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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻4号

2005年04月発行

雑誌目次

特集 個人情報保護法と病院

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.269 - P.269

 個人情報保護法が成立し,本年(2005 年)4 月から全面施行されることになった.病院も個人情報取扱事業者として,今後は患者の個人情報の取扱いに適正に対応してゆかなければならない.金融・信用と並んで最も慎重に対応されるべき医療における個人情報を取扱う病院としては,この法律の趣旨と具体的な運用の方法・手順を十分に周知・徹底しておく必要がある.そもそも個人情報保護法の立法の趣旨は何なのか,個人情報の保護とその開示・訂正・利用停止,あるいは情報公開との関係など,今後の個人情報への対応の基本的な考え方を理解しておきたい.

 既に,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が示されているが,個人情報の利用目的の明確化や安全管理措置など,その概要と具体的な対応の手順を十分に知っておく必要がある.特に,保有個人データの開示・訂正・利用停止や苦情相談については,院内のしっかりとした体制が求められる.また,個人情報の漏えいや減失には従来以上に十分な配慮が必要であり,職員のIDやパスワードの運用など,今後の病院情報システムのあり方について,改めて検討しておかなければならない.業務委託についても,レセプト作成や臨床検査の外注に伴う個人情報の保護に配慮するとともに,派遣職員に対しても十分に留意しておく必要がある.

個人情報保護法の医療分野への影響

著者: 宇賀克也

ページ範囲:P.270 - P.273

2003年5月23日に個人情報保護関係5法が成立し,2005年4月1日に全面施行される.個人情報保護関係5法1) とは表 に掲げた5法であり,個人情報保護法,行政機関個人情報保護法,独立行政法人等個人情報保護法という3つの個人情報保護の一般法が含まれている.

 民間の医療機関の場合は,個人情報保護法4章以下の規制を受けるが,国立の医療機関の場合には,行政機関個人情報保護法の適用を受ける.また,独立行政法人や国立大学法人の医療機関の場合には,独立行政法人等個人情報保護法の適用を受けることになる.さらに,公立の医療機関の場合には,各地方公共団体が制定する個人情報保護条例により規制されることになる2)(図).

病院における個人情報保護ガイドライン

著者: 大道久

ページ範囲:P.274 - P.278

■個人情報保護法制定の背景とその概念

 個人情報保護法は,平成15(2003)年5月に成立し,平成17(2005)年4月から全面的に施行される.同法は,社会の急速な情報化の進展に伴い,大量の個人情報が流出するなど,国民のプライバシーに関する不安が高まっていることを受けて,個人情報を取扱う事業者等が講じるべき措置を定めたものである.病院もこの個人情報取扱事業者と位置づけられ,特段に留意してその遵守が求められているのである.

 欧米においては1970年代から個人情報保護に関する法制整備が進められ,1980年に経済協力開発機構(OECD)の理事会が,各国の規制内容の調和を図る観点から「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン」を勧告した.このことが契機となって,先進諸国において公的部門と民間部門の双方を対象に個人情報保護の法制化が進んで今日に至っている.

病院情報システムにおける個人情報保護

著者: 喜多紘一

ページ範囲:P.279 - P.282

病院は患者の診療録など大量の個人情報を保有しているので,個人情報保護法上,特に適正な取扱いを厳格に実施する必要があるとされている.特に「安全性に関する問題」は,医療分野に関する個人情報の漏えいや不当な利用などにより,個人の権利利益が侵害された場合には,他の分野の情報に比べ,被害者の苦痛や権利回復の困難さが大きいことから,重要である.

 病院関係者は個人情報保護の趣旨を理解し,個人情報の利用目的の明確化や安全管理措置など,その概要と具体的な対応の手順を知っておく必要があり,そのための院内体制を整備しなくてはならない.特に,近年,電子カルテをはじめ情報が紙から電子化されるに従って,情報セキュリティは従来以上に重要性を増し,職員の ID やパスワード等の運用,アクセス制御などの十分な対策も必要である.ここでは,病院情報システムにおける個人情報保護について,病院管理者が知っておくべきこと,特に注意し対策をとるべきことを述べ,最後に「プライバシーマーク制度」について触れる.

病院における個人情報漏えいなどへの対応

著者: 松吉威夫

ページ範囲:P.283 - P.286

医療は,必然的に患者のプライバシーにかかわるものであり,医師ら医療従事者が守秘義務を負うのはいわば自明のことと考えられ,秘密漏示に関する罰則も定められている.

