icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院66巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 変革に立ち向かう病院―病床削減と人材難に対処する

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.285 - P.285

 医療制度改革関連法が成立し,それぞれ改正法が実施の段階を迎えて病院はかつてない変革を迫られている.介護療養型医療施設の5年後の廃止が確定し,医療療養病床も先の診療報酬改定における療養病棟入院基本料の医療区分に応じた支払方式により,大規模な病床削減または転換を余儀なくされようとしている.また,急性期医療における7対1看護基準の導入は,看護師の集約化による在院日数の短縮と病床利用率の低下の傾向を強めて,結果として病床規模の縮減をもたらすことが見込まれている.

 一方,新医師臨床研修制度の運用を契機にして顕在化した医師の地域間・診療領域間の偏在は,病院に深刻な医師確保困難の問題を突きつけた.病院を去る医師の事例が続く中で,患者確保の課題もさることながら,病院機能の基盤となる医師・看護師等の人材確保が最重要課題となっているのが,改革の只中にある現段階の病院の姿であるといえる.

 本号においては,一連の制度改革の全体像を俯瞰したうえで,それぞれの政策的意図を改めて検証して今後の改革の進捗を見通すとともに,病院として今後の改革課題にどのように対応すべきかについて考えておきたい.また,医療施設体系の見直しや医師等の需給に関する政策課題がすでに検討されつつあり,病院は今後のさらなる改革の行方を見ておく必要があろう.

医療制度改革が病院に求めるもの

著者: 大道久

ページ範囲:P.286 - P.290

 医療制度改革関連法が,2006年6月に可決・成立した.関連法は健康保険法の一部改正や第5次医療法改正を中心としたもので,現行の老人保健法も「高齢者の医療の確保に関する法律」として一新され,後期高齢者医療制度が創設される.1990年代から論議されてきた超高齢社会に向けた新たな医療保障制度の枠組みが一応整えられ,それらの一部はすでに施行に移されている.

 今回の医療制度改革の内容は,少子高齢化の急速な進行を見込んで制度の抜本的な見直しを図ろうとするものであり,病院の対応もかつてなく厳しいものになっている.本稿では,病院に求められる多岐にわたる課題のなかから,まず健康保険法の一部改正による医療保険制度改革の全体像を俯瞰したうえで,医療法改正に伴う情報提供の促進と医療計画制度に関連したものを中心に述べておく1)

【今後の医療提供体制の再整備に向けた課題】 医師の動向について

著者: 井内努

ページ範囲:P.292 - P.297

 今回は,近年の医師の動向について,客観的なデータを提示し,その動向を検討した.医師の偏在,原因についての認識は,さまざまな見解があることを踏まえて,可能な限り根拠データを記載することとした.

 利用したのは,平成16年度までの「医師・看護師・薬剤師調査」,平成18年8月の「新医師臨床研修制度の評価に関する調査研究」のデータを中心とした.「臨床研修に関する調査」(平成18年3月の調査)は,新しいものであるが,医師全体の動向を示す「医師・看護師・薬剤師調査」については平成16年12月のものであるため,最新の情報とは言い難い.現在,平成18年12月に行われた調査の集計中であり,最新の実情を見るには,この結果を待たなければならない.

 また,厚生労働省における対策については,現在の主なものを挙げた.

【今後の医療提供体制の再整備に向けた課題】 看護師需給施策

著者: 小野太一

ページ範囲:P.298 - P.300

 「看護師需給対策」について,というお題をいただいているが,これについては短期的,中長期的両方の視野で考えていく課題であると認識している.


いわゆる「7対1」について

 短期的な議論としては,いわゆる7対1入院基本料をめぐる問題が挙げられる.ご存じの通り,平成18年度診療報酬改定において新設した7対1入院基本料の影響については,中央社会保険医療協議会(中医協)で,昨年11月29日以降集中的に議論を行ってきたところである.これは急性期医療の看護体制に対し評価を充実する趣旨で設けられたものであるが,7対1入院基本料を採るために各病院が看護師確保に尽力し,結果として一部において看護師不足の事態が起きてしまっているのではないか,という課題である.

 これについては,実態把握のため,7対1入院基本料の届出状況や,国立大学病院等大規模病院,公的医療機関における新卒者の採用動向,看護師養成所卒業予定者の就職内定状況に関する調査を行うとともに,日本医師会,全国自治体病院協議会,日本看護協会にからもそれぞれ需給に関する調査結果を提出され,客観的データに基づく議論が行われたところである.

