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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻1号

2005年01月発行

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特集 医療の本質を捉える

巻頭言 フリーアクセス

著者: 河北博文

ページ範囲:P.13 - P.13

 医療はいつの時代,どこの社会でも人間の生活に必要とされてきた.医療そのものにも時代や地域によって異なった文化がある.診療の場としての病院という組織にもそれぞれ文化がある.また同時に,医療は検証できるものでなければならず,そのためには記録し,その情報を活用することによって確立される科学性が求められる.

 ところが,今日,医療に関して語られることの多くは医療制度にかかわるものである.政治的思惑と財政からの拘束,さらには産業としての可能性などが議論の多くを占めている.一方では,人類の歴史を通して探求されてきた“不老不死”があたかも可能であるかのように,医療を利用する側の期待は無限に近い.

アレキシス・カレルの現代性―『人間―この未知なるもの』に学ぶこと

著者: 渡部昇一

ページ範囲:P.14 - P.17

「この本は古くなるにつれて,ますます時宜を得たものになるという逆説的運命パラドキカル・デステニィを持っている」

と,アレキシス・カレルは1935(昭和10)年に出して世界的名声を得た自著『人間―この未知なるもの』の1939(昭和14)年の新しい序文の中に述べている.自分が書いた本について数年後にこのように言えることは,物を書く人間にとって最も幸せなことであろう.

 ところで,カレルがこの本を書いてから今年でほぼ70年経つ.そして彼のこの本は「ますます時宜を得たものになる」という逆説的運命をいっそう明らかに示してきていると言えよう.それはなぜか.それは『人間―この未知なるもの』の序文に暗示されている.

変わっていく医療

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.18 - P.22

私は昭和12年に京都大学医学部を卒業して国家試験なしに医師免許証を交付された.ところが,昭和23年からは GHQ 司令部の軍医 Sams 准将の指導で,医学部卒業後1か年のインターン研修を終えた者で医師国家試験をパスした者に医師免許証が下付されることになった.しかし,この制度は昭和45年をピークとする学生運動の影響を受けて崩壊し,昭和46年からは卒業直後に医師資格試験が旧厚生省の指導の下に行われ,希望する者のみに2か年間の教育病院での研修を受けた後の医師は大学の研究・教育職に就くか,病院の勤務医になるか,開業医,すなわち実地医家となったのである.これらの各種の医師がそれぞれの能力に応じた医療を行うことになったのである.その後,一定の研修を終えて各学会による臨床実力の査定の下に,学会認定医または専門医の標榜を公示できることが許されるに至ったのである.

 日本の現在の医療は,上記の様々のレベルの医師によって実践されているのである.そこで,日本における医療の現状の何に問題があるか,その改善はどのような方向に向かっているか,その改善を阻止しているものは何かということに触れ,日米の医療の実態を比較しつつ,日本の医師の向くべき方向などについての私見を述べたいと思う.

医療の可能性

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.24 - P.28

医療の可能性について論ずる場合,医療関係者の間でもその意見は大きく分かれるであろう.近代医学の歴史は絶え間ない進歩の歴史である.20世紀の100年間を考えても,診断の面では X 線診断法の発達,超音波,CT,NMR(MRI),PET 等を用いた新しい画像診断法の開発,内視鏡を用いての診断等,また治療の面では抗生物質による感染症の治療,癌に対する化学療法や放射線療法の開発,様々な移植療法の臨床への応用,内視鏡治療の発達等,枚挙に暇がない.

 以上のような著しい進歩に目を向けるならば,医学は無限の可能性を含んでおり,その医学の進歩に基づいて行われる医療にも限りなく多くの可能性を期待することができるといえよう.しかし一方で現在の医学の知識では病態を解明することができず,したがって治療も症状の改善に留まる疾患が数多く存在しているのも事実である.また,それだからこそ医学の研究をさらに推し進め医療の現場にその成果を反映させる必要があると考えられる.

