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雑誌目次

雑誌文献

病院66巻8号

2007年08月発行

雑誌目次

特集 技術革新と競争激化―特定保険医療材料の今後

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.633 - P.633

 ステント,人工関節等の特定保険医療材料は医療費の中で最も増加が著しい分野であり,それだけ技術革新が激しいと言えよう.医薬品と比べて,改良のスピードが早いこと,国内メーカーのシェアが小さいこと,内外価格差が日米の政治課題となっていることがそれぞれ特徴として挙げられる.一方,病院にとっては,医療機能の選択と集中が迫られている状況下において,特定保険医療材料が使用される医療サービスを特化する必要があり,また将来的には同材料が包括評価の対象となる可能性も視野に入れて購入計画を見直す必要がある.

 そこで本特集では,まず医療機器,医療材料の価格決定について,厚生労働省保険局医療課の佐方信夫氏よりそのメカニズムおよび内外価格差の課題について見解が示されている.次に,同医薬食品局審査管理課の俵木登美子氏より日本での承認・導入が遅れる「デバイスラグ」の問題について,その理由や今後の対応に解説がなされ,産官の協力により改善の方向性が示されている.

保険医療材料の区分と価格決定のプロセス

著者: 佐方信夫

ページ範囲:P.634 - P.636

 医療機器・材料の区分と価格設定については,医療機器・材料の業界において重要性の高い関心事項として,かねてより様々な研究や調査,具体的な提言がなされてきている.そのような中,最近では個別の病院による試みのみならず,医療団体・病院団体も限られた医療費の中で,質を確保しつつ効率的な医療を提供するという努力のもと,医療機器・材料の価格設定,とりわけ内外価格差(日本における特定保険医療材料の償還価格と諸外国における販売価格との差)の問題に体系的に取り組む姿勢がみられている.

 医療保険においては,医療機器は大きく3つのカテゴリーに分類される.1つ目は,ガーゼや縫合糸などのように,いずれかの診療報酬項目において包括的に評価されているものである.これらは医療保険の実務上では「A1」(包括)と呼ばれており,様々な診療の場に使用されるものであることから,これらの使用が想定される診療報酬のそれぞれの項目において,包括的に評価がされている.次が「A2」(特定包括)と呼ばれるもので,特定の診療報酬項目において包括的に評価されているものである.これらは医療機器自体の価格を公定するのではなく,当該医療機器を使用する医療行為の診療報酬上の評価を通じて,特定の技術料に包括して評価されるものであり,それぞれの検査料において診療報酬上評価されている内視鏡やCT,MRIなどが該当する.そして最後の「B」(個別評価)が,特定保険医療材料として材料価格が個別(機能区分ごとに)に設定され評価されているもの(例:ペースメーカー,人工関節)である.

医療機器の薬事規制と最近の動き

著者: 俵木登美子

ページ範囲:P.637 - P.643

 医療機器は近年急激な発展を遂げ,いまや国民医療において極めて重要な位置を占めている.薬物療法や外科手術に代わって低侵襲なインターベンション技術が多くの命を救い,放射線療法はがん治療の重要な武器になっている.医療機器の有効性,安全性と品質を確保するために,薬事法によりその製造,販売が規制されている.本稿では,医療機器の薬事規制,その抱える課題と対応について報告する.


医療機器の薬事規制

 医療機器として薬事法の規制を受ける物には,注射器や医療用メス・ハサミ,X線フィルムといった医療行為を支える基本的な低リスクの医療器材から,ペースメーカや植込み型人工心臓など極めて精密かつ生命に直結するハイリスクな機器まで,その種類は多い.また,基礎となる技術分野は,金属材料学,高分子科学,電子工学,機械工学,放射線科学,毒性学など極めて広く,これらの進歩のスピードが早いため,次々と改良が繰り返され,1つの製品のライフサイクルは一般に2~3年と言われている.

公的医療保険制度と医療機器・材料企業

著者: 田村誠

ページ範囲:P.644 - P.646

 先進的な医療機器や医療材料が,現代医療において欠くことのできない,大きな役割を果たしていることは明らかであろう.例えば,MRIやCTなどの診断装置や,内視鏡,カテーテル,ペースメーカーなどの医療材料がまったくないところで,良質の急性期医療を行うことは容易ではない.

 そうした医療技術としての価値が広く認められている一方で,医療機器・材料を提供している企業が株式会社組織で利益を上げ,その利益を資本市場に還元することは,わが国の公的医療保険制度下では必ずしも肯定的にとらえられていないようにみられる.どんなに革新的な医療機器・材料であっても,原価に「若干の」利益を加えた程度が望ましいというのが,公的医療保険関係者の共通理解,あるいは本音ではなかろうか.

