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雑誌目次

雑誌文献

病院64巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

特集 地方分権と医療

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.701 - P.701

 明治維新における国づくりは,欧米列国に対してわが国が政治,経済,軍事などの点で劣らない立場を築くために強力な中央集権国家の確立が必要であった.第二次世界大戦の敗戦後,この国の復興を図るため,特に経済中心の国家政策がとられ,中央集権的に政策が推進され今日に至っている.

 本来,一国の中央政府の役割とは何であろうか.それは,国家間,あるいは国際的に,外交,防衛安全保障,通貨の管理などが挙げられるが,その他,国内においては,国民の基本的人権の確立としてのナショナル・ミニマムの整備に関する企画・立案・(評価)に限定されるといっても言い過ぎではない.

【特別対談】三位一体改革と医療

著者: 北川正恭 ,   河北博文

ページ範囲:P.702 - P.711

小泉内閣による「三位一体改革」が進むと,地方自治や医療はどう変わって行くか.

地方分権が進められる中で,医療は地域とどうかかわっていくかということについて,国政と地方自治に携わった経験をお持ちの北川正恭氏に「三位一体改革と医療」というテーマでお話を伺った.聞き手は,本紙編集委員で東京都病院協会会長,(財)日本医療機能評価機構理事でもある河北博文氏に務めていただいた.

 北川氏の三重県知事として地方自治を推進されて来られた経験,具体例なども紹介していただきながら,地方自治の本質,地方分権を実現する要因,これからの日本社会のあり方を含めた医療の姿について幅広く論じていただいた.両氏には,互いに改革を推進する立場から見解を述べていただき,地方自治と医療の関係に切り込んで行った.論点は次の三点である.

 1.これからの地方自治体の役割は何か

 2.三位一体改革とは何か

 3.医療保険制度や公立病院はどうあるべきか

三位一体改革と医療

著者: 中川俊男

ページ範囲:P.712 - P.716

現在,政府が進めている地方分権は,地方にあらゆる分野での自立を厳しく迫るものである.そのための基盤整備として,市町村の「平成の大合併」,税財政改革としての「三位一体改革」,さらに国のあり方を変えるとまで言われる行政改革としての「道州制」が進められている.

 この三つが一体的に議論され,それぞれが有機的に進むような妥協点を見いださなければ住民が安心して生活できる地方分権は実現できない.

 しかし,三位一体改革を例に挙げれば,現実には中央省庁と地方の財源の奪い合いの感が強い.本稿では,三位一体改革の概略と医療への影響について述べる.

地方分権と医療保険制度改革

著者: 佐藤主光

ページ範囲:P.718 - P.723

医療の分野でも分権化が進んでいる.「骨太の方針2004」(平成16年6月)は地方の裁量度を高め,自主性を大幅に拡大するべく,平成17年度および平成18年度に行う3兆円程度の国庫補助負担金削減を行うとともに同額規模の税源移譲と交付税改革を一体的に着手するものとした.厚生労働省関係では紆余曲折の末,市町村の運営する国民健康保険への国庫負担の削減(5,450億円)と都道府県の財政負担の拡充に至った.

 具体的には,国の「財政調整交付金」を減じ,代わって「都道府県財政調整交付金」(4,900億円強)を新たに創設するとともに,保険基盤安定制度において国の負担の廃止と都道府県の負担割合を引き上げている.

 「医療費の適正化と保険運営の広域化の第一歩」として都道府県の役割を強化するというわけだが,高齢化に伴い増加する医療費の「つけ」を地方に押し付けるものとする反発も根強い.

 わが国では今後,急速に高齢化が進み,2025年には医療に要する社会保障給付費が59兆円と現在の2倍に達すると見込まれるなど医療費の増加と制度の持続可能性への懸念も高まっている.経済財政諮問会議では,国民医療費を名目経済成長率に高齢人口の増加を加味した「マクロ指標」でもって医療費の伸びを抑制する案も出てきている.

 こうしたマクロ規制には厚生労働省などを中心に反発も多いが,医療費への何らかの歯止めが求められていることは間違いない.国民皆保険の原則と医療の質を損なうことなく,医療費の膨張を抑え,制度の持続可能性を確保するためには,①医療費の適正化の手法といった「技術論」に留まらず,②適正化への「誘因づけ」とその「担い手」についての「経済分析」が,必要になってくる.本稿では,医療における地方の役割を中心に国と地方,公共と民間の役割分担を含む医療制度の「ガヴァナンス」のあり方について考えていきたい.