これからの医療を支える哲学

著者: 広井良典

ページ範囲:P.29 - P.33

様々な意味において,現在の医療が根本的なレベルでの転換点に立っているということについては,医療従事者であるとそうでないとを問わず,多くの人が感じていることであろう.ではその転換ということの実質は何であり,今後の医療を考えていく際の基本的な座標軸はどのようなものであるのか.ここではこうしたテーマを,筆者の専攻領域である科学史・科学哲学および医療政策の関心を踏まえながら,「科学」というもののあり方の変容とそのゆくえという視点を軸にして考えてみよう.

遠近法で観る医学医療

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.34 - P.38

科学としての “命,Life” をめぐる研究の進歩は,周辺の科学技術を集約し,今や,かつて歴史上にもないほどの巨大なライフサイエンスという潮流となりつつある.すなわち,18~19世紀の 【産業革命(エネルギー)の時代】,19~20世紀の 【物理(ものの究極像の解明)の時代】 を経て,21世紀の 【生命(生命の究極像の解明)の時代】 を迎えつつある.物理の時代と,生命の時代を貫く思想と方法論は,要素還元論であり,その集大成が生命のロゼッタストーンともいうべき全 DNA 配列の決定と,それに引き続くゲノム時代の創出である.しかしゲノム解析からの人間解明には限界もみえ,最近はミクロ(遺伝子)から,マクロ(固体)へと向かう遡行性の学問分野が次々に開発されつつある.それらは網羅的方法であり,“塊,すべて” という意味の,○○オーム(-ome)と命名され,その学問を・・・ミクス(-mics)と呼ぶ(例:プロテオーム,プロテオミクス).これらはライフサイエンスのもつ限りなく “光” の面である.これらの進歩の結果,ヒトは生存を時間的,空間的にも著しく延長拡大させつつ,地球の春を謳歌するという構図を創った.

 しかし21世紀を迎え,急速に生命への賛美歌は,レクイエムに変わりつつあるというのもまた事実である.先進諸国では,どこの国も急激な高齢化社会と激増する生活習慣病,あるいは突発する地球規模の新興・再興感染症のブレイクアウトに怯え,環境の劣化に直面し,現代人は,多かれ少なかれ,自分自身や家族の今や,将来の生存に対する不安を抱きつつある.これがまごうかたなき「ライフ」を巡る影の部分である(図1a,b).本稿ではこれらを枕詞として,マクロ的疾病論を私論的に展開する.

医療の歴史的展望

著者: 星和夫

ページ範囲:P.40 - P.44

昔から「歴史は過去と未来の対話である」「古きをたずねて新しきを知る(温故知新)」などといわれているように,医学・医療の歴史を振り返ってみることによって,われわれの進むべき方向を見い出すことができる.

 医学の起源を特定することは難しい.おそらく1~2万年前,現生人類の起源とともに医術らしきものはあったであろう.動物にさえも本能的医術は存在しているといわれ,ホベルカは多くの例を挙げている1)

グラフ

医療法人青嵐会 本荘第一病院―川がもつ「癒し効果」を治療に取り入れる

ページ範囲:P.1 - P.6

秋田県と山形県境の鳥海山を源流として,日本海に注ぐ子吉川.本荘第一病院は,その河口部近くの河畔に立地する.JR羽後本荘駅より徒歩15分,車で5分の距離にある.


川辺を散策しながら糖尿病について学ぶ

 2004年11月5日金曜日の午後0時半.「せせらぎパーク」と呼ばれる本荘第一病院裏手の河川敷に,同院のスタッフも含めて70名以上が集まった.同院主催の「第6回子吉川リバーサイドウォークラリー」に参加する人たちである.

 散策前に,血圧・脈拍,希望者には血糖値を測定して健康チェック(散策後も測定).オリエンテーション・準備体操の後,川沿いの遊歩道を歩き出す.

 前日は雨だったが,その日は例年より数℃高い10月中~下旬の陽気.河原は風があるが,「気持ちいいね.歩いていると全然寒くないよ」の声.上げ潮で下流から上流へゆったりと流れる水に,陽の光が反射する.

 ウォークラリーは,糖尿病患者・家族,地域住民を対象に,7年前から始めたもの.他にも講演会や,毎週土曜の糖尿病教室を行っているが,川辺のウォークラリーは,歩きながら楽しく病気について学べ,運動療法の動機付けとなるイベントである.患者同士の情報・意見交換も,精神的なサポートになるという.同院の理念「地域と手をつなぐ医療」の実践の一つとなっている.

