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雑誌目次

雑誌文献

病院65巻6号

2006年06月発行

雑誌目次

特集 持つ病院,持たざる病院―法人制度から資金調達まで

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.445 - P.445

 1985 年の第一次医療法改正で示された医療計画による病床規制発動前夜,いわゆる「駆け込み増床」が引き起こり,現在の日本の病院・病床の概要が形付けられたといっていいだろう.その中で個人立診療所から有床診療所,病院へと次第に拡大していった経緯を持つ多くの民間病院において病院資産は「持分」として個人の財産であった.また金融機関にとって,病院は優良貸付先であり,資産は価値ある担保物件であった.

 いま医療制度改革の波の中で病院の収益悪化とは裏腹に,これらの病院に施設の老朽化の波が訪れ,さらにはバブルの崩壊後,キャッシュフローの重視など資産の価値基準が変化してきている.この流れは公的サービスの効率化という観点においても,すべての公的サービスを公が持つ必要があるのかという形で検討されてくるのである.すなわち,持つことが強みであった経営から持たざることが強みとなってきたのかも知れない.

将来の医療法人の姿―第 5 次医療法改正案を中心に

著者: 山下護

ページ範囲:P.446 - P.450

 平成 17 年 7 月に医業経営の非営利性等に関する検討会(座長:田中滋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授)において,「医療法人制度改革の考え方~医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿」の報告書(以下「非営利報告書」という)がまとめられた.また,非営利報告書に沿って,平成 18 年の医療制度改革の柱の一つである「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案(以下「第 5 次医療法改正案」という)」が第 164 回通常国会に提出されたところである(平成 18 年 2 月末現在).

 本稿では,非営利報告書に沿いながら立案された第 5 次医療法改正案について,医業経営の非営利性等に関する検討会(非営利検討会)で行われた議論を踏まえ,微力ながら解説を試みたい.

「公益法人」としての社会医療法人のあるべき姿

著者: 山重慎二

ページ範囲:P.451 - P.455

 今般の医療法人制度改革において,病院の形態としては,今後,非営利性を高めた「出資(拠出)額限度法人」と,非営利性に加えて高い公益性を持つ「社会医療法人」の 2 種類に収斂させていくというビジョンが明確にされた.本稿では,特定医療法人,特別医療法人といった公益性の高い医療法人の収斂先となることが期待される社会医療法人のあるべき姿について,同時に進められた公益法人制度改革との関連に注目しながら整理してみたい.

 特集のテーマとの関連で言えば,社会医療法人は,個人が持分を持たないという意味での「持たざる病院」であることが求められる病院である.したがって,そのような「持たざる病院」の 1 つの姿である社会医療法人に求められる役割と与えられる特権を明確にしておくことは,今回の医療法人制度改革の意味を理解するうえで重要である.

医療法人制度改革と出資持分―資金を持つことと持たぬこと:資金調達の選択肢

著者: 篠原重男

ページ範囲:P.456 - P.459

 2006 年 4 月の医療法人制度改革においては,医療法人の非営利性を徹底した結果,医療法人の出資持分の概念が放棄された.その一方で,既存の出資持分には影響が及ばないため,今後,当面の間,出資持分について「持つもの」と「持たざるもの」が両立する現象が生じることになった.ここに至って,医療法人制度改革の理念とは裏腹に,既存の出資持分の価値が再認識されていることは皮肉なことである.

 また,社会医療法人に対し,社会医療法人債の発行が認められたことにより,医療法人に対して直接金融市場からの資金調達の途が設けられたことは今回の医療法人制度改革の最大の成果である.医療法人が,自らの信用力で広く一般社会から資金を募り,良質かつ安定的な医療を以て社会に還元する仕組みが医療法に組み込まれたのであり,社会医療法人債は今後急速に普及するであろう.

サービスプロバイダーを求めて―多摩病院 PFI を事例に

著者: 古澤靖久

ページ範囲:P.460 - P.464

■公立病院における PFI 活用の背景

 地域中核病院として高度医療機能,救急救命機能,小児医療機能等提供の使命や電子カルテ等 IT 整備のために新規投資を必要としながらも,医療費抑制/人件費硬直化のトレンドの中で病院収支の悪化は進んでいる.不採算医療の担い手である公立病院の多くは,独立採算事業として成立しておらず,公共財政負担により収支均衡を図っているが,昨今の地方自治体の財政難に加え,公共サービス効率化に関する国の構造改革の動きを背景として,公立病院の民間開放(PFI : Private Finance Initiative / 指定管理者制度/民間委譲)の動きは拡大しつつある.一例として,弊社が昨年夏に実施したアンケート(有効回答:90 自治体)によれば,PFI について 63 %,指定管理者制度 60 %,民間委譲で 34 %が「実施を検討している」あるいは「関心がある」と回答している.

