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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻11号

2007年11月発行

雑誌目次

特集 躍進するアジアと病院戦略

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.897 - P.897

 経済,物流やIT,コミュニケーションばかりではなく,交流人口にも労働人口にもグローバル化の波が押し寄せている.その結果,国際競争力をつけたアジアの社会がその情報発信力を利用してサービスや価格の優位性をアピールし,虎視眈々と日本市場を狙ってくることとなった.アジアは戦後日本の復興の過程と同じように安い労働力を基盤とした低価格品の製造工場から,品質が高い商品やサービス業の勃興へと変容を遂げているのである.

 特に,2008年に予定される北京オリンピックとその後に続く上海万国博覧会を控え急速に近代化する中国,中国に変わる世界の工場として台頭著しい東南アジア諸国,英語力を活かしたハイテク産業が集積しつつあるインド,各国は人口を背景に労働力のみならず旺盛な自国消費を引き出し,教育基盤を整備し,様々な特徴によって自国を差別化しようとしているのである.

医療産業のグローバル化と日本の針路

著者: 近藤正晃ジェームス ,   坂野嘉郎

ページ範囲:P.898 - P.902

グローバル産業としての医療

 日本の医療に閉塞感が漂っている.現場では,医師不足と収益悪化.制度面では,財源不足と医療費抑制など,暗い話題ばかりである.現実を直視した厳しい現状認識は大切だが,それだけでは新しい発想は生まれない.

 内向き,後ろ向きになりがちな医療の議論を,少しでも外向き,前向きなものにできないか.そうした発想転換のための一助として,「グローバル産業としての医療」について論じてみたい.

アジアの国家戦略としての医療ITの位置づけ

著者: 豊田建

ページ範囲:P.903 - P.906

 世界最大の医療ITに関するカンファレンスは,毎年2月に米国で開催されるHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)である.HIMSSは,米国の医療ITに関係する企業を中心として,病院などのユーザー,大学などの研究者,関連する政府関係組織なども参加している横断的な団体であり,20,000以上の個人会員と300以上の団体会員から組織されている.

 2007年2月には,ニューオリンズで開催され,Colin Powell前国務長官やSteve BallmerマイクロソフトCEOを基調講演者に迎えて盛大に行われた.展示は885者(企業ばかりでなく,病院や大学なども展示),参加者は24,081人であった.

小倉記念病院における海外患者治療の実態と今後

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.908 - P.909

病院の概要と歴史

 小倉記念病院(図)は大正5(1916)年6月木造モルタル2階建の120床より始まる.昭和23(1948)年1月より現在の社会保険小倉記念病院の形で内科,外科,小児科,皮膚泌尿器科,婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,歯科の総合病院として北九州の地域医療の中核病院として機能している.その後,昭和26(1951)年整形外科,昭和37(1962)年麻酔科,昭和44(1969)年放射線科,昭和54(1979)年より心臓血管外科,循環器科を開設し,同年4月より心臓病センターが稼働した.昭和63(1988)年3月からは外国医師臨床研修修練施設に指定され,中国,台湾,韓国,ベトナム,エクアドル,エジプト,ポルトガル等から医師を受け入れ,技術指導を行っている.

 現在,病床数658床で小児科,産科の周産期を除く20の診療科を配備し,医師139名,看護師558名,医療技術者143名,事務100名などの計1,017名の職員より構成されている.平成10(1998)年より救急医療に重点を置き,緊急入院患者の受け入れのため38床の救急病棟,13床のICU,20床のCCU,13床のSCUを持ち,24時間断らない医療を実践している.

今なぜ海外進出か―医療の輸出産業化を目指して

著者: 菅原道仁 ,   北原茂実

ページ範囲:P.910 - P.913

 わが国では,年々高齢化が進み,結果として医療需要は日増しに増大している.その一方,過去の政府の失政により地方自治体も含めた日本国の借入残高は財政投融資を含めれば1,100兆円という膨大な額に達しており,少子化による歳入の減少も考え合わせれば,この国を財政破綻から救うためにはたとえ社会保障予算といえども削減しなければならない厳しい現実があるのも事実である.

