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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻2号

2004年02月発行

雑誌目次

特集 公私の役割分担とイコール・フッティング

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.109 - P.109

 わが国において病院の開設主体は国から個人まで20 数種類あるといわれている.9,000 を超える病院の中でも最も多数を占める開設主体が医療法人である.医療法による医療法人は,持分のある社団と寄付行為による財団,そして近年,特別医療法人が加えられた.さらに,租税特別措置法に定められた特定医療法人もある.

 また,医療の非営利性には明確な定義はいまだ示されていない.社団である医療法人には,個人の私的所有権が法人の資産すべてに対し認められている.このことは,年度ごとの剰余金の配当は認めていなくても,結果として,個人資産の増加につながることに他ならない.もちろん,診療が収入によって左右されることがあってはならない.しかし,税に関する軽減は,財団である医療法人,また,特定・特別等の持分のない社団は,特定のみ法人所得税に関して軽減税率が適用されているものの,地方税を含むその他の税制に関しては営利企業となんら変わりはない.

【座談会】医療における公正な競争とはどうあるべきか

著者: 小山田惠 ,   佐々英達 ,   冨岡悟 ,   河北博文

ページ範囲:P.110 - P.116

 国立病院や自治体病院,大学医学部附属病院等の独立行政法人化が控えるなど,公立の医療機関が自立した運営に転換する方向にある.公的医療機関はその開設趣旨から公的資金の投入や税制面での優遇がなされてきた.これらの機関が経営重視の運営を行うようになった場合,民間病院の運営に多大な影響を及ぼすことが考えられる.同じ医療を提供するのであれば,開設主体が何であるかを問わず,経営・運営面での存立基盤を同一に整えること,すなわち イコール・フッティング" が不可欠ではなかろうか.

 本座談会では,国立病院,自治体病院,民間病院を代表する3名の方を迎えて,それぞれの病院の役割やあり方,公正な競争について議論いただいた.

他会計からの繰り入れ(補助金)の実態

著者: 鈴木玲子

ページ範囲:P.117 - P.121

 診療報酬引き下げや患者自己負担引き上げなどにより病院経営は厳しさを増している.こうした中で,国立病院と県立病院や市立病院など公立病院(地方自治体病院)などへは「他会計からの繰り入れ」として多額の補助金が投入されていることに,利用する国民から見ても民間病院からも疑問が投げかけられている.「他会計」とは地方自治体の予算のことで,「繰り入れ」とは負担金や補助金の名目で支払われる資金を指す.ここでは,これら他会計からの繰り入れに国庫補助および都道府県補助金などを合わせた税金投入全体を「補助金」と呼ぶこととする.こうした補助金に頼ることができない病院からすれば,公的病院は補助金に見合った仕事をしているのか,本当に補助金は必要なのか,などはごく当たり前の疑問である.

 本稿では,公立病院の補助金の実態を示すとともに,補助金をより効率的に使う方法を考える.医療政策の目的達成のために,公立病院と民間病院とを対等な立場で競争させ,より公共性の高い医療を提供している病院へ補助金を重点化させることが重要である.

医師賃金と医師確保

著者: 白髪昌世

ページ範囲:P.122 - P.130

 本稿では公私の病院における医師賃金の比較を試み,また医師確保について述べる.

■医師の賃金と調査統計資料

 医師の賃金は,受給バランスによって変化する.また,開設主体によっても大きく異なってくる.したがって,医師賃金に関しては開設主体別に検討する必要がある.調査統計資料で一般に入手・利用できるよう公開されている次のデータを利用した.

税制から見たイコール・フッティング

著者: 和田頼知

ページ範囲:P.131 - P.135

 平成16年4月より,国立大学が国立大学法人となり,全国の国立病院も一つの独立行政法人になることが予定されている.従来,文部科学省や厚生労働省の予算の中で運用されてきた大学医学部附属病院や国立病院などの医療機関の運営が,今後はより柔軟になると期待されている.独立行政法人という言葉から推測されるように,国の予算に従属することなく,効率性を求められ,また膨大な赤字の放置は許されない状態に移行する.

 医療機関は国・地方自治体などの公的な医療機関と医療法人・公益法人などの私的な医療機関に大きく分類されるが,公的医療機関が独立行政法人に移行することは私的な機関にその運営形態が近づくことであり,効率性が経営の重要な視点になる.

