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雑誌目次

雑誌文献

病院65巻12号

2006年12月発行

雑誌目次

特集 検証 平成18年診療報酬改定

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.955 - P.955

 平成18 年診療報酬改定は,従来の改定とは大きく異なる改定であった.診療報酬改定に先駆け,中医協改革が行われメンバー構成が変更された.その結果日本病院団体協議会が結成され,中医協に2 名の病院代表が入ったのである.

 そして診療報酬改定の枠は史上最大の-3.16%となった.これは内閣府が決定し,さらに医療提供の方向性は社会保障審議会の医療部会,医療保険部会で決定され,中医協はその決定に沿うように配分を決める場になった.結果から見ると,-3.16%という数字以上に医療提供体制に大きく関わる改定となった.

平成18年診療報酬改定:総論

著者: 武田俊彦

ページ範囲:P.956 - P.961

 平成18度診療報酬改定(以下,平成18年改定)は,病院関係者を中心に,これまでの改定以上に当惑の声や方向性の不透明感を指摘する声が多いようである.これは中央社会保険医療協議会(中医協)を巡る環境が大きく変化する中で,社会的,政治的あるいは人的・組織的な様々な要因が今回の改定に複雑に働き,改定の位置づけと方向性を,非常にわかりにくくしているためであると思う.

 本稿は,今回改定の総論を概説する役割を持つものであるが,解説は既に多く出されているので,ここでは一歩進んで,過去数回の改定を視野に入れ,私見も含め,診療報酬体系の変貌とその行方を考えてみたい.

診療報酬体系改革と中医協

著者: 石井暎禧

ページ範囲:P.962 - P.964

 少子高齢化の進行の中で,医療保険制度をどのように安定的に持続させるか,これが厚生労働省(厚労省)に課せられた課題であり,史上最大のマイナス改定は,その意図を鮮明に伝えた.しかし過剰に抑制すれば,国民医療そのものが崩壊する.

 現政権の政策の根幹は財政再建であり,国民の抵抗がない限り,際限のない社会保障費抑制が続く.国民もまた,医療の危機は医療機関の責任であり,診療報酬とは関係ないと考えており,医療費抑制に賛成している.現実には医療費の抑制にすぎない政策を効率化と表現するのは,医療崩壊を防ぎつつ医療費削減を成し遂げたいという厚労省の願望の現れであるが,どこに均衡点を置くべきか,今回の診療報酬改定では明らかではない.

医療療養病床における改定の実態と療養病床再編

著者: 木下毅

ページ範囲:P.966 - P.969

■介護療養型医療施設廃止決定までの経過

 介護療養型医療施設の廃止の方向が世間に明らかになったのは平成17年12月13日の介護給付費分科会であったが,それ以前から当局は着々とその準備を始めていた様子が次の事実からうかがわれる.

 平成17年10月19日に,すでに医療構造改革推進本部は患者本位の医療提供体制の実現の項目の中に「高齢者が長期に入院する病床について,生活環境に配慮された居住系サービスへの転換を促進する.このほか,病院から在宅への復帰が円滑にできるよう,介護保険事業支援計画においては,居住系サービスの充実を図ることとする.」(案)と記載されている.

リハビリテーションのあり方と新体系

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.970 - P.974

 わが国の医療保険制度の中にリハビリテーションの専門的サービスが評価されたのは,1970年代に入ってからと考えられる.1965年に理学療法士および作業療法士法が制定され,診療報酬において整形外科機能訓練区分(機械器具を用いた機能訓練,水中機能訓練,温熱療法の3区分)が確立されたが,あくまで整形外科の範疇であった.身体障害運動療法・作業療法の「施設基準」と,それに基づく特掲点数(複雑,簡単)が始めて導入されたのは1974年の診療報酬改定においてである.以来,診療報酬はリハビリテーション医療の特徴を反映した体系を模索しながら,リハビリテーション医療の普及を誘導してきた.

