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雑誌目次

雑誌文献

病院65巻2号

2006年02月発行

雑誌目次

特集 超高齢社会の終末期ケア

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.101 - P.101

 終末期ケアの場を,病院より在宅や介護保険施設に移すことが政策的に推奨されているが,超高齢社会においても病院が死亡場所として最も多い現状は大きく変わりないであろう.そこで,終末期ケアを病院の基本的なサービスとして位置づけ,提供できる体制を整備するべきであるが,医療者の関心は必ずしも高くなく,未だに末期がんに対する特殊なケアとして受け取られている傾向がある.

 そこで,本特集はより広い次元で終末期ケアを取り上げ,8本の論文より構成した.まず筆者は巻頭論文で死亡に至る3つのパターンと,各々に対応した終末期ケアの課題を提示し,その中で病院は心臓,肺,肝臓等の臓器障害で入退院を繰り返しながら亡くなるパターンに対応し,それ以外のがんと認知症等の各パターンについて今後は介護保険施設や在宅で提供する終末期ケアの支援に転換するべきである点を強調した.

病院としての終末期ケアへの対応

著者: 池上直己

ページ範囲:P.102 - P.109

日本における年間の死亡者数は2002年には100万人を超え,その8割が病院で亡くなっていることから1),死亡退院は退院患者総計1,400万人の6%を構成していることになる2).死亡者数は高齢化の進展に伴ってさらに増加し,2038年にはピークの170万人に達すると予測されており3),病院で死亡する割合および退院患者総数がともに変わらないと仮定すれば,退院患者10人のうち1人は死亡退院となる.

 今後,在宅や介護保険施設での死亡割合が多少高まることがあったとしても,病院にとって病院で亡くなる患者とその家族に対して適切な終末期ケアを提供することは,超高齢社会においていっそう大きな課題となる.ところが,現状では「終末期ケア」は,がん患者に対して緩和ケア病棟等の特別な療養環境下において提供されるケアとして一般に認識されており,医療従事者のほとんどは死の看取りについて体系的に学んでいない.そのため個々の医師と看護師の対応に任されている要素が大きく,その結果,医療サービスの質にばらつきがあるだけではなく,病院のリスク管理上も問題であり,さらに患者の受けたケアに遺族が不満を持っていれば病院の評判は低下して経営にも影響することになる.

終末期ケアの法的ルール

著者: 井田良

ページ範囲:P.110 - P.114

終末期ケアの法的問題

 医学の進歩とともに,死は否応もなく「人為的操作」の可能な現象となった.患者への積極的治療を継続することにより死期をかなり先に延ばすこともでき,逆に,治療のレベルを落とすことは早期の死を招来する.とはいえ,医療従事者に対し,常に最大限の積極的治療を最後の瞬間まで継続することを強いることはできない.とうに患者が意識を失ってしまい,意識が戻る可能性もないという状態でも,とにかく極限まで心臓と脳を人為的に機能させ続けること(いわば生命体として生き長らえさせること)を法が義務づけるとすれば,それは非人間的であり,野蛮なことである.医師がどこかで積極的治療から「撤退」することにより患者に自然な死を迎えさせることは違法ではあり得ない.

終末期ケアにおける意思決定の事例からの考察

著者: 加藤恒夫

ページ範囲:P.115 - P.121

筆者は平成元年からがんの終末期ケアに取り組みを開始し,同9年に中国地方で初めての緩和ケア病棟を単独型として開設.その責任者として「がんの緩和ケア」に従事した後,それを平成13年12月に閉鎖(その理由については本稿の目的ではないので別稿に譲る. 詳細は当院ホームページ,http://www.kato-namiki.or.jp/kato-Saga050827/katosaga050827-1.html,佐賀緩和ケア研究会講演を参照).今は,ジェネラリストとして19床の有床診療所を舞台に,がんであれその他の疾患であれ,在宅ケアを必要とする人たちを主な対象として終末期ケアを提供している(図).また,その一方で,平成3年に設立されて現在も活動を続ける「緩和医療研究会」の事務局として,岡山大学をはじめとしたいくつかの医学部の卒前卒後における緩和医療教育の充実にも取り組んできた.

