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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

特集 医療におけるナレッジ・マネジメント

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.197 - P.197

 産業界では,欧米から様々な経営手法が紹介される.古くはデミング賞に端を発するQC(quality control)活動から,BPR(business process re-engineering),ERP(enterprise resource planning),SCM(supply chain management),CRM(customer relationship management),そして最近医療界においても注目されているBSC(balanced score card)など枚挙に暇がない.これらの手法は,時代の流れとともに興隆と衰退を繰り返してきているのである.

 産業界におけるIT 化の進展とともに,ナレッジ・マネジメント(KM :knowledge management)という考え方も同様に紹介されてきた.この考え方が先に挙げた横文字手法と大きく異なる点は,逆輸入されてきたという事実はあるものの,メイド・イン・ジャパンであり,さらに,経営手法というよりは,ものの考え方,敢えて踏み込むならば,和を尊ぶ東洋的哲学であるという点であると思われる.

医療のナレッジ・マネジメント

著者: 梅本勝博

ページ範囲:P.198 - P.204

■ナレッジ・マネジメントの背景

 近年,日本の医療分野でもようやくナレッジ・マネジメントが注目され始めた.2002年5月には雑誌『臨床評価』が「ナレッジ・マネジメントと情報の共有化」という特集を組み,同年7月には雑誌『看護管理』が「看護管理のナレッジマネジメント 現場に活かす知とワザ」という特集を組んでいる.2003年には,筆者らが医療のナレッジ・マネジメントに関する日本で最初の単行書として『医療福祉のナレッジ・マネジメント』1) (日総研出版)を上梓した.

 ナレッジ・マネジメントとは,経営資源としての知識の重要性に着目した最新の経営理論・実践であり,既存の知識を共有・活用しながら新しい知識を創り続ける「知識経営」を意味する.組織的な知識の創造・共有・活用によって価値を生み出すナレッジ・マネジメントは,一過性で流行のビジネス・コンセプトなどではなく,品質管理がそうであるように,社会の様々の分野に応用できる一種の社会技術であり,社会運動である.

病院の知とは

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.205 - P.209

 本稿では「知」の場としての「病院」に焦点を合わせるように求められている.広義には医療や臨床の知も包含するにしても,ここでは異なる枠組みとしてとらえる必要がある.そもそも「病院」という言葉は中国で造語され,日本でも江戸後期から使われ始めて今日に至って医療提供の場として広く認知されている.また,医療法では20人以上の入院施設を備えた施設で,診療所と区別されている.

 しかし,現今では「病院」が担っている業務内容や利用者の求めも大きく変化し,多彩な機能への分化と高度化,多様な業務の拡大と効率化などに修飾されて,語源の「病院」が施設の一般表示名として居心地が良くない状況もある.事実,中国語へ翻訳された原語も,欧米では “health & medical center” などの呼称に入れ替えられる傾向にある.そこで,ナレッジ・マネジメントが評価・活用される場としては,「病院」という従来のくくりを広げた視野で経験と見解を述べる.

IT と病院のナレッジ・マネジメント

著者: 神野正博

ページ範囲:P.210 - P.216

■医療の IT 化ということ

 時代は構造改革が求められている.確かに,従来の経済成長は期待できず,しかも少子高齢化をはじめとして,人口減少,労働力人口の多様化,製造業の変身,価値観の多様化など PF ドラッカーのいう「異質な社会(ネクスト・ソサエティ)」1) が起こりつつあるからだ.医療の分野においても,社会からのニーズも医療消費者である患者の価値観も変わってきた以上,各病院は生き残りのための自助努力として構造改革を迫られているといえよう.

 特に,国による医療費削減は医療機関の経営を逼迫し,強力なコスト削減努力を強いられる.これに対して,患者にとっては自己負担率が上昇することによってコスト意識が生まれ,価格上昇に見合った品質を求めてきているのである.すなわち,われわれは「低コストで高い品質」の提供を求められているのである.そのためには,業務の見直しとともに効率性を追求した運営が求められ,病院組織そのものの見直しを迫られているといってよいだろう.

