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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻1号

2007年01月発行

雑誌目次

特集 いい病院をつくりましょう

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.13 - P.13

 医療法第一条の五において病院とは「医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって,二十人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいう.病院は,傷病者が,科学的でかつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され,かつ,運営されるものでなければならない.」と書かれている.

 1980年代前半,ようやく病院機能評価の必要性が議論され始めたが,その時,わが国は同質性の社会であり,特に社会保障分野においては皆,全ての人に対し同じ仕組みが働かなければならないように感じていた.このことはよい医療をよいと評価し,悪い医療を悪いと評価することがなかったことを意味する.そしてさらに,組織としての病院にマネジメントが欠如し,診療には科学性が欠如していた時代である.

【座談会】“いい病院”とは?

著者: 荒井伸也 ,   笹岡眞弓 ,   和田ちひろ ,   大道久

ページ範囲:P.14 - P.21

大道 病院は今,大変難しい環境条件にあり,特に経営面からの難問が山積しています.しかし,患者さんに信頼をされて選ばれる病院には,どんな状況でも普遍の条件があるのではないかと思います.病院にとって,“いい病院” という課題は基本課題だと思います.

 さて “いい病院” を考える時に,学問的に体系化された枠組のなかでの優れた良い病院かどうかとは別に,患者さんや地域住民にとっては,理屈ぬきに自分の行きたい病院が “いい病院” であると本能的に,感覚的に思っているところもあると思います.そこが “いい病院” と “良い病院” いう言葉のもつ,若干異なったニュアンスにもなってくるかと思いますが,いずれにしても,患者さんはそれぞれの選択の根拠をもって最終的には選んでいます.また “いい病院” とは,立場によってもその要件は変わってくるものでしょう.本日は,この “いい病院” というものを,ご出席者それぞれの立場から率直に話し合っていただきたいと思います.

病院の開設・経営主体はどうあるべきか

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.22 - P.26

制度改革と病院開設主体

 「改革なくして成長なし」「聖域なき構造改革」「国から地方に,官から民に」「改革は痛みを伴う」というキャッチフレーズに代表される小泉改革は,わが国の病院経営にも大きな爪痕を残した.小泉政権の医療政策は,2001平成13)年6月26日公表の経済財政諮問会議の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以下「基本方針 2001」とする)に述べられている.

 まず,「医療制度はいわば『制度疲労』をきたしており,現状のままでは医療費増大と,その結果としての負担の増大に,国民の合意は得られない.医療制度を改革するうえで最も重要なことは,医療供給体制を効率化することなどにより,国民皆保険体制と医療機関へのフリーアクセスの下で,サービスの質を維持しつつコストを削減し,増加の著しい老人医療費を中心に医療費全体が経済と『両立可能』なものとなるよう再設計することである.持続可能性を持つ『価値』ある保険制度の確立を通して国民の信頼を取り戻す必要がある」とした.そのうえで,本稿で検討する「医療機関」については,「医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価(外部の専門家による経営診断・監査の実施)等を行うことにより,医療機関経営の近代化・効率化を進める.また,設備投資原資の調達の多様化や医療資源の効率的利用(高額医療機器の共同利用・稼働率の向上等)を促進するとともに,株式会社方式による経営などを含めた経営に関する規制の見直しを検討する」と明確に宣言した.

診療機能の集中と分散―地域の期待と機能分担と連携

著者: 松井道彦

ページ範囲:P.28 - P.31

 バブル経済がはじけて,負のスパイラルといわれた10年にも及ぶ長い不況の時代を経験した経済界では,企業の存在価値やその社会貢献などが問われ,大きな意味を持つようになった.ちなみに “選択と集中” という言葉が,企業の再構築=リノベーションの合言葉となっていた.敢えて言えば,バブル期に多くの企業はその本来の事業を忘れて,不動産投資やその他の投機的な投資に走った結果,そのほとんどは大きな損害を負ったのである.一方この間,企業本来の事業に磨きをかけ,業界トップを確保した企業は,バブルの影響も少なく損害も軽微であり,あるいは躍進もしている.