 そのため今や政府や国民,そして医療従事者にとってさえ,望むと望まざるとにかかわらず,増大する総医療費を何とかして押さえ込む努力をすることは避けられない義務となってしまっている.

中日友好病院の国際医療

著者: 尹勇鉄 ,   楊宏敏

ページ範囲:P.914 - P.916

病院概況

 中国衛生部中日友好病院は,日本政府の無償資金援助(ODA)を受け,中日両国政府の協力により建設された大規模総合病院であり,中国衛生部が直轄する2つの病院のうちの1つである.1984年10月23日に開院し,敷地面積9.7ha,建築面積12万m2,ベッド数1,315床,職員数2,800人あまりである.ここ数年,毎日の外来患者数は既に5,000人に達している.

 中日友好病院は中西医(中国伝統医学と西洋医学)が共存した医療サービスを提供することが特色で,医療・教育・研究・リハビリ・予防保健などの機能を融合している.1人のドクターが中西医両方を見るのではなく,ほかのドクターと連携を取る.一般に,中医の患者に対し西医で診断し,中医のやり方で治療を施すと同時に西洋医学の薬を採用する場合もある.病院全体と,国際医療部における中医学受診者の割合は大体同じ位で20%であるが,海外からの患者にとって,中医学の受診ができることは当院の魅力の1つでもある.

泰達国際心血管病医院の国際化

著者: 兪剛

ページ範囲:P.918 - P.921

 北京空港から車で2時間のところに,中国の経済特区天津経済技術開発区がある.3年前,ここにアジア最大級の循環器専門病院,泰達国際心血管病医院が開業した.600床,ICU 80床,CCU 40床,手術室16室,カテーテル室5室,64列CTをはじめ,MRI,デジタル超音波診断装置など,当時最先端の医療設備を揃えた.動画像ネットワークシステム(PACSとHISシステム)などで全病院の診療情報を共有し,病院全体はペーパーレス化している.今までの中国の病院のイメージとは違う斬新的な雰囲気で,来訪者を驚かせた.

 病院の名前の由来については,「TEDA」は天津経済技術開発区の英文名称(TEDA-Tianjin Economic-Technological Development Area)の略語であり,「泰達」は音訳である.天津経済技術開発区は北京,天津に臨み,東北,華北,西北地域に面し,地理的に有利な条件に恵まれている.また隣接する渤海区域は人口も多く,都市も発展しており,交通も便利で,商工業が発達し,市場規模が多く,購買力が高いという商工業を発展させるには理想的な条件を備えた場所である.既に600社余りの日本企業を含む,3,000社以上の国際企業が進出しており,代表的な企業にはトヨタ,ヤマハ,大塚製薬,富士通,松下などがある.天津経済技術開発区は「21世紀の国際市場に繋がる最高の投資環境を整備する」ことに注力していた.泰達国際心血管病医院もその一環で,投資額は7.2億元,日本円でおよそ120億円であった.

日本・フィリピン経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士の受入れ

著者: 草野弘和

ページ範囲:P.922 - P.925

日本とフィリピンの経済連携協定

 日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)については,平成15(2003)年12月に首脳会談でEPA交渉の開始を決定してから,以降6回の正式交渉を経て,平成16年11月に大筋合意,そして平成18年9月9日にはフィンランド共和国のヘルシンキにて両国首脳間で署名が行われた.この協定は,フィリピンとの経済上の連携を図ることを目的に,貿易及び投資の自由化及び円滑化,ビジネス環境の整備,二国間の協力等について定められたものである.

 今後,この協定が締結されることにより,両国間の経済上の連携が強化され,両国の経済の活性化が一層図られ,両国間の関係が一層緊密となると期待が寄せられている.この協定では,新たに自然人の移動の章が設けられ,投資家や自由職業サービスに従事する者等と同様に,「看護師又は介護福祉士によって提供されるサービスに関連する活動に従事する者について入国及び一時的な滞在を約束する」とされているが,看護・介護分野におけるフィリピン人の受入れについては,あくまでも経済連携協定の枠内で,日本の労働市場に悪影響が生じないよう人数枠を設定するなどの措置を講じたうえで,特例的に受入れを行うこととされている.

