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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

特集 医療連携における看護師の役割

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.381 - P.381

 医療連携の推進が課題となっており,そのための医療計画や診療報酬上の様々な対応が強化されつつある.しかし,焦点は医師と病院にあり,ケアを直接担う病棟看護師や,患者を受け取る訪問看護師や施設の看護師の立場からは,連携する際の留意点,方法,書式等についての具体的な検討は十分なされておらず,こうした観点から本特集を企画した.

 まず,厚生労働省の在宅看護専門官や,在宅ケアの実践者としてのご経験から山田雅子先生は,退院調整担当者として治療や看護の内容をできるだけシンプルに調整する必要を指摘している.とかく病院のケアが最善であり,それを退院後も継続することが連携先の責務である,という病棟看護師の考え方から発想を転換する必要性,また ALS 呼吸装着者の具体的な例を介して地域として必要なサービスを開発する必要性を強調した点には同感する.

医療連携において期待される看護師の役割

著者: 山田雅子

ページ範囲:P.382 - P.385

 いうまでもなくわが国の人口は,少子化に伴って急速な高齢社会に向かって変化している.戦後の第一次ベビーブーマーたちが後期高齢者となる2025年には,高齢者人口がピークを迎え,その時点での死亡者数は年間160万人と推測されている.これは現状の100万人に比べ約50%の増加が推計されていることになる.人々の死亡場所の約80%が病院や診療所であることを考えると,それだけでも現在の病床を有効に活用していかなければ,この変化には対応していけないことがわかる.そこで,地域にある病院,診療所,訪問看護ステーションといった医療資源がチームを組み,力を合わせること,そしてそれらが介護などの福祉の仕組みと連動し,それぞれが適切な役割分担をしつつ効率化を図り,地域全体の連携システムを形作っていくことがこれからの医療提供体制に求められている要素なのである.

東大病院における退院支援の現状と課題―地域医療連携室において看護職の果たす役割

著者: 柳澤愛子

ページ範囲:P.386 - P.390

 人口の高齢化と疾病構造の変化に伴い,医療提供体制の整備が急がれている.病院も今までの自己完結型医療から地域ニーズをふまえた機能分化と在宅支援強化など地域医療との連携が必要となった.また医療連携を行って平均在院日数短縮を図ることが求められている.東京大学病院においても各診療科をあげて在院日数の短縮に向けて努力しており,このところやっと病院職員全体に医療連携の円滑な運用の必要性が浸透し,成果が上がってきたといえる(図 1).

 東京大学病院地域医療連携部(旧医療社会福祉部)は,中央診療部門として各診療科と地域の医療機関の連絡調整を行い,患者が適切なケアが受けられるように退院支援を行う部として 1997 年 4 月に設置された.筆者は,医療・介護・福祉のコーディネーションを専門に行う看護師(在宅医療コーディネーター)として開設当初から関わってきた.特定機能病院である当院に,退院支援・在宅医療の推進を専門に行う部署を置き,多職種の専任スタッフが全診療科の入院患者を対象に退院支援を行うことによって,患者・家族が安心し満足できる早期退院が可能になった.

ソーシャルワーカーの立場から見た医療連携の現状と課題

著者: 大松重宏

ページ範囲:P.391 - P.396

 がん治療は化学療法や放射線治療中の副作用に代表されるように,その場限りで完結するものではない.患者が地域に戻った時,緊急時はもとより,普段から相談に乗ってくれるかかりつけ医や医療機関が必要である.生活圏の中でがん治療を受け,がんと闘い,共に生きていくことのほうが理想的である.そういった意味では近々約300施設が認定される「がん診療連携拠点病院」の存在は大きく,その要件の中に医療連携の充実が挙げられていることは重要である.ここでは,がん専門病院のソーシャルワーカー,また多職種でのチーム医療の一員としての経験から,医療連携の現状や課題,またその中での看護師との関わりから若干の期待と要望を述べたい.

