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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

特集 病院のセーフティ・マネジメント最前線

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.541 - P.541

 重大な医療事故の報道が続いて,医療安全の問題は深刻さを増している.今や患者安全の確保は国の医療施策における最重要課題となっており,病院は厳しい環境が続く中で,一層の対応が求められている.患者安全の確保は,医療の質改善における基本課題であり,安全管理の基盤の上に質向上に向けた様々な取り組みが構築されると考えるべきであろう.現代医療に予期せぬ有害事象が発生することは避けられないとしても,それを最小に抑止するための管理手法が検討されなければならない.高度で複雑な医療を求められる医療施設のクオリティマネジメントにおいて,安全の問題をどのように位置づけ,今後の有効な組織管理のあり方を考えてみたい.

 国は,医療事故の経験を共有することで効果的な防止策が可能になるとして,特定機能病院と国立病院(独立行政法人国立病院機構病院)に医療事故の報告を求め,第三者機関に事故事例の集積を図る施策を打ち出した.また,医療事故の発生頻度に関する調査研究にも着手している.病院は,国が行おうとしている当面の医療安全施策の方向を踏まえた対応が必要となろう.

病院医療における患者安全とクオリティ・マネジメントの実際

著者: 中島和江

ページ範囲:P.542 - P.548

 平成12年4月1日の医療法施行規則の改正,さらに平成14年10月15日の一部改正により,特定機能病院をはじめとして,すべての病院及び有床診療所において,患者安全のための院内体制の整備・強化が行われてきた.この4年間で,各医療機関では医療安全文化が根付きはじめ,数多くのインシデントレポートが報告され,様々な医療事故防止対策が講じられるようになった.

 しかし,その一方で難しい問題や新しい課題が明らかになっている.医療安全に関する用語の定義,インシデント情報の職種を越えた一元化の必要性,迅速で効率的かつ効果的な意思決定とアクションのためのツールや組織のあり方,医療安全管理部や専任リスクマネジャーの業務内容と権限,医療安全活動への医師の積極的な参加,合併症に関する院内報告の考え方,異状死の判断と警察への届出者,第三者機関への様々な事例報告などはその一例である.

医療安全確保のための当面の施策

著者: 岩崎康孝

ページ範囲:P.549 - P.555

■これまでの施策概要

 1.医療安全対策をめぐる経緯

 わが国では,平成11年の横浜市立大学附属病院の患者取り違え事故を契機として,医療安全について大変な関心の高まりを見せている.主な新聞社の記事の件数をみると,それまで年間約200~300件程度であった医療事故の記事が,現在では1,500~1,600件に増加している1)

 また,ある新聞社の調査によれば,医療事故が心配であると考えている国民は,77%に上るとされている2)

リスクマネジャー(医療安全管理者)の役割と業務

著者: 寺井美峰子

ページ範囲:P.556 - P.561

 医療事故防止においては,医療従事者個々の努力のみでは対処できない問題も多く,組織的な取り組みが不可欠であり,各医療機関において医療安全管理体制の整備が進められてきた.その中で医療安全管理を円滑に機能させるための実務担当者であるリスクマネジャーを配置する病院が増えている.この新しい役割担当者は,当初は先駆的な病院に配置され,組織的な位置づけや役割,業務内容はそれぞれに構築されていた.3~4年が経過した今,多くのリスクマネジャーが誕生して,実際の役割や業務についての標準的なあり方についても議論されるようになった.

 ここでは,リスクマネジャーの役割と業務について,筆者の専任リスクマネジャーとしての3年間の経験と医療機能評価機構の認定病院患者安全推進協議会「リスクマネジャー検討部会」における検討をもとに考えてみたい.

医療の質改善に向けた医療記録の点検・評価

著者: 石川澄

ページ範囲:P.562 - P.566

■医療の説明責任

 医療の質の向上を目的とする評価は,日本医療機能評価機構によってわが国でも一般化した.従来の機能評価は,病院管理者のリーダーシップの下に人材,施設機能が量的に確保され,組織的な病院運営がなされているかということが主眼であり,質を直接測るものではない.しかしこのような視点の評価がなされたことによって,多くの医療機関における組織構造の水準は向上したと思われる.

 医療を健康保持と危機管理に関する社会サービスであると位置づければ,医療の提供者には結果とそれに至るプロセスを受益者に説明する責任が生じるのは当然である.そのような社会サービスとしての医療の過程と成果を評価するために,医学的な妥当性が専門的に示されることのみならず,受益者である患者にとっても理解できる説明がなされなければならない.

医事紛争の回避と解決に向けた課題―臨床家の立場から

著者: 長谷川剛

ページ範囲:P.567 - P.572

人間というものは,自分の運命は自分で作っていけるものだということをなかなか悟らないものである.

 (アンリ・ベルグソン)

 医療訴訟の増加とともに,医療事故は大きな社会的問題と捉えられるようになってきた.日本全国の医療事故訴訟係属事件の新受数(新たに訴訟となった件数)は,最高裁判所事務総局民事部の統計によれば,昭和45年には年間102件の医療訴訟が提起されていたが,その後平成10年には年間622件の訴訟が提起された.そして平成13年には800件を超えており,1,000件を超えるのも時間の問題とされている.

