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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

特集 勤務医と労働基準法―医療の現実と法

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.797 - P.797

 国民が貧困であった戦前,戦後の時代では,国民は労働に励み,医師もまた献身的に働いた.特に医師はその倫理観から地域に出向き,昼夜を問わない献身的労働を行い,その見返りとして多くの尊敬を受けてきたのである.1961 年からの国民皆保険制度は日本経済の高度成長に呼応し,経済力を背景に国民は安価に標準的な医療を受け,同時に医師も保険給付によって安定した所得を得るように導いた.

 しかし,時代は縮小経済成長のもと医療費抑制策が主となり,また医師の半数以上が勤務医となった.医師の所得の頭打ちとともに,大勢を占める勤務医の意識も変わってきているように思われる.さらに,社会から病院医師を見る目も変化しているように思われるのである.

医師を管理する立場から―医療現場からの提起

著者: 松村理司

ページ範囲:P.798 - P.802

当院の沿革と実績

 当院は,京都市山科区(人口約137,000人)の名神京都東インターのごく近くに位置している.開設は1980年なので,比較的新興であるが,急性期を中心に回復期から慢性期まで一貫した医療を提供する地域の中核病院である.

 病床は698床であり,一般病床478床(ICU/CCU12床を含む)と慢性期病床220床(医療療養型病床60床,介護療養型病床50床,回復期リハ病床50床,老人性痴呆疾患病床60床)から成っている.手術室は10室ある.いわば大型のケア・ミックス病院といえる.

 なお,当院を含め2つの病院・6つのクリニック・数多くの介護施設・その他いくつかの医療関連部門で構成される洛和会ヘルスケアシステムの一翼を担っている.

 1985年には洛和会京都看護学校を開設しているが,医師臨床研修病院指定は1997年,歯科医師臨床研修病院指定は1999年となっている.

 昨年開始の新医師臨床研修制度の下では,初期研修の場は大学附属病院から地域一般研修病院へ大幅に移ると予想したので,当院でもやや多めの研修医を採るようにした.

 2005年8月当初現在,2年次16名,1年次14名の研修医(医科)がいるが,その他にもシニア・レジデント(3~5年次)が15名,歯科・口腔外科レジデント(1~3年次)が6名いる.一方,指導する側のスタッフは,歯科・口腔外科医12名(うち歯科麻酔医4名)を含め116名であり,常勤医全体で167名のかなり大きな所帯になっている.非常勤医も71名と多い.

 副院長や所長や部長といった幹部級医師の人事は,大学絡みやその関連である場合がほとんどだが,ヘッドハンティングによる者が少しずつ増えてきている.

 関連大学は,土地柄,京都大学医学部であることが最も多く,ついで京都府立医大となっているが,その他の近隣大学もいくつか含まれる.スタッフにはフリー採用の者も多く,研修医に学閥色は一切ない.

 2004年度(2004年4月~2005年3月)の入院患者数は8,580名,救急車搬入件数は3,833件,手術件数は3,366件,うち全身麻酔件数1,898件となっており,漸増している現状である.一般病床の平均在院日数は,約13日となっている.

医師の過重労働を考える―日本医師会の立場から

著者: 三上裕司

ページ範囲:P.803 - P.806

どこまでが勤務時間か?

 医師と労働基準法―極めてむずかしい命題である.まず,どこまでが勤務時間かとの問題がある.重症患者をかかえて待機している場合や,患者の治療方針を考えている時間も多く,勤務か否かの区別がつけにくい.

 若いころの私はできるだけ長く病院にいてたくさんの患者を診たいと思った.そのほうが研修の成果が上がる.特に夜間は研修医も診療に参加できる機会が増えるので,自主的に居残りをしていた(前掲の松村理司先生流に言えば “好きで医局にいる”)こともある.

