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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

特集 患者負担のあり方を考える―フリーアクセスから選択責任へ

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.541 - P.541

 わが国では,今日,少子高齢化が進展し,人口は減少に転じた.言い換えれば,社会保障に関しては,現在の制度を支える生産人口が減少し,給付対象者が増加していると言える.そして,政治・行政の場では社会保障給付費の一層の抑制が検討されている.一方,国民は安心で幸せな生活が可能である社会保障政策を望んでいる.この食い違いは何に起因しているのかと言えば,破綻寸前といわれる国家・地方財政,医療技術の価格高騰,さらには利用者の安易な受診と言える.政策的誘導としての社会保険医療三割負担を含め,利用者の医療費自己負担は既に国民医療費の16%を超え,限界に近いとも考えられる.過去には,疾病は不可抗力のものであり,それに対して社会保障・医療保険制度などで対応することが中心であった.だが生活習慣病などが問題とされ始めた今日では,患者側の自己責任も問われるようになった.自ら欲しない支払いを制度として求められる場合は自己負担の増加には強く否定的である.

 また,保険診療外の医療をどのように患者に提供するかという議論を経て先進医療・保険外併用療養費制度が設立された.公的な医療保険の果たすべき役割は何か.最適な医療の選択をするための,医療に関わる責任と負担をめぐる官と民のバランスの検討がなされる必要があるだろう.

医療費の財源問題に関する考察―患者負担のあり方を考える

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.542 - P.545

はじめに―問題の所在

 公的皆保険制度を採用している日本における医療費の財源は,大別すれば,社会保険料,公費,患者負担ということになる.これらの財源は,いずれにせよ最終的には「国民の負担」であるということがよく言われる.最終的な負担の帰着という観点からは,確かにその通りであるが,こうした「国民全般」というとらえ方では,患者負担問題の本質を的確に把握することはできない.提供される医療サービスに対して,被保険者(保険料),一般国民(租税=公費),患者(患者負担)という各主体の関わりはそれぞれ異なっており,その負担の意味も異なっている.患者負担については,特に,医療サービスの直接的な受益者としての「受益者負担」という観点が重要である.本号の特集は「患者負担のあり方を考える」というテーマであるが,本稿においては,この問題について,主として医療費の財源問題という視点から,種々の考察を行うこととしたい注1)

保険外併用療養費制度について

著者: 久米隼人

ページ範囲:P.546 - P.548

わが国の医療保険制度の仕組み

 わが国の医療保険制度においては,「必要かつ適切な医療は,基本的に保険診療において確保する」という原則の下,健康保険や国民健康保険に加入する全ての国民が,保険証一枚で安心して医療を受けることができる仕組みとなっている.

 「必要かつ適切な医療」を保険診療において確保する仕組みとしては,安全性,有効性等の基準に基づいて保険給付を行う診療行為を選別し,その項目1つひとつに点数(価格)を設定している.このため診療報酬項目に該当しない診療行為については,原則保険給付の対象とはならない.

新規の診療行為の保険収載手続き―どこまで公的医療保険で面倒みるべきか?

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.549 - P.553

はじめに―現物給付は持続可能か

 1961年に施行された国民皆保険制度は国民すべからく平等に医療が受けられることを目的にするものである.より具体的には,医療保険料の見返りに業務外の疾病および傷害について,保険者が被保険者に現金ではなく医療サービスを給付するもの.給付の内容は,①診察,②薬剤または治療材料,③処置,手術その他の治療,④居宅における療養上の管理および治療に伴う世話その他の看護,⑤病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護(健康保険法第43条,国民健康保険法36条)などである.したがって被保険者は医療機関にかかった時には,一部負担金のみ支払えばよい.