病床機能区分のゆくえ

著者: 濃沼信夫

ページ範囲:P.302 - P.306

病床区分は制度改革の柱

 昨年2006年6月に成立した医療制度改革関連法のねらいは,今後20年間にわたる医療財源と医療資源の持続性を確保することである.前者は財政破綻,後者は医療崩壊を回避するため,それぞれ健保法等改正,医療法等改正として改革の大枠を規定している.既に決まっている医療のルール変更は,2006年10月(高齢者自己負担引き上げ),2007年4月(社会医療法人の創設),2008年4月(新たな高齢者医療制度)など,さみだれ的に実施に移される.まだ決まっていない多くの具体的事項は,政省令等で今後定められることになる.これは,今回の改革の最終年である2025年まで,行政への働きかけ等を通じ,あるべきルール変更を実現する機会が少ないことを意味する.

 病床の機能に関わる改革で,既に明らかになっている方向は,健保法等改正における介護療養病床の廃止(2012年4月)と,第5次医療法改正における医療計画の見直し(2007年4月に基本方針)である.しかし,病床の機能に関わる事項は,この2つにとどまらない.後述のごとく,医療制度改革の各種施策のベクトルは,その多くが病床数適正化に向かっていると考えられる.病床数適正化という,今後四半世紀のメガトレンドにおいて,病床の機能区分のあり方が鋭く問われていると言える.

医師需給の現状と展望

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.308 - P.313

 ここ1~2年,日本の医療界では「医師不足」が語られ始め,それがさらに社会現象の感さえ呈し始めている.1980年代に「医師過剰」が問題とされていたことから考えると,隔世の間を禁じえない.事実,70~80年代は医師需給検討委員会の開催毎に「過剰」の記事が現れていたのに対して,ここ1~2年「医師不足」の記事が急増している(図1).それは病院の現場から40歳前後の活動的な医師が相次いで辞め,「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれる現象と呼応している.医師リクルート会社による大学医局長アンケートでは,大学医局での認識も80~90年代前半には,新設医大創設ラッシュの結果,「医師過剰時代が到来する」との意見が多かったものが,2000年前後を境に「過剰ではない」にシフトしており,既に現在の予兆が存在していたことがわかる(図2).

 しかし,本当に医師は不足しているのであろうか.毎年7,700名もの新たな医師が誕生し,毎年リタイアする医師がいるものの,医師数は着実に増加している.一方,ここ1~2年で急激に需要が増加した事実はない.むしろ,外来は全体に減少傾向とさえ言える.また,一部の診療科では病院,診療所共にむしろ過剰が問題となっている.

【鼎談】人材難時代の病院経営 看護師確保困難をどう乗り越えるか

著者: 相澤孝夫 ,   楠本万里子 ,   神野正博

ページ範囲:P.314 - P.322

神野 戦後,今ほど深刻な人材にかかわる変革が起こった時期はないのではないでしょうか.医師とともに看護師の人材難がクローズアップされています.この原因は単に7対1という新しい看護基準ができたためだけなのでしょうか.この医療の質の確保,安全の確保,そして病院経営の健全化の点からきわめて危機的な状況の中で,看護師確保困難をどう乗り越えるか話し合ってみたいと思います.

 まず,自己紹介します

 私は石川県七尾市という人口わずか6万2,000人の過疎地域で,454床の恵寿総合病院を基幹とした,診療所,老健,社会福祉施設を経営しています,特定特別医療法人董仙会の理事長であり,恵寿総合病院の院長をしております.

 恵寿総合病院は,もともとは454床全部が一般病院だったのですが,モデルチェンジを図っておりまして,障害者病床80床,回復期リハ48床,亜急性20床,その他は一般と重症管理加算病床ということで,ある程度フルメニュー的にやっています.本体病院とは別に154床の療養病院が1つあり,老健,特養と一緒に動かしています.

「変わる病院」戦略的事例:ダウンサイジング 夢は持っているか?―持続的に成長する医療福祉事業体の条件

著者: 小山敬子

ページ範囲:P.323 - P.325

 私たちのグループの取り組みは,紹介される時に「ダウンサイジング」とか,「多角的経営」という見出しが必ずつく.しかし,これでは夢がない.「ベッドを減らす=ダウンサイジング」で,「それだけじゃどうしようにもないから,何か別の仕事探さなきゃ」という,「でもしか」転職としての多角経営をしようということでは,よい事業体を作ることは難しい.私たちの取り組みはそのような薄っぺらなものとは無縁のものなのである.

