icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院67巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 どうなる 特定健診・特定保健指導

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.581 - P.581

 医師が医療の中心であった時代には,医療の定義は“医学の社会的適用”と言われていました.今日では,医療は患者さんを中心に考えられなければなりません.患者さんの立場に立ってみると“自分の健康を支援してくれるもの”となります.ここで“支援する”とあえて表現しましたが,その意味は“自分の健康は自分の責任である”ということが前提であるためです.そのためにこそ,医療を利用する人と医療者が安心と納得に基づいた信頼関係を築く必要があります.

 そして,健康とはWHOの定義でもありますが,“身体的,精神的,社会的に調和のとれた状態”を言い,さらに,“spiritual well-being”を達成することも含んでいます.“spirituality”とは人間を超越した存在に対する信心とも言うのでしょうか.日本の医療は現在までのところ,身体的な取り組みが最優先され,とても,精神的,かつ,社会的な調和を考慮するには至っていませんでした.今日の自殺問題や日ごろの居ても立ってもいられないような不安は当然医療が取り組まなければならない重要な社会的課題です.

国民の健康管理をどう進めるか―政策としての健康管理

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.582 - P.585

 健康管理の基本は,健康を脅かす疾病に備えることであり,そのために当該集団における主要な疾病リスクを把握し,そして疾病リスクを下げる方策を実践することである.一方,国民は,実際には様々な集団から構成されることから,それぞれの集団について上記の事項を考えてゆく必要がある.また,国民の健康管理といえどもそれに使える公的資源には自ずと限度があるので,経済的制約や医療従事者の時間的制約についても考慮すべきである.

 本稿では,主として疾病リスクの高い中高年層を念頭においたうえで,国民を対象にした健康管理のあり方や,その具体策としての政策について考えてみたい.

特定健診・特定保健指導制度の概要

著者: 大西証史

ページ範囲:P.586 - P.589

 本年4月から,高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づき,特定健康診査(健診)および特定保健指導の制度が施行された.特定健診・保健指導の取り組みは,わが国におけるこれまでの生活習慣病対策の蓄積の上に立脚しつつ,医療制度改革の一環として,医療保険者を実施主体として導入されるものであり,学術面での近年の知見の蓄積に基づき,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念が形成されたことを踏まえたものである.

 特定健診・保健指導は今後の生活習慣病予防対策の礎となる事業として予防に重点を置き,その重要性への理解促進を目指す国民運動(健やか生活習慣国民運動)のもとで展開される.同時に都道府県が作成する医療費適正化計画に位置づけられて進捗や実績の評価がなされ,糖尿病等の生活習慣病の有病者および予備群の減少を進めることを通じ,結果として,将来の医療費の伸びの抑制を目指す努力の一環として位置づけられるものである.

 本稿では,特定健診・保健指導の概要を紹介することとしたい.なお,本稿の記述のうち意見にわたるところは筆者の個人的見解によるものである.

特定健診・特定保健指導の国民の健康に及ぼす影響

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.590 - P.592

 今年度から導入された特定健診・特定保健指導(以下,特定健診等と略す)の目的は,人口構造の高齢化に伴い増加している生活習慣病を,生活習慣の改善により予防し,国民の生活の質を改善するとともに,外来,入院受療を減らすことにより医療費の増大を抑制することとされている1).本稿では,特定健診等の目的である国民の健康状態の向上と医療受療への影響について,これらの客観的な評価手法および期待される効果に関して関連文献および統計から解説する.

特定健診・特定保健指導の医療費に及ぼす影響

著者: 大櫛陽一

ページ範囲:P.593 - P.596

 特定健診・特定保健指導が従来の老人基本健診および労働安全衛生法に基づく職場健診と大きく異なるストラテジーは,次の2点である.1)医療費の削減を目的として,実施主体が保険者になった.2)健診の目的が「疾病の早期発見」(二次予防)から,「生活習慣の問題の発見」(一次予防)とされている.

