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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

特集 病院経営のプロをどう養成するか

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.613 - P.613

 病院を取り巻く環境は厳しさを増しており,経営のプロである管理者が求められている.これに対して日本を代表する歴史のある経営者養成機関はどう対応し,これまでの実績をどう評価しているのか.MBA コースとして日本で最も伝統のある慶應義塾と,戦後まもなく設置された病院管理研修所から伝統を引き継ぐ国立保健医療科学院の先生にそれぞれ執筆いただいた.

 また,これらの機関を含めて経営学について系統的に学んだ者は,病院経営の実務のなかで,自ら受けた教育をどう評価し,どう役立てているか.MBA,MPH および国立保健医療科学院の各コースの履修者からそれぞれ体験を述べていただいた.

MBAコースで何を学び,社会・医療機関でどう生かすか

著者: 大藪毅

ページ範囲:P.614 - P.618

医療と MBA(Master of Business Administration,経営管理学修士)というと,少し変わった組み合わせに見えるかもしれない.一般に医療系の高等教育機関といえば,大学院では医学研究科や看護学研究科などが想起され,おもに企業経営者・マネジメント(管理職)の養成機関であるビジネススクールのイメージとは結びつきにくい.

 だが海外・日本を問わず,すでにビジネススクールには医師,看護師,病院職員,介護士などの医療関係者が,職場からの派遣あるいは私費で多数学んでいる.また,従来の医療系大学院でも,会計・人事・生産(業務改善)管理などのビジネス関連講座が続々開設されており,従来の医学専門教育の範囲をこえてマネジメント教育の役割が拡大している.

 ここでは,MBA がそこで学ぶ医療関係者にどのような影響を与え,実際に職場で役立てることができるのかという視点から,そのマネジメント教育のあり方について説明したい.

国立保健医療科学院における「病院管理研修」の実績と課題

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.619 - P.623

病院管理研修の沿革

 およそプロと呼ばれる人々の多くは,体系的な基礎教育とともに高度専門職業人としての専門教育を受けている.それゆえ,教育研修を軽視する専門分野は,いずれ衰退することになると考えられる.

 国立保健医療科学院の実施する病院管理研修は,毎年約800人の参加者があり,これまでに約36,650名が受講した.

 国立保健医療科学院は,国立公衆衛生院,国立医療・病院管理研究所および国立感染症研究所・口腔科学部の一部を統合し,保健医療事業や生活衛生に関係する職員および社会福祉事業に関係する職員その他これらに類する者の養成および訓練,ならびにこれらに関する調査および研究を行う新たな機関として,平成14(2002)年4月1日に設置された.これをもって国立公衆衛生院ならびに国立医療・病院管理研究所は組織上では長い歴史を閉じたことになる.

 廃止された国立医療・病院管理研究所は,旧厚生省の直轄試験研究機関として,昭和24(1949)年6月,国立東京第一病院(現・国立国際医療センター)内に病院管理研修所として設立され,昭和31(1956)年3月,国立東京第一病院内に病院管理研修所の建物が建設された.昭和36(1961)年研究体制の整備とともに,「病院管理研究所」と改称され,平成2(1990)年7月には組織改正が行われ,それまでの病院管理に関する調査研究に加えて,医療のシステム化を推進するため,医療の普及向上に関する調査研究および医療機関の整備改善に関する調査研究を行うこととし,「国立医療・病院管理研究所」に改称された.

 平成4(1992)年8月,国立病院医療センター(現・国立国際医療センター)の隣接地に旧厚生省戸山研究庁舎が完成し,国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所),国立健康・栄養研究所(現・独立行政法人国立健康・栄養研究所)とともに移転し,三つの研究所と国立病院医療センターを総称し,戸山保健医療共同研究センターとしての活動の一翼を担った.

 現在の国立保健医療科学院は,東京都練馬区に隣接する埼玉県和光市に所在し,近隣には理化学研究所や税務大学校がある閑静な地にある.また,敷地内にはワンルームマンション型の研修生用宿舎を完備している.東京からのアクセスは,池袋より東武東上線を利用し,和光市駅まで急行なら12分で到着する.都心からは,地下鉄有楽町線が直通運転しており便利である.

 病院管理研修は,保健医療に関係する業務に従事している者に対し,医療機関の経営その他の運営および管理に関する基本的かつ専門的な知識,技術等を授けることを目的としており,修業期間が6か月から約1年間の長期研修と,指導者の生涯教育として行われる約1週間の短期研修とに区分される.病院管理研修は,病院管理研修委員会によって全体の企画や運営の調整などが行われている.

