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雑誌目次

雑誌文献

病院67巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 看護師の役割を今問い直す

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.293 - P.293

 医療ばかりではなく,介護や福祉にいたるまで,人材難は逼迫している.少子高齢化の社会情勢の下で,全国的な医師不足,看護師不足は社会問題化し,介護職不足もまた社会問題化しつつある.この人材難を解決していくための方策の1つとして,各々の職種の本来業務・コアミッション(Core Mission)を問い直し,責任という動機の付与と業務の分担の推進が挙げられるのではないだろうか.

 すなわち,看護師の役割という視点からすれば,第一に医師が従来担っていた業務を受け取る,あるいは協働する役割がある.患者への説明と同意の取得や,疾病に関わる教育・指導など,看護師が持つ医療知識を存分に発揮することで,医師の過重を軽減させる役割である.また,第二に,従来看護師が行ってきた役割を,看護師の本来業務とは何かをもう一度見直すことで,他の医療職に移譲していくことが重要であろう.協働していくべき職種としては,事務職(文書管理・医療事務・コンピュータ入力・診療材料管理など),介護職のほかに,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技師,リハビリテーションに関わる療法士など多岐に渉ると思われる.

国民はどんな医療を求めているか

著者: 田辺功

ページ範囲:P.294 - P.297

医療危機をどう克服するか

 病院医療現場の医師不足に,ますます拍車がかかっている.自治体病院を中心に,診療科を維持できない病院も全国各地で見られるようになった.こうした状況の中で,過酷な勤務に耐え,努力されている医師,看護師,そして多くの医療職の皆様には本当に頭が下がる.

 私は昨年暮れに,連載記事をまとめ,整理した『ドキュメント医療危機』(朝日新聞社)を出版した.取材の過程で,長くこのような状態を放置し続けてきた厚生労働省や文部科学省に憤りを感じざるを得なかった.

【対談】看護業務の拡大の方向性

著者: 川島みどり ,   紀伊國献三

ページ範囲:P.298 - P.302

紀伊國 最近「医療崩壊」ということが各方面から言われ,医療従事者の過酷な労働環境が話題になっています.特に看護師は昔から非常に忙しい職種です.また,医師の不足がマスコミ等でも話題になっていますが,医師ばかりではなく,看護師も非常に不足しているのが実感だと思います.川島先生は,どういった印象を持っておられますか.

川島 私は卒業してからずっと現場発想で,いつでも現場から看護全体,医療全体を見ようとしてきました.でも,大学に籍を移してからは少し見方が変わってきたように思います.

看護師とチーム医療―病院と施設を考える

著者: 武久洋三

ページ範囲:P.303 - P.306

 看護師の歴史は長い.ナイチンゲールに遡るまでもなく有史以来,人類のために身も心も捧げてこられた先達の尊い積み重ねがあり,医師にとってなくてはならぬパートナーとして,大きな信頼を受け続けている.最近は数多くのコメディカル職種によるチーム医療が不可欠になってきているが,それは医療が「赤ひげ診療譚」の時代とは大きく変わり,高度化かつ複雑化してきたことに対する必然的な結果である.薬剤師や管理栄養士,臨床検査技師などの従来からの職種に加え,リハビリスタッフや社会福祉士(MSW)も大変重要な役割を担ってくれている.さらに,診療情報管理士や臨床工学技士,歯科衛生士,義肢装具士,視能訓練士などの新しい機能を持つ職種がチーム医療に参画してくれており,厚生労働省(厚労省)も国家資格でその技能を積極的に認定し,さらなる医療機能の細分化を進めている.しかし,だからと言って本来医療の中での2本柱である医師と看護師中心の関係は揺らぐことはない.

 しかしながら,現在は医師も看護師も誠に多岐にわたる業務や責務を抱えており,昔のように狭義の医療だけを行っていればよいというわけにはいかなくなってきている.とにかく法律的な事務仕事が多すぎる.また,患者や家族との対人関係の複雑化のみならず,感染防御,医療安全,身体抑制など,当然必要なのにこれまではあまり考慮されていなかったことが,医療の進歩とともに権利意識の高まりもあって問題となり,医療現場は混乱している.