医療計画の見直しについて

著者: 針田哲

ページ範囲:P.724 - P.727

近代的な医療制度は,1874(明治7)年の「医制」の発布により始まった.その後,戦前に「国民医療法」が制定され,戦後は,医療の提供する体制の確保を図り,国民の健康の保持に寄与することを目的に,1948(昭和23)年に「医療法」が制定されている.

 医療計画は,医療の量的確保の時期から質的改善の時期に至る変革期に誕生したものであり,高齢化社会の到来や医療の高度化・専門化,疾病構造の変化,社会的ニーズの多様化などを背景として,1985(昭和60)年の第1次医療法改正において導入されている.

 2005(平成17)年の今年は,医療計画が導入され約20年,医療法が制定され約60年弱,「医制」が制定され,約130年強ということになる.

自治体立病院の今後のあり方への―考察―地域ニーズと財務面の課題を中心に

著者: 岩渕良昭

ページ範囲:P.728 - P.733

自治体立病院の現状

 自治体には,地域住民の健康を守っていくという大きな役割があるが,自治体立病院は,この地域住民の健康に責任を持つ地方公共団体が自ら開設する病院である.その設置の経緯や立地条件,運営規模などは地域や病院ごとに様々で,その役割や求められる使命も一様ではないが,行政的,公共的な面からの役割を課せられ,経営方針や施設設備の整備計画,各年度の予算などは,住民の代表者である各地方公共団体の議会議員による審議・議決を経て執行される.そのようなことから,自治体立病院は総じて地域の基幹的な病院として高度・特殊医療や救急医療の中心的役割を担い,あるいは医療の過疎地域における医療確保の役割を担っていることが多い.

 自治体立病院は,地方公共団体(都道府県,市町村,一部事務組合)が経営する企業として地方公営企業法の適用を受け,財政的には一般会計とは別に病院事業特別会計が設けられて独立採算で運営されている.自治体立病院が民間医療機関と大きく異なる点は,地方公営企業法により経営の基本原則を「常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営する」ことを求められていることである.そのため,地方公営企業法第17条の2の規定に基づき,高度・特殊医療や結核・精神などの不採算医療,辺鄙な地域等における医療確保など,採算性の面で厳しい部門を担当している場合などは,一般会計から負担金・補助金が繰り入れられており,平成15年度における収益的収入に占める割合は全国平均で13.1%となっている.

 地方公営企業年鑑(平成15年度版)によると,全国の地方公共団体が経営する病院事業数は754事業で,これらが運営する自治体立病院の数は1,003病院となっている.全国の病院数は現在約9,000といわれているので約11%を占めている状況である.経営主体別にみると都道府県立が225病院,指定都市立が34病院,市立288病院,町村立317病院,そして一部事務組合立139病院という状況である.

 自治体立病院の運営状況をみてみると,病床数は238,489床で前年度に比較して1,432床,0.6%とわずかに減少している.病床の内訳は一般199,562床,療養10,965床,結核3,547床,精神23,180床,感染1,235床である.また,外来患者延数は129,917,459人で前年度と比較して4,980,733人,3.7%の減少,入院患者延数は71,219,948人で同じく503,591人,0.7%の減少といずれも減少傾向にある.

 経営状況は,総医療費抑制政策に加え,医療提供体制の変革などの影響を大きく受け,15年度において経常損失を生じた事業数は60.8%に上っている.この割合は,前年度を2.7ポイント下回り,全体の赤字額も932億円と前年度の1,220億円から改善されているとはいうものの,自治体本体の財政状況が,社会経済の低迷や三位一体改革に伴う財政構造改革などにより年々厳しさを増していることなどから,依然として難しい経営環境が続いている.

千葉県の特徴的な地域医療

著者: 飯塚正志

ページ範囲:P.734 - P.736

千葉県について

 はじめに千葉県の現況について,述べたい.

 首都圏の南東に位置し,東京都に隣接している本県は,6,044千人と全国第6位の人口を有している(平成17年4月1日現在常住人口).平均年齢は40.3歳で全国で6番目に若く(平成12年国勢調査),死亡率は,6.8と低いほうから4位(人口千対,平成15年度)となっている.

 医療資源については,人口10万対の病床数が,937.3(平成15年10月1日現在),人口10万人当たりの医師数は147.5(平成14年12月31日現在)と,ともに全国で低いほうから3位である.また,医療費は201,000円(平成14年度)と低いほうから2位となっている.

