的評価のための情報が必要である.

レポート

千葉県ドクターヘリ活用の実績と展望

著者: 益子邦洋 ,   松本尚

ページ範囲:P.321 - P.325

 ドクターヘリとは,救急医療機器を機内に装備して基地病院に配備され,医療機関や消防機関からの要請に基づき,医師・看護師などが搭乗して救急現場に向かい,現地でプレホスピタルケアを実施し,状況により医療施設・設備の整った高度救急医療機関へ搬送するためのヘリコプターと定義されている1).厚生労働省は,東海大学と川崎医科大学における試行的事業の成果を踏まえ2),平成13年度からドクターヘリ事業を本格的にスタートさせた.

 千葉県では平成13年10月より,岡山県,静岡県に続く3か所目のドクターヘリ事業を,日本医科大学付属千葉北総病院(以下,北総病院)を基地病院として開始した.本稿では,千葉県ドクターヘリ導入の経緯,千葉県ドクターヘリ運用の概要と実績,課題と将来展望について述べる.

連載 病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・28

アウトソーシング

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.326 - P.327

外部委託業務の拡大

 「病院のご意見箱に寄せられた患者さんの意見を集計してみたら,掃除,食事,いわゆる接遇の苦情で7割以上.でも,掃除も,食事も,窓口業務もすべて外注.看護や医師に対する苦情であれば,直ちに対応することができるが,外注業者に対しては,どうしたらよいのか」

 あるDONのぼやきである.多くの病院では,看護部門が掃除や食事といった業務に直接・間接に関与しているが,すべて外部に業務委託し,その管理は事務部門に委ねられており,DONが直接関与していないという病院もある.特に,公立病院の業務委託は,あまり感心できない.特に,清掃業者や給食業者への委託契約は,価格による入札方式で,価格が安く質が高いということも,価格が高いから質が高いだろうということもあり得ない.しかし,病院の清掃業務は,院内感染とも関係する重要な業務である.

事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・13

「質向上」運動へ

著者: 冨田信也

ページ範囲:P.328 - P.329

医療の質の向上

 はじめに,医療の質の向上では,医療従事者一人ひとりがその職場で,質を高く保ちながら働く時間を持つことである.そして,医療サービスの消費者である医療を受ける患者・家族の側の理解,納得,満足の状態(時間)を確認できることが不可欠である.医療は医療者と医療を受ける側の双方向のパートナーシップから成り立っていることを考えると,はじめに医療サービスの消費者は何を求めているか,望んでいるか,その理解なくして医療の質の向上はない.

 私たちは2000年9月,医療の「質の向上委員会」を設けて,質向上運動を組織の内外に創り出そうとしてきた.同委員会は,医療の質を定義して「必要な医療が適切に得られること」とした.その適切とは何かということである.医療の第一線現場では日々,この適切さを具体的に目に見える形に置き換えていかねばならない.そして医療者の側から考える適切と,医療を受ける側から考える適切が,双方向のコミュニケーションの中でバランスを取らねばならない.そのバランスが,医療の「常識」として広く地域社会の中に定着して維持されねばならない.

施設管理・7

防犯のためのファシリティマネジメント(1)

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.330 - P.332

 大阪府堺市の病院で元患者が看護師の腹部に拳銃を発砲,さらに医師の右胸を包丁で刺し,自らも頸部を切って自殺を図るという事件が平成15年2月下旬に発生した.報道によれば,この元患者は平成15年1月まで同病院に入院していたが,院内のガスコンロで焼肉をするなどしたため強制的に退院させられた.この後病状が悪化し,同病院への再入院,他院への転院,転院先への紹介状の有無などのトラブルが重なってこの事件に至ったとのことである.

 このように,わが国においても近年は,人命を救うことが使命であるはずの医療施設内において拳銃発砲事件が起きるようになってきた.かつてはこの種の事件は,映画のスクリーン内のことと思っていたが,世の中の経済事情も反映してか,いつまでも他人事と考えてはいられない状況になっている.

