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雑誌目次

雑誌文献

病院67巻11号

2008年11月発行

雑誌目次

特集 「環境の時代」と病院

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.957 - P.957

 地球温暖化や資源・エネルギー問題,リサイクル,自然環境の保全等々,「環境」をめぐる諸課題は私たちにとってきわめて身近で切実な問題となっている.それは生活に根ざした具体的な話題であると同時に,人類のゆくえや現代人のライフスタイルのありようを根本から問うているテーマであると言っても過言ではない.

 同時に,こうした環境をめぐる問題は,実は医療や病院ときわめて密接な関連性を持っているが,これまで「環境と医療」というテーマが議論されることはごく限られた範囲にとどまっていた.本特集ではこうした話題を正面から取り上げ,今後の医療や病院経営にとって環境をめぐる諸課題がどのような意味を持ち,またどのような対応が求められるかを広く探ってみたい.

病気の環境要因―今,問題になっていること

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.958 - P.961

 ヒトはいうまでもなく,環境の生物である.環境の中には,自然も社会も含まれる.ヒトは,自然と社会に包まれながら,それらの環境の影響と呼応しつつ生活しているので,当然のことながら自然と社会の変化は,健康状態,疾病構造にも大きな影響を与える.ヒトは,生物の中でも際立って社会的側面が強いので,環境の中でも社会的環境の影響を受けやすい.

 われわれは激しく移ろう社会的環境にも時々刻々と応答しながら,適応して,“巧みに,しなやかに”そして場合によっては“したたかに”生きているが,しばしば打ちひしがれて絶望する時もある.われわれはそのような環境との呼応という“ゆらぎ”の世界に居る.そして激烈な環境変化の場合にはそれへの対応,呼応に成功したものだけが,選択されて生き延びてゆく.

 本稿では,特にこれら,ヒトをとりまく環境の中でも,ごく身近に“われわれを包む身近な環境”と健康や疾病の問題に焦点を絞って,問題提起とする.

環境CSRと持続可能性

著者: 河口真理子

ページ範囲:P.962 - P.965

CSR(企業の社会的責任)とはなにか?

 企業の社会的責任,CSR(Corporate Social Responsibility)については様々な定義があるが,筆者は「企業の内側と外側を再確認すること」と定義している.これは言い換えると,己を知り相手(社会)を知ることである.内側から見直すということは,企業のミッションを再確認し,企業の社会的な存在価値を問い直すことを意味する.結局,最近頻発している企業不祥事のほとんどは,目先の利益を確保するという近視眼的な発想から生じている.しかしそれらが一旦発覚すると企業に取り返しのつかないほどの損失をもたらす.こうした企業も,設立当時を振り返ってみると,その事業を通じて社会に貢献をしたいというミッションが必ずあったはずである.しかし,日々の事業活動を続ける中でそれが見失われてしまった.それを再確認することがCSRの第一歩である.

 次に「外側から見直す」ということは企業を取り巻くステークホルダー,すなわち社会との関係を再確認することである.そこで社会(相手)を知る時に重要な点が1つある.それは「何がビジネスのチャンスなのか?」という切り口以外の視点から社会を知るということである.地域の住民や,NGOなどビジネス上あまり利害のないステークホルダーがその会社に対して何を期待しているのか,また従業員などビジネスに直接関係の深いステークホルダーでも,会社とどのように関わっていきたいと思っているのか.彼らの要求は,環境保全やワークライフバランスのとれた職場制度など直接ビジネスにつながらないように見えるものが多く,通常の企業活動の中で無視あるいは軽視されがちであるが,これらは社会の変化とともにビジネス上も重要なテーマとなることが多い.

グリーンマーケティングと病院

著者: 大和田順子

ページ範囲:P.966 - P.969

人と地域と地球の健康を志向する新しいライフスタイルLOHAS(ロハス)

 最近,食品の安全・安心への関心や,フードマイレージ注1)の観点から国産や地元の農産物を食べようという機運が高まっている.また,スーパーマーケットの野菜売り場などでは “地産地消” と書いたポスターやショーカードが目につくようになった.学校でも,食育をテーマとした授業や給食を採用するところが増え,国産や地産地消,オーガニック農産物への関心が高まっている.