「変わる病院」戦略的事例:病床転換 メディカルナーシングケアビレッジ住慶構想―従来型施設から,住まいへの転換

著者: 阿部知哉

ページ範囲:P.326 - P.328

 平成18年6月に成立した医療保険制度改革法案によって,平成23年3月31日までに,医療機関の療養病床が約38万床から約15万床に削減されようとしている.それに伴い,新聞紙上で「介護難民問題」が盛んに取り上げられているが,療養病床再編成問題は約10年前からの議論であり,今さら騒ぎ立てる事象ではない.注目すべき点は,日本が世界でも例を見ない急激な速度で高齢社会を迎えたということであり,それに伴って急激に膨張する高齢者の医療費である.

 近年,全国の医療機関(一般病院・精神病院)に対して医療の専門化・高度化が国民から要求される一方,入院期間の大幅な短縮に対する要請が強まっている.かつて昭和63年における病院開設規制の発端となった「社会的入院」の言葉が再び頻繁に使われるようになったが,この「社会的入院」が発生した要因として,わが国の「家族構造の変化」が挙げられる.戦後,日本の社会は経済生活と日常生活との区分が明確化され,世帯規模の縮小が急激に進み,その結果,身体的あるいは経済的に一人では自立できない構成員を扶養するという家族の大きな本来機能が喪失された.この「扶養」の受け皿として,平成4年の医療提供体制の見直しによって生まれた「療養型病床群」(以前の老人病院)が担うことになったのである.

「変わる病院」戦略的事例:自治体病院再編 岩手県立釜石病院と釜石市民病院との統合事例

著者: 小山田惠

ページ範囲:P.329 - P.331

 釜石市は,岩手県三陸海岸の中央に位置し,太平洋と北上山地に挟まれた人口43,000人の中都市で,かつては新日鉄釜石製鉄所が町の活力を支え,最盛時は人口10万人を超えていたが,新日鉄が引き揚げ,製鉄所の煙が消えてから町は急速にさびれ,人口は年々減っている.この町に規模と機能が似通った4つの病院があり,この中に県立釜石病院と釜石市民病院という2つの自治体病院がある.両病院共に医師不足と経営悪化という共通の課題を抱えてきた.両病院の運営状況は表に示す通りである.

 県立釜石病院は病床数272床,釜石市民病院は250床であるが,医師の充足率は共に80%,患者数は年々減り病床利用率も悪い.経営状態も悪く,累積赤字は2003年で県立病院が7億9,700万円,市民病院は28億4,300万円になっていた.医師の派遣元は,県立病院が岩手医科大学,市民病院は東北大学であった.2003年12月,市民病院の院長は市議会においてこの状況を説明し,この窮状から脱却するためには両病院の統合以外にないと訴えた.これを受けて市長,市議会が動き出し,市政課題懇談会等多くの会議を開催して広く意見を聞き,その後県知事との合意のもとに「釜石地域医療提供のあり方検討会」(2004年4~9月),さらに専門部会を作って医療提供体制のあり方について具体的意見の集約を図った.専門部会には,県,市,両大学の代表,両病院長,地域代表者らが入った.私は自治体病院代表という立場もあったが,東北大学出身である一方,県立病院に永年勤務して両病院の事情を熟知しているということでこの会の委員に加わり,また個別的に県,市からの相談に応じてきた.

「変わる病院」戦略的事例:非自治体病院再編 病院の統合と活性化

著者: 川上義和

ページ範囲:P.332 - P.335

 国家公務員共済組合連合会(KKR)は,財務省管轄の認可法人(特殊法人の1つ)である.直営病院25,旧令病院11を擁し,ほとんどが戦後まもなく発足,国家公務員とその家族ばかりでなく一般国民に開かれた医療機関である.

