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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻1号

2004年01月発行

雑誌目次

特集 国民は医療をどう見ているか

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.13 - P.13

 2004 年の巻頭号となる本号の特集テーマは,「国民は医療をどう見ているか」である.

 このテーマは,一見すると,ある意味でこれまでも繰り返し議論されてきたもののようにも映るし,場合によっては古くからある平板な話題のようにすら見える.けれども,今「国民は医療をどう見ているか」というテーマが問われる時,そこには従来にはなかった根本的に新しい要素が含まれていると思われる.

住民は医療をどう見ているか

著者: 潮谷義子

ページ範囲:P.14 - P.17

 現在,わが国では,規制緩和をはじめとして,社会の様々な枠組みの見直しが進んでいます.また,医療事故の報道も相次いでおり,医療のあり方そのものについて様々な改革の議論がなされています.これらの議論は必要なものですが,その際,忘れてはならないのは,「住民にとって」それらの改革がどのような意味を持つかということです.医療は,直接生命にかかわるものであり,特に慎重な議論が求められます.

 県政を預かる者として,「県民が主役」の県政を常に心がけていますが,県民が医療に求めているものは何か,それに応えるためにはどうすればいいか,日頃考えていることを述べたいと思います.

患者が医療に求めるもの

著者: 竹中文良

ページ範囲:P.18 - P.23

■患者が医療に求めるもの

 近年,日本人の疾患構造の変化と医療知識の普及はとどまるところを知らず,患者側の多様化した要望に応えるためには,医療システムの変革が求められている.しかし,長年日本人が依存してきた「おまかせ医療」からの脱却には,医療側のみでなく患者側にも大きな意識改革が必要であろう.

 筆者が数年前に日本赤十字看護大学で行った「がん患者・家族への意識調査」と,最近2年間ジャパン・ウェルネスで行った「セカンド・オピニオン相談」の経験を基本に,考察してみることとする.

患者の視点から見た医療の問題点―患者の声相談窓口での対応を通して

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.24 - P.28

■設置の経緯

 数年前になるが,筆者が東京都内の医療監視を所管していた東京都衛生局医務指導課の課長をしていた頃,横浜市立大学医学部附属病院で,心臓の手術の患者さんと肺の手術の患者さんを取り違えるという事例が起こり,続いて都立広尾病院で,入院中の患者さんに誤って外用消毒液を点滴するという事例が発生して,医療に対する不信感が高まりを見せた.その当時から,医務指導課には都民(患者さん)の医療に関する相談や,医療機関への苦情が寄せられ,他に相談専門の部署もないので,医務指導課が対応していたが,このような医療不信が高まる傾向の中で,医療を受ける立場の患者さんやそのご家族と,医療を提供する立場の医療機関とが相互に信頼関係を構築するための一助として,専用の相談窓口開設の必要性を痛感した.

 2000年8月にまとめられた東京都の第二次衛生局改革アクションプランには,知事の提唱する「東京発医療改革」の中の「患者中心の医療」を実現するための具体策の一つとして,「患者の声相談窓口(仮称)」の設置が位置づけられた.これを受けて,翌2001年4月に所要の組織整備が行われ,5月7日,患者さんからの医療に関する総合相談窓口としては全国で初ともいえる「患者の声相談窓口」がスタートした(当初,この相談窓口の名称については,相談者と医療機関との間の信頼関係構築を目的とすることから,「医療の架け橋」などいくつかの案が考えられたが,なかなか適当な名称がなく,結局「仮称」がそのまま正式名称となった).

医療報道はどうあるべきか

著者: 出河雅彦

ページ範囲:P.29 - P.32

 医療は国民の最大関心事の一つである.また,医療問題のテーマは多岐にわたり,様々な切り口で取り上げる必要があることから,各新聞社は他の取材分野に比べ,相対的に多くの記者と紙面を医療報道に割いている.朝日新聞社でいえば,医療報道には編集局のほぼすべての部門がなんらかの形でかかわっている.

