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雑誌目次

雑誌文献

病院65巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

特集 医療のパフォーマンス評価

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.525 - P.525

 医療評価の枠組みは,ドナベディアンの構造・過程・結果の観点からのアプローチが有効であるとされ,わが国の病院機能評価でも主として構造と過程に関する評価項目で審査が行われている.ところが,最近になって急速にアウトカムやパフォーマンスに関する数値・指標による評価についての関心が高まってきた.それは,医療を受ける立場から医療の質や適切さを示す端的でわかりやすい情報が求められているからであるといえる.そこで,あらためて医療の質を測定することの今日的意義と方法について総説的に取りまとめ,指標による評価で病院医療の質改善につなげることの必要性を確認しておきたい.

 一方,急速に進捗しつつある医療制度改革においても,地域連携パスによって個々の傷病の総入院日数を把握し,在宅看取り率等の指標化によって施設医療から在宅医療への移行を強力に推進するなどの政策が採られようとしている.数値目標を設定してその実績評価によって改革を進めようとする背景には,社会保障財政がさらに深刻化することが見込まれているからであるが,医療人は施策の趣旨を十分に理解したうえで,今後の局面に是々非々で臨む必要があろう.

病院パフォーマンス評価指標―わが国における現況と課題

著者: 武澤純

ページ範囲:P.526 - P.531

■「病院パフォーマンス」の定義

 病院の診療機能は患者や社会にとって,安全で質の高い医療を受けるために最も知りたい情報の一つである.雑誌や新聞では様々な病院ランキングが企画され,その多くはベストセラーとなるほど社会の関心は高い.しかしながら,病院評価の根拠となる材料としてはアメニティ,患者サービス,患者満足度,一部死亡率を含む症例数しかなく,これらのデータから「病院パフォーマンス」(この場合は治療成績)の全容を的確に把握することは困難である.しかし,よく考えると,「病院パフォーマンス」の定義自体が曖昧であることがわかる.そもそも病院は何を目的として業務を行う社会組織であるのかが,立場によって異なっている.持続可能な経営性であったり,地域に対する安定した医療の供給であったり,時には収益性にこだわらない高次医療であったり,救急医療など緊急時の地域住民への安心の提供であったり,期待される病院機能は地域特性によっても異なる.また,病院が急性期の疾患を対象とした病院か,あるいは療養型の病院かによっても期待される病院機能は異なってくる.急性期病院と療養型病院で期待される病院機能の違いを表 1 に示した.

 病院のミッション(社会的使命)は,患者やその家族に対しては,生命予後の改善,ADL の改善,苦痛(不安)の緩和があり,社会的あるいはシステム的には社会生活における安全・安心を含む医療供給体制に対する信頼がある.また,少子高齢化社会では,生産人口の労働力維持を含めた社会負担の軽減を図ることも挙げられる.このような病院のミッションを達成する場合に,収益性が確保されるか否かは診療報酬体系の合理性の問題であり,逆に収益性から病院機能が評価されてはならない.病院機能と収益性が一致するのは,選択可能な複数の病院の存在とそれらの病院機能情報がすべて開示され,消費者(患者)が十分な知識と判断力を持って,医療サービスを評価・選択することができる機会が存在する場合においてのみである.つまり,「病院パフォーマンス」評価は,言い換えれば,市場とは関係なく,社会システムとしての病院のミッション達成の行程がどれだけ確実に実行されているかとも言うことができる.

医療制度構造改革における政策目標と実績評価

著者: 川口毅

ページ範囲:P.532 - P.534

 急速に進む人口の少子高齢化と成熟型の社会経済への移行,ならびに国民生活意識の変化などに伴って,わが国の国民医療は制度的にも経済的にも将来危機的状況に陥ることが懸念されている.その中で現行の国民健康保険制度を維持し,国民の健康の保持増進を前提とした安定した医療制度を将来にわたり,持続可能なものにしていくため医療構造改革が急務として取り上げられるようになった.

 このため平成 17 年 12 月に「安心・信頼の医療の確保と予防の重視」「医療費適正化の総合的な推進」および「超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現」を 3 本の基本的柱として,医療制度大綱が政府・与党医療改革協議会でまとめられた.これらを踏まえて次のような医療制度構造改革案がまとめられた.