 私見ではあるが,医師の勤務時間は自主性にまかせられているといってよいのではないだろうか.医師という職業は365日24時間勤務のようなものである.元来,そうした職業倫理やマインドを持った人が医師を志していると信じている.しかし,体力の限界もあることであり,医師自身が健康体でいるためにも,義務的な拘束時間は決められているべきだと思う.これは余談だが,医師は健康診断の受診率が低い.医師会として健康管理を指導する必要性を感じている.

 医師はもともと裁量労働が多い職種である.一方で,アウトカム(成果)は患者あってのものであり,医師の技量とは無関係な部分もある.いわゆる成果主義とはなじまず,評価もしにくい.アウトカムの検証法が確立されていない点も,労働問題を複雑にしている.

医師の勤務体制改善は急務―勤務医の心身の健康と安全・安心の医療を確立するために

著者: 池田寛

ページ範囲:P.807 - P.811

過労死・過労自殺もでる勤務医の労働実態

1.医師の過労死・過労自殺の例

 表は,私が知り得た医師の過労死・過労自殺の労(公)災認定・申請中・裁判中のものである.これら以外にも私の知らないものもあると思われるし,これらは過労死・過労自殺の労(公)災認定や損害賠償を請求したもののみで,過労死や過労自殺を疑われるものの,労災認定等を請求してない例は,さらに多いのではないかと推察できる.

 というのも,私自身,医師の在職死や自殺などの例を見聞きしているが,さまざまな理由から断念した例を知っているからである.そして何よりも,これらの過労死・過労自殺と認定された事案が多くの勤務医の勤務内容に近いもので,これらが「特異な事例」とはとても言えないからである.

医師に関する労働基準法の適用

著者: 厚生労働省労働基準局監督課

ページ範囲:P.812 - P.814

医師への労働基準法の適用については,最近では,医療法第16条に基づく病院の宿直に,交替制勤務や時間外労働ではなく,労働基準法第41条に基づく宿日直勤務により対応する中で,許可の範囲を超える事案が見られる.そうしたことから法定労働条件上の問題として取り上げられている.そのほか,医師の専門業務型裁量労働制の適用の可否,臨床研修医の研修時間などの場面においても,話題になることがある.

 今回は,松村理司先生からの労働時間を中心とした問題提起も踏まえ,これらに関連する以下の事項について,その基本的な内容を紹介する.

A 労働基準法の適用

B 労働基準法上の労働者

C 労働基準法上の労働時間の概念

D 労働基準法における労働時間制度

E 専門業務型裁量労働制

F 労働時間,休憩,休日に関する規定の適用除外

国立病院機構の勤務体制

著者: 廣島和夫

ページ範囲:P.815 - P.818

このテーマの原稿依頼を受けた時,正直に言って断るつもりであった.毎日,リアルタイムで生じる医療現場での業務,特に医師が業務を遂行する場面で,一定期間を通して労働基準法(以下,労基法)を遵守することが結果的に困難であった事例が生じることは,管理者であれば誰もが経験している.労基法の精神は全く正しく遵守すべきであるが,現場との乖離の大きさを感じているだけに,なかなか書き辛いものがあるからだ.


国の時代の労務管理

1.公務員の労働条件に関する規則
 国家公務員の労働条件の大枠は国家公務員法によって,その詳細は人事院規則によって規定されている.

 国家公務員法106条(勤務条件:職員の勤務条件,その他職員の服務に関し必要な事項は,人事院規則でこれを定めることができる)を受け,勤務時間法13条(正規の勤務時間以外の時間における勤務),人事院規則14-15条(超過勤務を命ずる際の考慮)などによって時間外勤務について言及されている.これまでは,以上を受けて慣例的に超過勤務の管理が行われていた,と考えられる.