 以上を踏まえ,今回は病院内で発生する犯罪というテーマで,米国の調査報告(IAHSS1),実例に基づく防犯のヒント),わが国の調査報告などを中心に述べてみたい.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・1

セラチアによる院内感染事例

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.334 - P.335

 筆者は2000年から2001年にかけて,本誌に「事例による医療監視・指導」を連載し,医療法に基づく立入検査の事例などをご紹介いたしました.その最終回でも触れたのですが,医療法では医療について「生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし,医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき,および医療を受ける者の心身の状況に応じて行われる」と規定しており,医療監視はこの理念を実現すべく,医療の担い手と医療を受ける側との間で信頼関係が形作られ,良質かつ適切な医療が提供されることを目的として行われています.

 連載終了後も読者の方からいろいろご質問をいただくこともあり,また連載終了直後の2002年には東京都内でセラチアによる院内感染が発生し,入院患者が何人か生命を落とされるという事件もありました.それを受けて東京都衛生局(現健康局)では特別区保健所,東京都保健所と協力して都内全病院を対象として院内感染予防を目的とした緊急の立入検査を行いましたが,セラチアによる院内感染については前回の連載の中でも注意を喚起していただけに筆者としても残念でなりません.

 現在,筆者は保健所に勤務しておりますが,全国保健所長会の設置した医療監視に関する研究班において,医療法に基づく立入検査のあり方についての検討をお手伝いさせていただいております.今回読者の方からのご要望もあり,また本誌編集部のご配慮により再度連載の機会をいただきましたので,医療監視の実例をご紹介しながら,院内感染,医療事故の予防などについて述べさせていただきたいと思っています.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・1

病院ボランティア調査の動機とSMILEの活動について

著者: 安達正時

ページ範囲:P.336 - P.338

 本連載では,2001年にボストン,2002年にロンドンの病院ボランティアとそれにかかわる施設の取材から発見したこと,そして私たちが佐賀医科大学附属病院で行っている「SMILE(Saga Medical Inpatient Life Entertainment)」というボランティア活動について報告させていただきます.

 学生の目から見たものですので,浅はかなものも多いと思いますが,学生ボランティアという立場からだから見えるものがあればと願いながら調査を続けてきました.学生の体験記としてお読みいただけましたら幸いです.また,不備な点などありましたら,どうかご指導いただけましたら幸いです.

 海外で発見したことは,どれも刺激的なものでした.発見した幾つかのことは,実際に私たちの活動に早速フィードバックして挑戦してみたりもしました.そんなことも交えながら,ご紹介させていただければと思っております.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第102回

病院の「成長と変化」の検証

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.339 - P.343

 一昨年の米国における同時多発テロの影響を考慮し,日本医療福祉建築協会の第23回海外医療福祉建築視察旅行(2002年10月5日~19日)は欧州を中心に,わが国の病院建築関係者の間で枕詞的に語られるまでになった「成長と変化」に対応した病院建築の生みの親である英国と,そんなことにはお構いなしのフィンランド(歴史的病院建築)に絞ったものであった.折しもわが国の低成長経済状況下において,病院建築関係業界・学界がこれまで歩んできた道を再確認する意味で,むしろ貴重な機会が得られたと考えた結果である.本稿では特に各施設の「成長と変化」の様態について概観し,その検証を試みたい.

Vaasa Central Hospital

 Vaasa Central Hospital は,フィンランド西海岸のVaasa医療地区(17市町村・地区人口167,000人)を受け持つ3病院の一つで,当該地区の半数以上に医療サービスを提供している.敷地内に建つ建物は分棟配置であり,地下通路(トレンチ)により人や物の動線,エネルギーの供給が確保されている.見学したのは,主として配置図(図1)中のA~F・T棟である.最も古い建物であるK棟(口腔外科診療棟)は1902年の竣工であり,100年以上にわたって診療を続けている427床の地域中核病院である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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