 本稿では,企業あるいは資本市場がわが国の医療制度に対して果たしうる役割について考察を加え,それらをもう少し積極的,前向きにとらえ,活用する方向について模索したい.

イノベーションを患者に届ける

著者: 松本晃

ページ範囲:P.647 - P.650

 人間の生命・健康に関心が高まり,生活の質(Quality of Life:QOL),長寿が大きなテーマとなってきた.一方,人類の目覚しい科学・技術の発展は人間の生命や健康に向けられ,近年の薬,医療機器・材料の開発進歩は,特に欧米を中心に顕著である.過去には不治の病とされた多くの種類のがんや心臓病,脳疾患も,今や薬,医療機器および医療技術の発展により解決されつつある.企業であろうが NPO であろうが,あるいは行政であろうが,究極の目的は “世の為・人の為” であり,その目的を達成するには,新しく開発された薬,医療機器,医療技術,そのイノベーションを一日も早く,かつ安全に患者へ届けることが,われわれの責務であることに議論の余地はない.

 低浸襲手術を可能にした内視鏡や機器,外科用ロボット,MRI,PET,再生医療,薬剤溶出血管ステント,人工関節,遺伝子解析装置,各種レーザー,心臓ペースメーカー,除細動器….革新的な医療機器・技術は枚挙にいとまがない.

 しかし本邦では,特に欧米で開発され,日本の患者が待ち望んでいるそうしたイノベーションが,数年も遅れてようやく患者に届くことが指摘され,それは行政の怠慢であると言われ続けてきた.特にここ数年,いわゆる厚生労働省(以下,厚労省)を中心とした行政当局をバッシングすることで,業界も医療側も留飲を下げてきた.しかし,筆者は医療機器に21年間携わってきたが,以前から異なる主張をしてきた.

医療材料の内外価格差

著者: 上塚芳郎

ページ範囲:P.651 - P.656

 医療材料(機器)の内外価格差問題は,古くて新しい問題である.私たちが日常大きな恩恵を受けている最新医療機器のほとんどが米国生まれであり,それらは軒並み輸入という形になっている.それらの機器がなければ助かる命も助からないということも事実である.しかし,昨今財務省を中心に医療費の削減が叫ばれている時代に,公的保険で償還される医療材料が海外で売られている価格に対して著しく高いとすれば,それを是正するのが筋であろう.

 また,ここ数年で内外価格差がかなり縮小している医療材料もあれば,そうでもないものもある.本稿では最近の傾向も含めて解説する.

医療機器流通の現状と課題

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.657 - P.662

 医療をめぐる経済状況の悪化により,医療費増の抑制が課題となっている.このような状況下,医療材料・医療機器の価格についてもその適正価格についての議論がある.わが国の医療材料・医療機器の流通については,以前より内外価格差の問題や,国内価格の設定方法のあいまいさなどが問題視されてきた.また,卸業におけるコストの主体となる物流コストは製造コストなどに比較して変動費部分が多く,いわゆる管理可能費部分が大きな割合を占めるため,コストマネジメントによる管理が有効である.ところが,医療機器関連産業,特に医療関連卸業は,中小企業が多いこともあり,これまで科学的な物流コストマネジメントが十分行われていない現状もある.その意味で物流の効率化により医療材料・医療機器にかかわるコストを圧縮することは可能であろう.

 しかし,その一方で流通加工,SPDなどの院内物流の代行,医療材料の委託・貸出し,医療機器の保守・管理,廃棄物処理あるいは多額の売掛金の発生など,本来医療施設が持つべきコストおよび財務リスクを医療機器関連産業が附帯業務として代替しているという問題点も指摘されている.

血管外科医から見た特定医療材料:ステントグラフトと末梢ステントをめぐる諸問題

著者: 大木隆生

ページ範囲:P.664 - P.670

 筆者は1995年より米国ニューヨーク州アルバートアインシュタイン医科大学血管外科で勤務している.1997年より血管内治療部部長,2001年より血管外科部長として臨床活動を行ってきた.さらに,2006年からは慈恵医大血管外科診療部長となり,アルバートアインシュタイン医科大学の職は兼任とした.そのため2006年4月からは,毎月1週間ニューヨークで,残りの3週間は東京で診療・手術をしている.こうした立場故に,日米の臨床現場における特定医療材料の諸問題をリアルタイムで実感できる.例えば,ニューヨークの手術室,カテ室で治療を行う際に,自由にXXXのステント,YYYのカテーテルと使える一方,東京に戻ると,使用できるデバイスが極端に少なく,診療に大きな制限がある.いわゆるデバイスラグに日常的に直面しているのである.デバイスラグのために日米の手術件数に大きな差が生じており,有益なデバイスを日本の患者が享受できていないという切実な問題がある.例えば,後述する腹部大動脈瘤ステントグラフト術の日本における手術件数は人口当たり米国の170分の1であり,腎動脈ステント術は42分の1である(図1).本稿では,日米で活動する筆者が臨床現場で感じる特定医療材料に関連する問題を専門としている血管外科領域の実例を挙げて概説する.

