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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻3号

2005年03月発行

雑誌目次

特集 今後の病院の財政基盤を問う

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.181 - P.181

 昨今,財務内容の情報公開は上場企業,公益法人等,活動の場を問わず企業の責務となりつつある.医療においてもこの方向性は同様であり,財務内容の情報公開が非営利の前提であるといわれている.一方,財務内容の情報整理は新病院会計準則により,公私を問わず統一化の方向にある.近年中に,公立病院と民間病院の財務的比較は容易なものとなろう.

 それでは財政基盤,特に資金調達からみた場合,病院はどのような立場に置かれるのであろう.民間病院の場合,資金調達は銀行からの融資,社会福祉・医療事業団(現独立行政法人福祉医療機構)からの融資が主体であった.公立病院の場合は,主として国,都道府県,自治体等からの助成金や負担金が主体であった.ところが,不良債権処理にかかわる企業格付けにより多くの病院が貸し渋りや貸し剥がしにあっており,この様は一般の中小企業と同様の扱いとなっている.一方,国,都道府県,自治体も財政が悪化しており,公立病院への助成金に耐えられず,民間への売却を行っている例も散見される.

【座談会】今後の病院の財政基盤を問う

著者: 幸田正孝 ,   鈴木良男 ,   矢崎義雄 ,   河北博文

ページ範囲:P.182 - P.192

医療を取り巻く医療政策が様々な形で転換される中,病院の財政基盤をどのように考えるかというテーマで,ご討論いただいた.

診療報酬の原資となる健康保険制度のあり方と経営基盤としての株式会社の可能性など,それぞれのお立場からの見解を述べ合っていただき,問題の本質に迫った.

新病院会計準則について

著者: 石井孝宜

ページ範囲:P.193 - P.200

平成16年8月19日,病院会計準則は21年ぶりに改正された.今回の改正は,昭和40年に制定された病院会計準則にとって昭和58年以来の大きなものである.

 改正の必要性や,その背景に関しては,平成12年の四病院団体協議会の研究会以来,5年間にわたって様々な場面において講演・講義や他の原稿執筆により述べてきたため,本稿では病院会計準則を理解する上での基礎的説明や,改正内容に関する解説に焦点を当てることとした.

民間病院の資金調達

著者: 松原由美

ページ範囲:P.202 - P.207

今次特集においては,これからの病院はいかに財政基盤を強固にするかがテーマである.これを経理面からいえば収益力を高め,バランスシートを質の高いものにすることだが,資金調達基盤を確立することも極めて重要である.

 わが国における病院の資金調達で問題とされるのは,それが間接金融に依存し過ぎていることである.このため,直接金融ルートも含めた資金調達多様化論議が盛んである.そこで本稿では,多様化論議を中心に民間病院の資金調達のあり方について考察する.

PFIによる病院建設と運営

著者: 高橋啓

ページ範囲:P.208 - P.212

■PFI 手法を活用した病院整備事業の特徴

 PFI(Private Finance Initiative)は,官民共同による公共施設の整備手法として,近年注目されている事業手法で,英国において1992年に正式化されたといわれている.

 わが国においては,1999年9月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(通称「PFI 法」)が施行され,本格的に実施されるに至っている.

 2005年1月6日現在,PFI 法に基づく「実施方針」を公表し,事業者の選定,施設整備などに取り組んでいる PFI 事業は,全国で180件の多数に上っている.このうち,「PFI 手法を活用した病院整備事業」(以下「病院 PFI 事業」と呼ぶ)は5件であり(表1),全案件の3%弱に過ぎないが,PFI 事業の検討段階,事前調査段階,準備段階にある事業も着実に増加している(表2).

キャッシュフロー・ファイナンスと病院融資

著者: 地下誠二 ,   佐藤朗

ページ範囲:P.213 - P.215

■キャッシュフロー・ファイナンスとは?