フィリピン人看護師候補者の適正かつ円滑な受入れ

著者: 野﨑慎仁郎

ページ範囲:P.926 - P.928

 日比経済連携協定(以下,協定)に基づくフィリピン人看護師(候補者),介護福祉士(候補者)受入れ枠組みにおいて,社団法人国際厚生事業団(以下,事業団)は,日本で唯一の受入れ調整機関(あっせん機関)として,フィリピン側の送り出し機関〔フィリピン海外雇用庁(以下,POEA)〕と連携し,日本国内の受入れ機関を対象とした紹介あっせん業務を一元的に実施する予定である.

 本稿では,本協定に基づき入国するフィリピン人の中で,特にフィリピン人看護師候補者(以下,フィリピン人)の受入れに関心がある受入れ機関(日本国内の医療法人,社会福祉法人等の公私の機関)の方々を念頭において,あっせん手続きの流れ(図)や受入れにあたっての留意点などについて説明する.なお,本稿の事業団のあっせん業務は,フィリピンの上院で協定が批准された後に開始されるものであることをご理解いただきたい.

中国人看護師の養成と受入れを通じて

著者: 栗田敬子

ページ範囲:P.929 - P.931

友好都市協定と研修生の受入れ

 特定・特別医療法人慈泉会相澤病院(概要は表参照)が位置する長野県松本市は,外国の4都市と友好協定を締結しているが,その1つに中国河北省廊坊市がある.平成7(1995)年に両市が提携したことを契機に交流活動がスタートし,現在では医療,農業,行政,観光接待業など広範な分野からの研修生を毎年受入れるまでになっている.

 当院はこの友好都市協定の締結に併せて平成8(1996)年に廊坊市人民病院と友好病院協定を結び,平成10年からは両市の交流友好事業に協力して,同病院の医師・看護師を研修生として受入れてきた.

グラフ

医療通訳の可能性―言葉のバリアフリーを目指して―医療法人 医仁会武田総合病院

ページ範囲:P.885 - P.888

 京都市伏見区にある医仁会武田総合病院では,2003年から京都市,NPO法人「多文化共生センターきょうと」,京都市国際交流協会との協働事業として,中国語による医療通訳を実施している.同地区は,京都府が中国残留孤児などの帰国者を受け入れてきたこともあり,日本語を話せない患者が多い.当院では毎週火金土の3日間,「多文化共生センターきょうと」から医療通訳スタッフが派遣されているが,利用件数は2006年で1,172件と多い.現在14名の医療通訳スタッフが交代で2人ずつ常駐している.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・11

色彩6 こころのバランスを整える空間と色

著者: 梅澤ひとみ

ページ範囲:P.890 - P.891

■こころのケアの時代

 今,病院に一番求められているのは,こころのケアではないだろうか.

 病気を宣告された患者の第一の試練は治療ではない.その前に自分の身体に起きた現実を受け入れることなのだ.与えられた試練と考え,立ち向かう心の準備が即座にできる人は少ないだろう.スタッフの温かい対応も大切だが,インフォームド・コンセントにはこころを安定させる時間と空間が必要なようだ.

 患者のアメニティーを考えた最近の病院は一見豊かそうに見える.しかし入院患者のこころのケアを考えた時,満足できる空間と言えるだろうか.

職場のメンタルヘルス・8

事務長のストレス

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.948 - P.953

問われる管理者の経営手腕

 病院の事務長の仕事は多岐にわたる.特に民間病院では様々な役割が期待されている.職員の採用,人事管理,能力開発,診療報酬の請求事務,経理,受付やクレーム処理,家族への対応,医療機器の購入とその管理など,病院の生産性の向上と経営効率化のすべてを担っている.場合によっては院長の経営面における秘書役までしなければならない.医師や看護師不足による診療科目の廃止や閉鎖,過重労働によるスタッフの退職や休職,ミスやトラブルによる患者や家族からのクレーム対応も大きなストレスとなっている.