 平成18年度の診療報酬改定では,近年の医療における公的支出削減の大原則が貫徹されたが,リハビリテーション医療に関してはマイナス報酬以上に深刻な方向性が懸念されるものであった.その特徴である疾患別の報酬体系導入と施設基準の大きな変更は,急性期医療からの定額支払いの枠組みへの移行が想定されているのかもしれないが,両者ともリハビリテーション医療のあり方に影響し,サービスの質の低下を招きかねない.

医療提供体制と診療報酬体系のあり方

著者: 長谷川友紀 ,   徳田禎久

ページ範囲:P.987 - P.991

 診療報酬支払い体系は,しばしば医療費抑制の文脈の中で議論されることが多い.しかし,国の経済の中に占める医療費の割合は,医療とその他の産業との相対的な競争の結果を示すものと解釈すべきであり,むしろ診療報酬体系は与えられた枠内で医療をどのような方向に誘導するべきかの観点から評価すべきである.昨今の,医療費抑制の議論は,医療が社会に対して適切なアピールを行うことができずに,十分な評価を受けてこなかった結果であると解釈すべきであろう.診療報酬体系の是非については,現在の医療の問題点,望ましい方向性について明らかにしたうえで,議論を進める必要がある.

 診療報酬体系は,①出来高払い(医療サービス単位ごとに償還価格が定められているもの),②定額払い(1日定額,1入院定額),③人頭払い(医療機関を利用するか否かを問わず1年間健康管理を行うことに対する対価として支払われるもの),に大別される.さらに,医療費全体に上限を定める総額予算制度が併用される場合がある.現行ではDPC,療養病床では1日定額が用いられ,その他では出来高払いが主として用いられており,総額予算制度は用いられていない.①→③の順に,支払いのまるめの単位が大きくなっている.一般的には,まるめの単位が大きくなるほど,無駄な医療を廃し必要最小限の医療を行うインセンティブが強くなるため医療の標準化が進み,また,医療機関の財政リスクが高くなる.

【診療報酬改定の影響】

DPC実施病院における,平成18年DPC改定の診療報酬上の影響

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.975 - P.977

■DPC実施病院は,経営的に優遇されているか

 平成16年の3月に筆者は,カレスアライアンスの西村昭男理事長や赤穂中央病院の古城資久理事長らとDPC試行病院協議会を立ち上げたが,その頃の病院関係者から最も頻繁に投げかけられた質問は,「DPC とは,どんなものですか?」であった.それから1年後の平成17年3月に筆者は『DPC 実践テキスト』(じほう)を出版したが,その頃には多くの人がDPCの存在を知るようになり,最も尋ねられた質問の内容が,「DPCは,本当にこのまま推進されるのでしょうか?」に変わった.平成18年の3月頃になると多くの人が,“DPC≒急性期医療を担う病院の必須条件” と考えるようになり,「DPCに移行したほうがよいですか?」や「DPCになったほうが,経営的に有利ですか?」という質問が,頻繁に投げかけられるようになった.わずか2年で,医療界の人々のDPCに対する認識が急速に変わった.今回の小論の目的は,平成18年度の診療報酬改定におけるDPCの扱いを検討し,最近よく尋ねられる「DPCになったほうが,経営的に有利ですか?」という質問に筆者なりの回答を読者の皆さんに示すことにある.

 まず結論から述べると,平成18年度の改定においてDPCにより診療報酬額が支払われる病院(以下DPC病院と略す)の多くは,DPCによる支払いを受けなかった一般病床と比べ,“優遇された” と言える.DPCにより支払いを受けるようになると,①入院基本料,②検査,③画像診断,④投薬,⑤注射,⑥処置(1,000点以内),⑦リハ等で使用した薬剤が包括払いになり,手術や麻酔などを含むその他の項目は,従来どおり出来高で支払われる.

全日本病院協会平成18年病院経営調査結果

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.978 - P.980

 全日本病院協会は,平成5年より定期的に5月の病院収支状況を調査している.本年も協会役員,代議員および各県より無作為抽出した会員病院を客体とし,客体数を500病院として経営調査を行った.回答病院数は226であり,回答率は45.2%であった.