 本稿で取り上げる PFI に関しては,第 1 フェーズと呼ばれる高知医療センター(648 床,2005 年 3 月開院),近江八幡市民病院(407 床,2006 年 4 月開院),八尾市民病院 (380 床,2004 年春)の 3 案件(以下「先行案件」)すべてが既に開院しており,運営フェーズに入っている.一方,第 2 フェーズのモデルとして,本稿で事例として取り上げる東京都の病院 PFI 第 1 号案件の多摩広域基幹病院(仮称)および小児総合医療センター(仮称)整備運営事業(以下「多摩病院 PFI」)は,2005 年 3 月末から事業者選定が開始され,2006 年 1 月末に落札者を決定したところである.

診療報酬債権流動化による資金調達

著者: 武田隆久 ,   岩瀬浩一

ページ範囲:P.465 - P.467

■医療機関の資金調達

 従来,医療機関の資金調達の方法は極めて限定的で,民間金融機関および独立行政法人福祉医療機構からの借入(間接金融)に頼るしかなかった.しかし最近では,様々な手法により調達方法の多様化が図られつつある.

 設備資金等の長期資金については,まだ不十分とはいえ医療機関債による直接金融の道が開かれ,実際に起債された例も出てきている.また土地・建物の流動化による資金調達や土地・建物と将来の診療報酬債権を合わせて担保にした巨額な資金調達の例もある.

 一方,運転資金等の短期資金についても診療報酬債権の流動化による資金調達が徐々に広まっているようである.

直接金融に向けた取り組み―医療機関債発行事例

著者: 朝野幸一郎

ページ範囲:P.468 - P.471

 2005 年 3 月,7 億円の医療機関債を,全額三井住友銀行を引き受け先として発行した.目的(資金使途)は,経営破綻した医療法人社団翰林会稲積公園病院の事業承継資金である.具体的には,土地建物の取得資金 4 億円および取得後の建物改装資金 3 億円となる.丸々 3 か月を費やしてリニューアル工事を施した後,同年 7 月に特定医療法人カレスサッポロ稲積記念病院ならびに稲積記念クリニックとして運営を開始している.

 事業承継に至る経緯についてもう少し触れると,医療法人社団翰林会稲積公園病院は,道内唯一の肝臓専門病院として道内外から多数の肝臓疾患患者を引き受けていたが,診療報酬の不正受給が発覚,保険医療機関の指定が取り消され,事実上廃院を余儀なくされたことに端を発する.その後,受療者に対する当該地での医療継続を強く望む旧経営陣より,当法人に対して直接事業継承に関する要請を受けたのが縁で,この要請に応えるべく受療者および職員ならびに土地建物をそのまま引き受けたものである.

米国ヘルスケア REIT と日本への適用可能性

著者: 田中道昭

ページ範囲:P.472 - P.475

■REIT の意義と問題意識

 REIT(不動産投資信託)とは,不動産に投資することを主な目的として多数の投資家から資金を集め,専門家が不動産に投資運用し,その損益を投資家に配分する不動産と金融商品の特性を併せもつ商品である.米国で発達したこの商品は,日本でも 2000 年 11 月の改正投信法により解禁され,2006 年 3 月現在で上場されているものだけでも 30 銘柄,時価総額 3 兆円を大きく上回る商品に成長している.上場不動産投信に加えて,特定少数の投資家からの資金をもとに運営されている不動産私募ファンドも,4 兆円を超える規模にまで急成長を遂げており,両者をあわせた不動産ファンドは,既にわが国の不動産ビジネスで最も影響力の大きいプレイヤーだ.

 米国における REIT は,年金基金とあわせて同国の投資不動産のおよそ 4 分の 3 を所有しており,その他の指標も考慮すると,わが国の不動産ファンドの成長余力は極めて大きい状況と考えられる.日本の REIT も上場 REIT マーケットのスタートアップ期の主力商品である混合型や首都圏中心型等の投資しやすいものが中心であり,様々な特化型が REIT 本来の中核商品であることや,事業法人の持たざる経営への転換から考えても,その潜在成長力には大きな期待がかけられている.

