自治体立病院の今後のあり方への―考察―地域ニーズと財務面の課題を中心に
著者:
岩渕良昭
ページ範囲:P.728 - P.733
自治体立病院の現状
自治体には,地域住民の健康を守っていくという大きな役割があるが,自治体立病院は,この地域住民の健康に責任を持つ地方公共団体が自ら開設する病院である.その設置の経緯や立地条件,運営規模などは地域や病院ごとに様々で,その役割や求められる使命も一様ではないが,行政的,公共的な面からの役割を課せられ,経営方針や施設設備の整備計画,各年度の予算などは,住民の代表者である各地方公共団体の議会議員による審議・議決を経て執行される.そのようなことから,自治体立病院は総じて地域の基幹的な病院として高度・特殊医療や救急医療の中心的役割を担い,あるいは医療の過疎地域における医療確保の役割を担っていることが多い.
自治体立病院は,地方公共団体(都道府県,市町村,一部事務組合)が経営する企業として地方公営企業法の適用を受け,財政的には一般会計とは別に病院事業特別会計が設けられて独立採算で運営されている.自治体立病院が民間医療機関と大きく異なる点は,地方公営企業法により経営の基本原則を「常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営する」ことを求められていることである.そのため,地方公営企業法第17条の2の規定に基づき,高度・特殊医療や結核・精神などの不採算医療,辺鄙な地域等における医療確保など,採算性の面で厳しい部門を担当している場合などは,一般会計から負担金・補助金が繰り入れられており,平成15年度における収益的収入に占める割合は全国平均で13.1%となっている.
地方公営企業年鑑(平成15年度版)によると,全国の地方公共団体が経営する病院事業数は754事業で,これらが運営する自治体立病院の数は1,003病院となっている.全国の病院数は現在約9,000といわれているので約11%を占めている状況である.経営主体別にみると都道府県立が225病院,指定都市立が34病院,市立288病院,町村立317病院,そして一部事務組合立139病院という状況である.
自治体立病院の運営状況をみてみると,病床数は238,489床で前年度に比較して1,432床,0.6%とわずかに減少している.病床の内訳は一般199,562床,療養10,965床,結核3,547床,精神23,180床,感染1,235床である.また,外来患者延数は129,917,459人で前年度と比較して4,980,733人,3.7%の減少,入院患者延数は71,219,948人で同じく503,591人,0.7%の減少といずれも減少傾向にある.
経営状況は,総医療費抑制政策に加え,医療提供体制の変革などの影響を大きく受け,15年度において経常損失を生じた事業数は60.8%に上っている.この割合は,前年度を2.7ポイント下回り,全体の赤字額も932億円と前年度の1,220億円から改善されているとはいうものの,自治体本体の財政状況が,社会経済の低迷や三位一体改革に伴う財政構造改革などにより年々厳しさを増していることなどから,依然として難しい経営環境が続いている.