icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院67巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

特集 新たな医療計画の展開

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.773 - P.773

 新たな医療計画制度の運用が開始された.急性期から亜急性期・慢性期,そして長期療養の在宅まで,切れ目のない連携体制を,4 疾病 5 事業において展開するというのが当初からの政策目標であった.都道府県は,医療費適正化計画や地域ケア体制整備構想などとともに,指標を設定した目標管理型の計画策定を迫られ,実施に至るまでは難渋したはずである.実施初年度の現段階で,果たしてどこまでその目標が達成されているのか,現況を把握しておく必要があろう.国は各県に医療計画の運用に向けて様々な要請を出してきたが,各県はそれをどこまで受け止め,計画の特徴がどのような形で表れているのか,神奈川県と福岡県の事例から見ておく.

 4疾病のうちでも,「がん」と「脳卒中」の地域における連携体制の構築は,重点課題であることは疑いがない.がんについては,医療法による医療計画とは別に,国のがん診療施策の流れを汲む「がん対策基本法」が施行され,「がん診療連携拠点病院」を指定することにより,がん医療均てん化の促進と地域格差解消を図ることを目指している.一連のがん診療対策の流れを改めて総括し,新たな医療計画との関連について見ておきたい.

新たな医療計画の展開

著者: 大道久

ページ範囲:P.774 - P.777

運用開始となった新制度

 先の医療法改正で導入された新たな医療計画は,本年4月から実施に移っている.実施直後であり,新制度の運用の方向を全体的に捉えるにはなお時間が必要であるが,各県の医療計画自体は出揃っている.本稿では,新たな医療計画制度の策定の過程で経験された問題点を取りまとめるとともに,同制度の今後の展開が病院の管理・運営にどのような影響を及ぼすのかを探っておきたい.

 今回の医療法改正における医療計画の趣旨と理念については,「医療提供体制の確保に関する基本方針」1)として示されている.それによれば,医療機能の分化・連携の推進を通じて,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保して国民の医療に対する安心と信頼の確保を目指すものであることが改めて謳われ,医療の受け手の視点に立って患者・国民が主体的に医療に参加してゆく仕組みづくりをすることの意義が強調されるとともに,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病の4疾病,および救急医療,災害医療,へき地医療,周産期医療,小児医療(小児救急医療を含む)の5事業に対応した切れ目のない連携体制の構築を図るとされている.

新医療計画と医療連携が目指す地域における医療提供体制の姿

著者: 武田康久

ページ範囲:P.778 - P.781

はじめに―医療計画の黎明,発展,そして新たな視座へ

 わが国における医療計画制度は,昭和60年の医療法改正に伴って初めて規定された地域医療計画をその端緒とし,その後,累次の改正に伴い,その形態を少しずつ変えるとともに,その機能についても変遷を重ねてきた.

 すなわち,多様化,高度化する国民の医療需要に対応して,地域の体系的な医療提供体制の整備を促進するため,①医療資源の効率的活用,②医療関係施設相互の機能連携の確保等を目的として,昭和60年12月の第1次医療法改正(昭和61年8月施行)に基づき医療計画は制度化され,2次医療圏ごとの必要病床数が算定されることとなった.

 その後,平成9年12月の第3次医療法改正(平成10年4月施行)により,日常生活圏で必要な医療を確保し,地域医療の体系化を図る観点から,医療圏の設定および必要病床数に関する事項に加え,①地域医療支援病院の整備の目標等に関する事項,②医療関係施設相互の機能の分担及び業務の連係等に関する事項等を2次医療圏ごとに定めることとし,医療計画制度の一層の充実を図った.

 さらに,平成12年12月の第4次医療法改正(平成13年3月施行)では,必要病床数という用語を基準病床数に改め,「その他の病床」が新たな病床区分である「療養病床」および「一般病床」に移行される期間中のものとして,算定式を改正した.また,これと関連して,療養病床および一般病床の病床区分が定着したことに伴い,平成17年7月に両病床それぞれの算定式でもって算定するように省令改正を行った(平成18年4月施行).

 このような流れの中,平成18年6月の第5次医療法改正(平成19年4月施行)では,高齢化の進展による生活習慣病の増加や地域医療の確保における諸課題に対応するため,がん,脳卒中,小児救急等の主要な疾病および事業(「4疾病5事業」;後述)ごとに,それぞれの連携体制を構築するための具体的な方策を医療計画に定めることとした.

 本稿においては,このようなわが国における医療計画の誕生,変遷の歴史を踏まえ,今,新しい医療計画によって何が変わり,その結果,どのような医療提供に係るフレームを目指しているのかについて概説するとともに,それらの中で重要なキーワードの1つとして位置づけられている地域医療連携に関してもその考え方,目指す方向性等について言及することとする.

がん診療連携体制と医療計画

著者: 前田光哉

ページ範囲:P.782 - P.784

 本稿では,一連のがん診療対策の流れと新医療計画との関連について整理する.


地域がん診療拠点病院の整備

 がんの拠点病院については,わが国に多いがん(肺がん,胃がん,肝がん,大腸がん,乳がん等)について,住民がその日常の生活圏域の中で質の高いがん医療を受けることができる体制を確保することを目的として,厚生労働省は,平成13年8月に「地域がん診療拠点病院の整備に関する指針」を定め,平成14年3月から地域がん診療拠点病院の指定を開始した.

地域における脳卒中連携体制の現況と課題

著者: 田城孝雄

ページ範囲:P.785 - P.788

地域医療計画

 医療制度改革の流れの中で,平成19年の4月1日から施行された第5次改正医療法では,地域医療計画が見直された.新たな医療計画制度での診療ネットワークの考え方として,患者を中心にした診療ネットワーク,主要な疾病ごとに柔軟な診療ネットワークが構想され,これをもとに平成20年度からの5か年計画の地域医療計画が策定された.

