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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

特集 病院の質評価の選択肢は広がるか

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.101 - P.101

 病院において,あらためて医療の質管理の課題に対応することが求められている.優れた医療を提供することが病院人の使命であるという理念的な必要性からだけでなく,自らの病院の質的水準を具体的に明らかにして患者・住民に示してゆくことが,病院の存続と発展のために不可欠な状況となってきたからである.一部のメディアが少なからぬ病院にがんの5 年生存率を求めて公表したり,独自の調査も交えて医療の質に関する指標を示したりして病院をランキングすることなどの動きも目に付くようになってきた.

 そこで,病院という組織が提供する医療の質を管理し,問題を解決・改善する手法の今日的手法について俯瞰しておく必要があろう.BSC(Balanced Score Card)やシックスシグマ,あるいはCRM(Customer Relationship Management)など,安全管理の手法も含めて,他産業における手法を医療に適用しようとする試みも少なくない.新奇をてらうことは必ずしも得策と思われないが,十年一日の経営手法では厳しい局面を打開できないことも事実であり,有効な手法は大いに検討する必要がある.

医療質管理の取り組みの発展と現在

著者: 上原鳴夫

ページ範囲:P.102 - P.107

日本で医療の質が社会問題になることはこれまでにもたびたびあったが,医療界があらたまって質の管理や改善に向き合うことは最近まで久しくなかった.「質」を意識した取り組みを具体的に事業化してきたという点では,米国がもっとも長い歴史を持っている.

 医療の質に対するアプローチの発展過程をあえて大別すれば,1)評価の時代:全米外科医会の病院標準化委員会の設立と,これを発展的に継承した病院認定評価合同委員会 (JCAHO) の活動,2)改善の時代:1987年に始まる Agenda for Change や NDP(National Demonstration Project) を出発点とする品質管理の医療への導入と展開,そして3)システムの時代:1999年の “To err is human” の刊行を契機とする医療安全,およびこれによって啓発された医療システム変革と質マネジメント・システムの模索,に区分できよう(図1).

 個々の取り組みの具体的な説明は別稿にゆだねるが,本稿ではこれまでの流れを概観し,現在試みられているさまざまな質管理の方法をマッピングすることで理解の一助に供したい.

病院機能評価Ver.5.0の概要と審査の動向

著者: 菅原浩幸

ページ範囲:P.108 - P.113

病院機能評価とは,第三者の立場の評価調査者が病院を訪問し,所定の評価項目に照らして病院組織の活動状況が適切かどうか評価することである.そして審査の結果,一定の水準以上であれば認定証を交付している.平成16年10月末現在で,全国の1,427病院に認定証が交付されている.病院機能評価の効果を確実なものにするためには,病院活動のスタンダードである「評価項目」が的確で妥当な内容でなければならない.そこで評価機構では,さまざまな医療環境の変化や法律・制度等の変更などに対応するために定期的に評価項目の改定作業を行っている.

 これまでも,運用調査(平成7~8年)の評価項目 Ver.1.0から始まり,事業としてスタートした平成9年には Ver.2.0,平成11年には小改定を行い Ver.3.1と改定を行ってきた.平成14年には評価体系そのものを見直した大改定を行い,現在,統合版評価項目体系 Ver.4.0を運用している.そして Ver.4.0の約2年間の運用を踏まえたうえで,Ver.5.0への評価項目改定を予定しており,平成17年7月の訪問審査より適用することが決定している.

 Ver.4.0から Ver.5.0への改定は,評価項目の重複を是正したり審査の実務上の手順との整合,あいまいな表現の見直しなど,これまでの運用の中で指摘されていた諸問題の見直しを図るもので,現状の評価枠組みは維持したままで,運用上の円滑性を高めることを目的とした小規模な改定といえる.したがって評価の内容や判断基準は,基本的に現行の Ver.4.0と変わっていない.しかしながら細かな点でいくつかの見直しがなされているので,その概要を紹介することにしたい.

