icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院65巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

特集 地域医療の新たな展開と病院

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.13 - P.13

 地域における医療提供体制の見直しは,医療改革の主要な課題の一つである.これまでに,病床を一般病床と療養病床に区分するなどして,機能の分担と連携を促進するとともに,在宅医療に向けた体制整備の必要性が強調されてきた.施設機能の分化と,その重点化・集積化の意義が繰り返し説かれる中で,最近になって地域医療の新しい枠組みを提案する動きが出てきた.医療提供側の機能分担と連携というよりは,医療を受ける立場から地域の各医療機関の機能的な役割が理解され,そのうえでそれぞれの医療が住民によって選択されるように,身近な生活圏において傷病ごとの連携体制を明確にしようとする方向である.その実現のために,核となる病院を中心とした,いわゆる「診療ネットワーク」を構築することが必要であると説かれている.

 1次・2次・3次機能のピラミッド型医療システムを構築して垂直方向の医療連携を図ろうとする従来型の連携モデルに対して,水平的な傷病別のネットワーク機能を想定することは魅力的である反面,システム的な最適化が実現できるのか,あるいは囲い込み的連携体制となるのではないかとの疑問を呈する向きもある.まずは,その意図するところを理解する必要があるとともに,次期医療法改正の主要課題である医療計画の運用の方向を探っておきたい.そして,医療計画が病床規制の枠組みとして機能するだけでなく,地域計画としての有効性を評価する意義が強調される時代となっており,その方法論の一端について論じてもらうこととした.

地域医療の新たな取り組み―在宅医療の推進に向けて

著者: 鴨下重彦

ページ範囲:P.14 - P.18

21世紀に入って日本人最大の関心事は健康であるという.人々の健康を支えるのは医療である.それを確保するのは医療制度であり,その核心は医療提供体制に在る.健康への関心とともに,人々の医療制度や医療提供体制に対する関心も高まってきている.その中で最も身近なものは地域医療であり,今後の少子高齢化,さらに多老多死の社会を迎えて,地域医療の在り方,特に在宅医療はますます重要性を増してきている.

 今回は診療のネットワーク作りを題として与えられたが,現在厚生労働省が第5次医療法の改正を目前にして医療制度改革に取り組んでおり,その中でも過去1年余り社会保障審議会医療部会で医療提供体制の制度改革の議論にかかわってきた立場から,在宅医療を中心に述べることとする.

平成18年医療提供体制の改革について

著者: 梶尾雅宏

ページ範囲:P.20 - P.25

医療制度改革については,平成15年3月の閣議決定(医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針について)に基づき,医療保険制度の改革について,平成18年の改革を目指し,平成15年7月から社会保障審議会医療保険部会による審議が進められてきた.

 そして,医療保険制度と車の両輪の関係にある医療提供体制についても,これと一体となって改革に取り組む必要があり,平成16年9月から,社会保障審議会医療部会による審議をお願いしてきた.

医療計画の評価とその方法

著者: 長谷川友紀

ページ範囲:P.26 - P.30

医療計画

 医療計画は,基準病床について規定した部分と記載事項について定めた部分に大別される.前者は数値目標が具体的に示され病院開設などで供給量の制限として実効性を有するのに比較して,後者は,これまで十分に議論されることなく,また内容的にも,計画の目標,時期,実施者,財源などが定量的に明らかにされていないため評価が困難であるなど,不十分なものが多かった.

 今後,医療の安全と質について医療計画の果たす役割が重要になるとともに,後者の質的な充実が必要となる.臨床指標は,医療のパーフォーマンスを測定する際に中核となる概念である.本稿では,臨床指標を用いた医療計画の評価と,今後,医療計画に導入が想定されるライフコースアプローチについて概説する.

地域医療支援病院の今日的課題と将来

著者: 宮城敏夫

ページ範囲:P.31 - P.35

医療法人仁愛会は,設立当初から理念(表 1)に則り,浦添市を中心に周辺市町村の医療のニーズに配慮しつつ,医療制度の改正方針にも対応しながら,事業内容の充実拡大を図ってきた.

 理念の一つに「地域住民のニーズを満たす医療」がある.地域住民のニーズは時間の経過や地域の置かれた状況で変わる.とりわけ医療制度の改正は浦添総合病院の機能を拡大させ,高度化,専門化へと変えさせてきた.

【座談会】医療機能の重点化・集積化に向けた課題

著者: 小西得司 ,   西澤寛俊 ,   林奐 ,   大道久

ページ範囲:P.36 - P.45

大道 数年来の医療制度改革,とりわけ医療提供体制の改革に向けた動きの中で「医療制度改革のビジョン」という基本的な構図は見えています.その中に,「医療機能の重点化・集積化」という課題が明示されており,これに向けて地域の医療現場は,今後どうなってゆくかということについて,それぞれの地域,病院でも関心の高いところだと思います.

 今後は従前以上に,地域における連携体制をより強固にし,その連携の実情を受け止め,相互の連携体制が医療を受ける立場からもわかるような仕組みが必要であり,疾患別あるいは事業別に連携体制を明確にして,成果が上がっているかどうかを評価するという方向も示されています.

