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雑誌目次

雑誌文献

病院67巻2号

2008年02月発行

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特集 医療に求められるイノベーション

巻頭言 フリーアクセス

著者: 広井良典

ページ範囲:P.109 - P.109

 しばらく前から,日本社会の現状や将来についてのマイナスな話題や報道等が基調となり,閉塞感といった言葉がよく使われるようになってからも久しくなっている.振り返れば戦後の日本は“焼け跡”から出発した後,ひたすら経済成長あるいはパイの拡大ということを目標にひた走ってきたが,物質的な需要が飽和しつつある中である種の大きな曲がり角に来ていることは確かである.加えて高度成長期には一定の好循環をもたらした社会システムが,少なからず“固まり”,機能不全を見せていることも事実である.

 こうした状況に対し,「新たな経済成長」や“底上げ戦略”を唱える声もあり,それ自体は重要なことと思われるが,同時にこれからの日本社会の新たな展望が,従来の成長路線の単純な延長にはないこともまた銘記しなければならない.

サービス分野におけるイノベーション

著者: 小笠原敦 ,   榊原清則

ページ範囲:P.110 - P.114

 日本では近年,総人口が減少する下で国の経済の健全性を保つために,「成長のエンジン」としてのイノベーションへの期待が高まっている.イノベーションとは一般に既存のモノやサービス,それを実現する方法に対して,何かの新しい知識やアイデア,仕組みを採り入れて革新や変革や刷新を行い,価値を生み出し,現実の経済や社会にインパクトを与えることを意味する.

 イノベーションというのは本来ふくらみのある言葉であるが,日本における従来のイノベーション論議は次の2点で狭いものだった.第1は「イノベーション=技術革新」という理解に基づく議論が多かったことである.第2は,その技術革新の中でもさらに製造業を中心に,いわゆるモノづくりの技術革新に議論が片寄っていたことである.

医療のイノベーションと医療保険制度

著者: 遠藤久夫

ページ範囲:P.115 - P.119

 あらゆる領域においてイノベーションが停滞することは,その直接的な受益者に不利益が生ずるのみならず,社会にとって資源配分上の非効率を生み出すことになる.医療においても例外でない.疾病構造の変化,医学の発展,国民の医療に対する価値観の変化,医療財政の悪化等々の環境変化に対して,イノベーションなくしては直面している課題の解決を図ることはできない.しかし,医療分野は一般的な産業と比較してイノベーションを起こしにくい状況がある.イノベーションは個々の組織が自発的に行うものであるから,活発なイノベーションが展開されるためには組織活動の自由度が高いことが前提となる.

 しかし,医療には極めて多くの規制が存在するため,組織の自由度は大きく制約されているのである.それは,医療は生命や健康に直結しているため安全性の視点から薬事承認に代表される事前規制が多いことと,医療へのアクセスが所得の多寡によって不平等になってはいけないという公平性の視点からの規制が課せられているためである.医療分野における規制体系のあり方の是非は大いに議論されるべき課題であるが,現実問題として医療活動は制度依存性が極めて高いことは否定できない.そこで,本稿では経済的な意味で医療に大きな影響力を持つ医療保険制度とイノベーションの関係に着目する.

医療・健康サービスの振興とイノベーション

著者: 竹廣克

ページ範囲:P.120 - P.125

 イノベーションとは,非常に捉えづらい概念である.特に医療分野でイノベーションを議論する場合,医薬品や医療機器などいわゆる医療技術の発展に焦点が当てられることが多く,政府においても,新たな診断や治療を可能する技術の開発をいかに支援するかに多くの議論が割かれてきた.当然,このような技術が医療の質・国民の健康増進に果たしてきた役割は測りしれないものがあるし,国民のニーズの拡大はとどまるところを知らず,がんの早期発見・早期治療など,医療技術に対する期待はますます加速しているのが現状である.

 経済の観点からみても,世界的に高齢化が進む中,医薬品・医療機器産業は,国内外で需要の大幅な拡大が期待される数少ない産業の1つでもあり,日本経済の成長の担い手としての期待は大きい.2007年5月には,経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省にて「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」を取りまとめたが,高齢化の進展など経済成長に対する様々な制約要因がある中,これらの要因を新たなイノベーションの機会に変え,新しい価値を次々と生みだしていくエンジンとしての役割を果たす産業として期待が高まっている.

