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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻12号

2007年12月発行

雑誌目次

特集 病院におけるIT化の新局面

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.993 - P.993

 高度情報通信社会の実現は今や国策であり,2001年にIT戦略本部が内閣に設置され,「e-Japan戦略」とその「重点計画」を決定した.以後毎年,年次を付した「重点計画」が決定され,本年も「重点計画―2007」が策定されている.同計画は,「2010年までにいつでも,どこでも,誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」を謳い,社会経済全般にわたって「IT新改革戦略政策パッケージ」を打ち出した.医療については「ITによる医療の構造改革」として,レセプトオンライン化に着手するとともに,2008年診療報酬改定に向けた電子点数表の公表や,支払基金の審査支援を盛り込んでいる.健康情報ネットワークのセキュリティや「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」の推進も求めている.今後,病院のIT化を進めるに当たって,これらの施策の方向は十分に踏まえておく必要があろう.

 病院のIT化は,まずは省力化・業務支援機能があって,そのうえで病院事業の様々な側面を情報化し,評価・分析することで経営判断や問題の解決を行うことが基本的な目的である.厳しい環境下で医師・看護師を確保し,患者の選択を得るためには,自らの病院の機能をこのような情報分析によって可視化し,効果的に広報することが重要な戦略となる.ウェブサイトの機能を有効に活用し,メールマガジンを発行するなどして積極的に多様な情報を発信する事例も見受けられる.情報提供が強く求められるようになった時代の病院のあり方を探りたい.

「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」について

著者: 岩井勝弘

ページ範囲:P.994 - P.998

グランドデザインの背景

 2006年1月,政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は「IT新改革戦略」を策定し,ITによる改革の仕上げのための取り組みと,そのための基盤整備についての課題を取りまとめた.また,IT戦略本部は,医療のIT化と電子政府の推進を重点2分野と位置づけ,評価専門調査部会の下に医療評価委員会と電子政府評価委員会を設置し,調査審議を進めている.「IT新改革戦略」においても,重点施策の1番目に医療のIT化関連の項目を取り上げ,医療・健康・介護・福祉分野について「分野横断的な情報化方針,具体的なアクションプラン等を示す情報化のグランドデザインを2006年度までに策定する」としている.こうしたIT戦略本部の決定や医療評価委員会の審議を踏まえ,厚生労働省(以下,厚労省)は,2007年3月,医療・健康・介護・福祉分野におけるIT化の将来像とその実現に向けた当面のアクションプランを掲げたグランドデザインを策定した.

 これに先立ち,厚生省においては,1995年,「保健医療福祉分野における情報化実施指針」を策定し,各分野における情報化の必要性や施策の展望を示している.また,2001年12月には,厚労省の「保健医療情報システム検討会」における検討を踏まえ,「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」を策定し,電子カルテやレセプト電算化等についての達成目標を設定し,アクションプランを定めている.厚労省は,このグランドデザインに基づき,医療用語・コード等の標準化,新傷病名マスター(コード)の適用など必要な基盤整備やレセプトの電算化のための諸施策を講じてきた.

病院機能の可視化と広報

著者: 楠岡英雄

ページ範囲:P.999 - P.1003

 これまで病院は,医療法上,広告規制があること等により,その病院の持つ特徴や機能を社会に積極的に広報することは少なかったと思われる.医療者間においては,病診連携・病病連携のために,早くから周辺医療機関に診療内容を案内するなどの広報活動を行ってきていたが,広く一般市民に向けての広報活動は限られていたと言える.しかし現在,患者やその家族が病院の診療実績に関する情報を求め,それを吟味して医療機関を選択する時代となり,また,第5次医療法改正では,患者等への診療情報の提供推進が謳われ,都道府県による情報収集・情報提供等のシステム化や広告規制の見直しが行われている.さらに,患者からの選択だけでなく,医師や看護師の確保においても,当該病院の機能を外部に広報することが重要になっている.特に国立病院機構では,診療,教育・研修,臨床研究,情報発信を4つの柱としており,情報発信についても力を注いでいる.

 このような状況の中で,病院がその機能を広く世間にアピールするためには,これまでのような紙媒体での広報には限界があり,ITを利用せざるを得ない.また,IT利用の1つとなるホームページ(以下,HP)については,利用者が自発的にアクセスしない限り情報を獲得できないことから,医療法上の広告には当たらないとされている.したがって,HPでは広告媒体には載せることのできない内容についても広報できる利点がある.