わが国における人工膝関節の現状と今後

著者: 松本秀男

ページ範囲:P.671 - P.675

変形性膝関節症

 近年,わが国では人口の高齢化に伴い骨粗鬆症,変形性脊椎症,変形性関節症などの運動器の変性疾患が著しく増加している.特に膝関節の加齢性変化である変形性膝関節症の増加は顕著で,各医療機関でこれらを治療する機会が著しく増えるとともに,その治療に要する費用も飛躍的に増加している.

 変形性膝関節症は関節構成体,特に軟骨組織の変性が年齢に伴って進むことが原因で,40歳代後半から徐々に見られるようになり,70歳代,80歳代では,ほぼ全員に何らかの変形性変化を認める.リスクファクターとして女性,高年齢,肥満などが指摘されている.

グラフ

徹底した物流管理を経営に活かす―鹿児島大学病院

ページ範囲:P.621 - P.624

 医療材料は種類が多岐にわたり,同一の種類においても複数の製品が存在することから,その数は膨大なものとなっている.複数の診療科,病棟,職種がそれらを毎日大量に消費する病院において,その管理は容易ではない.臨床に忙しい現場では「何をどれだけ使ったか」「誰が何を,いつ注文したか」を把握することが難しく,2重発注による在庫過剰や,逆に発注漏れが起こりやすい.

 鹿児島大学病院では,医療情報部が中心となって,1992年に院内での物流システムをスタートさせた.「各部署が必要な医療材料について管理課に伝票を提出し,管理課がまとめて業者に発注するという従来の流れでは,管理課も現場の在庫を把握できず,同じ請求が来ても2重発注と気づきません」と医療情報部准教授の宇都由美子氏は指摘する.

連載 ヘルスケア環境の色彩・照明・8

照明4 明るい廊下がヘルスケア環境を変える

著者: 手塚昌宏

ページ範囲:P.626 - P.627

廊下の照明は施設全体の印象を左右する

 廊下の照明は施設の印象に大きな影響を与える.暗い廊下はその施設全体の印象を悪くしてしまう.しかし,まちがった省エネルギーに関する解釈の仕方からか,電力費軽減のためか,必要である廊下の照明まで消灯している病院や高齢者施設の多いことに驚かされる.

 自然光が十分に取り入れられた廊下であれば別だが,日中,明るく感じさせるように照明を工夫することが,患者や施設で働く者すべてにとって必要なことである.照明が暗いと,次の行動に移るための動きを悪くするだけではなく精神的な影響を与えることにもなる.

 外来の廊下はエントランスホールと同様に病院の顔となるので,天井,壁,床の明るさのバランスをとり,開放感のある安定した空間にすることが望ましい.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・15

医師会病院でのMSW業務立ち上げ経験を踏まえて

著者: 小畑麻乙

ページ範囲:P.685 - P.689

 医療ソーシャルワーカー(以下MSW)を新たに配置する医療機関が増えている.病院機能評価への反映や,複雑な制度下での連携業務の専門性が増したこと等の背景があり,診療報酬などの財政的な裏づけがないにもかかわらず,MSWへの期待や必要性が高まっている.ここでは業務の立ち上げに関して,所属する医療機関や地域の中でどのような役割を期待され,対応してきたかを振り返りまとめた.当院の業務はまだまだ発展途上であるが,この経験が新たにMSWの設置を考える医療機関や新しくMSWとなる後輩の参考になれば幸いである.

職場のメンタルヘルス・5

人間関係やコミュニケーション障害による生産性の低下

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.690 - P.695

 病院におけるマネジャーのストレスは様々であるが,その1つに部下が職場を辞めてしまうことがある.看護師不足の問題は,サービスの品質や医療事故,看護基準による診療報酬に深刻な影響を与える.

 病院看護師の1年間における離職率は12.3%であるが,新規採用(新卒,中途)された看護師の場合,13~16%に達し,そのうち新卒者が9.3%を占める.今日の看護師争奪戦で頭を痛めているのは,人員の配置や勤務表作成のやり繰りがつかなくなる看護部長や看護師長である.当然そのしわ寄せは,過重労働という形で主任以下の看護スタッフにも及び,その結果,辞めたいと申し出る看護師がさらに出てくるといった悪循環を生み出してしまう.表1は,新卒看護師が仕事上悩みに思っていることと,仕事を辞めたいと思った理由について順位をつけたものである.