専門看護師・認定看護師における現状と課題

著者: 廣瀬千也子

ページ範囲:P.307 - P.311

 1994年,日本看護協会(以下,本会)は専門看護師制度を創設し,その翌年,認定看護師制度を発足させた.現在,専門看護師240人,認定看護師3,383人が医療機関や地域等で活動している.特定の看護分野において卓越した実践能力を有し,継続的に研鑽を積み重ね,職務を果たし,その影響が患者個人に留まらず,看護職や多職種にも及ぶ存在として不可欠な存在となっている.近年の診療報酬改定における一定の評価や,第三者評価の受審等が追い風となり,年々その導入・活用への社会的なニーズは高まっている.

 2007年,改正医療法により,「専門性の広告」が看護師にも拡大され「専門看護師9分野」「認定看護師17分野」全分野の広告が可能となった(一部分野名称の変更を経て).本会の資格認定制度が社会的評価を受けた大きな一歩である.

 このように発展を遂げてきた専門看護師,認定看護師の就業や定着等,現状や課題について述べる.

アメリカにおけるナースプラクティショナー制度と日本への導入の可能性

著者: 草間朋子

ページ範囲:P.312 - P.316

 アメリカでは,40年以上前からナースプラクティショナー(以下,NP)の教育,養成が開始され,現在では14万人以上のNPが病院やクリニックなどで,プライマリケアサービスにあたっている.NPは医師と連携・協働し,自律的に患者の診断・治療を行い,現在のアメリカの医療・保健システムを支えている重要な職種である.

 保健・医療を取り巻く社会環境が大きく変化している日本においても,政府の規制改革会議が,2007年12月には医療職種の供給体制の再検討の一環として,NPなどの職種の導入の必要性を提案している.また,厚生労働省からは,2007年12月28日付けで,看護職の「医療の補助」業務の拡大の方向性について各都道府県知事宛に通知文書が示された.

【業務分担の事例】

病院内助産における医師と助産師の業務分担―助産師外来・院内助産の開設に向けて

著者: 樋口泰彦

ページ範囲:P.317 - P.319

 近年,産科病棟を閉鎖する病院や分娩取り扱いを停止する診療所が後を絶たない.産科医の減少により,今,日本の産科医療は危機に瀕していると言っても過言ではない.産科医師減少の理由には複数の因子が考えられるが,労働環境の悪化,訴訟の増加,仕事に見合った報酬がない,が三大要因であろう.人が職業を選ぶ際,忙しくなく,安全で,かつ高収入といった方向に流れるのは当然であって,医師においてもその流れは同じである.今の医学生や研修医が産科を敬遠するのを,一方的に非難することはできない.

 産科医師の減少をくい止めるためには,産科医師の待遇を改善し,その増加を促すことが本来なされるべき対策であるが,今から医学生・研修医をリクルートしても,彼らが一人前の産科医にまで育つには,数年以上を必要とする.そこで,喫緊の対応策として,病院勤務産科医師の負担を軽減する目的で,地域における分娩施設の集約化,産科オープンシステムなどとともに,助産師外来・院内助産という方法が注目されるようになった.

勤務体制の改善―特に看護助手夜勤に関して

著者: 駒田富子

ページ範囲:P.320 - P.322

 医療はサービス業の1つと言われ始めて久しい.最近では受療者である患者さんとその家族は,簡単に疾患についての知識を得ることができる.それらの人たちの中には,取得した情報を自身の都合のよいように解釈し,時には不当とも思える要求をする人たちが決して少なくない.サービス業であるからには何でもしてもらって当然という風潮がみられる.また,高齢者の中には意思疎通が難しく,突然怒り出す人たちもいて問題は多い.こうした現象が度重なると,若いスタッフのモチベーションが下がってしまうのではないかと心配になる.若い人たちには看護は楽しいもの,やりがいのある仕事と考えられるようになってほしいと願っている.

 看護師が心のゆとりを持ち安心して働けるための支援として,何ができるかを考えてきた.そして何はともあれ,彼女たちの安全が確保・保障されていることが重要だと考え,勤務体制の見直しを行った.その改善の過程をここにまとめる.

