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雑誌目次

雑誌文献

病院63巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

特集 動き始めた新医師臨床研修制度

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.725 - P.725

 新医師臨床研修制度が実施の段階に入った.先行きが危ぶまれた臨床研修の必修化も,昨年の秋にはほとんどのすべての臨床研修病院と研修医が参加してマッチングが行われ,95%以上の組み合わせが決定するなど終盤になってから急速に準備が進んだ.その結果,臨床研修病院で研修する研修医の割合が,従来の4分の1程度から,4割以上となったことなど,新たな臨床研修制度の趣旨に沿った結果が得られたということができる.

 今回の臨床研修制度の改革は,医療の基本的なあり方に大きな変革をもたらすものと考えられるが,医師が養成され,診療活動を行う一連の経歴,すなわちキャリアパスが基本的に変わることが見込まれる.大学病院の医局講座に拠点を置いて関連病院に派遣をされることを繰り返しながら自らの居場所を定めてゆく,従来の医師の一般的な履歴は,今後はどのような流れに変わってゆくのか,新たな医師のキャリアパスを展望しておく必要があろう.

新医師臨床研修制度と新たな医師のキャリアパス

著者: 矢崎義雄

ページ範囲:P.726 - P.730

 本年度よりいよいよ新医師臨床研修制度が実施されることになった.昭和43年にインターン制度に代えて旧臨床研修制度が導入されたが,医師免許の取得後の臨床研修に変更されたのみで,研修目標を設定するプログラムは依然明確化されなかったために,将来目指す専門領域を中心に大学病院で主に研修が行われるところとなり,むしろ総合的な臨床能力を修得する機会はきわめて乏しくなった.しかも臨床研修が努力目標であったことから,制度的にも問題があった.以来このような問題点が指摘されて,度重なる制度改善の意見具申や指導が行われてきたが,国民皆保険の導入による医療需要の急激な増加,医療技術の著しい進歩,そして経済の高度成長などといった社会的な背景があって,臨床研修制度改革の声はこの30年間必ずしも大きくならなかった.

 それではなぜ今臨床研修制度の抜本的な見直しが行われたのであろうか.それには,医療に対する社会的な背景の最近の大きな変化が,時代と社会のニーズに応える医師の育成を目指した,新しい医師臨床研修制度を実現させた大きなインパクトになっていたことをまず理解しなければならない.

新医師臨床研修制度について

著者: 上田博三

ページ範囲:P.731 - P.735

 新医師臨床研修制度が,本年4月より実施されている.新制度への移行は,昭和43年のインターン制度の廃止以来,36年ぶりの大変革であり,医師の養成にとどまらず,医療提供体制の今後に大きな影響と変革をもたらすと考えられる.ここでは,新制度について,今日に至る経緯と制度の概要,現状について解説する.

■インターンから臨床研修へ

 戦後まもなく再編された医師国家試験制度では,国家試験受験資格を得るために,大学卒業後,1年以上の診療および公衆衛生に関する実地修練を受けるものとされていた.このいわゆるインターン制度に対しては,臨床や公衆衛生の現場で,十分な経験ができないことや,経済的な保証がないことなどから,制度的限界が各界から指摘されるとともに医学生の不満も高まり,社会問題となっていった.

研修医の指導・評価の実際と課題

著者: 堺常雄

ページ範囲:P.736 - P.740

 2004年の4月より36年ぶりの卒後臨床研修制度改革による研修がいよいよ始まった.この新制度は次のような点で評価される.

 ①努力義務であった研修が義務化された

 ②研修の到達目標が明確にされた

 ③研修病院への門戸が広げられた

 ④地域による医師養成へのかかわりが重要視された

 ⑤研修医が病院を選択する

 しかし,研修医にとっては初めての経験であり,研修病院・指導医にとっても今までのシステムとは違ったものであり,臨床研修に対する考え方の変革を迫られることとなり,現場ではかなりの混乱も見られているのが実情である.今回の制度改革はいろいろな角度から捉えることができるが,ここでは臨床研修病院の研修システム,指導体制,臨床研修の評価を中心に述べてみたい.

新医師臨床研修制度の地域医療への影響の現況

著者: 樋口紘

ページ範囲:P.741 - P.747

 1億2,700万人が住む日本国内の津々浦々,たとえ過疎地であっても人が住むところには生活があり,人は病気を避けることはできない.人口が少なく医業が成り立たないへき地医療のほとんどは地方の自治体病院が担っている.その地方自治体病院の医師不足は都会では窺い知れぬ永遠の課題になっているのは周知の通りであり,日本の医療の抱える暗闇でもある.本稿では新医師臨床研修制度(新研修制度)の地域医療への影響について岩手県の現況(平成16年6月現在)を中心に短期間に捗猟し得た他県の自治体病院について述べる.

