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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 看護の臨床研修と病院

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.285 - P.285

 医師の卒後臨床研修の必修化を受けて,他の職種においても卒後研修のあり方が改めて問われることになろう.看護師の場合も,従来は病院付属の看護学校で教育を受け,卒業後もそのまま病院で勤務するのが一般的なパターンであった.しかし,病院とは関連のない短大や大学からの卒業生が主流を占め,また看護学生の臨地実習時間数の減少に伴って看護技術力の低下が懸念されていることから,採用後の研修の重要性は増している.

 本特集で取り上げる課題について一般の読者の理解を助けるため,医師の研修との相違点を列挙すると以下の通りである.

看護師の期待される役割の変化に伴う実践力をどう養うか

著者: 嶋森好子

ページ範囲:P.286 - P.290

■看護師の基礎教育に求められるもの

 2002年3月26日,看護教育のあり方に関する検討会報告書『大学における看護実践能力の育成の充実に向けて』1) が出された.この報告書では,今後の大学における看護の人材教育の課題として,「大学卒業者の看護実践能力の向上の必要性と看護職としての社会的責任,並びに国民の要望に対応した看護の質の向上」が強調された.また,「これからの保健・医療・福祉サービスにおいては,受け手にわかりやすい言葉で説明し,主体的に意思決定できる環境を整備し,患者の権利擁護者として機能する看護師であること」が期待されると述べ,これを達成できるための基礎的能力の育成が必要としている.

 大学教育の到達目標として,①豊かな人間性,②最低限必要な知識・技術を体得し,卒業直後でも独力で又は適切な指導・助言の下に看護ケアが実施できる,③将来さらに専門性を深めるための基盤を身に付ける,の3点を挙げている.

大卒看護師の臨床実践能力を高める継続教育

著者: 佐藤エキ子

ページ範囲:P.291 - P.296

 少子高齢社会や疾病構造の変化,医療の高度化,入院期間の短縮など,医療を取り巻く環境は著しく変化し,国民の健康に対するニーズも多様化してきた.と同時に,医療職者には高度な技術と質の高いサービスの提供が求められている.

 このような社会環境の変化とともに,日本の看護学教育も変化してきている.その一つが看護系大学の増加である.2003年にはその総数は107校にも及んでいる.看護系大学が増加した背景には,上記のような環境の変化のほかに,1992年に労働者の雇用政策の一環として制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が要因となっている1)

看護基礎教育における看護実践能力向上と病院との連携のあり方

著者: 田村正枝

ページ範囲:P.297 - P.302

 近年,急速に看護学教育の大学化が進み,2003(平成15)年4月には,看護学を教え,看護師,保健師の国家試験受験資格を付与する大学がついに104校となった.急速に大学化が進んだ背景には,少子・高齢化,医療・医学の進歩,患者の権利意識の高揚,価値観の多様性などの社会状況の変化に伴って,質の高い看護の提供に対する社会のニーズが高まったものと考えられる.

 2003年3月,文部科学省の「看護学教育の在り方に関する検討会」の報告書1) は大学卒業生の看護実践能力の向上の必要性と看護職としての社会的責任ならびに国民の要望に対応した看護の質の向上を強調している.

【事例】病院における看護の臨床研修の実際

京都大学医学部附属病院

著者: 平田明美

ページ範囲:P.303 - P.306

■看護研修における基本的な考え方

 「研修は手段である」,「研修対象は成人である」,「研修目的を明確にする」,「評価・フィードバックを必ず行う」という考え方を基本にしている.

 研修を行う際の最も基本的な考え方は,「研修のための研修はしない」というものである.研修は,看護実践の質を向上させるための手段である.研修で学んだことを「研修の個人的な知識」としてとどめず,できるだけ実践に活かし「研修生が所属する部署全体の知」となるよう考えている.