 医療界では,長らくわが国の誇る国民皆保険制度内での受診機会の公平性を保つため,医療提供機関の拡大を政策的に誘導してきた.旧厚生省は “総合病院” という医療機能分類の下,精神科・小児科・産婦人科を含む全診療科目を持った病院に,多少の政策的恩典を与えてその普及を奨励してきた.また,医療提供者側も多少の不採算な部門を持ったとしても,総計として収支がプラスであれば良しとしてきた.しかしバブル経済崩壊後,日本の経済成長率が低迷するとともに,長い目で見れば前年比 5 %前後で安定的に成長してきた国民総医療費の伸びに対する批判が高まった.特に小泉政権下での経済財政諮問会議では,世界に類を見ない急激な高齢化と少子化の中で,増え続ける医療費の調整,医療制度改革というより医療費抑制は多額の負債を抱える日本経済建て直しの第一の手段にしてしまった.諸外国との比較では,わが国は国民総生産(GDP)比では極めて少ない比率で国民皆保険制度や最長の平均余命を実現し WHO も認める健康優良な国であるにもかかわらずである.

資格制度と人的資源の活用

著者: 開原成允

ページ範囲:P.32 - P.35

 本稿の趣旨は,病院における人事制度はどうあるべきかを論じることであろう.世の中に組織体はいろいろあるが,私は病院という組織は,世の中で最も複雑な組織であると思っている.その理由は,資格の異なる多様な職種が機能を分担しながら「生命を扱う」という崇高であると共に危険な業務を遂行しているからである.それぞれの職種は,技術職であっても,相互に代替することは不可能で配置転換はもちろんのこと他の職種の機能を一時的に代行することもできない.一般企業では,時に工場の技術者が営業に配置転換されることもあると聞いているが,これに類したことは病院では不可能である.こうした制約の中で病院の人事管理をどのように行っていくかは非常に難しい問題で,今でも,模範解答はない.

 私もこの問題に対して答えを提示できる自信はまったくないが,国立病院の病院長として国家公務員の人事制度を経験し,また今では民間の医療系の大学にあって国との違いを経験しつつある.ここでは,その経験の中から得た若干の私見を述べることで,与えられた責務を果たすこととしたい.

資金調達と財務の健全性

著者: 岩野雅哉 ,   望月紀暁

ページ範囲:P.36 - P.40

金融機関の病院を見る目の変化

 金融機関は病院をどのように見ているのか.これまでにも数多く論じられてきているが,「病院の実態は非常にわかりづらい」という共通した見方・認識がある.実際の融資に際しては,①病院の事業特性・不透明さから扱いづらいため融資を敬遠する金融機関,②不動産担保があり収入は公的保険により確保された公共性のある安定業種として融資をする金融機関,と取り組み姿勢は異なっていた.

 金融機関では病院に対するイメージが優先し,患者増減の要因分析等,病院の実態そのものはあまり理解されてこなかったのではないか.昭和40年代後半~50年代は,老人医療費無料化を象徴として,病院は建物をつくれば病床数に見合った患者が集まり,公的保険で収入は担保されていた.病院が潰れるのは,過剰設備投資,放漫経営等に限られていた.しかしながらバブル崩壊以降は,金融機関側の体力消耗により融資が厳しくなってきた.病院側は,診療報酬の抑制,薬価差益の縮小等により,経営環境は厳しくなってきた.景気の長期低迷,金融機関の不良債権問題,病院を取り巻く環境の変化に伴い,金融機関の病院に対する取組み姿勢に変化が生じてきた.

事業の決定と執行

著者: 佐合茂樹

ページ範囲:P.41 - P.45

制度変化への対応と病院事業

 平成18年4月に行われた診療報酬改定は,病棟看護師の配置に対する新しい評価と療養病床の縮小を目指した方針が明確にされたことに特徴があり,いずれも全国の病院運営に大きな影響を与えた.具体的には病棟看護師の配置,いわゆる 7:1 加算が新設されたことにより,看護師の充足度がそのまま病院経営に影響する事態が生じている.そのために急性期医療を担う全国の病院では,将来の命運を左右する事態と言わんばかりに看護師確保に乗り出し,リクルートの現場が過熱するといった現象が生じている.

 標準人員の配置と病床数の関係には二つの考え方がある.一つは現在の病床数の基準を満たすために必要な要員数を確保する考えであり,もう一つは要員数に見合った病床数に減床する方法である.今回のように新しい基準が設定された場合においてもこの二つの選択肢が考えられるが,病院の選択肢は圧倒的に前者に集中している.何故なら,病院経営に携わる人たちは「いい病院にしたい」といつも考えており,そのためには制度の変化に対応して自院の機能を拡大,進展することが最良の選択肢であり,経営者の使命と考えているからである.ちなみに多くの病院管理者は病床数の削減は後退の理論であり,第二の選択肢と受け止めている.