医療の質測定方法と病院医療の質改善

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.535 - P.539

■医療の質を巡る動向

1.国際動向

 医療の質を巡る世界の動向は今第 2 ラウンドに移りつつある.第 1 ラウンドは医療の第 3 の革命と呼ばれ 1980 年代後半,評価と説明責任 (Assessment & Accountability)の時代に結果マネジメント運動として展開され,そのための手法として臨床指標が開発され,普及した(図 1).

 そして 20 世紀から 21 世紀の世紀の変わり目に,世界各国で医療事故が相次ぎ,医療安全における概念,患者安全(Patient Safety)が提唱され,質と安全を併せて捉える考えが世界に広がった.

クリニカル・インディケータ活用の現況と今後の課題

著者: 梅里良正

ページ範囲:P.540 - P.543

 近年の医療制度改革の方向をみると,その一つの柱として医療施設情報の開示を促進し,患者による施設選択の拡大を図ることが掲げられ,具体的に広告規制の緩和が推進されている.しかしながら,現状の規制緩和の対象からは見送られた「死亡率」に代表されるように,医療施設の診療機能を適切に表す情報を厳密に定義づけることは必ずしも容易ではなく,これらの指標は算定の仕方によって高くも低くもなり得ることには留意しておく必要がある.

 日本医療機能評価機構の行う病院機能評価の評価項目では,医療の質を評価する統計の作成(評価項目 1.5.2.3),クリニカル・インディケータ(以下 CI と表示)の設定と質改善への活用(評価項目 4.1.7.4)などが求められており,医療の現場においても,自院の診療機能を継続的に評価し,その改善・向上を図ることの重要性が次第に認識されつつあるように思われる.

―【鼎談】―病院アウトカム情報の開示・提供の新たな局面

著者: 伊藤隼也 ,   小山信彌 ,   坂本憲枝

ページ範囲:P.544 - P.552

――本日は,お忙しい中をありがとうございます.最初に,みなさまの自己紹介と,本日のテーマに関するお考えをお聞かせいただければと思います.

伊藤 私はもともと写真家を本業としていましたが,父を医療事故で亡くしたことがきっかけで,医療に興味をもち,医療ジャーナリストとしても活動し始めました.その目的は,真に患者のための医療確立を目指すには,正しい情報発信が欠かせないという理由からです.

―【インタビュー】―平成 18 年診療報酬改定における「患者の視点の重視」

著者: 遠藤久夫

ページ範囲:P.553 - P.556

■領収書の発行義務

――遠藤先生は学習院大学経済学部教授と同時に,新たな中央社会保険医療協議会(中医協)の公益側の委員としてのお立場があります.先般,平成 18 年度診療報酬改定での答申が得られ,その中に「患者の視点の重視」という柱があります.

 さて最初に今回盛り込まれた領収書発行の義務化についてお聞きします.これは病院側と患者さん,両者に重要課題だと受け止められていますが,その概要と中医協での議論をご紹介いただけますか.

診療アウトカム評価とベンチマーク―診療アウトカム評価事業の概要報告

著者: 飯田修平 ,   長谷川友紀 ,   河北博文

ページ範囲:P.557 - P.559

 医療の質の評価が求められている.質や満足度を評価するためには,科学的方法および信頼し得るデータに基づくこと,すなわち,共通の臨床指標に基づいてデータを集計し,優良病院や統計値をベンチマークし,時系列データを比較することが必要である.

 東京都病院協会(都病協)は,病院医療の質の評価を目的に,2000 年度から診療アウトカム評価の試行調査,2002 年度から評価事業を実施し,2004 年度から全日本病院協会(全日病)も事業に参加している.筆者は両病院協会の委員長として評価事業を実施している.会員病院の自発的な参加により,共通の指標に基づいたデータを事務局で集計して,統計的データの一部を都病協および全日病のニュースやホームページ等で公開している.3 年間の結果の概要を報告する.