なぜ小児科医は子どもだけでなく働く親を救わないのか?―病児保育の新たなモデルによる「ソーシャルイノベーション」

著者: 駒崎弘樹

ページ範囲:P.126 - P.130

 これをお読みの医療関係者の方はおそらく「病児保育」という言葉を聞かれたことがあろうと思う.子どもが風邪をひいたり熱を出した時に保育所は預かることができない.そこで保育所に代わってこどもをケアするのが,この病児保育である.

 本稿ではこの病児保育と,病児保育の新しいモデルを「社会起業」し,われわれの社会が病んでいる病(社会問題)の解決をする,「ソーシャルイノベーション」についてお話したい.そして願わくばこの戦線に,1人でも多くの医療関係者の方々に参戦していただきたく,未熟な筆を取った.

【イノベーションの実践】

患者中心医療とイノベーション

著者: 田邉一成

ページ範囲:P.132 - P.135

医療現場からの提言

 医療の現場,最前線で働いている私にとって,現在の日本における医療現場は問題だらけと言わざるを得ない.国家予算が破綻に瀕している日本で,医療費の伸びを抑えることは最も重要な課題であることは論を俟たないが,この予算の達成のためだけに,患者中心の医療からどんどん離れていくような政策は決してしてはならない.いかに限られた予算の中でよりよい医療を提供できるか,知恵を絞り,政策を立案するのが基本であり,これこそが政策立案者が寄って立つべき位置であると考える.

 本稿では,医療現場の現実から問題提起をしつつ,日本の医療のイノベーションについて述べたい.

インドシアニングリーン(ICG)蛍光法の原理と医用応用

著者: 三輪光春

ページ範囲:P.136 - P.139

 肝機能検査薬として広く使用されているインドシアニングリーン(ICG)の蛍光特性を利用した画像診断法(ICG蛍光法)が様々な医療分野で応用され始めている.本法の原理と具体的な臨床応用例につき紹介する.


ICG蛍光法とは

 生体内部の血管・リンパ管や各種臓器における血流の非侵襲的な画像診断手法として,放射線シンチグラフィ法やラジオアイソトープ(RI)法が一般的である.これらの手法の利点としては,生体深部の情報が得られる,空間解像度が高い等が挙げられる.一方,放射線被曝の問題,特定領域(放射線管理区域)内での使用に限られる,装置が大型で高価,という問題点が指摘されている.

福井愛育病院における病児保育の取り組み

著者: 石原義紀

ページ範囲:P.140 - P.143

病院の概要

 福井愛育病院(http://www.fab.or.jp/)は福井市内に位置する小児科・産婦人科の専門病院である.1972年開設以来,県下唯一の周産期医療専門施設として,福井県におけるこの分野の最前線を担ってきた.病床数102床,常勤医師11名(小児科6名,産婦人科5名),非常勤医師16名(小児科12名,産婦人科4名),総職員数178名と決して規模は大きくないが,全国的にも非常にユニークな病院として,地域の信頼を得ているものと自負している(写真1).

 2006年の当院の出生数は年間1,307例,小児科外来患者数は年間74,294例,小児科入院数は年間1,529例で,24時間,365日対応できる小児救急医療を続けている.隣接して福井循環器病院があり,心疾患を合併した妊婦や胎児診断で先天性心疾患の胎児を持つ妊婦も多く紹介されてくる.したがって,NICUには未熟児のほか,先天性心疾患を中心とした小児循環器疾患の新生児が多い.

患者と医療スタッフのパートナーシップのための喘息診療ガイドライン

著者: 宮本昭正

ページ範囲:P.145 - P.147

ガイドライン作成の経緯

 効率のよい治療を行うことによって医療費の高騰を抑えるとともに,患者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を図ろうとして,様々な疾患に対して管理・診療のガイドラインが作成された.これはわが国だけではなく,国際的な動向でもある.ガイドラインの作成に真剣に取り組んでいる学会も少なくない.

 厚生労働省(以下,厚労省)はいくつかの疾患を選んでガイドラインの作成を各方面に依頼しており,私は1999年に気管支喘息に対してEBM(Evidence Based Medicine)に基づいた診療ガイドライン作成の依頼を受けた.そこで,内科および小児科における気管支喘息診療のエキスパートと目される約50名の専門医を選び,協力を要請した.日本アレルギー学会の「アレルギー性疾患の治療ガイドライン」という主題の下に行われた特別シンポジウムを骨子にしてまとめられた喘息のガイドラインを参考にして項目を決定し,それぞれの項目について複数の医師に担当してもらい,国内外の文献検索,検索結果の取捨選択,選択された論文の評価を経て,さらに何回か会合を重ねて作成されたのが「EBMに基づいた喘息治療ガイドライン」である.これは主として喘息の専門医を対象にしたものであり,内容がかなり専門的であったことから,一般の臨床医を対象にしたガイドラインも作成した.基本的には,前者のガイドラインの要点を簡明にまとめたものである.それとともに患者向けのガイドラインも作成したが,これらは2001年に出版された.

