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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

特集 急変する医薬品政策―病院としての対応

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.461 - P.461

 かつて病院にとって大きな収益源であった薬価差は急速に縮小している.そして今後,入院医療が包括評価されれば,薬価差そのものがなくなり,薬剤の処方は病院にとってすべて持ち出しのコストとなる.このように診療報酬の改定と医薬品政策の変化に合わせて,病院として機敏に対応する必要がある.

 本特集では,まず白神誠氏から薬価改定と新薬の薬価設定のプロセスが解説されている.これまでの薬価政策によって薬剤費と薬価差の抑制は達成されたが,新薬の薬価設定(値づけ)の方法については課題が残されており,また参照価格の導入は失敗に終わっている.その理由は,薬剤の「有効性」を総合的に評価することは難しいので,新薬の比較優位性を検証することも,「同一薬効」のグループとして括る薬剤の範囲についても,関係者が合意できる方法を示せないことにある.このような難問に対する一つの対応方法が,池田俊也氏らが提示する薬剤経済学の手法である.

薬価制度の現状と課題

著者: 白神誠

ページ範囲:P.462 - P.466

■薬価差解消への努力

 医療費の高騰が続く中で,薬剤費をいかに抑えるかは各国共通の課題である.特にわが国の場合は,国民皆保険の下,価格を公定化し出来高払いを原則としていることがその課題をいっそう難しいものにしている.医療保険は現物給付が原則であるから,薬をはじめとした医療に用いられる物品については購入した費用を支払うというのが基本的な考え方であるが,個々に対応する煩雑さを避けるために薬価基準を設け,薬の償還価格を平均的な価格に固定したために,実際の購入価格との間に薬価差が生じることになる.

 薬価差の存在は,どうしてもより薬価差の大きい薬剤が処方され,より多くの薬剤が使用されることにつながる.したがって薬価差を縮小することが,薬価基準創設以来の第一の課題であった.できるだけ正確に取り引き価格を把握し,その価格を基に薬価差を生じないように価格を付け直すこと(薬価改定)が原則2年に1度,繰り返し行われている.結果としては全体として薬価の引き下げにつながっている(表1).

DPC と薬剤

著者: 増原慶壮

ページ範囲:P.467 - P.470

 2003年4月からの DPC (diagnosis procedure combination:1日当たりの定額の点数を包括化して支払う方式)の実施に伴い,医療の質を維持しつつ経済効率を追求することは,病院経営においていっそう重要性を増してきている.経営的に DPC をとらえると,疾病の医療に対する収入が一律である以上,医薬品を含めてそれらにかかるコストを削減することが経営効率を高めることになる.その中で,病院収入の約20%を占める医薬品購入費は,経費削減において大きな影響を及ぼす.

 医療の質を保証しつつ,医薬品の購入費を抑制することは,病院経費を削減することだけではなく,患者が支払う医療費を削減し,医療費全体の抑制に大きく貢献することにつながる.医薬品購入費を抑制する方法としては,クリニカルパスなどの導入による EBM(evidence-based medicine)に基づく医療の標準化を促進することによって,医薬品の採用を抑制し,効率的に医薬品を使用することと,医薬品の品質が保証されるならば,薬価の安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)を使用することが考えられる.

国立病院機構病院等における後発医薬品の導入と課題

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.471 - P.475

 これまで遅々として進まなかった後発医薬品(ジェネリック医薬品)の採用が,このところの医療制度の環境変化で,国立病院機構病院(2004年4月より独立行政法人国立病院機構病院となった)や大学附属病院などの特定機能病院で,少しずつ進み始めている.特に厚生労働省のお膝元の国立病院機構病院では後発医薬品採用推進が医薬品政策の一環として行われているし,DPC (diagnosis procedure combination :疾病分類別包括払い)が2003年から導入された特定機能病院では包括部分医薬品の後発医薬品への置き換えが進んでいる.

 本稿ではこれらの病院で進み始めた後発医薬品の導入の現状と課題についてみていくことにする.