【事例】公私の役割分担とイコール・フッティング

行政誘致方式による横浜市地域中核病院としてのイコール・フッティング論―聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院

著者: 新保忠宣

ページ範囲:P.136 - P.138

 「イコール・フッティング」については,「適切・平等な競争条件」,「存立基盤を同一にすること」,すなわち「経営に当たっては同じ土俵に立つ」の意と解されるが,現在わが国に存在する病院は,様々な社会・経済および政治状況の歴史過程を経て多くの経営主体によって設置・運営され,また行政とのかかわり方を含めた存立基盤もそれぞれに異なるなど,「医療提供機関」として多様な条件・側面を持っている.

 そこで本論では,経営主体が「学校法人」であり,横浜市の地域中核病院としての位置づけを持って運営している当院を中心にイコール・フッティングについて考えてみることとする.

国立病院の移譲を経験して―横須賀市立うわまち病院(旧 国立横須賀病院)

著者: 沼田裕一

ページ範囲:P.139 - P.141

 「えっ,市の職員になるわけではないのですか…….」

 職員採用の面接の時である.当院の名称から横須賀市職員になれると勘違いして面接に臨む人がいる.「社団法人地域医療振興協会の職員になります.」そう伝えると,みるみる落胆の表情になり,その後の面接はうわの空である.意気消沈している採用希望者とともに,公務員ブランドの強さにやるせない思いのわれわれがいた.

 当院は国立病院の統廃合・移譲計画により,国より横須賀市に移譲された国立横須賀病院が前身であり,現在は名称を横須賀市立うわまち病院に変えている.開設者は横須賀市であり,管理運営は社団法人地域医療振興協会が横須賀市より委託されている.社団法人地域医療振興協会は,当院を含め現在六つの国立病院統廃合に伴う病院を地方自治体より管理受託している.

公立病院としての旭中央病院のあゆみと目指すもの―総合病院国保旭中央病院

著者: 村上信乃

ページ範囲:P.142 - P.144

 最近「イコール・フッティング」なる言葉が出現し,繰入金を貰っていながら赤字を出している公立病院に対する風当たりが強くなっているようである.自治体病院などの公立病院は住民の健康を守るために,一般医療以外にもその地域に必要な救急医療,新生児医療,高度先駆的医療などの不採算な医療を提供することも使命としている.医療は警察,消防と同じく国民の安全安心にかかわる部門であり,国がそのような不採算な医療のための費用を政策医療として支出することは当然であろう.

 1市3町が開設する自治体病院である総合病院国保旭中央病院も,そのような政策医療にかかわる費用の一部に,国の交付税措置による繰入金や補助金を使っている.しかしわれわれはその繰入金を有効に利用して,公立病院としての使命をきちんと果たしているという強い自負を持っているので,当院の現状を紹介したい.

自治体病院を民間(特定医療法人)に管理委託するモデルケース―公立新小浜病院(旧 国立小浜病院)

著者: 長隆

ページ範囲:P.145 - P.147

■はじめに―イコール・フッティングについて

 公私病院の役割分担の明確化は,国民が病院に求めている良質・安心・信頼そして安くて速い医療の実現のために非常に重要である.問題の根源を確認し,解決への指針となるであろう公立新小浜病院の先例をご紹介する.

 まず公私の役割分担を論ずる前に,公的病院の機能分担がほとんど手付かずの状態で温存されており,その解決の道筋が見えないことを指摘したい.市町村合併が強力に進められている中,合併後の同一市町の中に同種同規模の自治体病院が存在することとなるケースも多いが,統廃合について,合併協議会の土俵に乗せることさえできない.機能分担,統廃合は総論では反対する人はいないが,わが町の病院は残したいという声に押されて,火種を残したままの見切り発車となっている.平成7年から9年間,総務省の地方公営企業(病院)の経営アドバイザーとして,全国各地の自治体病院を訪ねた筆者の偽らざる感想である.

グラフ

1人称,2人称の心で 患者に向き合い,満足度の高いリハビリテーションを提供―医療法人大乗会 福岡リハビリテーション病院

ページ範囲:P.97 - P.102

 医療法人大乗会福岡リハビリテーション病院は,豊かな田園地帯の広がる福岡市西区に位置している.当院の前身は「医療法人博仁会生の松原原病院」で,1980年に原養一郎理事長・院長(当時)が福岡市の中心部,天神に開設.1982年に現在地に移転.1987年には病院名を「生松原病院」と変更,1997年に現法人名・病院名に改めた.2001年4月,1992年より院長を務めていた原信也院長(現理事長)の退任に伴い,原道也院長が院長に就任した.