 このように,現物給付をベースとしたわが国の公的医療保険制度だが,未曾有の少子・高齢化と医療の技術進歩によってその持続可能性が危惧されている.実際,医療費の高騰に悩むドイツは2006年から選択制ではあるが,医療費の療養費払いを認めている.早晩,わが国でも介護保険と同様,医療保険も現金給付にしてはどうかという意見が浮上するかもしれない.しかし,その前に議論すべきは,現物給付制度下でどこまで公的保険でカバーし,どこまでを“自助努力”に委ねるかである.

 事実,財政制度審議会が2006年6月に発表した「歳出歳入一体化に向けた基本的考え方」によれば,医療費抑制策として,①70歳以上の高齢者の自己負担率は他の世代の負担率と統一する,②食費・居住費は一般病床に入院するものも自己負担を原則とする,③後発品が存在する先発品の薬価は,後発品との差額を自己負担とする仕組みを導入する,④市販類似薬(非処方せん薬)は公的給付の対象外とする,⑤一定金額までの保険免責制を導入する,⑥高額療養費の自己負担限度額を見直す―などが並んでいる.

 本稿では,新規の診療行為が保険収載される手続きがどのようになっているかについて言及した後,一定の事例を引き合いに出しながら保険未収載の現状と課題について述べる.

社会的にみた医療の技術革新とコストダウン

著者: 新田義孝

ページ範囲:P.554 - P.558

はじめに―社会的にみた医療のコストダウン

 本稿では,「社会的にみた医療のコストダウン」を次の7つに分けて論じることにする.
①高齢化しても入院しなくて済むか,入院する機会を最低限に抑えることができるようにすること.
②入院した場合に,患者の免疫性を高めて自然治癒力を最大限働かせるように工夫すること.
③治療に関して,異なる専門医,看護師など患者に対処する立場や見方の異なる人たちの知見を動員して総合的な対策を施しやすくする知的情報統合システムを作ること.
④院内感染を防ぐこと.
⑤生命保険と健康維持・医療を組み合わせた保険制度を作ること.
⑥最先端医療技術への期待.
⑦医療現場の現場力の低下を防ぐ.

 これらの項目の中には,現行の制度では実現不可能なものも含まれるが,将来を見据えて,現状を少しでも改善していこうと考える際に役立つ可能性のあるアイディアを提供するのが本稿の目的と考え,それにとらわれないものとする.

患者の選択を支援する医療情報を考える

著者: 本田麻由美

ページ範囲:P.559 - P.563

 「現代の闘病は情報戦だ」

 これは約四年半前,「インフォームド・コンセント」に関して作家の柳田邦男氏に取材した際,患者を取り巻く医療の現状を彼が評した言葉だ.当時,筆者は,自身の乳がん手術を終えて間もないころで,乳房温存手術でいけるか全摘手術が必要か,腋下リンパ節を郭清すべきか否かといった治療の選択を経験したところだった.また,ちょうど術後の補助治療の選択に悩んでいる時でもあった.抗がん剤治療をするべきかホルモン剤治療だけにするか.また,どの薬剤または組み合わせを選べば科学的に効果が高いと証明されているうえ許容できる範囲の副作用で治まる可能性が高いのか――.自分の望む治療を受けるために少しでも多くの情報を得て,自分で納得して治療法を選びたい.もちろん主治医から説明を受けて相談しながら選択するのだが,それでも一般書から専門書,インターネットなどで「何かいい情報はないか」とむさぼっては,自分の決断が予後に影響する可能性があると思うと,恐怖感にも似た責任の重さを痛感していた.それだけに,“情報戦”には「我が意を得たり」と印象深く心に刻まれた.と同時に,柳田氏が新米患者の筆者に,納得して治療を受けていくための“患者としての心構え”を解いてくれた言葉のようにも感じられた.

 その後も,局所再発が見つかるなど病状が変化し,効果と副作用を考えながら納得できる治療を選ばねばならない場面に遭遇するたび,この言葉を思い出し,“情報戦を闘う”ことの難しさを思い知らされた.それは,術後1年経って,読売新聞朝刊で自らの闘病体験から医療問題を考える連載コラム「がんと私」を始めてから一層強く感じるようになった.読者から,「専門医はどこにいるのか」「この治療法でいいのだろうか」などの相談がひっきりなしに寄せられ,情報の波にのまれ翻弄される患者・家族の姿をまざまざと見せつけられるようになったからだ.その様相は,今もそう変わらない.