 ここに1つの調査データがある.自分の健康と環境は関わりがある,と考える人が増えているというものだ(図)注2).健康と環境とどのような関わりがあるのか? その答えは,LOHAS(ロハス)というライフスタイルを実践する人々の考え方や行動から知ることができる.LOHASとは,Lifestyles Of Health And Sustainabilityの頭文字をとった造語である.これは健康で持続可能な社会を志向するライフスタイルの意味で,1990年代後半にアメリカで生まれた.環境や社会問題に関心を寄せ,暮らしを通じてそうした問題の改善に貢献したいと願うものだ.彼らはカーボンオフ(低炭素)で健康的かつ心豊かな生活を志向し,健康とは自分や家族の健康だけでなく,地域社会や地球の健康も含まれていると考えている.また,自分たちの暮らしが途上国の人々や,他の動植物を犠牲にしたものであってはならないと考える“意識の高い(conscious)”人たちである.筆者は2002年に日経新聞に寄稿した記事で日本に初めてロハスを紹介し,その考え方は2005年から広がり,現在は一般名詞や形容詞として,“ロハスな宿”や,“ロハスライフ”などと使われるようになった.

病院における環境マネジメントの評価手段としての環境会計

著者: 河野正男

ページ範囲:P.971 - P.973

環境に関する国際規格の制定・公表

 1990年代に入り,地球温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨,海洋汚染,熱帯林の減少,砂漠化,野生生物種の減少等,多様な環境問題への関心が高まり,先進国では,企業,政府機関,非営利団体および家計等,あらゆる組織に環境問題への対応が求められた.同時に,様々な組織における多様な環境問題への対応水準を維持する必要から,先進各国では,環境問題への対応に関する規格(standard)作りが行われ,規格に合致しない製品やサービスに関する規制が強化された.国別に定められた規格を企業がクリヤーすることは容易ではなく,世界の自由な貿易を阻害すると考えられ,環境に関する世界共通の規格すなわち国際規格の制定が求められた.そこで,主として工業製品に関する国際規格作りに携わる国際標準化機構(ISO)に白羽の矢が立てられた.ISOでは1996年以降,ISO14000シリーズと呼ばれる環境に関する国際規格を次々と制定,公表してきた.

 環境に関する国際規格は2つのグループに大別される.1つはシステムに関連するものであり,他の一つは製品・サービスに関するものである.前者には,企業の多様な環境保全活動を組織的に管理するためのシステムに関する環境マネジメントシステム規格,このシステムの監査に関わる環境監査規格,そしてシステムの運用結果すなわち環境パフォーマンスの評価に関する環境パフォーマンス評価規格がある.後者には,製品・サービスの生産から廃棄までの全プロセスでの環境負荷物質の排出量の調査・分析に関わるライフサイクル・アセスメント規格と製品・サービスの環境負荷情報の表示に関する環境ラベル規格がある.これらの規格は全て14000台の番号が付されていることから,環境に関する国際規格をISO14000シリーズという.

次世代の統合医療における自然環境の利用

著者: 今西純一 ,   今西二郎

ページ範囲:P.974 - P.978

 最近,統合医療という言葉が,少しずつではあるが広まってきている.しかし,その定義や実態については,まだ十分に理解されているわけではない.統合医療とは,現代西洋医学を中心に,現代西洋医学では力の及ばないところを補完・代替医療と組み合わせることにより,理想的な医療を実現しようとするものである.

 統合医療は,疾患の治療だけでなく,予防や治未病,健康の増進や維持,改善をも目的としている.その特徴は,全人的で,しかも生活の質(QOL)や日常生活活動度(ADL)を考慮した理想的な医療が行われることである.