グラフ

超重症児を支えはぐくむ―機能を伸ばし“生活を豊かにする医療”

ページ範囲:P.433 - P.438

 鶴風会は東邦大学医学部同窓会の事業として,1964年に肢体不自由児施設である東京小児療育病院を開院し,1970年に同じ建物内に重症心身障害児施設みどり愛育園を開設した.

地域療育の実践

 当施設では早くから地域療育に目を向け,体制を整えてきた.行政の障害児全員就学実施も背景にあったが,経管栄養・人工呼吸器などの日常的医療ケアの必要性が在宅や養護学校に広がるなか,家族や養護学校への指導・支援を実践し,巡回指導医制度の推進に取り組んだ.外来・緊急時入院,短期受入,訪問看護などの在宅支援体制を整えて家族の不安の解消に応えてきた.

特別寄稿

医療事故の報告と調査と公表について―私たちは何を求められどのように行動しなければならないか

著者: 相馬孝博 ,   上田裕一 ,   井口昭久

ページ範囲:P.476 - P.479

 医療の不信が社会に蔓延している現況においては,患者側から見て,診療過程での望ましくない結果は,すべて医療事故ではないか,過失を隠しているのではないか,という懸念が生じているのではないだろうか.「望ましくない結果」には,医療の不確実性の一端として許容されるべきものも含まれているはずであっても,医療者側が診療内容の透明性を確保し,患者との信頼関係を構築していなければ,失敗の弁解や逃避とされてしまうことになる.それでも私たちは,日々の診療を通じて,説明責任を淡々と果たしてゆく以外の方法はない.

 本稿では,いかなる段階においても医療者―患者 ・家族間で開かれたコミュニケーションを行うという大前提のもと,「望ましくない結果」が発生した後に,病院組織として対応するための具体的方法をいくつか提示したい.

連載 今,なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学・1

「経営学」で解く「医療経営」のすがたとは

著者: 明石純

ページ範囲:P.480 - P.483

■医療における「経営」とはどういうものか

1.今,「病院」について考えられる「経営の重要性」とは何か?

 医療機関において「経営」を考えることが必要であり,今後その重要性が高くなるということに異論を唱える病院経営者や幹部職員はいないでしょう.

 病院に対する地域のニーズは,ますます高度化するとともに次第に多様化していきます.また医療機関の機能分化はますます加速し,それぞれの施設は独自の経営戦略を持つことが必要になるでしょう.経営戦略とは,「病院の進むべき方向を定めて,何をどのように行い,何をしないか」といったことだと捉えてください.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する

[序] 医療ソーシャルワーカーの活用を願って

著者: 村上須賀子

ページ範囲:P.485 - P.485

 医療が大きく変貌していることには誰も異論はないだろう.急性期医療・慢性期医療の機能分化が進み,さらには在宅医療へと移行しつつある.しかし,このように機能特化した医療を適切に選択し得る人がどれだけいるだろうか.例えば回復期リハビリテーション病棟の転棟には「発症後 3 か月以内の状態」という厚生労働省が定めた基準がある.しかし,医師ですら入院要件に適合しない患者の転院をすすめる例がみられる現状である.在宅医療への移行には,さらに住宅環境の整備,訪問看護,訪問介護の導入など複雑なケアプランを要する.一般国民にとってこうした「移動を伴った医療」を適切に受けることが困難な時代になったといえる.

 さらなる医療改革途上にある今,この時期,医療ソーシャルワーカー(MSW)が注目されていると言いたい.MSW には設置基準もなく財源保障もない.にもかかわらず,その数は着実に増加し,厚生労働省の「平成 16 年医療施設(動態)調査病院報告」によれば,医療社会事業従事者は,約一万人いる.病院雇用主は国家資格も未整備で診療報酬上の裏付けも乏しいこの職種の人件費確保を自助努力によって配置している.それは,こうした医療の変貌が MSW への役割期待をふくらませているからだと考える.

[第1回] わが国における医療ソーシャルワーカーの現状と課題

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.486 - P.488

■医療機関の特性と医療ソーシャルワーク援助

 社会福祉施設あるいは機関での援助と医療機関での援助が大きく異なる点は,社会福祉施設・機関が,人々の生活支援をその第一義的な援助目的に置くのに対し,医療機関は患者の生命活動の維持とその支援を第一義的な目的にすることにある.すなわち社会福祉施設で第一義的な支援とされる患者・家族の生活支援や,療養を妨げる諸問題解決への支援であるソーシャルワーク援助は,医療機関では第二義的なものと位置づけられるがゆえに,その業務は保険点数化されていない.人々も以前は,医療機関の第一義的な支援である治療のみを求めていたし,それで満足できていたのである.

