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雑誌目次

雑誌文献

病院65巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 看護人員の適正化に向けて

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.285 - P.285

 「看護人員の適正化」は,業務量を把握し,それに対して過不足なく適正に配置するという経営管理上の課題であり,本特集に掲載されている論文も,基本的にはこうした問題意識の下で執筆されている.

 適正化するためには,まず業務量を把握する必要があり,その方法として看護度による分類という典型例評価と,業務を要素的に分け,加点してゆくという因子評価とがあり,宇都先生が提示されているように,両者の整合性が保たれる方法とする必要がある.そのうえで,業務量は変動するので,陣田先生が述べられているように,それに合わせて人員を“動的に配置”する必要がある.

看護配置規準の課題とその背景

著者: 安川文朗

ページ範囲:P.286 - P.291

 「看護配置規準(Nurse Staffing Ratio Standard)」とは,病院などの医療提供施設における看護職員数の最低基準を公的に設定することである.複雑化高度化した医療に対応するために,看護職員の配置を基準化するという発想はきわめて合理的であるが,その基本的な考え方や配置の根拠には,吟味すべき点が多々ある.適切な看護配置をどう実現するかという問題は諸外国でも重要な政策課題となっているが,その基本理念や方法には日本との違いが見られる.本稿では,日本の看護配置規準の制度的特徴とその功罪を概観し,英米における看護配置の考え方との基本的な異同を紹介する.

診療報酬と看護人員配置基準

著者: 石田昌宏

ページ範囲:P.292 - P.296

 入院サービスに関する診療報酬は,基本診療料と特掲診療料に大別される.基本診療料は,入院基本料,特定入院料などからなり,入院一日ごとに算定する点数が多い.一方,特掲診療料は指導管理,検査,処置,手術などからなり,行為ごとに算定する点数がほとんどである(図1).

客観的な看護度データの収集と看護ケア量の数値化

著者: 宇都由美子

ページ範囲:P.297 - P.301

 わが国の医療を取り巻く環境は,低迷する経済状況を背景として厳しさを増すばかりである.したがって,増大し続ける医療費をいかにコントロールするかが喫緊の課題となってきた.厳しい経済環境下においては,人的資源をはじめとする医療資源の適正な投入が不可欠であり,特に看護サービスの質向上を達成するために,看護師の適正配置やケア提供の最適配分などの重要性がますます増大してきた.

 このように,看護量を表す評価基準の必要性とともに,今後は臨床看護現場で日常的に利用できる実行可能性に対する需要に関心が高まってきた.われわれは,1987年の看護システム導入を機に,より客観的な看護度データの収集をめざして看護度分類に独自の細分化を図り,蓄積された看護度データを利用して看護ケアの定量化を図り,患者サービスの向上や病院経営の健全化に寄与するシステムアプローチを行ってきた1).さらに,病院 DWH(Data Warehouse) を活用して,看護度データによる看護量測定および看護ケアのコスト計算が可能なシステム開発を行い,患者サービスの向上や病院経営の健全化に寄与するシステムアプローチを行ってきた2)

包括評価における看護必要度の取り組みと実際 急性期特定機能病院の立場から

著者: 小島恭子

ページ範囲:P.302 - P.306

 本稿は包括評価における看護必要度の観点から

1.看護必要度調査結果:急性期特定機能病院における診断群分類別評価(DPC : Diagnosis Procedure Combination,以下 DPC)導入前後1年間の看護業務量とタイプ別患者の比較からみえてきたこと.

現場の今に対応する人員配置をめざして―「マリアンナ式看護必要度開発」と動的配置の実際

著者: 陣田泰子

ページ範囲:P.307 - P.310

 医療に携わる者たちは,「医療の冬の時代」が当分続くことは誰もが覚悟していることである.この時代にあって,看護資源が今より多くなってほしい,と願うことは看護職,特にトップマネジャーとしてはおそらく一人も「ノー」とはいわないだろう.筆者にしても,決して十分とはいえない当院の看護資源をいつ「これで OK」と言えるのかと自問自答する.結論は,「どこまでいっても満足する状態にはならない」である.

 どれほど資源を投入しても,それよりもスピードを増して,医療現場は変化していく.リスクマネジメントは,かなり極端な主張であることを承知でいうならば,これまでの事故防止から,今や「クレーム対応」へとそのエネルギー消費先は変化している.またかつて重症患者に多くのケア時間を割いていた看護師は,今病棟に数人存在する高齢患者の認知障害患者への対応に手が取られ,わずか 3~4 人の夜勤者のエネルギーは「転倒・転落防止」へと注がれる.トイレに誘導し,その排泄時間を使って他の患者へ対応している間に誘導した患者がトイレで転倒する.「せっかくトイレに誘導したのだから,終わるまで留まってよ!」といいたいのを抑える.それほどまでに「その間に○○をしなくては‥」あるいは「他の患者への対応」に飛んで行っては,戻ってきている,という現実があるからである.そして,在院日数は 2 週間を切り,さらなる短縮を求められ,これまた続く終わりのない闘いである.