病院の知の集積事例

ナレッジ・ベイスト・メディスン実践の「場」としてのクリニカルパス

著者: 森脇要 ,   飯田さよみ

ページ範囲:P.217 - P.221

 形相(けいそう)を有となし形成を善と為す泰西(たいせい)文化の絢爛(けんらん)たる発展には尚(とうと)ぶべきもの,学ぶべきもの許多(あまた)なるは云うまでもないが,幾千年来我らの祖先をはぐくみ来きたった東洋文化の根底には,形なきものの形を見,声なきものの声を聞くと云った様なものが潜んでいるのではなかろうか.我々の心は此(かく)の如きものを求めて已(や)まない,・・・

西田幾多郎 『働くものから見るもの』1)

 クリニカルパス(クリティカルパスとも呼ばれる.以下パスと略す)は,入院患者の診療内容を経時的に示した入院診療計画表である.1985年,ボストンのニュー・イングランド医療センターの Karen Zander によってケアマップTM として開発された2).米国の一部健康保険に導入されていた DRG/PPS(診断群別包括支払い方式)の下で,診療効率の向上に寄与する手法として期待され,全米の病院に普及するに至った.

QC サークル活動による病院における知の集積

著者: 北島政憲

ページ範囲:P.222 - P.226

 2004年11月8日に金沢市で開催された,医療の TQM 推進協議会主催の第5回フォーラムで,北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科の梅本勝博教授による特別講演「医療のナレッジ・マネジメント」を聴講したのが,筆者がナレッジ・マネジメント(knowledge management)について学習した初めての機会であった.梅本氏はナレッジ・マネジメントについて,「個人またはグループが所有する知識を共有し,活用することによって新しい知を創造しようとする経営原理」と定義し,常に新しい知を創造し続ける必要があることを,テレビドラマ「白い巨塔」の財前五郎と里見脩二,プロ野球の長嶋監督と野村監督の野球感と知の表出の違いなどを説明しながら,わかりやすく講義された.

 ナレッジ・マネジメントを文字通りに訳すと,「知識管理」とか「知識経営」であるが,筆者は,日本の企業がこれまでに開発し実践してきた QC(quality control)サークル活動や TQM(total quality management) などの経営手法に相通じる,「知識」という概念を中心にした経営原理と理解した.また,この原理は日本から発信され海外で高い評価を受けていること,病院を中心とする医療界にも近年導入され始めていることなども知ることができた.

バランス・スコアカードによるナレッジ・マネジメント―「全職員参画型」経営システムの構築を目指して

著者: 山本浩和

ページ範囲:P.227 - P.230

■経営健全化計画策定の背景

 県民医療の確保と医療水準の向上に一定の役割を果たしてきた県立病院も,開設から50年近くを経て当時と全く変わった医療環境の中で,「県立病院の役割,存在意義は何か」という課題を内包しながら,昭和62年以降赤字経営が経常化し,平成8年度末の累積欠損金は115億円余となっていた.

 こうした経営体質を持つ県立病院に対して,県議会からは「赤字垂れ流しの県立病院なんかいらない」,「民間病院との役割分担と機能連携を明確にすべき」,「民間の経営手法を導入すべき」など厳しい意見が相次いで出された.

グラフ

弱者に優しい医療を提供するために コアミッションと健全経営を追求する―医療法人伯鳳会 赤穂中央病院

ページ範囲:P.185 - P.190

 赤穂中央病院は昭和37(1962)年に,診療所として開設された.同院は,人口5万人強の赤穂市にあって常に地域住民のための医療を展開し,地域住民からは身近な病院として認知されてきた.開設以来,患者増・収入増,設備投資と着実に成長していた同院は,安定経営と思われていたが,気がつかないうちに借入金が膨らみ,平成9(1997)年から2年間,経営は危機的状態に陥っていた.1999年に古城資久理事長は創業者である父親から経営を引き継いだ.抜本的な改革を余儀なくされた状態であったが,診療内容にその原因はなかった.「赤字経営になったのは,しっかりとした財務管理ができていなかったため.まずは経営理念の確立と徹底した経営情報の公開によって,職員全員に経営状況と目標を自覚してもらうことから始めました」と古城理事長は当時を振り返る.

 経営改善に動き出してからわずか1年で経営は黒字に転じ,2001年,父親の死去に伴い古城理事長は現職に就任.その後は,回復期リハビリテーション病棟の認可や地域リハビリテーション広域支援センター認定,臨床研修指定病院の認可,急性期入院加算算定,ISO14001の認証取得,赤穂中央クリニックの新設,電子カルテの導入,人事考課システム,さらに今年1月には,医療福祉経営審査機構による格付け評価(結果は「BBB+」),本年4月からはDPC施行病院としてスタートを切る,など積極的経営を展開し,さらなる患者サービスと職員のインセンティブ向上に努めている.

