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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

特集 病院のコスト管理

巻頭言

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.629 - P.629

 バブル経済破綻後のわが国経済の低迷,また少子高齢社会への急速な移行は,戦後わが国が築き上げてきた社会保障制度の抜本的な改革を余儀なくしている.近年の経済の低迷に伴う若年層の地方都市より大都市への転出は,平成19(2007)年度以降に生じるわが国人口の減少に社会的な不安を投げ掛けている.社会保障制度をはじめとした種々の改革の断行が行われようとしている.

 国民の身近な年金制度改革,また医療制度改革は最も重要な改革の一つである.昨年4 月に改定された社会保険診療報酬のマイナス改定は,医療界においては衝撃的な出来事であったが,一般国民においてはこの数年間の物価の下落また一般企業におけるリストラ等の社会的な現象より考えれば,当然のことと思われている.今後も医療制度等の改革はますます加速され,国民の医療に対する目は一段と厳しくなることを,まず医療関係者は確認すべきである.

病院におけるコスト管理

著者: 中村彰吾

ページ範囲:P.630 - P.635

健全経営崩壊の序章

 2002年度の診療報酬改定による診療単価の減少と,同年10月の老人医療費の定率負担増,また2003年4月に施行された健康保険本人の1割負担増,介護報酬制度改定による施設介護保険料のダウン影響(シミュレーションでは100床当たり月額の報酬料が200万円のダウンといわれている),さらに追い討ちをかけるようにSARS(重症急性期呼吸症候群)の影響で受診者の来院控えによる外来患者数の減少と,医業収入の確保はさらに困難となっている.

 これらの要因はいわゆる病院の経営基盤である,「診療単価」の減少と「患者数」へ影響を及ぼし,基盤崩壊の兆しが色濃くなっている.聖路加国際病院においては本年5月の連休明けから(実際には7月22日稼働),全面的に電子カルテ・画像のファイリングシステムへ移行するため,混乱を最小限に抑えることを目的に外来患者数の予約制限を図り,病棟ではシステム移行の訓練期間と新人教育のさなかにぶつかり,5月の入院・外来の患者減少は医業収入に多大な減少を与え,2003年度の収入予算を達成できるかが大きな課題となっている.一方,医業費用はカルテの電子化,画像・内視鏡などのファイリングシステムの開発費と,機器の購入などの費用,光LAN 配線設備工事などで多額の投資を行い,さらに新病院オープン後11年目を迎えて,医療機器・設備の更新,来年度からの新医師臨床研修医制度に伴う宿舎の問題,生き残るための新規戦略である予防医療センターの拡大・充実のための移転計画と,跡地利用の改修工事も予定され,収支のバランスが不均衡の年を迎えている.このために,夏期の賞与は前年度の下期の実績評価のため,昨年並みの支給ができたが,今年度冬期賞与については,昨年実績より6万円カットせざるを得ない状況を労働組合との交渉で説明し理解を得た.

 当院はこのような状況であるが,参考のため11病院経営比較検討会(同規模の病院が集い経営の比較検討を11年にわたって継続している)のメンバー病院の入院延患者数増減率と外来1日増減率を調査したものが図1,図2である.

一般企業と病院の原価(cost)の違い

著者: 鈴木裕子

ページ範囲:P.636 - P.640

原価(cost)とは何か

 一般企業と病院の原価(cost)を考えるに当たって,最初に,原価とは何かを整理してみたい.大蔵省企業会計審議会が制定した「原価計算基準」〔昭和37(1962)年11月8日〕では次のように定義されている.

 「原価計算制度において,原価とは,経営における一定の給付にかかわらせて,把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という.)の消費を,貨幣価値的に表わしたものである.」〔原価計算基準 三(一)〕

民間病院におけるコスト管理の問題点―収入管理の経営からコスト管理の経営へ

著者: 松村耕三

ページ範囲:P.641 - P.646

 医療費財源の確保に比較的余裕があった時代においては,出来高払いで支払われる各診療行為には医療機関の循環,再生産が行えるだけの利益が得られる診療報酬が定められていた.

 したがって,一患者当たりの診療単価を高くし,患者数が増えれば医業収入の増加とともに利益も増大するため,医療機関は収入管理を的確に行っていれば,よほどのことがない限り経営が困難になることはなかった.このため医療機関の経営は収入にのみ着目していればよかった.