ホスピスケアにおける看護師の役割

著者: 小穴正博

ページ範囲:P.323 - P.326

 ホスピスケアでは,生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族が抱えている様々な問題に関して,きちんとした評価を行い,それが障害とならないように予防したり対処したりすることで,クオリティー・オブ・ライフ(生活の質,生命の質:QOL)を改善するためのアプローチを行っている.患者や家族が少しでもよい状態で,納得しながら過ごすためには,様々な医療スタッフが気持ちを1つにしてチームを組んでアプローチすることが必要である.

 病気の治癒を目指す一般病棟では,治療方針を決定する医師がチームの中心的な役割を果たすことが多い.それに対して,ホスピスケアでは病気の治癒を目指すのではなく,生活面に着目してケアしている.したがって,チームの中心的役割を果たすのは,患者や家族といつも向き合って対応している看護師であることが多い.ホスピスケアにおいて看護師は,専門的な知識をもってケアを実践するだけでなく,患者のニーズに少しでも応え,よりよいケアが提供できるように,チーム内でのコーディネーター的役割も担う必要がある.

院内における看護師負担軽減の試み

著者: 黒澤功

ページ範囲:P.327 - P.331

看護師不足の始まり

 2006年4月の診療報酬改定により,看護基準が大きく変わり,看護師争奪戦が勃発した.大規模病院が大幅に看護師の求人を増やしたことにより,知名度の高い病院や都会の大病院へ看護師の転職が相次ぎ,中小病院は大きな打撃を受けた.

 当院も例外ではなかった.看護師の夜勤時間1人あたり72時間基準等も設けられ,さらなる看護師の確保が迫られる中,看護師確保のために必死の経営戦略を迫られることとなった.

グラフ

―超高齢社会に求められる看護とは―老人看護専門看護師の実践―医療法人財団 神戸海星病院

ページ範囲:P.281 - P.284

 神戸海星病院は診療科19科,一般病床180床の総合病院であるが,入院の約70%を65歳以上の高齢者が占めている.誤嚥性肺炎や脱水,大腿骨頸部骨折などの入院が多い.

 老人看護とは,老化と複合する病態像や不完全な回復など,老人の身体的,精神的な特徴を理解し,生命と日常生活活動の維持を目指して,その個人にふさわしい援助をすること.その幅は広い.当院の特性から,老人看護CNSの西山みどりさん(以下,西山CNS)が,現在特に力を入れているのは,嚥下機能困難のある高齢者や,認知症やせん妄,老人性うつのある高齢者のケアに関わるものである.

連載 ヘルスケアと緑・4

小さき花の園

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.286 - P.287

 前号までは,風景式庭園をはじめ比較的大きな庭を紹介してきた.今回から,病の中にある人々への癒しとなる緑を考えていきたい.


セントラルパークを借景に

 ニューヨークのセントラルパークから通りを1つ隔てたところに,テレンス・カーディナル・クック医療センター(Terence Cardinal Cooke Health Care Center)がある.このセンターは,729床の入院患者を抱える総合医療施設である.特に長期療養者が尊厳を持った治療生活が保てるように,様々な配慮がなされている.その1つが,ジョエル・シュナーパー・記念ガーデン(The Joel Schnaper Memorial Garden)と呼ばれる屋上庭園である.

〈続〉基本からわかる医療経営学・序【新連載】

「〈続〉基本からわかる医療経営学」の連載開始にあたって

著者: 明石純

ページ範囲:P.332 - P.332

 医療費抑制政策によって多くの病院の採算性が悪化する一方で,医療の品質についての患者や社会の要求は確実に高くなってきています.加えて,医師や看護師をはじめ医療従事者が不足する中,職員の満足を前提にしなければ医療経営は存続し得ない状態になっています.マネジメントとは,「ものごとがうまく運ぶよう調整すること」と捉えることができますが,病院の経営者や管理者は,困難な経営環境の中で,まさにうまくマネジメントしていくことが求められています.

 このような中,2006年6月~2007年5月号の12回にわたって経営学を専門にする執筆陣によって「基本からわかる医療経営学」の連載を行いました.