 以上のことから,本県は,平均年齢が若く,一人あたりの医療費が少ないという,他県に比べ,恵まれた状況にあるといえる.

 しかしながら,今後は,急速に高齢化が進むことが予想されており,いかに現在の医療水準を下げずに来るべき超高齢社会に対応するかが喫緊の課題となっている.

熊本市における地域医療計画作成とその実践例

著者: 佐藤市子

ページ範囲:P.737 - P.739

熊本市の概要

 熊本市は九州のほぼ中央,県の西北部に位置し,面積266.31km2,人口67万人の都市で,保健医療の状況は表のとおりである.特定機能病院である熊本大学医学部附属病院や2箇所の救急救命センター,地域医療支援病院が2病院ある等,熊本県内の中核的役割を担って高度医療を行う病院が集約しており,第一次から第三次の機能までほぼ網羅されている医療資源に恵まれた地域である.


熊本市における保健医療計画策定

 本市は,第二次熊本県保健医療計画(平成5年公示)において,市単独で二次保健医療圏を構成することとなったことから,平成5年から「熊本地域(=熊本市)」保健医療圏としての熊本地域保健医療計画(以下「地域医療計画」と略)を5年毎に策定している.

 現在の地域医療計画は,計画期間を平成15年から平成19年とする平成15年に公示されたものである.策定にあたっては,熊本県保健医療計画の一部であることから,県の基本方針等を踏まえるものの,本市の総合計画や,市民の健康づくりを進める「健康くまもと21」基本計画をはじめとする各種計画との整合性を図ったうえで,地域特性に応じた取り組みや重点化を図るべき事項等,計画の具体的な内容の検討を行い,取りまとめて策定している.

 本市においては,周産期医療機能やがん専門病院等,熊本県全体として不足している医療機能はあるものの,先に述べたように二次保健医療圏として必要とする基本的な医療機能は充足している.このため,この地域医療計画においては,医療機関相互の連携や介護・福祉との連携による地域医療全体の向上や,医療機関や関係団体,行政機関との連携が大きな課題であるとして,「医療提供体制の整備」の項で次の取り組みを掲げている.

・医療施設の機能分担と連携の推進

・医療サービス体制の充実(医療安全対策に対する取り組み,医療サービスの質の向上と医療情報提供の取り組み)

・救急医療体制の整備・充実

・災害時の保健・医療の確保

【座談会】わが地域の医療を考える

著者: 辻哲夫 ,   増田也 ,   松浦稔明 ,   池上直己

ページ範囲:P.740 - P.750

2004年12月に,厚生労働省,財務省,総務省の三省間で,国民健康保険に関する制度の見直しについて合意された.この具体的内容は以下の通りである(厚生労働省ホームページ ― 厚生労働省保険局平成17年全国厚生労働関係部局長会議資料「国民健康保険における都道府県の役割の強化について」より引用).

 ――今回の改革においては,国庫負担と保険料負担を均等にするとの基本的考え方を維持しつつ,市町村の国保財政の安定化における都道府県の役割・権限の強化を図るため,次のとおり財政スキームを見直す.

1.平成17年度より,保険基盤安定制度(保険料軽減分)の都道府県負担割合を事業規模の1/4から3/4に変更するとともに,新たに都道府県財政調整交付金を導入し,都道府県が財政調整を行うこととする.

2.都道府県財政調整交付金は,各都道府県ごとに給付費等の7%とする.また,これに伴い,国の財政調整交付金は給付費等の9%とするとともに,定率国庫負担は給付費等の34%とする.

3.ただし,都道府県負担の導入による市町村の国保財政への急激な影響を緩和し,円滑な移行が図られるよう,平成17年度の都道府県財政調整交付金は給付費等の5%とし,定率国庫負担は給付費等の36%とする.

4.都道府県財政調整交付金の市町村への配分方法については,地方三団体及び総務・厚生労働両省による検討の場を設け,地方の意見を尊重しつつ配分のガイドラインを作成する.

5.都道府県負担導入に伴う税源移譲額は,約6,850億円(平成17年度予算ベースで積算)とする.このうち,平成17年度実施分に伴う税源移譲額は約5,450億円とする.

6.上記見直しに伴う国民健康保険法の改正法案については,平成17年通常国会に提出することとし,平成17年度における措置については当該法案の附則で対応する.