 この経営手法は,診療報酬の抑制が行われている今日においても一般病床を経営する医療機関の一般的な経営手法として引き継がれている.

 しかし,現在では高度な診療行為を繰り返せば繰り返すほど採算性は低下する傾向にあり,急性期高度医療を行う医療機関ほど経営が難しくなってきている.

 これは,一般医療の診療報酬に包括化が導入されて請求できない診療材料が急速に増加したことと,人的基準に対応する人件費の明確な算定がなされていないことなど,診療報酬体系が急性期高度医療に厳しいことに原因があるが,医療機関の経営体質がこの時代の変化に対応できていないことにも問題がある.

自治体病院におけるコスト管理の問題点

著者: 小山田惠

ページ範囲:P.647 - P.653

 公的病院といわれている病院には,都道府県市町村が設立しているもののほか,厚生労働大臣が定める市町村の組合,国民健康保険連合会,社会福祉恩賜財団済生会,日本赤十字社,厚生農業協同組合連合会,社会福祉法人,北海道社会事業協会などが設立している病院が含まれている.このうち地方公営企業法が適用されている自治体病院では,経営形体が他の病院と全く異なるので,公的病院という総称で論じることはできない.したがって,本稿では自治体病院の経営に限定して執筆する.

 自治体病院は現在全国に1,006あり,経営主体別では都道府県立229,指定都市立34,市立274,町村立330となっている.規模別では300床以上が全体の32.2%,100床以上300床未満が36.6%,100床未満が29.7%であり,それぞれ3分の1を占めているが,開設の経緯,立地条件,診療内容などは病院ごとに様々で,その役割や使命も一様でないのが実状である.ここでは,それぞれに異なる病院事情を敢えて無視し,一括平均的な視点から論ずることをご容赦願いたい.

 現今,自治体病院に対する批判が他方面から上り,税金で建て,税金を払わず,赤字経営で税金を使う,自治体病院は税立病院だといわれるのをよく耳にする.しかし自治体病院全体がそうなのではないことを第一に述べると同時に,一般的に現在抱えている経営上の問題点とその対策についてわれわれがどのように考えているかについて述べることとする.

コスト削減への挑戦

後発医薬品導入

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.654 - P.655

 これまで遅々として進まなかった後発(ジェネリック)医薬品使用推進が,このところ次のステージに踏み込もうとしている.後発医薬品の追い風は病院の経費節減,特定機能病院における診断群別包括支払いの導入,サラリーマン自己負担3割時代の負担軽減,後発医薬品処方による処方料2点加算の新設など,様々な角度から吹いている.本稿では,こうした中で特に後発医薬品導入の病院経費節減効果と病院における後発医薬品導入推進について考えてみることにする.

医療材料購入対策―在庫管理

著者: 高松純 ,   中島康弘

ページ範囲:P.656 - P.658

 病院における医療材料は,大きく分けると二つに区分できる.①医療技術に包括される俗にいう消耗品材料と,②治療行為に使用された医療材料を償還価格に従って請求できる特定治療保険材料である.

 この二種類の医療材料のコスト削減への方法には,①医療材料を安価で購入する方法,②購入した医療材料が適正に使用され適正に請求できるように管理する方法,③すべての医療材料の在庫管理を確実に管理する方法がある.これら三つのポイントをいかに管理し実行するかが重要なことである.これら三点につき聖マリア病院で実行している医療材料管理について紹介する.

医療材料購入対策―石心会グループの取り組み

著者: 東谷顕一

ページ範囲:P.659 - P.661

 近年高度化する医療とともに増加する医療材料費のマネジメントは,病院経営上重要な経営課題となっている.筆者は病院経営改革を支援するコンサルタントとしての立場から,また,実際に経営改革を実現するために必要な情報システム,業務のアウトソーサーとして現場を知る立場から,医療材料コスト管理において先進的な取り組みを行っている石心会グループの例を紹介するとともに,今後の病院経営における医療材料コスト管理のあり方について論じてみたい.

エネルギーの効率化事業

著者: 中田俊充

ページ範囲:P.662 - P.663

 富山市立富山市民病院は,1946年12月に開設され,1983年10月,現在地に移転・新築され,現在に至っている.