グラフ

日本一やさしい病院をめざして―医師確保・地域医療に奮闘する

著者: 独立行政法人労働者健康福祉機構 青森労災病院

ページ範囲:P.1 - P.6

青森労災病院は,JR八戸駅からJR八戸線に乗り換え,五つめの駅白銀駅で下車し,駅からおよそ700mのところにある.八戸港へは歩いて15分程度で,病院の最上階からは八戸港と太平洋を眺めることができる.

 当院は,昭和30年代に八戸市が新産業都市として急速に発展していく時代のなかで,多発する労働災害に対応するための病院として1962(昭和37)年に開設された.病院誘致にあたっては,青森県,八戸市,医師会,産業界,労働団体および地元市民の活発な誘致活動があったという.労災病院としての役割は時代とともに変化し,現在では勤労者医療の推進という社会的使命を担う一方,八戸地域保健医療圏の中核病院として八戸市立市民病院,八戸赤十字病院とともに地域医療を担っている.

ホスピタルアート・7

Happy Doll Project

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.8 - P.8

 今年,私たちのホスピタルアート活動は,また新たなアプローチに取り組もうとしている.それは全国の病院を繋ぐドールプロジェクトの展開である.各地の子どもたちを結ぶ美術活動や,美術館を巡回する展覧会は経験済みだ.しかし,外出しにくい患者さんや病院職員がいる場所にこそ心和らぐ活動を届けたい.そして病院の枠を越えて,人と人の心が繋がる楽しさを運ぶことができたらどんなにすてきだろうか?

 このドールプロジェクトは,各院で思い思いにマスコット人形を制作し,各院で展示し,最後に全点集めた合同展覧会も行う趣旨だ.途中,各院での展示には,それまで制作された他院の作品も次々加えられていくので,徐々に作品点数は増えていく.世界に一つだけの人形が五百点,千点と並ぶ光景はどんなにか楽しく,また壮観だろう.

特別寄稿

医療事故のセイフティネット―無過失補償制度

著者: 長野展久

ページ範囲:P.47 - P.51

1999年1月,横浜市立大学医学部附属病院の患者とり違え事件を皮切りに,大学附属病院や国公立病院,有名私立病院で発生した重大な医療事故が次々と報道され,医療に対する国民の不信感がますます増大している.そしてカルテ改竄が明らかとなった東京女子医科大学事件や,無謀な前立腺癌腹腔鏡手術を実施した慈恵医科大学附属青戸病院事件では,医師が刑事事件の被疑者として逮捕されるという前代未聞の事態となった.こうした医療行為をめぐる警察の介入は,警察庁への届出ベースでみると1),1997年には21件(立件送致 11 件)であったのに対し,2004年には255件(患者側の通報が約20%,立件送致10件)と10倍以上に増加している.

 医療事故の中でも,単純なミスや思い違い,稚拙な医療行為などによって,患者に重篤な被害が及んだ場合には,医療者の責任が厳しく問われるのが当然であろう.ところが,まじめな医師たちが一定の臨床医学水準のもとに,真摯な態度で行った医療行為の結果が患者の期待通りでないと,「結果が悪かった」という理由で不毛な医事紛争へ発展するケースがかなり増えてきた.医師の立場では不可抗力と考えられるような症例であっても,患者側の納得が得られず法廷の場へと持ち込まれ,被害者救済の名目で信じられないような判決が下されることもある.

研究と報告【投稿】

VDT 作業のリスクマネジメントに関する研究

著者: 平田周祐 ,   高橋弘充 ,   酒井英洋

ページ範囲:P.52 - P.55

 インターネット白書2004(財団法人インターネット協会)の統計よると,わが国におけるインターネット人口は6,000万人を超えたそうだ.このような状況下,コンピュータなどの端末であるVDT(Visual Display Terminals)操作に起因する疲労を訴える患者が激増している.厚生労働省では 2002 年 VDT 機器の急速な普及に伴い,1985(昭和60)年以来の新VDTガイドラインの改定を発表した.医療の分野でもVDT作業に従事する時間は増加しており,特に電子カルテを導入した施設では医師をはじめ,オーダリングシステムによる関係部署の作業者の疲労等を軽減することは健康管理の面から有用と思われる.2003 年産業保健推進センターの栄田ら1)の大規模な調査研究(3,371名;年齢40.4±10.8歳)によれば VDT 作業者(2,573名;78.2%)は非作業者(718名;21.8%)に比べ,精神疲労,眼精疲労,運動器疲労(首や肩がこる等)の割合が有意に高かったことから,VDT作業は精神症状とともに眼症状や運動器症状といった身体症状に影響すると示している.

 本稿では電子カルテ導入前の処方せんに基づいてデータの入力・照合・修正等に従事している作業者を対象に,VDT作業の心理的・生理的評価を行った.さらに,紙ベースのVDT作業は視線が常に画面とキーボードと紙の3か所を移動するので疲れやすく誤入力も生じやすいという点から,医事システムと連動している薬剤部の薬袋発行システムにおける安全管理との関連性を検証した.