 この2点についての根拠となるデータは,三重県政府管掌健康保険(政管健保)の被保険者2,834人の健診結果と10年後のレセプトデータとの比較である1).この結果を全国5,700万人に拡大解釈して年間医療費が2兆円削減できるとした.しかし,一地域の余りにも少ない対象者の結果を約2万倍に水増しした結果は正しいものであろうか?また,カルテ調査ではなく,レセプトデータに基づいて医療費を推計しているが,レセプトに書かれた病名は医学的に正しいものであろうか?

【特定健診・特定保健指導への対応】

健保連(健康保険組合連合会)の対応

著者: 佐藤かがり

ページ範囲:P.597 - P.599

 健康保険組合連合会(通称:健保連・けんぽれん)は,一定規模以上の社員(被保険者)のいる企業(※)が設立する健康保険組合(健保組合)の連合組織として,健保組合の健全な発展と持続可能な医療保険制度の実現に向けた活動を行っている(※企業が単独で設立する場合=単一健保組合は700人以上,同業種の複数の企業が共同して設立する場合=総合健保組合は3,000人以上の被保険者が必要).

 現在,全国の1,502(平成20年4月1日現在)の健保組合で構成され,被保険者とその家族を合わせると,全国民のおよそ4分の1に当たる3,000万人が加入している.

市町村国保の取り組み

著者: 宮本研一

ページ範囲:P.600 - P.602

 社団法人国民健康保険中央会(国保中央会)は,国民健康保険事業および介護保険事業の普及,健全な運営および発展を図り,社会保障および国民保健の向上に寄与することを目的として設立された団体である.国保中央会は,全国47都道府県に設立されている公法人,国民健康保険団体連合会(国保連合会)を会員として構成されている.

 基本的に,被用者(民間のサラリーマン),国家・地方公務員等,75歳以上の高齢者,生活保護受給者以外の者は,国民健康保険に加入することになっており,現在,市町村国保と国保組合の被保険者は全国でおよそ5,000万人である(全国民の約4割にあたる).

全日本病院協会の取り組み

著者: 西昂

ページ範囲:P.603 - P.605

 社団法人全日本病院協会(以下,全日病)の人間ドック事業は,菊池眞一郎第2代会長の熱意によって設立された.わが国の人間ドック事業は昭和30年代後半に開始され,当時の人間ドックは,月曜から土曜までの1週間に及ぶ入院が必要で,ドックを受けることは,1つのステータスであった.その後は,全国に広がり受診者も一般の人々を対象にするまで普及したが,当時自前の検査設備を備えることは,かなりの規模の病院でなければ不可能であった.

 全日病では,独自の人間ドック事業を開始するにあたり,その理念を「利用者の負担軽減」「検査時間の短縮」「低額な費用」「検査精度の向上,維持」とした.この理念は,現在でも求められているものであり,これまで全日病では,日帰り人間ドック事業を推進してきたが,平成18年4月からは,一泊人間ドック事業を開始した.

 本稿では,特定健診・特定保健指導の実施にあたり,全日病のこれまでの取り組みと今後の予定を紹介する.

日本病院会・日本人間ドック学会の取り組み

著者: 山門實

ページ範囲:P.606 - P.608

 いよいよ平成20年4月より特定健康診査・特定保健指導(以下,新健診)が医療保険者に義務化され開始された1,2).この新健診は,内臓脂肪肥満に着目した,いわゆるメタボリックシンドローム健診であるが3),その形態は,従来の人間ドック健診システム,すなわち,健診の実施とともに,その結果の説明と,その結果に基づく生活習慣の改善指導およびフォローアップを,法的に,ことに保健指導の重視を定めたものと理解される.

 日本病院会・日本人間ドック学会はこれまでも人間ドック健診による予防医学事業を展開してきており,新健診についても積極的に対応していく姿勢をとっている,

 本稿では,日本病院会・日本人間ドック学会の新健診への対応の現況について概説する.

日本医師会の立場から

著者: 内田健夫

ページ範囲:P.609 - P.611

 内臓脂肪型肥満の原因となっている生活習慣を改善するための特定健診・特定保健指導が,いよいよ平成20年度から医療保険者に義務づけられ,実施された.しかし,健診単価,患者負担等の問題により,現時点においても,地域医師会と市町村国保との契約がスムーズに進んでいないところがある.したがって,健保等の被扶養者のための集合契約も遅れている.また,データ処理,決済等の電子化の問題,生活機能評価や他の健診(検診)との調整もある.そして,特に重要なのは,質の担保と検証である.また,国民への周知が十分にされていないことも問題である.