 銀行は担保がなければ融資しないと批判されている中,担保となる土地・建物の価値や経営者の保有資産を引き当てとする融資ではなく,事業の資質を評価し,事業が生み出すキャッシュフローをベースに融資するキャッシュフロー・ファイナンスが注目されている.本稿では,このキャッシュフロー・ファイナンスの考え方に基づき,病院の資金調達について検討する.

 キャッシュフロー・ファイナンスの基本は,将来生み出されるキャッシュフローを確実に予測し,その範囲で融資することである.担保は設定するが,事業キャッシュフローの源泉を確保するためであり,担保資産売却による回収をあてにしているわけではない.

地域金融の現状と変わりつつある医療機関向け融資スタンス

著者: 増本稔

ページ範囲:P.216 - P.218

医療機関はかつてない競争の時代に入り,業界内は中小病院を中心とした裾野の広いピラミッド構造が変化し始め,経営内容によって大きく二極化が進みつつある.一方,金融機関は不良債権問題に一定の区切りをつけ,特に地域金融機関はリレーションシップバンキング(中小・地域金融機関のあり方)など新たな方向性を打ち出し,有望マーケット向け融資を模索している.そうした中で,医療制度の抜本的改革の方向が打ち出され,金融機関の医療機関向け融資スタンスは変わりつつある.

グラフ

地域で分担する医療機能 病診連携と外来分離の発展的試み-財団法人仁泉会医学研究所 北福島医療センター・保原中央クリニック

ページ範囲:P.169 - P.174

財団法人仁泉会医学研究所 北福島医療センターは,2002年12月に福島市の北側に隣接する伊達町にオープンした226床の急性期病院である.入院機能を充実させ,外来は救急と血液疾患・乳腺疾患・いたみの3専門分野の特殊外来に特化.開放型病院の認定を受け,地域医療機関との連携を重視する姿勢を前面に出している.

 それまで伊達町に隣接する保原町で運営していた総合保原中央病院(252床)が手狭になったことから,入院機能を新設の当センターに移し,総合保原中央病院は建物を改装して外来専門の保原中央クリニックに衣替えした.

 センターをクリニックから約3km(車で約10分)離れた隣町に置くことで,明確に外来分離を打ち出した.

特別寄稿

医療機関債についての一試案

著者: 医療福祉経営審査機構 ,   国際医療福祉大学

ページ範囲:P.219 - P.224

わが国における民間病院等医療法人の資金調達は,そのほとんどが金融機関からの借入れ,すなわち間接金融に依存しているのが実状である.病院には,施設の建替やIT・高額機器等への投資といった資金需要があるが,一方で一時期の金融機関の“貸し渋り”現象もみられ,直接金融の一つである債券発行による資金調達手段の多様化が注目されている.

 医療法人の発行する債券(以下「医療機関債」という)が資金調達手段として認められる意義は,以下の諸点に要約される.

 ●資金の出し手が金融機関以外に存在することから,医療法人の資金調達が金融機関サイドの資金事情の影響を受けずに安定化しうる.

 ●金融機関からの借入れに対し牽制手段となり得る.

 ●医療法人の資金調達手段が制約されていることが格付面でマイナス要素とみられているのを是正し得る.

 ●「医療法人が株式会社形態をとれば,資金調達手段の多様化が図れる」との議論を吸収し得る.

 本稿は,医療機関債についての経緯・法的な問題点・厚生労働省のガイドライン等を踏まえ,「あるべき医療機関債」について提案するものである.

高額医療機器購入における意思決定モデル

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.225 - P.228

億単位の医療機器を購入するにもかかわらず,その購入意思決定にあたっては,判断基準が曖昧なままになっていないだろうか.ここでは,高額な医療機器投資に対して,財務的な面でその意思決定を支援する DCF 法 (Discounted Cash Flow)についてご紹介したい.