がん終末期ケアにおける医療連携の現状と課題―病院看護師と訪問看護師への期待

著者: 福井小紀子

ページ範囲:P.397 - P.402

 医療連携のあり方を考えるに当たり,疾患の種類による病気の進行速度や,病期による患者の医療依存度は異なってくることから,これらを考慮していくことは重要である.なかでも,がんの終末期に関しては,病気の進行速度が速く,かつ医療依存度が高い対象となることから,医療連携においても看護職の果たす役割が特に重要となる.そこで,本稿では,“がん患者の終末期ケア” に焦点を当て,この対象における医療連携のあり方と看護師が担う役割について,海外の状況やこれまでに行った筆者らの研究結果を基に述べる.

高齢者施設の看護師として病院に望むこと

著者: 鳥海房枝

ページ範囲:P.403 - P.406

 1998年10月に開設した東京都北区立特別養護老人ホーム清水坂あじさい荘(以下,あじさい荘)は,入所者定員12 名,ショートステイ定員40名,デイサービス通所1日定員45名の大型老人福祉施設である.開設から2000年3月までは,特別養護老人ホーム(以下,特養)入所やショートステイ・デイ利用は措置制度であったが,同年4月の介護保険制度により,それらは区民がサービス提供事業者を選択して利用契約を締結する形へと大きく変わった.走りながら考え改正するとスタートした介護保険制度であるがゆえ,昨年4月には一部改正が行われている.

 筆者は1998年4月に区役所内に設置された,あじさい荘開設準備室に勤務し現在に至っている.措置から介護保険による契約へ,そして昨年4月の同法の一部改正が,特養の運営にどのような変化をもたらしているか,とりわけ看護職の役割を中心にして改めて振り返ってみたい.

要介護高齢者の医療連携に必要な情報の伝達と共有

著者: 池崎澄江 ,   池上直己

ページ範囲:P.407 - P.411

 急性期病院の入院患者に占める要介護高齢者の割合を直接把握できないが,入院患者の60%は65歳以上の高齢者であり(2004 年)1),また65歳以上の一般人口に占める介護認定者の割合が15.3%(2006年)2)であることから単純に計算すると,10%程度となる.しかし,一般の高齢者よりも要介護者のほうが急性増悪等で入院しやすいと推測されることから,より高い割合である可能性がある.したがって,急性期の病院において,要介護高齢者が病院に入院した直後から,悪化前の生活機能への回復を目標にケアを提供し,退院後もケアが適切に継続するように対応する必要がある.

 本稿では,2006年度の調査研究として,12の病院を中心に要介護高齢者の患者を対象として実施した介護保険事業者との連携方式を解説し,その成果を評価する.

グラフ

リエゾンナースがつなぐ連携 特定医療法人祐愛会織田病院

ページ範囲:P.369 - P.372

 祐愛会織田病院は佐賀県鹿島市で初めての救急病院として1987年に開設,現在は南部医療圏17万3,000人のうち,当院から半径10km圏内に住む7万6,000人の中核病院として機能している.急性期病院としてスタートした当院であったが,療養病床の少ない地域であるため,高齢の患者を退院させられないケースが増えてきた.そこで,地域の医療機関と連携を深めつつ,介護老人保健施設や訪問診療,デイサービスなどを展開.2004年には開放型病院の認可,そして2005年10月,「連携センター」を開設した.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・5

色彩3 色と光でウェイファインディング

著者: 梅澤ひとみ

ページ範囲:P.374 - P.375

■張り紙のない病院を作る

 欧米の病院は実に整然としている.ブルテンボード以外には張り紙など見たことがない.すべての病院がわかりやすいサイン計画が施されているとも限らないが,“人に尋ねる”ことが基本的な行動パターンのようだ.

 一方,日本の病院は日々変わる医療政策に対応すべく病院の運営方針も右往左往するが,「ウェイファインディング」は計画の初期から大きな課題として現場で話し合われ,視認性などを繰り返し検証した後に誘導サインなどが設置されている.にもかかわらず,残念ながら,竣工直後からサインを補助する張り紙があちらこちらに見られるのが現状だ.

