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雑誌目次

雑誌文献

病院62巻9号

2003年09月発行

雑誌目次

特集 変革を迫られる大学病院

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.725 - P.725

 大学病院を取り巻く環境が急激に変化している.来年に迫った新医師臨床研修制度の運用に向けて多くの臨床研修病院群が出現し,医師の初期研修の場が大学病院から地域にシフトしようとしている.これまで初期臨床研修の75%を引き受けてきた大学病院は,医局講座体制そのものの運営に大きく影響することを見越して対応に追われている.少なからぬ医局は関連病院の見直しを図り,派遣先の病院から医局員を引き戻したりする事例が続いて,医療の現場も大きな影響を受けている.

 一方,特定機能病院で開始されたDPC(diagnosis procedure combination)による定額支払方式が,大学病院の財政基盤や診療のビヘイビアに及ぼす影響も計り知れぬものがある.この方式は,医療機関別に日額定額の支払額が設定される特異な支払方式で運用が開始されたが,診断群ごとの係数や在院期間などの情報が明らかになるにつれ,支払上の新たな条件や統制も見込まれている.大学病院にとって,前年度からの収入増を図ることが困難な支払方式であることから,各診断群の原価を算定して支払額とすることを求める動きもあるといわれる.一般の病院にとっても,急性期医療の支払方式の行方を占ううえでも,今後の成り行きが注目される.

始動する新臨床研修制度と今後の大学病院

著者: 前野哲博

ページ範囲:P.726 - P.730

卒後臨床研修必修化の概要

 1.新医師臨床研修制度

 平成12年に医療法等の一部が改正され,これまでの努力規定に代わって平成16年度より卒後臨床研修が必修化される.法律で規定されている内容のポイントについては表1に示す通りである.当初は研修修了後に保険医の資格を与える案が検討されていたが,最終的には,臨床研修による制限事項は医療機関の開設者になる場合のみとなった.

 したがって,医学部卒業後に基礎医学研究者になるなどの理由で全く臨床に携わらない場合や,将来にわたって勤務医でしか仕事をしない場合は定められた臨床研修を受ける必要はないという解釈も成り立つ.しかし,同級生の多くが研修を受け,修了認定を受けて医籍に登録されていく中であえて研修を受けないことは,将来的に就職や専門医の取得などにおいて圧倒的に不利になる可能性もあることなどから,実際にはほとんどの卒業生が研修を受ける見通しである.

 今回の改正のもう一つの柱は,研修への専念義務である.これにより,生活費を得ることを目的としたアルバイトはできなくなると同時に,研修病院側にも研修医が研修に専念できるような給与の保証が求められることになった.したがって,現在一部の病院(主に大学病院)で行われているような,月額数万円という処遇は認められないことになる.なお,研修医の位置づけについては,学修性と労働性の二つの側面をもつことが明記され,各種労働法規の適用を受けることになった.

DPCによる支払い方式の現状と課題

著者: 梅里良正

ページ範囲:P.731 - P.735

 平成15年4月より,特定機能病院の入院医療費の支払いに,DPC(diagnosis procedure combination)と呼ばれる診断群分類を用いた包括評価が導入された.包括支払い方式は1983年に米国のメディケアの入院医療費の支払いにDRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)が導入されて以来,世界各国で,それぞれに形を変えて採用されている.

 包括評価方式は,基本的には診療内容の違いによらず包括した定額の医療費を支払うもので,出来高払いと反対に,医療行為を抑制するインセンティブが働くとされており,医療費抑制策の一つとして導入が急がれた.その意味では,わが国のこれまでの診療報酬改定においても,検査のまるめなど,いくつかの診療行為を包括した支払い方式は部分的には取り入れられているので,今回も包括する診療行為の範囲が拡大しただけとみえるかもしれないが,DPCによる包括評価は,これまでの部分的なまるめや包括支払いと根本的に異なるものである.また,米国のDRG/PPSとも実は大きく異なっている.

 以下,わが国で導入された本方式の概要を改めて確認するとともに,その意味および課題について論述する.

国立大学附属病院の現状と課題―法人化によってどう変わる

著者: 川渕孝一 ,   侯しゅ

ページ範囲:P.736 - P.742

 平成16年4月から国立大学は,非公務員型の独立行政法人に移行することが決まっている.しかし,その具体的な中味はまだ見えてない.