 今回の制度改正の背景としては,従来実施されてきた健康増進計画や健康日本21等の取り組みで十分な成果が得られなかったことがある.また,高齢化の進展とそれに伴う疾病構造の変化を反映し,生活習慣病対策としての予防を重視した取り組みへの転換,医療費削減に向けての適正化計画,医療保険者へ特定健診・特定保健指導事業を義務化することによる効率化と受診率向上,保険者機能の強化といった複合的なものが考えられる.

 糖尿病等の生活習慣病の有病者,予備群を平成27年度には,平成20年度と比較して25%減少させ,中長期的な医療費の伸びの適正化を図ることが国の政策目標として掲げられている.

【病院と特定健診・特定保健指導】

井上記念病院の取り組み

著者: 花岡和明

ページ範囲:P.612 - P.613

当院の沿革と環境

 当院は大正5年に創立された.現在の病床数は176床(一般125,医療療養51),1日平均外来数は460人である.

 創立90年を超え地域との縁は濃い.昭和34年に国鉄千葉駅の当院近傍移転で周辺の商業化が進んだ.激増した昼間人口からは予防医学の需要が大きく,旧来の住宅街は若年者転出で高齢化し,高齢者医療が求められている.当院にとっての地域医療は,「働く現役世代対象予防医学,利便性の高い外来,高頻度急性疾患を短い在院ですます入院医療」と「地域診療所からの高齢者急性期疾患入院要請,それに続く療養型病床,並びに在宅支援」であり,予防医学から在宅支援まで自己完結型の医療を行っている.しかしこの数年,昼間人口は頭打ちで,空白化した地価下落地域はマンション建設ラッシュとなり,若年者が移住しており,最近ではメタボリック症候群初期,並びにその候補者も多いと予測される.

佐久総合病院の取り組み

著者: 西垣良夫 ,   前島文夫 ,   中澤あけみ

ページ範囲:P.614 - P.616

 当院では,1959年より八千穂村の全村健康管理活動に関わったことをはじめとして,地元自治体と協力して健診・生活習慣調査とその後の健康教育を実施してきた.さらに,子どもたちの生活習慣病の芽を懸念し,1978年から成人のみではなく子どもからの生活習慣病対策の必要性を発信し,地域ぐるみで保健予防活動に取り組んできた.これらの歴史を踏まえ,当院での特定健診・特定保健指導についての取り組みを紹介する.

日立総合病院の取り組み

著者: 平井信二 ,   竹之内新一 ,   後上有里

ページ範囲:P.617 - P.619

日立総合健診センターの概要

 日立総合病院は,日立製作所の従業員に対する福利厚生の充実と地域への貢献を目的として,1938年に設立された企業立病院であり,現在は,茨城県日立市を中心とする県北部地域の中核医療を担っている.日立総合健診センターは,同病院の健診部門として健診業務を一括して行っている.当センターは日立グループの従業員や家族のみならず,地域の皆様にも幅広くご利用いただいており,2007年度の延べ受診者数18,791名のうち,41%にあたる7,781名は地域の一般住民の方々であった.

 当センターの主体は,がん・脳卒中・心臓病・糖尿病などの生活習慣病の早期発見を目的とした人間ドックであり,昨年度の受診者データによれば,全体の80%が人間ドックの受診者である.オプション検診としては,PET,脳ドック,肺がん,内臓脂肪,動脈硬化,前立腺がん,乳がん,子宮がんをはじめ全13種の検査を実施している.また,政府管掌健康保険指定の一般健診も行っている.

グラフ

健康の自己管理を支える―国立病院機構 京都医療センター 糖尿病センター

ページ範囲:P.569 - P.572

 京都医療センターの糖尿病センターは,元は1961年に赤澤好温医師らが「糖尿病相談室」を開いて診療したのが始まりである.「糖尿病外来」として本格的に稼働した1968年から数えて,本年6月で創立40周年を迎えた.