グラフ

リラックスできる環境で生活を見据えたリハビリテーションを―医療法人社団和風会 千里リハビリテーション病院

ページ範囲:P.97 - P.100

 千里リハビリテーション病院は,昨年11月に開院したばかりの,主に脳卒中のリハビリテーション(以下,リハビリ)を専門とする病院である.近隣には千里ニュータウンがあり,今後予想される高齢者の増加とともに,当院に求められるニーズも高まっていくと思われる.

 当院の特徴としては「リハビリテーション・リゾート」というコンセプトの下,自宅のようにリラックスできる環境で,ストロークユニットによる病状管理と,入院早期から密度の高いリハビリを受けられることにある.従来のリハビリテーション病院では,急性期を過ぎて安定した患者でないと受け入れることが難しく,リハビリの開始が遅れてしまうといった問題があった.当院のストロークユニットは14床.脳卒中を専門とする医師2名と看護師10名,介護福祉士6名,理学療法士などのセラピスト11名,歯科衛生士,管理栄養士,薬剤師,ソーシャルワーカーがチームとなって治療・病状管理を行う.そのため,急性期からリハビリへの導入も非常にシームレスだ.

連載 ヘルスケアと緑・2

人生をテーマとした庭―イギリス,ストーヘッド

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.102 - P.103

自然という言葉

 緑が人を癒す歴史は,人の始まりからに違いないと,前号で記述した.

 今回は少し時代が下がり,人が自然の織り成す空間を模倣するようになったことについて語りたい.

 私が前号からいう「緑」とは,樹木の緑のことでもあり,花のことでもあり,それらを総称する「自然」のことを指している.この自然という言葉は,広辞苑では「おのずから,そうなるさま.天然のまま」「nature(イギリス,フランス).人工,人為に対して,人力によって変更,形成,規整されていない」…と記述され,自然が,natureだけの意味を持つものではないことがわかる.しかし,言語学者の泉井久之助は,natureを「ものを生んで成す力」であり「本質」という意味を持つと説明した.

 「ものを生み出す力」や「本質」として自然を捉え,その自然を住まいの近くに置き,日々の生成の力を創出する空間が,「庭」であるといえるだろう.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・21

がん診療連携拠点病院におけるMSWの役割―MSWに求められる3つの視点

著者: 北嶋晴彦

ページ範囲:P.153 - P.157

 はじめに,がん診療連携拠点病院の相談支援センターに期待される役割を,発足経緯を踏まえて確認する.その後,MSW業務に必要な視点を3つ述べる.その視点とは,①がん医療における心理社会的側面の理解―相談から自己決定への支援,②正確な情報収集と情報提供―ケアの連続性を確保する支援,③地域ネットワークマネジメント―クライエントの意見を現場に活かす,である.そして,質の高い相談支援には,地域のがん医療に関する評価が必要なことを確認する.最後に,今後の課題はMSW専門教育にあることを述べる.

続クロストーク医療裁判・2

適切かつ十分な鑑定のために―顔面痙攣・脳神経減圧手術死亡事件―最高裁平成11年3月23日判決の事例から

著者: 志村由貴 ,   大澤彩 ,   山上岩男

ページ範囲:P.158 - P.163

 本連載は65巻3号~66巻2号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 続編1~4回目は「鑑定書・私的意見書(私的鑑定書)の評価」を取り上げている.

 第2回目の事案は,鑑定に対して厳しい評価を下した最高裁判所の判決である.この判決で最高裁判所は,高等裁判所の判決が依拠していた鑑定書や鑑定人の証言について,内容が乏しく,客観的資料を精査したうえでの鑑定かどうか疑わしいと判断して,高等裁判所の判断を覆した.このような鑑定が実施されてしまったことは,鑑定人のみの責任ではない.裁判所の鑑定実施についての訴訟指揮や弁護士の訴訟活動にも問題があったと思われる.本判決は裁判所が安易に鑑定に追従して判断することに警鐘を鳴らすものであるとともに,証拠価値(証拠としての有用性)の高い鑑定のあり方を示唆するものである.