 しかし,近年,個人情報に対する関心と保護の要請はますます高まっており,2005年4月からは,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という)が全面的に施行される.本稿は,個人情報に関する法的問題点のうち,特に病院等の医療機関において留意されるべき点を検討するものである.

介護サービスにおける個人情報保護の課題

著者: 高橋紘士

ページ範囲:P.287 - P.289

介護保険は2000年4月に導入され,五年を経過した.この間,保険あってサービスなしという批判にもかかわらず急速にサービス量が拡大し,サービス利用者が居宅サービス利用者は97万人から228万人,施設サービス利用者は52万人から75万人,総計で150万人から300万人と倍増し,給付費も介護保険導入時の3.6兆円から2005年には6.8兆円を越えると予想されている.


■介護保険事業所の拡大と多様性

 このような介護保険の規模の増大につれて介護サービス市場に参入する事業者は急激に増大し,介護保険の導入時に9万事業所程度であったものが,12万事業所に迫る勢いで拡大している.従来からの介護サービスの事業者である社会福祉法人,医療法人に加えて,とりわけ NPO 法人が2倍,営利法人が5割増と急激に拡大している.介護保険の事業者は医療サービスと異なり,株式会社,有限会社等の営利組織,NPO 法人,農協生協等の協同組合などの居宅サービス事業やグループホームや有料老人ホームなどの特定施設のサービスを中心に新規参入した事業所と施設サービスを提供する社会福祉法人,医療法人等の旧来からサービス提供を実施している事業所が混在しているという特徴がある.また,事業所の規模も訪問看護事業所等を中心に数人の従業員を抱える零細な規模から,一部上場企業に至るまで,施設についても小規模な単独施設を運営する法人から大規模法人まで極めて多様な事業所が存在している.

米国の医療における個人情報の取扱いについて

著者: 樋口範雄

ページ範囲:P.290 - P.293

米国の病院を訪ねると,通院であれ入院であれ,表1のような掲示を目にするだろう.同時にその内容が書かれた冊子を与えられて「読んでおいてください」と言われる.

 さらに掲示には表1の記載に続いて,1に掲げられた医療情報の利用の仕方が,5のように簡単な例を伴いながら説明される.具体的な項目としては,医療費支払い,医療業務管理,検査機関など事業提携者への情報提供,患者名簿,家族等への通知・情報提供,研究利用,葬儀取扱者や臓器移植仲介機関への情報提供,医薬関連商品のマーケティング,寄附のお願い,連邦薬品局への報告,労災補償,公衆衛生,警察など法執行機関への情報提供など.いずれも簡潔明快な表現で,医療情報の利用のあり方が示されている.

【座談会】個人情報保護法の施行に向けて

著者: 辻本好子 ,   楠本万里子 ,   井川澄人 ,   瀬戸山元一 ,   神野正博

ページ範囲:P.294 - P.302

2005年4月1日から,「個人情報保護法」が全面施行される.それに向けて厚生労働省は,2004年12月24日に「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(以下,「ガイドライン」)を発表している.医療においても,個人の健康に伴う信用情報を管理する側の医療機関の体制が金融・信用機関や情報通信分野以上に不安視される傾向にあるといえる.個人情報保護を考えるうえでは,医療従事者には専門家としての自覚が,医療機関には組織としての取組みが必要なこととなる.こうした状況をふまえて,本座談会では,患者の立場,医療従事者の立場,医療機関設置者の立場などから,医療における個人情報保護について議論いただいた.


情報に関する医療者と患者の理解のずれをなくすこと

神野(司会) 個人情報保護法はあらゆる業種を対象としておりますが,医療が他業種と異なる点には「チーム医療」が1つキーワードとして挙げられると思います.チーム医療の中で,患者の個人情報はチーム内では垣根なく共有しようという風土が醸成されつつあります.それによって,事故を予防し安全な医療が提供できるはずですが,そうした時に,チーム内で徹底的に患者の個人情報は共有し,一度チーム外に出た時には徹底的に情報を守るといった考え方が重要になるでしょう.また,医療は今,テーラーメイド,オーダーメイドの時代といわれ,ただ治療をするにとどまらず,サービスそのものが個を扱う時代を迎え,ますます個人情報の取り扱いは難しくなることが予想されます.