 1978年より全国に先駆けて糖尿病教育入院を開始.外来では,現在,一般外来(主に2型糖尿病)に加えて,1型糖尿病,フットケア,肥満・メタボリック症候群,高脂血症,妊娠糖尿病の専門外来を設けている.また,地区医師会との糖尿病研究会や,地域や職域における糖尿病予防の指導者育成,地域住民対象の各種教室等に関わっている.今回,糖尿病センターの主に1型外来と予防医学研究室を取材した.

連載 ヘルスケアと緑・7

身近な緑

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.574 - P.575

 この連載も7回目を向かえ,折り返し点となった.後半も引き続き,医療施設の緑の事例をお届けするつもりだが,読者からは「海外は,なんといっても医療施設の空間が広い.それに比較して日本は地価が高く,満足に駐車場もとれない.空間があったら患者さん用の駐車場を確保することが先決」などなど,様々な「できない」理由が聞こえてくる.そうした理由を詮索するのは別にして,今回は「あなたの空間にもつくれる,癒しのスペース」を考えてみることにした.

〈続〉基本からわかる医療経営学・4

医療組織におけるキャリア・マネジメント

著者: 藤村まこと

ページ範囲:P.628 - P.631

キャリアとは

 医療組織で現在経営に関わっている方も,職について間もない駆け出しの方も,皆必ず仕事生活の始まりがあります.その始まりから現在に至る様々な仕事に関わる経験,そして将来への展望を含めたものが,今回取り上げる「キャリア」です.つまり,キャリアとは“仕事を通してどう生きるか”を意味しています.

 現在の医療組織は,医療制度改革等の外的環境の変化の中,良質な医療に加え,経営の健全性をも求められています.医療と経営のいずれも,組織で働く個人によって実現されることを考慮すれば,病院の経営者は,個人の持つ力を最大限に活用しながら,それを組織の成長へとつなげていくことが必要となります.

 では,個人が自分らしくキャリアを形成し,かつ組織の成長に貢献するためにはどのような仕掛けが必要でしょうか.今回は,キャリアの諸理論を踏まえて,現在の医療組織におけるキャリア・マネジメントの課題について考えてみたいと思います.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・26

チーム医療におけるMSW・ケアマネジャーの役割―在宅で看取った事例をもとに

著者: 柳迫三寛

ページ範囲:P.632 - P.635

 当院では,在宅緩和ケアの推進を目的に,関係機関とともに退院援助システム「緩和ケア支援システム」を構築してきた.当システムの特徴は,情報の共有化とチーム医療の展開そしてチーム間の連携である.院内チームと在宅チームが連携を図ることで,在宅での看取りまでを支えた事例を通じて,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)とケアマネジャーの連携について考える.

続クロストーク医療裁判・7

術後における緊急手術の決断時期―冠状動脈バイパス手術後腸管壊死死亡事件―最高裁平成18年4月18日判決の事例から

著者: 井出正弘 ,   千葉華月 ,   島田英昭 ,   落合武徳

ページ範囲:P.636 - P.641

 本連載は65巻3号~66巻2号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 5~7回は「術後管理と医師の過失」のテーマを取り上げている.7回目では,冠状動脈バイパス手術後に急性腹症(腸管壊死)を発症した患者について,緊急開腹手術を決断した時期に遅れがあったか否かが問題とされた事案を紹介する.

 5回および6回でも見てきたように,術後管理を担当する医師には,時々刻々と体調の変動がある中で,多種多様な処置を求められるのであり,とりわけ,本件のように,緊急手術を必要とする合併症が疑われるものの,その確定診断ができないような場面においては,医師が取るべき対応を,事前に,一律に措定することは容易ではない.このような究極の選択を迫られるともいえる事例を通じ,最高裁判所が医師の過失をどのように判断したかについて検討する.