薬剤選択とクリニカルパス

著者: 飛野幸子

ページ範囲:P.476 - P.479

 薬物療法を行う際に薬剤の選択を行うのは,当然のことであるが主治医である.患者に最も適した薬剤を,原則として院内採用薬品から選択する.一方,クリニカルパス(以下パス)においては,定型的な治療経過をたどる場合は,チームでコンセンサスを得た薬剤を選択することとなる.もちろんバリアンスが生じた場合は個別対応となる.これはある意味では医師の裁量権の問題ともなり,パスで薬剤を規定することには困難なことも多く,またコンセンサスを得るための時間と労力は多大である.

 当院では1996年から全病院的にパスに取り組み,患者用も含めると現在125種類のパスを運用している.パス作成に当たっては多くの職種がかかわり,問題点を抽出し,可能な限り根拠に基づいた標準化を試みている.薬剤の選択においても同様であり,文献検索,現状分析に基づいて,チームでのコンセンサスを時間をかけて行っている.

薬剤経済学を考慮した薬剤選択

著者: 池田俊也 ,   小林美亜

ページ範囲:P.480 - P.483

 これまで,病院における採用医薬品の選択に当たっては,臨床的側面と同時に,病院にとっての経済的なメリット,すなわち値引率が考慮されてきた.薬価差が病院経営の原資となっていた時代もあり,社会の立場から医療の経済的効率性を考慮する機会はほとんどなかったと言ってよい.

 しかしながら近年,医療費の高騰が社会問題化し医療費適正化が重要な政策課題とされる中で,効率的な医療の実践が求められてきている.特に2003年度より特定機能病院などの入院医療に一日定額制 (diagnosis -procedure combination : DPC)が導入され,急性期入院医療においても薬物療法の経済性に関する配慮が求められるようになってきた.こうした状況の中で,新薬の採用や患者への臨床判断の際に,薬剤そのものの薬価だけではなく,その費用対効果を検討する必要が生じてきている.

薬剤管理業務とセーフティ・マネジメント

著者: 藤上雅子

ページ範囲:P.484 - P.488

 筆者は昨年来,サリドマイド被害者の団体である「いしずえ」の方々と親しく懇談する機会を得た.サリドマイド被害から40数年,それを知る医師も高齢化し,医学部教育に取り上げられることも少なく,「サリドマイド被害」が風化されていくことを被害者の方々は恐れている.

 「いしずえ」は,サリドマイドに新しい効能があるとされ未承認のまま野放し状態で使用されていることに危機感をもち,悲劇の再発を案じて「サリドマイドの輸入,使用および管理に関するガイドライン」作成の必要を提言している.専門家の下で薬が使用されてもスモン,サリドマイド,エイズ,ソリブジン等々薬害は繰り返されてきた.薬の専門家である薬剤師は,これまで患者・国民のために何をしてきたのだろうかと改めて考えさせられている.

グラフ

病院薬剤師の役割は何か―薬剤師の“姿”が見える病院―愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院

ページ範囲:P.449 - P.454

 愛知県厚生農業協同組合連合会安城更生病院は,病床数692床をもち,新生児未熟児医療や人工心肺装置を使わない心血管手術などの高度先進医療に取り組む地域中核病院である.診療圏は西三河南部医療圏であるが,その診療面の充実ぶりに愛知県全域から患者が訪れる.

 2002年4月,当院は安城駅前から現在地に新築移転した.新築移転に伴い,最新検査機器や電子カルテの導入などハード面での刷新もさることながら,ソフト面での改革も進み,チーム医療がよりいっそう推進されたようだ.

特別寄稿

医療の萎縮を考える―医事紛争の悪影響について

著者: 長野展久

ページ範囲:P.489 - P.493

 世界一の長寿国である日本の医療レベルは,かなり高い水準にあることはいうまでもないが,それを維持するために,多くの医療関係者が献身的な努力をしていることも,決して忘れてはならない.ところが,一部の病院や医師が起こした残念な医療事故により,医療そのものに対する不信や不満が高まってきていることもまた事実である.そのことを裏付けるように,裁判所に持ち込まれる医事関係訴訟は右肩上がりで増加していて,平成14年の第一審新受件数は896件にも達している.