 1997年,経営状況が健全でない病院を整理統廃合するため「直営病院再編・統合計画」が決定され,具体的な動きが始まった.旧幌南病院と旧斗南病院は同じ札幌市にあり,いずれも1952年前後にそれぞれ結核療養所,職域診療所として出発したが,順次一般病院へと脱皮を図り,北海道民に高度,良質の医療を提供するべく努力してきた.しかし,一方の病院に巨大な累積赤字があったため統合することになり,長年にわたる推進期間の後,両病院は2006年4月をもって統合を完了し,KKR 札幌医療センター(本院)と KKR 札幌医療センター斗南病院(分院)となった.

 ここでは,この統合の経緯とアウトカムを紹介して大方の参考に供したい.

「変わる病院」戦略的事例:医療連携 混乱の波涛の中から

著者: 佐藤喜一

ページ範囲:P.336 - P.338

 2001年の3月,私は岐路にあった.「日本の医療」の未来がどうしても判断できなかったのである.お金がなく高齢化と少子化が押し寄せてくるのは誰にでもわかることであった.医療を一次・二次・三次の階層集約化の方向にもっていく等,話題は数多くあったが,国民医療はどのようにあるべきなのか,厚生労働省(以下,厚労省)はその一番大切なビジョン(あるべき姿)を明示してくれなかった.私は,これからの激動の時代に立ち向かえるリーダーを選別していた.

 翌4月,診療報酬改定が発表された.この時初めて,私はかつてない衝撃を受けたのである.国民医療の未来を心配するという生真面目な幻想どころか,ただひたすらお金をきりつめることしか考えていない.「日本の病院を潰す」というのは本気なのである.「明日からでも激流に投げ出されるのだ」と覚悟を決めた.

 しかし考えてみれば,厚労省のお役人も大変だ.今まで高齢者医療費の無料化・必要性のない保養施設の建設など,前門には昔の政治・行政のムダ遣いがあり,後門には少子高齢化の難問の板ばさみの中で,出るはずのない答えを出さねばならぬのだから.

グラフ

臨床栄養管理をすべての治療の基盤として徹底―医療法人近森会 近森病院

ページ範囲:P.273 - P.276

臨床栄養部誕生に至るまで

 本年3月,近森病院に臨床栄養部が誕生した.それまで栄養科として診療部内に位置づけられていたが,独立させたことで当院の臨床栄養管理を重視する姿勢がより明確に示された.管理栄養士は,現在,近森会全体で23名(近森病院11名).5年前までは全体で4名(近森病院1名)であったのだから,驚くべき増員である.

 透析医である近森正幸理事長・院長は,「低栄養の改善とリハビリが,廃用症候群を防ぎ治療効果を高める.合併症も減少する.特に高齢者ではそれが顕著である」と,栄養管理の重要性を感じていた.5年前(2002年1月)に当院に着任した管理栄養士の宮澤靖氏(NST:NutritionSupportTeam活動の先駆者の一人)の力を得て,臨床栄養管理体制を整えてきた.

 管理栄養士が病棟で患者をみながら栄養管理をするようになって,褥瘡が改善することがデータとして表れ,医師・看護師らもそのことを実感するようになると,院内でNST導入の要望が強まった.その結果,2003年7月に栄養委員会が正式に発足し,高知県初のNSTがスタートした.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・4

照明2 色彩を美しく,人を美しく見せる光

著者: 手塚昌宏

ページ範囲:P.278 - P.279

■色彩計画は光源で変わる

 店舗で見た商品の色が,購入後,家や屋外で見た時に違う色に見える.これは,多くの人が経験されていると思う.ものの色の見え方は,光(光源)と物体の色との関係で変わる.それぞれの光源の持つ紫から赤のエネルギー分布により,物体の反射,吸収が異なるため違った見え方になることがある.同じ見え方を求める時は,最初に見た時と同じ光源で見ることである.例えば,色彩を決定するプレゼンテーションの部屋と実際の部屋の照明光源が異なれば色の見え方は違うものである.

 その間違いをできるだけ少なくするためには,光源の色彩の再現性を評価する平均演色評価数(Ra)の高い光源にすること(最低でも80以上の光源)も一つの方法である.また光色によっても異なって見えるので,光色を数字で表す色温度を参考にする.青白い光源は色温度が高く,オレンジ色の光源は低い.暖かい雰囲気,涼しい雰囲気,いずれも光色の調整だけで大きく変わるので,照明計画・色彩計画においては十分に検討したほうが良い.

