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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻5号

2005年05月発行

雑誌目次

特集 経営陣の一翼としての看護部長

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.365 - P.365

 日本の病院は歴史的に「医師の家」として出発したため,患者ケアの視点が乏しかった.戦前までは家族が入院患者のケアを担い,看護婦は診療の介助に専念し,婦長も各診療科の医長が任命していた.こうした状態に対して戦後占領軍は,病院における看護ケアの確立と看護の独立を車の両輪に据えて改革を推し進めた.しかしながら,今日において看護部長は看護師の人事権を持つようになったが,患者中心の医療は必ずしも十分に達成されていない.

 そこで,看護部長を経営陣に迎えることによって,患者ニーズに対して迅速に対応できるようになると同時に,病院の最大部門である看護部に対する経営側の意向を徹底することが期待されている.しかし,病院長の意向を代弁しているだけというように評価されれば,看護部長としての支持基盤を失うことになるので,部門の長として看護部の利害を経営に反映させることも必要であり,バランス感覚が求められる.

求められる看護部長・副院長の能力と看護教育

著者: 中山洋子

ページ範囲:P.366 - P.369

今ほど,医療の状況がみえず,先の見通しが立たないことはなかった.もちろん筆者が,大学に所属し,最先端の医療現場に身をおいていないということが大きな原因であろう.また,東京から福島県に移り住み,時代状況を掴む感覚が違ってきていることも影響しているかも知れない.

 しかし,地方の時代といわれ,権限や財政の流れが変わり,なおかつ,全国規模で保健医療システムに変革の嵐が吹き込んでいるのである.それにもかかわらず,霧の中に立って道標を見失ってしまっているのは,個人の問題だけではない.

看護部長としての医療経営へのかかわり

著者: 坂本すが

ページ範囲:P.370 - P.375

医療経営とは,医療の理念を実現するために,人材,物資,資金,情報などを組織化し,それを継続的に運営・発展させようとする活動である.医療経営というと広くなるから病院経営ということに絞りたい.

 看護部長の病院経営へのかかわりには次の二つがあると筆者は考えている.一つは,これは既によく知られ,当然のことであるが,病院内の一大組織である看護部の責任者として,看護部を継続的に運営することで組織全体の理念を実現する役割の一端を担うことである.

看護部長は副院長になるべきだ―病院事業管理者の視点から

著者: 武弘道

ページ範囲:P.376 - P.379

筆者は病院事業管理者の仕事について12年目になる.

 この仕事は,市長や知事から公立病院の経営に関するすべての権限を委譲されて病院の経営・管理をする最高経営責任者(CEO)の仕事であり,鹿児島市病院事業管理者として8年,埼玉県病院事業管理者として3年を過ごした.

 この4月からは川崎市病院事業管理者として働いている.鹿児島市立病院は九州一のサイズの自治体病院であり,埼玉県立4病院は,がんセンター,循環器・呼吸器病センター,小児医療センター,精神医療センターからなる高度・専門病院である.川崎市には市立川崎病院,市立井田病院,2006年に発足する多摩病院がある.

看護の視点から,看護部長・副院長として病院経営にどう参画するか

著者: 向田良子

ページ範囲:P.380 - P.384

長引く経済の低迷化や低医療費政策の中にあって,病院経営は困難を極めている.自治体立病院においてもその影響は大きく,ここ数年,経営改善・経営健全化の取り組みは病院経営陣の最重要課題となっている.

 筆者の勤務していた埼玉県立がんセンターは昭和50年開設した400床のがん専門病院であるが,膨れ上がった一般会計からの繰入金の削減を主目的に県立病院経営健全化計画が策定され,それを受けて全職員一体となって経営改善に取り組み,一応の成果を収めることができた.ここでは看護部長・副院長という立場で経営に参画した経緯について具体的事例を提示し,述べることにする.