 病院の多くが赤字経営が続く中で,その施策に苦慮している.その要因の1つに未収金問題がある.今日,全国の病院の未収金は850億円とも言われている.特に救急部門を備えている病院では,現金を持たないまま搬送されてくる患者が多い.診療を終えて請求書を出しても応じない患者や家族が増えている.しかし,病院は救急患者を診療しないわけにはいかない.また,高齢者の入院を中心とする病棟では,年金生活者も多く,支払いも滞ることがある.未収金の回収には病院の事務スタッフが自宅訪問などして対応しているが,逃げられたり,居留守を使われたり,時には怒鳴り散らす家族までいる.そうなると訪問した事務スタッフもめげてしまい,仕事に意欲を失う.こうなると事務長は,経営者と部下との間で板挟みになってしまう.病院職員のメンタルヘルス対策は,医師や看護師といったスタッフにスポットを当てられることが多いが,その裏で事務長をはじめ,事務スタッフやケースワーカーの努力や貢献度も大きい.過重労働や人間関係の軋轢の陰で,心身の健康障害に陥ったり,そのことで自殺に至るケースもある.働く人たちのうつ病をはじめストレス性疾患の増加に伴い,厚生労働省は「職場のメンタルヘルス指針」を出し,その対策を換起している(コラム参照).以下2つの事例は,事務長のストレスに関するものである.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・18

地域連携クリニカルパスにおけるMSWの関わり

著者: 遠藤小百合

ページ範囲:P.954 - P.956

 2006年4月の診療報酬改定に伴い,大腿骨頸部骨折の地域連携クリニカルパス(以下,連携パス)を導入し実施した場合に,保険点数が算定できるようになった.当院も,これまで連携してきた回復期リハビリテーション病院からの声掛けで,すぐに取り組むことになり,2006年10月から運用が開始された.当初,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)は,連携パスに関わることに戸惑ったが,試行錯誤しながら,単なる転院の窓口としてではなく,関わることの意義を見出し,日々専門性を探っている.その経過を報告する.

病院管理フォーラム ■医事法・7

医療水準と医療裁量

著者: 植木哲

ページ範囲:P.957 - P.959

●医療裁量とは

 医療行為は,医師のプロフェッションとしての自由な診療活動によって保障されます.医師と弁護士は,昔から専門性の高いプロフェッションとして取り扱われ,多くの尊敬を集めてきました(植木哲『医事法教科書』信山社).ところが,この自由の実現には厳しい規律が求められることから(池田潔『自由と規律』岩波書店),これらの職業に携わる者には高い倫理性が不可欠とされます.従来の高等専門教育にはこの点の配慮が欠けていたため,今日大いに反省が加えられているのです.裁判所が医療倫理をどのように考えているのかは,後に検討することにします.

 自由な診療活動は,幅広い裁量を要求します.医師の常識からすれば,刻々と変化する患者の身体・健康状態に合わせ診断や治療を行うためにはこれが不可欠であり,これなくして自由な診療活動は保障されません.また,医療には様々な不確定要素が伴うことからすれば(医療の不確実性),現実の医療においてあらかじめ定められたマニュアルはないに等しいことになります.このことから,医師の医療上の特権が説かれたりもします.

■医療経営と可視化・2

医療の可視化の考え方

著者: 多賀紀一郎

ページ範囲:P.960 - P.963

 「可視化」「見える化」という言葉が,最近一種の流行語のように使われている.この言葉は,問題点を顕在化し,それに対する組織としての意識を高め,解決していこうとするトヨタにおける「見える化」「見える仕組み」が始まりと思われる.その後早稲田大学の遠藤功先生の著書で取りあげられ,認知度が高まっていったものである1,2)

 このような経営コンサルティングとして,企業活動の様々な問題点を顕在化して行くことから広まった「見える化」「可視化」の波が,問題が山積する医療界にまで押し寄せてきたと考えるのが自然であろう.