病院管理フォーラム ■エクセレント・ホスピタルの条件を探る・7

病院のブランド・マネジメント

著者: 水越康介

ページ範囲:P.642 - P.644

●ブランドとは何か

 「ブランド(brand)」は病院の資産である.ブランドは,病院経営の一助をなすとともに,患者にとっても,意思決定や満足において一助をなす.ブランドは1つの「器」として機能し,病院と患者の関係性(relationship)を取り持つ.

 だが,本来的にブランドとは,「製品・サービスを特徴づけるために付与される名前やマークの総称」1)にすぎない.ようするに,ブランドとは「名前」である.それ自体としては実を持たない.しかし実を持たない名前であるにもかかわらず,今日,それはブランドとして重要な価値を持つ.時に,「見えざる資産」とブランドが呼ばれる所以である.

■医療経営と可視化・10【最終回】

現場からの可視化(4)―原価計算を通しての取り組み

著者: 菅田典孝

ページ範囲:P.645 - P.648

 本連載後半では,現場からの可視化として,済生会新潟第二病院,済生会吹田病院,福井県済生会病院の事例を紹介してきた.本稿では,済生会宇都宮病院(表1)における原価計算を利用した可視化の例を紹介する.原価計算は医療提供に際し,コストの把握や無駄を検証する,いわゆる可視化のための1つのツールではないかと考える.

■医事法・15

医療倫理と法的責任

著者: 植木哲

ページ範囲:P.649 - P.651

●法的責任の基礎

 刑事責任であれ,民事責任であれ,これまでの話は医師が法的責任を負うことを前提としてきました.法的責任の基礎は,損害の発生を前提として,当該行為が客観的に見て違法と評価され(本連載第1回),しかもそれが主観的な観点から故意・過失(有責)と評価される行為に対する制裁措置です.このため行為者には帰責性(帰責事由)が必要であり,その判断の基礎が医療水準です.

 法的責任は機能分化しており,刑事責任は主として行為者の故意を処罰の対象とし(刑法38条),民事責任は行為者の(故意を含む)過失に対して損害賠償責任を負わせる制度です(民法415,709条).いずれにせよ行為者の有責性が責任の基礎となりますから,刑事責任においては故意が,民事責任においては過失が帰責の根拠とされます.しかし,刑事責任は例外的に,傷害罪においては過失が大きな機能を果たすことから,帰責の対象としての過失致死傷罪が定められています(刑法209,210条).この中でも業務上必要な注意を怠った者には,特に重い責任が科されます(刑法211条).これを業務上過失致死傷罪といいます.医師の責任がこれに該当することは言うまでもありません(本連載第2,3回).

DPC時代の医療経営管理塾・2

PPS(見込み支払い方式)とは

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.652 - P.653

〈問1〉PPSとはどのようなものであるか,また 診断群分類とPPSの関係を,授業中に説明に用いたケースを用いて説明せよ.

(国際医療福祉大学医療経営管理学科2006年3年後期「診断治療総論」期末試験問題)


 先月号では「診断群分類」を取り上げ,診断群分類とは「傷病名や提供された診療内容をもとに,似た患者(ケース)をグループ化するケースミックス区分法」のことであるという説明を行った.今月号の設問の意図は,診断群分類とPPS(見込み支払い方式)の関係を理解してもらうことである.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・10

5月と10月 午前11時と午後の2時…―もう1つの「生きる」を見つめる

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.654 - P.655

忘れないでください

 10年ほど前になるが,Mさん(卵巣がん末期)の隣のベッドに,言葉の不自由な患者さん(以下,Qさん)がいた.何かの病気の時に声帯を摘出し,食事はのどにぽっかりとあいた穴からチューブで流し入れる.コミュニケーションの手段は筆談のみ.

 しかしそれでは,医師や看護師との意思疎通がうまくいかない.そのいらだちがストレスとなって食欲は減退,体重も減り,病状も悪化する.悪循環だ.妻のベッドからカーテン越しに泣いている姿が映る.Mさんをはじめ,同室の患者さんたちは,なにか自分たちにできることはないかと考えた.言いたいことがもう少し伝われば楽になれる.思いついたのが「あいうえお」の50音表「文字盤」の作成だ.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第162回

恩賜財団 済生会横浜市東部病院

著者: 高橋敏行 ,   仁礼誠

ページ範囲:P.656 - P.661

 横浜市はその「中期政策プラン」に基づき,不足する医療機能を充足しつつ,市民が安心して受療できる医療提供体制を確保するため,市内6方面に地域の中核となる病院の整備を順次進めている.本病院はその一環として,主に東部地域(鶴見区・神奈川区方面)の市民医療を担うべく,神奈川県済生会を事業主体として建設された市内5番目の地域中核病院である.