〈続〉基本からわかる医療経営学・1

病院経営における財務諸表の仕組み

著者: 井上定子

ページ範囲:P.333 - P.337

病院経営における財務諸表の必要性とは

 企業やその他の団体,個人のいずれであっても,その活動に伴って,必ず現金収支やその他の財産の増加・減少が発生します.合理的な経済活動を行うためには,このような現金収支やその他の財産の増加・減少を,一定の方式により記録・測定し,自ら事実を確認することが必要とされ,さらに必要に応じて利害関係者への報告が要請されます.このような行為全体を会計と呼びます1)

 通常,このような報告は財務諸表を通じて行われます.財務諸表とは,貸借対照表や損益計算書などの総称ですが,では,病院経営において財務諸表が作成される利点は,どこにあるのでしょうか.それは,病院の経営者や管理者が財務諸表上の数値から自院の経営状態を知ること(現状分析)によって,より実現可能な将来の経営計画を立てることができる点にあるといえます.つまり,このような財務諸表に基づく分析は,病院経営の効率化と安定的な医療サービスの提供に繋がるのです.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・23

職業復帰に関わるMSWの役割

著者: 渡辺貴志

ページ範囲:P.338 - P.340

 当センターの医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)は,3名である.リハビリテーション科に所属し,患者の入院から退院,社会復帰のための様々な援助を行っている.また労災病院ということで,中四国地方における四肢切断の被災労働者に対して,医師とともに巡回サービスを実施し院外活動も多い.本稿では,当センターを利用し就労に至ったケースを紹介する.

続クロストーク医療裁判・4

複数の私的意見書の証拠評価―ポリープ摘出手術後死亡事件―最高裁平成18年11月14日判決の事例から

著者: 北村ゆり ,   米村滋人 ,   清水孝徳 ,   落合武徳

ページ範囲:P.342 - P.347

 本連載は65巻3号~66巻2月号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 続編の1~4回目では「鑑定書・医師の私的意見書(私的鑑定書)の評価」を取り上げている.第4回目の事案は,裁判所の選任した鑑定人による鑑定が行われておらず,患者側,病院側の双方から私的意見書が提出された事件についての最高裁の判決である.前回の事例と同様に,異なる内容の医学的意見について裁判所がどのように評価検討すべきかを示すものであるとともに,私的意見書の作成者同士の事実の捉え方の違いに関連して,裁判所の争点整理の在り方についての問題提起ともなっている.

職場のメンタルヘルス・13

キャリア開発と職場のメンタルヘルス

著者: 武藤清栄 ,   村上章子

ページ範囲:P.348 - P.352

 病院の格差が広がり,医師や看護師の偏在が起こっている中で,中医協は2008年2月13日に,2008年度の診療報酬の改定案を取りまとめた.その中で,課題であった開業医の再診料を引き下げることは見送られる一方で,200床未満の病院の再診料は引き上げられ,今後開業医と病院の差は縮められることになった.現在,特に産科や小児科を中心にした病院勤務医の負担は,想像を絶するものになっている.しかし,労働条件や施設設備,立地などに優れた病院では,医師や看護師が過剰なほど集まっていることもある.このような中で,病院間の転職を巡って様々な問題も生じている.他方,自分の仕事やキャリアについて悩むスタッフも多い.若い医師や看護師における病院での定着率が悪い中で,若い世代が仕事をどう見ているのか,職場にどんなことを期待しているのかといったことを考えてみるのは,とても重要である.大学生や大学院生の就職観を調査した結果1)では,「自分の生活と仕事を両立させたい」といった学生が最も多い.次に「社会に貢献できる仕事がしたい」が続いている.前者は自分の時間やプライベートを大事にしたいという意向であり,後者はやり甲斐や働き甲斐を求めている証拠である.今,若い人たちは,精神的にも充実観を希求し,そのため仕事と生活のバランスを取ろうとしている.これが「ワーク・ライフバランス」(コラム参照)である.

病院管理フォーラム ■エクセレント・ホスピタルの条件を探る・4

巧みな「見える化」目標は「人の成長」―医療の特性とトヨタ生産方式

著者: 猶本良夫

ページ範囲:P.353 - P.355

 本連載では,病院におけるマネジメントのありようをトヨタ自動車関連企業が母体となる病院と,トヨタ生産方式を導入し,見事に再生,成長し続けている米国の病院の取材を通して述べてきた.医療のプロセスに適合できるマネジメント・システムは,製造業で例えると,少品種,大量生産ではなく,多品種,少量生産であろう.こういった生産システムをサービス産業の側面の強い医療,病院に導入することで,業務のカイゼンが得られたことは,大きな意義があり,日本においても期待される取り組みである.しかしながら,多くの専門職によって構成される病院に導入する際に克服すべき問題点,工夫などについては疑問が残る.ここで医療の特性を整理しておこう.