包括評価における看護必要度の取り組みと実際

著者: 道端由美子

ページ範囲:P.311 - P.314

 米国の調査結果では,すでに「手厚い看護配置が合併症や針刺し事故件数を減少させる」ことが示されており,「看護師の配置と患者の死亡率の関係において患者1人増加すると患者死亡率が7%上昇する」などの研究が発表されている.急性期病棟の看護配置は,米国は1ベッドにつき看護師数1.74,日本では0.52である.カリフォルニア州の基準は現在,常時5:1が実現し,マサチューセッツ州を含む12州で同様の法案が審議中である.

 わが国における人員配置基準の制定は量的な側面のみ行われてきた.すなわち,看護師の人数配置は患者数と看護者の比率で算定されてきたが,看護必要度は,患者の病態や状況などを把握することで看護配置に反映させる画期的な考え方として研究が進められてきている.

医療安全確保のための看護人員体制とアウトカム指標の検証(第一報)―急性期病棟の看護の現状と患者特性

著者: 太田加世 ,   奥裕美 ,   古場裕司 ,   安井はるみ ,   井部俊子

ページ範囲:P.316 - P.320

 わが国の1病棟あたりの患者対看護師の人員配置は,医療法や診療報酬によって基準が設けられている.医療法においては,入院患者3人に対して看護職員1人,診療報酬における最も高い看護職員配置の基準は「患者対看護職員2:1以上,看護師割合70%以上,平均在院日数21日以内」と定められている(平成18年3月現在).しかしながらこの人員配置基準は,医療安全確保という観点から十分な検証を行って定められたものではない.

 特に急性期病棟では,近年在院日数の短縮が加速され,短期間に高度で複雑な医療を提供しなければならなくなっている.さらに,少子高齢社会の影響は急性期医療現場で著しく,入院患者の高齢化は,単に診療上のリスクのみならず,療養上のリスクの増大も伴っている.

グラフ

看護で選ばれる病院に―開院10年を迎えて

著者: 長野市民病院

ページ範囲:P.273 - P.278

 1995(平成7)年,長野市民病院は開院された.1976(昭和51)年の長野市制80周年を機に行った記念事業の市民アンケートで,市民病院建設に多くの声が寄せられたことが開院のきっかけとなった.以後,準備期間に19年の月日を費やし,県内で初めての公設民営の病院として開院にこぎつけた.いわば市民の大きな期待が込められた病院といえる.当院は,JR長野駅から車で15分ほど離れた長野市北東地区にあり,周りは田畑が広がり,遠くからもその姿をのぞむことができる.

 6診療科,150床でスタートした当院も,今では21診療科,300床の病院に成長し,2007(平成19)年秋には100床の増床が予定されている.

ホスピタルアート・10

つどい、つくり、つながるひと時

著者: 高橋雅子

ページ範囲:P.280 - P.280

 「参加者の方々は,作ることを本当に楽しんでくれるだろうか?」そんな不安を胸に,品川の知的障害者施設,第一かもめ園へと向かった.この施設へは普段,陶芸サークルのボランティアとして通っている.今回の人形作りは,広く他の利用者にも呼びかけていただいた.しかし陶芸の常連さん以外はもの作りに無関心そうで,いつも無表情な方が多いように感じていたのだ.

 当日は,それぞれ違った個性や障害を持つ方々14人が,同時にサポートを求めてきたので,私たちスタッフ4人は対応に大忙しのスタートだった.でもいったん作り始めると,みんな驚くほど一生懸命.とても集中している.

特別寄稿

ユビキタス社会のヘルスケアサービス

著者: 熊川寿郎

ページ範囲:P.321 - P.323

■ユビキタス社会

 総務省の平成 17 年度ICT(Information and Communications Technology)政策大綱と平成 18 年度の ICT 政策大綱をもとに,わが国のユビキタス社会への歩みについてその概略を以下に説明する1,2).ユビキタスの語源はラテン語の ubiquitous で,これは「至る所に存在する」ということを意味している.ユビキタス社会とは「いつでもどこでも,利用者が意識することなく,コンピューターやネットワークなどを利用できる」社会のことである.

連載 クロストーク医療裁判・2

医療慣行と医療水準をめぐって―最高裁平成8年1月23日判決の事例から

著者: 川嶋知正 ,   小島彩

ページ範囲:P.326 - P.329

 最高裁判所は,「臨床医学の実践における医療水準」が医師の過失の有無の判断基準になるとの判断を示しました(昭和57年3月30日判決)が,この「臨床医学の実践における医療水準」がどのようなものであるのかについては,長く明らかにされないままでした.前回ご紹介した最高裁判所の判決(平成7年6月9日判決)は,医療水準は全国一律に定まるものではなく,医療機関の性格や地域性に応じて個別に判断されることを示しましたが,この判決によっても,医療水準がどのようなものであるかが直ちに導かれるわけではありません.