職場のメンタルヘルス・2

過重労働の中での看護師の悩み

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.422 - P.427

病院における看護師の現状

 日本医療労働組合連合会(日医労連)の「看護職員の労働実態調査」によると,病院の看護現場は非常に忙しく,労働条件が悪化していることがわかった.これは2005年12月までに日医労連に寄せられた看護職員2万9,000人のデータ分析によるものである.詳細をみていくと,「最近,看護業務量が増えた」との回答が62.7%に達している.また,「終業時間後の仕事時間が1時間以上」が44.1%,「年次有給休暇の取得が年間5日未満」が30.9%で,どちらも5年前と比べ10ポイント増えている.そして,このような過重労働のもとでは「十分な看護ができない」と答えた人が65.3%にもなっており,「十分な看護が提供できている」という回答は,わずか8.1%であった.その主な理由としては,「人手不足」が55.7%,「業務の過密」が53.9%である.さらに,「この3年間にミスやニアミスを起こしたことがある」は86.1%,その原因としては「医療現場の忙しさ」が84.1%を占めた.

 こうした現状に看護職員は疲れ果て,燃え尽きてしまい,健康障害,休職,退職などに追い込まれている.そしてそれはさらなる看護師不足を招き,現場の業務が増加するという悪循環に陥っている.最近6か月間に,「こんな仕事もう辞めたい」と思った看護師の割合は,「いつもあった」が20.3%,「ときどきあった」が25.7%,「しばしばあった」が27.1 %となっており,どれも 5 年前に比べると増加している.

 看護職員は,35.9歳という若い平均年齢の割には,健康不安(64.7%)や慢性疲労(77.6%)を訴える人が多い.仕事を辞めたい主な理由としては,「仕事が忙しすぎる」37.0%,「仕事の達成感がない」22.0%,「本来の看護の仕事ができない」17.4%,「夜勤が辛い」14.4%となっている.こういった状況の中で,看護部長や経営者はその対策に追われている.

今, なぜ医療経営学を学ぶのか 基本からわかる医療経営学【最終回】

医療の財務会計におけるアカウンタビリティ

著者: 兵頭和花子

ページ範囲:P.428 - P.431

財務会計とアカウンタビリティ

1.会計の区分

 一般に,会計は,会計情報を組織の内部に提供するのか,あるいは組織の外部に提供するのかにより,大きく2つに区分されます.前者は管理会計であり,後者は財務会計です.今回は,両者のうち財務会計を中心とした話をしていくことにしますが,その前に両者がどのように異なっているのかについて整理したいと思います.

 まず管理会計ですが,管理会計とは一般に組織の経営(あるいは管理)に役立つ情報を経営者(あるいは管理者)に提供するための会計であり,内部報告会計とも呼ばれています.

 一方,財務会計とは,組織の財政状態や経営成績等の情報を組織外部者に提供するための会計であり,外部報告会計とも呼ばれています.組織外部者とは,株主や債権者,取引先など,組織を取り巻く人々をいい,組織の財政状態や経営成績等の情報は,組織の業績評価,組織外部者の意思決定などに利用されます.組織は多数の組織外部者の資源によって活動を行っていることから,資源提供者である外部者へ活動について情報を提供する(報告する)責任があります.

 このような責任はアカウンタビリティといわれており,報告責任あるいは説明責任ともいわれています.今回は,このアカウンタビリティの概念についてより詳細にみていくことにします.アカウンタビリティ概念は,財務会計の根本的概念の一つと捉えることができるからです.その前に財務会計が注目されるようになった理由と本節で述べている組織外部者に対する情報の開示がなぜ重要であるのかについて簡単に説明しておくことにしましょう.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・12

MSWという存在―患者の立場から

著者: 久留井真理

ページ範囲:P.432 - P.435

頸髄損傷

 1994年1月4日の夕方,私は交通事故を起こしてしまいました.右折しようと止まっていた自動車が,走っているように見えたのです.相手のバンパーが少しへこんだ程度の追突事故でした.「謝らなければ」と車から降りようとしましたが,どんなに力を入れても手も足も動かない.首が割れるように痛い.呼吸がどんどん苦しくなってくる.いったい何事が起きたのだろう,夢を見ているのか…?

 救急隊員の方が私を見るなり,「これは首だ! 首を支えて!」.ドアはこじ開けられ,私はそっと抱きかかえられたまま,救急車で安佐市民病院へ搬送されました.