鼎談

これからの医療情報・システム・評価

著者: 秋山昌範 ,   長谷川敏彦 ,   長谷川友紀

ページ範囲:P.45 - P.56

わが国の医療界は今,大きな変革期を迎えている.近未来を占ううえで欠かせないキーワードである「医療情報」,「医療システム」,「医療評価」を軸に,わが国の最先端で活躍されている3名にマクロとミクロの視点から将来像を語っていただいた.

特別寄稿

診療科別・部門別損益計算 (原価計算)の活用方法

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.57 - P.60

■病床利用率1%の重み

 皆さんはご自身の病院の病床利用率が1%上がった時,どれだけ「利益」が増加するかご存知だろうか?私どもがコンサルティングを行ったある病院では,1%上げるだけで数千万円もの利益が増加することがわかった.経営改善に取り組まれている病院において,職員に対してこのような経営数値(努力すればこれだけ良くなる!)を示すことができれば,改善意欲の向上に大きな効果が期待できるのではないだろうか.

 こういった経営数値は,診療科別・部門別損益計算や原価計算(以下,診療科別損益計算)を実施しているからこそわかるものであり,診療科別損益計算は,職員に対して経営改善意識を醸成するために役立てることができる.ただ,この本来の目的は経営改善のためのツールとして損益改善を促すものであると考えている.

連載 狙われる病院 暴力・不当要求への対応・1

暴力団等の最近の傾向

著者: 樫山憲法

ページ範囲:P.61 - P.63

反社会的勢力とは,暴力団,暴力団員,表立っては暴力団と無関係を装って経済活動を行っている暴力団関連企業およびその構成員,右翼団体に仮装した政治活動標榜ゴロ,同和団体を口実にあるいは同和団体を名乗って不当な利益を求めようとするえせ同和行為者等を指す.

 彼らは自己の利益獲得のために手段を選ばない集団であり,平成4年に施行された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下,「暴対法」という)による規制の強化や,バブル崩壊後の経済不況から,最近では新たな資金源として,医療関係者もターゲットとするようになった.その背景には,医療が保険制度になった時点から,医師と患者の人間関係が希薄になり,医師への感謝心が薄れたことなどがあるが,彼らは数々の暴力や脅迫または嫌がらせ行為を用いて,生活水準の高い医療関係者から,恒常的に金品を奪取しようとしたり,また,義務なきことを行わせて不当な利益を得ようとするなど,医療関係者の生命,身体,財産,自由を脅かそうとする動きを強めている.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・1

医療訴訟の契機

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.64 - P.65

Q 友人の医師が医療訴訟を起こされました.日頃から患者さんにやさしく,説明も丁寧なのに.本人は何もミスになるようなことをしていないと言っています.いったい,医療訴訟はなぜ起こされるのでしょうか?

A 完全な予防方法は存在しません.若干トラブルを起こしやすい,あるいは事故を起こしがちとされる医療従事者の類型はありますが,訴えられやすい類型というのはこれらと必ずしも一致しません.

回復期リハビリテーション病棟便り・7

プライマリナース受難

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.66 - P.68

「A さんのせいで弟はすっかり自信をなくしてしまったんですよ!」患者 M さんの長女の発したその一言で,面談が行われていたカンファレンス室の空気が一瞬にして凍りついた.

 面談の対象である M さんは73歳の女性.小脳出血のため四肢体幹の運動失調を来した.発症後約2か月半で,近隣の総合病院から筆者の勤務する茨城県立医療大学付属病院の回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟に転入院してきた.長女,長男(いずれも30代独身)との3人暮らしであるが,入院後第2回となるその日の面談には長女のみが出席し,M さん自身の参加は見送られた.A さんは,M さんのプライマリナースである.

病院ファイナンスの現状・5

銀行から見た病院ファイナンスの課題 「情報の非対称性」と「低い売上高水準」

著者: 福永肇

ページ範囲:P.69 - P.73

11月号,12月号では銀行での病院宛融資審査のファーストステップである「企業格付」についての解説をいたしました.病院の法人自身の「企業格付」がパスして初めて,病院が希望する個別融資案件に対しての「案件格付」付与というセカンドステップでの作業と検討が銀行内で始まります.