職場のメンタルヘルス・11

医療過誤とメンタルヘルス

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.164 - P.168

病院経営の模索と医療事故

 今日本の医療は,かなり揺れている.1つ目の理由は診療報酬の改定を巡って,それぞれの団体が対立しているからである.診療報酬は2年に1回改定されるが,国としては,できる限り医療費の抑制を図りたい考えである.診療報酬は,まず厚生労働省(厚労省)の諮問機関である「中央社会保険医療協議会(中医協)」が意見書としてまとめ,厚労省が財政当局と調整し決定にこぎつけるが,日本医師会や自民党の厚生関係議員でつくる「医療政策研究会」は,診療報酬の引き上げを強く主張している.

 それに対し,財務省の諮問機関である「財政制度等審議会」は,引き下げることを訴えている.福田総理を議長とする内閣府に設置されている「経済財政諮問会議」は,メリハリをつけた診療報酬の設定が不可欠とは言うものの,はっきりした回答を出していない.しかし結果的には,診療報酬の本体部分(医師による検査や治療)は0.38%引き上げられ,薬価部分(薬や医療の材料)は,1.2%引き下げられる見通しである.したがって本体部分と薬価部分を総合した診療報酬全体としては0.82%マイナス改定になり,2002年度から4回(2年ごと)連続のマイナス改定になりそうである.

病院管理フォーラム ■医事法・10

医療水準と転医・転送義務

著者: 植木哲

ページ範囲:P.170 - P.172

●説明義務の多様性

 前回の医療水準と説明義務との関係を整理すると,説明義務は,①承諾の前提としての説明,②療養指導方法としての説明,③転医・勧告としての説明に分類できます.今回取り上げるのは③の転医・転送義務の問題です.

 未熟児網膜症事例が医療判例の中心を形成していた昭和時代には,転医・転送義務の本質はまだ十分に議論されていませんでした.なぜなら当時の最高裁は,予見不可能な治療方法についての説明義務については,消極的な態度をとっていたからです.もちろん未熟児網膜症訴訟においても,産科医や小児科医から光凝固法の実施を可能とする眼科医への転医・転送が問題となりえたのですが,判例はそこまで踏み込んだ判断を示していませんでした.

■医療経営と可視化・5

医療経済の視点から

著者: 後藤励

ページ範囲:P.173 - P.175

 医療経済学では,古くから医療の特殊性の1つとして,「患者と医療機関の間の情報の非対称性」を挙げている.治療成果などについての医療情報の可視化の目的は,経済学的には,本来患者側が正確にはわからない医療の質に関して,両者の情報の非対称性を埋めることである.その結果,患者側は質に基づいて医療機関の選択をし,医療機関側は質についての競争を行うことになり,結果として質の低い医療機関は淘汰される.

 このような患者の選択を通じての質の向上は,通常のモノやサービスでも想定されるものである.さらに医療の場合は,紹介医の医療機関選択が質の向上圧力を与えることも考えられる.本来紹介医は細かな情報を判断することのできない患者の代理であることが求められるため,紹介医の医療機関選択は原則的には消費者側の行動といえる.一方,質の情報を公表することが直接医療機関内部での質向上努力を増加させる場合もある.このように,質の情報は消費者側,供給者側両方の経路を通じて医療の質の向上に役立つ可能性がある.

■エクセレント・ホスピタルの条件を探る・2

医療現場を改善するとは,何をすることか

著者: 坂田隆文

ページ範囲:P.176 - P.179

●はじめに―医療現場における改善

 企業経営に携わっていない方であっても,現在トヨタ自動車が販売台数世界一を視野に入れるほど業績が好調であることはご存知であろう.このトヨタ自動車の強みは「トヨタ(生産)方式」という表現で解説・説明されており,書店に行けば関連書を数多く目にすることができる.また,近年では,このトヨタ方式を異業種に導入しようとする試みが増えており,医療現場においてもトヨタ方式をした成果が紹介されつつある1~3)

 本稿では,このトヨタ方式の中心概念の1つである「改善(あるいはカイゼン)活動」に焦点を当て,医療現場を改善するとは何をすることかを明らかにする手がかりを提示することを目的としている.この目的を果たすために,本稿では,改善活動が成功している事例として刈谷豊田総合病院の試みの一端を紹介している.