看護の質と医療経営

著者: 石垣靖子

ページ範囲:P.385 - P.389

■生物医学型医療モデルから生活重視型医療モデルへの転換

 超高齢社会の到来とともに,疾病構造は変化し,生活習慣病の増加・加齢に伴う心身に障害を持つ人が増加してきた.

 それに伴って,これまでの「生物医学型医療(急性疾患)モデル」から「生活重視型医療(慢性疾患)モデル」への転換は急速に進んでいる.

 看護の基本的な機能は「個々に条件の異なる人たちに対して,その人に適った生活(くらし)の営みを整える」ことであり,そこに極めて高い専門性が求められている.今後,生活重視型医療の定着とともに看護の力量がますます問われる時代になる.

看護管理者に対する医療経営教育のあり方

著者: 松下博宣

ページ範囲:P.390 - P.394

従来の専門学校,看護大学での看護教育は臨床知識,技術が中心であり,看護教育の体系の中に「経営」や「マネジメント」が入っていない.なぜそうなのか? 答えは,従来看護の現場には経営やマネジメントが要請されて来なかったからである.単純明確である.

 しかし,今日の医療・看護の現場では経営やマネジメントに四苦八苦して対応しているのが現状である.平均在院日数の短縮,病床稼働率の維持・向上,入退院管理,クリティカルパスの導入,目標管理の定着,電子カルテの導入,リスクマネジメント・システムの高度化,訴訟対応などの課題はいずれもが経営とマネジメントの課題と表裏一体だ.

米国における医療経営にかかわる看護職育成の現状

著者: 小林美亜 ,   池上直己

ページ範囲:P.395 - P.399

米国において,看護管理者が経営に参画していくことは重要な役割の一つとなっている.1960年代の米国では,原則として病院へ支払われる報酬は,出来高払いであり,病院経営者のコスト意識はそれほど高いものではなかった.したがって,看護管理者の役割は,臨床機能を総括・管理することであり,主に人材管理に焦点があてられていた.

 しかし,1983年より医療費の抑制策として,連邦政府所管の高齢者医療保険であるメディケアに,入院医療費に対する支払い制度として,診断群(DRG : Diagnosis Related Groups )に基づく包括評価制度が導入された.その結果,各 DRG に対応した在院日数を超えないように在院日数管理を徹底することが病院に求められるようになった.

グラフ

職員の熱意が病院を変える―独立行政法人化後一年が経過して-独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター

ページ範囲:P.353 - P.358

独立行政法人国立病院機構大阪医療センターは,大阪市のほぼ中央,大阪城の南西すぐに位置する.地下鉄谷町線・中央線駅,阪神高速道路出口に近接し,交通の便はよい.

 当院は,昭和20年12月に国立大阪病院として開設されて以来,地域の基幹病院の役割を担ってきた.国立病院・療養所の再編成計画の見直しを受けて,平成15年7月に国立療養所千石荘病院と統合し,国立病院大阪医療センターとして発足した.平成16年4月,国立病院の独立行政法人化にあたり,現在の名称となる.

ケースレポート【投稿】

脳卒中患者の転院待機日数の年次推移

著者: 今村隆志 ,   徳永誠 ,   渡邊進 ,   橋本洋一郎 ,   中西亮二 ,   山永裕明 ,   安藤和子 ,   加来克幸

ページ範囲:P.400 - P.403

要 旨

 当院医師が脳卒中急性期病院から転院依頼の電話を受けてから転院するまでの待機日数を調べた.転院待機日数の年次推移は,1999年の平均7.3±4.9日から毎年短縮し2002年度には4.3±2.7日まで有意に減少したが,2003年度は5.7±3.6日に延長した.

 転院待機日数の月による違い,月別の転院待機日数と病院全体の空床数との相関,転院待機日数の曜日による違い,曜日別の転院患者数と転院待機日数との相関,病院車の迎えの有無による転院待機日数には,いずれも有意差を認めなかった.

 リハビリテーション病院は,脳卒中急性期病院との間で転院待機日数減少を含めた病病診連携強化が望まれた.