医療動向フォーラム ■DPCの今後を予測する・4

DPC病棟と非DPC病棟の棲み分けや診療報酬のあり方(2)―DPC二階建て構想とは

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.964 - P.965

 先月号(10月号)の原稿を渡した4日後である8月11日(土)に保険局医療課の原徳壽課長をお招きし,日本DPC協議会は名古屋でシンポジウムを開催した.このシンポジウムにおいて原課長は私案であるという断りをつけながら,DPCを分割して高度機能病院と一般機能病院に分ける構想を突然話し始めた.この話を受ける形で,8月22日,産経新聞は1面トップで,『「高度急性期病院」新設,外来受け付けず,重症治療専念』という見出しを付け,以下のような記事を掲載した.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・2

ピンチはチャンス

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.966 - P.967

 元公務員のYさんは一人暮らし.健康診断で初期の胃がんが見つかり手術を受けた.ところが手術後の経過が悪く,イライラし始めた.1か月で退院と聞いていたのに,すでに2か月.家に帰っても誰もいないし,今の状態では帰れないとわかっているが,家が恋しくなってきた.

 そこで看護師に「帰してくれ」と伝えたが,「無理」と,あっさり言われてしまう.その言い方にムカッときたYさんは,点滴の管やオシッコの管などを全部自分で外して暴れ出した.ベッドは飛び散った血で赤くなる.そして,「ネクタイもってこい.スーツはどこにあるんだ」と大騒ぎになった.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第154回

患者・高齢者の新しい居住形態二題―ケアタウン小平

著者: 太田拓也

ページ範囲:P.968 - P.971

 ケアタウン小平は,行政機関や各種医療・福祉機関などと連携・協力し合いながら,ホスピスケア(末期癌には限らない)と在宅ケアを融合,地域社会に根づいたコミュニティケアとなることを理念としている.

 調和の取れた医療と福祉を融合させた高齢化社会の都市型ケアタウンモデルとして,ケアタウン小平は,従来の行政サービスだけでは不十分であったり,また制度上の狭間でサービスや支援を受けることが困難であった人たちが1人でも多く,住み慣れた地域のなかで安心して暮らせる社会となることを目指している.

患者・高齢者の新しい居住形態二題―健院L-CUB八山田

著者: 石井久克

ページ範囲:P.971 - P.974

 2006年6月,福島県郡山市八山田に,医療・介護施設と住宅,コンビニエンスストア,レストラン,メディカルフィットネスクラブ,保育園などを一か所に集約した複合型施設「健院 L-CUB(エルキューブ)八山田」が竣工した.民間企業((株)エヌジェアイ)が現行基準に縛られない,まったく新しいコンセプトで創った,自宅と病院の中間施設である.ここでは,退院したばかりなどで健康に不安を抱える人たちが「小さな街」で生活でき,介護の必要な人が社会生活への復帰を目指すリハビリ施設として活用できる.施設は「居住ゾーン」「ライフサポートゾーン」「ショップ・レストランゾーン」の3つで構成され,他に90台の駐車場を備えている.

 したがって,本施設の設計に当たっては「小さな街」をイメージさせ,かつ周辺の街に対して閉鎖的にならず,入居者以外の様々な人々が,様々な目的で気軽に訪れ,過ごすことのできる街創りを目指した.よって施設は一体化せず,各ゾーンごとに分節切り離し,ゾーン間の隙間スペースを,街のエクステリアゾーンとして設えをした.昼時には行列もできるレストランにはオープンカフェも設えてある.小規模ながらも,多くの機能・要望を抱え,かつ国内では初めての試みであることから,最後まで検討を加え調整を行った.設計者以上に橋本社長および担当の方々の大変な苦労の結果でき上がった「小さな街」である.

リレーエッセイ 医療の現場から

配慮することはプラス

著者: 中園秀喜

ページ範囲:P.979 - P.979

 現在日本の高齢者は2,200万人,25年後には3,500万人に増加する.高齢者は年とともに体に不便を感じるようになるが,耳・目・足など,どこから悪くなるのか,それは神様以外わからない.ちなみに聴覚障害者は軽度の難聴者も含めると現在600万人,50年後には800万人以上に増えると言われている.しかし,大切なことはすべての人がありのままの姿で社会参加できるようにすることだと思う.これをバリアフリー・ユニバーサルデザイン化(以下,BF,UD化)と呼ぶ.BF,UD化を進めないと,人間の自立支援,社会参加が妨げられ,これは経済の発展を阻害することにもつながる.

 政府はこの方針に基づき,法律,環境,設備などの整備を進め,2006年12月にはバリアフリー新法が成立した.同法は医療機関にも適用される.