■平成18年診療報酬改定について

 平成18年の診療報酬改定は過去最大の減額改定であると同時に,医療提供体制を大きく変える要素が多々含まれている.

日本精神科病院協会による改定の影響調査結果

著者: 平川淳一

ページ範囲:P.981 - P.986

■精神科の現状

 精神科においては精神科病院での看護職員確保は困難であり,当分の間,医療法上,4:1配置の80%の基準である5:1までは標欠とはしないということで合意した経緯がある.しかし,今回の改定では医療法上合法である5:1まで,「特別入院基本料」すなわち4:1未満として一括りとし,廃止する方向が示された.看護職員数は10年前と比較して増えているにもかかわらず(図1),その努力をまったく無視した改定である.また,日本精神科病院協会(以下,日精協)会員名簿調査の比較においても,平成17年4月(表1-1)で,4:1未満の病院が1,216病院中,193病院であったのに対して,平成18年4月(表1-2)では,特別入院基本料算定病院が1,214病院中83病院と減少していることがわかり,日精協会員の努力が窺える.

 精神科の低医療費は16年改定でも改善が必要な重要課題とされたが,マイナス改定の中,この低医療費を改善するには至らなかった.精神科病院の多くは,包括払いである急性期治療病棟や精神療養病棟1(精療1)への転換を行い,各自運営コスト削減によって病院を存続してきた.断っておくが,この精神療養病棟は医療法に規定される内科療養病棟とはまったく異なるもので,診療報酬上で機能分化した精神病棟である.名前に同じ「療養病棟」がつくため混同されるが,まったく意味の異なる病棟であることを改めて記しておく.

【事例】

平成18年診療報酬改定の影響と対策

著者: 須古博信

ページ範囲:P.992 - P.995

 史上最大の下げ幅である診療報酬改定が行われた.

 2001年に発表された医療制度改革試案に基づく,「質の高い効率的な医療提供体制の構築」を目指した流れの中での改定と予測していたものの,3年前にスタートした新医師臨床研修制度の影響による医師確保の問題とDPC対象病院拡大は,ともに病院の存続,維持にも大きな影響を与えることとなった.

北海道における診療報酬改定の影響―一般病棟入院基本料届出実態調査報告をもとに

著者: 西澤寛俊

ページ範囲:P.996 - P.999

 平成18年診療報酬改定において,医療機能分化の推進や平均在院日数の短縮,療養病床の再編,リハビリテーションの大幅な組み換え等が行われた.なかでも一般病棟入院基本料に係る改定は,本道の中小病院の経営に大きな影響を与えたどころか,本道の地域医療の崩壊を危惧させるほどのダメージを与えた.

 NPO法人北海道病院協会が本年6月ならびに8月に実施した調査結果に基づき,一般病棟入院基本料の改定が,本道の医療に与えた影響について報告する.

診療報酬改定の中での中小民間病院の生き方

著者: 内藤誠二

ページ範囲:P.1000 - P.1002

 今振り返って見ると大学病院の外科医局に所属して日々,医療技術の研鑚に励んでいた頃は,たとえ出向先の病院にいたとしても「保険診療」という言葉さえあまり気にすることもなく,「保険で切られる」と言われてもピンとこないで過ごしていた.まして「診療報酬改定」というものがあり,医療の値段や仕組みが変わっているとは思いもよらなかったのが現実であった.

 しかし平成2年夏,当院が新築されたのを期に医局を辞して副院長に就任してからは,月初めになると毎月「診療点数早見表」を片手にレセプトをチェックするようになり,「診療報酬改定」となると説明会に行き,厚い白本とにらめっこするのが当たり前となっていた.またそのしばらく前から「医療費の増加」が問題になっており医療技術が進歩しても医療費の総額は増加しない,「パイの切り方」の問題とされるようになり,「診療報酬改定」を気にして病院運営を行ってきた.