 当院は,一般病床570床,精神病床100床,感染症病床6床の計676床を有する富山地区医療圏約50万人の地域中核病院として,質の高い医療を提供するよう医療技術の向上と施設設備の整備などに努めている.

水道光熱費対策

著者: 榊孝夫

ページ範囲:P.664 - P.666

 度重なる診療報酬改定の度に,施設基準の厳格化や算定用件を満たさない場合の減算措置など,規制がよりいっそう強化されている.2002年度の改定は厚生労働省の試算によれば医療費全体でマイナス2.7%の改定になると発表されたものの,実際にはそれを上回るマイナス改定となったことは各種報道より明らかである.中でも以前より厳しい経営環境にあった中小病院においては,その痛手は病院の存亡にかかわる事態となっている.

 診療報酬の増加が期待できない現在,経費削減は利益確保の必須条件であり,「出るを制す」は病院生き残りのキーワードであろう.そこで固定費である一般管理費の中で,人件費についで大きなウエイトを占める水道光熱費の管理はますます重要な経営課題となってきた.

 本稿では,医療法人伯鳳会赤穂中央病院での水道光熱費エネルギー消費量の実態,および,それに関するコスト削減の施策とその結果を,電気,水道,重油,ガスの四項目に分けて報告する.

グラフ

患者のニーズに沿った医療・福祉を提供―医療法人立川メディカルセンター 立川綜合病院, 悠遊健康村病院, 柏崎厚生病院, および関連施設

ページ範囲:P.617 - P.622

 医療法人立川メディカルセンターは,新潟県長岡市および柏崎市に,立川綜合病院,悠遊健康村病院,柏崎厚生病院をはじめ全18施設を有している.立川綜合病院はJR長岡駅から徒歩約10分,長岡インターチェンジから約5分(東京-長岡間は新幹線または高速道路を使用して約2時間)という絶好の立地にある.さらに,3病院はそれぞれ約30分で結ばれる.

特別企画 第4回フォーラム医療の改善活動(2002年11月10日)より・3

―パネルディスカッション―安全な医療を目指して―質・安全の取り組みのこれまでとこれから・2

著者: 嶋森好子 ,   北島政憲 ,   河野龍太郎

ページ範囲:P.668 - P.675

京都大学医学部附属病院における質・安全の取り組みのこれまでとこれから

嶋森 好子 京都大学医学部附属病院看護部長

 私は看護の立場から,安全な医療のために何ができて何が課題となるのか,今後どう取り組めばいいか,簡単に述べさせていただきます.

 1.制度を整えれば体制が整備される

 先ほど新木一弘氏がお話しされた(本誌62巻7号掲載)医療安全対策の報告書は,2001年,2002年と続けて出されています.2001年には事故防止と安全対策が主題とされていましたが,2002年には医療の安全と看護の質の向上が中心になっています.1年の間に大きな変化があったと思います.院内報告制度の義務づけや安全管理体制,安全対策の指針の作成や,研修等の義務づけが2002年10月から実施されました.

 2002年11月に開かれた病院管理学会で,厚生科学研究として井部俊子氏らが行った,安全管理体制の整備状況や安全管理推進者の活動に関する報告がありました.それによると,院内報告制度は97.2%,職員研修は72.8%で実施されており,リスクマネジャーについては専任が11.4%,兼任を合わせると85%で置かれています.つまり制度が整備されれば,それに合わせた体制が整うということを実態として示しています.

連載 病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・32

コスト意識と金銭感覚

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.676 - P.677

ナースのコスト意識

 近代看護は,貧富の差によって看護内容を変更するようなことを禁止し,自由,平等,博愛の精神を基盤として,その科学性を追求してきた.このような看護の姿勢は,「患者になるべく経済的負担を負わせない」とか「医療・看護に必要な費用は社会化すべきである」という考え方を生み出した.

 目の前の患者に対しての看護に集中するという専門性は,看護以外のことに無頓着になりかねない.これまで,医療経済の仕組みや医療経営の体系的な方法論あるいはコスト管理や経営改善という分野は,ナースにとって不得手な分野と考えられてきたように思う.一昔前,多くの院長や事務部長から「看護部にコスト意識を植えつけるにはどうすればよいのか」といった抽象的な質問を受けた.最近は「どうすれば病院のコスト対策ができるか」というストレートな質問が多い.明らかに,前者は意識を,後者は結果を問題としている.