 長期研修は,将来病院管理や医療の安全管理の指導者の養成を目指しており,6か月間の病院管理専攻科,安全管理研究科および1年間の専門課程病院管理分野の三つのコースが設置されている.なお,この専門課程は,旧病院管理研究科に相当するコースであり,その修了には所定の単位の修得と論文提出が求められ,修了者には MPH (Master of Public Health in Hospital Management) の認定証が授与され,研究課程への入学資格が得られる.

 短期研修は,指導者の生涯教育的な意味を持ち,病院長,事務部長,看護部長,薬剤部長などを対象としたコースのほか,財務管理,診療情報管理,施設計画管理,栄養管理などのコースが設置されている.

 表1は,主な病院管理研修の概要である.

病院としての取り組み 大学医学部附属病院

著者: 立川幸治

ページ範囲:P.640 - P.644

昨年春,14年ぶりに病院の現場に戻った.病院を辞してコンサルティングや事業経営の世界に転じて以後,医療業界の仕事にも携わってきたが,「中での常識は外の非常識」である病院業界は難しい分野であった.それは,原則的経営知識,その正しい理解,それを体現した人材の欠如にある.病院業界にもマネジメントという視点で話をする人はいるが,非常に少ないのが現実であった.

 縁あって,大学病院の経営現場にしばし身をおくことになった.テーブルのこちらに立ち戻って,さて何ができるか,自問自答する日々である.経営としてはウルトラ C 級に難しい.その中で,次第にできること,できないことが見えてきた.ここで一度,大学病院の現場で,経営のあり方や人材育成にどう取り組んでいるのか,述べたいと思う.

病院としての取り組み 企業立病院―経営担当副院長制を通じて

著者: 植松嵒

ページ範囲:P.646 - P.649

本題に入る前に,筆者が所属する(株)麻生飯塚病院の歴史,概況,背景等について予め知っていただくことが,この稿の理解につながると思われるので,それについて若干触れることにする.

 表の概況が示すとおり,当病院の特徴は,

1)株式会社立の病院(当然歴史は古い)

2)九州の地方都市に位置する

3)地域の中核病院(市民病院的役割)

4)1,000床以上を有する急性期病院

ということができる.この病院がどのような歩みをして,人が何に取り組み,何を成してきたかを振り返りながら,テーマとしての「病院経営のプロをどう養成するか」に結びつけてみたい.

医療経営の高度専門職業人を養成―四大学院講座の特徴 ●広島国際大学大学院 ●国際医療福祉大学大学院 ●九州大学大学院 ●慶應義塾大学大学院

著者: 河口豊 ,   高橋泰 ,   尾形裕也 ,   山内慶太

ページ範囲:P.650 - P.653

本学の大学院修士課程総合人間科学研究科医療経営学専攻は2003年4月に開設され,この3月に初めて卒業生を出した.本専攻の設置目的は高度専門職業人の養成であり,近い将来には博士後期課程を開設し,専門教育を担う研究・教育者育成を計画している.


■定員と学生の背景

 入学定員は1学年5名,計10名であり,2005年4月20日現在の在学者数は2年14名,1年1名である.

 学生の背景は,2年は社会人3名(医学部・文学部・音楽大卒,病院勤務者2名,高齢者施設勤務者1名),学内卒業者9名(卒後2年病院経験者1名,直進8名),他大学卒後2年病院経験者1名(経済学部),その他1名である.1年は学内卒業者1名(直進)のみであり,まだ入学希望者数は安定していない.病院勤務者あるいは病院勤務経験者がいると視点が重層的になり,他の学生に実社会での制度の運用の複雑さを知らしめることができる.逆に,種々の実社会の問題を整理できないことから,課題の所在を明確に切り出すことができずに十分理解できないこともあったりする.

 このように多種の学生が在籍するため,医療経営の基本を修得していない場合がある.そこで知識の補完方法として関係の学部授業を受講させ(単位認定),基本的知識を身につけるよう指導している.

アメリカにおけるMBA医療経営専修

著者: ,   ,   池上直己

ページ範囲:P.654 - P.657

経営者を養成するための専門職大学院(MBA : Masters of Business Administration ,経営学修士)はアメリカにおいて120年以上の長い歴史があるが,医療経営専修ができたのは40年ほど前に過ぎない.それは医療が明白にビジネスとして位置づけられるようになった時期に一致する.アメリカでは医療サービスが消費財として認識されるようになってより,医療に対する見方も変わった.アメリカにおける状況を理解することは.日本の医療界の指導者や政策決定者にも参考になると思われるので,本稿においてアメリカにおける医療と MBA の概況を述べた後,ペンシルベニア大学の MBA 大学院の医療経営専修に焦点をあてて紹介する.