診療報酬改定の高齢者専門病院への影響

著者: 安藤高朗

ページ範囲:P.1003 - P.1006

 18年度の診療報酬改定は,3.16%のマイナス改定となった.特に,長期入院の是正を「効率的な対応」として慢性期入院医療の大幅な見直しが行われた.その手法が「医療区分」による入院患者の評価である.この「医療区分」導入は,内容の周知を図るために7月実施となり,4月の試算では病院全体で-5.50%(4月実績-3.36%)であったが(表1-1),医療療養病棟においては4月実績は-3.90%となった.7月の医療区分を当てはめた試算では,なんと-24.44%のダウンであったが,9月実績では-16.84%となった(入院基本料は-18.60%:表1-2).この時点での医療区分状況は,「医療区分1」が66.0%,「医療区分2,3」が34.0%であった(表2).

 当院には医療療養病棟のほかに障害者施設等入院基本料を算定する一般病棟,介護療養病棟もあり,それらの患者の医療区分を再度調査し,医療療養病床における「医療区分1」の患者と,介護療養病床やその他病棟で機能的に適する「医療区分2,3」の患者の移動を開始した.国は,「医療区分1」の患者は医療療養での入院を要せず,介護保険施設または在宅等での療養を勧めているが,思惑通りにはいかない.合併症を持つ高齢者はその状態が安定せず,観察が必要であり,同時に速やかな医療的対応を要する場合が多い.また,受け皿としての体制もまだまだ不十分な状況である.

グラフ

役割を明確にして地域医療に貢献する―社会福祉法人 新潟市社会事業協会 信楽園病院

ページ範囲:P.943 - P.948

 1931(昭和6)年に結核療養所としてスタートした信楽園病院は,その後透析や腎移植,神経難病,糖尿病の医療では最先端の医療を提供し続け実績を積み重ねてきた.こうして新潟市内にある新潟大学医歯学総合病院,新潟市民病院,済生会新潟第二病院等とは一線を画し,地域に対して果たす役割を明確にしてきた.さらに経営主体である新潟市社会事業協会が,児童センターや保育園,特別養護老人ホームや介護老人保健施設なども運営していることで,信楽園病院を中心とした急性期から在宅まで切れ目のない医療・福祉の総合的なケアを提供し地元住民のニーズに応えている.

 そして今年5月,当院は新築移転したことをきっかけにハード面,ソフト面の両面にわたり大きな飛躍を果たそうとしている.海沿いの旧病院から移転し,田園風景の広がる中に浮かび上がるその姿は,337床の病院とは思えないほど堂々と大きく見える.交通事情も改善し,利用者には好評のようだが,再出発した当院の現状を紹介したい.

連載 クロストーク医療裁判・10

狭心症事件―生存していた相当程度の可能性―最高裁平成12年9月22日判決の事例から

著者: 望月千広 ,   畑中綾子 ,   落合武徳

ページ範囲:P.1007 - P.1011

事案

 Aは,平成元年7月8日午前4時30分ころ,突然の背部痛で目を覚ましましたが,しばらくして軽快しました.Aは,自分で自動車を運転して医療法人社団Yが経営する病院(以下Y病院)に向かいましたが,途中で背部痛が再発したため,息子Xに運転を替わりました.

 午前5時35分ころ,AはY病院の外来の受付を済ませ,まもなくB医師が診察を開始しました.

病院ファイナンスの現状・28

―病院債(1)―債券発行による資金調達と地域医療振興債

著者: 福永肇

ページ範囲:P.1012 - P.1017

 今月号から3回にわたって,債券発行による資金調達を解説いたします.いわゆる「病院債」といわれているファイナンス手法です.今月号では病院債の概要を見た後,「地域医療振興債」を解説します.

8つの病院債

 現在,世間で「病院債」といわれているものには性格の違う様々な債券が混立しています.これらを整理すると表1の8つになります.