 銀行には病院専用の審査評価基準や特別のファイナンス手法はありません.一般企業と同じ審査です.ところで,病院では「あたりまえ」として気にしないことの中には,多くの一般企業とのビジネスを行っている銀行では,病院独特の課題点として論議されていることがあります.それらの内,今月号では銀行からみた病院ファイナンスでの課題として「情報の非対称性」の存在と「医業収益の水準」について説明させていただき,「案件格付」段階での融資審査における具体的な課題点については次号以降のファイナンス解説の中で触れてみます.

病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・34

地域中小病院の急性期への取り組み(3)

著者: 川本豊廣

ページ範囲:P.74 - P.76

●急性期病院としての当院の方向

 当院の目標は,理念・基本方針を更新していく中で明確にされていくが,基本は「地域で必要とされる病院」であり,地域の変化・医療内容の変化・制度の変化などに広くアンテナを張り,地域の方に選んでいただけるよう体制を常に更新していくことだと理解している.

 当院では,現理事長の提案により1987年に TQM の導入を図った.病院も一般企業と同じく「すべての後工程はお客様」であり,常に職員自らが経営に参画し,改善を進めることが必要と考え,以後年2回の院内大会を継続して実施している.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第121回

鶴岡市立荘内病院

著者: 高橋明 ,   永井和志

ページ範囲:P.78 - P.83

計画の経緯と概要

 鶴岡市立荘内病院は,日本海を望む,山形県鶴岡市に立地し,庄内地方南部の1市7町1村(人口約18万人)の中核基幹病院として,二次医療を中心に頻度の高い三次医療を担う病院である.

 旧病院建物の老朽化による病院機能の低下から,疾病構造の変化や医学技術の進歩,また多様化する医療需要に対応するため,平成9年に整備基本構想を策定し,平成10年に基本設計,11年に実施設計を行い,約3年の工事期間を経て,創立90周年を向えた年に新病院として新たにスタートした.

リレーエッセイ 事務長の所感・12

病院経営のコペルニクス的分析

著者: 浅田年愛

ページ範囲:P.85 - P.85

●事業計画の自立性

 助成金というのは麻薬のようなものだと思う.毎年多くの医療機関が何らかの助成金を求めて,事業を行う.そのおかげで新規事業の資金調達が比較的容易にできる.しかし,いつの間にか助成金に依存し収支や採算性に正常な判断ができなくなっていくケースがある.まず助成金があって,事業をそれに合わせるようになりがちだ.公共事業といわれるものは過去にその最たるものだったと思う.昨今の状況は確かに厳しいが,状況を予見し,病院事業に取り組むうえで,危険は回避し,機会はものにする.病院事業に正面から取り組む努力は民間病院の本来の姿である.病床規制が始まり,真っ先に公的病院が縮小,淘汰されたことは記憶に新しい.もちろん,優遇税制,公共事業,助成金が悪いわけではない.目先を追いかけるようなビジョンのない経営計画に問題がある.助成金は景気対策と認識し,超高齢化社会という現実にあって,満足度の高い収益力のある事業計画を立てることが大切と思う.


●顧客満足

 「経営効率の良い病院」と「経済効率の良い病院」は定義が違う.前者は経営者が,後者は顧客が求める.「門前調剤薬局」や紹介率を意識した「門前クリニック」.そんな正式呼称はないが,前者は薬漬け医療が問題となった時代に導入され,面分業によりアクセスが容易ということになっている.後者は大規模病院がその豊富な医療資源を効率的に活用するために入院中心の医療に特化し,病診連携を進め,かかりつけ医との役割分担を明確にする.高機能外来センターといった高邁な考えに基づくものもある.顧客を意識して努力している結果だと思う.しかし,「紹介率30%以上」という政策目標値を巡って議論があるのも事実である.顧客満足のない数字に求めるべき根拠などない.効率を良くしようと導入されたものが,どんどん非効率に出来高を押し上げることになる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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