現状の民間医療保険の限界と今後

著者: 内藤眞弓

ページ範囲:P.564 - P.567

公的医療保険と民間医療保険の違い

 「○▲病で入院・手術をすると200万円!」「先進医療は全額自己負担ですよ」「差額ベッド料もかかりますよ」と,毎日のように民間医療保険の広告宣伝が新聞,テレビ,雑誌などを通じて生活者に届けられている.このような情報に晒されていると,「とてもこんな治療費は払えない」「やっぱり民間医療保険に入っておかなくては」と思いがちだ.

 それと同時に,「健康保険って,大した医療が受けられないのか」と,知らず知らずに思い込まされている人たちが多い.医療機関に治療を受けに来た若者が窓口で提示したものが,何と民間医療保険の保険証券だったという話を聞くに及び,公的医療保険に対する無知,無関心もここまでかと驚かされる.

タイのメディカルツーリズム:バンコク病院

著者: ウォンコムトォンソムアッツ ,   小杉美央

ページ範囲:P.568 - P.572

バンコク病院の概要と経営方針

 バンコク病院グループは,東南アジアで最大の私立病院グループで,30年あまりにわたり外国人患者への医療サービスを提供している.1972年にバンコク病院本院が創設されて以来,病院ネットワークを拡張し,現在ではタイに17院,カンボジアに1院を構える病院グループに拡大した.中核となるBangkok Hospital Medical Center(以降 BMC)は,1972年にタイで最初の私立病院として設立されたBangkok Hospital(本院)を中心に,2004年にタイで最初の心臓循環器病院として設立されたBangkok Heart Hospital,Bangkok International Hospital,Wattanosoth Hospital(癌病院),Bangkok Rehabilitation Center,Bangkok Dental Centerから成る.

 このBMCは,医師約500名,看護師約900名,その他スタッフ約750名の合計約2,150名の職員,467床を有し,年間外国人患者12万人,タイ人患者59万人の総計71万人の患者に医療サービスを提供している.病床稼働率は一般病棟で約75~85%,平均在院日数は一般病棟で4.5日である.

インドのメディカルツーリズム:アポロ病院

著者: レディサンギタ

ページ範囲:P.573 - P.575

 欧米諸国では無保険人口が増え,GDPに占める医療費の割合が増加し,医療ケアを海外に求める人々が出てきている.このような状況下で,メディカルツーリズムのトップ争いに台頭してきたのがインドである.アポロ病院はインドにおけるメディカルツーリズムの最大手であり,国内でもパイオニア的な役割を果たしている医療機関である.

 海外から様々な治療を受けにインドにくる最大の理由は,医療サービスが比較的安価なこと,ワールドクラスの治療,待ち時間が極めて短いこと,の3つである.アポロ病院はこれらの実践を念頭に置いて,独自の経営理念の提案を行っている.

グラフ

漢方・鍼灸治療の実際―東西両医学を融和した医療への期待―北里研究所 東洋医学総合研究所

ページ範囲:P.529 - P.532

 漢方は,古代中国由来の医学が日本で独自の発展を遂げたものである.東洋医学は一般に漢方や中医学などを指し,独特の診断手法で患者の「証」を導き出し,治療方針を決める.その治療手技の二大柱が漢方薬と鍼灸である.北里研究所東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センターは,東洋医学の医療機関で,漢方と鍼灸の外来を有する.

 1日の受診者数はおよそ漢方160~200人,鍼灸50人(新患は漢方・鍼灸合わせて20人程)で継続患者が多い.医師(鍼灸師)は常勤・非常勤を含めて,漢方21人,鍼灸9人(内3人は漢方と兼務)による交代制で,大体,漢方外来は5人,鍼灸は4人,金曜の夜間漢方外来は3人の医師(鍼灸師)が対応する(曜日・時間により多少異なる).