■おカネの時間的価値

 例えば,何十年も前なら100円でもかなりの買物ができたかもしれないが,今では100円ショップに行っても(実際には105円であるため)何も買うことができない.基本的に,おカネには時間によってその価値が変ってしまうという性質がある.

 住宅を買うにしても,今現金で購入すれば3,000万円で買える物件でも,金利3%(複利)の30年ローンにすると,支払総額は4,500万円にもなってしまう.つまり,今後30年間という将来にかけて支払う4,500万円もの大金といえども,現在の価値では3,000万円しかないため,結果的には1,500万円も目減りしていることになるのである.

消費税損税解決に向けて・上―ゼロ税率だけでなくカナダの税額還付方式も視野に

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.229 - P.231

平成15年度の税制改正により,消費税の免税点の引き下げおよび簡易課税制度の適用上限の引き下げ等が行われた.

 改正は,平成16年4月1日以後に開始する課税期間から適用されている.個人事業者については平成17年分から,事業年度が1年である法人については平成17年3月決算分から適用される.

 従来免税事業者であった医療機関においても,基準期間の課税売上高が1,000万円超である場合には,この改正により新たに課税事業者となり,消費税の納税義務を負うことになった.また,簡易課税の適用を受けていた医療機関であっても基準期間の課税売上高が5,000万円超である場合には,その適用を受けることができず原則課税となり,消費税の納税額が増加する.ここで,基準期間とは,個人事業者はその年の前々年をいい,法人はその事業年度の前々事業年度をいう.

連載 狙われる病院 暴力・不当要求への対応・3

不当要求行為団体と「割れ窓理論」の実践

著者: 樫山憲法

ページ範囲:P.232 - P.234

医療機関に対する不当要求行為者

 最近の反社会的勢力(暴力団等)の傾向,実態などについて,これまでの2回の連載で報告した.暴力団関係者は,暴力団組員であることを前面に出して各種の不当要求を行えば,「暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)」の規制を受けてしまう.したがって,彼らは隠れ蓑として,暴力団関連企業,社会運動標榜ゴロ,政治活動標榜ゴロなどに姿を変えるなど,活動形態を不透明化させながら資金獲得活動を活発化させている.

1.暴力団関連企業

 暴力団関連企業とは,もともと暴力団組員などが設立した企業,実質的に経営を支配している企業,暴力団員と親交のある者が経営する企業の総称で,暴力団組織を資金面から支えている.

病院ファイナンスの現状・7

―間接金融(2)短期資金調達 2―銀行からの具体的借入方法と知っておくべきポイント

著者: 福永肇

ページ範囲:P.236 - P.239

 2月号では病院の短期資金調達の概要について説明しました.今月号では,病院が実際に金融機関から短期資金調達を行う場合の具体的な事務手続き・方法・ポイントを解説いたします.お金を借りるとは,具体的にはどのように手続きをするのでしょうか.


Q1 民間金融機関にはどんなものがありますか?

 民間金融機関には普通銀行(都市銀行,地方銀行,第二地方銀行),長期金融機関(信託銀行等),中小金融機関(信用金庫,信用組合),保険会社(生命保険,損害保険),その他(リース,証券会社,ノンバンク,他)があります.また政府系金融機関や地方自治体から間接金融を受けることもあります.

 病院は民間金融機関の中から取引金融機関を選択し,メインとなる銀行または信用金庫・信用組合に保険診療報酬の振込口座注1) を指定することになります.

回復期リハビリテーション病棟便り・9

数え年

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.240 - P.241

数え年と満年齢

 数え年の数え方は,生まれた時点を1歳とし,新年を迎えるたびに1歳ずつ加えていく.私事で恐縮だが,筆者の誕生日は年末の12月26日である.したがって,生まれてからまだ一週間も経たない翌年の元日には,数え年で2歳になっていた.その時,満年齢ではもちろん0歳である.それから40年以上経過した平成17年1月現在も,当然のことながら数え年と満年齢には2歳の開きがある.