【資料】個人情報保護法関連 法律・政令・ガイドライン等

ページ範囲:P.303 - P.308

法律等の全文は記載の URL にて参照・入手可能(★印がついているものは概要等を本資料後半にて記載)

Web サイトの管理者,運営者によって,URL は変更される場合があり,コンテンツは削除されることもあります.下記はいずれも2005年3月現在のものです.

法律・政令

A★「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」(平成十五年法律第五十七号)(平成15年5月30日公布,平成17年4月1日全面施行)

http:/ / www5. cao. go. jp/ seikatsu/ kojin/ houritsu/ index. html

http:/ / www5. cao. go. jp/ seikatsu/ kojin/ houritsu/ pdfs/030307houan. pdf

A の関連資料(B,C)

B「個人情報の保護に関する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成15年12月10日政令第506号)

http:/ / www5. cao. go. jp/ seikatsu/ kojin/ seirei/ pdfs/ kojinseirei506. pdf

C「個人情報の保護に関する法律施行令」(平成15年12月10日政令第507号)

http:/ / www5. cao. go. jp/ seikatsu/ kojin/ seirei/ pdfs/ kojinseirei507. pdf

グラフ

医療サービスを志すものにとって魅力ある職場とは-医療法人社団輝生会 初台リハビリテーション病院

ページ範囲:P.257 - P.262

医療法人社団輝生会初台リハビリテーション病院は,2002年6月,リハビリテーション専門病院として,東京都渋谷区本町に設立された.都庁がある新宿新都心に隣接した場所である.


地域医療について

 都心でリハビリテーション専門病院を開業した理由を,院長の石川誠氏は「2次医療圏でプライマリ・ケアを完結していこうという考え方については賛同できるが,2次医療圏の枠組みで完結できないものもある.その最たる例がリハビリテーション(以下,リハ)である.特に都心ではその傾向が高いことから,あえて都心でリハ専門病院を開業しようと考え,この地を選んだ」と語る.

特別寄稿

医療機関における個人情報の安全管理の進め方

著者: 竹内友之

ページ範囲:P.309 - P.312

医療機関における個人情報保護

 医療機関は非常に重要な個人情報を取扱っている.病院で取扱われるカルテやレセプトには患者の氏名のほか疾病情報や投薬情報などが含まれており,患者から見れば特に適切に取扱ってほしい個人情報といえる.

 それほど重要な個人情報にもかかわらず,昨今,医療機関において個人情報の漏えい事故が頻発しており,個人情報の管理に対する組織的な整備は全体的に遅れているようである.

消費税損税解決に向けて・下―ゼロ税率だけでなくカナダの税額還付方式も視野に

著者: 長英一郎

ページ範囲:P.313 - P.315

日本の消費税制度は,預った消費税から支払った消費税を控除し,その差額を税務署に納付することとされている.医療機関においては,社会保険診療等の非課税となる収入が大半で,それに対し薬品等の購入時には消費税を支払っているため,預った消費税よりも支払った消費税のほうが多くなる.通常であれば,支払った消費税のほうが多いため,還付されるが,非課税売上に対応する薬品等の課税仕入は控除できないこととされており,非課税売上が多い医療機関においては消費税で損をしている(いわゆる損税).

 前回は,医療機関における消費税損税の解決策の一つとしてゼロ税率について触れたが,今回はゼロ税率以外の方法により損税の解決が図れないか考えてみる.なお,医療業は保険診療収入や自由診療収入といった「収入」という言葉を使うが,消費税法上は収入も「売上」と表現しているため,以下「売上」という言葉を使用することにご留意いただきたい.

連載 病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・1

To Err Is Human:Building a Safer Health System―ダナ・ファーバー癌研究所の事例から学ぶ(1)

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.316 - P.321

連載を始めるにあたって

 「大きい生きものが生き残るとは限らない.強い生きものが絶滅しないとも限らない.環境に適応した生きもののみが世代を超えて繁栄し続けることができる」ダーウィン進化論


 21世紀,情報化社会が到来しました.誰でもどこでも,専門的な情報であっても入手が容易になったのです.一昔前であれば,「がんだからしょうがない…」とか「大病院にかかってダメだったのだから…」といった言い訳が通用したかもしれません.一方,情報化社会である現代,人々は「このがんはどれくらい治る」とか「この病院はこの病気に熱心に取り組んでいる」といった情報を仕入れることができるようになりつつあります.そして,共通して「いつでも親身になって訴えに耳を傾け,安全で最高の医療を提供してくれる病院」を求めているのです.