 内装材が木質または暖色に統一されている場合は,あまり色温度の高い青白い光源で照明するとその良さが出てこないので,暖かみのある低い色温度の光源を使用することが効果的である.隣り合う環境の照明光源が大きく異なると同じ色彩も異なって見えることもある.また,内装色の反射によって,空間全体の色も変わる.ホテルの宴会場などの赤い絨毯によって天井が赤く染まって見えるのはその例である.色彩を美しく,色彩計画の良い効果を得るためにはそれを生かす照明計画が存在する.

職場のメンタルヘルス・1【新連載】

新医療制度と経営者の悩み

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.340 - P.345

 近年,働く人たちのメンタルヘルスの不調が叫ばれている.その9割以上をうつ病,心身症,不安障害(神経症)が占めており,特にうつ病は働く人たちの5%にも及ぶのではないかと推測されている.ある健康保険組合のデータによると,3万人いる組合員のうち,3分の1近くが抗不安薬や抗うつ薬を処方されているという.また,自殺者数も1998年から毎年3万人以上になっている.これは交通事故で亡くなる数の5倍であり,自殺率ではアメリカの2倍,イギリスの3倍,いわゆる旧資本主義国家の中では日本が最悪な状態である.

 今や,メンタルヘルスの問題は労働衛生上のトップ課題に位置づけられ,働く人たちだけでなく雇用する側も真剣に取り組む姿勢が見え始めている.そしてそれは,病院も例外ではない.

今,なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学・11

医療における地域ネットワーク形成

著者: 島津望

ページ範囲:P.346 - P.349

ケアの供給体制と医療サービスの特性について

 わが国におけるケアの供給体制が,変化しつつあります.その変化とは,人々の受ける医療や介護といったケアが,一つの病院や施設の中で完結される型から,在宅を基本として地域にある多様なケアの資源を使いながら行われる形に移行することです.つまり,今後のケア提供体制は,連携あるいはネットワークの仕組みを取り入れた形になると考えられます.連携とネットワークは,それぞれ別の概念だと思われますが,その点については最後に触れたいと思います.とりあえずは,一つの組織だけでケアを提供しているやり方が変わるということを確認しておきましょう.

 次に,ケアの供給において,連携やネットワークが必要とされることの根拠を,ケア・サービスの特性から考えてみましょう.

 なお,ここでいうケアとは,医療や福祉など個別のサービスの枠組みを超えて,人間の存在そのものに関わる問題を解決するために,専門的,対人的に提供されるサービスを指します.この連載は,医療経営学についてでありますが,いまや医療だけを取り出して語ることはできない時代になってきています.そこで,ここでは医療や介護をまとめてケアということで表現したいと思います.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・11

患者と医療機関の期待に応えるMSW―MSW 雇用ニーズと退院援助101事例の援助効果をもとに

著者: 小嶋章吾

ページ範囲:P.350 - P.353

医療ソーシャルワーカー業務指針と退院援助

 医療ソーシャルワーカー(MSW)は,入院医療・在宅医療のいずれにおいても患者の療養生活の支援にとって重要な役割を演じている.

 現状では精神保健福祉分野のみ精神保健福祉士(PSW)が制度化され,MSW全体をカヴァーする資格制度が未整備のため,社会福祉士資格で代替されることが少なくない.だが,MSW は少なくとも『医療ソーシャルワーカー業務指針』注1)が示す,6つの業務の展開が求められている(表1).

 とりわけ医療機関の機能分化と在院日数短縮への圧力のもとで,転院や在宅医療への移行といった “移動を伴った医療”注2)が不可避となっている現状において,MSWへの期待は,“退院援助” に向けられている.MSWによる退院援助は,単に退院促進にとどまらない多角的な効果を生む.それは患者・家族への援助効果とともに,医療機関への貢献,さらには地域や社会への貢献も含まれる.

 本稿では,2006年に筆者も参加して実施した医療機関経営者への MSWの雇用ニーズ調査と,MSWへの退院援助事例調査という,2つの調査研究結果をもとに,MSWによる “退院援助” とその多角的な援助効果が,医療機関の期待にいかに合致しているかを提示する.

病院管理フォーラム ■バランスト・スコアカード

目標管理,部門管理に活かすBSC

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.354 - P.357

●マネジメントサイクル

 病院全体での取り組みや方針だけでなく,各診療科や看護部,病棟や中央部門の各部などそれぞれの部門で年度方針や部門目標を掲げる病院は多いだろう.ただ,そういった方針や目標をきちんと実行し,着実に成果を出しているかとなるとその数は随分少なくなるように感じられる.そもそもそれらが実行されたかどうかのチェックさえ,なかなかできないこともあるだろう.