診断群分類・包括評価(DPC)とクリニカルパス

著者: 長浜宗敏

ページ範囲:P.114 - P.119

平成15年4月より診断群分類 (DPC : Diagnosis Procedure Combination) を用いたケースミックスによる診療報酬の包括支払い制度がスタートした.

 これまで疾病や治療行為別に施設間の比較を行うことは難しく,体系的に疾患の在院日数や診療費を比較分析することはきわめて困難であった.しかし,DPC という分析評価ツールが開発されたことで,全国や施設間での比較が可能となり,病院経営や意思決定支援情報として幅広く利用され,日本における医療の透明性や標準化に役立っている.

 一方,クリニカルパス(以下パス)の手法は,診療の標準化や在院日数の短縮に有効であり,患者に対するインフォームドコンセントとしても活用され,多くの医療機関で導入が進んでいる.パスの持つ標準的治療計画から得られる情報を,DPC に当てはめて解析することで,より多く情報が得られるようになった.

 医療の質評価には,患者により良い医療を提供しているか,無理や無駄な診療資源が投入されていないか,経費は最小限であるかなどが挙げられる.医療の質を向上させることは,結果的に医療費の削減につながり,より良い医療をより多くの国民に対して提供することにつながると考える.ここでは,包括評価における医療の質向上のために有効な手法について,経営的評価と臨床評価の二つの観点から DPC とパスのかかわりについて述べるとともに事例について紹介する.

診療記録の点検・評価の実践

著者: 山崎繁 ,   太田保世

ページ範囲:P.120 - P.125

今日の医療には,インフォームド・コンセントの理念に基づいた患者・医療従事者間の情報共有と相互信頼関係の上に,質の高い医療の提供が求められている.そのためには,病院としての明確な理念や,高い倫理観に裏打ちされた職員教育や日々の業務が完遂できるための体制整備が必要である.

 今回,当院における医療の質確保のための体制や取り組み,反省と今後の課題などについて,とくに,与えられたテーマに沿って,医療における安全に関する体制と,医療の集大成とされる診療記録の監査に焦点を絞って述べることとする.

【座談会】病院におけるISO9001認証取得の意義と実際

著者: 増井いづみ ,   福島公明 ,   岸和田真 ,   大道久

ページ範囲:P.126 - P.133

日本医療機能評価機構による病院認定事業が増加する一方で,ISO9001や14001の認証を受ける医療施設が出てきている.病院の質管理のツールとして ISO9001はいかに有効か? 本座談会では,ISO9001の認証を受けた施設と認証機関の立場から,認証取得の具体的な手順や対応,そしてその意義や利点についてうかがった.ISO9001と病院機能評価との比較や,それぞれの位置づけにも言及する.

グラフ

市立豊中病院―市民と地域診療所から信頼される公立病院の使命と経営ビジョンを探る

ページ範囲:P.89 - P.94

市立豊中病院の設置母体である豊中市は,大阪府北部に位置する.南部に神崎川を隔て大阪市と隣接し,東は吹田市,北は池田・箕面市,西は兵庫県尼崎・伊丹市に接している.人口は約38万7,000人を擁し,千里ニュータウンの一部を含むベッドタウンである.

 当院は,1944(昭和19)年に,私立病院を買収する形で,「豊中市民病院」として発足した.1954(昭和29)年に新病院竣工時に,「市立豊中病院」と改称する.1997(平成9)年,現在の柴原町に新築移転した.大阪大学豊中キャンパスに隣接しており,大阪モノレール,中国自動車道からのアクセスも良く,近隣地域からの通院患者も多い.

オピニオン

医療安全総合政策案 すべての医療過誤被害者の救済を

著者: 小松秀樹

ページ範囲:P.135 - P.139

現在(2004年12月),医療事故報告制度が内科,外科,病理,法医の4学会代表によって議論されている.学会代表としての制約もあり,報告制度を中心に比較的小さな枠組みの議論が行われている.2005年度より議論の枠組みが拡大される方向にあると伝え聞いているが,詳細を知る立場にない.本稿では個人としての自由な立場から,大きな枠組みでの考え方を提案したい.医療事故報告制度も将来の医療安全政策全体の中の位置付けを考えて設計する必要があるからである.