トピックス

民間人材派遣,人材紹介会社からみた外国籍看護師・介護福祉士の受け入れ―経済連携,構造改革特区,労働開国へ

著者: 飯野直子 ,   加藤丈明

ページ範囲:P.404 - P.407

日比 FTA・EPA と構造改革特区

 日本・フィリピン両政府間で,FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)交渉が行われ,大筋合意となったのが,平成16(2004)年11月29日である.一次産品,サービス,投資などの様々な分野で規制緩和が話し合われたが,特に日本社会にとってインパクトの多い話題は,少子・労働者不足,高齢社会の到来を背景にした,看護師・介護福祉士に関する「自然人(ヒト)の移動」ではないだろうか.

 アジアの経済統合,つまり,ヨーロピアンユニオン(EU)や,北米自由貿易協定(NAFTA)を意識した,アジアンユニオン(AU)に向けてようやく日本が動き出した.その統合に向けての,FTA,EPA(経済連携協定),RTA(地域貿易協定)なのかはわからないが,日本と ASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳は,2012年までに関税撤廃などを完了させることで合意した.

連載 病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・2

To Err Is Human:Building a Safer Health System ダナ・ファーバー癌研究所の事例から学ぶ(2)

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.408 - P.413

DFCI 全体の取り組み

 DFCI(ダナ・ファーバー癌研究所)は直ちに死亡した女性の家族に「抗がん剤過剰投与が原因であり,医療サイドに過失があった」ことを伝えました.彼女の夫は DFCI に勤務する研究者であったこともあり,隠せるものではありません.DFCI は直ちに内部調査を行い,何名かのスタッフは停職となりました.

 しかし,彼女がボストン・グローブのヘルス・コラムニストであったこともあって,3月23日よりこの医療事故は連日のようにボストン・グローブの掲載され,公の知るところとなったのです.

ともに生きる社会のヘルスケア・システム・2

新しいヘルスケア・システム

著者: 冨田信也

ページ範囲:P.414 - P.415

新しいコミュニティには全人的な保健・医療・福祉の仕組み

 地域社会は一定の物理的な空間に人々が集まって生活を営むことを前提としているが,同時に,そこに集まる個々の人々が意識して,自ら選択した共通の価値,ビジョンや理念をもとに集まったとき,それはコミュニティとなる.そして,教育や保健,医療,福祉の領域にそのように共有できる価値やビジョン,理念を目指してともに生活を営みたいと,二人以上の「個」が互いに尊重し合い集まった時に新しいコミュニティは生きはじめる.超高齢社会を目前にして,「わたし」の生き方をそれぞれが考え模索し,行動しつつ人々が集まってくるそのような社会がコミュニティとなってゆく.

 個が尊重される新しいコミュニティでは,価値やビジョン,理念の共有のプロセスには継続的な「対話」が働かねばならない.ソクラテスやプラトンの生きたギリシャの時代から今日まで人間が重要な原理として実践してきた「対話」とは,異なる考え方や論理を開かれた公共の場で時にはぶつけ合いあるいは対決させて,それを見守る人々も含めて対話者たちが今までに自ら予期しなかったような新しい認識に至るプロセス(過程)である.私たちの今日の社会は2000年4月に施行した介護保険制度の見直しの論議を進めている.新しいコミュニティを形成してゆく上で消極的な傍観者とはならないで,これらの議論には積極的に実践を通じて参加して,「わたし」たちの考えを具体的に提示してゆきたいものである.

狙われる病院 暴力・不当要求への対応・5

金銭目的型クレーマーへの対応

著者: 樫山憲法

ページ範囲:P.416 - P.418

今月号では,金銭の授受を目的とするクレーマーに対する具体的な対応法について紹介する.

相手の確認

 いきなり,「こら,わしがどのような仕事をしているかわかるだろう」と大声を出して凄まれると相手が暴力団員らしいということで気が動転してしまい,どこの誰かを確認せずに対応してしまうケースがある.しかし,初対面の段階で,「理事長・院長に報告する必要がありますから」などと告げて,相手の住所,氏名,所属団体,人相,服装などの確認をすることが必要である.