レセプトオンライン化に向けた保険者の取り組み―「健保組合IT基本構想」より

著者: 鎌田博三

ページ範囲:P.1004 - P.1008

国のIT化政策に向けた健保組合としての対応

 レセプトのオンライン化については,昨今,韓国の取り組み状況が注目されている.韓国では1996年から医療費の電子請求の普及が始まり,今日ではほぼ100%に近い普及率となっている.その背景には,政策的な誘導策として,①医療機関への入金短縮化,②優良診療所への審査免除――などがあったが,IT化を進めた原動力として,電子化された情報を手術の成功率といった医療の質の評価,疫学的研究および医療サービス面での研究に役立てようとする明確な目標を持っていたことが挙げられる.

 一方,わが国においても遅れていた医療・保健分野のIT化が加速しようとしている.「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が,経済財政諮問会議,規制改革会議と連携を図りながら基本的考え方をまとめ,それらをもとに「各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議」を中心に実行に移すべく審議が進められている.

最近の電子カルテの機能と運用の課題

著者: 高平敏男

ページ範囲:P.1009 - P.1012

 電子カルテシステムに関しては保健医療福祉システム工業会(JAHIS)1)や日本医療情報学会(JAMI)2)等において定義されているが,1つの観点から見れば健康情報連携を効率的に行うツールと位置づけることができる.狭義の意味では病院などの施設においてオーダエントリシステムをはじめ,看護支援システム,薬剤管理システム,医事会計システム,物流管理システム,経営管理システムなどとの情報連携により,より安全で効率的な医療業務への貢献を支援するツールの1つである.また,広義の意味においては,昨今のグランドデザインや重点計画にも謳われているように,個人の検診,診療,福祉情報を生涯を通じて連携させるツールとも定義することができる.無論,狭義の意味での電子カルテシステムは,広義の意味での電子カルテシステムを構成する一要素であることは自明である.本論においては,主に狭義の意味においての最近の電子カルテシステムの普及状況,機能,運用上の課題について述べる.さらに,広義な意味において今後に向かっての展望についても述べる.

【座談会】電子カルテをここまで活用している

著者: 紀ノ定保臣 ,   酒井順哉 ,   平川秀紀 ,   神野正博

ページ範囲:P.1013 - P.1020

神野 本日は,テーマを「電子カルテをここまで活用している」と銘打って,各方面でご活躍の先生方にお集まりいただきました.電子カルテは普及も進み,その役割や導入の利点といった議論は既に終わっていると理解してよい時代ではないでしょうか.そこで次の段階としては,電子カルテによって集めたデータの活用法ではないかと思います.

 また,今年国が打ち出した「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」は広い範囲での情報化の指針です.あるいは2011年までに必須化されるレセプトオンライン化,あるいは特定健診のコード化によっても,さまざまな情報が否応なしにデジタル化されることになります.まさにこういった時代に,私たちは電子カルテとどうつきあっていくべきかを考えてみたいと思います.

【医療のIT化 最近の事例集】

患者安全と病院経営に必要となるコード・バーコード標準化

著者: 酒井順哉

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 特定機能病院および一部の民間病院において,2003年4月から診断群分類・包括評価(DPC : Diagnosis Procedure Combination)の導入が始まり,診療報酬請求が出高払い制から包括払い制への移行に伴って,クリニカルパス(Clinical Pathway)を積極的に導入し,医療材料のスリム化とともに,入院在院日数を短縮することが病院経営向上のための不可欠な条件となった.

 病院経営において医療材料の支出の抑制は重要であり,医療の特殊性から少量多品種の傾向にあるため,院内在庫量の継続的なチェックを行いながら,在庫金額から在庫回転率(=出庫金額/在庫金額),在庫回転期間(=在庫金額/月平均出庫金額)を算定し,ABC分析などの手法で適正な最小限の安全在庫数量を決定できる医療材料物流管理システム導入が不可欠である.しかし,従来の医療材料物流管理システムは,医療材料の入出庫・棚卸しを中心とする在庫管理や,患者に使用した医療材料を医事会計システムに役立てる運用をその主な目的に発展してきたため,医療材料単品のフロー(流れ)を把握し,患者安全の確保や診療業務の評価を行うには不適当であった.

 今回,オーダリングシステムや電子カルテシステムで発生する「もの」の流れのリアルタイムな把握を医療材料物流管理システムで連動させることで,患者安全の確保や病院経営の向上を可能にする考え方を提案するとともに,それに必要となる標準バーコード(GS 1-128)と医療機器データベースの活用の意義について述べる.