 1)高度専門性:専門性の中で職種,診療科の間で言葉が通じない,2)高い倫理性,3)多品種,少量生産,4)労働集約性,5)不確実性などが医療の特性であろう.専門職の集団で構成される病院の構造と不確実性を常に抱える点が特徴で,こうした点は製造業,他のサービス業と比較して特に際立つ特性である.リスクマネジメントに関して言えば,発生場所,発生場面,患者の心身状態,事例に関連した診療科,発生要因などリスクに関わる要因は極めて多岐にわたっている.さらに,治療を受ける側の人の体の多様性は遺伝子,遺伝子多型によって支配され,生体に対する入力,刺激が同じでも,出力である反応の多様さは無限大ともいえる多さである.すなわち,図1に示すように製造業における入力と出力の関係と医療におけるそれとは大きく異なる.したがって,これらの特性を踏まえたうえで病院にマネジメントを導入してゆく必要がある.

■DPC導入と院内体制整備(前編)

DPC円滑運用の要―事務局構築

著者: 山本康弘

ページ範囲:P.356 - P.357

 この春,おそらく300を超える病院がDPC準備病院から実施病院へ移行し,また数多くの病院が,準備病院の手上げをするであろう.また来年以降も数多くの病院が,準備病院へのエントリーや,DPC準備病院から実施病院へ移行を目指すだろう.各病院にとっては,準備病院になるのも,準備病院から実施病院に移行するのも初めての経験であり,そのための指南書的な情報があれば助かるという声を多く聞いている.

 筆者はNPO法人日本DPC協議会の事務局長を務め,これまでいくつかの病院の準備病院への手上げや,実施病院への移行の手伝いをしてきた.これらの経験から,本稿では,てDPC実施病院として円滑に進めるために重要となってくる「事務局」にポイントを絞り,1)事務局体制のあり方,2)診療部門(医師)に対する説明の仕方など,院内体制整備のあり方について2つのポイントを解説する.

■医事法・12

医療行為(不作為)と因果関係

著者: 植木哲

ページ範囲:P.358 - P.360

●不作為義務違反と因果関係

 前回のルンバール・ショック判決は,腰椎麻酔の実施という医師の作為(治療行為)と結果(被害)との因果関係に関する最高裁の説示であり,問題点の解明でした.この原則は,医師が医療行為を行わなかった不作為義務違反にも同様に妥当します.治療行為の多くは,手術に代表される医師の行為=作為に関連しますが,その前提となる診断や検査等においては,作為のみならず不作為が問題となります(もちろん治療行為や投薬が行われなかった場合も含まれます).このように医療行為には作為と不作為があり,医事紛争の現れ方においても,両者はほぼ同数の割合で生じています.

 不作為義務違反の責任追及においては,医師の不作為と結果発生との因果関係の存在が必要です.前回述べたあれ(原因)なければこれ(結果)なしの原則をそのまま適用すると,ここでは前提となる「あれ」が存在しませんから,理論的には因果関係の証明ができないことになります.そこで不作為の「あれ」に代わる行為(作為)が論理的前提として存在している必要があり,「あれ」は規範的な観点からのみ措定できることになります.言い換えれば,当該事件においては「あれ」に代わる作為が行われていれば,「これ」は生じなかったであろうとの因果の関係が必要となります.それだけに,被害者にとっては証明が困難となるのです.また,「あれ」が行われていても死亡という結果が発生したかどうかは定かでありませんから,全損害の賠償は不可能となり,損害の範囲を限定する必要があります.