特別寄稿

病院資金調達の円滑化に向けて(後編)

著者: 大石佳能子

ページ範囲:P.232 - P.235

 前号まで(本誌63巻1号,2号)に,病院向けプロジェクト・ファイナンスの説明とそれを実行するために必要な五つのステップ(①客観分析,②戦略策定,③事業計画,④組織・業務改革,⑤指標管理)のうち,前半のステップとなる客観分析と戦略策定について述べた.

 本号では,策定した戦略をいかに事業計画に落とし込んでいくのか,そしてそれが最終的にファイナンスに繋がるまでの流れを説明させていただく(全体の流れを記した図を参考まで提示する).

医療事故防止のためのコミュニケーション研修―1.医療事故防止におけるコミュニケーションの重要性

著者: 松尾太加志

ページ範囲:P.236 - P.239

◆医療事故防止はコミュニケーションが鍵

 医療は,患者1人に複数のスタッフがかかわり,1人のスタッフは同時に多くの患者にかかわっている.そのため,各医療スタッフは,個々の患者に関する様々な情報を個別に有していなければならない.さらに,その情報を確実に他のスタッフにも伝達しなければ,治療ができない.情報に間違いが生じると,医療事故につながってしまいかねない.そのため,医療事故防止には,コミュニケーションが重要な鍵を握っている.

レポート

米国の手術部レポート―1.シアトルのスウェディッシュ病院

著者: 南部谷真

ページ範囲:P.240 - P.243

 昨年の1月に米国の四つの病院において手術部の設計および運営がどのように行われているのかを視察する機会に恵まれた.シアトルの①スウェディッシュ病院,ロチェスターの②セントメリー病院,シカゴの③ノースウェスタン病院,セントポールの④ユナイテッド病院である.

 手術部の平面計画ではすべてがクリンコアタイプであり,スウェディッシュ病院やセントメリー病院は日本でもよく知られている.今回は①スウェディッシュ病院を中心に報告する.この病院の手術部はクリンコア型手術部の先駆けとして,その後の米国手術部設計の手本とされたことでも知られている.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・24

高齢地域の医療確保への取り組み 2.住民の医療確保に向けた試み

著者: 相馬敏克

ページ範囲:P.246 - P.248

●公的病院の役割と当院の理念

 今,自治体立病院は,医療提供体制の変革や総医療費抑制政策などの影響を受けて診療収入が減少する一方で,地域の医療需要に応えるための費用は着実に増大するなど,非常に厳しい経営状況に直面している.その経営の厳しさゆえに,多くの場で存在意義や運営のあり方などが議論の的とされ,非効率的な自治体立病院の役割は終わったとする不要論まで聞こえてくるが,果たしてそうであろうか.中には,創設時の経済・交通事情や医療環境が大きく変わり,既に目的を終えたと考えられる施設や,過重とも思われる設備投資がなされている施設,甘い経営体質などがあることもあろう.しかし,多くの自治体立病院は,地域住民の健やかな生活を守るという自治体の使命を果たすために,地域の声に応え,役割を果たそうと努めているのではないだろうか.

薬剤管理指導記録・3

POS・クリニカルパス統合型記録〈実践編〉脳血管障害治療薬

著者: 宮崎美子

ページ範囲:P.249 - P.251

 わが国の死因の第3位は脳血管障害であり(平成14年人口動態統計より),生活習慣病としてその健康管理が重要な疾患である.CT スキャン,MRI など診断技術の著しい進歩から,脳梗塞や脳出血は,発症間もなく適切な治療が行えるようになったが,いまだ死亡率は高く,また,再発が多いのも事実である.脳血管障害既往の患者では,特に再発予防が治療の最重要課題となる.

 本稿では,脳梗塞発症直後の治療を経て,維持治療に入る際の薬剤管理指導を行うための POS とクリニカルパス(以下パス)との統合型記録を紹介する.

事例による医療監視・指導─院内感染・医療事故予防対策・12【最終回】

院内感染立入検査の事例から・2

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.254 - P.255

 2002年に都内の某病院で発生したセラチアによる院内感染事例を契機として,東京都衛生局(現健康局)では「院内感染予防マニュアル」を都内の医療機関に配布するとともに,2002年から2003年にかけて,都内の全病院を対象として,院内感染予防を目的とした立入検査を実施しました.前回(本誌63巻2号)と今回はこの立入検査の結果についてご紹介しています.