医師の労働と原価・診療報酬

著者: 林田賢史 ,   今中雄一

ページ範囲:P.819 - P.822

近年,医療費抑制の政策の動きは顕著となり,効率的な医療システムの構築が求められている.医療の質の保証のために必要な資源,財源を確保することは必須である.どれくらいのインプットに対して,どれくらいのアウトプットがあるかを定量的に把握するために,インプットである資源消費量の推計,すなわち原価計算が重要となってくる.スコープや手段の相違はあるにしても,医療原価計算は,施設経営においても診療報酬政策においても重要である.

 平成15年度から特定機能病院より急性期入院医療を対象に診断群分類(DPC : Diagnosis Procedure Combination) を用いた包括評価に基づく支払い制度が導入された.これは,診療報酬額,つまり医療機関にとっての収益が DPC という単位で包括評価される試みであり,原価(コスト)に関しても DPC 単位で評価する必要性が急速に認識されるようになった.

 そこで本稿では,医師の活動の原価に焦点をあて,まず医療原価計算(患者別,診断群分類別等)のフレームワークにおける医師の原価についての考え方や方法論を紹介する.次にそのフレームワーク等を基盤にした現状の診療報酬の分析例を提示することを通じ,医師の活動に対する診療報酬の考え方について検討する.

グラフ

良好な病院経営を支える現場の力とは 特定医療法人敬愛会 中頭病院・ちばなクリニック

ページ範囲:P.785 - P.790

特定医療法人敬愛会中頭病院・ちばなクリニックは,沖縄本島中部,沖縄市知花にある.沖縄市の人口は約13万人.沖縄本島中部地区は人口約40万人.当院はその中核病院として総合医療を行っている.2004年11月に地域医療支援病院として県から承認を受け,病院機能評価や15医学会の研修施設認定,臨床研修病院の指定を受けている.

 中頭病院は1982年,医療法人敬愛会として現在地に100床でスタートした.大山朝弘理事長は県立中部病院に勤務していたが,独立開業を希望したところ,当時の中部病院院長から「開業するなら病院を作れ」と言われた.1980年代初頭は中部病院に沖縄全島から患者が押し寄せ,さながら野戦病院の様相をなしていたという.

 そこで同じように独立希望を持つ者が集まって中頭病院を立ち上げることになった.医療資源が乏しかったこの地区において病院が設立されることは地域住民のみならず,医療提供側にとっても渇望されたことであったという.

ホスピタルアート・4

「和み」はこぶガーデニング

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.792 - P.792

 子どもの頃,紫陽花が咲くと母がいつも話す思い出があった.病院の庭で長い髪を梳る不治の病の患者さんと,その傍らで咲く紫陽花の美しさである.それは命の儚さと同時に生の輝きの象徴として私の記憶に重なった。

特別寄稿

関西医科大学研修医過労死裁判―その意義と教訓

著者: 岡崎守延

ページ範囲:P.824 - P.827

最高裁判所は,2005(平成17)年6月3日に,研修医を労働者と認める初の判断を示した.

 本件は,研修医の身分が司法の場で争われた初のケースであったが,大阪地方裁判所堺支部,大阪高等裁判所に続いて,最高裁判所でも研修医が労働者と明確に認められたことにより,この問題を巡る議論に決着がついたことになる.

お医者さん,パパになる―男性医師の育児休暇取得体験

著者: 林寛之

ページ範囲:P.828 - P.830

「えぇ~,この先生は,福井県で初めて育児休暇を取った先生です」.

 私の自己紹介ならぬ他己紹介(?)では,私を知る友人は常にこのように紹介してくれる.

 嬉しい.なんとなく嬉しい.お尻がくすぐったくなるようでとても嬉しい.育児休暇を取ったのは6年以上前の1999年3月~5月のこと.たったの3か月間しか育児休暇を取っていないのにこれほど世間の反応が一様に「ギョッ」としてくれるのは,意図せずして一発芸を身につけたような気分だ.育児を本当に一生懸命している世間のお母さんたちに申し訳ないくらいだ.男の育児休暇はある意味おいしいのかも….