背 景

 医事紛争が頻発し,医療に対する不信はその存立を脅かしている.筆者は,現在の状況が続くと外科医のなり手がいなくなるのではないかと危惧してきた.2004年9月,東京大学医学部附属病院で2004年の新卒研修医に対する2005年度の選択研修の希望調査が行われたが,外科の志望者がほとんどいなかった.この傾向が全国的なものならば,近い将来,本邦の外科診療に支障が出かねない.信頼を取り戻すために,医療提供者側(とくに医師)には解決すべき課題が多いが1),現状のとげとげしい医療不信の直接的原因は,医療過誤被害者の救済を医療制度に組み込んでいなかったことにある.

特別寄稿

“使える”患者満足度調査の設計・分析方法

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.140 - P.143

選ばれる病院を目指して,患者満足に対する注目が集まっている.そしてこの患者満足を上げようと,多くの病院で患者満足度調査が行われている.しかしながら,その調査結果を十分に活用している病院は多くはない.

 そもそも患者満足度調査は,満足度を上げるためにどのような改善活動を行えばよいかの指針を得るためのものであり,結果に一喜一憂するものではない.活用しなければならないのである.そのため,本稿では,改善活動に結び付ける「使える」患者満足度調査の設計・分析方法をご紹介したい.

連載 病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・35

理想の医療の実現する舞台としての病院マネジメント(1)

著者: 野々山尚毅

ページ範囲:P.145 - P.147

 北原脳神経外科病院は,東京都八王子市 [南多摩二次医療圏(人口:約130万人)] に位置する脳神経外科・リハビリテーション科を標榜する病床数100の専門病院である.当院は1995年に理事長である北原茂実が「脳卒中のフォーカスト・ファクトリー注)」を目指して設立した.当初から「世のため人のために,より良い医療をより安く」を経営理念として掲げており,2005年1月に創立10周年を迎えた.

 現在,二次救急医療機関として年間約2,500台の救急車を受け入れている.また,年間の新入院患者は約1,200人であり,外来患者は1日約300人,内30人程度が新患である.

 そもそも当院では,良質の医療は,人々が豊かで安心した生活を送るための社会生活の基礎であり,社会をより良い形に変えていく役割を担っていると考えている.このため,当院の経営においては,理想の医療の実践と組織の永続との両立が求められている.

 本稿では三回にわたり,私たちの考える理想の医療を実現する舞台(当院)における取り組みの一部として,組織,教育,患者中心の医療の提供等を述べたいと思う(当院の掲げる理念には,もう一つ「日本の医療を輸出産業に育てる事に貢献する」があるが,本稿の趣旨を明確にするために今回は取り上げない).

Q&Aで学ぶ医療訴訟・2

損害賠償の根拠

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.148 - P.149

Q 暴走による運転ミスでの交通事故による脾臓損傷の疑いで救急外来に搬送された17歳男性(暴走族)に対して入院加療を行っていたところ,脾臓損傷による出血に対する輸血が不十分だったのか,出血死してしまいました.

 暴走を知っていながらほったらかしにしていた両親は弁護士を立てて病院と医師に債務不履行と不法行為を理由に損害賠償請求をしてくるといいます.このようなことが認められるのでしょうか.

A 認められます.搬送された患者が暴走族であろうと,暴走族にはねられた17歳のまじめな少年であろうと,ほぼ同じ法的責任を負います.

狙われる病院 暴力・不当要求への対応・2

医療機関に対する不当要求の実態

著者: 樫山憲法

ページ範囲:P.150 - P.151

前号では,最近の暴力団などの傾向を述べた.今月号では,暴力団が関与した事件と,徳島県における不当要求の実態について紹介する.


医療機関を取り巻く現状

 暴力団等が関係している,医療機関にまつわる刑事事件を分析すると,医療関係者が被害者となった事件,暴力団と共謀して医療関係者が被疑者となった事件などがある.また,刑事事件には至らないものの暴力団等が関与する多数のケースが報告されている.いくつかの事例を次に紹介する.