 ここでは,まず補完・代替医療の定義や問題点について概略を説明し,次にスピリチュアリティや環境を重視した次世代の統合医療について提案を行い,最後に自然環境を癒しの空間として利用するためのいくつかの視点を述べたい.

植物の療法的効果を取り入れた病院緑化―予防医学時代における緑の役割

著者: 岩崎寛

ページ範囲:P.979 - P.983

 超高齢化社会の現在,今後,より多くの人々が病院との関わりを持つと考えられる.病院という空間は,患者に限らず,職員や医師,看護師なども含めて,その利用者にとって不安や緊張を抱えた特殊な空間であるといえる.一方,近年,森林療法や園芸療法など緑の療法的効果が注目され,それらを取り入れた緑化に大きな期待が寄せられている1).病院においても例外ではなく,積極的に緑を取り入れようと考える病院も徐々に増えている2).しかし,病院はオフィスや学校,都市公園などの緑化とは異なり,利用者や目的などが他の空間と異なることから,「病院らしい緑化」,「病院ならではの緑化」が必要である3).そのような中,厚生労働省が管轄している国立病院機構では,病院内に積極的に緑を取り入れる「ガーデンホスピタル構想」を打ち出したが,十分に浸透しているとは言い難い状況である.また,これまでの病院は治療の場という側面だけが注目されていたが,現在問題となっているメタボリックシンドロームなど生活習慣病の予防という観点から,健康を維持するための機関としても,その機能が期待されている.

 このような背景から,本稿では,病院緑化の現状と問題点を検証し,今後の病院のあり方を「緑化」という視点から切り取り,予防医学時代の緑の役割について検討する.

【事例 病院の環境活動】

渓仁会グループ

著者: 稲村和彦

ページ範囲:P.984 - P.987

CSR経営を目指して

 2006年度より,渓仁会グループ(以下,当グループ)ではグループ内の病院・施設・事業所での特徴的な取り組みを,ステークホルダーに対してわかりやすく伝えることを目指し「CSRレポート」を発刊している.本稿はその中に掲載した「当グループにおける環境への取り組み」について全体的に紹介し,また環境活動の推進事務局の立場から「グループ事業体で取り組む環境活動の実際」について述べたい.

 当グループは,北海道札幌市を主な拠点として,3つの病院,総合健診施設,13の老人介護系施設,これに在宅ケア関連事業所を加え,約60事業を展開する保健・医療・福祉の複合事業体である.近年,CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)経営を重要視する企業が増えているが,当グループもグループ経営基本方針の1つに掲げており,CSRに基づく目標設定はBSC(Balanced Score Card)を用いて各病院施設,部門・部署,個人へと展開されている.

 特に医療業界は,一般企業と比べて社会貢献としての事業性が強いが,「地域社会や環境に対する配慮・責任」を考えると,その地域で事業を営む以上,病院も企業も重要な責務と言える.したがって,環境配慮は業種を問わず社会から求められるという基本的な考え方のもと,様々な環境活動を展開している.

武田病院グループ

著者: 久保茂

ページ範囲:P.988 - P.990

 21世紀は「環境の世紀」といわれ,人類最大の課題である地球環境問題について,世界的規模での対応を迫られている.日本も1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で,2008年から2012年までの5年間のうちに,二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を対1990年比で削減量6%という数値目標が課せられている.

 しかし,日本の現状は京都議定書にはほど遠く,温室効果ガスの排出は逆に年々増加の一途をたどり,国を挙げての緊急的な対応に迫られている.

河北総合病院

著者: 篠原健一

ページ範囲:P.991 - P.993

 河北総合病院は,1990年より基本方針に「地球環境保全」を加え,環境と調和したよりよい医療を目指してきた.そして今年,創立以来の基本理念「恕(おもいやり)」の精神とともに80周年を迎えた.