ベンチマーク分析による DPC の医療評価―社会保険病院における調査研究

著者: 秦温信

ページ範囲:P.560 - P.563

 ベンチマーク分析とは,病院経営に関わる指標を類似の病院群と客観的に比較して強み・弱みを把握する実証的分析法である1).われわれは,全国社会保険協会連合会(全社連)の定点観測システムのデータを用いベンチマーク分析の手法によって医療の質,経営効率,コストなどの病院経営パフォーマンスに関わる指標を算定し,社会保険病院間および他の類似の病院群と実証的に比較検討してきた2).2000年にDPC(Diagnosis Procedure Combination)と呼ばれる診断群分類別包括払い制度が導入され,さらに2004年からは25社会保険病院も試行的適用対象病院として参加している.平成16年度全社連共同研究(特定課題)として,「全社連定点観測システムのデータを用いてDPCの評価についての調査研究」および「社会保険病院におけるDPCに関する調査研究」**の二つの共同研究が行われた.ここでは主として,前者における成果の一端を述べる.これは社会保険病院のうち研究班5病院を含むDPC試行的適用対象25病院を調査対象とし,疾病別・手術別ベンチマーク分析を行うものである.比較対照としては,日本国内の急性期病院群のデータを用いて,これとも比較を行い,経営課題を明らかにするとともに,それによりDPC導入における経営改善および標準的治療の立案について考察しようとしたものである.

救急医療における臨床指標の適用

著者: 有賀徹 ,   林宗貴

ページ範囲:P.564 - P.567

■はじめに―救急医療の標準化

 ER(Emergency Room:救急室)に患者が搬入される時,医療チームは救急隊からの患者情報によって様々な準備を行う.例えば,初療でのバイタルサインの把握について,また呼吸と循環の補助をどのように行うかなどについて,あらかじめ決めておくこととなる.このような基本的な作業は,従来から多くの ER において行われてきた.最近ではこれらに加えて,標準化された診療過程である ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)1) や JATEC (Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)2) などが関連医学会から示されている.

 そのような標準的な診療過程は,“ばらつき” を最小限に止めているという意味で一定の水準を確保している.そして,標準化によって経験されたバリアンスなどを分析して,いわば “バージョンアップ” を図れば,質の向上へと駒を進めることができる.そのようなことから,個々の医療施設においては,パス法の利用が普及しつつあると思われる.それは,医療チームが共同で作り上げた「患者の最良の管理である」と信ずるところを示した仮説である3) という表現からも理解されるように,エビデンスに乏しくともパスによって,それなりに標準的な診療過程を実践できる方法である.後に説明するように,臨床研修医が多数参加する現場においても一定の水準で診療が進められる.ACLS や JATEC も広義には,パス法が実践されているということが可能であり,脳卒中や重症頭部外傷についてのガイドライン4,5) などもやはりそのような意義を有する.

グラフ

すべての人の心の健康をサポートしたい

著者: 長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)

ページ範囲:P.513 - P.518

 JR長岡京駅から車で5分ほど離れたところに長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)がある.病院の西側には天王山を望み,周りは田園と閑静な住宅街に囲まれている.当院は1935(昭和10)年,伏見病院長岡分院として開設され,1944(昭和19)年に財団法人長岡病院を設立,それ以来,地域精神医療の一端を担ってきた.

住民とのコミュニケーション

 開設当初の病院周辺は住居の少ない田園地帯であったが,近年,京阪神のベッドタウンとして住宅が増加,地域住民と病院との距離が接近するにつれ,地域住民とのコミュニケーションが病院としての大きなミッションとなってきている.

特別寄稿

BSC を流行で終わらせないために―病院戦略マップ作成のススメ

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.568 - P.572

■はじめに―BSC が危ない

 現在,病院業界では BSC(バランスト・スコアカード)が大流行である.既に BSC を作成していたり,今はなくても近いうちに作成予定という医療機関も多いのではないだろうか.本稿をご覧になっている読者の方の大半も BSC について関心を持っていることだろう.

 筆者自身,BSC の作成支援に携わり,「戦略実行への強力な方法論」としてその有効性を実感している.この BSC により,経営について関心をもつようになった医療機関が増えてきたことも喜ばしいことである.

医療安全確保のための看護人員体制とアウトカム指標の検証(第二報)―急性期看護の現状と患者特性,患者満足度

著者: 奥裕美 ,   太田加世 ,   古場裕司 ,   安井はるみ ,   井部俊子

ページ範囲:P.573 - P.575

 本誌 4 月号にて,「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカム指標の検証(第一報)」として,本研究の概要と,その時点で集計・分析が行われた結果の一部について報告した.今回は同調査の第 2 報として,3 か月間の調査データと,患者満足度調査結果のデータの分析結果について報告する.