病院における外国籍医療従事者受け入れの留意点

著者: 秋山剛

ページ範囲:P.831 - P.835

日本の医療機関で,良質なスタッフを確保するために,外国籍の医療従事者の導入を図ることは,妥当なことだと思います.しかし,外国人に,日本の医療機関でうまく働いてもらうためには,工夫が必要です.


経 験

 筆者は,1980年以来外国人の精神科治療に従事していて,1982年から「東京英語いのちの電話」と呼ばれる団体で活動しています.1996年からは,「JET プログラム」(外国人青年に,日本の学校や教育委員会で働いてもらうプログラム)のカウンセリング体制の運営に携わり,1999年からは「東京英語いのちの電話」の理事長として,各国大使館と協力して外国人のメンタルヘルスへの援助を進めています.

 また,2004年7月からは,NTT 東日本関東病院で,精神神経科部長に加えて医療安全管理室室長を兼任しています.本稿では,これらの経験をもとに,病院で外国籍医療従事者を受け入れる際の留意点をご紹介します.

連載 病院経営分析の技術 経営改善のための分析ツール活用講座・1

病院経営指標分析〈前編:理論編〉

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.836 - P.839

医療機関においても経営改善への関心が高まってきています.しかしながら,「さあ,改善だ!」と意気込んでもいったい何から手をつければ良いでしょうか.「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」式でも改善できるかもしれませんが,当たるまでに時間がかかるかもしれませんし,鉄砲の弾もタダではありません.

 また,まったく見当違いの改善活動に取り組んでしまうと,経営面での貢献はもとより,職員の方の志気も下がってしまいます.

 効率的な改善活動に取り組むには,まず現状をきちんと把握し,自病院の課題を認識したうえで,その課題に対する手立てを講じる,というのが正しいステップです.そういう意味では,経営改善への最初のステップである現状把握は非常に重要になってくるでしょう.この経営改善への第一歩と言える現状把握を行う時に利用するのが,経営指標分析などの経営分析ツールです.

 本稿では,病院経営指標分析や診療圏分析など基本的な病院経営分析ツールの実践的な活用方法について解説してゆきます.経営改善や経営分析初心者の方でもご理解いただけるように,わかりやすく書いたつもりです.経営改善に役立てていただければ幸いです.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・10

刑事事件としての医療訴訟―異状死体の届出義務を例として

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.840 - P.842

Q67歳の女性の直腸癌マイルス手術後の再発例に対して子宮全摘術を行ったところ,通常では予期できない血管脆弱部分があり,内腸骨動脈の血管損傷が生じ,術後2時間で死亡してしまいました.ミスによるものではなく,合併症であり,やむを得ない血管損傷と思いますが,警察への届け出など,どのように対応したらよろしいでしょうか.


A 異状死体の届出を必要はありません.届ける場合には,弁護士に相談してからにするべきでしょう.

病院ファイナンスの現状・14

―間接金融(9)長期資金調達 7―融資稟議書のフローと審議プロセス

著者: 福永肇

ページ範囲:P.844 - P.847

銀行員との銀行融資審査のフロー

 本誌3月号では病院が銀行に資金調達の相談をする際に,銀行に説明する項目や準備する書類,またその後の銀行内審査のプロセスについて解説しました注1).今月号では視点を変えて,病院が地方銀行に融資の相談をしたと仮定して,その後の銀行内融資審査のプロセスのフローと,各段階・プロセスでの銀行員の役割にスポットを当てて見てみましょう.誰が稟議書を書き,その後どのように融資の審査や決定がなされていくのかを理解することは銀行取引では大切なことです.

1.銀行支店

 病院が融資の相談をする時の窓口は取引銀行の支店注2) の融資課です.同じ銀行内の二つの支店が同じ顧客に融資取引を行うことは禁じられており,病院の借入は一銀行一支店となります(図)注3).