1.全国の医師数と地方別医師偏在

 先に厚生労働省(厚労省)は医師の適正数を人口10万対200人としてきた.「平成14年医師,歯科医師,薬剤師調査」(表1)によれば,全国の医師総数は人口10万対206.1であり,すでに200を超過しているものの高齢医師や在宅女性医師などを除いた医療施設従事医師は人口10万対195.8で200に達していない.

【座談会】新医師臨床研修制度と今後の病院における医師の確保

著者: 岸本晃男 ,   葛原茂樹 ,   小山田惠 ,   三宅祥三 ,   大道久

ページ範囲:P.748 - P.756

 本座談会は,2004年4月から実施された「新医師臨床研修制度」について実際の現場での評価,問題点を挙げ,以下の観点からご討論をいただいた.

1.新医師臨床研修制度とのかかわりと同制度の意義

2.新医師臨床研修制度の当面の問題点

  ・新たな臨床研修制度運用の中で抱えている問題点は何か.

  ・マッチング方式で研修医は確保できたか,大学病院との関係はどうか.

  ・研修プログラムは予定通り進行しているか,指導医の確保と指導・評価体制はどうか.

3.研修医の身分・処遇について

  ・研修医の身分と手当てをどうしているか.

  ・研修医の勤務体制,当直などへの対応など,いわゆる労働者性をどう考えるか.

4.地域における医師の確保状況について

  ・新医師臨床研修制度の発足に伴う医師確保の現況はどうか.特に地方部では?

  ・麻酔科医,小児科・産婦人科医など各診療領域での問題点.

  ・当面の対応をどうしているか.紹介予定派遣制度は機能しているか.

5.今後の病院の医師確保のあり方について

  ・病院は今後,円滑な医師の確保に向けてどうすべきか.

  ・今後の大学病院の役割と新たな地域への医師派遣の仕組みをどうすべきか.

 病院・大学の視点と地域・都市の視点を交えることにより,この新制度がもたらした変化を総合的に捉えることを意図したものである.

 現場からの報告や提言を踏まえて,今後,この制度をどのように捉え,医師教育の発展に寄与していくべきか.医師確保をどのように行っていくかの方向性や方針が見えてくることができると考える.

【座談会】研修現場は今

著者: 岡田定 ,   島田英昭 ,   名郷直樹 ,   外村洋一 ,   北村聖

ページ範囲:P.757 - P.766

 本年4月にスタートした新医師臨床研修によって現場はどのように変わったか.設置母体や規模の違う病院の臨床研修担当者にお集まりいただき,それぞれの臨床現場でどのようなことが起こっているか,また新制度下での研修が始まって見えてきた課題や今後の対策などをご紹介いただいた.

グラフ

”大学病院“での研修現場は今―千葉大学医学部附属病院

ページ範囲:P.713 - P.718

 今年4月よりスタートした新医師臨床研修制度(以下,今制度).2000年末に「医療法等の一部を改正する法律案」が成立した時から今年4月まで,各病院ではその準備に追われていたに違いない.今制度の基本理念は,プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身につけることとしており,研修方式としては,従来,大学病院で行われていたいわゆる“ストレート研修”ではなく,“ローテーション研修”を前提としている.制度の趣旨からしても,“大学病院”は逆風の中のスタートを強いられたといえる.果たして昨年末のマッチングの結果は,“大学病院”の定員割れが全国的な傾向として現れた.研修実績のある市中病院が脚光を浴びる中で,あえて“大学病院”の研修の実態を探るべく,本号では,千葉大学医学部附属病院(以下,千葉大学病院)での研修を紹介したい.

新連載 病院ファイナンスの現状・1

変わってしまった銀行審査

著者: 福永肇

ページ範囲:P.767 - P.769

●重視されていた「信用」

 日本の銀行取引は従来「信用」が基本とされてきました.融資を受けてそれをきちんと返済をしていく,そのことで信頼関係を築き,「信用」を確立していったのが日本の企業と銀行との関係でした.

 銀行は自分のお金(自己資金)ではなく,第三者である預金者のお金を融資するのです.貸付金を必ず返済してくれるところに融資しなければなりません.大きなリスクをとるわけにはいかないのです.ここが「投資」と「融資」の大きな違いです

連載 病院管理フォーラム 薬剤経済評価・3

薬剤経済学の臨床への応用①―重要な薬剤経済学用語解説

著者: 井上忠夫

ページ範囲:P.770 - P.772

●薬剤経済学で使用される QALYs とは

 Quality Adjusted Life Years (QALYs) とは,生活の質で調整した生存年で,生存年を患者の QOL(効用値)で重み付けして計算したものである.同じ生存年でも,その生活の過ごし方によって区別することができる.長期的な分析では最も一般的に使用される効果指標である.