 しかし社会は複雑化し,人々のつながりは希薄になり,地域の保育力,介護力が減退してくるに従って,人々の療養環境の整備が必要とされるようになってきたのである.さらに,診断,治療が高度化し,複雑化してきた医療環境の中で,患者や家族が,自らの意思をしっかり表明し,自ら治療や検査の方向性を決定していくことは決して容易なことではなく,医療システムと患者・家族システムの調整を図り,情報の共有化をサポートするような援助がますます重要になってきている.現在の医療機関でこれを担うのが,医療ソーシャルワーカーである.

病院ファイナンスの現状・22

―間接金融(17)―間接金融によるその他の資金調達手段(医師会提携融資,公的融資,制度融資など)

著者: 福永肇

ページ範囲:P.489 - P.491

 間接金融の解説最終回(17 回目)の今月号では,今まで解説してきた福祉医療機構,民間銀行,国民生活金融公庫以外の間接金融での資金調達手段と補助金・助成金の概要を説明します.なお,7 月号では物融のリースを,8 月号以降は診療報酬債権や不動産の資産担保債権証券化,病院債などの直接金融を予定しています.

■医師会提携融資

 各都道府県の医師会では,医師会の会員が有利な条件(金利優遇)で資金調達ができるように個別の金融機関(銀行や信用金庫,信用組合など)と提携融資の協定を結んでいるところがあります.医師会と金融機関とは個別の契約ですので,自院の取引金融機関が非提携先のこともあります.

クロストーク医療裁判・4

開業医の転送義務―開業医に求められる医療水準とは―最高裁平成15年11月11日判決の事例から

著者: 浦上薫史 ,   溜箭将之

ページ範囲:P.492 - P.495

■最高裁平成 15 年 11 月 11 日判決について

 今回取り上げる最高裁平成 15 年 11 月 11 日判決は,開業医の転送義務が問題となった事件です.なお,ここにいう「開業医」は,高度医療施設を有しない医院における医師を指します.

1.事案

 小学校 6 年生の患者 X が,開業医 Y の診療を受けましたが,初診から 5 日目になっても投薬・点滴による症状の改善がみられませんでした.X の意識障害等を疑わせる言動に不安を覚えた X の母親が診察を求め,開業医 Y は高度な医療を施すことのできる医療機関に転送することはなく,自ら診察を続けていましたが X の症状は悪化しました.6 日目に X は入院治療が可能な総合病院に緊急入院し,原因不明の急性脳症と診断されました.

病院管理フォーラム ■栄養管理 高知医療センター・4

栄養局の取り組み―臨床栄養管理

著者: 河合洋見

ページ範囲:P.496 - P.499

 栄養管理はすべての医療の基本である.しかし,入院患者さんの中には,PEM(Protein Energy Malnutrition :たんぱく質,エネルギー不足による栄養不良)状態の方が,約 40 %いると考えられていて,入院患者さんの栄養不良が大きな問題となっている1).栄養状態の悪化をもたらす要因は,①栄養素の不適切な摂取,②栄養素の消化・吸収の障害,③栄養素の利用効率の低下,④栄養素の損失の増大,⑤栄養素の必要量の増大,⑥疾病による栄養素の代謝障害などがある.また,栄養不良の弊害として,①患者さんの QOL の低下,②入院日数が長期化する,③再入院率が高くなる,④医療費が増大するなどが考えられている.また一方では,糖尿病や高血圧,あるいは,高脂血症などの生活習慣病が増え続けていることから,疾病の予防・治療における栄養(食事)療法の重要性が認識されてきた.

 従来,病院食は集団給食として位置づけられており,その栄養管理は献立管理を中心とした荷重平均の提供栄養量で判断されていた.しかし,これからの栄養管理は,患者さん一人ひとりに対する栄養評価であり,人間栄養学の側面から取り組むことが重要である.すなわち,提供時の栄養管理ではなく,結果からみた栄養管理へと方向転換することが必要であるといえる.