 診断名は,首の脱臼骨折による「頸髄損傷」.それから4日後,頸髄の炎症が延髄まで広がり,自発呼吸ができなくなったと同時に,意識も遠のいてゆきました.1か月後,意識が戻った時には呼吸器が装着され,首から下はまったく動きません.でも,治療が進めば治るものと思っていました.受傷して2か月半が過ぎた頃,医師から告げられました.「手足はもう動くことはないでしょう.動いたとしても,日常的には役に立たないでしょう」と….受傷後初めて泣きました.朝まで涙は止まりませんでした.

病院管理フォーラム ■虐待防止・1

医療の中に虐待防止の視点を

著者: 加藤雅江

ページ範囲:P.436 - P.437

 医療機関で出会う児童虐待の質が変化している.十年近く前,私たちが杏林学園の中に児童虐待防止委員会を立ち上げた頃には,身体虐待の症例が多かった.救急外来に運ばれる子どもの,説明のつかない怪我に一体何が起きたのだろうかと医学的な見地から真実を探ろうとしていた.地域の関係機関と連絡を取り,生活史や社会的な背景を知ることで,家族が抱える苦しみを理解しようとしていた.

 社会的な背景がより複雑になったからだろうか,人間関係やコミュニケーションに由来するストレスが増大したからだろうか,虐待の根はより深いものとなり,家族の心理は援助する側の理解が追いつかない程,複雑になっていっているような気がする.昨今,マスコミに取り上げられる事例にも同様の兆候がうかがえるように思う.つまり,虐待を疑い援助を展開しようとしても従来の方法・対応では不十分であったり,不適切であったりということが現場では日常的に起こり,援助する側は常に悩まされている.

 一方で,このような現場での戸惑いを解決できるような法の整備も十分行われておらず,このような援助が本当によかったのだろうかと日々,振り返り限界を感じている.このような状況の中でも,虐待を受けた子どもたちは医療機関に運ばれてくる.今ある現状の中で何ができるのか,考える一助になればと思う.

■医事法・1

世間の常識・医師の非常識

著者: 植木哲

ページ範囲:P.438 - P.439

 医療の世界も今や聖域とは言えません.これから医師や病院関係者の法的留意点を何回かに分けて書かせていただきますが,皆さんの学生時代には医事法(医事法制学)の講義を聴く機会のなかった人も多いと思います.昔と違い今の医事法教育は大きく様変わりしていますし,医療と法の相互の関係を総合的な観点から捉える視点を無視して完全な診療を行うことはできなくなっています(植木哲『医療の法律学(第2版)』有斐閣).しばし診療や業務の手を休め,医事法の何たるかを一寸考えてみてください.以下の連載は医事紛争対策のマニュアルではありません.ここでは医事紛争の背後にある医療について法的観点に焦点を当てますから,これにより医療紛争の処理に立ち会う裁判官(法律家)の思考方法はわかっていただけると思います.

 第1回目のテーマは「世間の常識・医師の非常識」としたいと思います.これは逆に「医師の常識・世間の非常識」と言い換えられます.いま仮に,世間を裁判官・法律家と想定してみてください.医師や裁判官はもっとも典型的な専門家ですが,それぞれの専門家はそれぞれの専門領域を持っており,これまで互いに批判し合うことはありませんでした.それぞれの考え方が常識として尊重されてきたからです(聖職・聖域).しかし今ではこの常識の見方(範囲)に歪みが見られ,常識と非常識との境界が非常に曖昧になっています.医事紛争を例にとりながらこのことを考えてみましょう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第148回

岩手県立磐井病院・南光病院

著者: 和田雅彦

ページ範囲:P.440 - P.445

 岩手県南部両磐地域における急性期医療の中核施設である磐井病院と,精神疾患病院として県南部全域をカバーする南光病院を同一敷地内に併設し,圏域医療の連携と充実した高度医療の躍進を目指し,平成18年4月に開院した.


病院の併設にあたり

 施設の老朽化,狭隘化に伴う建て替えに際しては移転が計画され,最終的には病床数315床,20診療科の磐井病院と408床の南光病院は同一敷地内に統合ではなく併設することが決定された.併設により地域医療を担う急性期病院,および精神疾患専門病院のおのおのの特性を損なうことなく両病院の効率化を図ることを目指している.

