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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

特集 特定療養費制度の拡大と病院の対応

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.533 - P.533

 わが国の国民は自らの生活水準に見合った医療を得ているのであろうか.日本の医療は1945 年の敗戦後,“貧困からの救済”という基本理念の下に,いつでも,どこでも,誰でもが同じ価格で同じ水準の医療を受けられるというアクセス,いわゆる医療の受けやすさを高めることを主眼として国民皆保険制度を達成し,社会保険医療の普及を図ってきた.その間,国家の経済力は一時的に飛躍的に高まり,その後,今日のようにデフレ経済が進行中である.国民生活自体も,画一的なものから多少の多様性をもち始めている.社会保険への新医療技術の収載は,手技,薬剤,検査など,時期的な遅れや手続きの煩雑さに対する問題点も多く指摘されてきた.現在は国家,地方財政の悪化も影響し,保険財政的に社会保険医療の今後の展望は不透明である.中央・地方政府の債券発行残高を含めれば,国民負担率は既に国民所得の50%を優に超えていると指摘されている.

 今日の医療提供体制は,それを担う原価とそれに対する支払いに大きな乖離を見ている.また,国民が期待する医療と社会保険で給付される医療にも,内容として差が生じている.これらの差を埋めるための社会保険制度の仕組みが特定療養費制度である.療養環境,診察の選択,高度先進医療などが対象になっているが,前述の差を埋めきれてはいない.それに対し,自由診療は一切社会保険から離れ,衛生法規的にも内容に関する学術的検証は不要であり,有効性や安全性は全く関知されていないのが現状である.これらの間に存在するものが混合診療という考え方であり,保険と自費を併用し,かつ行政から利用者と医師の裁量を大幅に委ねられるものである.医療そのものの枠を拡大し,技術革新にも寄与し,社会経済全体に対しても貢献できる潜在力をもっているのではないか.

特定療養費制度の現状とこれからの課題

著者: 武田俊彦

ページ範囲:P.534 - P.539

わが国の医療保障制度と特定療養費導入の基本的考え方

 公的医療保障制度においては,国としてどのような医療を国民に保障するか,という考え方の違いを反映して,給付の範囲や患者負担のあり方が国により異なっている.民間保険を中心として,高齢者や低所得者などに限って公的医療保障制度を提供するアメリカでは,給付の範囲についても様々な制限がある.また,英国のように国営の医療を基本とする国もあり,医療の保障範囲も広く考えられている.

 技術的には,保険商品としては,給付内容と保険料負担の水準に応じて様々な保険設計が可能であるが,公的医療保険として制度化される場合には,その国の社会保障のあり方や医療のあり方を反映して,民間の保険商品とはその性格を異にした設計が行われることはいうまでもない.

混合診療と特定療養費制度

著者: 開原成允 ,   大西正利 ,   高橋泰

ページ範囲:P.540 - P.543

混合診療にも様々なものがある

 日本では「混合診療」という言葉が政策論争の中で使われるようになったために,「混合診療」に賛成か反対かというような議論になりがちである.しかし「混合診療」にもいろいろなものがあり,まず事実を分析したうえで議論する必要がある.

 「混合診療」というと保険外でどのような医療行為も勝手にやってよいというように解釈されることがあるが,医療行為の医学的妥当性については後に論じることとして,ここでは「混合診療」を単純に「保険診療と保険外診療をいっしょに行う」ことと定義して,その必要が出てくるのはどのような場合かをまず考えてみよう.以下に例を多く述べてあるが,これは特殊なものではなく,理解を助けるために現実に起こる例を挙げてある.

混合診療と特定療養費制度

著者: 二木立

ページ範囲:P.544 - P.549

特定療養費制度の「功罪」から「拡大」へ

 筆者が本誌に特定療養費制度についての小論「特定療養費制度の本当のねらい」を発表したのは8年前の54巻5号(1995年5月号)で,その時の特集名は「特定療養費制度の功罪」だった1).それに対して,今回の特集名は「特定療養費制度の拡大と病院の対応」である.今回は,この制度の是非は問わず,その「拡大」をいわば規定の事実としたうえで,それへの個々の病院の「対応」を検討することが編集意図なのであろう.

 この8年間に公的医療費の抑制圧力と病院経営の困難がはるかに強まったことを考えると,特定療養費制度を拡大することにより病院の医業収益を増やす戦略は,一見現実的選択にみえる.現に,日本病院会「会員への意識調査・集計結果」(2001年12月)では,「混合診療または特定療養費制度の拡大に賛成」が87%にも達していた.しかし筆者は,この戦略は,高所得層の患者を吸引できる一部のブランド病院を除けば,成功しないと判断している.