 この連載ではこれらの病院債の中から,発行者が民間の医療法人である①「地域医療振興債」,②「医療機関債」,③「社会医療法人債」の3つの債券について説明をしていきます.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・7

緩和ケア病棟での家族関係再構築―リエゾン・コンサルテーションを活用したケースワークの事例

著者: 橘直子

ページ範囲:P.1018 - P.1021

 ホスピス・緩和ケア病棟では,患者さんとあわせて家族もケアの対象者と捉えている.終末期の場面において,これまで「家族」が紡いできた歴史は集大成を迎え,また患者さんとの別れによって新たな生活を始めることになる.とりわけ夫婦の場合,残された配偶者は喪の仕事(葬儀や法事など宗教的なセレモニーや遺族に引き継がれた諸問題の解決等),家庭内力動の変化,亡くなった配偶者の原家族との関係等について,強い不安や戸惑いを示すことがある.本事例は,リエゾン・コンサルテーションを活用しケースワークの技法を用いて家族関係の再構成を試みたものである.

 ホスピス(hospice)という言葉は,“旅に疲れた人をもてなす宿” の意味を持つラテン語から生まれた.その言葉に由来しているように,ホスピス・緩和ケア(palliative care)は,治癒不可能な状態にある患者さんおよびご家族のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)の向上のために,様々な専門家が協力して作ったチームによって行われるケアを意味する.そのケアは,患者さんとご家族が可能な限り人間らしく,“その人らしく” 快適な生活を送れるように提供される.

 近代的なホスピスとして最初に設立されたセントクリストファー・ホスピス(イギリス)のシシリー・ソンダース博士(1918-2005)は,「死に直面した人々のケアにおいて,患者の苦痛の全体像に直面したとき,身体的痛みだけでなく,心の痛み (Mental pain),社会的な痛み (Social pain),霊的な痛み (Spiritual pain) について検討が必要である」と述べている.また,博士は医師になる前,ソーシャルワーカーとして働いていたことも知られている.

今,なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学・7

医療専門職のモチベーション

著者: 勝原裕美子

ページ範囲:P.1022 - P.1026

モチベーションとは何か

1.モチベーション理論が扱うこと

 モチベーション(motivation)という言葉は,日常的にも時折耳にするようになりました.例えば,「こんなことばかりさせられていたらモチベーション下がるよね」とか,「ちょっとモチベーション上げないと結果が出ないよ」といった使い方です.元々は心理学で発展してきたこの用語は,人の意欲ややる気を指しています.どのようなメカニズムで人は意欲を持つのだろうか,あるいは何があれば人は意欲を高めるのだろうかといったことを扱うモチベーション理論は,動機づけ理論とも呼ばれており,「行為が生起する心理的メカニズムと条件を明らかにすること」が目的とされています1).前者のようにメカニズムを明らかにする考え方は,意欲を持つようになる過程の解明を目指すもので,モチベーション理論の中でも過程説と呼ばれています.また,後者のように意欲を持つための条件や中身を明らかにしようとする考え方は内容説と呼ばれています.

 メカニズムや条件を明らかにするには,多方面からのアプローチが必要です.学者によってアプローチは異なり,モチベーションの詳細な定義も様々ですが,共通する関心事が3つあると言われています2).それらは,何が人間の行動を元気づけるのか(エネルギー),何がそのような行動を方向づけているのか(方向づけ),どのようにその行動は維持されているのだろうか(維持)です.

 何かがトリガーとなって人の行動が生起し,ある方向に向かい,そのエネルギーが維持される.その全体像の解明がモチベーション理論で期待されていることで,心理学では実験室での実験研究や現場での介入研究が数多く行われてきました.経営学では,モチベーションは仕事意欲と同義であり,働く人のやる気や仕事意欲の解明のために研究がなされています.