 一関市郊外の標高55mに位置する敷地は西側に小高い丘を背負い,東側に開けた丘陵地となっている.丘陵の等高線に沿う形で緩やかに描く円弧状に両病院を配置した.その中心に両院の患者をはじめ地域住民が利用できる空間「交流の街」を創った.

リレーエッセイ 医療の現場から

「あなたの家にかえろう」 在宅ホスピスケアを紹介する冊子の制作にかかわって

著者: 吉田利康

ページ範囲:P.447 - P.447

 冊子『あなたの家にかえろう』は,在宅ホスピスケアを活用するうえでの基礎的情報・事例・精神的サポートなどを読みやすくまとめたものである.A5判,全32ページの絵本のような冊子で,医師への質問の仕方や民間療法,「お見舞いを断る勇気」などについてまとめた「One Point アドバイス」,さらにベッドサイドでの便利グッズも紹介している.2006年8月31日の発行から5万部が出ている.

 この冊子のコンセプトは,在宅ホスピスケアという選択肢を,市民と専門職の両方に提供することである.そのため,医療者サイドからの視点だけでなく市民の視点も重視している.制作スタッフには第一線で働く医師,看護師,ソーシャルワーカー,ケアマネジャーの他に,大学の教師や遺族がいる.僕はその一人,妻をがんで看取った遺族である.

 苦心した部分は,やはり「いかに死のタブーに踏み込むか」だった.「ホスピスは死に場所」というイメージは相当に強い.「ホスピス」という言葉を使わない配慮が必要とも考えた.ところが,一方でホスピスを美化する傾向が強いことも,制作リーダーの桜井隆医師は指摘する.がんの痛みはコントロールできるようになってきているが,去りゆくこと,看取ることは決して楽なことではない.それをオブラートには包みたくない.

特別寄稿

新卒看護師研修制度の試み

著者: 伊藤恒子 ,   井部俊子

ページ範囲:P.412 - P.421

市立砺波総合病院における研修制度導入の経緯とスタートまで

伊藤 恒子


■病院看護師の現任教育の現状

 病院全職員のおよそ3分の2を占める看護部の職員教育は,病院としては「看護部のこと」として傍観できない.看護の質は医療の質を左右するといっても過言ではないからである.

 「看護部が変われば病院が変わる」そういわれて久しいが,平成18年4月の診療報酬の改定1)では,3.16%という過去最大のマイナス改定の中において,看護が評価され,7対1(従来表記1.4 対1)の入院基本料が新設された.「これを病院の利益に結び付けない手はない」と全国の病院で看護師獲得合戦が始まり,物議をかもしている.しかし,看護師の人員増は業務量の改善につながる一方で,今までにない大量の新人看護師の採用を生み出し,その分医療事故のリスクも増すという懸念もある.また,病院では,患者の高齢化とともに在院日数短縮に伴う入院患者の重症化が進んでおり,それに呼応して看護業務の煩雑化,看護密度の濃縮化がもたらされている.さらに患者の権利意識は上がり続け,多くの病院の労働環境は危機的状態となっている.

 こうした状況においても,毎年4月には新人看護師が夢を持って就職してくる.将来を担うこの新人たちを病院は確実に育てる手法を持っているであろうか?制度上は,新卒看護師であっても看護師1人とカウントされ,診療報酬が支払われており,入職直後,既に一人前の看護師であることが求められているといえるが,看護師の基礎教育はそれに対応していない.1996(平成8)年の看護教育カリキュラム改定で,老年看護・在宅看護・精神看護と大きな科目が増える中,臨床実習時間は改定前の4分の1にまで減少した.また,臨床実習病院では医療安全の観点から “免許を持たない学生” のできる実習にはかなりの制限があり,患者選択にも苦慮している現状がある.日本看護協会調査2)では,厚生労働省から示された卒業時の看護技術習得到達目標103項目の中で,「新卒看護師の70%以上が『一人で出来る』と認識している技術項目は,ベッドメイキング,リネン交換,バイタルサインチェック,身体計測」の4項目のみであった.この調査結果はそうした現状の問題点を如実に表している.このような状況にある新卒看護師を,就職直後から看護師一人としてカウントするという現行制度に対し,疑問を感じているのは筆者だけではないはずである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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