アメリカ医療の概況

 アメリカの複雑な医療体系を理解するためには,過去半世紀の発達について簡単に説明する必要がある.アメリカでは,第2次世界大戦中に物価・賃金抑制策がとられ,そのため賃上げをする代わりに,企業が全額負担する民間保険を従業員に用意するようになり,それが1950年代に広く普及した.その後,1965年に連邦政府はメディケア(高齢者と障害者の連邦政府の保険),およびメディケイド(貧困者のための連邦・州政府の合同の保険)を施行し,これら二つで医療費全体の約3分の1を構成している1).したがって,連邦政府はアメリカの医療政策の要であり,また政策の企画・運営において最も重要な役割を果たしている.しかしながら,アメリカの医療は日本と比べて分立しており,非常に多様なシステムとなっている.

 アメリカには多様な医療機関,医療保険,診療報酬の形態があり,各々が基本的には市場原理に従って,消費者を獲得するために積極的にマーケティングし,差別化しようとしている.したがって,医療経営者として成功するためには,こうした環境に対応できるような知識と技能を身につける必要があり,またこうした環境に対応できた指導者が逆に医療システムを規定している.市場原理が広まることにより,受け身の立場にある「患者」から,医療サービスを選ぶ「消費者」に変わったが,それは個人のレベルだけではなく,皆保険のないアメリカでは,企業が従業員のための医療保険を「消費者」として選ぶレベルも同様である.

病院経営・管理者プログラムを受講して

病院経営とMBA

著者: 安田信彦

ページ範囲:P.624 - P.627

東京慈恵会医科大学の麻酔科学教室の講師だったころ,どこかの教授になることを目指していた.そのころまでは,教授の任務が教育と研究であると考えていた.もちろん,臨床系の教授である以上,臨床の能力が高水準にあることが前提であり,必須である.

 しかし,少しずつ教室の運営管理にも携わるようになって,教授の任務が単純でないことに気づいた.教室員の人事管理,教室費の財務管理も教授の仕事である.これらについて,教育を受けたことがないではないか.そこで,青山大学の大学院で科目等履修をとり,経営学を週1回学ぶことにした.そのときは,経営学原理,経営組織論,企業統治学,会計学に関する講義を受けた.ここでは,試験やレポートを提出し,単位も取得したが,医学部のときの成績よりも良かった.

 このような行動が奇異に映ったのだろう.東京慈恵会医科大学の経営母体である学校法人慈恵大学から,麻酔科学教室を離れて,学校法人の運営管理を本務とするようにお誘いを受けた.そして,学校法人の参事という肩書きをいただき,どこの講座にも所属しない中立的な東京慈恵会医科大学の大学直属の助教授になった.

 経営管理者としての能力を培うために,当時の岡村哲夫理事長の命を受けて New York University(以下,NYU)の Leonard N. Stern School of Business の Japan-U. S. Center for Business and Economic Studies に Visiting Scholar として留学することになった.このように,センター長の佐藤隆三教授の世話になることになった.MBA(Master of Business Administration:経営学修士)コースの正規の学生になることも検討されたが,タイミングや留学期間を当初1年しか与えられなかったことなど,諸般の事情で Visiting Scholar の道を選択した.結局,1997年7月から1999年3月まで NYU で学んだ.

病院経営とMPH

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.628 - P.632

MPH 取得の動機

 1999~2000年にかけて武見プログラム 注1) で,ハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health : HSPH)に留学した.その際に初めて,MPH(Master of Public Health,公衆衛生学修士) の存在を知った.武見プログラムに参加したのも,また,その時十分な成果を上げられなかったため,2002年,再度渡米し,MPH 取得を試みたのも次のような理由による.

 ●1991年から,当法人の経営に関わってきたが,10年ほど経過する中で,医業経営の専門知識の必要性を痛感するに至った.

 ●1990年代後半,米国のマネジドケアが大きな話題となり,日本にも影響を与えるといわれた.喧々諤々の議論がなされたが,その実態を日本で理解することは不可能だった.

 ●最近日本でも医療経営学科が盛んに設置されているが,1990年代後半には, 医業経営を気軽に, かつ系統立てて学習できる大学がなかった.

国立保健医療科学院 管理者研修 ―病院長コース ―事務部長コース ―看護部長コース

著者: 岸洋一 ,   永石哲也 ,   谷泰子

ページ範囲:P.634 - P.638

国立保健医療科学院では,病院管理研修として,「病院管理分野」「病院管理専攻科」「安全管理研究科」「管理者研修」「医療ソーシャルワーカー研修」「管理セミナー」の研修課程プログラムを設けている.講師陣は,同院研究員のほか,部外各分野の専門家によって構成されている.

