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連載 病院管理フォーラム ■医事法・14
医療責任の期間制限(時効・除斥期間)
著者: 植木哲1
所属機関: 1千葉大学法経学部法学科
ページ範囲:P.552 - P.554
文献購入ページに移動医療責任の本質を不法行為責任とするにせよ,債務不履行責任とするにせよ,事故は時が経過するにつれ,人々の記憶から忘れられていきます.江戸の仇を長崎でとらせ,子や孫の代まで争いを持ち越すことは,紛争の蒸し返しを助長するだけです.これではせっかく安定した社会の秩序が壊れ,新たな紛争の火種となります.このように,法的安定性が損なわれるのを防ぐため,裁判においては訴える場所が事前に決められ,また,一定の期間が過ぎると提訴できない仕組みになっています.前者が裁判管轄の問題であり(民訴法4条以下),後者が期間制限の問題です.
また,時の経過とともに証拠は失われ,証拠能力も色あせます.物的証拠(物証)は散逸しますし,人的証拠(人証)は死亡等により失われてしまいます.いつまでも訴訟できるようにすれば,失われた権利の回復には便利ですが,逆に権利の上にあぐらをかく人のために,他の人が戦々恐々とすることになります.加害者も,いつまでも被害者(権利者)に付き合わされては我慢の限界を超えるでしょう.一定の期間を超えると権利主張できないようにしておくのは,社会の安定に資するためです.では,その一定の期間とはどのように決まるのかと言えば,それは各国の立法政策の問題であり,それぞれの国よって異なります.
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