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文献詳細

雑誌文献

病院64巻7号

2005年07月発行

文献概要

連載 病院ファイナンスの現状・11

―間接金融(6)長期資金調達 4―病院の担保

著者: 福永肇1

所属機関: 1国際医療福祉大学医療福祉学部医療経営管理学科

ページ範囲:P.576 - P.580

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 「担保」・「保証」は病院資金調達での大切な知識です.しかし担保・保証の解説書は法律書と銀行実務書の一部以外では書店でみかけませんし,それらを手にとると難解な法律用語が並んでいます.また病院で日常的に発生する取引ではなく,病院は担保・保証分野への理解は浅いままだと思います.この連載では担保・保証を法律条文の解釈ではなく実務的な病院経営の視点からみてみましょう.


銀行借入では,なぜ担保が必要となるのですか

 銀行から融資を受ける場合には担保提供が前提条件になっています.銀行が担保を徴ちょう求きゅうする目的は,利息徴求や貸付金回収が不可能との事態になった場合に担保処分により貸付元本,利息,違約金などを回収し債権保全をするためです.

 しかし担保処分には弁護士,登記費用等の金銭コストや事務コストがかかります.また,処分を急ぐ場合には足許をみられて低い売却価格になるかも知れません.銀行は貸付金の回収に対して担保には絶対的な信頼を置いていません.そもそも当初から担保処分の可能性がある融資案件は銀行内融資審査が通らないでしょう.

 また,銀行は担保があるとの事由で融資申出を許諾することもありません.返済源資と返済方法が明確でないものは融資の対象にはなりません.担保至上主義の姿勢に対しては,銀行も企業も国民もバブル経済崩壊後に高い授業料を払って学んでおります.その後,銀行は確固たる債権保全を経営基軸としており,現在は担保至上主義ではなく担保第一主義といえるでしょう.長期資金調達にとって担保は必要条件ですが十分条件ではないといえます.

 銀行は担保徴求が与える「借入金を返済しよう」という心理的効果も期待しています.例えば換金性の低い不動産,担保評価対象外である市街化調整区域の土地,すでに多額の先順位抵当権が設定されており処分しても貸付金の回収は見込まれない不動産に対してでも抵当権を設定することもあります.これらの場合には担保を経済的価値としてみているのではなく,病院に対して “万一の場合には資産を抑える” という心理的効果を付与しているといえます.

 病院の長期借入での希望期間は10年間を超える場合も多いでしょう.10年の間には診療報酬点数や医療制度がどのように変化するのか,そして個々の病院経営がそれからどのような影響を受けるのかは予測不可能です.加えて,社会,経済,財政,金利水準,担保価値,人口構成,医療技術など,病院を取り巻く環境も変化していくでしょう.現在の経営者が十年後も元気で経営を行っているかも不明です.長期事業計画立案で医療利益や資金返済計画を正確に予測することは病院にとっても銀行にとっても本来は不可能なのです.また天災や医療訴訟などの潜在リスクも別にあります.リスクに対してはしっかりとした債権保全をしておく,という姿勢が金融業の基本です.

 銀行は病院の長期事業計画を信用していないから担保を取るのではなく,信用しているからこそ事業に融資するのでしょう.事業で返済する自信と決意があれば,その証拠として担保を出して欲しいというのが銀行の論理のようです.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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