北里大学病院

著者: 野地金子

ページ範囲:P.307 - P.311

■看護研修における基本的な考え方

 看護基礎教育を修了し国家資格を取得した新卒看護師が,臨床に入り最も戸惑うのは,複数の患者のケアがスムーズにできないこと,病棟の業務の流れの速さについていけないことである.日本看護協会が行った2002年度『新卒看護師の「看護基本技術」に関する実態調査』では,新卒看護師が入職時に自分一人でできる看護技術は,「基本的なベッドメーキング」,「基本的なリネン交換」,「呼吸,脈拍,体温,血圧を正しく測定」,「身長,体重を正しく測定」のわずか4項目であった.疾患や病態・使用される薬剤に関する知識,患者の生活援助のための技術,診療の補助業務に関する技術など,すべてが患者のベッドサイドに行ったその時から必要とされることなのである.

 基礎教育では,看護学教育が主となり,実践での体験が少ないこともあり,実際に看護ケアを自立してできるまでには時間を要する.そのため新人看護師の場合,OJT では新人専任の指導者(以下プリセプター)や先輩看護師が,患者一人ひとりのケアについてエビデンスを基に実践しながら教え,集合教育では臨床実務に直結した内容を教えていくことが必要となっている.

東京都立府中病院

著者: 鈴木照実

ページ範囲:P.312 - P.316

 東京都立府中病院は,東京都の多摩地域における唯一の都立一般病院である.救命救急センター20床を有し,三次救急および ER における一次・二次救急医療を実施している.救急患者は年間5万人を超える.また,生活習慣病医療,リハビリテーション医療,精神科救急4床を含む精神科医療,結核医療などを重点医療とした高度専門的な医療および行政的医療にも対応した幅広い機能を持つ.予算定床数761床で,職員数は899名,そのうち看護職員数567名である.

 2003年7月には都立病院における,病院総合情報システムのモデル病院として同システムを導入し,情報の共有化による患者参画型の病院を目指しているところである.当院の基本理念の一つである患者中心の医療や急性期医療・行政的医療に対応した看護サービスを提供するには,入院から退院までの一貫した看護師のかかわりが必要となる.そのため,看護方式はモジュール型継続受け持ち方式をとり,個々の職員の成長と支援する研修体系をとっている.

医療法人財団河北総合病院

著者: 藤沢秀子

ページ範囲:P.317 - P.321

 医療法人財団河北総合病院は315床の本院(以下,当院)の他に,河北リハビリテーション病院,健診センター,透析センター,在宅ケアセンター,付属看護専門学校,河北総合病院分院,河北整形外科・耳鼻咽喉科クリニック(2004年3月オープン)を併設した, 地域に密接した典型的な民間病院である.

 当院(本院)の看護部に所属するナースは,常勤と非常勤を合わせて約290人.毎年約30人が新卒ナースとして入職してくる.30人のうち約25人が付属の学校から入ってくることになる.

特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院

著者: 平前政武

ページ範囲:P.322 - P.325

 特別医療法人財団董仙会は,恵寿総合病院(以下当院)をはじめ,介護老人保健施設や在宅介護支援センターなど,20を超える施設や事業所からなる.このうち当院は石川県七尾市に位置する.同市は2004年10月,近隣3町と合併し人口約6万5千人の新七尾市となる.

■看護研修における基本的な考え方

 診療報酬のマイナス改定に伴い,医療機関は存続をかけ,組織力の強化とサービスの向上を目指さねばならない.中でも,直接的なヒューマンケアを基盤とする看護は人材が質を左右する.よって,臨床看護教育のミッションは,看護のスペシャリストとしての有能な人材育成にある.

グラフ

子どもと家族のこころにやさしい療養環境―あいち小児保健医療総合センター

ページ範囲:P.273 - P.278

 8万人以上の署名を集めたセンター建設請願が,愛知県議会で採択されたのが1990年12月.その後,10年以上の歳月を経た2001年11月,保健部門と医療部門の一部(14科,42床・1病棟)の運営をようやく開始.2003年5月に,22科,113床・4病棟(ICU6床含む)で全面オープンした.さらに本年4月より,病床を増やし200床・6病棟(ICU6床含む)となる.

 あいち小児保健医療総合センターは,JR名古屋駅より南へ約15分の大府駅から,車で約10分の丘陵地にある.周囲には50ha以上に及ぶ「あいち健康の森公園」が広がる.