 明治天皇の済生勅語に始まる済生会創立の理念のもと,病診・病病連携を推進する都市型の地域中核病院のモデルとして,これからの高度先進医療を提供する組織のあり方を模索するとともに,それらにハード・ソフト両面で十分に対応できる施設づくりが求められた.開院後1年余が経過したが,救命救急センターを中心とする16の疾患別診療センターをベースに,常に一歩先の医療を目指して,小児医療からがん,心疾患,脳血管疾患等まで総合的な医療を展開している.

リレーエッセイ 医療の現場から

古武術に学ぶ「一器多用」の介護技術

著者: 岡田慎一郎

ページ範囲:P.663 - P.663

 古武術と介護,ほとんどの方がまったく接点がないように思われるだろう.しかし近年,武術研究家・甲野善紀氏が提唱する「うねらない,ためない,ひねらない」に代表される,現代運動理論の正反対を行く古武術を基盤とした身体運用・発想の転換が,スポーツや音楽,舞踊,介護など幅広い分野から注目を集めている.私は数年前より甲野氏から身体運用理論を学び,身体に負担をかけない介助技術を実践的に研究する活動を行っている.

 私は武術家ではないし,甲野氏が行っているのも古流の武術を研究材料とした独自のものであって,正確には古武術ではないのだが,古流の武術からヒントを得たという意味で,「古武術介護」と名付けている(これまた正確に言えばニックネームであり,本来ならば「武術的身体運用を参考に,身体介護技術の質的改善を目指すもの」と言えるだろう).詳しい介護技術の理論は拙著『古武術介護入門』(医学書院)に譲るとして,ここでは武術的な発想が介護技術に与える影響を紹介したいと思う.

研究と報告【投稿】

電子カルテ実施データを基にした原価計算システム―直課率向上を目指しての試み

著者: 牧野憲一 ,   後藤聰 ,   富安正典 ,   国貞玲 ,   寺口大

ページ範囲:P.620 - P.623

要旨 旭川赤十字病院では電子カルテシステム導入と同時に,物流システム,医事システムを結んで原価計算システムの構築を行った.この原価計算システムの特徴は,電子カルテにある実施データを基にして原価計算を行うことである.今回は,このシステムを利用して配賦によることなく患者に直接計上した費用の割合(以下,直課率)の検討を行った.この旭川赤十字病院原価計算システムにより半年間の症例ごとの原価を計算し,そのデータを基に,医師人件費,薬剤費,診療材料費の直課率を算出した.また,物流システムで把握した,この期間の購入診療材料費から計算した予定値と比較した.このシステムを利用して計算した医師の人件費直課率は半年間の平均で43%,薬剤費直課率は82%,診療材料費直課率も82%であった.このシステムにより,高い診療材料直課率を実現した.

特別寄稿

医療機関の管理者から医療安全管理者への権限委譲

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.624 - P.627

要旨 「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」では,医療安全管理者の位置づけを各医療機関の管理者から安全管理のために必要な権限の委譲と,人材,予算およびインフラなど必要な資源を付与されて,管理者の指示に基づいて,その業務を行う者としている.今回,医療機関の管理者201名に,医療安全管理者に委譲している権限について調査した.その結果,「医療安全に関する情報の収集と職員への提供」「院内医療安全教育・研修の企画,運営」,その他「医療事故発生時の初動対応」「院内巡視」などがあった.必要な権限を委譲して医療安全管理業務を効果的に実施するためには,職位や職種にも配慮した人材配置や人材育成が欠かせない.医療安全管理者個々人の能力や経験を見定め,円滑に業務を実施できる環境を整備するためには,施設管理者の強いリーダーシップが必要である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?