特別寄稿

厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針の策定について」への疑問

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.148 - P.149

◆診療録開示の流れ

 診療録の開示については,医師と患者の信頼関係構築という観点から,国や自治体あるいは,民間各医療機関がそれぞれ独自に開示制度を整備してきているところである.殊に近時は財団法人日本医療機能評価機構による評価項目として,診療録等の開示システムが必要とされている.このため,診療報酬と病院機能評価との連動を危惧する病院が,診療録の開示システムを早急に確立させようという動きがみられている.そのせいか筆者も最近,開示システムの構築についての相談に携わる機会が多い.

 診療録の開示について,日本医師会は平成11(1999)年に「診療情報の開示に関する指針」を出したが,さらに平成14(2002)年10月に「診療情報の開示に関する指針第2版」(以下,日医指針)を発行し,開示についてのガイドラインを定めている.国も最近「診療情報の提供等に関する指針(平成15年9月26日医政発第0912001号)」および「診療情報の提供に関する指針運用細則 (平成15年9月26日病院発第0926001号)」によって,平成13(2001) 年作成のガイドラインを変更している.また,国は各都道府県知事に対して,「診療情報の提供等に関する指針の策定について(平成15年9月12日医政発第0912001号)」と題する通達(以下,通知)によって開示指針を作成することを示している.なお上記日医指針,通知は,下記の URL にて閲覧可能なので,本稿では割合する.

病院資金調達の円滑化に向けて(中編)

著者: 大石佳能子

ページ範囲:P.150 - P.155

 今回はプロジェクト・ファイナンスの具体的実行方法について述べさせていただく.本稿は,主として資金調達を検討されている方々を対象としているが,そうでない場合も,目を通していただけると幸いである.というのも,プロジェクト・ファイナンスの実行方法が,病院が今後身につけなくてはならない経営能力,ガバナンス,情報公開の実行方法と近似であるため,役に立つのではないかと感じているからである.

レポート

事務系スタッフの採用に関する考察

著者: 長田能央

ページ範囲:P.156 - P.160

 昨年,創立100周年を迎えた聖路加国際病院は,東京都中央区―都心の中央部―に位置し,1日の外来患者数は約2,500名,病床数は520床,平均在院日数は11.3日の急性期病院で,職員数は,医師が200名,看護職員が570名,看護助手73名,コメディカル186名,薬剤師20名,そして事務系スタッフ137名,総勢1,186名である.

 本稿では,聖路加国際病院で行っている事務系スタッフの 新卒者採用の改革" の現状と今後の展望について述べるとともに,病院の職員,中でもこれからの 事務系スタッフ" に 期待される役割" と あるべき姿" という見地から考察する.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・23

高齢地域の医療確保への取り組み 地方における医療の現状

著者: 相馬敏克

ページ範囲:P.162 - P.164

●地方病院のつぶやき

 このシリーズは副題を「急性期病院の立場から」とし,全国各地で高度・先進医療や急性期医療を担い,大変立派な業績を上げておられるリーダー的病院の方々のマネジメントへの取り組み事例が紹介されている.そのため,執筆依頼をいただいた際には少々気後れし,戸惑ってしまった.岩手県立遠野病院は,地方の小さな市の県立病院として,厳しい経営環境の中で機能的にも業績的にも様々な課題を抱えながら,地域住民が求める医療を提供しようと苦悶している病院だからである.

 しかし,全国には同じような課題を抱えながらも地域に根ざした医療の提供に邁進されている病院も数多くあろうと思うので,これまで執筆された方々とは少し趣を異にすることとなるが,高齢化が進み,人口も減少しつつある広大な地域の医療を担う公的医療機関の視点から,地域医療の現状と課題,地域の医療確保に向けた取り組み,将来への模索などについて私見を述べてみたい.諸兄のご指導をいただければ幸いである.