【事例】リテラシーの向上に努める病院

著者: 米盛公治

ページ範囲:P.46 - P.49

 「医療従事者中心から患者本位の医療へ」と叫ばれて久しいが,なかなかその方向転換には難しいところがあり,実際問題「患者本位とは何か?」ということすらいまだによく把握できずにいる病院が,自院を含め大多数であろうと思う.

 セカンドオピニオン制度が診療報酬に反映されたこともあり,説明と同意と訳されるインフォームド・コンセントの充実には,現在どこの病院も力を入れている.その充実を図ることで,初めて医療提供側からの視点によるプロダクト・アウトから,いわゆる患者ニーズの視点からのマーケット・インや,医療提供側からの情報発信によるパブリック・リレーション「広報活動」(以下PR)へとステップ・アップできるようになる.その出発点であるところのインフォームド・コンセントのベースになるのは,あくまでも双方の正しい理解であり,患者ならびにその家族,ひいては国民全体に医療知識レベルの向上を図っていくことが,医療提供側に求められる必要な課題であると考える.そのためには患者側のリテラシー(理解能力)の向上を目的に,患者の視点で必要とされる情報をなるべく多く,また迅速に発信していかなければならない.

 今回執筆の機会をいただくにあたって,自院での取り組みを振り返るとともに,今後のあるべき方向性について考えてみたい.

【事例】医療・文化活動としての広報

著者: 夏川周介

ページ範囲:P.50 - P.53

病院広報とは

 一般に広報(PR:パブリック・リレーションズ)には,当事者と利害関係にある公衆との信頼関係構築をめざす,利害調整のための「民主的な対話や相互理解」という意味があり,この概念が日本に本格的に導入されたのは,第二次世界大戦後の1940年代後半とされている1)

 一方,病院広報の目的として石田は,①知名度・認知度の向上,②地域医療における機能,診療体制への理解を得る,③経営・医療理念の浸透を図る,④患者教育,正しい健康観を育成する,⑤インフォームド・コンセントと情報公開の拡大,⑥イメージアップとブランド戦略,⑦マスコミとよりよい関係の構築を図る,⑦緊急事態への対応とリスクマネジメント,⑧職員の意識改革および組織活性化を図る,などをあげている2)

 驚くべきことに,創立以来,佐久総合病院が行ってきた医療活動は,まさに前述の広報の概念を,ほぼ,すべて包括した形で進められてきた.

グラフ

―望まれるお産の形―院内助産システムの実際―医療法人薫風会 佐野病院

ページ範囲:P.1 - P.4

助産所と病院,両者の良さを生かす

 「分娩台ではなく好きな体勢で自然なお産がしたい」「医療設備が整い,緊急時の対応もスムーズ」――妊婦の希望や不安軽減に応えてくれる「院内助産システム」が,佐野病院で始まったのは1997年のこと.助産所と病院,両者の良さを生かしたこのシステムは「院内助産所(院)」とも呼ばれる.

  *  *  *

 1983年,誘発分娩が全盛だった時代に入職した助産師の石村朱美氏と高橋八重子氏.管理されたお産に疑問をもち,「病院でアットホームなお産を実践したい」と願った.長年の働きかけのなか賛同するスタッフが次第に増え,その協力を得て,院内助産システムを実現させた.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・1【新連載】

色彩1 自己治癒力を高める色

著者: 梅澤ひとみ

ページ範囲:P.6 - P.7

色で五感を刺激しストレス軽減

 “五感を刺激して自己治癒力を高める”―昨今医療福祉施設の設計コンセプトでよくお目にかかる言葉である.しかし考えてみると日常“五感を刺激しなくては”などと意識して生活することはほとんどない.オフィスでも家庭でも様々な刺激に囲まれて生活し,たまにはそこから逃れたいと思っているのではないだろうか.

 ところが病院のような刺激を制御した空間の中に長時間拘束されると,環境ストレスは増大する.いい香りも悪臭もカット,空調の風以外感じることはなく,気密性の高い高層の窓からは光の移ろいぐらいしかわからない.イヤホンを通す以外の音は限られ,それゆえに看護師の廊下を歩く音や冷蔵庫などの雑音さえ気になるぐらい静寂である.このように感覚遮断に近い状態では生きる意欲も奪われ回復が遅くなるという研究結果もあり,インテリアの中に五感を刺激する要素を取り込むことが重要視されるようになってきている.