患者に渡すCD―IHE PDIや厚生労働省電子的情報交換推進事業(SS-MIX)

著者: 木村通男

ページ範囲:P.1026 - P.1031

 従来,紹介などにおける画像の提供はフィルムで行われてきたが,最近は画像標準の浸透とMDCT(マルチスライスCT)の普及に伴い,CDで提供されるケースが増えている.しかし一方で,閲覧に特定ブラウザをインストールする必要があったり,データ形式にブレがあったり,数百スライスあるにもかかわらず,画像が取捨選択されていなかったりと,受け取り側への配慮を欠くケースが増えている.写真は実際連携部に寄せられる画像CDである.手書きのCDを病院ネットワークにつながったHIS(Hospital Information System)端末に入れるのは,勇気が必要であろう.

 一方,2006年6月に,厚生労働省(以下,厚労省)医政局から,標準的形式であれば各種書類を電子化して差し支えなく,患者の求めがある場合,診断書と同様に診療情報(画像含む)を提供することで,明記された代金を徴収してもよい,という通知が出た.これに続き,もともと静岡県版電子カルテとして開発されてきた電子紹介状・患者への診療情報提供のサブシステムが改良されて,厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)として全国で利用できることとなった.

 本稿では,患者への情報提供のあり方について私見を述べるとともに,上記の推進事業について概説する.

経営に生かす電子カルテ

著者: 平川秀紀

ページ範囲:P.1032 - P.1036

 2001年のe-Japan計画以降,毎年重点計画が発表され,本年の計画では2010年には「いつでも,どこでも,誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」と謳われている.当初,2006年までに400床以上の病院の60%以上での電子カルテ導入が目標とされたが,診療報酬の大幅引き下げをはじめ医療をめぐる環境の悪化などにより,計画を大きく下回っている状況にある.しかし.厳しい医療環境にあればこそ,効率的な病院運営と医療の質を高め地域の中で生き残っていくため,IT化を行い,その果実を十分に享受していくことが必要と考えられる.医療情報システムのIT化の目的は,①病院運営の効率化,②業務の見直し,分析,改革,③部門間の情報の共有化,④医療安全,認証,パス,⑤医療の質の向上,⑥診療情報以外の部分の効率化(物流など),⑦病院の経営管理,⑧診療情報の病診連携への活用などがあり,①~④まではそれなりの成果は上がっていると考えられる.今後は⑤~⑧の項目に対して,診療情報データや経理データを突き合わせながら診療支援や経営支援を行っていくことが,IT化の成否につながるものと考えられる.

臨床指標と医療オントロジーによる地域医療ネットワークの今後の姿

著者: 柴田真吾

ページ範囲:P.1037 - P.1042

日本の医療情報活用

 わが国ではこれまで,標準化された医療情報の集積や共有化が効率的に行われず,統計学的・疫学的なデータに基づいた質の高い研究や医療の質を評価するためのデータがほとんど存在しなかった.しかし2003年から開始されたDPC制度により,調査対象病院・支払い対象病院の約1,400病院(病床数合計45万7,691床)の診療データが「DPC」という標準化された言語で現在収集されており,これはわが国の全病床数の半数のデータ収集が行われていることになる.

グラフ

崇高な理念のうえにITが生きる―黒部市民病院

ページ範囲:P.981 - P.984

 1948(昭和23)年に下新川厚生病院として開設された黒部市民病院は,開設以来,新川医療圏の地域中核病院として圏域住民約13万人の命と健康を守るためにあらゆる機能を担い,その役割を果たしてきた.不妊治療や骨髄移植など高度先進医療を提供する一方で,地元医師会と地域医療連携ネットワークを構築するなど,まさにオールラウンドプレイヤーといったところだろうか.

 こうした活動の底流には,病院憲章として初代院長草野久也氏が遺した「日々念心」がある.これは,病院の使命として患者のために不断の努力の大切さを謳ったものであるが,職員の行動の基本方針として掲げられている「患医一如」(患者と医療人がともに悩みながら喜び合う医療)とともに,病院の人格を形成している.今回,同院の電子カルテシステムの開発と運用を中心に紹介するが,そこに携わる人々の熱意と信念は,同院が築き上げてきた精神性に依拠するところが大きいのではないかと思われた.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・12【最終回】