 当初立てた方針や目標が実行されなかったり,また実行されたとしても思ったより成果が上がらなかったりするのは,多くの場合 PDCA,つまりマネジメントサイクル(図1)がきちんと回せていないことに原因がある.Plan, Do, Check, Action (Assessment/ Adjust)からなる PDCA については,多くの方がその重要性を認識されていると思う.ただ,実際どのようにそれを回せば良いかとなるとピンとこない,という方もいるのではないだろうか.

 今,医療機関ではバランスト・スコアカード(以下BSC)への関心が高く,その導入も進んでいる.この BSC は,指標管理の方法論として知られているかもしれないが,PDCA のマネジメントサイクルを回す有用な手法や考え方が含まれている.本稿では BSC を活用してマネジメントサイクルを回すポイントを,Plan, Do, Check, Actionの項目ごとに概説したい.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第147回

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター

著者: 岩堀幸司 ,   橋出謙一

ページ範囲:P.358 - P.362

 「県立南部医療センター・こども医療センター」は,那覇市に隣接する南風原町の三大森のひとつ「新川森あらかわむい」を背後に控え,森によって集落や農地が台風や北風から守られるという沖縄の思想にもとづく地に立地している.近くには世界遺産に指定された首里城がある.434床の新病院は,旧県立那覇病院の改築に伴い,こども病院を併設したことに特徴があり,成人部門と合わせることで医療設備,人的資源の活用を図った.こども医療センターは総合受付,外来,病棟を成人部門と独立して設け,手術室や検査部門は共用している.

 一般医療に加えて,救命救急機能,母子総合医療機能,離島医療支援機能,臨床研修機能,地域医療連携機能,国際医療協力機能を備えている.沖縄の文化,自然と調和した元気の出る病院,21 世紀の新しい医療を提供できる医療空間を目指した.

リレーエッセイ 医療の現場から

最近の医師不足,看護師不足問題について

著者: 谷野亮爾

ページ範囲:P.367 - P.367

 “医療崩壊” がここ半年,ほぼ連日マスコミで取り上げられている.その要因として,医師不足,看護師不足が挙げられる.

 私は1969年の大学紛争時代に金沢大学を卒業した.当時も盛んに医局解体が叫ばれたが,今日,本当に医局は解体してしまった.当時は教授を頂点とした封建的権力構造,無給医局員等が問題になっていた.しかし,誰も大学医局および大学における医療・教育を今のようなカオスの状態にすればよいとは思っていなかったはずである.実力は別としても,当時の大学教授の多くは何かしらのオーラを発しており,それに惹かれて各医局にバランスよく入局していたように思う.そしてやり方に問題があったにせよ,関連病院にもそれなりに医師を派遣していた.この権力構造が良いか悪いかは別であるが,現在の無政府的な状況より良かったのではなかろうか.

オピニオン【投稿】

高度先進医療への規制強化

著者: 井出博生 ,   康永秀生 ,   今村知明

ページ範囲:P.339 - P.339

 小泉政権当時,混合診療解禁問題が国民的議論を巻き起こし,平成16年末の厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣の「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」(基本的合意)により,「先進医療」が創設された.これまで「高度先進医療」は,特定承認保険医療機関だけに認められてきた.これに対し,先進医療は医療技術の範囲を「必ずしも高度でない医療技術」に拡げ,実施医療機関も拡大して認める制度であり,平成17年7月に導入された.先進医療の主旨は,新しい医療技術の導入規制を緩和し,これらへの国民のアクセスを改善することである.

 ところが,平成18年10月1日に高度先進医療が先進医療に統合されると,薬事法未承認の医薬品や医療機器を用いているという理由で,従来の高度先進医療のうち18種類が,承認を取り消されることとなった.すぐに中止はされないものの,①薬事法上の承認申請,②その承認に向けての治験,③一定の基準を満たす「臨床的な使用確認試験」のいずれかを平成20年3月末までに実施しなければならず,これが行われない技術は先進医療としての承認が取り消される.この措置に対して各団体から意見が出されており,今後「一定の基準」により18技術が救済される可能性もあるが,現在までのところ覆ってはいない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?