 医療行政の所管官庁である厚生労働省の動向や社会保障制度の中における医療については,主に企画報道部(くらし編集部)が担当する.科学医療部は基礎医学や先端医療の動向を追うとともに,様々な疾病のメカニズムや最新の治療,健康法の紹介などを担う.診療報酬の改定,患者自己負担割合や保険料率の引き上げを伴う健康保険法改正など,政治問題化することが多いテーマには政治部がかかわる.製薬業界や医療機器業界の動きや規制改革については主として経済部がカバーし,医療機関で相次ぐ医療事故については社会部や医療機関所在地の支局が取材に当たる.学芸部が担当する家庭面においても,主に患者の視点から医療を題材にした記事を掲載している.

経済界は医療をどう見ているか

著者: 矢野弘典

ページ範囲:P.33 - P.36

■医療を取り巻く環境の変化

 日本の公的医療保険制度は皆保険制度をとり,国民の生活に安心を与える仕組みとして機能してきた.企業としても,社会・労働保険料の事業主負担を行うことに加えて,従業員の疾病による欠勤や労働災害を防止し,継続的な生産性向上を達成するため,従業員と家族に向けて健康管理,予防事業などの福利厚生施策を提供してきた.

 しかし現在,少子高齢化という急速な人口構成の変化を迎え,さらに10年以上にもわたる景気停滞を背景として,医療財政は危機的な状況にあり,医療保険制度の抜本的な改革が急務となっている.さらに企業としても,総額人件費の中での福利費の割合が年々大きくなり,従業員に手厚い福利厚生を提供することの負担が大きくなってきている.

保険者から見た医療や病院

著者: 対馬忠明

ページ範囲:P.37 - P.40

 医療保険の当事者といえば,患者(被保険者および被扶養者:以下「患者」),保険者,医療提供側であることは論を俟たない.

 保険者と医療提供側とは,診療報酬の支払いをめぐって中央社会保険医療協議会などの場で相対峙し,時に激しい応酬などが行われることから,対立する存在と思われがちであるが,必ずしもそうではない.

医療に関する国民意識調査から

著者: 江口成美

ページ範囲:P.41 - P.45

 高齢化と疾病の変化,さらに高度情報化社会における情報量の増加を背景に,人々の医療に対する関心が高まっている.こうした中,医療に対するニーズが多様化し,患者志向の医療に関する議論が活発化している.

 そもそも患者中心の医療が今議論される理由の一つは,医療提供者,医療消費者,行政など医療関係者の立場によって,目指す医療や,良い医療の定義が異なっていることにある.例えば医師など医療提供者の立場では,良い医療とは医療技術水準や患者の治癒率,予後のアウトカムが重視される.ところが,医療消費者である患者や一般国民からみると,安心感や医療従事者との人間関係から得る充足感も医療の重要な要素である.従来,医療の世界では,消費者である患者から見た良い医療という視点が過少評価されてきたように思える.

グラフ

PETを軸に3大疾患に対する医療システム構築を目指す 医療法人社団北斗 北斗病院

ページ範囲:P.1 - P.6

 医療法人社団北斗 北斗病院は,北海道十勝平野の中心都市である帯広市の郊外,JR帯広駅から車で約15分,とかち帯広空港から車で約25分の距離にある.

 2003年5月に新棟が完成し,病床は274から406に増床.新棟1階は最新鋭の画像診断機器であるPET(Positron Emission Tomography)2台を備えたPETセンターとして同年7月よりスタートした.

特別寄稿

医療安全の院内体制を有効に機能させるためには―報告制度と委員会活動の問題点を考える

著者: 相馬孝博

ページ範囲:P.46 - P.49

 2002年4月に発表された医療安全対策検討会議報告書1) において,「医療機関における安全管理体制の整備の徹底」のため,「全ての病院及び病床を有する診療所について,(1)医療の安全管理のための指針の整備,(2)事故等の院内報告制度の整備,(3)医療安全管理委員会の開催,(4)医療の安全管理のための職員研修の開催を義務付ける」こと(第3章第1項)になり,同年10月から実施の運びとなった.これら4項目について,構造としての整備はなされていても,機能しているかどうかという観点から見ると,いまだ難渋している医療機関も多いと考えられる.本稿では,院内の報告制度と安全管理委員会の問題点とその運営のポイントを提示してみたい.