 小論では,まず一般には混同されやすい混合診療と特定療養費制度の異同について触れた後,混合診療の全面的解禁があり得ない根拠を示す.次に,特定療養費制度の拡大の方向を予測したうえで,それにより公私の医療費総額や医業収益の大幅増加は望めない四つの根拠を示す.最後に,筆者自身の特定療養費制度についての価値判断を述べる.

病院経営における特定療養費制度―東京都23区内の病院の立場より

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.550 - P.553

 平成14年診療報酬改定は,かつて経験したことのないマイナス改定であった.マイナス2.7%といわれていたが,それは診療報酬単価での話であり,医療費全体のマイナス幅はこれを大きく上回ると思われる.

 まず,平成14年4月からの薬剤投与期間の自由化は明らかに外来受診回数を減らした.多くの医療機関では,処方期間が2週間処方から4週間処方もしくはそれ以上に延長されたと予想される.寿康会病院では,延べ外来患者数は前年対比約5%減った.

 さらに同年10月からの老人医療費自己負担定率化は受診抑制を生じ,同時に行われた外来総合診療料の廃止は,中小病院および内科系診療所の収入を激減させている.当院では内科外来単価が約15%減り,全体では3.5%程度の収入減となった.

 一方,同年10月からは,長期入院に特定療養費制度が導入された.これは除外規定に当てはまらない180日を超えた入院の場合,入院基本料などを特定療養費化し,自己負担率を5%から15%へと増やしていくものである.

 この診療報酬改定に利用された特定療養費制度とはどのようなもので,病院経営にどのような影響を与えているのか.また今後,特定療養費はどのようになっていくのであろうか.病院協会の経営調査結果などを踏まえ,東京都23区内で病院を運営している立場から考察する.

【てい談】わが国で得られない医療について

著者: 渥美和彦 ,   大竹美喜 ,   河北博文

ページ範囲:P.554 - P.561

 河北(司会) 本日は「わが国で得られない医療について」というテーマでお話いただきたいと思います.どの時代であっても,あるいはどこの国であっても必ず必要とされるものだということが,医療の公共性を証明することになると思います.ただ,公共的だからといって官がすべてを独占する必要があるかについては,私はいつも疑問に思っています.医療は公平でなければいけないとよくいわれますが,私は公平という言葉を,違いを認めないという立場に立って,すべて一律に同じであるはずだというように定義づけています.それから,違いがあるからそれを適正に正しく評価して,その評価の結果に対して適切に対応するのが公正という言葉だと思っています.

 そこで,日本の医療はすべて同じなのかというと,いろいろな違いがあります.この違いを認めたうえで,国民一人ひとりが選択できなければいけないと思いますが,まず,わが国の医療は国際水準に達しているのかについてお話し合いいただきたいと思います.

特定療養費制度の拡大と病院の対応

特定療養費をめぐる患者様との接点の現状

著者: 立花直明

ページ範囲:P.562 - P.564

聖路加国際病院の概要

 聖路加国際病院は,1902年にアメリカ人の宣教医師ルドルフ・トイスラー博士により東京の中心部中央区に創設され,昨年100周年を迎えた.1992年には地上10階,地下2階の新病院をオープンさせ,小児病棟の一部を除き全室個室とするなど,21世紀の新しい病院の姿の具現に努めた.1日の外来患者数は約2,500人,病床数は520床,平均在院日数は11.3日と短く,救命救急センターによる第3次救急医療への対応を含め都市部の急性期医療提供の役割を担っている.

当院における特定療養費の算定状況

 現在,当院では,特定療養費として,初診時の特定療養費および特別の療養環境の提供(室料差額)を算定している.

病院のあり方と経営改善に向けて

著者: 中西昌美

ページ範囲:P.565 - P.567

 当院は,北の原野に開拓の斧が響き始めたばかりの明治2年,北海道開拓使により設立され,その後,県立,府立,区立などの変遷を経て,大正11年の市制施行に伴い市立札幌病院となった.創立以来130年余にわたり,北海道における医療の進歩とともに歩み,札幌市民はもとより広く北海道民の医療の担い手として,今日に至っている.

 人口180万人を超える道都,札幌市には,当院の他,高度医療研究機関や医師養成機関である二つの大学附属病院をはじめ,多くの高度専門医療機関が立地し,高度・先進的な医療を提供しているが,札幌圏では基準病床数が29,084床ながら,6,220床の過剰病床となっているなど,全国有数の医療稠密地域でもある.