 病院の財務担当者は銀行支店を訪ね,希望借入の内容を資料を交えて説明します.銀行側から「わかりました,検討してみましょう」と言われれば,「大丈夫だ」と,ホッと肩の荷を降ろし安心するでしょう.しかし審査はそれから始まります.

 相談を受けた銀行支店注4) は,最初に融資課での担当者を決めます.融資課には何人もの銀行員が勤務していますし,また病院の融資申し出に立ち会った融資課長や支店長もいます.しかし病院の今回の借入案件に関しては今後,基本的にこの融資課の担当者が病院借入案件の窓口になっていきます.病院にとっては彼(彼女)が一番のキーパーソンと言えます注5).もっとも稟議進捗状況ついては,都度,担当者から融資課長や支店長に報告がなされており,病院からの申し出案件の調査・稟議が滞らないように管理がなされています.

 担当者は,銀行の審査テーブルに乗るように病院から,案件の詳細や経営・財務の内容を聞きながら必要書類や資料をそろえ,稟議注6) の準備を進めます.銀行内で決められた財務分析や信用格付手続きを順を追って行い,次第に稟議書の形に組み立ててゆきます.この段階では担当者から病院に都度,照会や追加資料の申し出があると思います.彼(彼女)が稟議を書いてゆくうえで必要なものですから,是非協力してあげて下さい.なお,融資審査自体には個人的な恣意性が入る余地はなく,客観的に進められます.

 担当者は必ず,①希望金額,②希望借入条件,③資金使途,④返済源資,⑤担保・保証人を確認し,過去3期分の決算書や各種の資料を求めます(詳細は本誌3月号,pp.236-237参照).長期資金調達では,これらの資料に加えて,利益計画,資金計画,事業計画など,短期資金調達の場合以上の資料を銀行は要求してきます(今後の連載の中で説明します).また,金利や返済方法,担保・保証人などの融資条件も病院と担当者の間で交渉がなされます.

 でき上がった稟議書は融資課長が上席者の立場からチェックし,不明点や,より詰めるべき点などを指示します.担当者が案件ベースでの視点ならば,課長の視点は病院経営全般の判断です.融資課長が稟議書に印鑑を押す段階で稟議書は事務形式的には一応完成しています.

 担当者は融資課長とともに支店長に病院貸出案件の説明を行います.支店長は案件審議に対して指示を与えるとともに,前後して必ず病院理事長と会い,人物を見ます.病院の見学にも来るでしょう.支店長には与信判断と支店営業成績向上注7) との双方のバランスが要求されており,難しい立場といえます.

病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・7

Reengineering VA(Veterans Health Agency)病院の事例から学ぶ

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.848 - P.852

Reengineering

 A fundamental rethinking and radical redesign of business process to achieve dramatic improvement in critical, contemporary measures of performance such as cost, quality, services and speed(by Vinod K. Sahney PhD, Henry Ford Health System).

 以前インターマウンテンヘルスケアを例に Continuous Quality Improvement (CQI)の概念を紹介しました.CQI は連続的に多くの箇所に手を加え,チャートなどを作り,モニターするもので「継続は力なり」といった,ゆっくりとした改善です.これに対してリエンジニアリング(Reengineering)では,組織に共通したプロセスにフォーカスをあてたスピーディかつドラスティックな変革を指します.


モダンな病院の出現

 かつては医療の質やサービスが悪いことでの代名詞であった VA (Veterans Health Agency)病院(全米400万人の退役軍人とその家族をケアするための国立病院)が,以下のようなモダンな病院にリエンジニアリングしました.

・急患で入院した患者さんのベッドサイド.医師は部屋に持ち込んだラップトップコンピュータを使って,他院で得られた患者データを閲覧する.

・すぐその場で先月の左心機能を超音波検査の動画で確認し,たった今,ベッドサイドで行った超音波検査所見と比較する.