特別寄稿

医療事故防止のためのコミュニケーション研修―2.コミュニケーションスキル研修―その意義と方法

著者: 山内桂子

ページ範囲:P.332 - P.335

 本連載の第1回では,医療事故防止におけるコミュニケーションの重要性について述べた.また,チームエラーの回復過程をうまく導く鍵としてのコミュニケーションのスキルを向上させるために,研修を行うべきことを述べた.そして,どのような研修を行えば効果的なのかを検討するために,研修内容の吟味と研修の効果の測定を行う必要性を示した.

 筆者らの研究班では,1年目にまず三つの協力病院で研修を行い,効果測定の質問紙調査を行った.この調査結果の一部は前回(第1回)に紹介した.2年目は,その結果を元に,研修内容を改訂するとともに,効果測定の質問紙にも改善を加えて,新たな五つの病院で研修と効果測定を実施し,研修効果を検討した.

レポート

米国の手術部レポート―2.シカゴのノースウェスタン病院,ロチェスターのセントメリー病院,セントポールのユナイテッド病院

著者: 南部谷真

ページ範囲:P.336 - P.339

◆ノースウェスタン病院

 シカゴのダウンタウンにある,100年の歴史を持つノースウェスタン大学の付属病院である.1999年に新病院が竣工,延べ床面積185,000m2,492床の個室病室と92床の ICU を有し,年間26,000人の入院患者を受け入れる大規模病院だ.1,000人の医師,4,500人のスタッフ,800人のボランティアがその運営に当たっている.

 シカゴのダウンタウンにあって,外観のデザインはクラシックな重厚感ある表現としている.「シカゴ派」建築をイメージさせる.低層部のパブリック空間はホテルさながらの高級感あるシックなインテリアでまとめている.設計者はエレベ・ベケット,設計事務所は HOK,VOK である.

短期特別連載 苦情対応システムの実際とその評価―臨床現場の事例から

第1回 「意見活用システム」の意義・構造

著者: 佐伯みか ,   田中知雄

ページ範囲:P.340 - P.344

◆本連載のねらい

 患者から時々苦情が寄せられていた医師が,ある時,筆者に言った.「こっちだって人間なんだから機嫌が良い時も悪い時もあるよ.いつも患者の機嫌とれなんて言われたって,できるわけないよ.」「意見活用システムなんて,いっそのことないほうが良いですか?」そう筆者が聞くと「それはないよ.前だったら “まあ,いっか” って思っていたことも,また投書されると思うと,身が引き締まるからね.効果はある.」ちなみに,この医師への苦情は,徐々に減ってきている.

 また別のある医師が,こう語った.「最初,自分の名前が書かれている苦情を見た時は,怒りがこみあげてきて全く受け入れられなかった.こんなの,たった一人の患者の言うことに過ぎない.他の患者はみんな満足しているんだから,この患者がおかしいんだって思った.でも,2~3日して,自分の間違いに気付いたんだよね.今まで自分は患者さんを治したいと思って生物学的にしかみていなかった.でも患者さんは心理・社会的な面ももっているんだよね.そんな当たり前のことに気付かせてくれた患者さんに,今はものすごく感謝している.」

 患者の苦情への対応が,医療提供側にとって排除すべきものではなく重要なものであることは,近年になって少しずつ認められ始めている.医療・サービスの質向上・保証の契機になるし,患者満足や職員満足にもつながるからである.長い目で見ればコスト削減にもつながる.しかし,実際に投書への対応を経営の「最優先課題」にあげる医療機関はどれだけあるだろうか.そのような医療機関が少ない理由は,以下の三つに大別できると考えられる.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・25

高齢地域の医療確保への取り組 3.地域の信頼を得られる病院に向けて

著者: 相馬敏克

ページ範囲:P.345 - P.348

 これまで「地方における医療の現状」および「住民の医療確保に向けた試み」と題して,地方の厳しい医療環境や地域住民へのきめ細かな医療提供の試みなどについて述べさせていただいた.しかし,残念ながら当院は,市民の皆様から良い病院として評価され,全幅の信頼をいただいているわけではない.むしろ医師の不足や各部門の機能,業務の質,患者様の応対への叱責など,院内いたるところに課題を抱える病院で,これらをなんとか改善しようと試行錯誤を繰り返しているというのが実態である.最後に,そのような試みの一端と当院に求められている役割などについて私見を述べることとしたい.