 本稿では,このような筆者の経験を通じて,実際に遭遇したいくつかの事例をもとに,「終末期ケアをめぐる意思決定のあり方」について私見を述べる.

Quality of Life の向上を目指した終末期ケア―症状マネジメントと生命維持機能の支援を中心に

著者: 田村恵子

ページ範囲:P.122 - P.126

わが国において,終末期で死にゆく過程にある患者へのケアに関心が払われるようになって30年余りが経過し,終末期がん患者に対するケアとしてホスピス・緩和ケアのコンセプトが浸透しつつある.改めて記すまでもないが,緩和ケアとは,世界保健機関の定義1) にもあるように,「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全人的なケア」であり,「その目標は,患者と家族にとり可能な限り良好なQuality of Lifeを実現すること」である.したがって,終末期における医療の目的は,患者が病により体験する痛みや苦しみを積極的に緩和することで,患者と家族のQuality of Life(以下,QOL) をより良くすることである.すなわち,緩和ケアでは人間の生命を尊ぶまなざしを前提として,個々がどのように生きるかが優先されている.

 本稿では,終末期におけるがん患者と家族のQOL向上を目指してケアが実践されているホスピスや緩和ケアの場で,患者が体験している症状や苦悩をどのように緩和しているかについて,基本となる考え方と淀川キリスト教病院ホスピスでの実際について説明する.

緩和医療における意思決定と倫理的問題―英国における終末期医療関連ガイドラインから

著者: 児玉知子 ,   志真泰夫

ページ範囲:P.127 - P.131

近年,終末期における延命治療中止と関連した司法判断が下されており,社会的にも大きな関心が寄せられている.特にがんの場合は,終末期も含めた患者および家族・介護者等の身体的・精神的苦痛を軽減する緩和医療のあり方が問われており,この分野での医療提供体制整備や人材養成が急務との認識が深まっている.終末期医療における意思決定のあり方を問う際には,まず患者自身やその家族・介護者が十分な情報提示を受けたうえで,主体的に意思決定が実現されるような医療体制の整備が必要と考えられる.

 本稿では,法律的な整備も視野に入れた議論として,国や州政府による「制定法」で緩和医療や終末期医療の問題に対応している米国,オランダ,オーストラリア,カナダ等の国々と異なり,裁判の判例を積み重ねて法律とみなす「慣習法(Common Law)」を拠り所とし,緩和医療の先進国でもある英国の状況を紹介し,今後,わが国一般社会での議論が深まり,広く国民的合意が形成されることを願いたい.

終末期ケアに対する遺族満足度―2つの病院における試行的調査

著者: 山田ゆかり ,   池上直己

ページ範囲:P.132 - P.135

冒頭の論文1)で述べているように,わが国では死亡場所の8割以上が病院であるものの,一般に医療従事者は死の看取りを系統的に学んでいない.そのため,病院における終末期の対応は必ずしも十分ではなく,遺族が終末期ケアに対して不満をもっていれば,病院での評判は低下することが考えられる.そこで,Lynnが整理した,亡くなるまでの経過モデル2)のうち第二のパターン,つまり急性憎悪を繰り返し死に至る経過を辿る患者が多いであろう急性期の1病院(病床数315)と,第三のパターン,つまり医療よりも介護が中心の経過を辿る患者が多いであろう療養期の1病院(病床数667)を対象とし,遺族が終末期ケアにおいてどのようなことを重視しているか調査した3)ので,その結果を概説し,今後の病院の課題について整理したい.

生涯医療費における死亡前医療費の割合

著者: 今野広紀

ページ範囲:P.136 - P.140

近年,わが国では少子高齢化に伴い,医療保険財政は軒並み赤字が続いている.これを受け,現在,医療保険制度における負担と給付のあり方や保険医療需要の縮小へ向け,様々な改革が政治的課題として取り上げられている.特に,厚生労働省が掲げる医療費適正化政策にあって,終末期を含む後期高齢者の処遇については,今後,保険適用の可否等の厳しい環境が予想される.