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・7

色彩4 子どもの恐怖を和らげる色空間

著者: 梅澤ひとみ

ページ範囲:P.534 - P.535

■子どもに恐怖感を与えない病院

 「ディズニーランドのように楽しく遊びながら検査を受け,次の通院を心待ちにするような小児病院が理想だ」と,あるアメリカの建築家が言ったそうだ.

 嫌がる子どもを病院に連れて行くのは至難の業だ.しかし,それを実現するために,色が一つの手段として役立っている小児病院がテキサス・メディカル・センターにある.

職場のメンタルヘルス・4

医療関係者の自殺

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.594 - P.599

 1998年から日本の自殺者数の推移が変わった.それまでの2万人台からいきなり3万人台になり,2006年までの9年間で29万2,512人が自殺で亡くなっている.これは,わが国の死因の第5~7位を占めている.全自殺者に占める働く人たちの割合は約4分の1,そのうち,うつ病によると思われる自殺は約7割と推測されている.

 自殺者を原因や動機別に捉えてみると,最も多いのが健康問題,そして生活(経済)苦,家庭問題,勤務問題,男女問題と続く.働く人たちの自殺を年代別に見ると,多い順に50代,40代,30代となっている.しかし最近では,30代の自殺者が急増している.国際比較してみると,日本の自殺率はアメリカの2倍,イギリスの3倍にもなっている.リトアニア,ロシア,ハンガリーなど旧社会主義国家を除いた,いわゆる旧資本主義国家では日本は最悪の状態であり,世界全体でも第10位となっている.2003~2006年に行われた厚生労働省研究班の調査によると,自殺した人やしようとした人の8割は,事前に家族や友人,上司などに相談していなかったことがわかった.しかも亡くなった人のうち,未遂歴のある人は1割程度で,9割は最初の自殺企図で亡くなっており,「覚悟の自殺」が多いという実態も明らかになった.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・14

療養型病院におけるMSWの働き

著者: 岩村庄英

ページ範囲:P.600 - P.603

 当院は,秋田市から北に1時間ほどの静かな温泉地にある療養型の病院である.周囲には緑が多くゆったりと療養には適した環境といえる.

 当院の医療ソーシャルワーカー(以下MSW)はリハビリテーションチームの一員として,相談援助業務に携わっている.本稿では療養型病院におけるMSWの業務と今後の課題について述べてみたい.

病院管理フォーラム ■虐待防止・3

身近な症例としてのDV(ドメスティック・バイオレンス)

著者: 加藤雅江

ページ範囲:P.605 - P.607

 コミュニケーションの形態が変わってきている.医療の場でも,コミュニケーション不足によるトラブルが発生し,コミュニケーションをうまくとるための研修が開催されるなど,その重要性が叫ばれて久しいが,そもそも「コミュニケーション」というもの自体が形骸化しているような気がする.会話を楽しんだり関係を深める手段としてコミュニケーションが活用されていないように思われる.背景にはメールや携帯電話の普及があるのかもしれないし,ライフスタイルが影響しているのかもしれない.あるいは,表面的にはコミュニケーションをとれているにしても,深く人と関わることを望まない人が増えてきているのかもしれない.このように,一般的には希薄になりつつある対人関係を基盤にした世の中で,その対極にあるともいえるDV(Domestic Violence)が増え,社会問題化している.

 医療の場は社会問題と直結している.DVについても知らん顔はできないのである.DVを知り,疾患の1つのカテゴリーとして捉えることが,医療スタッフには必要である.当院では,児童虐待防止委員会が活動を始めた頃より,児童虐待の背景にDVの影が見え隠れしていた.また,子どもの疾病を主訴に受診しに来た母親からDVについて相談を受け,子どもの疾患も両親間のDVの影響を受けていると考えられたことから,DVについて急遽介入した事例もあった.