研究と報告【投稿】

手術へのトヨタ改善方式の導入―医療事故予防,医療不信改善の本質的なアプローチとして

著者: 篠浦伸禎 ,   山田良治 ,   田部井勇介 ,   齋藤邦昭

ページ範囲:P.932 - P.937

要旨 手術は,外科医にとって1番重要で精度を必要とされる仕事であるにもかかわらず,徒弟奉公的な面が強く残っており,それが進歩を阻害し,医療事故につながっている面もあると思われる.当院では,より手術の精度を向上させるために,改善等で世界的な企業であるトヨタ方式を当院なりの方法に変えて導入した.その結果,手術の技術,精度が向上していると思われるので,その方法,結果,考察,今後の方向性について報告する.この方法論が軌道に乗れば,医療事故予防ひいては医療不信の払拭の根本的な解決策になる可能性が高いと思われる.

特別寄稿

診療科別損益計算―配賦をやめればすっきりわかる!

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.938 - P.943

病院原価計算の目的

 病院における原価計算には,大きく2つの目的があると考えています.1つ目は,医療機関が診療サービスを提供する際にかかったコストを集計するためです.行為別や疾病別などに要した費用を集計し,診療報酬点数への反映や逆に設定された点数への対応を行うために作成します.診療報酬制度という価格統制がある医療業界では,管理できるものはコストしかありません.特に今後拡大が予想されるDPC導入施設では,診断群毎に設定された診療報酬点数と自院でかかった実際のコストとの比較は必須となってくるでしょう.この1つ目の原価計算の性質としては,診療サービスにかかった全ての費用を集計することに特徴があります.

 2つ目には診療科などの部門ごとの損益管理・マネジメントを行うためです.一般的な病院で損益状況を見るものは,病院全体でまとめた損益計算書や貸借対照表などの財務諸表となっています.しかしながら,病院では診療科や中央部門など個々の組織があり,それぞれの損益構造は異なっています.それを考慮しない一括りの財務諸表だけではどこに問題点や改善のカギが隠れているかはわかりません.こういった「どんぶり勘定」を避けるためには,部門ごとの収益と費用を計算し,損益管理を行う必要がでてきます.そういった意味で,用語としても費用集計に重点が置かれた「原価計算」というよりは,収益との比較でマネジメントを行う「損益計算」のほうが合うようです.この2つ目の原価計算(損益計算)では,部門ごとの損益管理,マネジメントが目的ですから,計算される収益,費用とも当該部門が管理できるものに限定できる,というのが特徴になるはずです.

 ところが,後者の原価計算である診療科別損益計算においても,全ての費用を集計し,その費用を各診療科に配賦(配分,按分)しているために様々な問題が起こっているように思えます.そこで,本稿では診療科別損益計算をうまく利用する方法について,特に部門長の責任範囲と費用の配賦を中心に述べていきたいと思います.

ダートフォードから見える第三の道―医療・福祉PFIの進化発展について

著者: 森下正之

ページ範囲:P.944 - P.947

 英国PFIの第一号,ダートフォードNHSトラスト病院(以下,ダートフォード病院)に関して,10年目に入った現地定期調査を8月末に行った.その要点をまとめると,「中央省庁が病院PFI成功モデルとして位置付け,先行モデルとしての有用性の認識が変わっていない」ことが確認できた.キーワードは過去9年間と同じく「変化のスピードの速さと多様性」に尽きる.

 今回,これまでの継続的調査の枠組みに基づき,英国厚生省(DOH),大蔵省(HMT)との民間企業が結成した官民共同事業体のPFI/PPP(官民提携・協働)の推進組織PUK(パートナーシップ英国社),大手コンサル会社(KPMG,アーンスト・アンド・ヤング等),大手病院PFI建設業社(カリリオン社),専門誌出版社の懇意の担当責任者との意見交換およびダートフォード病院におけるPFI関係責任者からの聞き取り調査を行った.「短期間に周辺および上部組織と現場組織で集中的に情報収集をすることで,断片的な情報が相互に結びつき,全体像がより明確に把握できる」と今回の調査からも実感できた.その要旨は次の通りである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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