 しかし,そもそも医療保険加入者が生涯に支出する医療費はどの程度になるのであろうか.また,そこに含まれる死亡前の医療費とはどれほど大きなものなのであろうか.ここでは,平均的な個人の医療費支出額を,実際の保険加入者の個票データから「生涯医療費」として推計すると同時に,そこに含まれる死亡前の医療費の実態を明らかにし,終末期医療費に関する若干の私見を述べることとする.

特殊疾患病床の“特殊な”ターミナル

著者: 日野頌三

ページ範囲:P.141 - P.145

日野病院が「特殊疾患病床」を持つようになった経緯

 この数年間に2度も病院の経営者は病院の運命が決まるような「意思決定」を迫られた.1度目は平成12年4月1日に介護保険法が施行され,「介護療養型医療施設」にするか「療養型病床群」に移行するかというもの.介護保険制度下では医師のプロフェッショナル・フリーダムはほとんどなく,特に,掲題の「ターミナル」は守備範囲外とされているようで,ドップリ浸かっていたら「医療機能」が「廃用性萎縮」を来すことが怖い.とりあえず療養型病床群を「踊り場」に選んだ.この時,後述する「特殊疾患」には「特殊疾患入院施設管理料」が設定されていたが,筆者は知らなかった.後方病院として,近畿大学医学部附属病院神経内科より多くの神経難病患者を受け入れていたが,「特殊疾患」患者の印象はこれだけの手間にこの報酬では「割に合わない」患者がいる,というものであった.

グラフ

陽だまりの中 心のふれあいを重ねて

著者: 国家公務員共済組合連合会 六甲病院緩和ケア病棟

ページ範囲:P.89 - P.94

国家公務員共済組合連合会六甲病院は1952(昭和27)年に神戸市生田区から灘区の現在地に移転した.六甲山麓,海が見える高台にある.国家公務員共済組合連合会で緩和ケア病棟(ホスピス)を持つのは当院だけである.

 六甲病院緩和ケア病棟は1994年10月に開設された.全国では16番目,兵庫県では神戸市北区のアドベンチスト病院に次いで二番目である.現在では神戸市に四つホスピスがあるという全国でも珍しい状況になっている.

ホスピタルアート・8

海を越えたホスピタルアート

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.96 - P.96

 感動の瞬間を共有する時,人々の間を隔てる国境,言語や文化の違いさえやすやすと超えて,心が一つになれる!病院で,そんな素敵な体験をした.

 2005年8月.遠い国ポーランドから世界的な絵本画家のウィルコンさんが来日した.ポーランドでは彼を知らない人はいない.文化勲章も受賞したアート界のボスで,心温かくユーモア溢れる人気者だ.そんな彼が,私たちのホスピタルアート活動に共鳴し,済生会栗橋病院で行われたプロジェクトに参加してくれたのだ.

特別寄稿

高齢者と終末期患者に対する栄養管理

著者: 東口髙志

ページ範囲:P.146 - P.151

栄養管理はすべての疾患治療のうえで共通する基本的医療の一つである.栄養管理をおろそかにするといかなる治療もその効力を発揮できず,逆に栄養障害に起因する種々の合併症を併発してしまうことすらある1)

 この栄養管理を症例個々に応じて適切に実施することを栄養サポートと言い,これを各科間の垣根を越え,しかも医師のみならず看護師,薬剤師,管理栄養士,そして臨床検査技師らがそれぞれの専門的な知識・技術を活かしながら一致団結して実践する集団をNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)という1~7).わが国の医療においては1998年まで全く無名とも言えたこのNSTであるが,2005年9月末の現在,既に600以上の施設に設立され,今もなお280以上の施設でNST稼働の準備が着々と進んでいる(図1).