病院ファイナンスの現状・6

―間接金融(1)短期資金調達 1―病院の短期資金調達にはどのようなものがあるか

著者: 福永肇

ページ範囲:P.152 - P.155

 お金には色は付いていませんが,期間によって区分されます.金融市場では,期間1年以内の「短期資金」と1年超の「長期資金」に二分されます注1).また,お金を貯金や預金,投資することを資金の「運用」,反対にお金を借りたり自分の事業に投資や出資をしてもらうことを資金の「調達」といいます.したがって病院の資金調達も,期間別に「短期資金調達」と「長期資金調達」に大きく二分されることになります.短期と長期では資金の性格が違い,金融機関における融資検討時の審査内容も相当違ってきます.

 また,病院が金融機関から資金調達することを「間接金融」,病院債や診療報酬債権流動化で資産担保証券(ABS)を発行する場合のように,投資家から直接資金調達することを「直接金融」といいます.

 今月号以降では医療法人(以下,「病院」と表記)の「間接金融」について,「短期」と「長期」各々の期間に分けて説明を行います.今月号・来月号では短期資金調達を解説します.そもそも病院は業界として一般企業と比べ,短期の資金調達需要が少ない構造といえます.また病院が短期資金調達を必要とする場合でも健全な資金需要ならば銀行借入はさほど困難ではありません.病院ファイナンスが難しいと現在議論されているのは,再来月号以降で解説する長期資金調達の場合だといえるでしょう.

 病院における短期資金調達の具体的な例としては,運転資金,賞与資金,決算資金,建設つなぎ資金の4つがあり,各々を以下で解説いたします.

 はじめてご覧になられる金融用語も出てくるかと思いますが,これらは特殊な用語ではなくビジネス界で日常使われている用語であり,この機会にぜひ勉強されることをお勧めします.銀行との交渉の場では,このような言葉が使われます.

回復期リハビリテーション病棟便り・8

離棟対策にまつわる話

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.156 - P.158

 今回はリスク管理に関係する話である.回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟におけるリスク管理といえば,まず転倒防止が挙げられるが,この問題は研究や特集などて取り上げられることも多いので,本稿では少し視点を変えて離棟対策について考えてみたい.


離棟について

 ここでいう離棟とは,「無断で(付き添いなく)病棟の外に出る」という意味である.つまり,対象となる患者は,「自由に病棟外に出ることを禁止されている」という前提がある.禁止される理由は,表のように整理することができよう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第122回

愛知県厚生連 海南病院

著者: 川島浩孝 ,   倉持智弘

ページ範囲:P.160 - P.163

愛知県厚生連海南病院は,名古屋市中心部から南西に約20km,木曽川を介して三重県に東隣する海部郡弥富町に位置する.病院の基礎データは以下のとおりである.

 平均在院日数16.7日,病床利用率93%,平均外来者数1,330人/日,平均手術件数300件/月(2004年6月現在).

 本計画は,1999年5月「419床の病棟更新のための増改築」というプログラムでスタートした.419床すべての病床を新たに建設する増築新棟に収容し,結果として発生する旧病棟フロアを,1)病棟以外の診療機能の内部拡張スペース,2)本計画では改修対応にとどめる新棟以外の建物の次期建替時余地スペース,として活用するというものであった.

リレーエッセイ 事務長の所感・13

日日是好日(禅の体験より)

著者: 大江唯之

ページ範囲:P.165 - P.165

 寺の境内の大きな杉の木の下で,老僧が落ち葉をかき集めている.そこへ若い修行僧が通りかかる.「おまえさんは何処から入って来たのか」と老僧の質問にどう答えたらよいのか.「大道無門」という禅語はこの辺から出たようである.

 風門だの鬼門だの同じ中国から渡来した易学では難しくいわれているが,禅の世界では何事にもとらわれてはダメで無や空がいわれ,修行の終着点は「生死の脱却」であるといわれている.金剛経にある「応無所住而生其心」も生死さえ心に留めずという意味である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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