特集 パブリック・リレーションズ―地域の人の期待
病院,診療所,地域住民の共生をめざして―ゲーム理論による分析の試み
著者:
安川文朗1
所属機関:
1同志社大学研究開発推薦機構
ページ範囲:P.894 - P.900
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地域医療という言葉は,それが使われている文脈やそれを語る人の立場によって,意味が微妙に異なっている.例えば病院の経営者が「地域医療への貢献」という時には,自院の立地する地域の人々が「患者」として来院してくれるよう,自院の存在意義をアピールするという意味が込められているであろうし,行政(あるいは政府)が地域医療という言葉を使う時,そこには,先端的な高度医療ではなく “地域の特性” にあった医療サービスを選択的に提供していくこと(例えば高齢者が多い地域ではリハビリテーションや在宅医療を強化するといったこと)という意味が意図されていると思われる.一方,地域の人々にとっては,地域医療とは文字通り自分たち地域住民のニーズに合致した医療サービスが提供されることに他ならず,それは具体的には昼夜分かたず,待たずに診てもらえる医療機関といったイメージを伴うものだろう.
つまり,「地域医療の推進」や「地域に根ざした医療」とは,単に耳に心地よいスローガンではなく,医療をとりまく各意思決定主体(医療機関,行政,地域住民)にとってそれぞれの具体的な利害を伴う医療関係のあり方を記述することに他ならない.そして真に「地域に根ざした医療」を実現するためには,各主体の間に存在する利害や認識の違いを明らかにし,それらを同時に満足させていかなければならない.