クロストーク医療裁判・11

がんの診断時期と延命の相当程度の可能性―最高裁平成16年1月15日判決の事例から

著者: 西田祥平 ,   大澤彩 ,   島田英昭

ページ範囲:P.59 - P.63

 前回は,医師の医療行為が医療水準に満たなかった場合,その行為が患者の死亡をもたらした(死亡との因果関係がある)といえない場合であっても,医療水準を満たした医療が行われていれば患者が死亡時点でなお生存していた「相当程度の可能性」が証明される時には,医師ないし医療機関に損害賠償責任が生ずるとされた判例について紹介しました.

 今回は,この「相当程度の可能性」がいかなる場合に認められるかについて,参考になる判例を紹介します.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・8

MSWのコーディネート機能による患者不安度軽減効果の評価

著者: 加藤由美 ,   関田康慶

ページ範囲:P.64 - P.69

医療福祉のコーディネート機能

 患者ニーズや医療福祉サービス提供システムの複雑化,多様化が著しく進展している今日,患者の主体性が十分発揮されるように支援しつつ,サービス提供過程における人,モノ,サービス,組織,制度などを適切にコーディネート注1)する機能の重要性が,従来にも増して一層高まっている.本稿ではこの機能を「コーディネート機能」と称し,次のように定義して用いる注2).「コーディネート機能とは,医療福祉サービスの利用者と提供者及び提供システム間の関係を調整し,情報の授受と共有化を支援する機能である.この機能の目的は,(1)サービス利用者がサービスを主体的に利用できること,(2)サービス提供者が利用者ニーズに即した効果的かつ効率的なサービスを提供できることである.」

今,なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学・8

病院における人的資源管理

著者: 明石純

ページ範囲:P.70 - P.73

 一般企業からある病院に事務系幹部候補として転職したばかりのA氏は,初仕事として管理体制の充実のための企画立案という課題を上層部より与えられました.病院管理にも多くの課題がありますが,医療は労働集約サービスであり,多くの医療スタッフに能力を最大限発揮してもらうことが最も大切と考えたA氏は,まず最初にヒトの側面に着目することにしました.病院長や事務長とも相談のうえ,人事の領域で改善すべきことがないかといった現状把握の取り組みを始めました.

 まず最初に驚いたのは,その病院には人事部はおろか人事課もなく,人事の責任者は人事部長や課長ではなく,総務課内の一担当者であったことです.前にいた会社では,人事部長が取締役の一員として会社全体の人事政策について大きな発言力を持っていました.しかし,転職したこの病院で行われている人事業務は,採用や社会保険手続き,労働基準法やその他の法規上必要な措置など最小限のことしか行われていないように見えました.教育研修についても人事担当者が病院全体の計画を立てている訳ではなく,各部門で独自に行われています.

病院ファイナンスの現状・29

―病院債(2)―医療機関債・社会医療法人債/病院債発行の背景

著者: 福永肇

ページ範囲:P.75 - P.79

 前月号では現在「病院債」と呼ばれている8つの債券の整理をしました.8つの中で医療法人が発行する債券に絞ると「地域医療振興債」「医療機関債」「社会医療法人債」の3つになります.先月号では「地域医療振興債」を見ましたので,今月号は残りの2つを説明します.また病院が病院債発行を検討する背景についても考察してみましょう.なお,この文章の中での “病院” という言葉は債券発行体である “医療法人” を指しています.したがって,医療法人立の診療所や老健も含まれます.

病院管理フォーラム ■看護マネジメントの実践

患者の意思決定を組織で支えるために―看護師の専門教育として自己決定支援コースを設立して・前編

著者: 江口恵子

ページ範囲:P.80 - P.84

●自己決定支援がなぜ必要か―原則と現状

 患者の意向を尊重し,納得のいく医療の提供を行っていくためにどのような手立てが必要であろうか.組織としての有様や組織の中での看護部の有様,また個人の有様等,学習と検討を繰り返しながら取り組んできた.その過程で,より専門性に優れた看護師の育成と組織的活用により,患者の人間としてのニーズに基づいた意思決定への支援がより可能になることが考えられた.これまでの経過と現状および展望について紹介する.