 臨床医にとっても病院管理者にとっても医事紛争の問題は看過できないものとなっている.医療従事者は,安全かつ良質な医療を提供するために不断の努力を続けるべきであるが,同時にいかに医事紛争を回避するかということも考えておく必要がある.

【座談会】病院管理者は医療事故防止のために何をなすべきか

著者: 徳永英吉 ,   冨田信也 ,   畠中智代 ,   大道久

ページ範囲:P.573 - P.582

 今や医療安全や医療事故は,医療提供者だけでなく患者や地域住民にとって,ますます深刻かつ重要な問題であると認識されている.

 こうした流れのなかで,厚生労働省は本年4月から,大学病院などの特定機能病院や国立病院(独立行政法人国立病院機構病院)を中心に,一定の範囲の重大な医療事故については,第三者機関(財団法人日本医療機能評価機構)への報告を義務付けた.また,財団法人日本医療機能評価機構では,認定病院による「患者安全推進事業」を平成15年度から開始しており,医療現場からの患者安全推進に向けた活動が本格化しているという状況にある.

 本座談会では,それぞれの病院での医療事故防止における取り組みと実際をご紹介いただいた.

グラフ

離島住民の健康を支える―長崎県離島医療圏組合 五島中央病院

ページ範囲:P.529 - P.534

 長崎港の西方約100kmの東シナ海に浮かぶ五島列島.五島中央病院は,列島で一番大きな面積326km2の福江島にある.人口約48,000人の五島医療圏には5病院あり,病床数は全部で一般432床・療養54床.同院はそのうちの一般304床を占め,唯一の総合病院として離島医療の中核を担ってきた.

医療水準の向上

 同院の歴史は,古くは明治10年の郡立病院に始まる.現在の病院形態は,昭和43年,離島(五島・壱岐・対馬)の医療確保のために設立された「長崎県離島医療圏組合」の病院として発足したことによる.

レポート

「女性総合診療」を開設して・3(最終回)―「女性総合診療」と病院経営

著者: 佐栁進 ,   藤原圭太 ,   早野智子

ページ範囲:P.583 - P.585

 国立病院機構・関門医療センターは,本年4月1日の独立行政法人化に伴い,国立下関病院が名称変更しスタートした.当センターの「女性総合診療」 注1) は,2002年9月30日に開設した.開設当初は,地域医療に基盤を置く女性専用外来として西日本で最初の試みであった.その後潜在的に大きい患者ニーズに応える形で多くの医療機関に普及し,またその内容もニーズに合わせて現在も急速に進化している.先駆け的な医療サービスであるが故に,社会保険を根幹とするわが国の医療制度の中では,必ずしも病院経営上での貢献を直接示すことは容易でないが,「女性総合診療」開設以来の当センターの運営指標の推移を参考に,病院経営等への効果をご賢察いただきたい.

手術室関連医療事故防止のためのシステムアプローチへの取り組み・2―実際の FMEA 手順

著者: 眞嶋朋子 ,   佐藤紀子 ,   太田祐子

ページ範囲:P.586 - P.590

 医療におけるエラーを減らし,患者の安全性向上に向けた包括的な取り組みは,今日の重要課題である.しかし医療現場では,日々のミスや,事故発生後の処理,部分的なシステム改善に時間が費やされ,事故防止の抜本的な解決の糸口を見いだせぬままにいるのが現状である.

 本連載(全3回)は東京女子医科大学病院看護部手術室メンバーが中核となり,臨床工学技士,外科医,麻酔医,工学研究者,看護学部教員らを交えて行った手術室関連医療事故防止安全構築のための研究の取り組みを紹介するものである.プロジェクトの経緯は,第1回(先月号)に報告した.第2回では本プロジェクトの研究方法に焦点を絞って報告する.

新連載 回復期リハビリテーション病棟便り・1

リハビリテーション医が足りない

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.591 - P.593

 回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟は,「脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折等の患者に対して,ADL 能力の向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハプログラムを医師,看護師,理学療法士,作業療法士等が共同で作成し,これに基づくリハを集中的に行うための病棟であり,回復期リハを要する状態の患者が常時80%以上入院している病棟」と定義付けられ,平成12年4月の診療報酬改定によって「回復期リハ病棟入院料」という特定入院料として設けられた.その概要は表1の通りである.

 このシリーズでは,現場に従事する一臨床医の立場で回復期リハ病棟に関連した話題をとりあげていく.

短期特別連載 苦情対応システムの実際とその評価―臨床現場の事例から(最終回)

第4回 現場スタッフの葛藤および苦情対応システムの10の重要ポイント

著者: 佐伯みか ,   八巻知香子 ,   小澤恵美子

ページ範囲:P.594 - P.599

 本連載第1回は,「意見活用システム」の意義・構造を詳述し,2・3回は,その聴取機能と改善機能に関する調査結果を述べた.最終回である本稿は,現場の第一線で実際に苦情対応にあたるスタッフを対象に行った調査の結果を紹介し,最後に,連載のまとめとして苦情対応システムの10の重要ポイントを述べたい.