 そのため各医療機関では,厚生労働省の指導のもとに,医療事故防止対策を最優先課題として取り組み始めている.例えば,患者取り違え,異型輸血,薬剤投与ミスなどを水際で防ぐために,患者にはリストバンドを装着させ,オーダーエントリーシステムやクリティカルパスを積極的に導入したり,内服薬を誤注射しないように注射シリンジを色分けしたりなど,様々な工夫を凝らして医療スタッフへの注意喚起を促している.

レポート

手術室関連医療事故防止のためのシステムアプローチへの取り組み・1―プロジェクトの発足とその概要

著者: 佐藤紀子 ,   眞嶋朋子 ,   太田祐子

ページ範囲:P.494 - P.496

 本稿で紹介する研究は,急性期医療における中心的な治療の一つである手術療法に焦点を当て,そこでの安全構築のための新たな実際的取り組みの確立を目的としている.インシデントやアクシデントの事例分析を超えて,手術治療そのものや手術が行われる手術室という場で起こり得るすべての医療事故を可能な限り未然に防止することを目指し,厚生科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業「病院内総合的患者安全マネジメントシステムの構築に関する研究」(主任研究者:長谷川敏彦)のプロジェクト活動として実施した.

 本連載では3回にわたり,本プロジェクトの活動の一部を紹介する.全国共通に使えるマニュアル作成を目指し,「胃切除術を受ける患者」を想定し,手術室に入室し退室するまでの一連の過程を,「手術前(手術室入室から執刀まで)」,「手術中(執刀から閉腹終了まで)」,「手術後(手術室退室まで)」の三つに分けて検討した.本連載においては,その中で「手術前」の部分について紹介する.第1回目は本プロジェクトの発足とその概要について述べ,第2回では実際の FMEA(failure mode and effects analysis:失敗モード影響分析法)の手順を紹介し,第3回では FMEA 手法活用について考察する.

「女性総合診療」を開設して・2―診療体制の実際

著者: 早野智子 ,   福田安津子 ,   安井由紀 ,   鶴田園子 ,   上田暁子 ,   佐栁進

ページ範囲:P.498 - P.501

 当センターの「女性総合診療」(以下,当診療)は女性のあらゆる症状を対象とする総合外来である(注1).女性の心身の訴えを理解し解決するためには,同性の女性スタッフが十分に連携して医療サービスにあたることが必要とされる.第2回の本稿では,当診療の運営についての様々な工夫を紹介する.

◆診療の流れ

 現在,多岐にわたる女性の症状・訴えに対応するため,8診療科の女性医師8名(循環器内科,産婦人科,消化器内科,代謝内科,精神神経科,耳鼻咽喉科,皮膚科,乳腺外科)が月曜から金曜まで診療を担当している.お互いの専門性を活かしながら,タイアップして診療の流れ(図1)を組み立てている.また,院内外の多くの専門科医師,各専門スタッフによるバックアップが,「女性総合診療」の医療の質をより高める大切な柱となっている.

短期特別連載 苦情対応システムの実際とその評価―臨床現場の事例から

第3回 「意見活用システム」の改善機能の評価

著者: 佐伯みか

ページ範囲:P.502 - P.506

◆本稿のねらい

 「苦情処理の担当者は2年もてば良い方だ」という話を聞くことがある.実際携わってみればわかることだが,毎日のように,同じようなクレームが何件も寄せられる.中には即解決できるものもあるが,時間とエネルギーをかけて真摯に取り組んでも,最終的に解決できないものもある.たいていは根本的に解決しようとしたら,複数の人・部署の利害関係や価値観の相違を克服しないとできない.さらに,多くの職員はたいてい苦情も変化も快く思わない.「苦情があるなら解決したほうが良い」と思うが,苦情を解決するために自分たちの業務の方法や環境が変化することには二の足を踏むのである(筆者も含む).

