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雑誌目次

雑誌文献

病院67巻12号

2008年12月発行

雑誌目次

特集 検証 平成20年度診療報酬改定

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.1045 - P.1045

 日本の診療報酬は2年に1度改定される.その改定内容は,その時の医療情勢や医療機関の経営状況を反映させるが,改定の基本は「社会保険審議会,医療部会・医療保険部会」にて決定され,中医協はその方針に従って「診療報酬改定を具体化する」ことが役割とされている.

 今回の改定の根幹には,産科・小児科等の医師不足や医療崩壊が現実化している状況より,これらの急性期医療に傾斜配分されることが基本とされていた.そして,その財源として,「再診料引き下げ」が行われると言われていた.一方,今回は「後期高齢者医療制度」の開始と同時改定であり,高齢者に相応しい診療報酬制度を創設することが中医協の役割でもあった.

診療報酬改定の変化と中医協の役割

著者: 土田武史

ページ範囲:P.1046 - P.1048

 2008年4月7日,6年間の任期を満了し,中央社会保険医療協議会(以下,中医協)委員を退任した.その間,委員として1回,会長として2回の診療報酬改定を経験した.中医協は創設以来,起伏の多い過程を経てきたが,この6年間も例外ではなかった.なかでも,2003年3月末の閣議決定「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」と,2004年および2005年に行われた中医協改革は,小泉内閣の財政対策と相まって,診療報酬改定に大きな影響を及ぼした.

 本号の特集テーマは2008年度診療報酬改定の検証ということであるが,ここでは6年間を振り返り,診療報酬改定の変化と中医協の役割について述べていくことにしたい.

平成20年度診療報酬改定と日本の医療提供体制

著者: 原徳壽

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 平成20年度診療報酬改定にあたって,大きな課題があった.それは,急性期病院を中心とした「医療崩壊」と言われる現象である.新聞各紙も言葉は違えど,医療現場で何かとんでもないことが起こりつつあることを報道していた.地方の病院で医師不足による診療科の閉鎖や,修練途上の若い医師たちが病院を離れるといったことを特集で解説していた記事も多く見られた.これらの原因として,長年続けられてきた医療費抑制策,医師の臨床研修義務化(それに伴う研修医の流動化),勤務医の過酷な勤務状況と低給与等が述べられている.筆者は,これらの現象の大きな原因は,わが国の医療提供体制そのものにあると考えており,その変革なくしては,今後の超高齢社会を乗り切れないと考えている.本稿では,それに対して,平成20年度診療報酬改定でどのように表現されたかについて述べることとしたい.

長寿医療制度と社会保障費

著者: 吉岡てつを

ページ範囲:P.1054 - P.1057

 長寿医療制度(後期高齢者医療制度)がスタートしてから半年余りが経過した.4月の施行当初は,周知不足に様々なマスコミ報道等も重なり,国民の間に混乱が生じた.以後,厚生労働省ではこの時の反省に立って,制度を運営する各都道府県の広域連合や市町村とともに,制度の周知に努めてきた.また,施行後,国民の方々からいただいたご意見を踏まえ,政府・与党においては,6月に改善策をとりまとめ,逐次,実施に移している.本稿では,長寿医療制度の趣旨・目的,施行後の改善策,今後の方向等について改めて述べることとしたい.

当事者から見た後期高齢者医療制度

著者: 加藤孝夫

ページ範囲:P.1058 - P.1059

 私たちの「ゆうゆう山楽(さんがく)会」(愛知県)は,「山登りを通じて足腰を鍛え,自然と親しみ,会員の連帯を深める」ことを目的に,年金生活者14名で1992年に発足した会です.

 現在会員は100余名,前期・後期高齢者が60%以上で,最高年齢は84歳です.毎月数回,低山と中高山の登山等を実施し,年間延べ600名が参加しています.70歳以上でも山に親しめるよう,ゴールデンシルバーコースも設け,年に数回1泊2日で高山の裾野を散策する企画にも取り組み,会員からは「生きがいになっている」と喜ばれています.毎月30ページ前後の会報「ゆうゆう」も193号と回を重ねています.

 そうした当会の会員たちの間では,迷走中の「後期高齢者医療制度」に大変関心が高く,いつも話題になっています.

【平成20年度診療報酬改定 検証】

日本病院会「平成20年度4月診療報酬改定に対する緊急アンケート」

著者: 佐藤眞杉

ページ範囲:P.1061 - P.1064

はじめに

 永年にわたる医療費抑制策に加え,小泉政権下で行われた過酷な診療報酬引き下げによって,産科・小児科救急などに綻びが顕になり,「病院医療崩壊」が取り沙汰される昨今だが,今回改訂でも全体で0.82%の引き下げが行われた.医療技術が進歩し,人口高齢化が急速に進み,国民の医療に対する希求がますます高まる内で,病院経営は今後一層の努力が必要になった.