 1996年にISO14001が発行されると同時に,財団組織全体(総合病院,健診センター,透析センター,看護専門学校)のISO14001認証取得を目標設定した.1997年1月に環境マネジメント室を設置し,組織横断的にEMS(環境マネジメントシステム)構築プロジェクトがスタート.同年10月1日,理事長(環境マネジメント最終責任者)により「環境方針」が表明され,“よりよい医療と地球環境保全活動の双方になくてはならない共通するものはともに他者への恕(おもいやり)の精神である”とし,内外に向けてのコミットメントが行われた.従来から,廃棄物適正処理委員会などの仕組みを中心に環境対策に力を入れてきたが,事実上この日が外部認証規格による河北総合病院EMSのキック・オフであった.

グラフ

森に癒され,森を育む―医療法人こぶし 植苗病院

ページ範囲:P.945 - P.948

 北海道苫小牧市の「医療法人こぶし 植苗病院」(以下,当院)では,病院に隣接した森で毎週木曜日に森林療法を行っている.森林療法とは,森を散策し,日常から少し離れた空間でのカウンセリングや軽作業を通じて,心と体を健康にしようという自然療法の一種.単調になりがちな入院生活の気分転換にもなるのでは,と昨年2月から準備を始め,同年8月にスタートした.以来,参加者が集まれば季節・天候を問わず実施している.

連載 ヘルスケアと緑・11

子どもと癒し―その2―アメリカ

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.950 - P.951

 イギリスの小児ホスピスの紹介に続き,今回はアメリカの事例として,キャンプ場を紹介したい.読者の中には,「キャンプ場?」と思われる人が多いだろう.ここに紹介するものは,通常とは異なり,難病の子どもの利用を想定した医療施設付きのキャンプ場である.

〈続〉基本からわかる医療経営学・8

医療におけるサービス・マーケティング

著者: 磯和由佳

ページ範囲:P.998 - P.1002

 今,医療の現場では様々な問題が起こっています.医療費抑制による病院経営の厳しさ,医師や看護師を主とした医療従事者の離職や不足,モンスター・ペイシェントとも呼ばれる,消費者意識が高まり権利を主張し始めた患者など,医療を取り巻く状況は変化しています.今回はサービス・マーケティングの考え方を学びながら,医療サービスにおける展開について考えてみましょう.

 まず,サービスとは何かについて明らかにする必要があります.アメリカマーケティング協会では「サービス」を「販売のために提供される,もしくは財の販売と結びついて提供される諸活動,便益,満足」と定義しています.「サービス」は形のある「モノ」とは異なった特性があり,①無形性,②不可分性,③変動性,④消滅性が挙げられます.例えば診察は形がなく,医師の診察と患者の受診という行動は同時に発生し,やり直しはできません.また,患者それぞれに違った症状を呈するため標準化しにくく,医師もその時の状況により,まったく同一品質のサービス提供が困難です.そして,診察は事前に作り置きしたり在庫ができず,提供されると同時に消滅してしまいます.

 医療も医師や看護師など医療従事者によって行われる「サービス」なのです.

続クロストーク医療裁判・11

医師の説明義務のあり方―分娩方法に関する説明義務違反事件―最高裁平成17年9月8日判決の事例から

著者: 堀内元城 ,   土屋裕子 ,   生水真紀夫

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 本連載は65巻3号~66巻2号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 第11回と12回は,前回の連載第5~7回で取り上げた説明義務違反の問題について,その後出された最高裁判決を素材に再論するものである.いずれの最高裁判決も説明義務違反を認めなかった高裁判決を覆して,これを認める方向での再審理を求めたものであり,説明義務違反についての最高裁の積極的な姿勢がうかがわれる.

 今回取り上げる判決は,いわゆる逆子の出産について,分娩方法の選択(経膣分娩か帝王切開か)についての説明義務違反を認めたものである.本件は,具体的にされた医師の説明に不正確な点があったこと(分娩方法の移行に関するもの)や,患者側の度重なる帝王切開への希望に対する対応が十分でなかったことが,ポイントとなっている.産科で基本的な問題の1つと考えられる分娩方法の選択に関し,どのような説明がなされるべきかについて,改めて議論したい.