 なぜこのような話をするかというと,リハビリテーション(以下,リハ)医療における「リハ総合実施計画書」(以下,計画書と略す)の扱いが,数え年と同様の「数え月」であり,入院日やリハ開始日から起算した単純な月数(満年齢にあたる)ではないからである(後述).

Q&Aで学ぶ医療訴訟・3

医療訴訟の手続とその準備

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.242 - P.243

Q 17歳の拡張型心筋症患者に対して入院加療中,心不全が悪化し急変していまいました.遺族は医療過誤だと息巻いて,説明に対しても攻撃的な言動を繰り返すばかりです.裁判になるのでしょうか?またどのように準備しておけばよいでしょうか.

A 裁判になる可能性があります.直ちに弁護士と相談して以下の準備をする必要があります.

病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・36

理想の医療の実現する舞台としての病院マネジメント(2)

著者: 野々山尚毅

ページ範囲:P.244 - P.245

前回述べたように,北原脳神経外科病当院は,設立当初から「より良い医療をより安く」を経営理念として掲げ,最大の医療効果とコストの低減の両立を目指している.換言すれば,患者さんを中心とした医療の徹底と継続を目指している.そして,その効率的実現のため,当院の組織・教育等を構築している.前回の当院の組織構造に続き,今回は当院における患者さんを中心とした医療について,述べたいと思う.


●サービス業としての医療

 わが国の医療は従来,「病気を見て,病人を見ず」や,「知らしむべからず,寄らしむべし」と言われていたように,患者さん不在で,かつ医師中心のものであった.近年その反省から,「医療はサービス業である」ということが,医療関係者等により様々な形で喧伝されている.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第123回

医療法人慈豊会田中病院 「三の丸ビル」

著者: 辻幸一郎 ,   河崎邦生

ページ範囲:P.246 - P.250

まちが再び輝くまで

 20年の歳月をかけて平成15年3月に完成した「三の丸ビル」は,福井市の駅周辺地区におけるまちづくりの先駆的シンボルとして,医療・福祉・住宅・商業の都市型サービス機能を持つ複合ビルである.全国の多くの地方都市が抱える,少子高齢化社会への対応と中心市街地における都心居住への回帰といった諸問題を,時代を先取りした発想の複合施設によって鮮やかに解決してみせ,全国的にも多くの注目を集めている.

 福井地震から復興した県都福井市の象徴とされる不死鳥になぞらえ,新たな都市活性化の切り札となる三の丸ビルには,未来に羽ばたく不死鳥の羽をイメージしたシンボルマークがつけられた.

リレーエッセイ 事務長の所感・14

事務長職の行方

著者: 海北幸男

ページ範囲:P.251 - P.251

制度にのって40年

 医療界にお世話になって40年近くになる.その間,医療界は保険制度のもとですべてが行われ,環境に多少の変化はあったものの,他の産業界が経験したような大きな変化はなかった.したがって事務長の業務も医事業務,会計業務,求人業務,人事管理,施設管理,トラブル処理など事務的業務の一部と院内の調整業務が主たる業務で,ただ制度だけを意識した,およそ経営管理から程遠い運営業務を行ってきたように思う.


変化の時代を迎えて

 皆保険制度ができて45年近くになる.貧富の差に関係なく,良質な医療をいつでも,どこででも,しかも早く受診できるこの制度はいつまでも続けて行きたい良い制度だと思う.しかしこの制度を維持するにはお金がかかり,誰かがそのお金を負担せねばならない.誰が負担するかは議論のあるところだが,保険や税だけでなくこれまで以上に受益者に負担を求められことは避けられないと思われる.受益者の負担が多くなることは,患者が医療機関を選択する大きな要因の一つになるだろう.また医療技術の革新で早期治癒率の向上などによる患者の減少と相俟って,医療提供者は初めて体験する競争の世界に入りつつある.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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