医療動向フォーラム ■DPCの今後を予測する・1

日本DPC協議会の緊急レターから―N新聞の最近の論調を考える

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.696 - P.697

 DPCの黎明期といえる2004年4月に,DPCを試行する病院がお互いの情報交換を目的として「DPC試行病院協議会」が発足し,筆者は事務局長に就任した.2006年3月に,より積極的な政策提言活動を行い,またより有用な情報を病院に提供するため,協議会のNPO法人化を目指し,同時に名称を「日本DPC協議会」に変更した.

 協議会の機能の中で重要なものの中の一つに,緊急レターがある.今回は,今年2回発信した緊急レターの内容を紹介しつつ,最近の医療を巡るN新聞の論調に関して意見を述べたい.

病院管理フォーラム ■虐待防止・4【最終回】

まだまだ未知なる高齢者虐待への取り組み

著者: 加藤雅江

ページ範囲:P.698 - P.699

●最も難しい症例としての「高齢者虐待」

 高齢者への虐待問題が深刻化している.介護保険制度が普及する一方で介護疲れなどにより高齢者への暴力や介護放棄といった問題が表面化してきている.こうした状況を受け,2005年に高齢者虐待防止法が成立した.医療機関にも児童虐待と同様に虐待の早期発見,防止への取り組みが求められ,発見時の市町村への通告が義務づけられた.このように,高齢者に対する虐待防止対策は全国的にも取り組みが始まったばかりである.

 各自治体がまとめる虐待防止マニュアルを見ると「介護疲れ」がキーワードになっている場合が圧倒的に多い.連日報道される事件も同様である.一方で,私自身が医療機関で出会う高齢者虐待の背景は複雑で,その対応も背景や長い家族の歴史から問題の根っこを探り,核心に踏み込まざるを得ず,援助を行うには経験と高度なスキルを要する最も難しい症例である,という印象を持っている.虐待による受傷を主訴に来院される事例ばかりではないからかもしれない.

■医事法・4

医療(診療)契約概念の必要性

著者: 植木哲

ページ範囲:P.700 - P.702

 本稿の出発点は「世間の常識・医師の非常識」でした.これからいよいよ本題に入ることにします.


●医療行為は恩恵か契約か

 これまで述べてきたように,医療行為は一定の要件を充たす時に正統な業務行為と評価されますが,1つでも充足されない時,刑事処罰や行政処分,民事責任の対象となります.このように医療行為は法的には何ら特別な行為と見なされず,それが違法(不法)と評価されれば,暴力団の行為と同じように法的規制(制裁)の対象となります(第1回参照).

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第151回

医療法人青流会くじらホスピタル

著者: 木村敏夫 ,   鳥山亜紀

ページ範囲:P.704 - P.709

心療内科専門の病院

 愛媛県で長年精神医療に取り組んできた医療法人が,心療内科専門の病院を新たに東京で開設したのが「くじらホスピタル」である.愛媛県の「くじらグループ」では,患者の病態や家庭環境に応じて,適切な治療と生活の場,仕事の場を提供し,患者がより良く生きるために力を尽くしてきた.一方,横浜市にある「めだかメンタルクリニック」では,ストレス社会の中で適応障害やうつ状態をきたした方,家庭内の暴力や虐待で苦しんでいる方等に対し,外来診察とデイケアによる治療プログラムを実践してきた.そうした実績をもつ法人が,従来の統合失調症を主体とした精神科の医療機関では適応しにくい患者に対し,適切な入院環境の整備が急務であると切実に感じ,この病院を開設する計画を立ち上げることとなったのである.

 計画は,都心からのアクセスが良いところに,心療内科の病院にふさわしい敷地を捜すことから始まった.1年余の土地捜しの後,ようやく京葉線潮見駅近くの運河に面した静かなところに決まった.日の光を受けて水がキラキラ光りながら流れる運河が魅力的なところである.心を癒す空間づくりには,この水の流れがかけがえのないものと感じた.

リレーエッセイ 医療の現場から

「乳腺は何科の病気?」

著者: 渡辺修

ページ範囲:P.711 - P.711

 胸にしこりを感じる,乳房が痛む,乳首から分泌物が出てくる…など乳房に関連した症状があった場合,どこで診てもらうのがいいのでしょうか?産婦人科に行く人も多くいます.乳房の病気は産婦人科の領域だと思っている人が多いからです.その他,外科に行く人,かかりつけの内科医に相談する人,インターネットで検索する人など,まだまだ様々です.これほど乳癌が増えて社会的にも話題になっているにもかかわらず,何科にいけばよいかわからないという人が多いように思います.乳腺の病気は古くから外科の1診療域であったため,外科医が乳腺の診療を行っている病院が多いのが現状です.お産の後の乳腺炎も,実は外科の診療域なのです.