 日本病院会事務管理者委員会(委員長:佐合茂樹)は,平成20年4月の診療報酬改定による会員病院への影響を検証するため,日本病院会に加入する全病院に対して緊急アンケートを行ったので,そのあらましについて報告する.

精神科病院への影響

著者: 平川淳一

ページ範囲:P.1066 - P.1072

 平成20年度診療報酬改定の精神科領域は,平成16年9月に提示された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」に示された“入院医療中心から地域生活中心へ”という精神保健福祉政策の目的達成に沿って行われた.すなわち,「病床等の機能分化」「退院調整機能の充実」「地域での医療・福祉の基盤整備」の3点が診療報酬に反映された.

 「病床等の機能分化」では精神科救急入院料等の基準の見直し,「退院調整機能の充実」では地域移行支援加算,地域移行実施加算など,「地域での医療・福祉の基盤整備」は精神科訪問看護における急性増悪の場合の回数増加などが挙げられる.また,今回はプラス改定であり,その中で精神科は新規項目も多く,よい評価がついたと思われているようであるが,実際には,ハードルの高い成功報酬形式の加算項目が多く,算定できる病院が少ないこと,また,その加算点数も低いため,われわれにはよい印象はない.

平成20年病院経営調査報告より

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.1074 - P.1077

 全日本病院協会は,平成5年よりほぼ毎年「病院経営調査」を行っている.今回も例年と同様の調査を行ったので,その結果を報告するとともに,若干の考察を行う.

グラフ

職員にムダな苦労はさせない―現場を活かせる経営改革を―秋田県立リハビリテーション・精神医療センター

ページ範囲:P.1033 - P.1036

 いまから11年前,秋田県の田園地帯に広大な敷地を有する秋田県立リハビリテーション・精神医療センター(以下,リハセン)が開設された.バブル崩壊の影響が深刻化する前に計画されたこともあって,敷地もさることながら,施設内も空間を広々と使った設計になっており,静かで明るい雰囲気を持った施設である.リハビリテーション科病棟,精神科病棟,認知症病棟があり,精神科病棟と認知症病棟にはそれぞれ重症患者のための閉鎖病棟もある.

 今回は,国内でも特に高齢化が進んでいる秋田県にあるリハセンの特徴と課題・展望を,今年10月に就任したばかりの小畑信彦所長にうかがった.

連載 ヘルスケアと緑・12【最終回】

緑の夢

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 今年1月に始まったこのコーナーは,今回が最終である.人が緑を恋う理由は,ヒトという「いきもの」としてのDNAによるものであろうと述べた,読者は,緑がどのようにヘルスケアに結びつくのかと,疑問に思われた方も多かったことであろう.しかし,自らの病いを受容できない時に,自然が大きく,やさしく包み込んでくれることや,命の終焉を迎える時でさえ,貴重な時間に華やぎと光をふりそそいでくれるということを,様々な事例を通して説明した.このように,緑は「人のいのち」になくてはならないものである.

 前回紹介したホール・イン・ザ・ウォール財団のキャンプは,世界11か所にあり,過去20年間で延べ約12万人の子どもたちがキャンプに参加した.どのキャンプも,設立当初は参加する子どもを集めるために,スタッフが小児病院を回り,ドクターたちに理解を求めて歩いたというエピソードがある.故ポール・ニューマン自身も,俳優たちの協力を得て,「難病の子どもが利用できる設備の整ったキャンプ」への理解を広める活動をしてきた.今,日本でも同様のキャンプ場をオープンさせる活動が始まっている.今回は筆者がかかわっている「そらぷちキッズキャンプ」を紹介したい.

〈続〉基本からわかる医療経営学・9

消費者行動研究から見る受療者行動

著者: 横井美佳

ページ範囲:P.1078 - P.1081

受療者行動研究の必要性

1.医療サービスへの関心の高まり

 近年,医療サービスの消費者である患者,すなわち受療者の医療施設や疾病に対する関心は非常に高くなっています.

 どのような疾病の場合にどこの病院を受診するか,どの治療方法を受けるのかといった基本的な情報をはじめ,どの病院の施設がよいか,スタッフの対応はどうか,どの医師で受療することが可能かといった詳細なサービス内容について,インターネットのクチコミをはじめ,病院選びの本やテレビ番組など様々なメディアによって紹介されています.

続クロストーク医療裁判・12

未破裂脳動脈瘤の手術と説明義務―コイル塞栓術に関する説明義務違反事件―最高裁平成18年10月27日の判決から

著者: 小野寺健太 ,   千葉華月 ,   小林英一

ページ範囲:P.1082 - P.1087

 本連載は65巻3号~66巻2号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 近年の医療訴訟においては,診療上の過失のみならず,診療に際しての医師の説明のあり方が問題とされる事案が増加しており,医療訴訟で問題とされる「説明義務」の内容について検討しておくことが一層重要になってきていると言える.今回は,未破裂脳動脈瘤の手術に際し,医師がどのような説明をすべきかが問題となった事案である.