事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・17

地域における急性期病院として,機能特化の課題

著者: 佐合茂樹

ページ範囲:P.678 - P.680

病院の転換期

 医療法人厚生会木沢記念病院は,岐阜県美濃加茂市に位置し,中濃地域を中心とした近郊の2市2郡,人口約20万人を医療圏とする地域の中核病院である.一般病床452床(うち,ICU10床)の急性期型病院であり,標榜診療科は16科,職員数は医師47名,看護師280名,その他職員を含めた職員総数は556名である(平成15年4月現在).昭和28年の病院開設以来,常に地域ニーズを把握して病院機能を充実させてきた経緯があり,病院の歴史は典型的な地方の旧総合病院としての機能拡充と成長の軌跡としてとらえることができる.

 近年,病院運営の鍵を握る視点として「方向性の意思決定」が緊急的な課題として受け止められている.地域の中で自院の機能をどのように特化するかは,まさに事業体としての存亡にかかる重要事項といっても過言ではない.しかし,社会的な趨勢は別として,個々の病院を取り巻く環境は異なっている.人口動態や年齢構造,診療圏内の医療供給体制,建物構造設備,さらには経営者の思い入れといったことも絡んで,方向性の意思決定は第三者が想像する以上に複雑である.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・5

異型輸血の事故例

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.682 - P.683

 数年前に,大学病院で肺疾患の患者と心疾患の患者を取り違えて手術を行う事故が発生し,また公立病院でヘパリン加生理食塩水とヒビテンを間違えて点滴するという事故が発生し,医療事故についての関心が高まりました.リスクマネジメントについての理解も深まり,多くの医療機関で医療事故防止への取り組みがなされています.しかし相変わらず新聞やテレビなどのマスメディアでは医療事故,医療トラブルの報道が続いています.

 医療法では都道府県など地方自治体の責務として「(医療提供の理念に基づき)良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない」と規定しています.医療事故が発生した場合には過失の有無によっては,刑事的責任,民事的責任が,担当医師,医療機関に対して問われることがありますが,それらとは別に医療監視を担当する部署において医療法に基づいて「良質かつ適切な医療が提供される」体制を確保するため,立入検査を実施し,所要の助言,指導を行うことになっています.

医療安全管理の実践・4

事故の実態把握

著者: 長谷川敏彦 ,   藤澤由和 ,   平尾智広

ページ範囲:P.684 - P.690

 医療安全の院内体制を確立し,事故予防対策を進めるにはまず事故に関連する事象の実態を把握する必要がある.なぜならば,前回述べたようにリスクマネジメントとは危険の頻度と重篤度を掛け合わせた影響度を把握し,優先度を決めて介入するものだからである.今回は前回の連載で定義を試みた医療事故に関連する諸概念を用いて,医療事故に関する実態を主として統計を用いて分析してみたい.最後にこれらを統合して,事故をめぐる日本の病院の平均的な姿を描くこととした.

疾病予防の概念を用いた事故予防の考え方

 公衆衛生の疾病予防法としては,1950年代にレベルが疾病の自然史に対応した1次予防「原因から絶つ」,2次予防「早期に発見して進行を予防する」,3次予防「疾病を治療しリハビリテーションを普及することによって障害を予防する」の3段階の予防対策を提唱している.医療事故にこの考えを応用し,それぞれの段階における問題点を浮き彫りにしてみたい.

医療機関のマーケティング戦略─産科の受療行動からみえるもの・4

医療機関インタビュー―ウェブサイトを有効に活用している3事例

著者: 栗原美幸

ページ範囲:P.692 - P.695

はじめに―広告規制緩和後の現状とインタビューに先立って

 2002年までの医療法の改正と広告規制緩和に伴い,医療機関の広報活動,とくにウェブにおいて劇的な変化が起こっている.これまで産院サイトを中心にトラッキングをかけてきたが,中でも確固たる医療方針を持つ産院や,顧客との関係性を重視した取り組みをしている産院に関しては,とりわけ質の高いサイトの改編が認められた.いずれも高度なマーケティング活動,消費者心理の深い理解が感じられ,医療消費者として,またコーポレートレベルのコミュニケーションにかかわる者として非常に興味深い.