薬剤管理指導記録・4

POS・クリニカルパス統合型記録〈実践編〉骨粗鬆症治療薬

著者: 宮崎美子

ページ範囲:P.349 - P.351

 骨粗鬆症とは,加齢とともに骨吸収と骨形成のバランスが崩れ,相対的に骨吸収が優位になったために骨量の減少が起こり,さらに骨の微細構造の変化により骨の強度が低下し,骨折が起こりやすくなる病態である.

 特に整形外科を受診する骨粗鬆症患者の多くは,既に骨脆弱性に起因する骨折を有し,あるいは骨折のリスクが非常に高い重症患者が多い.重症骨粗鬆症患者は脊椎椎体の圧迫骨折,変形治癒,さらに脊柱変形から急性~慢性の腰背痛を訴える.これらの疼痛の治療は,安静,装具による固定,局所麻酔剤によるブロック療法,消炎鎮痛剤の投与,運動療法(慢性期)などが実施されるが,ハイリスク患者での骨折予防として最も有効な薬物療法はビスフォスフォネート製剤の使用である.当院では重症骨粗鬆症患者の骨折予防としてリセドロネートを投与している.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第114回

オーストラリアの高齢者施設

著者: 筧淳夫

ページ範囲:P.354 - P.358

 昨年(2003年)10月に日本医療福祉建築協会の研修において,オーストラリアの医療・福祉施設をつぶさに勉強する機会を得た.米国やヨーロッパについては数多くの情報を得ることができるが,こと南半球の国々となると知っていそうでなかなか情報が少ない.2000年のシドニーオリンピックによる日本人の活躍の記憶が少しずつ薄れてゆく中で,欧州や米国から遠く距離が離れた国でどのような制度の下に医療・福祉サービスが提供されているのであろうか.

 オーストラリアでは,医療において英国のようなパブリックによるサービスと,米国のようなプライベイトによるサービスが巧みに組み合わされており,ここからわれわれが学ぶべき点も少なくないと考えている.また,高齢者ケアにおいては “Ageing in place” といった考えに基づいて高齢者のケア施設が近年新たに整備されており,特に痴呆性高齢者のケアについては注目するプログラムを実施している施設がある.

リレーエッセイ 事務長の所感・3

経営と管理と運営

著者: 川添昇

ページ範囲:P.359 - P.359

 2年に一度の診療報酬改定は,近森病院にとってどのような影響を及ぼすだろうか.順風なのか逆風が吹くのか,本稿執筆中の現在(1月下旬)では判然とはしない.

 特定集中治療棟のステップダウンとしてのハイケアユニットへの評価,回復期リハビリテーション病棟ではまかないきれない亜急性期の病室の新設,さらには合併症や褥瘡予防などによる効果があるといわれる栄養管理(NST)など,既にコストを投入し稼働中のものなので,診療報酬化への期待は大きい.病院の経営目的は何か.一言でいえば医療の成果を上げることではないだろうか.当たり前のことではあるが,民間病院が成果を上げるには,まず利益を確保して質的投資を行うというサイクルを確立しなければならない.この質的投資が診療報酬として後追いの形でついてくるとしたら,非常に幸せなことである.

短期連載 特別医療法人制度の改正・3(最終回)

本制度の将来の方向性―特定医療法人・特別医療法人昌林会(島根県)の認可事例から

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.352 - P.353

 特別医療法人移行時には課税上の問題が生じるので,特定医療法人の承認を受けた後,特別医療法人の認可を受ける医療法人が多い.「医療法人昌林会」は平成15年3月に特定医療法人の承認を受けた後,同年10月に特別医療法人の認可を受けた.同法人に特別医療法人制度の将来の方向性等についてうかがった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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