■研究方法の概要

(詳細は第 1 報を参照)

 関東近郊の急性期医療を担っている病棟を管理する看護管理者 94 名(以下,研究協力看護管理者とする)に対し,以下の調査票への記入,およびその病棟から退院する患者 100 名に対する,患者満足度調査票の配布・回収を依頼した.なお研究協力看護管理者に対しては,本研究の主旨や背景を説明し,調査票への記入方法等について理解を深めるため,セミナーを事前に 3 回開催した.

連載 病院管理フォーラム ■人事管理

上尾中央総合病院における接遇への取り組み(1)

著者: 朝見浩一

ページ範囲:P.576 - P.577

 上尾中央総合病院では,今から 7 年前の 1999 年より,接遇の向上に取り組んでいる.今でこそ,医療もサービス業の一つとして捉え,接遇教育に取り組んでいる医療機関が増えているが,その当時,主任であった筆者は,「接遇」という言葉の意味さえ知らず,患者と直接係わる現場の責任者として,院内で初めて開催された接遇研修に参加した.ちなみに「接遇」とは,顧客を礼儀作法に従ってもてなし,歓待する考えから生まれた概念である.もともと中途入職者であった筆者にとっては,病院内の患者と医療者側との奇妙な関係に疑問を持っていた.例えば,社会的に地位のある人が,患者となった途端に弱者となり,反対に,医師,看護師,事務職までもが患者に対して見下すような関係となっていたのである.“ゆでガエル” という言葉を耳にしたことがあるだろうか.この接遇研修(のちに紹介する)を主催した徳永英吉(当時,接遇委員会委員長:現院長代理)から聞いた言葉である.蛙(カエル)はゆであがった鍋では,熱湯ですぐに気づき,鍋の外へ飛び出す行動をとるが,水の状態から少しずつ鍋を熱した場合,蛙は鍋の熱に慣れてしまい,温度の変化に気づかず,“ゆでガエル” となってしまい死んでしまう.この話は,心理学の分野で「ベイトソンのゆでガエル」と言われる有名な実験であると後々学んだが,今では様々な分野で比喩として使われているものである.要するに,患者と医療者側との奇妙な関係が日常化してしまい,その関係に疑問を持たなくなってしまうということである.

 本稿では,当院の接遇への取り組みを実際に経験し,実務を担当した中間管理者の立場から,具体的な事例や問題点,今後の課題を含め紹介していきたい.

今,なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学・2

医療組織の構造と組織デザイン

著者: 明石純

ページ範囲:P.578 - P.581

■組織を見る時の二つの視角

 前回は,連載を始めるに当たってわれわれの医療経営学についての基本的な考え方を提示しましたが,今回からいよいよ具体的な中身に入っていきます.この連載では,病院の組織についての話から進めていくことにしたいと思います.

 まずは,ある病院での幹部間の会話を紹介しましょう.

 最近,A 院長は,各課(科)の管理監督職が集まる会議で物事がなかなか決まらない,また,決まったとしても,各課(科)がバラバラで一つにまとまらずスムーズに実行に移せないという問題意識をもっています.経営環境が厳しくなる中,多くの変革を進めなければならないのにもかかわらず,組織がなかなか動かないことに危機感を抱いています.そこで事務長と看護部長に意見を聞いてみました.

病院ファイナンスの現状・23

ファイナンス・リース

著者: 福永肇

ページ範囲:P.582 - P.585

 高額医療機器を中心にリースを利用されている医療機関は多いと思います.リースはモノの貸借,すなわち物の融通(物融)であって,金の融通である金融ではありません.しかし実質的にリースは設備投資の資金調達代替手段として活用されています.高額医療機器を銀行借入によって購入し,毎月,返済していくこともできます.では,病院ではどうしてリースを選択することがあるのでしょうか.今月号では,病院が活用しているリースについて,原点に立ち戻ってそのメリットと注意点について整理してみます.