病院資金調達の円滑化に向けて(前編)

著者: 大石佳能子

ページ範囲:P.50 - P.54

 医療制度改革が進む中,病院経営は先行き不透明感が増している.同時に,昨今の金融環境の変化により,病院にとっての資金調達はますます困難となっている.病院の場合,運転資金の調達にはほとんどの場合困らないが,施設更新・設備拡充等に必要な大型の長期資金調達に関しては,優良とされる病院でも課題が生じている.病院債の可能性,格付け機関の出現等,新たな試みも発生しているが,病院を取り巻く金融情勢は決して楽観すべきものではない.

 本稿では,病院を取り巻く経営・金融環境を再分析するとともに,株式会社あおぞら銀行とともに当社が取り組んでいる「医療経営評価プロジェクト」(ベンチマーキング調査)と調査結果を参考にしながら実施しているプロジェクト・ファイナンス型の資金提供手法について言及させていただきたい.

レポート

管理責任と規制緩和―今,入院患者が求めていること

著者: 和田ちひろ

ページ範囲:P.56 - P.61

 「なぜこの病院では21時に消灯なのですか?」と聞かれると,「安静にできる療養環境の確保のため」,「治療の妨げにならないように」などと多くの医療者は答えるだろう.しかし,「以前入院した病院では,22時でしたが…」と詰め寄られると,「うちではそういう決まりですから」としか言い逃れようがないのではなかろうか.このように,医療者側の都合で従来通りの規制が幅を利かせ,現状が維持されていることは案外多い.だが,ここ数年は,医療提供者側の論理のみでサービスが供給されていた時代から,患者の声を聞かなくては病院経営自体が危ぶまれるというほどに,社会の意識が変わりつつある.

 しかも,それは「ソフト」な社会の意識変化であるばかりではなく,「ハード」,つまり金銭的にも強い影響力を持つ社会変化であるといえる.例えば,「患者満足度調査導入による病院の経営改善に係る調査研究報告書」〔平成13(2001)年度医療施設経営安定化推進事業報告書〕 で論じられているように,病院経営の健全性と患者満足との間には,相関関係があることが示唆されている1)

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・22

夜明け前の病院経営戦略を創造すべし

著者: 鈴木紀之

ページ範囲:P.62 - P.64

 筆者の最終稿となる今回は,直近で終了したばかりの病院機能評価受審報告なども織り交ぜながら,筆者たち事務部門が病院経営において取り組むべき戦略について,考察を進める.3回の連載を通じて成功例,模範例の紹介報告に至らぬことは,汗顔の限りであるが,身近な例から,少しでも日々の戦略策定に参考となれば幸甚である.

●病院機能評価をテコとした「ヒト」,「モノ」,「情報」活性化戦略

 既報の通り,筑波メディカルセンター病院は,今回病院機能評価(以下,機能評価)認定の更新受審をした.認定期間5年の歳月は,展開急な現状の病院運営においては,様々な意味合いを持つ.受審の中核になる当院のメンバーも大きく変わり,初回受審の経験を共有できるスタッフも驚くばかりに少なかった.

施設管理・11【最終回】

病院機能評価を受審して―施設・設備管理の視点から(2)

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.65 - P.67

 前回の11月号では,聖路加国際病院が財団法人日本医療機能評価機構(以下,JCQHC)の第2回目の審査を受けるに当たって,自己評価を行い,それに基づいて行った対応策について述べた(本誌2003年11月号948-950頁).今回は,設備管理面を中心に,受審当日の流れ,および今後の課題について紹介する.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・10

医療事故発生後の報告について

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.72 - P.73

 前号(本誌2003年12月号)で,医療事故が発生した場合の報告について簡単にご説明しましたが,今号ではこの報告の問題について,考えてみたいと思います.

◆医療事故の報告・通報と法律

 医療ミス,医療過誤,医療事故,医療トラブル等々,いろいろな言葉が使われ,その定義も確たるものはありませんが,いわゆる医療事故について,医療法に基づく報告義務があるわけではありません.憲法第38条には「何人も,自己に不利益な供述を強要されない.」との規定があります.報告義務を課した場合でも,その事故の原因が刑事訴追を受けるような内容であったと考えられる場合には,事故の原因となった医療従事者にとっては報告自体が「自己に不利益な供述」となると考えられ,憲法の規定が優先されると解釈される余地があります.