 結論から先に述べるなら,医療現場を改善するとは,少なくとも以下の3つを行うことが求められる.第1に,医療現場を改善するとは,現状に対して効率性という観点から問題意識をもつということが求められる.第2に,その問題意識のもと,繰り返し「何故」を問い,その真因に対処することが求められる.第3に,改善を一過性の活動に終わらせることなく継続させること,あるいはそのための仕組みづくりが求められる.以降では,これら3点に絞り,医療現場を改善するとは何をすることなのかについて,順に説明していくことにする.

医療動向フォーラム ■DPCの今後を予測する・7

調整係数廃止と新たな機能評価係数(2)―新機能係数のあるべき姿

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.180 - P.181

 大学病院本院や県立中央病院などの地域の中核病院では,高度医療や救急医療を行うために必要な診断治療機器を整備する,あるいは高度先進医療,救命救急医療,教育などの実施するためにあらかじめより多くの専門医や看護師など配置しておく必要のあるなどの「(高度・救急医療を行うために必要な)追加的コスト」が発生する.この追加的コストの病院間の格差を補正するのが調整係数の本来あるべき姿であろう.

 調整係数が廃止される時が,追加的コストを補正する千載一遇の好機であり,この時,設定される新医療機能係数をうまく設定することにより,現在の診療報酬の歪みのかなりの部分を補正できそうであると先月号で述べた.今月号では,新機能評価係数のあるべき姿について考えてみたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・5

勤務医が家庭医になって見たもの

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.182 - P.183

 A医師は長年勤務してきたM総合病院を辞めて,故郷で開業医を始めた.そこで,初めて在宅ホスピスケアを行った.志して始めたわけではない.終末期医療を断る医師もいるが,彼は普段の診療の延長だからと断ることをしなかったためだ.

 勤務医時代は関心の薄かった緩和医療を勉強し,患者さんの家に出向いて診療する.それを知った医師仲間に,「出前をしないとやっていけないほどお金に困っているのか」と皮肉られたこともある.

 しかし,その出前型医療が,彼の医療認識を変えていくのである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第157回

順天堂大学医学部附属練馬病院

著者: 冨田恒雄 ,   田中忍

ページ範囲:P.184 - P.189

計画の経緯と概要

 順天堂大学医学部附属練馬病院は練馬区の誘致をうけ順天堂医院6番目の病院として,また練馬区の地域中核病院として2005年7月に開院した.

 敷地は西武池袋線と笹目通りに面し,西武線高野台駅から徒歩5分という利便性の良い立地にある.病床数は400床,鉄筋コンクリート免震構造の地下1階地上8階建である.

リレーエッセイ 医療の現場から

在日ラテンアメリカ系住民のHIV陽性者支援・エイズ医療通訳―10年を経て

著者: 岩木エリーザ

ページ範囲:P.191 - P.191

 1995年,来日して間もない頃,初めてブラジル国籍のエイズ患者に対する医療通訳のため,病院を訪れた.当時はエイズに関する医療はまだ未知なる部分が山のようにあり,エイズ患者の死に直面することもしばしばだった.立て続けに数人のターミナルケアからお葬式までをフォローした経験がある.

 その後,医療の進歩によって,上記のようなことはなくなった.日本国内のエイズ医療も世界に負けない基準に達し,今では世界をリードする医療技術の開発を促進すると,期待が寄せられている.

研究と報告【投稿】

急性期病院が行う行動療法に基づくメタボリックシンドローム改善コースの効果

著者: 福井和樹 ,   遠山慎一 ,   中尾正行 ,   中川毅 ,   中戸川知頼 ,   大楠泰生 ,   羽鳥慶 ,   細田順也 ,   目片友子 ,   坂本純子 ,   小笠原ひろみ

ページ範囲:P.148 - P.151

要旨 本研究では,急性期病院が行う生活指導によるメタボリックシンドローム改善コースの有効性について検証した.このコースでは,2泊3日の教育入院と6か月外来で行動療法を行った.結果:参加37人中31人84%が6か月のコースを完了した.医学的治療効果が期待できるといわれる5%以上の減量に成功したものが20人で,参加37人中54%であった.コースを完了した31名の平均体重で79.6kgからが74.4kgへと5.2kg(6.5%)の有意な減量に成功した.この結果,内臓脂肪面積,血圧,HDLコレステロール,中性脂肪75g経口糖負荷試験の2時間後血糖が有意に改善した.すでに投薬されていた25人中,7人(28%)がコース終了後,薬の減量が可能であった.結語:急性期病院が行うメタボリックシンドロームに対する生活改善コースは,減量の達成率が高く,治療効果も明らかなことから,有効な治療方法であった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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