■ファイナンスとしてのリース

 リース取引は法律上では賃貸借取引になります.賃貸借取引の主なものとして,①一般の賃貸借(賃貸住宅など),②レンタル(レンタカー,レンタルビデオなど),③チャーター(航空機など),④リースがあります.このうち④のリースはファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分かれますが,通常はファイナンス・リースを “リース” と呼びます(図).

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・2

MSW のコーディネート機能による機能連携への貢献―平均在院日数短縮への貢献

著者: 関田康慶 ,   阿部真菜美

ページ範囲:P.586 - P.589

■病院機能分化と機能ユニットマネジメント

 病院機能を(A,B,C…H)集合で表すと,地域単位や病院単位の必要病院機能が,例えば(A,B),(D,F,H)等の病院機能ユニット集合で示される.ここで A,B,C…,H は病院機能ユニットで病院の機能単位である.いいかえると病院機能ユニット(A,B),(D,F,H)等の機能ユニット構成の集合によって,地域の広域的病院機能や個々の病院機能が設計できる.

病院機能(A,B,C…H)集合

→ 機能分化(機能ユニットの集合);(A,B),(D,F,H)等

→ 地域の広域的病院機能や個々の病院機能の設計

クロストーク医療裁判・5

説明義務について―輸血拒否をめぐって―最高裁平成12年2月29日判決の事例から

著者: 水野有子 ,   永水裕子

ページ範囲:P.590 - P.593

説明義務違反の意義

 医師の診療行為に過失がある場合,つまり,「すべきではない行為をした(しなければならない行為をしなかった)」場合に損害賠償の問題が生じます.医師の説明についても同様です.つまり,医師が患者に対して説明すべきことを説明しなかった場合に,その医師に説明義務違反があるとして損害賠償の問題が生じるのです.

 では,そもそも,なぜ,医師は,患者に説明をしなければならないのでしょうか.そのもっとも重要な根拠は,患者の自分の生命と身体に対する自己決定権です.医師が患者の身体に直接強い影響を与える医療行為を行うためには,原則として,患者側の承諾を必要とします.ここで,患者が,医療行為について十分理解できないまま同意したとしても,それは形だけのもので,真の意味での承諾とは言えません.そこで,真の意味での承諾を得る前提として,医師の説明が必要とされているのです.このような考え方は,医療法において,医師等が,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう務めなければならないとの規定(同法 1 条 2 項)が置かれたことにも表れています.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第138回

手術部の建築と運営のモデル―CDC ガイドラインへの対応論議を超えて

著者: 柳澤忠 ,   山本和典

ページ範囲:P.594 - P.598

 現在,日本の多くの病院では「せめて手術部だけでも新しく建て直したい」と考えておられるだろう.新しい手術部にはシャーカステンではなくコンピュータ連動のモニターが必要だろう.大学病院だと手術用ロボットを導入できる大きな手術室が現実味を帯びて議論されている.米国の CDC ガイドライン以来,清潔管理が見直されて,職員は靴を履き替えず,患者は病棟のベッドのままで手術室に入室してよいらしい.このように新しい手術部建築を巡って盛んな議論が展開されているのではないだろうか.

 われわれ健康デザイン研究会手術部部会としては,これからの手術部建築・運営のモデルを提案したい.

リレーエッセイ 医療の現場から

ココロを癒す調べ

著者: 小笹由香

ページ範囲:P.599 - P.599

 ♪~ ある人は見惚れて,ある人は少し驚いて,そして常連さんは思わず拍手をしそうなほど待ちわびて……そんな中をステキなドレスに身を包んだ,若い演奏家たちが登場し,さあコンサートの始まりです!~♪

 東京医科歯科大学医学部附属病院のロビーでは,こんな演奏風景が見られるようになって,約 1 年余がたちました.「ムジカメンテ」という演奏家たちのグループにより月に 1 度ほど開催されてきたコンサートも 13 回を数えました.その季節に合わせた選曲や,気軽に一曲でも楽しめるような形式のため,外来を訪れ,診察や会計の待ち時間に耳を傾けられる方々の他,入院されている患者様やお見舞いに訪れる家族にも,好評となっているようです.それはひとえに,アマチュアではない演奏家が,本格的な演奏を心を込めて奏でてくれる,その気持ちがこもったコンサートだからではないかと思うのです.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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