 平成14年3月26日に出された「新しい“国立大学法人”像について」によれば,大学法人化以降も「附属病院等の教育研究施設については,従来,大学の教育研究活動と不可分な関係にあるものとして位置付けられてきたことを踏まえ,大学に包括されるものとして位置付ける」としている.しかしながら,同報告書では,「大学の施設等のうち,運営の実態や独立採算の可能性等を踏まえ,より柔軟な運営を実現するなどの観点から,特定の施設等を国立大学法人(仮称)から独立させ,別の種類の法人とするとともに,必要に応じて国立大学法人(仮称)がこれらの法人に出資できることとする」ともいっている.

【座談会】大学病院医局講座の今後の行方

著者: 清水信義 ,   隈崎達夫 ,   熊澤光生 ,   大道久

ページ範囲:P.743 - P.750

 大道 最近の大学を取り巻く環境の変化には,大変著しいものがございます.来年度から始まる新医師臨床研修制度に向けて,これまで臨床研修を担ってきた大学病院,あえていうならその医局講座が,その準備のため,様々な取り組みをしているところです.

 一方,診療報酬の支払方式にDPC(diagnosis procedure combination)が導入されました.今日の段階では,病院によっては既にこの方式に乗ったところと,これからというところもある,極めて過渡的な状況にもあります.また,来年度から国立大学が法人化されるということで,病院を含む大学というものの基本的な性格づけが変わると聞いています.

 このような中で,本日は,大学病院のいわゆる医局講座の体制がどう変わっていくのかについてお話いただきたいと思います.

 それではまず,それぞれの病院およびご自身のご紹介を含めまして,大学の医局講座制の現況について,岡山大学医学部附属病院院長の清水信義先生からご紹介をお願いします.

これからの病院の医師の確保と考課

大学病院としての工夫

著者: 安田信彦

ページ範囲:P.751 - P.753

 一般的に,大学の卒業生が企業に雇われると,「就職」したという.しかし,医学部の卒業生または医師が大学に雇われても,「就職」という言葉はあまり使わない.業界用語である「入局」が広く使われている.しかも,それは大学に「入局」するのではなく,講座あるいは医局に「入局」するのである.このことが表すように,講座の独立性が強く,今までは大学病院において,医師の適正配置や横断的診療が困難だった.しかし,最近では大学病院でも医師不足が生じている.これは,大学病院における医療の質の低下につながり,関連病院への医師派遣にも影響を及ぼす.本稿の中で,単科の私立医科大学の立場からこの問題を考えてみたい.

大学病院を取り巻く環境の変化に伴う民間病院への影響について

著者: 藤﨑滋

ページ範囲:P.754 - P.755

 平成16年度から臨床研修制度の改革が行われる.大学講座体制の運営は大きく影響を受け,大学からの派遣にて医師の確保を行ってきた一般の病院にも大きな影響が出ることが予想される.筆者自身が平成15年3月まで大学医局に所属し,過去に約3年間医局長として医局運営の一翼を担ってきた経験と,現在民間病院を運営する立場にあるという両方の側面から私見を述べる.

臨床研修,レジデントの充実がUターンを誘発

著者: 今井昭雄

ページ範囲:P.756 - P.757

新潟市民病院ではどのように医師を採用しているか

 新潟市民病院は病床数724(救命救急センター32床,新生児医療センター30床を含めて一般病床706床+感染症病床18床)の市立病院で,医師126人の内訳は,表の通りである.正規定数内医師のうち69人が当院に赴任しており,残りの16人は勤務が1年以上に及んでいるので正規医師として取り扱っているが,出張派遣人事である.臨時医師は,主に1年以内のいわゆる派遣医師である.16人中13人は新潟大学からの派遣医師であり,3人は他大学医局あるいは他病院から研修に来ているものである.正規医師と臨時医師を合わせた101人中86人(85%)が新潟大学からの人事ということになる.

 このように,圧倒的に新潟大学からの供給を受けていることがわかる.このことは県内の他病院も同じ事情であり,この数字が大きいのか小さいのかは,その地方,その医療機関のもっている性格によるところである.