 当院は,研究機関レベルの最先端医療を市民や道民に提供することにより確固たる地位を築いてきたが,これも歴代の院長をはじめとする職員が様々な困難に直面しつつも,一丸となって地域医療に取り組んできた賜物である.行政的医療についても,第3次救急は言うに及ばず,未熟児医療や周産期医療の充実に努め,今後はこれらを含め少子化対策医療として展開し,子どもたちを健やかに育むことに医療面から力を尽くさなければならないものと考えている.

病院新築移転を機会に差額ベッド料の活用で入院環境整備

著者: 佐藤眞杉

ページ範囲:P.568 - P.571

180日超入院料の特定療養費化は患者と病院経営を圧迫

 わが国の現物給付による国民皆保険制度は,平均的に良質な医療を,極めて良好なアクセスの下に,安価に提供している点で世界に類をみない優れた制度といえる.

 医療財源の切迫とともにむりとむだ,制度疲労などが強く指摘され,さらに患者自己負担が増大して保険原理の維持が危うくなってきたとはいえ,数多くの調整を加えながら継続されてきた.特定療養費制度もそのような調整の役割を担った.

 しかし改めて「特定療養費制度の拡大と病院の対応」と問われる時,200床未満病院が対応できるものはさして多くない.

 また,特定療養費制度は本来患者の選択によるものであったが,180日超入院患者の入院料の一部の特定療養費化は,この原則を逸脱している.これは患者だけでなく一部の病院の経営を深刻に圧迫するものである.

 高度医療や患者ニーズの多様化に対応する手段として混合診療の導入は行うべきでなく,特定療養費制度の拡大はやむを得ないが,諮意的に行われるのは困る.

グラフ

―数少ないISO9001取得病院―患者が「やすらぎ」を感じられる病院を目指して―社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会吹田病院

ページ範囲:P.521 - P.526

 大阪府済生会吹田病院は,阪急相川駅から徒歩約8分,JR吹田駅から徒歩約20分の距離にある.人口約100万人の豊能二次医療圏の二次救急医療機関である.

5年前に新築移転

 終戦直後の1945年, 吹田町役場跡に開設された診療所が始まりで, 1977年には病床数500の大阪北部有数の医療機関に発展した. 建物の狭隘, 老朽化を解消するために1998年に現在地に新築移転した.

特別寄稿

CRM(Crew Resource Management)の医療分野への応用について

著者: 相馬孝博

ページ範囲:P.574 - P.577

定義と歴史的展開

 Crew Resource Management(直訳すれば「乗務員資源管理」,以下CRM)とは,航空分野において,安全で効率的な運航を達成するため,限られた利用可能なすべての資源(人員・手順・装備など)を効率的に活用する,統合的マネジメント手法である(図).

 1973年,航空機墜落事故で人間の過誤が果たす役割について,NASA(National Aeronautics and Space Administration:米国航空宇宙局)は,ヒューマンファクター*) にかかわる調査研究結果を公表し,乗務員間のリーダーシップ・人間関係・コミュニケーションにかかわる訓練が,事故に関与するヒューマンエラーの防止に有効であることを示した.そこで,人間関係や操縦室の管理をより効果的に行うため,従来の訓練プログラムの再評価が行われ,知識(knowledge)・態度(attitude) ・技術(skill)の各側面から検討が加えられ,1978年には,LOFT(Line-Oriented Flight Training,後述)プログラムが開発され,1979年にはCockpit(コックピット,操縦室)Resource Management ワークショップが開催された.CRM訓練は,乗務員を技術的に熟達した個人の集合としてではなく,一つの完全なチームとして機能することに焦点を合わせているので,当初は,「専制君主的」な性格を持つパイロットの再教育に有効性を発揮した.その後,CRMの技術は,操縦室内にとどまらず乗務員全体に求められることになり,その内容には,職務配分と責任分担,優先順位付け,モニタリングと照合,情報の使用,問題評価と先入観の回避,コミュニケーション,リーダーシップなどの項目が挙げられた.

特別企画 第4回フォーラム医療の改善活動(2002年11月10日)より・2

―パネルディスカッション―安全な医療を目指して―質・安全の取り組みのこれまでとこれから・1

著者: 飯塚悦功 ,   新木一弘 ,   三宅祥三

ページ範囲:P.578 - P.582

「医療の質」への取り組みの原則―はじめに

<司会>飯塚 悦功 東京大学大学院工学系研究科教授

 今,医療安全を契機に,医療の質が問われています.安全の確保のために産業界の知見を利用しようとしています.質の維持と向上のために産業界の方法に学ぼうとしています.例えば,品質第一,顧客満足(患者満足),システム志向,プロセス管理,標準化,全員参加,事故分析,問題解決,継続的改善などです.私は,産業界の品質改善活動を側面から支援してきました.産業界の知見のすべてをそのままの形で医療界に適用することは難しいかもしれませんが,その考え方,方法論には多くの教訓があると思っています.