そのうち,「管理者研修」とは,病院の幹部職員に対し,病院の管理運営に必要な基本的知識を短期間(5日間,定員各60名,コースにより年に2回もしくは3回実施)に修得させることを目的とするもので,次の3コースがある.

1)病院長コース,2)事務部長コース,3)看護部長コース.

本稿では各コースの受講体験を紹介する.

グラフ

高知版病院PFIとは? 「患者さんが主人公」を理念に動き始めた高知医療センター 高知医療センター

ページ範囲:P.601 - P.606

高知県立中央病院(400床)と高知市立市民病院(410床)を統合した,高知医療センター(648床)が,本年3月1日に開院した.県と中核市の自治体病院の統合,および病院へのPFI(Private Finance Initiative)導入は,ともに全国初のケースである.


利用者の動向

 統合による病院移転にあたり,旧県立・市民両病院では患者の安全を図りつつ転退院を進め,最重症患者78名を当センターに移送した.

 入院患者は,開院後1週間で200名,3週間で400名を超え(4月平均457名),5月には500名を超えることが多くなった.一般病床は満床に近い状態である.

 外来に関しては,外来数の多かった旧二病院の傾向や「新病院効果」から,1日あたり1,000名は超えると見込んでいたが,予想を大幅に下回っている.外来患者数は初日が262名.2週間目に500名を超え,5月上旬には700名を超えた日もあったが,その後,500名後半~700名弱の間で推移している.

 しかしながら,24時間年中無休の救命救急センターが初日からフル稼働しており(救命救急センター外来数は3月1,105人,4月1,021人,5月1,074人),年中無休の総合周産期母子医療センターも順調である.

 旧二病院と比べて,救急や重症患者の割合が多く,平均単価は入院・外来ともに予想を上回り,収入面で外来患者の少なさを補っているという状況である.

 また,屋上に設けたヘリポートも3月には早速12人の患者搬送に活用された.新センターは,「県下全域を診療圏とする高度急性期病院という使命が実現できているのではないか」と吉岡諄一企業長は話す.

ホスピタルアート・2

心つなぐあなたの笑顔

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.608 - P.608

「まず始める.そして止めない.」

埼玉県済生会栗橋病院本田宏副院長の言葉どおり, 本院とのホスタルアート活動は, その出会いから瞬く間にスタートし, もう2 年になる.今回はその中から室内型の活動2 例をご紹介したい.

対談

徳洲会グループの海外展開

著者: 中川和喜 ,   福永肇

ページ範囲:P.659 - P.665

徳洲会グループは,特定医療法人徳洲会をはじめ,30医療法人と9社会福祉法人,2医療生協,個人開設含め,59病院,60診療所,約130か所の介護施設・事業所を全国に展開する国内最大の民間医療グループ.病院の総病床数は13,169床,職員数は約1万8,000人である(2005年4月現在).

 「生命を安心して預けられる病院」「健康と生活を守る病院」という理念の下,誰もが最善の医療を受けられる社会を目指し,日本の,さらには世界の医療環境の改革に挑戦している.日本国内では大規模医療施設だけでなく,さらなる全国の医療不足地域,過疎地・離島の医療・介護・福祉関連施設の拡充を図り,海外では2006年4月に,ブルガリア,ソフィア市に1,000床の病院を開設するという.

 今回の対談では,徳洲会グループの海外展開の考え方を聞いた.

連載 病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・5

Accountability(情報開示) ブリストル王立小児病院の事例から学ぶ

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.666 - P.670

 フローレンス・ナイチンゲールの時代から,「死亡率が病院によって異なる」ことが指摘されてきました.近年,「扱う患者数と死亡率が反比例する」という指摘は定説になりつつあります1,2).また,「週末の急患室からの入院患者の死亡率が高い」という報告もあります3).医療関係者であればこのようなエビデンスが真実であることを暗黙のうちにも納得できるでしょう.しかし,入院中死亡の施設間格差の問題は19世紀のナイチンゲールの時代から指摘されていながらも,未だにそのメカニズムの詳細が解明されていません.実態がベールにつつまれわからない状態であれば,解決策も立てようにありません.