薬剤管理指導記録・2

POS・クリニカルパス統合型記録実践編糖尿病治療薬

著者: 宮崎美子

ページ範囲:P.165 - P.167

 POS (problem oriented system) は,医療記録の基本として医師,看護師,薬剤師の間でかなり定着してきた.チーム医療の中で薬剤管理指導を行うためには,他の医療スタッフとの適切な情報の共有化とともに,患者ケアに関与する薬剤師の具体的な行動が見えてこなくてはならない.そのためのツールとして POS は最適であるが,記録を「書くこと」にこだわらず,効率的で質の高い薬学的ケアを提供する必要がある(図1).標準化,効率化が目標であるクリニカルパス(以下パス)を取り入れた,POS とパス統合型記録作成上の約束は表1に示す通りである.今回は病棟薬剤師がかかわることの多いインスリン導入の糖尿病患者についての記録を紹介する.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・11

院内感染立入検査の事例から・1

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.168 - P.169

 1999年に都内 A 区の S 病院でセラチアを原因とする院内での集団感染が発生し,数名の入院患者が死亡する事例がありました.2002年には都内 B 区の I 病院で同じくセラチアを原因とする院内集団感染が発生し,やはり数名の入院患者が死亡するに至りました.東京都健康局では,従来から医療法に基づく立入検査の際に,院内感染予防対策についても力を入れて監視・指導を行ってきましたが,I 病院における院内感染事故発生の際には,都立病院の感染症科専門医の応援を得て特別医療監視チームを編成し,I 病院に対して立入検査と指導を行いました.

 他の病院においても,集団感染とまではいえないものの,散発的な院内感染事例について,筆者らの部署には多く相談が寄せられます.以前から院内感染が多かったのが表面に出なかっただけなのか,あるいはなんらかの理由があって院内感染が多発するようになったのか,それはわかりませんが,院内感染予防対策については I 病院だけの問題ではなく,都内の全医療機関の問題であると考えられました.東京都健康局では早急に対策を講ずる必要があると判断し,I 病院への立入検査で得たノウハウを活かして,2002年度に都内の全病院を対象として院内感染予防対策のチェックを目的とした立入検査を行いました.

 この立入検査の結果について2号に分けてご紹介したいと思います.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・11

シカゴ大学病院における患者 サービス向上のための取り組み(2)

著者: 安達のどか

ページ範囲:P.172 - P.173

 前回(本誌63巻1号),シカゴ大学病院(The University of Chicago Hospitals,以下 UCH)における病院ボランティア活動が始まったきっかけと,シカゴ大学病院とディズニー“The Walt Disney World Resort”との協力企画について紹介した.今回は,その他にみられた患者に対するサービスにかかわる取り組みを紹介したい.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第112回

財団法人田附興風会医学研究所 北野病院―地域医療の中核を担う都市型総合病院

著者: 本田孝子

ページ範囲:P.176 - P.181

●北野病院の歴史と新病院の目指すもの―常に最善の治療を目指して

 大阪で最も賑わいをみせる街「キタ」.その東に位置する扇町公園に面した地に,北野病院は2001年9月,新病院として開院した.

 京都大学の外科治療で,病の苦しみから癒された大阪の実業家田附政次郎氏が「最高の医療を大阪の地に」との願いを込めて多額の私財と夢を託され,1925年,財団法人田附興風会が設立された.1928年には大阪市から用地の提供を受け,臨床医学研究用病院として,「北野病院」が京都大学の協力の下に創設され,以来,基礎から臨床にわたる幅広い研究成果を直ちに診療の場に還元して医療の向上を図り,大阪における高度医療の中心的施設として今日まで歩みを続けている.

短期連載 特別医療法人制度の改正・1

制度改正のポイント

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.170 - P.171

 厚生労働省は特別医療法人制度の一部を改正し,平成15年11月5日付の官報に告示した.改正のポイントは,①病床規制の緩和,②収益業務規制の緩和,③自己資本比率30%の規制,④社会保険診療収入割合の算定に健康増進事業の収入金額が含められたこと,の四点にある.

新連載 リレーエッセイ 事務長の所感・1

子どもにわかり難い「病院事務長」という仕事

著者: 林茂

ページ範囲:P.183 - P.183

●地盤や看板として引き継がれる世襲的職業

 自民党の新しい政権がスタートしたばかりであるが,小泉首相,福田官房長官,安部幹事長,石原国土交通大臣などは,父親の職業である「政治家」を自分の職業に選んだ人たちである.この度の総選挙では25名の新人が父親の地盤を継いで立候補している.投票日翌日の未明にインタビューを受ける候補者たちは,当選した人も落選した人も,テレビカメラに映される表情には激しい疲れが隠せない.政治家にとって,選挙は想像を絶する試練なのであろう.落選すればもっと悲惨な数年間を過ごさなければならない.それでも,政治家という職業にはそれだけのうま味なり魅力があるのであろう.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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