病院ファイナンスの現状・9

―間接金融(4)長期資金調達 2―福祉医療機構利用のメリット

著者: 福永肇

ページ範囲:P.420 - P.423

 この連載では4月号から病院の長期資金調達の解説を行っています.長期資金調達は期間が長いことに加え,金額もかさばることから病院側にも金融機関側にも慎重かつ綿密な事業計画の検討が要求されます.

 4月号では独立行政法人福祉医療機構(以下,「福祉医療機構」と表記)の医療貸付事業の概要を説明しました.今月号では福祉医療機構の医療貸付利用のメリットを考え,来月号では医療福祉機構の活用と民間銀行借入との併用上での注意点を整理してみましょう.

 なお福祉施設のインフラ整備にとり医療福祉機構の「福祉貸付事業」は重要な役割をしておりますが,本連載では「医療貸付事業」,それも対象施設を「病院のみ」に絞っております.福祉医療機構の政策金融に対比するため,民間金融機関を以下では「民間銀行」と表記します.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・5

自己決定権

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.424 - P.426

Q19歳の女性が,卵管子宮外妊娠破裂により救急車で搬送されました.輸血を伴う手術が早急に必要ですが,両親がエホバの信者で,両親は娘も信者だと言い張り,セルサーバーを使用した自己血輸血についても拒否しています.輸血できずに見殺しにして良いのでしょうか.


A 本人に説明して輸血を行うべきです.本人の意思が明確でない場合や緊急時は輸血してでも救命するべきです.

リレーエッセイ 事務長の所感・16

ヘリが飛ぶ,救急車が走る,つくばエクスプレスがやって来る!

著者: 鈴木紀之

ページ範囲:P.429 - P.429

 わたしは,どうやら,あまり落ち着きのない事務長のようである(?).なるほど,手帳を見ると,うろうろと徘徊している様子が,克明に残っている.そうかと言って“行動派事務長”というわけでもない.

 興味の向くままに,誘われるままに,方々へ顔を出していると,いつのまにか迷宮を彷徨っているという次第.1日,2日お留守にすると,机の上に小高い山ができる.この山の取り壊し作業に熱中していると,あっと言う間に,午前中が過ぎ,先ほどの山は,分割され,新たな小山として,無数に,眼前に拡がっている.いよいよ平成17年度が始まる.小山崩しをしながら,暫し,医療の未来に想いをはせる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第125回

高知医療センター

著者: 高橋明 ,   永井豊彦

ページ範囲:P.430 - P.435

病院医療のありかたを変える事業の実現

 今回のプロジェクトは,高知県立中央病院(400床)と高知市立病院 (410床) の二つの病院を統合,再編成することに加え,日本の病院では初の試みとなる本格的「PFI (Privete Finance Initiative)」を導入したものである.

 病院運営に民間のノウハウを反映させ,高知発の「病院改革」が立ち上がった.

バンコク病院見聞記・2

入院体験記―微ほほ笑えみの国で体験した最高の患者サービス

著者: 大野珠未 ,   高橋慶子

ページ範囲:P.436 - P.439

バンコクでの入院体験記・Ⅰ(大野)

 昨年12月に,大学のゼミナール卒業旅行でバンコクの病院や医学部などを見学しました.3日目には株式会社立(株式上場もしている)のバンコク病院(Bangkok Hospital)の見学を予定していました(本誌4号でゼミ生の稲村さんが報告).しかし私はその日に見学者としてではなく救急患者として入院することになりました(もう一人,ゼミ生の高橋さんも私の後を追うように入院).

 初めての海外旅行で,万一のためにと「海外旅行傷害保険」を掛けて出発しました.パックツアー料金自体が46,400円なのに7泊8日の保険料は約5千円とかなり嵩みましたが,これがとても役立ちました.

Short Column

複利計算の頭を持とう

著者: 福永肇

ページ範囲:P.423 - P.423

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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