・医師は問診と,この1か月の心機能変化から,患者さんが心不全になりつつあることを早期に判断できた.

・看護師は,患者ベッドサイドで点滴と患者リストバンドのバーコードを点検した.そしてそばのコンピュータに目をやる.バーコードの情報は薬剤部のコンピュータとやりとりして「正しい薬物が正しい患者に正しい方法で投与されているか」を画面に示してくれる.

・患者安全センターでは医療関係者を対象に過誤を分析し,いかにそれを繰り返さないかを教育している.

・また,研究者と医師らが最新の臨床エビデンスを討論し合い,個々の慢性疾患に対して最適の予防・治療法を施設として策定していく.

・医師は常にベスト・プラクティスを実践するためのアドバイスを受ける.そして,治療というよりは予防を中心に医療をシフトさせている.

 このようなドラマチックな変化は,今まで述べてきた CQI というよりは,リエンジニアリング (Reengineering) と呼ぶべきでしょう.今回は,VA病院のリエンジニアリングの過程を見ていきたいと思います.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第130回

癌研有明病院

著者: 丹下憲孝 ,   森一夫 ,   木村敏夫 ,   堀伸光

ページ範囲:P.854 - P.860

計画の経緯と概要

 「がんの克服をもって人類の福祉に貢献する」を基本理念に掲げる財団法人癌研究会は病院,研究所および看護学校,寮を東京都臨海副都心有明に全面移転した.

 病院は昭和9年の開設以来,がん専門病院として高度医療を提供し,患者数は年々増加の一途をたどっていった.それに伴い施設の狭あい化,老朽化が懸念されていた折,1999年東京都による臨海副都心「有明の丘」への誘致病院として決定した.2005年3月,700床の病院として有明の地に新たにスタートした.

 建物は,地上12階・地下2階建て,免震構造を採用している.「治療」と「研究」の有機的な連携のため病院・研究所を一棟とし,関連の深い部門を隣接配置し,各部門の連携に配慮した平面計画とした.高度医療および最先端の研究を支える基本性能を有し,将来の成長と変化に対応できるフレキシビリティのある施設としている.

 病院の施設構成は,地下1階に放射線治療部,核医学部(体外計測,PET)のがん診断・治療部門や SPD 部門,1階は一般外来,救急,健診センター,2階はがん疾患専門外来,3階は14室の手術室と ICU・HCU が配置されている.病棟は5~12階に配置され,12階には全室個室の緩和ケア病棟(25床)がある.

 病院はがんの早期発見から診断・治療,地域医療への貢献,災害時の後方支援医療を担う.研究所と一体になったがん治療・研究の一大拠点が有明の地に誕生した.

リレーエッセイ 医療の現場から

ぼやきをぼやきで終わらせていいのでしょうか?

著者: 平孝臣

ページ範囲:P.861 - P.861

数年前までは学会などで他施設の医師達と飲み交わすと,手術の方法や学問的な議論で白熱し,夜が白むことが常であった.しかし最近では単にぼやきとしか言いようのない非建設的な話で終わってしまうことが少なくない.医療をとりまく状況はこの数年で大きく変化し,医療者にさまざまな義務や注意が課せられるようになった.このことは医療の質を上げるうえでも大切なことである.

 しかし一方で,それにみあうだけの処遇が改善されていないばかりか,悪化しているといっても過言ではない.これがぼやきの原因である.

 私どもの施設には毎日数多くの患者さんが紹介されてくる.その多くは他施設では手に負えない病状や,患者さん自身がよりよい施設や医師(と彼らが思う)を希望してという理由である.そこに働く者としては冥利につきることではある.しかしどんなに毎日診療に明け暮れ,平均をはるかに上回る数と内容の治療を行っても,自己の収入にはまったく反映されない.診療にインセンティブがないので,患者を診ずに論文のための研究を優先する者も出てくる.これが多くの大学病院勤務医の実感ではないだろうか.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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