 医療機関のウェブにおける広報は,その特性から広告活動とみなされない.したがってウェブは「自由な情報提供・表現の場」として活用され得るし,逆に活用することで,いまだ医療者と医療消費者の間に存在する情報の非対称性の是正が可能である.また,それによって「より質の高い医療サービスの提供」をより早く現実化するポテンシャルを秘めている可能性も高い.

 今回はウェブサイトにおける広報が病院経営に何をもたらすのか,また効果的な広報のために何がキーとなるのか,また卓越したサイトであるためには何が必要なのかを,医療機関,特に産院におけるコミュニケーション活動にフォーカスして,可能性を探ってみたい.

日本版クリニカル・ガバナンスの確立に向けて・3

クリニカル・ガバナンスと医療安全

著者: 橋本廸生

ページ範囲:P.696 - P.699

 安全は提供されるサービスの基本属性である.その安全のレベルが個々の医療場面でばらついていたのでは社会の納得は得られない.しかし,現実には,例えば「術後の管理のレベル」が病院間で,あるいは同一病院の診療科間で格差が厳然として存在し,そのことの是正が忘れられたまま放置されていることがある.安全管理から,管理のレベルの低い部署は高いレベルに引き上げ,院内で均質のサービスが提供されることが要求される.そうしなければ,患者を守ることも個々の医療者を守ることもできない.このような組織的な診療品質管理活動の中心概念として「クリニカル・ガバナンス」を提唱したい.本稿では,まず,病院の機能と安全の関係,クリニカル・ガバナンスの基本的な考え方を整理し,次いで,医療安全管理活動を組織戦略として展開する時の要点を提示することとする.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・5

ボランティア教育の効果と意義

著者: 安達正時

ページ範囲:P.700 - P.702

 ボストンで訪れたボランティア・オフィスでは,ボランティアのための様々なトレーニングが準備されていました.これらのボランティア教育がどのような意味をもっているのかを少し紹介します.

ボランティア・マニュアル

 本誌62巻7号でも触れましたが,ボランティア・オフィスでは,ボランティアのためにアドバイスや病院についてまとめた資料をあらかじめ用意しています.これはそれぞれの病院が,独自に作っているもので,その内容はまちまちですが,実に充実した内容になっています

 多くのマニュアルは,注意事項だけでなく教育的意義をもったものになっています.例えばChildren's Hospitalのボランティア・マニュアルは,大学の先生や病院の医師や全国組織が作っている資料を基にまとめられたものです.子どもの対応の仕方や言葉使い,ベッドや車いすの介助のアドバイスが書かれています.また,障害をもった方とお話しをする際に気をつけたいちょっとした心遣いなども書かれています.これらはオリエンテーションで説明を受けた後,さらに実際に現場での指導を受けます.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第106回

中小規模医療施設2題

著者: 田邊正也 ,   井出共治

ページ範囲:P.704 - P.708

埼玉医科大学 総合周産期母子医療センター

伊藤喜三郎建築研究所建築部長 田邊 正也

 総合周産期母子医療センターは2000年4月に,埼玉医科大学総合医療センター本館西側に開設された.病床数119床の第三次医療施設である.当センターは毛呂山町にある埼玉医科大学附属病院から約1時間離れた川越市にある.

総合周産期母子医療センター開設の経緯

 以前,埼玉県では周産期母子医療の病床不足により救急入院依頼に十分応えられない状況が続いていた.また近年少子化が進む中,リスクの高い妊娠が増え,生まれてくる新生児もハイリスク児が増加しており,出産前後の母体,胎児,新生児を一貫して集中治療,管理することが可能な総合周産期母子医療センターの充実と増床が切望されていた.また,国の政策として総合周産期母子医療センター設置(1か所/100万人)という整備事業が発足し,埼玉県でも,その施設基準に沿ったセンター建設が計画されることとなった.また母子に関する第三次医療機関であることに加え,地域の医療従事者の研修センター,情報センターとしての機能をもつ施設が求められた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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