■防犯対策・4

武蔵野赤十字病院における防犯対策

著者: 高橋高美

ページ範囲:P.85 - P.87

 最近世間では凶悪な窃盗事件が多発している.病院も例外ではなく,第三者による盗難や器物破損等で被害を受けることがあり,危機管理対策が急がれている.しかし多くの病院は,対策を行うことは理解していても,防犯に必要な器械の購入が不可欠であると考え,「病院経営の現状を考えると,なかなか実行に踏み切れない」という声を聞く.

 当院は救命救急センターを有し,休日・夜間も診療を行っているため24時間・365日オープンな環境であるにも関わらず,5年前までは防犯対策について有効な取り組みをしていなかった.しかし,安全で安心していただける医療を提供するために,患者の療養環境に目を向けて現状を把握し,臨床の現場で職員から生の声を聴くうちに,病院として取り組む防犯対策の必要性が明確になった.その後,外来棟の新築や救命救急センター全面改築に伴い建物の構造が変化してきたが,防犯対策も継続して改善し今日に至っている.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第144回

最近の米国医療施設とIHN

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.88 - P.94

 米国の医療施設を見学する目的は,それぞれの時代を背景にして移り変わってきた.病棟を中心とした患者の療養環境,搬送機器を中心としたシステマティックな物品供給部門,LDR(Labor, Delivery and Recovery)や日常生活訓練の場としての Easy Street,米国特有のシステムでもあるドクターズオフィス,日帰り手術や通院治療の施設等々,数え上げると切りがないほど,わが国の医療施設は,多くの範を米国に求めてきた.しかし,診療報酬制度や民間中心の保険制度が,わが国の場合と大きな隔たりがあることから,ある面,どこか距離をおいた評価を行っていたことも事実で,ここ数年,福祉施設への眼差しの強さも手伝って,こうした医療施設の視察先は,米国から欧州へと移り変わっていたようにも思える.

 しかし,そうしたわが国の医療施設関係者の興味の移り変わりを他所に,米国では新たな動きが広がっていた.それが IHN(Integrated Healthcare Network )であり,松山幸弘氏((株)富士通総研)の活動によりわが国でも広く知られるようになったシステムである.これは,ある医療圏の中で複数の医療機関や福祉施設,これと関連する各種の保険関連団体,医療福祉関連サービス供給企業,医薬品・医療材料などの提供企業,エネルギー供給企業,情報関連企業などが経営統合し,ネットワークを形成することで,地域住民が求める医療や介護サービスを計画的かつ効率的に提供しようとする試みである.わが国では今,赤字に苦しむ自治体などの公的病院も多く,またこれらが民間に売却されることも少なくないが,こうした状況を変革してゆく一つの策として,IHN は非常に参考になるシステムではないか,と考えている.

リレーエッセイ 医療の現場から

チーム医療の意義と内容を,患者・家族にも

著者: 知覧俊郎

ページ範囲:P.95 - P.95

 医療の世界で違和感を抱く言葉のひとつが「名医」である.

 患者・家族の期待の表れだとは思うが,誤解を生みやすいし,当の医師も勘違いしかねない.むしろ,「患者にやさしい医師」「説明がじょうずな医師」「勉強熱心な医師」「専門以外の治療にも詳しい医師」「指導力のある医師」「仲間から信頼されている医師」「社会常識にも通じた医師」などと具体的に表現したほうがわかりやすいし,評価しやすい.

研究と報告【投稿】

病院看護師の訪問看護師との連携に関する意識状況分析

著者: 今磯純子 ,   石井英子 ,   加藤容子

ページ範囲:P.55 - P.58

 現代医療技術の進歩,介護保険制度の導入・改正などに伴い,在院日数は短縮化し,医療依存度の高い状態で退院して在宅療養生活を送る患者が増加している.また,在宅生活を望む患者や家族の声も多い.そのため,入院生活から在宅療養生活へと円滑に移行でき,患者や家族にとって安心して療養生活を送ることのできるよう有効な支援のあり方を考えることが重要となる.

 2006年4月の診療報酬改定に伴い,「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」(平成18年厚生労働省告示第102号)および「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等」(平成18年厚生労働省告示第103号)が適用された.そして,医療依存のある状態で退院する患者に対し,在宅療養生活に必要な療養指導を訪問看護師と,主治医または医療施設職員などと実施した場合,地域連携退院時共同指導料として加算されるなど,在宅支援に向け病院と地域の連携が重要視され始めた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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