病院管理フォーラム ■エクセレント・ホスピタルの条件を探る・11【最終回】

マネジメント改革とその視点

著者: 猶本良夫 ,   石井淳蔵

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 これまで11回にわたり連載を重ねてきた.私たちが連載の企画を立てた理由は,現在の医療の問題に関する議論の中で,重要ではあるが見過ごされがちな課題について述べる機会を得るためであった.

■医事法・19

医療裁判から医療ADRへ(1)

著者: 植木哲

ページ範囲:P.1012 - P.1014

●通常医療と医事訴訟

 始めに,人(生命体)が発生・出生してから死亡・死体に至るまでの法律条文を一覧表にしてみましょう(図).このうち通常医療は,人が生まれてから死亡するまでの間の様々な病気に対する診断・治療の総体を意味します.ここでは病気の種類・性質に応じ,あらゆる医療行為が内科系か外科系かを問わず敢行されます.その中で,医事訴訟になりやすい診療科目(外科,内科・小児科,産婦人科,整形外科等)と,そうでない診療科目が存在するのはやむをえないことでしょう.

 医事訴訟の検索としては,コンピューター検索が可能なTKCの医療判例検索システムがあります.2008年6月24日現在,2,714件が搭載されており,このうち最高裁判決が127件,高裁判決が529件,地裁判決が1,916件となっています.民事責任の根拠別では,契約責任(民法415条)関係が646件,不法行為責任(709条)関係が1,499件,工作物責任(717条)関係が6件であり,国家賠償法1条関係が111件,同2条関係が5件となっています.

■DPCによる地域医療分析・4

MDC06消化器系,肝臓,胆道,脾臓疾患

著者: 河野一博 ,   真野俊樹

ページ範囲:P.1015 - P.1017

 コストをかけずにより高品質で安定した医療サービスを提供するためには,資源を効率よく活用する必要がある.われわれは,地域の医療機関を1つの医療サービスを提供するプロバイダーとして考え,各医療機関が経営をするうえで,地域医療計画と組み合わせた地域における医療資源の「選択と集中」の必要性があると主張してきた.そこで,産業界における「選択と集中」のフレームワークを医療に適応する試みとして,厚生労働省が発表しているDPCデータに基づく分析を行ってきた.

 連載第4回目は主要診断群MDC06(消化器系,肝臓,胆道,脾臓疾患)について報告をする.

DPC時代の医療経営管理塾・6

高い調整係数が妥当な病院,不当な病院

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.1018 - P.1019

 診断群1の包括部分の支払いは,入院日数にかかわらず1日4万円とする.A病院もB病院も「診断群1」の患者しか入院しない病院であり,DPCによる支払いを受けている.A病院は積極的に救急患者を受け入れ,常時患者10人中5人が救急患者であり,残り5人が予定入院であると仮定する.また,B病院は救急入院を受け入れず,常時患者10人中10人が予定入院であると仮定する.

 救急入院は予定入院と比べ,来院時に多くの検査を要し,入院期間も長くなる.その結果A病院では表に示すように救急患者は一律8日間の入院期間であり,出来高で入院費用が支払われた場合,食費+入院費が20万円(=2.5万円/日×8日),検査や投薬・注射などの治療費が17万円であると仮定する.また,A病院の予定入院は,一律6日間の入院期間であり,食費+入院費が15万円(=2.5万円/日×6日),治療費が一律8万円であるとする.

 一方B病院の予定入院は,一律7日間の入院期間であり,食費+入院費が17.5万円(=2.5万円/日×7日),治療費が一律12.5万円とする.

 以下の問いに答えよ.

〈問1〉A病院とB病院に常時10人の患者が入院している場合,10人分のDPCにより支払われる包括部分の総収入(調整係数1.000の場合)を計算せよ.

〈問2〉A病院とB病院の調整係数を少数点第3位まで求めよ.

〈問3〉高い調整係数が付けられるのが妥当なのはA病院かB病院か.その理由も述べよ.