グラフ

地域全体を一つの病院として―山武医療圏の医療のレベルアップを支える自治体立病院 千葉県立東金病院

ページ範囲:P.713 - P.718

 千葉県立東金病院の所属する山武医療圏は1市8町村からなり,房総半島の九十九里浜沿いのほぼ中央に位置する.医療圏内の人口は約20万人であるが,最近は首都圏へ通うサラリーマン世帯が増え,増加傾向にある.当院は県下で最初の県立病院として1953(昭和23)年に開設されて以来,山武医療圏での地域中核病院の役割を担ってきた.

 最近,当院の「わかしお医療ネットワーク」や「女性専用外来の開設」などの取り組みがマスコミや学会発表などで取り上げられているので,その名に聞き覚えのある読者も多いだろう.今回の取材を通し,それらの試みが,しっかりとしたヒューマンネットワークに支えられ,これからの地域医療の胎動を感じ取ることができた.昨今,取り沙汰されている自治体立病院のあり方を示唆してくれるかもしれない.

特別企画 第4回フォーラム医療の改善活動(2002年11月10日)より・4

―パネルディスカッション―安全な医療を目指して―質・安全の取り組みのこれまでとこれから・3

著者: 大道久 ,   丸木一成

ページ範囲:P.760 - P.763

日本医療機能評価機構の認定病院患者安全推進協議会の活動について

大道 久 財団法人日本医療機能評価機構理事,日本大学医学部医療管理学教室教授

 本日は日本医療機能評価機構の立場でお話しいたします.

 日本医療機能評価機構は,1995年に設立後7年,事業開始後5年経ちました.医療評価の事業化ということで大変難しい時期もありましたが,幸いにしてここ1年半ほど社会的にも関心が高まり,一方で医療安全の問題は極めて深刻,かつ緊急の課題だという認識もあって,多くの病院が受審されるようになりました.

連載 病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・33

喫煙と看護管理

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.764 - P.765

受動喫煙防止措置

 完全禁煙の病院が多くなってきた.少なくとも分煙は,病院の常識になろうとしている.一昔前は「病気の治療を行う場所で,病気の原因になる喫煙が自由なのはおかしい」という程度であったが,当時のアメリカで「喫煙可能」な病院は,筆者の知る限り皆無であった.病院の裏口に灰皿が設置されているが,建物内に煙を入れてはならないと注意されたことを覚えている.レストランは,喫煙できる場所が限られていたり,喫煙できるテーブルは場所が悪いのが当たり前で,ホテルでも「禁煙室」と「喫煙室」があり,もし「禁煙室」で喫煙したら「市条例により罰金を科す」という案内板を見たこともある.いかにもアメリカらしいと思ったものである.

 これに引き替え,わが国では,どこでも自由にたばこが吸えることが当たり前で,なんらかの制限が始まったのは,ここ10年であろう.今では,航空機のすべて,私鉄や,特定の地域・場所が禁煙に指定され,「喫煙者」には肩身の狭い時代だ.ただ,人の健康に悪影響を与えるといわれると,反論できない.

事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・18

急性期病院の連携「保健,医療,福祉の複合体」

著者: 佐合茂樹

ページ範囲:P.766 - P.768

ダウンサイジングと適正病床数

 急性期病院として機能していくためには,地域における連携機能の推進と病床の回転率の向上,特に紹介率向上と平均在院日数短縮が課題であることは,自院の例を紹介して前号で述べた.病院が急性期入院加算を目指して平均在院日数の短縮を図るには,急性期疾患の患者収容,とりわけ検査や手術を必要とする患者収容の比率を増す必要があり,人員も設備もそれに対応できるだけの重装備が必要とされる.言い換えれば,人員の確保と近代的な設備が整わなければ急性期病院を目指すことは難しいということになる.そして今後においても,施設基準としての平均在院日数の条件がさらに短くなることを予測すると,さらに病床回転率の上昇が求められ,以前に増して空床が発生することになる.また,1 病床当たりのスペースの確保や療養環境の整備を併行して進めていくと,当然の結果として病床のダウンサイジングを迫られることになる.しかし,ダウンサイジングは,程度によっては病院経営が成り立たなくなる結果を招くことから,自院の適正病床を見極めるといった新たな問題が発生する.