 完全な健康状態を1として,死亡を0としたスケールを各健康状態における QOL を効用値としてスコア化し,これと生存年を掛け合わせることによって,QOL と生存期間の両方を総合評価した単位である.例えば,効用値0.5の健康状態で10年間生存した場合には,0.5×10=5QALYs となる

事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・30

病院マネジメントのスタンダードを求めて(2)―戦略と VISION・MISSION

著者: 山本展夫

ページ範囲:P.773 - P.775

 前回ふれたように,1996年が当院病院マネジメントのターニングポイントとなった.それは,この年より本格的に戦略的思考を取り入れたことに端を発している.

●ターニングポイント

 当時,病院を取り巻く外部環境に大きな波が訪れていた.医療費削減策が着実に進む一方で,第二次医療法改正が施行され療養型病床群および特定機能病院が誕生した.近い将来,国策として機能分化がさらに図られてゆくことが示唆されていた.それでも,いち早く療養型病床群を選択したごく一部を除けば,多くの病院が一般病院としての存続を目指していたと思う.実際,当院においても,外来フロアは毎日沢山の患者で溢れており,外部環境の変化を察知してはいたものの,継続してサービス改善や経費節減に尽力していけば,なんとかなると過信していた.

回復期リハビリテーション病棟便り・3

初めが肝心―「説明」という業務

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.780 - P.781

 「前の病院で今後の治療方針や回復見込みについてどのような説明をお受けになりましたか?」.この質問に返ってくる言葉は,「後はリハビリ次第と言われました.」「特に(説明は)ありませんでした.」この2つに類するものが多いように思う.

 筆者が勤務する茨城県立医療大学付属病院は急性期病棟を持っていない.したがって,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟への入院患者は,ほぼ全例が他院からの紹介による転入院である.入院当日,ルーチンの評価・診察や指示出しを行った後,カンファレンス室などで患者さんとそのご家族と向き合って座る.そこで入院の大まかな方針や目標,入院見込み期間などを説明することになる.冒頭の質問は,その説明に入る前に筆者が必ずお尋ねすることである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第119回

君津中央病院

著者: 丹下憲孝

ページ範囲:P.782 - P.786

 君津中央病院は,旧病院の施設の老朽化と狭隘化に伴い,「21世紀を目指す南房総の中核病院」として,新たに以下の基本的性格を持った病院として計画された.

リレーエッセイ 事務長の所感・8

経営管理部長はスーパーマン?

著者: 遠洞茂樹

ページ範囲:P.787 - P.787

●多彩なマネジメントツール

 ここ数年,私の勤務する病院が属する法人グループ(以下法人)では「マネジメント」用語が飛びかっている.「ISO 品質マネジメントシステム」「ナレッジマネジメント」「キャッシュフローマネジメント」「リスクマネジメント」「ISO 環境マネジメントシステム」等など.そしてこの4月から,「コンプライアンス」にも取り組むことになった.こうなるとこのマネジメントを統合するためのマネジメントも必要となり,「統合マネジメント」の考え方と担当する組織が設置された.

 ところで私の役職名は経営管理部長である.この役職名は,なんだかとても偉そうで威厳ある印象がする.経営全般にもれなく目を行きわたらせ,健全で確実な運営を行ってもらいたい,とのトップの思いが込められている(ような気がする).今回,「コンプライアンス」を導入するにあたって,法人各施設の経営管理部長が,この「統合マネジメント」の統括責任者になることが決まった.

短期連載 特定医療法人・承認審査の事例・2

都道府県・地方厚生局 承認審査のポイント

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.777 - P.779

 特定医療法人の承認審査は,国税局による審査の他に都道府県,地方厚生局との折衝が必要になる.

 都道府県に対しては,「病院であって,40人以上の患者を入院させるための施設を有すること」等の施設要件の審査のために,都道府県知事証明願を提出する.また,都道府県に対しては,特定医療法人移行に伴う定款変更の認可申請も行う.

 地方厚生局に対しては,「役職員一人につき年間の給与総額が3,600万円を超えないこと」等の要件の審査のために,厚生労働大臣証明願を交付申請する.

 以下,都道府県,地方厚生局の承認審査の指摘事項と承認を得るためのポイントについてとり上げる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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