■診療放射線部門 刈谷豊田総合病院・3

診療放射線技師に求められる医療被ばく管理―病院における放射線管理士の役割

著者: 佐野幹夫

ページ範囲:P.500 - P.503

●医療被ばくをめぐる状況

 昨今,医療被ばくに関する記事がマスコミ等でよく報道されるようになった.この背景には高性能な放射線装置や医療技術の進歩と共に膨大な画像データを収集する代償として医療被ばくが増大している現実が存在する.

 まだわれわれに鮮明に記憶されている衝撃的ニュースは『Lancet』論文注 1) である.「日本で発症するがんの 3.2 %は X 線診断装置による医療被ばくが原因である」と報じた.あまりにも一方的な報道ではあるが,今や医療の現場で検査が氾濫しているのは事実であり,日本の医療被ばくが増大の一途を辿っているのを否定できない.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第137回 小規模市立病院二題―コミュニティホスピタル

亀岡市立病院

著者: 河崎邦生 ,   山田剛

ページ範囲:P.504 - P.507

 京都市の西隣に位置する亀岡市は,豊かな緑と美しい水に囲まれ,トロッコ列車や保津川下りなどの文化や,数多く点在する史跡など,自然・文化・歴史が調和した人口約 10 万人の魅力ある都市である.この亀岡の地で市立病院の建設に関する調査分析が始められたのは平成 6 年まで遡る.市民の “いのち” や “健康” に対する強い思いに応え,地域医療のよりいっそうの充実を図るべく,平成 13 年に「救急医療の充実」「高度医療および急性期医療の提供」「地域医療機関との連携」を柱とした病院建設の基本コンセプトがまとめられた.そして平成 16 年 5 月,21 世紀に新設された 100 床の急性期対応型病院としてのスタートを迎えた.

■豊かな自然を活かした癒しの環境づくり

 敷地の北側と東側が低層住宅地であり,周囲は都市化が進みつつあるため,病院の敷地そのものが地域住民にとっての憩いのオアシスとなる環境づくりを目指した.敷地内に設けた「交流の庭」「つつじの庭」「出会いの庭」「健康の庭」と名づけた四つの庭を,四季折々の草花が楽しめる散歩道で巡ることは,患者さん・医療スタッフだけでなく,地域住民とのコミュニティや癒しに対する提案でもある.また敷地西側の道路を拡幅し,右折レーンやバス停留所を新たに設け,敷地内への安全なアプローチを確保した.広いロータリーと玄関キャノピーは,雨に濡れることなく来院者を玄関まで導き,透明感のある正面のカーテンウォールは,来院者を優しく迎え入れる.そして,凹凸型の病棟とアール状の低層部という特徴的な外観は,周囲への圧迫感を軽減させるだけでなく,市立病院としての存在感を演出している.建物構成としては,1 階が外来・救急・放射線部門など,2 階が手術・管理部門,3,4 階が各階 50 床ずつの病棟からなり,明確で機能的な断面構成となっている.

東御市民病院

著者: 太田光則

ページ範囲:P.507 - P.510

■病院の沿革と東御市の立地

 平成6年4月に長野県東部町が既存の民間病院施設を公立とし,東部町立ひまわり病院として開院した.その後施設の老朽化により平成11年9月より移転新築マスタープラン策定を開始し,平成13年度の実施設計を経て平成15年9月に新病院が竣工した.さらに,平成16年4月に長野県東部町と北御牧村が合併し長野県東御市が発足したのに伴い東御市民病院と改称された.

 東御市は長野県の東部に位置し,北東にそびえる湯の丸岳の裾野に立地しており,街全体が緩やかな南斜面で日当たりが良く,南東には浅間山を望むことができる.市民病院は福祉施設や体育施設等が集まる市の公園エリアに位置し,隣接する総合福祉センターや知的障害者授産施設とともに市の保健福祉医療連携による「福祉の森」構想の中心施設として位置づけられている.交通の便は上信越自動車道の東部湯の丸ICに近く,また,しなの鉄道田中駅より車で10分のアクセスとなっている.

リレーエッセイ 医療の現場から

「家に帰りたい」その思いを支えるソーシャルワーク

著者: 松岡暖奈

ページ範囲:P.511 - P.511

 「MSW って何する人なの?」

 患者・家族のみならず,院内のスタッフからもよく聞かれる.MSW とは,病気や障害を機に生じる生活上の諸問題を一緒に考え,解決を支援する「社会福祉」の専門職である.そのため,生活上の多種多様な相談事が持ち込まれる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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