 病院機能特化は,自院のみに課せられた課題ではない.したがってこの段階で発生する適正病床の見極めについては,診療圏内の病床の動向も注意する必要がある.急性期病院から慢性期病院に転換する病院や,病棟を閉鎖して診療所として機能する例など,地域全体でのダウンサイジングが進行すると,収容患者の動向に変化が生じることも考慮しなければならない.急性期病院としての機能特化と地域内における病院のダウンサイジングは,まさに急性期病院の「生き残り」と称される現象そのものである.

施設管理・9

排水処理と排水管のメンテナンス―聖路加国際病院の例

著者: 小室克夫 ,   阿比留桂樹

ページ範囲:P.769 - P.771

 聖路加国際病院では,病院内で発生する各種排水について,汚水・雑排水・厨房排水・洗濯排水・検査部排水・RI排水など系統ごとに配管を区分している.公共下水道の負荷調整を図るため,当地域(東京都中央区)では昼間の排水量について放流規制があり,当院の場合,1日の排水量のほぼ半分を午前0~5時の間の夜間放流とする必要がある.このため原則として地上階の生活排水系は直接下水道に放流するが,排水処理施設に導かれる排水ならびに地下階での排水(汚水は除く)はいったん排水調整槽に貯留し,ポンプをタイマー発停し,夜間放流としている.また,雨水についても900m3の貯留槽を設け,豪雨時に備えている.

 雨水はろ過装置を設け,院内共用部のトイレの洗浄水として利用している.

 排水処理としては,検査・その他薬液排水を対象とした中和処理設備,厨房排水用の除害設備(加圧浮上方式),RI用の貯留・希釈設備(汚水単独浄化槽を含む)がある.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・6

注射針の二重使用を防ぐ・2

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.772 - P.773

 本誌62巻7号1)で,BCG接種の際に,誤って使用済みの管針を使って別の被接種者に接種した疑いのある事例をご紹介しました.その後いくつか質問をいただきました.また,その号の発刊前後に同じような事例が発生しました.他の医療事故の参考にもなる事例ですので,質問にお答えする形で,使用済みの針の再使用防止を通して,医療ミスの予防について考えてみたいと思います.

かつての予防接種

 ディスポーザブルの注射筒,注射針が一般的になる以前は,注射筒,注射針とも,消毒・滅菌したものを再利用していました.注射針は使用する度に針先が磨耗して切れ味が鈍るため,定期的に研ぐ作業が必要でした.

医療安全管理の実践・5

苦情は黄金―安全,良質,満足,そして信頼の鍵

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.774 - P.779

 他の産業分野では苦情にどう対応するかが経営成功の鍵とさえなっている.その背景としては,世界で最も品質にうるさく,吟味する目を持った日本の消費者の声に答え,長引く不況の中で競争に勝ち抜くためには,経営の必須条件であり,企業活動の中核をなすものだからである.

 そして近年,このような時代の流れを受けて,消費者保護,製造者責任の法的な整備がなされている.また,行政を中心に情報公開法が施行され,行政を中心に情報を開示することが法的に義務づけられつつある.しかし,医療サービス産業界ではこのような危機意識を共有してこなかったのではなかろうか.医療サービスはその情報が提供者側に偏って存在し,消費者の判断を妨げてきた.50のひらがな・カタカナ,数千の漢字の音訓,へたをするとアルファベットの大小文字を読みこなすことのできる国民が95%を超える,人類史上驚くべく高度に教育された知的な民族である日本人が,これから医療サービスを評価し発言しないわけがない.

 苦情は黄金である.苦情を「処理する」という考えは間違っている.苦情は「ありがたく聞く」ものである.改善の要点をわざわざ伝えてくれているのだから.ほとんどの客は「黙って二度とこない」か「悪評判を外で撒き散らすか」だからである(図1).顧客の意見から学び,商品の質を改善するための貴重な情報が,苦情である.それを有効に利用する組織的なシステム作りが必要である1)

医療機関のマーケティング戦略─産科の受療行動からみえるもの・5

医療機関がWeb上で提供する情報内容の変化―医療機関ホームページの2000年・2002年の比較

著者: 碇朋子

ページ範囲:P.780 - P.786

ホームページという媒体の,医療機関にとっての特殊性

 大抵の業種において,消費者に対する情報提供活動は,「広告」と「広報」とに区分されている.「広告」とは,一般に,「特定のスポンサーがいて,それが費用負担する媒体を通して伝えられる,意見・製品,およびサービスなどのプレゼンテーションとプロモーションの形式である」と定義される1).この定義からすれば,医療機関の「広告」もまた,不特定多数に対する宣伝活動などが「広告」と位置づけられ,具体的な媒体としては,電話帳・折込チラシ・コマーシャル・駅看板などが挙げられることとなる.