■医療経営と可視化・7

現場からの可視化(1)―済生会4病院間比較と新潟第二病院の取り組み

著者: 木津顕

ページ範囲:P.361 - P.365

●現場からの可視化として

 連載の7回目からは,現場からの可視化として,済生会新潟第二病院,済生会吹田病院,福井県済生会病院,済生会宇都宮病院における取り組みを紹介する.まずこの回では,4病院間において平成17年度の各種数値情報,DPCデータ,および平成17年7月から平成18年3月の急性心筋梗塞に関する臨床指標数値データを基にした可視化を紹介し,後半に済生会新潟第二病院における可視化の取り組みを紹介する1,2)

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・7

告知:物語を聴きとる能力の養成

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.366 - P.367

鉄郎おじさんの一日大学教員

 ある看護大学から,グリーフケアと病診連携の講義を頼まれた.現役の看護師さんたちが,緩和ケア認定看護師の受験資格を得るための講座である.生徒さんはほとんどがベテラン看護師さんということで,現場を知らない学生さんたちと向かい合うのとは違った期待を持って教室に向かった.鉄郎おじさんの一日大学教員である.

 理論的なことは専門家がしてくださると思い,僕は「なまの声」,すなわち,自分の体験をベースに講義を展開することにした.クラスには僕以外にもう1人の教官(医師)がいて,コメントを出してくれる.

 講義は午後からの3時間.眠くなる時間帯だが,居眠りする生徒さんは1人もいない.それどころか,目を輝かせて傾聴してくれた.授業で最も伝えたかったのは,「ショックの受けとめ方,医療者側と患者側のずれ」だった.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第159回

新潟市民病院

著者: 江口紀子

ページ範囲:P.368 - P.374

■急性期医療の原点

 新潟市民病院は,ウィリアム・オスラーの医療人としての理念に基づき,「患者とともにある全人的医療」を基本理念に掲げ,また,1)患者さんに信頼されるぬくもりのある医療を目指す,2)重症・専門・救急を中心に質の高い医療を目指す,3)地域医療機関や福祉施設と連携し人々の健康支援を目指す,4)人間性豊かな医療人の育成を目指す,を基本目標としている.

 したがって,施設計画もこれらの基本理念や基本目標を踏まえて,21世紀にふさわしい新世代の病院建築の実現を図り,急性期医療のあり方を追求した.「機能的で優しい」病院づくり,すなわち,疾病の治療を目的とする病院本来の機能を優先させながらも,患者・スタッフ双方に使いやすく,暖かみのある病院設計を目指した.低層棟ゾーン・高層棟ゾーン,定時ゾーン・24時間ゾーン,一般ゾーン・スタッフゾーン・クリーンゾーン,などをシンプルな線引きで組み合せ,利用者の種類と範囲を整理し,できるだけコンパクトな動線となるようゾーニングした.これらを最優先することで,迅速で高度な医療の確保,病院を維持するためのセキュリティーの確保およびエネルギーの節約を図った.しかし一方で,シンプルなゾーニングと直線的な動線は,無機質で単一的な空間になりやすいため,それぞれのゾーンに適切なデザインを施し,親しみやすい環境(空間)を整えた.

 「患者とともにある全人的医療」の理念には,医療を行う側にとっても,受ける側にとっても,居心地のよい暖かみのある空間が,良好な信頼関係のある医療を考えると不可欠である.無駄のないコンパクトな動線と暖かみのある空間の演出を急性期医療施設の原点として,常に意識して設計を行った.

リレーエッセイ 医療の現場から

院内患者会

著者: 田中祐次

ページ範囲:P.375 - P.375

 日本初の患者会は,1948年の結核患者による「日本患者同盟」です.その後,多くの患者会ができました.患者会と聞くと,何か不満を持った患者の圧力団体,というイメージを持たれると思います.事実,そういった団体もあり,メディアでも取り上げられています.しかし,全国に3,000~4,000近く存在するという患者会の多くが圧力団体であるのか,私自身は疑問です.全国の患者会情報を集めた『がん! 患者会と相談窓口全ガイド』(いいなステーション編)を見ると,圧力団体ばかりではないような気がしてきます.

 患者が訴えていることの1つに,確かに医療への不満はあると思います.公害問題,手術の取り違いやミスの追及などなど.しかし,それ以外に患者が求めているものとして,「情報」があります.以前は情報がなかなか得られず,専門家(医師など)を呼んでの講演会が行われていました.もちろん今も行われています.現在は,インターネットなどの発達で情報があふれ,逆に信頼できる情報がわからなくなってきています.そこで,講演会などで信頼ある人(専門家)を講師に迎え,専門知識の伝達が行われているのです.このように,「情報を得たい」という患者会も多いと考えます.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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