 産業界において「成功する」組織には共通点があります.いわゆる立派な企業には共通点があるのです.それは,その組織が提供している製品・サービスの競争力が高いということです.顧客に提供して対価を得るもとになっているものが競合にひけをとらない,ということです.売るものが一流でなければならないということですから,当たり前のことです.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・16

地域医療支援病院承認へ向けて

著者: 伊藤良則

ページ範囲:P.583 - P.585

背景

 理念からビジョンへという展開過程においてクローズアップされたのが,地域医療支援病院である.地域の医療機関と連携を結び急性期型病院として存続するという東住吉森本病院の理念の実現のためにはぜひとも必要な目標であった.

 地域医療支援病院に着目したのが平成12年の初期であった.当時は経営幹部ですら,どのような病院か話を聞いても,当院とのギャップがあまりにも大きく感じた.特に感想もなかったが,「いつかは必要」という程度の認識であった.

 さて,前号で述べたように,プロジェクト活動の一つとして地域医療支援病院承認が位置づけられて,いよいよ本格的に取り組むことになった.

看護管理=病院のDON・31

ワーキングスペースとOA

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.586 - P.587

スタッフのワーキングスペース

 前回は,管理職のワーキングスペースについて考えたが,今回は,スタッフのワーキングスペースについて考えたい.ここで改めてナースのワーキングスペースを考えてみると,ナースステーション,病室,病棟,病棟の廊下の他,手術室や外来,あるいは訪問看護で訪れる場所など多彩であることがわかる.ただ,職場環境に関しては,基本的な考え方があってしかるべきであろう.

 世界各地の経営品質賞のモデルとなっている米国のマルコム・ボルドリッジ国家品質賞では,1999年にヘルスケア部門と教育部門の経営品質審査基準が設けられた.2003年版ヘルスケア部門の基準では,スタッフ重視の考え方に基づき,スタッフの潜在能力を開発・発揮できるような業務システムをどのように創っているか,スタッフ教育,動機づけをどのように行っているか,また組織スタッフの福祉・満足・動機づけに寄与する職場環境について,以下のような質問事項を設けている.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・4

注射針の二重使用を防ぐ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.588 - P.589

ディスポーザブルの針を滅菌後に再使用

 予防接種について若いお母さんから苦情の電話がありました.ある医療機関で麻疹の予防接種を受けたけれども,その医療機関では予防接種に用いた注射針を使い捨てにせず,2度使っているというのです.

 3歳の児を持つ母親です.通常,麻疹の予防接種は満1歳を過ぎたら,できるだけ早く受けるよう勧められています.このお子さんは熱がでたり,風邪気味だったりして,麻疹の予防接種を受ける機会を逃してしまっていたようです.お彼岸で実家へ里帰りしている時に,お祖母さんから最近,麻疹が流行しているらしいという話を聞き,心配になって,F診療所を受診して,麻疹の予防接種を依頼しました.

医療安全管理の実践・3

医療事故用語の定義

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.590 - P.596

 医療事故を取り扱い,予防するには,まずその対象である「事故とは何かを定義」することと,「実態を把握」することが最初の出発点となる.医療安全院内体制の構築も,このような事故リスクの全般的把握から出発しなければならない.そこで今回は事故をめぐる諸概念や用語の定義を試み,それに基づいて国内外の調査から事故の実態に迫ってみたい.

 事故をめぐる用語の定義は実は簡単ではない.既に英語でも日本語でも様々な言葉が飛び交っており,特に英語を日本語に訳すに当たっても,定訳がない状態である.医療事故に関連する英語はmedical accident,malpractice,mishap,adverse eventなど何十もあり,日本語でも医療事故,医療過誤,ヒヤリハットなど多数の語が存在する(表1).

 そこで今回は用語を三つのグループに分け,第一の用語群は「過誤,事故,訴訟」の三つのイベントをめぐるもの,第二の用語群は「危険,危害,安全」など事故の可能性をめぐるもの,第三の用語群は「危険管理,危機管理,安全管理」などの管理をめぐるものとする.これまで各検討会などで用いられていた定義をメタ分析し,できる限り妥当な定義を試みてみたい.