 しかし最近では,「乳腺科」あるいは「乳腺外科」と病院内に独立した看板を掲げるところも多くなり,乳腺の診療を専門とするクリニックも多くあります.医療界の中では,乳腺の病気(乳癌)は外科の 1 部門ではなく,独立した診療科として扱うべきだという気運が盛り上がっており,大学病院でも「乳腺科教授」という役職が誕生してきているほどです.ところが,厳密には「乳腺科」という看板は表立っては掲げられません.医療法によって標榜できる科が決まっていて,「乳腺科」はまだ認められていないためです.病院の外に向けた看板には診療科としての「乳腺科」は掲げられないため,病院内やインターネットで表示するようにしているのです.「乳腺クリニック○○○」あるいは「○○○乳腺クリニック」というように,病院やクリニックの名前として「乳腺」という言葉を用いることにも行政の壁があり,訴訟も起きているほどです.病院名「乳腺」訴訟の上告審では「乳腺」を病院名として使用してはいけないという判決が下されました.「誇大広告で国民が適切な医療を受ける機会を失う恐れがある」ということのようです.確かに,「乳腺科」あるいは「乳腺」という標榜を正式に認めれば,標榜するのに資格は必要ないため,乳癌が適正に診療されなくなるのではないかという危惧はあります.そのため,日本乳癌学会は「乳腺科」の標榜を要求するよりも診療の質を確保するため,「乳腺専門医」を公に広告できるようにすることを優先したのです.「乳腺専門医」は乳癌学会のホームページを見れば,どこの地区の何病院にいるのかわかるようになっています.インターネットで検索する場合は,「乳腺外来」や「乳腺専門医」で検索をかけるとよいのではないでしょうか.

研究と報告【投稿】

千葉市立海浜病院における携帯電話使用範囲拡大の取り組み―病室における携帯電話使用許可実現について

著者: 松本玲子 ,   今野恵美子 ,   栗原弘子 ,   福富明美 ,   小鹿原泉 ,   高木卓 ,   坂本亮太 ,   藤平俊雄 ,   勝山寿和 ,   水野谷明弘

ページ範囲:P.676 - P.679

要旨 携帯電話は急速な普及と機能の充実により病院内においてもその使用を厳しく制限することは難しく,使用範囲の拡大を認めた新たなルール作りが必要となっている.携帯電話の電磁波による医療機器誤作動からの医療安全の確立,患者アメニティの充実,他者に迷惑をかけない利用マナーの啓発を実現し,携帯電話の使用範囲を拡大するために調査,研究を行った.調査方法は,病院内に存在する医療機器をすべて抽出し,医療機器メーカーに携帯電話の電磁波の影響に関するヒアリングを行うとともに携帯電話の医療機器への影響実験を行った.その結果,携帯電話持ち込み禁止区域,電源off区域を設定し,「医療機器より1mの隔離距離」を保つことで安全に携帯電話が使用可能であることがわかった.調査結果をふまえ新ルールを制定し,病室における携帯電話の使用を実現した.使用範囲拡大後も携帯電話による事故もなく,患者,職員両者の利便性が向上した.

短期連載 医療過誤における民事・行政・刑事責任・2

医療過誤に対する行政処分のあり方と問題点

著者: 尾崎雄

ページ範囲:P.680 - P.684

行政処分の仕組み,いきさつと現状

1.なぜ行政処分が必要か―国民の命と健康を守るために

 医療過誤を起こした場合,医師や病院にとって刑事判決よりも恐れることは,それをマスコミに報道されることであり,医業停止や免許取り消しの行政処分を受けることではなかろうか.医師は職を失い,病院は減収に追い込まれるからである.

 医師に対する行政処分は厚生労働大臣の諮問機関である医道審議会で決まるが,罰金以上の刑事罰が確定したケースが対象になっている.したがって,重大な医療過誤を犯した医師や病院も,刑事処分が確定するまでは医療行為を行うことができる.そうした医師の存在は,医療の消費者である患者の安全を脅かす.こうしたことがないように,事故を起こした医師や医療機関に対しては,刑事処分とは別に,業務停止や免許取り消しなどをいち早く行うことが求められている.医療は国民の命・健康を守る公共・公益事業であるからだ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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