 これは小泉内閣による「三位一体改革」が進む中,その理念を反映した政策であるが,国民健康保険についてはこれまで以上に都道府県のかかわりが深くなることにより,地域医療はどのような影響を受けるかということについて,本座談会で討論いただいた.
ここでの議論の枠組みは主に以下のとおりである.

1.地方分権をどう捉えるか

2.都道府県単位に保険者を統合することをどう考えるか

3.地域医療計画をどう捉えているか,これまでの総括と今後の展望

4.公立病院のあり方

グラフ

「市立・赤十字 」病院への期待―指定管理者制度による公設民営病院に生まれ変わって 横浜市立みなと赤十字病院

ページ範囲:P.689 - P.694

官から民へ――国の制度改革や自治体の財政悪化を背景に,自治体病院でも民営化を含めた経営改革が進められている.


横浜市の病院経営改革

 港湾病院(現みなと赤十字病院),市民病院,脳血管医療センターという三つの市立病院を擁する横浜市においても,病院に一般会計から多額の繰入を行っていた(平成13年度の運営に係る一般会計繰入51億9,300万円,経常損失42億1,700万円).そのうち港湾病院分は繰入8億8,600万円,経常損失8億7,200万円だが,平成6年に再整備構想に着手し,平成12年より建設工事を進めており,再整備後の繰入金は年額35億~40億円,経常損失は38億~41億円に膨れ上がると推計されていた.

 このような状況下,平成14年4月に就任した中田宏市長が改革の旗を掲げた.諮問機関「市立病院あり方検討委員会」での検討等を踏まえ,本年4月より市の病院事業に地方公営企業法を全部適用し,病院事業管理者に人事・予算執行を含めた権限を与え,経営責任を明確にした(同時に,「衛生局」から病院事業を所管する部門を「病院経営局」として分離独立させ,局および病院幹部職員で構成する「病院経営局戦略会議」を設置して,情報を共有化し,一体となって経営改革を進める体制を整えた).

 さらに港湾病院に関しては,再整備後の公設民営化を決定.平成15年9月の地方自治法改正で新設された「指定管理者制度」を導入し,本年4月の新病院開院となった.市と日赤・みなと赤十字病院との間では,定期的な連絡調整会議等を設け,また,当病院に市から一人派遣し,連携をとりながら新病院運営を進めている.

ホスピタルアート・3

リラックスできる環境づくり

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.696 - P.696

 病院へ行く時は少し弱気だったりする.そんなナイーブな心も軽くしてくれるような,やさしいアプローチが今,病院に求められていると思う.

特別寄稿

ケースシミュレーションと交渉技術を用いた病院経営教育―病院管理者への情報技術教育の一環として

著者: 開原成允 ,   高橋加代子 ,   外山比南子 ,   西川俊哉 ,   高橋泰 ,   阿曽沼元博

ページ範囲:P.751 - P.754

本稿は,病院経営の教育方法について述べたものである.

 日本では,過去には病院の経営環境が厳しくなかったために,病院経営学が未発達であったが,最近は事情が一変し,経営を誤れば病院が倒産しかねないような状況となっている.このため,病院経営学の重要性も再認識され,大学にも病院経営を教えるコースが見られるようになった.病院経営の教育方法については,日本ではまだ十分な経験がなく,教育コースも主として机上の教育であり,制度や経営理論などの教育に終始する場合が多いように思われる.

 しかし,病院経営学は,刻々変わる状況に迅速に対応し,時に交渉相手の考え方や心理状態まで考えて対応することを学ぶ,生きた学問でなければならない.こうした問題の教育方法として欧米で採用されているのは,実例の提示とそれに基づいた討議である.

 以上のことを考慮し,国際医療福祉大学大学院の医療福祉経営コースでは,ケースシミュレーションと交渉技術を内包した実例に基づく教材を開発し教育に使っている.これまで,若干の経験を積み重ねてきたのでここに発表し,世の批判を仰ぎたい.

東大病院入院棟の設計とその後の使われ方レポート

著者: 南部谷真

ページ範囲:P.755 - P.759

東大病院の病棟の系譜

 東大病院にはかつて特徴のある病棟が多く存在した.赤レンガの産科・精神科病棟,結核病棟の東第1病棟,小児科の東第2病棟,外科病棟,中央病棟,そして北病棟(当時としては画期的な1看護単位40床のダブルコリドーの平面構成)など,当時の病院建築計画において常に新しいテーマを提供し,病院建築をリードしてきた(図1).