 本連載第1回では,医療法人社団東光会戸田中央総合病院で運用している「意見活用システム」の特徴・構造について述べ,第2回では,その聴取機能について報告した.第3回では,改善機能について評価した結果を報告する.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・27

全館禁煙への取り組み

著者: 中嶋照夫

ページ範囲:P.508 - P.511

●禁煙への潮流

 平成15年5月1日に「健康増進法」が施行されたことにより,その第25条に定められた「受動喫煙の防止」条項によって,嫌煙派は喜び,そして愛煙家の肩身は一気に狭まってしまったようだ.そこで,病院における全面禁煙への取り組みについて特定医療法人社団松愛会松田病院での苦労の一端を述べたい.なお筆者自身は,過去最盛期には1日に60本を煙にしてしまうチェインスモーカーだったことから,愛煙・嫌煙両者の気持ちがよく理解できる.ただし禁煙期間は既に22年目を迎えているので,現在は完全な嫌煙派の一員である.

 健康増進法に定める受動喫煙の防止条項では,公共機関や医療機関のみならず人が集うすべての場所をその規制対象としている.それはパチンコ屋さんも,飲み屋さんも,そしてラーメン屋さんも然りである.この辺がまだ十分には国民に周知されてなく,今後の課題だと認識される.しかし最近驚きをもって知ることになったのは,わが居住地の新設ラーメン店で「健康増進法の規定により店内全面禁煙」とする,勇気ある経営者が現れたことである.

薬剤管理指導記録・6〔最終回〕

POS・クリニカルパス統合型記録〈実践編〉切迫早産治療薬

著者: 宮崎美子

ページ範囲:P.512 - P.515

 本連載においてこれまでいくつかの診療領域における薬剤師がかかわる薬物治療についての記録を紹介してきたが,最終回の今回は産婦人科の治療にかかわる記録を紹介する.産婦人科での疾患は数多くあるが,薬物治療が重要であり,薬物服用に関して患者からの相談事項が多い,切迫流早産,重度のつわり,子宮内胎児発育不全,妊娠中毒症,妊娠糖尿病などのうち,切迫早産治療に対する薬剤師のかかわりを述べる.

 切迫早産とは「妊娠22週以降37週未満に下腹痛(10分に1回以上の陣痛),性器出血,破水などの症状に加えて,外側陣痛計で規則的な子宮収縮があり,内診では,子宮口開大,頸管展退など Bishop score の進行が認められ,早産の危険性が高いと考えられる状態」 1) と定義され,母体側,胎児側両方にその原因が考えられる.切迫早産の治療は未熟児出生の防止につながるので,原則として妊娠継続をできるだけ図るために行われる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第116回

中規模病院2題―福島県立大野病院 原町赤十字病院

著者: 西田勝彦 ,   藤田衛

ページ範囲:P.517 - P.524

福島県立大野病院

 株式会社ヘルム建築・都市コンサルタント 西田 勝彦

 福島県立大野病院は,昭和26年の開設以来,浜通り地方で唯一の県立病院として,双葉郡を中心とする地域の一般的な二次医療を担ってきた.

 本計画は旧病院の老朽化,狭隘化が著しく,また,多様化,高度化する患者のニーズに応え,地域の中核的診療機能を担う施設や機能の充実を図るため,移転改築により整備を行うことが目的とされた.

リレーエッセイ 事務長の所感・5

構造改革(規制緩和・自由化)による環境変化

著者: 手島厚

ページ範囲:P.525 - P.525

●規制緩和・自由化の時代

 近年,世の中では規制緩和・自由化・民営化という言葉が当たり前のように使われるようになった.規制緩和とは,許可・認可など政府による各種の法規制を緩和・縮小することにより,主に経済活動の活性化を図ろうとする措置を指す.そして,公営の事業を私企業による事業に転換するのが民営化,貿易や市場参入にまつわる規制を緩和することが自由化である.

 その規制だが,まだ緩和される以前を思い浮かべると,経済活動にとっては良いことではなさそうである.その理由として,規制は競争をかなり排除するので,特定の人々や企業に既得権を与えてしまい,同時に行政が許認可や指導などでその自主性・自立的な活動を抑制する.要するに,都合よく競争抑制や需給調整を可能にできることが挙げられる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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