 1995年までの数年間に,イギリス・ブリストル王立小児病院において,53人の小児が複雑心奇形のため心臓手術を受け,29人が死亡しました.これは他施設に比べると多かったのです.この心臓手術後の過剰死亡の問題は,院内麻酔科医の内部告発に始まり,やがてイギリスの社会問題へと発展しました.しかし,多くの点で改革が成され,現在ブリストル病院の死亡率も国の水準に落ち着いたところです.

 しかし,医療の質に関しての情報開示は遅々として進んでいません.その障壁は,1)データミックスの問題:病院ごとに同じ病名の患者さんでも予後が異なっている可能性,2)データの質の問題:バイアスのない正確なデータが収集できない,3)手術成績は外科医個人によらない問題:手術は多くの医療従事者の手を介して行われるため,必ずしも外科医個人の問題ではないこともあり得る,の三つに集約されます.また,「前向きに情報開示する医療機関は,重症患者さんを診てくれない」という声も聞かれます.

 今回は,ブリストルのケースを通じて情報開示のあり方について考えてみたいと思います.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・8

因果関係論

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.671 - P.673

Q ほとんど寝たきりで昏睡状態で,予後が1か月程度と思われる90歳代の女性患者に,看護師が誤って点滴するべき塩化カリウムをワンショット静注していまいました.そのときにはすぐに蘇生しことなきを得たのですが,1か月後に誤嚥性肺炎を起こして死亡しました.医学的には,その誤投与と死亡の因果関係は考えられませんが,死亡について責任をとる必要があるのでしょうか.

A 原則的には法的責任はありません

病院ファイナンスの現状・12

―間接金融(7)長期資金調達 5―理事長・病院長の連帯保証

著者: 福永肇

ページ範囲:P.674 - P.677

 7月号では銀行取引における「物的担保」をみてきました.今月号では「人的担保」,すなわち保証人について考えてみましょう.

 保証は法律面で区分すると,(普通の)保証,連帯保証,共同保証,手形保証,身許保証などに分かれます.また債権者との関連では,(普通の)保証,特定保証,根ね保ほ証しょう,副保証,求償保証(裏保証),賠償保証に区分されます.保証人には債務者以外の第三者がなります.

 以下では,債権者は銀行,主債務者が病院,連帯保証人は理事長(または病院長)と仮定して,銀行取引での「連帯保証」を解説します.なお個別案件での検討については弁護士にご相談ください.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第128回

医療法人静和会 浅井病院

著者: 徳久光彦 ,   工藤真人

ページ範囲:P.678 - P.683

患者ごとにふさわしく

 今年創立45年を迎えた浅井病院は,地域に開かれた病院として積極的な精神医療を展開している.診療科目は,精神科・神経内科・内科・整形外科を中心に,病床数は,465床(精神病床:378床,一般病床:87床)である.

 精神科病棟は,PICU(精神集中治療室)を持つ急性期治療病棟群と,リハビリテーション病棟群との機能分化を進め,併せて社会復帰施設としてのグループホーム,ショートステイ付の生活訓練施設,家族会による小規模作業所などを設置している.

 また内科病棟は,急性期と療養の2病棟で構成している.病院の運営に当たっては,地域精神保健活動の基幹病院であるとともに,医療・福祉から高齢者介護に至るまで,治療とケアの連続性を重視した活動を展開している.

リレーエッセイ 医療の現場から

医療施設における緑の癒しのかたち

著者: 佐々木麻衣

ページ範囲:P.685 - P.685

筆者は,関西労災病院で園芸療法士として勤務しているが,さてここで,どれだけの人が園芸療法士または園芸療法という言葉をご存知だろうか.ほとんどの人が,園芸療法の意味をご存知ないことだろう.園芸療法とは,心や身体に病や障害を持った人に対して,植物や園芸作業または植物が育つ環境を利用し,心身をより良い方向へ導くセラピーである.例えば,病により閉ざされてしまったクライアントの心を生きた植物や植物が育つ環境を用いながら,クライアントの心を再び「生きる」という方向へ向くように働きかける.そして,閉ざされた心の扉が開いたところで,園芸作業を用いてリハビリテーションを行っていく.このように植物や園芸が持つ特徴をうまく利用する療法が園芸療法であり,これを行うのが園芸療法士である.

 さて,当院で上記のような園芸療法が実施さえているかというと,現段階では行われていない.では,筆者が当院で何をしているかというと,大きく分けて三つの役目がある.まず一つは,当院に2004年5月からオープンしたホスピタルパーク「いぶきの園」という庭の管理・運営の責任者としての役目を務めることである.二つ目は,そのホスピタルパークの維持管理をお手伝い下さる市民ボランティアの指導とコーディネイトを行う役目,そして三つ目は当院における園芸療法の推進を行うことである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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