 今回本稿では第4期計画の新病棟:入院棟 A の設計に際して,入院棟 B(北病棟)と外科病棟について調査している.それぞれにテーマがあり,その系譜をたどる.外科病棟は旧中央診療の4階から7階の病棟で中央診療棟に直結した外科系の病棟であり,中廊下型でリカバリーと総室的な病室にその特徴がある(写真1).

 当時の外科系病棟では重症患者,術後の患者を含め,各病棟で集中観察する必要があった.そのためにスタッフステーションに直結したリカバリーが必要であった.外壁面は床までガラス張りで,明るく外の緑が望めスタッフの緊張感を和らげる効果がある.このことは入院棟 A・4階 ICU の窓廻りのデザインに継承されている(写真2).また,ベッド配置において脳外科病棟のリカバリーでは患者の頭側を廊下に向けてベッドをレイアウトしていた.看護するうえで頭部からのアプローチの重要性を認識し,入院棟 A・4階 ICU ・ CCU においても同様に患者頭部側の通路を確保した.

 総室に関しては4床ごとに上下がオープンなパーティションで区切られ,全体で24床の大きなワンルームの空間となっている.廊下中央に立つと24人の患者の様子がなんとなくわかる.今日,廊下との安全区画や患者のプライバシー確保などの理由により,このような設計は困難であるが,ナイチンゲール病棟のイメージにつながる,おおらかな空間構成はとても魅力的であった(写真3).

 北病棟は現在入院棟 B として主に内科系病棟として稼働している.病室は個室と5床の組み合わせである.ダブルコリドーの平面タイプは看護動線が短く,この点に関しては評価が高い.当時は6床室と個室からなる1フロア40床の病棟である(図2).

 50床以上が一般的であった当時,1看護単位を40床にする先進的な計画は看護運営上,夜勤体制のシステムなどと絡んで議論を呼んだ.今でこそ重症病棟では40床は珍しくはないが,センセーショナルな計画であったといえる.

連載 病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・6

Decentralization(分権化) ジョンス・ホプキンス病院の事例から学ぶ

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.760 - P.766

あるハーバード大学教授は「戦略家は組織設計者である」と断言します.組織がミッションを達成するためには戦略立案が重要であり,戦略を実行するためには,それ相応の組織設計が必要であるというのです.

 日本の病院の多くの組織構造は,縦割りであり,責任の所在が曖昧です.中で仕事をしている人は,なるべく自分の仕事を増やさないよう努力しています.一方,上層部は組織がうまく機能しているかについて,収益の点にだけ着目しがちです.

 医療スタッフが前向きな姿勢で患者さんに,安全かつ効果的な医療を提供しつつ,病院として必要かつ十分な収益を上げるには,どのような組織構造が良いのでしょうか.今回は名門ジョンス・ホプキンス病院の事例に学びます.

病院ファイナンスの現状・13

―間接金融(8)長期資金調達 6―民間銀行の病院宛貸出金残高分析

著者: 福永肇

ページ範囲:P.767 - P.771

今までの連載でのポイント

 本連載は昨年9月号から連載してきました.今月号からは民間銀行からの長期資金調達をテーマにしていきますが,その前に今までに見てきた項目でのポイントを整理しておきましょう.

 バブル経済の崩壊後に経済全体のパイが萎む中で,経済状況とは独立した医療行政方針という要因から病院では建築需要が発生し,病院の借入残高は増加してきました(10月号参照).一方この時期注1) に銀行の融資審査は企業格付,案件格付を基軸とする信用格付方式に変化しています(11,12月号).

 国の政策方向に順応するための病院設備投資であっても,銀行審査でのファーストステップでは医療法人自体の企業格付によって判断されため,財務内容を良くしておく必要があります.銀行では病院専用の審査基準はなく,一般企業と同じ基準で格付や審査がなされます.銀行から見ると病院業界は売上高(医業収益)の絶対水準は高くなく,また売上高対借入金比率がとても高いという特徴が目に付きます.また銀行と病院との間の情報の非対称性は他産業と比べると特に大きく,銀行は病院業界のことをよく理解できていないと言えます(1月号).

 病院の短期資金調達の実務については2,3月号で見てみました.長期資金調達では,自己資本以外では福祉医療機構をコアに考え,残りを民間銀行から調達するのが基本と考えます.4~6月号では福祉医療機構の医療貸付を整理しましたが,注意点は福祉医療機構が担保の第一抵当を設定することでした.7月号で担保について勉強し,8月号で連帯保証を解説してきました.