 救急診療の場からは,DVにより搬送されてくる患者への対応を依頼されることも多く,フローチャートを作成し,勉強会を行っていった.そのような流れを経て,平成17年,児童虐待防止委員会は名称自体を虐待防止委員会に変更し,援助対象を子どもから広げていく結果となった.

■医事法・3

医療行為と制裁(2)

著者: 植木哲

ページ範囲:P.608 - P.610

●病院管理者への刑事罰

 前回に続き,都立広尾病院事件について考えていきます.本件では,病院管理者(衛生局病院事業部副参事)の処罰も問題となっています.医師法21条は「医師は,死体を検案して異状があると認めた時は,24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と規定しており,これに違反して処罰を受けるのは医師となります.

 これは身分犯(真正身分犯)と言われ,行為の主体に一定の身分(医師)の存在が必要とされる犯罪類型です.このため医師でない病院管理者が,直接医師法違反に問われることはありません.病院管理者が警察への届出を待つように指示したことが医師の身分犯への共謀に当たるかどうかが問題となります.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第150回

市立砺波総合病院

著者: 古我大作

ページ範囲:P.611 - P.616

計画の概要

 例年初夏の到来を告げる風物詩として「砺波平野のチューリップ」が新聞紙上等で紹介される.市立砺波総合病院は,その「チューリップ」と「散居村」で知られる富山県,砺波平野のほぼ中央に位置しており,同市を含む「砺波医療圏」の中核的な病院として,その役割を果たしている.数次の増改築を繰り返してきたが,老朽化と錯綜化が進行し,新たな医療環境に対応する必要が生じていた.そのため,1996年に現在地で,大規模な増改築により整備する方針が決定され,21世紀を見据えた医療施設として再生することとなった.

 当時,移転新築という手法に加えて,現在地での再生整備が見直されてきた背景として,特に地方では地域の経済的,社会的,生活的中心を医療施設が担う場合が少なくなく,移転による地域の空洞化を避けたいという要請が強くなってきたことが挙げられると思う.本計画も同様の事情があったことは想像に難くない.

リレーエッセイ 医療の現場から

知識の扱い方

著者: 池田恭敏

ページ範囲:P.619 - P.619

 私が作業療法士になって17年が経とうとしています.はじめの5年間はリハビリテーション専門病院で専従の作業療法士として勤務し,主に身体に障害のある成人の患者さんのリハビリテーションに関わってきました.その後の12年間は,茨城県立医療大学の作業療法学科の教員として在職しつつ,隣接する付属病院(リハビリテーション専門病院)で作業療法士を兼務し,現在に至っています.

 作業療法では,単に機能障害の改善を図るのみではなく,日常生活動作能力や社会生活力等の改善を図り,地域社会で患者さんとその家族が主体的な生活を営むことのできるように援助することが重要な仕事であり,作業療法のIdentityでもあります.そのため,必要な知識は,疾病に関する医学知識はもちろんのこと,運動(力)学,認知心理学,人間発達学,人間工学,福祉工学,社会学,医療安全管理学,関連法規,作業療法評価学,作業療法技術学など多岐に渡ります.また,医療の進展や医療・介護保険制度などの改定により,作業療法士として医療従事者として必要とされる知識は拡大の一途を辿っています.近年は,わかりやすい専門書が多数出版され,疾患ごとのクリティカルパスなども示され,インターネットからの情報も得やすくなり,知識を増やすことは,私が学生の頃とは比べものにならないくらい容易な時代になっています.むしろ知識を貯蔵する脳の容量が既に限界に達しています.

特別寄稿

診療報酬改定(2006)を,リハビリ患者はどう受け止めたか?

著者: 安原順子

ページ範囲:P.577 - P.579

リハビリへの期待にみちて

 私は現在62歳.高血圧からの脳内出血のため左片麻痺になり,身体障害者手帳は1種2級,介護度は要介護2である.杖に頼れば歩くことはできるが,いわゆる15m(6車線)の横断歩道を青信号の時間(35~40 秒)内で渡りきることができない.