 いったい医師はどのような医療行為をしていれば医療水準に従った注意義務を尽くしたことになるのでしょうか.平均的な医師が現に行っている医療慣行に従った医療行為をしていれば,医療水準に適った医療行為をしたことになるのでしょうか.最高裁判所がこの疑問に対する回答を示したのが,平成8年1月23日にいい渡された本判決です.

病院管理フォーラム ■事務長の病院マネジメントの課題 海老名総合病院・2

意識改革と継続的業務改善

著者: 小野寺晃

ページ範囲:P.330 - P.331

 平成7年6月起点となった事務部の意識改善(改革)を継承して,全病院的意識改革が推進されるとともに当法人初の中期計画が策定された.

■栄養管理 高知医療センター・2

栄養局の取り組み―ハードウエアの考え方

著者: 河合洋見

ページ範囲:P.332 - P.333

 財政の健全化を目指した医療制度改革をみると,栄養部門における診療報酬の改定は大幅な減収が見込まれる.しかし,一方では,患者ニーズの多様化・高度化に対する食事サービスや,集団給食として捉えていた荷重平均の栄養管理から個人を対象とした臨床栄養管理への方向性を考えれば,費用の増大は避けられない.これからは「収入に見合ったサービス内容にするのか」,それとも「サービスの質を高めて,増収を図るのか」の二者択一を迫られる状況にあるといえる.

 病院経営にとっては,患者満足度をいかに高めるかは重要である.栄養部門としても,顧客主義,すなわち当院では「患者さんが主人公」という目標を掲げて,スタッフをできる限り,患者さんの傍に存在する環境をつくり,栄養・食事に対して,患者さんの望んでいること,困っていることにスピーディーに対処する必要がある.

■診療放射線部門 刈谷豊田総合病院・1

病院における診療放射線技師教育を考える

著者: 佐野幹夫

ページ範囲:P.334 - P.336

●技師教育の必要性

 最近の医療情勢,病院経営を考えると,求められる人材は医療行為をサービスとして扱える者である.一昔前は,患者はわれわれ医療従事者を尊敬語である「先生」と呼び「おまかせ医療」に甘んじていたが,近年,患者の診療に対する価値観が急速に変化した.患者は自分の疾患の治療,改善に対しての知る権利「自己決定権」の確保を前提とし,さらに自分の病態に対しての不安感や癒しを求めて「病院にかかる」わけである.

病院ファイナンスの現状・20

―間接金融(15)―病院の Credit Guarantee 信用保証協会

著者: 福永肇

ページ範囲:P.337 - P.341

■中小企業としての病院

 資金調達を検討する際に,自院が「中小企業」に分類される場合などには,国が講じる中小企業施策を利用することができます.具体的には中小企業への金融支援制度である信用保証協会や国民生活金融公庫が活用できるということです(ただし,中小企業を対象とする中小企業金融公庫では「医療・福祉(保健衛生を除く)」は融資等の対象業種にはなっておりません1)).病院の資金調達手段の一つとして,今月は信用保証協会を,来月は国民生活金融公庫をみてみます.

病院経営分析の技術 経営改善のための分析ツール活用講座・7(最終回)

経営コンサルタントの使い方

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.342 - P.343

 近年,われわれのような経営コンサルタントを使う医療機関が増えてきています(図).筆者もその恩恵を頂戴している立場にありますが,コンサルタントへの依頼=経営改善,という方程式が成立するのか,というと必ずしもそうとは言えません.当然,依頼したコンサルタント個人の能力という問題もあるのですが,コンサルタントとのつき合い方やその使い方ということにも問題があるように感じます.

 本連載では,経営分析ツールの使い方,活用の仕方をご紹介してきました.最終回となる今回はコンサルタントも改善のためのツールと考えて,失敗を回避するための基本的な使い方をご紹介したいと思います.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第135回

医療法人慈愛会―向井病院・グループホームやまなみ・生活支援ホーム

著者: 室殿一哉 ,   上田俊三

ページ範囲:P.344 - P.349

■創立40周年を契機に

 本院は昭和37年に前理事長向井孝道氏が創立して以来,別府市および周辺地域を対象に開かれた精神科医療を展開している.平成14年に創設40周年を機として施設の老朽化や病棟の機能分化に対応するため,隣接地に全面移転新築を行った.1年後には高齢者認知症グループホーム「やまなみ」を新築開設し,現在隣接建物を退院患者用のデイケアおよびアパートに改修工事中であり,患者の社会復帰へ向けて積極的な取り組みを実践している.

リレーエッセイ 医療の現場から

行政は,政治は本当に今のままでいいのか

著者: 今村知明

ページ範囲:P.351 - P.351

行政の仕事

 筆者は病院で臨床を5年ほどやってから行政に入り,足かけ10年ほど厚生労働省にご厄介になっていた.その経験から振り返るに,行政の仕事というのは知識では知っていたが,中で経験してみるまで本質をよく理解していなかった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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