 一方で「広報」とは,「好ましいパブリシティの獲得,優れたイメージの確立,悪い噂の処置・防止,イベントなどによって,組織を取り巻く様々な利害関係集団との良好な関係を構築するための主要なプロモーション手段である」と一般に定義されている1).この定義からすれば,医療機関の「広報」活動とは,例えば平間2) らによると,「医療に関する公共的な内容を一般住民や患者に知らせること」であり,具体的には①マスコミ対応,②緊急事態への対応,③地域活動への参加,④情報の収集,⑤ホスピタル・アイデンティティの展開などということになる.

日本版クリニカル・ガバナンスの確立に向けて・4(最終回)

日本で求められるクリニカル・ガバナンス

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.787 - P.790

 本連載では,イギリスやニュージーランドにおけるクリニカル・ガバナンスの動向などが紹介されてきた.臨床の質向上を図る枠組みやプロセスをクリニカル・ガバナンスと呼べば,それは世界中で求められている.ただし,医療制度が異なれば,そのために必要な取り組みや重点となる課題は異なってくる.

 そこで小論では,イギリスなどでクリニカル・ガバナンスが強調されるようになった背景をまず確認する.そのうえで,わが国の医療制度との違いに着目しながら,日本でもクリニカル・ガバナンスが求められていることを述べる.最後に,わが国の状況を踏まえた日本版クリニカル・ガバナンス確立への課題を考えたい.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・6

子どものことなら任せなさい!―Child life specialist と play specialist

著者: 安達正時

ページ範囲:P.791 - P.793

Boston Children's Hospital の child life specialist

 Harvard Children's Hospital のボランティア・オフィス・ディレクター Sandra Smith氏に,child life specialist という専門家が病棟に勤務していると紹介していただきました.Child life specialist とは,病院にいる子どものための専門家としてトレーニングを受けた保育士のことで,アメリカでは Child Life Council がライセンシングを行っています.少し古くなりますが 1996年のデータでは,アメリカの404の病院で導入されています.

 Children's Hospital でも小児科病院という特性から,child life specialist の導入を積極的に行ってきました.ここでは,ボランティアが各病棟に10人ほどのユニットとなり活動をしていますが,各ユニットに1人の child life specialist がつくようになっています.Child life specialist は,まだ一般的なものではありませんが,その数は確実に伸びており,その存在の重要性をSmith氏は強調しています.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第107回

米国ヘルスケア建築を取り巻く潮流

著者: アリソンデイヴィッド ,   岡ゆかり

ページ範囲:P.794 - P.799

1990年代の流れ

 昨今の米国ヘルスケア建築を取り巻く潮流として大きなものに,運営効率の向上,患者・家族そしてスタッフの満足度改善,そして治療効果に直接貢献する環境づくりの三つが挙げられる.この流れの背景には,膨れ上がる医療費の抑制,充実した保険プランに加入者している人々へのアピール,人数の不足のみならず,高年齢化してきている看護師の離職を引き止めることなどがあり,これらの理由抜きには語れない.

 1990年代初頭からのキーワードとして患者中心ケア,コミュニティ基盤の健康増進,代替医療,ウェルネス志向,通院医療への移行,ブティックヘルスサービスとよばれる快適性や利便性をプラスアルファしたサービス,スタッフ不足などが医療を取り巻く分野で口にされるようになった.今日の状況は,基本的にこの流れの先にあるが,例えば「患者中心ケア」は「患者・家族中心ケア」に取って代わるようになった.医療機関は,患者自身のみならず家族の体験がヘルスケアマーケットを左右するだけでなく,患者の回復にも少なからず影響することに気づき始めたからである.もとはといえば,周産期・小児医療の分野が発端となったこの潮流,今では病院の全診療科を巻き込む勢いである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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