照明6 心と体に作用する色と光

著者: 手塚昌宏

ページ範囲:P.986 - P.987

■反射色・透過色・光源色

 米国アリゾナ州のPhoenix Children's Hospitalはとても刺激的な病院である.外装に8色,内装に32色も使用したカラフルな子ども病院で,数々の建築・デザインに関する賞を受賞している.フェニックスの強い太陽光を浴び,外装の色彩が目に飛び込んでくる.それは不快ではなく元気を与えてくれるように感じる.風除室のガラスは色がついていて,太陽の透過光が床に色のパターンを作り出し,目を楽しませる.病院エントランスホールに入ってからも,空間と色彩,光の変化で,子どもにも大人にも心地よい刺激を与えている.廊下には様々なアートが置かれている.センサーが人の動きに対応して光の色を変化させるプレイアートは子どもに特に人気がある.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・19

在宅ケアにおけるMSWの役割

著者: 高野和也

ページ範囲:P.1043 - P.1045

 筆者が勤務する診療所は在宅療養支援診療所として,24時間体制で患者さんと家族が自宅で過ごす支援をしている.このような特徴をもつ診療所で,筆者を含め5名の医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)が多職種チームの一員として「相談支援」「訪問診療同行」「啓蒙活動と教育および研究」に携わっている.在宅ケアにおけるMSWの役割について紹介したい.

職場のメンタルヘルス・9

働き甲斐の実現―事務長の人間関係

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.1046 - P.1051

 どこの職場でも仕事の忙しさや,人間関係の障害から心身の不調を訴える人が多くなっている.内閣府「国民生活選好度調査」の統計によると,今や正社員の3人に2人が,「5年前に比べると仕事の負担や責任が増大した」と答えている.また,厚生労働省「労働者健康状況調査」によれば,働く人たちの10人に6人は,職業生活をストレスと感じている.その主な理由を尋ねてみると,「働き甲斐がない」と答える人が多いことに驚く.2006年に読売新聞社の行った世論調査によると,「日本人は人間関係が希薄になっている」「人づき合いが悪くなった」と答えた人が,80%以上に達していることがわかった.しかもこの結果は大都市よりも,中都市や町村で急激に増えており,人とのつながりの喪失感が大都市だけではなく,全国的に広がっていることを物語っている.職場でもコミュニケーションや支え合いが減ったと感じる人は4人に1人にのぼり,「働き甲斐がない」と感じている人が急増している.では職場で働き甲斐を持つには,何が必要であろうか.そのことについて,筆者は3つのことを提言したい.

 まず1つ目は,働く人たちが職場で必要とされたり,認められていると思えることである.2つ目は,自分の意見や気持ちを気兼ねなく表明できること,場合によっては悩みも相談できることである.3つ目は労働条件である.給料をはじめ,労働環境,休日,厚生施設などに恵まれていることである.しかし今,職場では給料に格差が生じたり,長時間労働を強いられたり,責任を取らされることが多い.特に病院の労働環境は厳しいものがある.世界の主な先進国における長時間労働者の比率を見ても,日本の労働者たちは,いかに過酷な労働条件を強いられているかがわかる1).厚生労働省の統計によると,過重労働,特に時間外労働が月に100時間以上になっている人たちは,脳血管疾患,虚血性心疾患,うつ病,自殺などの健康障害が高いというデータがあり,休息や睡眠時間が十分に取れないという裏付けもある.こうしたことから,最近ではどこの職場でも「ワークライフバランス」ということが言われるようになった.いわゆる仕事と生活の調和であり,これによって労働意欲と生活の充足を図るという狙いがある.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・3

1%の可能性

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 お母さんが倒れたとの連絡を受けたCさん.あわてて病院へ行くと,すでに意識はなく,その体は点滴や心電図のコードだらけだった.そういう情景は初めてだったが,厳しい状況にあることはわかった.

 医師の話では,すでに臓器の一部が機能せず,完全に回復するのは極めて難しい状況.医師は「急変した場合の対応を聞かせてほしい」と言った.

病院管理フォーラム ■医療経営と可視化・3

Pay for Performanceと可視化

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.1054 - P.1056

●P4Pと成果主義

 今回は,あちこちで話題に出るPay for Performance(P4P)と可視化について取り上げてみたい.そもそもPay for Performanceとは,給与の支払いに用いられて知られている.ある意味では悪名高い成果主義のことである.

 米国では75%の企業にこの考え方が導入されているというし,日本でも日本経済新聞社のデータ(2005年調べ)によると,上場企業や有力企業の86.7%が成果主義を導入しているという.今回は,可視化といった病院経営あるいは人事評価にも関係するテーマなので少しここを見ておこう.