杏林大学医学部附属病院中央病棟―コンセプトを実現するためのハードとソフト

著者: 菅原努 ,   齋藤英昭

ページ範囲:P.152 - P.155

杏林大学医学部附属病院は東京都三鷹市に1970年に開設された.現在の許可病床数は1,162床,外来患者数は1日約2,200人を数え,東京西部地区三多摩の中核的医療センターの役割を果たしている.当院は,高度医療の提供・技術開発・研修を担う特定機能病院の承認を受けており,さらに1次・2次救急に加えて,3次救急医療を有機的にカバーする高度救命救急センター,および総合周産期母子医療センターの運営に力を注いできた.さらに医療の充実を図るべく, このたび2005年5月末に,これまでの外来棟,第1,2,3病棟,救急救命センターに加えて,新しく地下2階,地上5階からなる中央病棟をオープンした.そこで,この中央病棟のコンセプトやそれを実現するためのハードおよびソフト面について紹介する.

連載 Q&Aで学ぶ医療訴訟・14

証拠保全への対応と記録のあり方

著者: 田邉昇

ページ範囲:P.157 - P.159



公立の地域中核病院です.医療事故などがあった場合,急に裁判所から証拠保全されることがあります.患者側の弁護士は,あれもこれも出せと言ってくるのですが,どこまでの文書を出す必要があるのでしょうか.また,事故調査報告書等の作成方法で心得ておくべきことがあれば教えてください.

病院改革 患者さんの期待を超越せよ!・11 最終回

Challenge and Change

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.160 - P.161

社会の期待

 2001年,炭疽菌を使ったバイオテロがアメリカで発生しました.炭疽菌感染症は発生しなくなったが,未だ興奮さめやらないタイミングでハーバードの研究グループはその地域の人々に対してアンケート調査を行いました.人々は自分たちがその冬インフルエンザになるのと同じくらいの確率で炭疽菌ないしは天然痘にかかるのではないかと心配するほど不安をかかえていたのです.そして,「あなたの地域でそのようなことが発生したら,誰の話を信用しますか?」という問いに対して,主治医であり地域の病院院長,あるいは消防士がトップにランクされていました.一方,ブッシュ大統領,FBI,CIAは信頼の対象とはなっていないのです.このアンケート結果からは,会社や自分の利益を考える人でもなく,国の利益を考える人でもない職種の言葉は信用されず,地域の人々を守る人々の言葉が信用されるということを感じ取ることができます.いざというときの地域社会の病院に対する期待は,思っている以上に大きいのではないでしょうか?

病院ファイナンスの現状・18

―間接金融(13)長期資金調達 11―病院「財務諸表」の銀行審査ポイント

著者: 福永肇

ページ範囲:P.162 - P.167

財務分析

 病院は医療サービスを行う所であり,医師や看護師の技術水準,手術件数などの “医療の質” が重視されます.しかし銀行が審査をするのは医療内容の良し悪しではなく,“病院の経営状況” です.お金を貸せるか無理なのかの審査です.この点への認識は重要です.

病院経営分析の技術 経営改善のための分析ツール活用講座・5

間接業務コスト分析

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.168 - P.171

事務部門を中心とする間接業務の仕事は収益が発生しないうえ,そのコストが計算されることもほとんどありません.そのため,一見その改善は難しいように見られています.ただ,コスト算出は可能ですし,その間接業務によってどのような付加価値が生みだされているのか,という視点でみれば改善の方向性が見えやすくなります.

 間接業務改善にあたっての基本的な考え方は次の3つです.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第133回

社会福祉法人駿河会 特別養護老人ホーム 晃の園

著者: 鈴木文和

ページ範囲:P.172 - P.177

施設の概要

 本施設はJR静岡駅から西に車で25分ほど,鮎釣りのメッカである藁科川沿いで,山々に囲まれた,緑豊かな自然環境に位置する.

リレーエッセイ 医療の現場から

今からの病院の主流(主役)は?

著者: 木村純夫

ページ範囲:P.181 - P.181

2004年4月.病院という未知なる世界に入り,丸1年以上経過した.当然のことながらアッと言う間もなきこの1年間だった.

 1973年に資源産業(非鉄金属・石油)の民間会社に入社し,28年間勤労畑(人事・労務)のみを歩んできた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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