ともに生きる社会のヘルスケア・システム・1

新しいコミュニティ

著者: 冨田信也

ページ範囲:P.322 - P.324

超高齢社会に備える

 21世紀の日本の地域社会と保健・医療・福祉の仕組みを考える時,人口の高齢化による諸々の社会的,経済的,政治的な変化や影響を予測しつつ,取り組む事業活動をデザインし計画することが大切であると考える.

 1996年6月,施設近代化整備事業を進める東京・杉並にある河北総合病院で,リニューアル工事で空き部屋となった外来診察室にデスクを置いて,地域社会に必要な在宅ケアサービスの項目を職員有志と一緒に検討し始めた.当時の東京都杉並区の高齢化率は15%程度で介護保険制度はまだ始まっていなかった.既に統計資料などから超高齢社会が予測でき必ずそれはくることは知識ではわかっていたが,だれにもその社会の現実はみえにくく,どのような保健・医療・福祉に関係するサービスを発想したらよいのか暗中模索の状態にあった.

病院ファイナンスの現状・8

―間接金融(2)長期資金調達 1―福祉医療機構から融資を受ける場合

著者: 福永肇

ページ範囲:P.325 - P.329

長期資金調達とは

 長期資金調達とは元本償還が1年を超える資金調達を指します.病院での長期資金調達の具体例としては施設建設資金,設備投資資金,土地購入資金,設備リース,場合によっては病院買収資金が挙げられます.

 長期資金調達での銀行審査は短期資金調達と比べ,格段に厳しくなります.すなわち銀行にとって融資期間が長期であることは返済リスクが大きくなることを意味します.また調達目的の土地購入資金,建築資金,設備資金などは通常,短期の運転資金や賞与資金よりも金額はかさばり,銀行もより慎重な審査を行うためです.例えば返済源げん資しの検討において,短期資金は1年以内の医業収益の中から返済されるために返済可能性の判断は一般的には困難とはいえないでしょう.しかし長期資金の場合では返済可能性は長期間にわたる事業計画と償還計画の数字から判断しなくてはなりません.プロジェクトは事業者でない第三者が冷めた眼で見た場合,海のものとも山のものともいえないかも知れず,事業計画の実現可能性をどう判断するかは難しく,さまざまなケースを想定した慎重な検討を要するといえます.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・4

説明義務違反

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.330 - P.331

Q50歳代の食道癌に対して切除手術を行いました.術前胸部CTで陰影があったものの,客観的には炎症性変化と診断されたのですが,実は肺転移で,術後癌性胸膜炎で死亡しました.手術適応は間違いなく手術も成功でしたが,術前には転移の可能性はないと患者家族らに断言して手術を強く勧めていました.この場合,損害賠償請求されるでしょうか.

A 説明義務違反を問われる可能性もあるが,認められても300万円程度の慰謝料にすぎない.

回復期リハビリテーション病棟便り・10(最終回)

Think globally, act locally

著者: 大仲功一

ページ範囲:P.332 - P.335

中継ぎ

 急性期,回復期,維持期(そして終末期)とリハビリテーション(以下,リハ)は流れていく.流れが進むに従って,リハが行われる場は医療から介護・保健・福祉へと移り,リハサービスを提供する主役もリハ専門職からリハ非専門職や家族にバトンタッチされていく.

 そのような流れの中で,回復期は始まりでもなく終わりでもない中間的な時期にある.サービスを提供する側の視点でみれば,急性期から患者を預かり,維持期へ円滑に引き継いでいくという,いわば「中継ぎ」的な位置である.しかし,この期間に対象者(患者)の心身の状態は大きく変化し,その後の生活や人生の方向づけが行われる非常に重要な時期でもある.そして,回復期リハ病棟は,文字通り回復期リハの中心的役割を担っている(回復期リハ病棟で行うリハが回復期リハのすべてではないということは連載第4,5回で述べた).

病院管理フォーラム 事務長の病院マネジメントの課題 急性期病院の立場から・37

理想の医療の実現する舞台としての病院マネジメント(3)

著者: 野々山尚毅

ページ範囲:P.336 - P.337

これまで2回にわたり述べてきたように,北原脳神経外科病院は「より良い医療をより安く」を経営理念として掲げ,患者さんを中心とした医療の徹底と継続を目指している.そして,それを効率的に実現するために適した組織を構築するとともに,職員に対して求められる人物像を示している.そのうえで職員一人ひとりがそれに近づくべく,卒後教育を行っている.