医療機関のマーケティング戦略─産科の受療行動からみえるもの・3

医療機関の広告・広報が患者(消費者)の産科受療行動に与える影響―広告規制緩和前後の比較

著者: 碇朋子

ページ範囲:P.597 - P.600

 医療機関の広告に対して,2001年(第4次医療法改正)・2002年(平成14年3月19日付け厚生労働省告示第158号「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項」など)と続いた一連の規制緩和は,医療機関が表示できる情報の質・量を劇的に改善した.

 2001年3月の改正では,「ポジティブリスト方式」を堅持したままで,医師の学歴などの個人的情報や保有している医療機器の種類,得意とする診療分野など13項目を広告可能な事項として追加した.この改正では,主に客観評価が可能な事項が規制緩和され,患者が病院を選ぶ判断材料を増やし,病院の経営努力を促すのが政策的な狙いであったとされる.2002年4月には,21項目が規制緩和され,広告可能となった.この2002年の緩和では,前年の緩和の際にも焦点となっていた「専門医の認定」といった項目の緩和の他,手術件数や疾患別患者数といった,より医療内容にかかわる具体的情報もアピール可能となった.そして,これら2001年と2002年の規制緩和は,いずれも医療機関に関する情報の質・量の流通を増大させることによって,患者が医療機関個々の提供サービスの内容をより厳しく吟味したうえで受療する医療機関を決定することを促進し,さらには,医療市場に適正な競争がもたらされて各医療機関のサービスの質や効率が向上することを企図している.

日本版クリニカル・ガバナンスの確立に向けて・2

ニュージーランドにおける医療制度改革とクリニカル・ガバナンス

著者: 藤澤由和

ページ範囲:P.601 - P.604

 近年医療行為やその組織化をめぐって,クリニカル・ガバナンスといった考え方が,イギリスのみならずオーストラリアやニュージーランドにおいても強調されつつある.この考え方が生じてきた背景には,1980年代後半以降の医療制度改革の限界が,医療従事者のみならず政策立案者の間でも強く意識されてきたという点を指摘することができよう.そこで本論においては,クリニカル・ガバナンスといった考え方が求められてきた状況を,ニュージーランドを例に,医療制度改革の流れと関連づけながら検討を行うこととする.

ニュージーランドにおける医療制度と医療制度改革

 ニュージーランドの医療制度は基本的にイギリスの制度を踏襲したものであり,その財源は一般税によって賄われている.また医療サービスの提供に関しては,地域中核病院などの公的病院が二次医療を中心に,ニュージーランド国民および永住権保持者に対して原則無料で医療サービスを提供している.また一次医療に関しては,原則的に一般開業医(general practitioner:以下,GP)らによって提供されるが,そのサービス利用に関しては,基本的に定額負担を求められることとなっている.また専門医による診療を受けるには,事前にGPによる紹介が必要とされ,こうした意味でGPはゲートキーパーの役割を担っているといえる.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・4

ボランティア・コーディネータ(2)

著者: 安達正時

ページ範囲:P.605 - P.607

ボランティアとスタッフの間をつなぐコーディネータ

 Association for the Care of Children's Health が出版しているボランティア・コーディネータのための本に,ボランティアと病院スタッフに向けた Box 1 のようなクイズがありました1).実は,ここに挙げられた問いの答えはすべて×なのだそうです.どれもよく考えると,確かになるほどといいたくなりますが,こういったボランティアについての認識上の隔たりがアメリカでも問題となっているとは新鮮に感じられました.

 前回触れたように,アメリカでは病院にボランティア・コーディネータが常勤しています.彼らは,ただボランティアをとりまとめるだけでなく,ボランティアとスタッフ間での認識の違いから生じる問題の解決や,仕事内容の調整にも一役かっていることになります.また,そのためボランティアの教育も欠かせないものになってくるわけなのです.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第105回

東海大学医学部付属八王子病院

著者: 井上智史

ページ範囲:P.608 - P.613

計画の概要

 八王子市を中心とする南多摩医療圏は,病床数は多いものの,その多くは精神病床,療養病床であり,一般病床に関しては東京都平均を下回っている状況にあった.

 八王子市では,かねてから市の中核的役割を果たす病院の誘致に取り組んできたが,東海大学がその要請に応えて,4番目となる付属病院を建設することとした.

 こうした経緯から完成した本施設は,「科学とヒューマニズムの融合」を目指した東海大学医学部創設の精神をもとに,医療を取り巻く社会状況の変化の下で,質が高く,かつ本来の意味でのホスピタリティをもつ「患者本位の医療」を提供する21世紀型の病院とすることを目指した.併せて,大学付属病院として,クリニカル・クラークシップなどの臨床教育を実践する場とすることを目的としている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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