■医事法・8

医療水準と新規医療

著者: 植木哲

ページ範囲:P.1057 - P.1059

●新規医療(未確立医療)

 これまで医療水準に関連して医療慣行や医療裁量の問題を検討してきました.もう1つ,新規医療(未確立医療)の位置づけの問題があります.医療の進歩は日進月歩の状態にあり,新しい医療技術が続々と開発される一方で,当然そこには,まだ十分に確立されていない医療が実施される可能性があります.基本的に,個々の医師の医学・医療に関する知識は過去の医学教育によって培われたものだからです.ここで学問(教育・研究)と技術(実践)の間に齟齬が生じることになり,さらにそこから深刻な法律問題が生じます.

 また,医師には大幅な医療裁量が認められ(前回参照),現場の医師がどのような対応をとるべきかについては,その判断は医師に任されています.医師はプロフェッションとして職務の研鑽に励むべきことは言うまでもありませんが,この義務は新規医療(未確立医療)に対してどこまで及ぶのか,また,病院はこの新しい治療法の開発や採用に向け医師をどこまで研修させる必要があるのかが問われます.これは新人医師の研修だけでなく,専門(総合)病院が新しい治療法に取り組む際の,研修システムのあり方とも関係します.

医療動向フォーラム ■DPCの今後を予測する・5

DPC病棟と非DPC病棟の棲み分けや診療報酬のあり方(3)―DPC二階建て実現時の運用イメージ

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.1060 - P.1061

 本誌10,11月号で日本DPC協議会が提唱するDPC二階建て構想を紹介してきた.今月号では,これまでの議論をまとめ,さらに二階建てが実現した場合の地域医療のイメージと運用のイメージを紹介する.


●これまでの議論のまとめ(10,11月号の復習)

 今回の提言の前提は,現在DPCによる支払いを受けている病院や調査に参加しているDPC病院よりも,現在出来高で支払いを受けている一般病床(非DPC一般病床)のほうが,包括払いに適しているということである.包括払いが適している病院とは,「標準的な医療で対応可能な患者の比率が高い」病院であり,別の言い方をすると,「例外的な患者や特殊な患者が少ない」病院である.一般病床を,DPCによる支払いを受けている「DPC病院」と,DPCによる支払いを受けていない「非DPC病院」に分けた場合,標準から外れた医療を必要とする患者をより多く集めているのは,現在の「DPC病院」のほうであろう.標準的な医療で対応可能な患者の比率が高い病院が包括払いに適した病院という原則から考えるならば,現在の「非DPC病院」に対して包括払いを行い,現在のDPC病院に対して出来高払いを行うほうが,理に適っていると言えるだろう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第155回

大阪府済生会中津病院

著者: 川島克也 ,   土井一浩 ,   下坂浩和

ページ範囲:P.1062 - P.1067

都心型病院の再生整備

 大阪府済生会中津病院は1916年に創立され,1935年に現在の敷地に移転開院して以来,70年以上にわたって都心・地域の医療活動に貢献してきた.1980年代には高層棟3棟を増築する第1次整備計画により拡大発展を遂げ,医療・福祉・保健の3本柱を担う済生会中津医療福祉センターを形成するに至った.しかしながら近年のめざましい医療技術の発展への対応に加え,より良い医療の提供を実現に向けた病院施設のニーズに応えるため,今回第2次整備計画が執り行われることになった.

 計画の基本方針としては,下記の3点が掲げられた.

・都心立地を最大限に生かす

・設立時の理念・歴史を継承する

・既存建物を有効活用する現地建替えとし,病院を運用しながら改修する

リレーエッセイ 医療の現場から

ダイアログ・イン・ザ・ダークを通してみてきたこと

著者: 金井真介

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下,DID)は1989年にドイツで始まったプロジェクトで,完全に真っ暗な中で,日常空間を視覚以外で体験するというものです.7人1グループとなり,各グループに1人,アテンド(案内役)がつきます.アテンドは,視覚に障害を持った人です.これまでに世界20か国で200万人以上が体験し,開催する国や都市によって中身は異なりますが,「参加者がグループになる」「視覚障害者が案内する」というコンセプトは変わりません.

 私とDIDの出会いは1993年頃,日経新聞の記事で,ウィーンでのDID開催を知ったことがきっかけでした.バリアフリーやユニバーサルデザインといった概念も普及していなかった当時,衝撃を受けたのを覚えています.さっそく主宰者のハイネッケ氏に「日本でも開催できないか」と手紙を書きました.その後実際にDIDをローマで体験して,あらためて「これはすごい」と感じ,1999年に日本で初めてDIDを開催しました.これまでに約3万人が体験しています.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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