医療事故分析システム―RCA(Root Cause Analysis:根本原因分析法)の適用

著者: 石川雅彦 ,   長谷川敏彦 ,   種田憲一郎

ページ範囲:P.56 - P.59

今日,医療機関では,医療安全管理部門において定期的にインシデント・アクシデント報告の収集がなされているが,蓄積された報告は適切に分析して対策を実施することは極めて重要である.しかし,この院内報告の対処方法は,施設によって異なり,わが国では十分に標準化されているとは言いがたい.今回,米国において標準化された分析方法である根本原因分析法(Root Cause Analysis,以下 RCA)の概要を述べ,わが国での適用に関して検討したので報告する.

連載 病院経営分析の技術 経営改善のための分析ツール活用講座・4

診療圏分析〈後編〉

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.60 - P.62

診療圏分析後半となる今回は,前回のステップ1~3で入手した自病院患者データ,診療圏人口データ,受療率を使って作業を進めていくこととします.

病院ファイナンスの現状・17

―間接金融(12)長期資金調達 10―病院経営状況の銀行審査ポイント

著者: 福永肇

ページ範囲:P.63 - P.68

民間銀行の長期資金に対する検討事項

 今月号と2,3月号では民間金融機関(以下,銀行)の病院宛長期融資における審査項目と銀行の考え方についてみていきましょう.審査に関する図書注1) には企業審査項目として下記の9つが掲げられています.

Q&Aで学ぶ医療訴訟・13

病院のリスクマネジメントとは

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.69 - P.72



医療訴訟について,様々なことを学びましたが,具体的に病院としてはどのような方策を今後はとっていけばよいのでしょう.医師も看護師も限界まで働いていますし,人員増加も無理,診療報酬も下がるという現状では,事故防止にも限界があるのではないでしょうか.

病院管理フォーラム 病院マネジメントの課題

診療記録の課題を考える(3) 社会との情報共有のあり方

著者: 西本寛

ページ範囲:P.73 - P.74

 医療施設に蓄積された診療情報は,医療者同士の間で,また,医療者と患者さん本人との間で,共有されることが必要であると,前二回で述べてきました.最終回にあたる今回は,さらにこの情報を社会とどう共有していくか,またその際には何が問題なのかを述べたいと思います.

 こうした社会との診療情報の共有の例としては,2005年11月から筆者自身の中心的仕事となった『がん登録』がよい例となると思います.2004年に始まった『第3次対がん10か年総合戦略』の中でがんの罹患率と死亡率の激減がうたわれ,地域がん診療拠点病院の強化などの対策が考えられています.しかし,がん難民の問題を含め,十分ながん診療に関する情報がなく,国民が「がんに罹った時どうしたらよいか」がわからない,がん対策を立てるにしても対策の成果を評価する情報そのものの精度が低い,という状況の中で,国によるがん対策情報センター構想が浮上してきました.このことは今までこうした診療情報の社会的共有がきちんと行われてきていなかったことを反映しています.また,その精度や信頼性について担保する仕組みや指標がなく,情報の標準化が遅れていたことで,社会的に公表されてきた情報の多くも比較に堪えないものであったと推測されます.

病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・10

Continuing Education―生涯教育

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.75 - P.76

「教育とは一生にわたる過程であり,学生は大学時代その一歩を歩みだしたに過ぎない」Plato (B. C. 427-327)

 プラトーが指摘するように,大学における教育は最初の一歩であり,人は生涯にわたって学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です.特に医師の場合,自分の知識・技術不足が患者さんに悪い結果をもたらし得るという点で勉強を怠るわけにはいきません.さらに近年の鏡視下手術や血管内治療などの分野における医療技術の進歩はめざましく,年数が経っているからといって技術が高いとは限らないのです.その結果,従来行われてきたように先輩の指導のもと新しい医療技術を習得することが困難になってきました.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第132回

岩手県立二戸病院

著者: 近藤彰宏 ,   漆間一浩

ページ範囲:P.78 - P.83

ふれあいを大切にした「心かよう癒しの環境」をヒューマンスケールで…

 岩手県立二戸病院の建つ二戸市は青森県との県境に位置し,周囲を馬淵川・折爪岳といった美しい自然環境に囲まれた盆地になっている.冬季は-20℃にも冷え込む厳しい気候条件を考慮しながら,“ふれあいを大切にした「心かよう癒しの環境」をヒューマンスケールで…” をテーマとして快適な病院づくりを目指した.

リレーエッセイ 医療の現場から

医師の公募による採用を経験して

著者: 梅田一清

ページ範囲:P.85 - P.85

紀南病院は,南北に長い三重県の最南端の地にある.診療県人口は約45,000人の5市町村によって構成された組合立病院であり,この地域唯一の入院設備(288床)をもつ僻地医療拠点病院である.病院のすぐ前には熊野灘が広がり,周辺は蜜柑畑で囲まれた風光明媚の地にあり,また昨年,紀伊山地霊場と参詣道(熊野古道)が世界遺産に登録されて以来この地を訪れる人は多い.

 しかし,地元三重大学医学部のある津市からは JR 特急を利用しても約2時間半,車でも3時間かかり,僻地中核病院と言わざるを得ない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?