〈問4〉上記の例を用い,今後調整係数を廃止する時,どのような方針で新機能係数を設定すべきかを述べよ.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・14

3つの病室風景~適度な乱れ~

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.1020 - P.1021

田舎の病室風景

 叔母が病に倒れた時,どの病院を選ぼうかと話しあった.

 叔母が住むのはいわゆる「田舎」と呼ばれる地方で,のどかな田園風景があふれる.それはいいが,病気となると選択肢は限られる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第166回

船橋市立リハビリテーション病院

著者: 三谷恭一

ページ範囲:P.1023 - P.1028

自然と地域,そして家族とともに

 本病院は,急性期医療からの連続した医療を提供し,早期回復,早期社会復帰を目指す回復期リハビリテーションに特化した病院である.この医療の流れを実現するために,船橋市が本計画の立案と施設の建設を行い,実際の医療の提供と施設管理は指定管理者として民間の医療機関に委託している.

 計画地は,船橋市の基幹病院である船橋市立医療センターの西側,市道を挟んだ斜向かいにあり,急性期医療から回復期医療への流れを立地的にも具現するものとなっている.

 施設の設計者は,プロポーザル方式により選定され,われわれ,日本設計がその機会を得ることになった.

リレーエッセイ 医療の現場から

患者の体験知―データベース化と信頼性確保の試み

著者: 和田ちひろ

ページ範囲:P.1031 - P.1031

●患者の体験知をデータベース化

 「医師に治療法はないと言われたけれど,病気が進行していくのをただ傍観しているだけというのは辛い.他の人はどうしているんだろう」「抗がん剤で眉毛もまつげも抜けてしまった.皆,どうやってお化粧しているのかしら」

 治療を終えて,自宅に戻った患者たちは,様々な場面で,「自分と同じ病気の人たちはこんな時どうしているのだろう」という疑問を抱きます.医師や看護師などの専門家からの助言が大切であることは言うまでもありませんが,一方で,実体験をもとに経験者が語る言葉には説得力があり,共感を伴います.

特別寄稿

世界の潮流「第三の道」―医療・福祉PFIの最前線

著者: 森下正之

ページ範囲:P.994 - P.997

 英国のPFI第一号,ダートフォードNHSトラスト病院(以下,ダートフォード病院)に関して,11年目に入った現地定期調査を2008年8月末に行った.当初,今回の調査を計画した2008年3月時には,あまり成果が期待できない「つなぎの調査」の位置付けで,少しペースダウンを覚悟していた.理由としては,英国の不安定な政治情勢である.ブレア首相が退陣し,2007年6月に選挙で選ばれない形でブラウン政権が誕生したが,勝つ可能性があったにもかかわらず,その時点でブラウン首相は総選挙で信任を得る決断を回避した.その後,本政権の支持率が大幅に急落し,保守党キャメロン党首の人気が着実に高まっているため,総選挙実施を逸した.結果として2009年5月の任期切れ近くまで解散を行わない公算が高まり,労働党政権の「第三の道」を具現化するPFI/PPP(官民提携)政策も現状維持を保っているであろうと予想され,今回の調査成果の期待値も高くはなかった.

 しかし,このような予断はいい方向に大きく違っていた.これまでの継続調査の枠組みに基づき,ロンドン厚生省の関係官僚,大手コンサル会社幹部,ダートフォード病院の経営幹部を含むPFI担当者と駐在の民間企業責任者,専門誌の編集長,当該病院の前経営トップ,国立大学の医学部教授,PFIの派生概念のLIFT(Local Improvement Finance Trust:地方改善財務信託)の民側経営幹部や英国最大NPOの経営トップ等に面談したが,ほとんどが10年以上の付き合いのある懇意の人たちであったため,意見交換は短時間にもかかわらず,本音で核心に迫ることができた.「PFI/PPPに関係する分野において,周辺部と上部組織,現場組織で集中的に情報を収集することで,断片的な情報が相互に結びつき全体像が明確に把握できる」と今回も実感した.その要旨は次の通りである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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