◆職員に伝えられる苦情と職員の対応に関する調査

 問題を感じた時に,投書するよりも現場の職員に直接伝える患者のほうが多いことは第2回で述べた.直接伝えられた苦情は,投書以上に即座の対応を求められることが多いため,スタッフには瞬時の適切な判断力・行動力が要求される.

 「(患者さんは)事務職には言いやすいんだと思います.自分は何もしていないのに,他の職種の問題について怒られることはしょっちゅうあります」,「何度謝っても,長時間怒り続ける患者さんがいると,“本人(苦情の該当者)が謝ってよー” と思う.」(事務職の回答より)

特別座談会

戦略的人事・労務政策への取り組み(前編)

著者: 佐合茂樹 ,   鈴木紀之 ,   中村彰吾 ,   鳴川一彦 ,   林茂

ページ範囲:P.601 - P.606

医療を取り巻く厳しい状況下にあって,病院事務部門を率いるリーダーの力量が大きく問われている.医療の質や患者サービスを向上し,同時に健全経営を図る.病院長を補佐し,各職種の連携を図り,職員が業務を円滑に行える体制を整える――医療を側面から支援する事務部門の果たす役割は極めて大きい.本座談会では5病院の事務長に,病院経営戦略の最も重要なテーマの一つである病院事務部門における「人事・労務戦略」についてお話しいただいた.

連載 病院管理フォーラム 薬剤経済評価・1

薬剤経済評価とは

著者: 井上忠夫

ページ範囲:P.607 - P.608

 近年,医療経済に対する評価が,わが国でも重要な問題として取り上げられてきている.医療費という限りある社会資源をどのように効率的により公正に配分していくかを検討することが医療現場でも急務となってきているからである.また,従来の経験主義に基づいた医療の実践から脱皮し,患者に最適な科学的根拠に基づいた医療(EBM)を実践することが求められている.

 医療の究極の目的は,患者にとって最適でかつその時の最高の治療を提供することにあるが,医療資源には限りがあるため,その遂行にあたっては科学的な根拠だけでなく,経済学的な根拠も考慮に入れることが要求されてきている.

事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・28

小規模組織における組織変更の取り組み一考

著者: 中嶋照夫

ページ範囲:P.609 - P.611

 本稿を執筆している今,季節は冬から春へ急速な移ろいを示しており,一般社会でも卒業式や入学式・入社式などが行われ,新旧の交代が盛んである.当院でもまた3月期末の退職者を送り出し,そして4月の定期採用者の入職式を行い,それなりに新陳代謝をすることができた.

 木々が冬の眠りから覚め芽吹きのオーラを発するこの時期に,患者食のメニューによく登場するのが春野菜を使った「胡麻よごし」である.これは季節の青味野菜を素材にさっと湯がき,しんなりさせてみりんと醤油・塩・砂糖で味を調え,それに胡麻を散らした比較的簡単で重宝な小鉢料理の一つである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第117回

精神科病院2題―財団法人慈愛会奄美病院 医療法人社団五稜会病院

著者: 川島克也 ,   木榑冏 ,   安野英紀 ,   田中稜一

ページ範囲:P.612 - P.620

財団法人慈愛会奄美病院

 日建設計設計室長 川島 克也

 財団法人慈愛会奄美病院は,奄美大島およびその周辺の離島を包括する地域密着型の精神科病院として創立されて以来,奄美群島の精神医療の中枢機能を担い,本土復帰50周年を迎える今日に至るまでの43年間の長きにわたってその使命を果たしてきました.

 病床数は350床まで順次増床されてきましたが,建築の老朽化は著しく,また療養環境も時代にそぐわないものとなっていました.

リレーエッセイ 事務長の所感・6

病院の組織力

著者: 菅富雄

ページ範囲:P.621 - P.621

●組織力と第三者評価

 前回登場の手島事務長の投稿に関連して病院の競争力について考えてみた.企業と病院業界の競争力の差はなんといっても組織力にあると思う.顧客満足の追求,サービスの質の向上,徹底的なコスト管理など,企業にとっては当たり前のことが,病院業界ではまだまだできていない.これは,様々な規制に守られ切実な生き残り競争にさらされることがなかったこと,根強くある医師をはじめとした業界全体のパターナリズム,資格者集団であり組織として機能しづらいということなどが考えられる.ただ,昨今の状況を見ていると,競争力とは違った観点から病院の組織が見直され,結果として組織力の向上に役立っているケースが増えてきている.

 最近多くの病院が取り組んでいるものに財団法人日本医療機能評価機構による認定や,ISO9001:2000の認証取得がある.特に病院機能評価は,診療報酬の施設基準要件に入ってから受審病院が急増し,既に1,200件を超える病院が認定を受けている.これら第三者評価への取り組みが増えている背景には,連日のように報道されている医療事故をはじめとする病院業界への国民の批判があると思われる.しかし,これらの取り組みが結果として組織力の向上に寄与し,競争力をつけることができるとすれば一挙両得である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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