病院管理フォーラム ■防犯対策・3

不審者の対策

著者: 安東学

ページ範囲:P.1028 - P.1029

 近年の新聞,各マスコミ等で報じられる犯罪は,窃盗,置き引き,車上荒らしなどはもちろんであるが,ストーカー,盗撮,迷惑行為など行動が多様化,複雑化している.そのため,防犯,特に不審者対策への取り組みは,今後病院の価値基準を決める項目として大きくなってくると考えられる.だが実際は,「予算がなく,設備の導入は難しい」というお話をいただくことが多いのが実情である.しかし,防犯設備の導入だけが対策ではない.不審者に不審行動,犯罪行動を起こさせにくい環境を整えることが重要である.本稿では,設備以外の対策,また設備導入の優先順位,ポイントなどについてご紹介したいと思う.

1.防犯ポスターなどの設置

 防犯に高い意識を持って対処していることを示すポスター,院内掲示,お知らせビラなどは犯罪行動の抑止効果がある.「院内での不審者に注意」「待合室,食堂,病室などでのスリ,置き引きに注意」「防犯カメラ監視中」「不審者,不審物を発見した際は警備室または,最寄りの職員まで」などがある.協会などから配布されるものもよいが,院内で独自に作成したもののほうが,より病院の取り組みが現れる.合わせて,掲示には連絡先電話番号などの記載があるとよい.また,全職員にその趣旨と対応方法の説明も必要である.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第143回 リニューアル例二題

富永草野クリニック

著者: 木村博幸 ,   草野恒輔

ページ範囲:P.1030 - P.1033

旧病院をクリニックにリニューアル―富永草野クリニック

 医療法人積発堂は,江戸時代享保年間(1720年代),初代充庵により米納津村(現吉田町)富永に外傷治療を主として開業,それ以来300年近い歴史をもっている.1961年に三条市に富永草野医院を移設,1980年に整形外科の単科病院として病床数42床の本館を新築,1988年に増築して62床に増床.整形外科のカリスマ的医師として全県下に診療圏をもつ.

 多い時は外来数が1日900人(平均800人)を超えることもあるため,建物も駐車場も慢性的に不足するとともに入院病床をもつ病院として,外来数が多くなると医師不足が喫緊の問題となっていた.医療法改正,診療報酬改定に伴い,病院の経営環境も厳しさを増すなか,地域の医療機関として,生き残るための病院のあり方を検討するなかで,ほかと差別化できる個性的な病院として外来を分離し,米国的な病院づくりを目指すことになった.

市立島田市民病院

著者: 井上智史 ,   西村善彦

ページ範囲:P.1034 - P.1037

イメージを一新させた病棟改修事例―市立島田市民病院

成長と変化への対応

 病院は医療技術の進歩などにより,日々変化が求められる.「成長と変化」にいかに対処するかが,病院建築の大きな課題の一つである.

 病院においては変化の度合いが著しいため,あまり建物に費用を掛けず20年ごとに建替したほうがよいという極端な意見もある.しかし,環境意識の高まりから建築のストック化の要請は強く,「改修による変化への対応」の必要性が今後ますます高まるものと思われる.改修に際しては1981年の耐震基準改正が大きな壁となっているが,阪神淡路大震災では,被害にあった建物の多くが旧耐震によるものであり,結果的に新耐震基準の有効性が証明されることとなった.このことから今後,耐震基準の大きな変更はなく,新耐震基準がクリアされていれば,改修は有効な方法であるといえる.

リレーエッセイ 医療の現場から

プライマリ・ケアとは聴く力なり

著者: 石本浩市

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 私の住んでいる高知県は太平洋に面した東西に幅広い県であるが,北方の四国山地が海に迫り平野部はわずかしかない.その狭い平野部の中央に位置する南国市の高知龍馬空港のすぐ近くに,私のクリニックはある.温暖な気候を利用して,私が子どもの頃まで米を1年に2回作る2期作が行われていた土地である.農家の次男坊として生まれ,医療というまったく未知の世界に入って30年の歳月を経た5年前に,故郷に帰って開業した.

 1978年に医師になって以来,母校の順天堂大学では小児科医として主に小児がん患者の診療に従事してきた.1960年代まではほとんど助かることのなかった小児がん患者も,医学の進歩により,今はその70%は治癒するようになった.そして,20年以上前に私たちががんと診断した子どもたちは,今,成人期を迎えている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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