医療安全管理の実践・7

リスクマネジメント

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.74 - P.80

 企業や政治で使われてきた危険管理(risk management)の概念や歴史をレビューすることによって,その医療界への応用の可能性と問題点について述べてみる.

 元来,企業や政治の活動は危険管理と深いかかわりを持ってきた.例えば,企業の場合,新たな商品を開発し,市場に参入する場合,失敗の可能性が高い分野こそ大きな成功の可能性があり,失敗の可能性が高いほど,他の企業の参入の障壁が高く,大きな利益の可能性があり,いわゆるハイリスク,ハイリターンが原則とされる.したがって,危険管理は経営管理や経営戦略の本質とさえいえるのではなかろうか.また,政治においても,刻々と変化する国内外の現象に対応した機敏な意思決定が必要で,危険管理あるいは危機管理をその活動の根幹に据える必要があるといえよう.

医療機関のマーケティング戦略─産科の受療行動からみえるもの・9【最終回】

広告規制緩和時代に求められる医療機関の今後の姿

著者: 碇朋子 ,   冨田健司

ページ範囲:P.82 - P.87

◆本連載の狙い

 「医療機関のマーケティング戦略―産科の受療行動から見えるもの」と題した本連載も,今回で最終回を迎えた.ここまでの8回の記事の中で,各執筆者は,そのバック・グラウンドや関心・視点に微妙な差異を持ちつつも,一貫して産科の受療行動を題材として,以下のような問題意識を共有しつつ,議論を進めてきた.

 すなわち,1992年から4回にわたって実施された医療機関の広告規制緩和は,医療機関が表示できる情報事項を増やすことによって,患者が医療機関を選択する際の情報の質・量を増大させ,結果として医療機関の適正な競争を促進することをねらいとしているといわれている.しかし実際に,規制緩和を受けて,医療機関の広告・広報という患者に対する情報提供活動のあり方には,変化がみられるのか否か?

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・10

シカゴ大学病院における患者 サービス向上のための取り組み(1)

著者: 安達のどか

ページ範囲:P.88 - P.89

 筆者は以前からボランティアに関心があり,2000年7月に佐賀医科大学付属病院で,学生ボランティアグループ「SMILE」を設立し,患者からのアイデアを生かしたユニークなイベントを企画してきた.また,1999年より全国でいくつかの病院内ボランティアの活動状況調査を行っている.

 以前,アメリカのシカゴ大学病院 (The University of Chicago Hospitals ,以下 UCH)におけるボランティア活動の状況を見学・調査する機会があった.本稿では,その時の体験を少し紹介したいと思う.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第111回

彦根市立病院

著者: 岡田新一 ,   梅澤典雄

ページ範囲:P.90 - P.95

 旧病院は彦根城に面した歴史的地区にあって,狭隘な敷地と現行法規の基準に合わない建築から増築も改修もままならない状況になっていた.そこで「住みなれた地域で健康をささえ,安心とぬくもりのある病院」をモットーに次の五つの理念を包括する新病院を建設することになった.

 ①湖東医療圏の総合的医療センターとして,主に急性期疾患に対応する高度な医療を提供する.

 ②予防,診断,治療からリハビリテーションまでの包括的な医療を提供する.

 ③信頼性,安全性の高い良質な医療を提供するとともに,患者にやさしい環境を整える.

 ④保健,医療,福祉機関との連携を図るとともに,教育研修機能を持つ地域に開かれた病院を目指す.

 ⑤災害時の拠点病院としての役割を果たす.

新連載 病院管理フォーラム 薬剤管理指導記録・1

POS・クリニカルパス統合型記録―総論

著者: 井上忠夫

ページ範囲:P.68 - P.70

 POS(problem oriented system)は,記録をSOAP(subjective data, objective data, assessment, plan)で記載することが主な目的のように考えられてきた.POSの基本精神は,患者の立場にたって,患者の問題を解決していくための問題解決法の一つである.

 臨床現場での様々な情報は,大きく分けて二つある.一つは,患者の主観的情報であり,もう一つは,客観的な情報である.効果的な医療を行うためには両方の情報がなければならない.患者のもっている様々な問題を解決するためには,主観的な情報と客観的な情報から現在入手し得る最も最適な臨床研究に基づいた問題解決法を実践することが大切である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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