 前回述べた当院の考える「患者さんを中心とする医療」に続き,今回は本連載の最後として,当院の求める人物像と卒後教育について,述べたいと思う.

狙われる病院 暴力・不当要求への対応・4

対応の心構えと法令解釈

著者: 樫山憲法

ページ範囲:P.338 - P.340

クレーマーの分類

 クレーマーを分類すると,文句を言いたいだけの「抗議牽制型」と,慰謝料などの金品獲得などを目的とする「金品要求型」に大別でき,それぞれの対応要領は異なってくる.

 「抗議牽制型」は,一般的に計画性がなく,議論を求め,精神論をまくし立てる傾向が強く,相手のペースに陥ると多くのケースで論点がずれていき,時間だけがだらだらと経過して一向に解決しないことが多い.

リレーエッセイ 事務長の所感・15

病院のIT化を阻むものは何か?

著者: 福島公明

ページ範囲:P.341 - P.341

医療分野の IT 化の促進は政府決定である

 病院の IT 化については,政府は「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」により,電子カルテを平成18年度までに全国の400床以上の病院と全診療所のそれぞれ6割以上へ普及,との方針を出しています.400床以上の病院は約860施設,診療所が約9,400施設であるので,あと2年あまりでそこまで普及するか?というと疑問がないわけではありません.しかし,IT 分野の発展はドッグカレンダー(犬は人間の7倍のスピードで生きている,の例え)で動いており,2年先を予測することは難しいことです.


診療所への電子カルテの普及が先行するか?

 この問題を考える時いつも思うのが,「悉(しつ)無(む)律(りつ)」という法則です.例えば,興奮性細胞(神経,筋肉など)は刺激強度がある一定値(閾いき値ち)以下では応答せず,閾値以上の刺激で応答し,応答の大きさは刺激の大きさによらないそうですが,これを悉無律の法則といいます.中学生の理科の実験でやった,蛙の足の神経を出して,食塩水を1滴ずつ垂らし,何滴垂らしたら神経が反応するか?あの実験です.

バンコク病院見聞記・1

言語サービスとグローバル経営の株式会社立病院

著者: 稲村和彦

ページ範囲:P.342 - P.345

大都会バンコク

 私の大学のゼミナールでは,昨年12月に7泊8日の日程で卒業旅行を兼ねてタイへ病院見学に行きました(スマトラ沖地震の惨劇は帰国後のことです).事前にアポイントを得て見学したのは大手民間病院「バンコク病院(Bangkok Hospital)」「国立マヒドン大学熱帯医学部大学院」「同大学附属熱帯病病院」および「公衆衛生省」(MoPH: Ministry of Public Health)の4か所で,その他にも時間の許す限りバンコク市内の沢山の病院を飛び込みで見学しました.ここでは,「バンコク病院」の見学体験をご報告させていただきます.

 タイは国立病院を主とする医療提供体制が取られています.その中で民間大病院が,医療の質の向上面で重要な役割を担っているというのがタイの医療提供の特徴といえるでしょう.タイには医療法人制度はなく民間病院は株式会社形式で病院経営を行っているところもあります.「株式会社による病院経営」は,日本では最近特区にて限定付きで緩和されるようになってきましたが,タイでは既に株式上場までしている民間病院グループが12社あります.バンコク病院グループはその内の最大手の1社です(病院を1社と呼ぶことに対しては,少しまごついてしまいますが…).

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第124回

みなと医療生活協同組合協立総合病院

著者: 市川健二

ページ範囲:P.346 - P.351

みなと医療生活協同組合は,1959年伊勢湾台風の救援活動を端緒として設立され,現在約48,000世帯の組合員をかかえる組織に成長している.医療生協の特徴として,カルテ開示やガン告知などの諸活動,特に『心のケア』についてこの地方において時代を先取りした取組みを展開している.434床の協立総合病院はみなと医療生活協同組合の中核施設であり,24年前に建設された旧病院を全面移転するプロジェクトである.

 病院の移転においては,新病院の延床面積が旧病院よりどの程度拡大できるかが重要なポイントとなる.

 ところが,今回の敷地面積に対する容積を通常法規(200%)において計画すると44.1m2/床にしかならず,国公立系の半分程度しか充足できないことになる.このため,総合設計制度の活用による容積割増が計画上必須となるとともに,アウトソーシングの推進による病院機能のスリム化を図った.これにより,58m2/床(周辺施設への機能移転含む)の民間総合病院として成立した.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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