 前回は,①標準予防策の具体的手法,②感染経路別予防策,③職業感染予防策の各項目について立入検査の際に指摘した事項などを中心にご紹介しました.今回は安全管理と構造設備を取り上げたいと思います.

病院ボランティア・レポート─ボストン,ロンドン,そして日本・12【最終回】

広がる患者相談窓口

著者: 安達正時

ページ範囲:P.258 - P.259

 2003年4月,イギリスの GOSH (Great Ormond Street Hospital) の PALS を訪れました.イギリスでは2002年4月から全国の病院で PALS の導入が進められ,GOSH でも2002年8月に PALS が開設されました.

■Patients Advice and Liaison Service

 PALS とは,Patients Advice and Liaison Service の略で,直訳すると「患者のアドバイスと連絡の係」です.NHS は,PALS の機能は,以前より NHS 内に存在する “Patient Complaint Process” を補足するものとしています.政府が打ち出した宣言「市民は,NHS において部外者ではなく,内部に取り込まれるべきである」(Kennedy Report) の理念を反映させたものです.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第113回

新潟県立精神医療センター

著者: 柴田浩

ページ範囲:P.260 - P.268

●背景

 1950(昭和25)年の精神衛生法公布により,各都道府県に精神病院の整備が進み,1955(昭和30)年に「新潟県立療養所悠久荘」が開設された.当時は日本最初の高層建築精神病院として脚光を浴びたが,築後40年以上が経過したことによる老朽化と医療ニーズの変化から,新潟県精神医療のいっそうの充実を図るために全面建て替えとなり,名称も「新潟県立精神医療センター」として新たな精神医療の歴史を刻み始めることとなった.

 新潟県立精神医療センターは日本一の長さを誇る信濃川の川辺に位置しており,開院当初から周囲に塀のない開かれた精神病院を目指し,その思想はこの地の市街地化が進んだ今日に至るまで変わることはない.建て替えに当たっては,このような思想をより良く引き継ぐことを目指した.

リレーエッセイ 事務長の所感・2

医療安全マネジメントとリスクマネジメント

著者: 戸根経夫

ページ範囲:P.269 - P.269

 人は必ず過ちを犯すという原点に立って,システムを改善しなければならないことは周知のことであるが,これがなかなか難しい課題でもある.医療の現場では医療の安全にできる限りの配慮をしているにもかかわらず,それでもなお医療事故が起こっている現状を見聞きするにつけ,なおさらその感を強くしている.それぞれの医療機関では医療に関する安全を確保するための一連の取り組みを医療安全マネジメントあるいはリスクマネジメントと総称することが多いのではないだろうか.確かに医療安全マネジメントは患者安全 (patient safety)という視点に基づくものであり,これに異論はないのだが,リスクマネジメントが医療安全マネジメントと同義的に使用されることには少なからず抵抗感がある.

 歴史的にみても,人間はもとより,生きとし生けるものすべてが様々なリスクを負って生きている.人は大自然が引き起こす災害,細菌やウイルスなどによる感染,人為的な戦争,交通事故,窃盗などに対処し,その状況を克服することによって自らの身を守ってきた.組織運営においても同様であり,下記に示すような様々なリスクがある中で適切に対処できた組織のみが社会から支持を受け,継続的な組織運営ができるのである.このようなリスクをできるだけ最小限にする,あるいは回避する活動がリスクマネジメントであり,組織防衛活動そのものといえる.したがって,病院における医療事故防止活動はリスクマネジメントの一分野ではあるが,医療安全マネジメントなどと明確に区別したとらえ方が必要ではないかと考えている.

短期連載 特別医療法人制度の改正・2

改正制度の問題点

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.256 - P.257

 平成15年11月5日付の改正により,対象となる医療法人の範囲は大幅に拡大した.しかし,改正前と同様に,一般の医療法人から特別医療法人へ移行する際には課税上の問題が生じる.特定医療法人と同様非課税ではないかと誤解されていることも多いので,本稿では特別医療法人の課税上の取扱を中心に本制度の問題点を考える.

◎課税上の問題点

 課税上の最大の問題点は「出資持分の放棄」をしたにもかかわらず,持分の含み益に譲渡所得課税が行われることである.モデル定款では「社員としての議決権はあるものの払戻請求権の行使をしない」という表現になるが,財産権を放棄し担税力がない行為に対して課税がなされることに得心がいかない向きがあるのは特別医療法人制度に限らない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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