 60歳になってまもない2005年5月14日に脳内出血し,A病院脳神経外科に収容された.手術は不要だったが,左片麻痺が残り,歩けず,6月4日にリハビリテーション専門のB病院に転院した.リハビリの目的は「自立訓練」で,さまざまな日常活動に対して指導と介助があり,車椅子操作から始まった移動訓練は,杖歩行訓練にと移っていった.起床から就寝まで,整った環境で,仲間がたくさんいる場所でのリハビリは快適だった.「以前と同じような生活ができるようにすること」をイメージして,専門家が訓練・指示してくれることに従った.そのうち外泊練習,職場復帰訓練などを経て,9月22日に退院した.

研究と報告【投稿】

医師の属性と仕事満足度の関連についての分析

著者: 康永秀生 ,   勝村裕一 ,   井出博生 ,   今村知明

ページ範囲:P.580 - P.582

要旨 医師の仕事満足度を高めることは,医療の質の向上という観点から重要である.本稿は,医師の総合的な仕事満足度を計測し,医師の属性との関連を明らかにすることを目的とする.2006年11月15日~11月23日にインターネット・アンケート調査を実施し,153名の医師から有効回答を得た.年齢,性別,勤務形態,従事する診療科,勤務地域の人口規模,仕事満足度および所得満足度(7段階Likert Scale)が質問された.開業医および200床未満病院の勤務医と比較して,200床以上病院および大学病院の勤務医のほうが,仕事満足度は有意に低かった.多重回帰モデルを用いたパス解析では,「勤務形態→所得満足度」,「所得満足度→仕事満足度」,「勤務形態→仕事満足度」および「診療科→仕事満足度」に有意な因果関係を認めた.今後の課題として,医師の満足度の内容をさらに多重的な尺度を用いて解明することが重要と考えられた.

土曜日の外来診療

著者: 植村麻里 ,   開原成允

ページ範囲:P.583 - P.587

 最近の社会では,対人サービス業は利用者の都合に合わせて営業時間を延長する方向にある.医療もサービス業と考えれば,その営業時間については,本来もっと配慮があってもよいと思われる.特に,土曜・日曜と二日にわたって外来診療が休診になるのは,病気の特質を考えれば,患者が不安に思うのも当然である.まして最近のように連休が多くなれば,3日間続けて外来が休診になる場合もある.

 一方で,土曜に休診するのは,主に公立病院であり,私立病院は土曜も休診しないことも漠然とではあるが知られている.公的な要素を持つ他の業種では,例えば交通は土曜,日曜もダイヤに違いはあるものの稼動しているし,純粋に公的なサービスである警察,消防なども24時間対応している.病院は,公立病院であっても,入院患者の診療は土曜,日曜にも行っているし,救急部門は24時間対応している病院も多いから,工夫によっては土曜の外来診療も可能であるはずである.

短期連載 医療過誤における民事・行政・刑事責任・1

医療過誤における刑事責任の問題

著者: 秋元秀俊

ページ範囲:P.588 - P.592

 医療事故の法的責任において,刑事処分が突出する事態が進展している.そこで弁護士,臨床医,病院内の医療安全推進の職にある者,医療事故被害者の支援者およびジャーナリストなど多様な立場にある者が集まり,判決書を資料として過去の刑事医療過誤判決を吟味した.

 事件の当事者から見れば,医療事故の現場を見ずに裁判を論じることにどれだけの意味があるかと思われようが,刑事責任は陳述され記述された犯罪の法的構成要件をもって論じられるものであり,それ以外の事実は顧慮されない.また,判決理由書は公開を義務づけられておらず,法学者によって法の運用・解釈の範とする目的で判例研究がなされることはあっても,多様な立場の者によって判決のロジックを吟味する機会はなかった.そこで,多様な視点から医療刑事裁判を吟味する価値は高いと考える.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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