 今月号以降では,民間銀行からの長期資金調達について勉強し,その後,リース,補助金,制度金融(国民金融公庫,保証協会,ふるさと融資など)を纏めてみます.以上が「間接金融」です.その後「直接金融」の分野に移り,寄付,病院債,流動化(診療報酬先権流動化,REIT など)を見てみる予定です.新しい資金調達手段として,株式についても検討し,PFI も整理してみましょう.


民間銀行の「医療・福祉」分野への貸出残高

 最初に民間銀行の「医療・福祉」分野への貸出残高を見てみましょう.2年前の11月に,日本銀行の「金融経済統計」を web (http://www.boj.or.jp/stat/stat/htm)で見ていると国内銀行と信用金庫の貸出金(業種別)内訳で「医療・福祉」という項目が2003年第1四半期以降に新設されているのを発見しました注2).表1に纏めたのが最新の「金融経済統計」における国内銀行と信用金庫の「医療・福祉」宛貸出残高です.

 表1によると2005年第1四半期末の国内銀行貸付残高396.4兆円のうち,「医療・福祉」への貸付残高は約8.6兆円でシェアは2.2%です.2003年第3四半期末では都市銀行での医療・福祉分野の貸出残高シェアは1.5%,地方銀行3.4%,第二地銀3.1%となっています.また時系列では都市銀行と第二地銀では貸出残高は減少傾向であり注3),地方銀行と信用金庫では一進一退の状況です.信託銀行,信用金庫も加えた金融機関別の医療・福祉への貸出では地方銀行が44.7%と大きなシェアを占めています(図1).

 長期資金調達と関連の深い設備資金に着目してみると,2005年第1四半期末においては国内銀行の貸出金総額に占める設備資金(70兆4,875億円)は全体の17.8%であるのに対し,「医療・福祉」分野を見ると68.2% と高く,「医療・福祉」での資金調達では設備資金比率が高いことがわかります(図2,3).

Q&Aで学ぶ医療訴訟・9

損害論

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.772 - P.773

Q 無職でアルコール中毒の暴力団員(34歳男性)が,喧嘩してナイフで腕を刺されて病院に担ぎ込まれました.あいにく当直医が不慣れで,右腕の麻痺が生じ,右腕が全く動かなくなってしまいました.どのくらい損害賠償を支払わなければならないのでしょうか.

 また,大腸内視鏡検査で70歳の無職の女性に誤って穿孔を生じさせてしまいました.その結果,開腹手術となり,2週間入院した場合,いくらくらい支払うべきでしょうか.


A 前者の場合は,およそ4,000万円となり,後者の場合は,およそ15万円となるでしょう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第129回

横浜市立みなと赤十字病院

著者: 名取政春

ページ範囲:P.774 - P.779

 横浜市立みなと赤十字病院は,平成10年3月に横浜市立港湾病院の再整備事業としてプロポーザル方式により弊社が設計委託を受け,平成12年6月までに実施設計が完了し,同年12月より工事着手に至った.

 設計条件としての診療機能は外来診療科目23科,病床数634床(ただし内,精神科50床は平成19年度開始予定)という構成になっている.

 新病院は工事着工後,公設民営とすることが決定され,平成16年2月の市会において日本赤十字社を指定管理者とすることが議決された.また新病院の名称も「横浜市立みなと赤十字病院」として平成17年4月の開院に至った.

リレーエッセイ 医療の現場から

人生を見つめるきっかけとしてのHIV感染症

著者: 安尾利彦

ページ範囲:P.781 - P.781

筆者は現在,HIV 医療の現場で HIV 陽性者やその家族,パートナーらに対して心理的な支援を提供する臨床心理士として働いている.

 周知の通り,現在わが国における HIV 感染者数は増加の一途を辿っている.1980年代後半の「エイズパニック」の頃に比べれば,治療法は飛躍的な進歩を遂げており,HIV 感染症は今や慢性疾患の一つといわれるまでになった.とはいえ,この疾患につきまとうスティグマは未だ根強く,そのため陽性者自身やその関係者らが孤立し,閉塞的な状況に陥りがちである.また,抗 HIV 薬による治療には副作用がつきもので,長期にわたって厳密な服薬行動が求められるため,日々の生活自体が強く制限を受けるように感じられることもある.さらに性感染症であるがゆえに,恋愛や性的関係を巡って葛藤が生じがちである.このような複雑な課題を目の前にし,これからの人生への見通しが立たない不安に駆り立てられる陽性者は少なくない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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