DPC時代の医療経営管理塾・7

DPCの期日Ⅰ Ⅱ,診療報酬点数の決め方

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.1089 - P.1091

 DPCの診断群ごとの診療報酬点数表は,以下に示すルールに従って,全国から集められたデータをもとに作成される.

 DPCの調査期間中に,診断群1で入院した患者は全国で24例であり,左の表は,診断群1で入院した全患者の「入院日数」と「包括部分を出来高で支払った場合の1日当たりの点数」を示す.

〈問1〉「DPC診療報酬作成ルール」に従い,診断群1の期日ⅠとⅡを求め,解答欄の表に記入せよ.

〈問2〉診断群1の「入院期間Ⅰ日未満」,「入院期間Ⅰ日以上Ⅱ未満」,「入院期間Ⅱ日以上」の包括点数を計算し,解答欄の表に記入せよ.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・15

市民と医療の対話のために―まず一体になることから

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.1092 - P.1093

市民が医療講演に呼ばれ始め

 これまで,様々な地方で「フレンチドレッシング(市民と医療者の対話)」をやってきた.

 僕に講演の声がかかる理由は,①「在宅での看取りの実際を知りたい」,②「告知や死の恐怖と向き合いながらどのように歩いたのか心境を知りたい」,③「緊急時の対応について,体験からのアドバイスが得たい」などが中心だが,2007年頃から,テレビや新聞などの伝え方に市民が疑問を持ち始めたのか,④「マスコミで流される〈特別の死〉ではなく,身近な〈普段の死〉が聞きたい」.緩和ケアに従事する医療者からは,⑤「痛みがあれば痛みを取るのがベストと考えてきたが,市民はそれをどう受け止めているのかが知りたい」など,美談よりも死の実際を確かめようとする動きが増えている.

病院管理フォーラム ■医事法・20【最終回】

医療裁判から医療ADRへ(2)

著者: 植木哲

ページ範囲:P.1095 - P.1098

●医事訴訟の限界と裁判外紛争処理医事訴訟の増加と対策

 本連載第17,18回(本誌2008年9,10月号)で示した医事訴訟の現状,およびTKC(医療判例検索データベース)による判例登録状況からもわかるように,今日,医事訴訟が頻発しています.このような現状をどう判断するかは自由ですが,これを正面から受け止め,合理的な対策を立てないかぎり,法律学の観点からも医療をめぐる将来は暗いと言えます.医事訴訟の面から見ても,医療は確実に崩壊の方向に向かっている(小松秀樹『医療崩壊』,2006)というのが,私の実感です.

 これに対する医師・医療側からの反応は,古い医師・医療界の常識(パターナリズム)に基づいた対応と言わざるをえません.これによれば,今日の医事訴訟の増加傾向は徹底して悪(悪しき状態)であり,結果として萎縮診療(防衛医療)を助長するだけのものと評価されます.「アメリカの悪弊を日本が後追いしている」と言って眉をしかめる向きもありましょう.しかし,このような専門家集団の因習に囚われた反応は,今日,多様な価値観の下では逆に反発を招くことが必至です.

■DPCによる地域医療分析・5

糖尿病

著者: 河野一博 ,   真野俊樹

ページ範囲:P.1100 - P.1102

 これまで,地域医療を担う各医療機関における医療資源の経営に産業界における「選択と集中」のフレームワークを適応する試みとして,厚生労働省が発表しているDPCデータに基づく分析を行ってきた.連載第5回目は糖尿病について分析を行ったので報告する.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第167回

栃木県医師会塩原温泉病院

著者: 膳場進二

ページ範囲:P.1104 - P.1109

病院の基本理念

 栃木県医師会塩原温泉病院は「おもいやりのある病院」を基本理念に掲げ,1)患者さんの基本的人権の尊重,2)栃木県医師会会員の共同利用施設としての役割,3)県北地域のリハビリテーション医療の中核機能,4)地域住民の保健・医療・福祉,を基本方針とし,医師会会員を中心とした医療連携,温泉医療を特徴としたリハビリテーション医療,また,塩原地域の唯一の医療機関としての地域医療を展開する.

リレーエッセイ 医療の現場から

父のFinal Gift

著者: 対本宗訓

ページ範囲:P.1113 - P.1113

 私が初めて人の死の現実に触れ得たのは,30歳も半ば,実の父を見送った時であった.80歳の父は数年間の長患いの中で幾度となく入退院をくりかえし,長い長い時間をかけて,きわめて緩徐に死に立ち到ろうとしているかのように見えた.

 死の10日ほど前のことであっただろうか,何日かぶりに父の枕元に立った私は,いつもと違う父の表情に思わず目を見張った.父の意識レベルは末期まで比較的保たれており,それまではきちんと私の顔を見て受け答えしてくれていた.ところが,その日に限って視線が私の体を通り越し,私の背後の空間の一点に焦点が結ばれた.そしてその目が実にいきいきと輝いている.まるで誰か親しい者がそこにいるかのように.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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