患者・住民にわかりやすい地域医療計画となったか

著者: 丸木一成

ページ範囲:P.789 - P.794

 患者中心の医療の実現には,適切な医療機関を選べる情報が,わかりやすい形で,患者・住民に提供されることが欠かせない.この4月から始まった都道府県による医療機能情報提供制度は,4疾病5事業の地域医療ネットワークを定めた新医療計画とともに,市民・患者にとっても大きな意味を持つと思われる.限られた医療資源を有効に活用するには,患者・住民も,行き過ぎた大病院志向から合理的な受療行動に変わることが求められる.

 新しく始まった医療計画や医療機能情報提供制度は,はたして,患者・住民の視点からみて,満足できるものに変わったのだろうか.まだ始まったばかりで,各都道府県による取り組みには大きな差があるが,医療機能情報の提供の実態と課題を考えてみた.

【座談会】新医療計画下の病院経営

著者: 稲波弘彦 ,   関健 ,   徳田禎久 ,   村上信乃 ,   猪口雄二

ページ範囲:P.795 - P.803

猪口 新医療計画が一応4月にスタートしました.昔は病床規制といった計画でしかなかったのが,今回は疾患によっては二次医療圏の考え方から少し外れ,また,医療計画に医療機関の固有名が記載されるというものになりました.

 今日の座談会は,東京,千葉,長野,北海道と,異なる地域からお集まりいただきました.新医療計画が今後の医療経営にどう影響を及ぼすか,考えてみたいと思います.最初に,それぞれの地域での状況をご説明ください.まず千葉の旭中央病院から,村上先生にお願いいたします.

医療計画事例:神奈川県―新計画の特徴はどのような形で表れているか

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.804 - P.806

 1948年制定の医療法は戦争により破壊された医療施設の復興を見据え,いわば量的な医療供給体制の整備が盛り込まれたものであった.しかし,戦後の急速な医学・医療の進歩や高度経済成長とともに,医療機関の量的な整備はほぼ完了し,医療資源の地域偏在の是正を図ること等を目的に1985年に医療法が改正され,医療計画制度が設けられた.病床規制と医療圏の設定により医療圏単位での医療格差の改善を目指したものであったが,病床規制以外何ら成果を見ずに約20年が経過した.

 病床数の量的規制しか明確な成果をあげてこなかった医療計画は,「医療の質・安全性の確保」「医療資源の地域格差の是正,公平性の確保」「医療機能分化・強化・分担・連携」や「情報の提供と選択の支援」「患者,住民の視点」などの近年の国民の要望や新たな世間の動向に対処できなくなった.

医療計画事例:福岡県―良質な医療の提供を目指して

著者: 平田輝昭

ページ範囲:P.807 - P.809

 医療制度改革大綱の基本的な考え方に基づき,今般の医療制度改革関連法において,医療情報の提供による適切な選択の支援,医療機能の分化・連携の推進による切れ目のない医療の提供,在宅医療の充実による患者の生活の質の向上など患者の視点に立った,安全・安心で質の高い医療の提供体制の構築が求められることとなった.

 本県においても,今回の医療計画の見直しでは医療機関の医療連携体制や医療機能情報をいかに正確にかつ住民に身近なものとして提供すべきか,また,今後の医療体制の中で重要な役割を果たす在宅医療の推進については腐心したところである.

有床診療所と医療計画

著者: 鹿子生健一

ページ範囲:P.810 - P.811

歴史的背景―第1次医療法改正では診療所病床は必要病床数算定から除外

 昭和60(1985)年の第1次医療法改正において,有床診療所の病床は医療計画の必要病床数の算定から除外された.このため有床診療所の新規開設は都道府県知事への届出のみで可とされ,その後も暫くの間は,意欲的な医師による有床診療所の新規開業は,数は多くはないが続いてきた.その一方で,患者の大病院志向による入院患者数の減少や,入院医療費の病診格差が著しく拡大したこと等により,経営困難に陥る有床診療所が増加し,無床化,廃院する施設が増加している.昭和62(1987)年から平成18(2006)年までの間に,有床診療所の施設数は24,975施設から12,858施設へと激減している(図).

 昭和63(1988)年には,厚生省高官の「有床診療所の使命は終わった」という発言があり,有床診療所の将来に不安をおぼえた関係者が同年「全国有床診療所連絡協議会」を組織し,医療法13条のいわゆる48時間規制の撤廃と入院基本料の病診格差の是正を求めて活動してきた.

グラフ

診療所との連携を深めて市民の信頼を獲得―独立行政法人労働者健康福祉機構 千葉労災病院

ページ範囲:P.761 - P.764

 千葉労災病院は,千葉県市原市を中心とする京葉工業地帯の労災医療と一般医療を担うため,千葉県の要請を受けて,1965年に独立行政法人労働者健康福祉機構(旧労働福祉事業団)によって開設された.「勤労者脊椎・腰痛センター」「呼吸器センター」「アスベスト疾患センター」など労災病院ならではの機能を備え,日本の高度経済成長を支えてきた,地域の中核病院である.

 しかし近年では,京葉工業地帯における産業構造の変化や安全性の向上に伴い,医療の主な対象が労災事故から糖尿病・高血圧などの生活習慣病やうつ病などの精神的ケアを必要とする疾患に変わってきたという.さらに新しい医療計画制度でも求められているとおり,医療施設間の連携を強化して国民の健康を守るという政策が進められており,地域社会のニーズに合った新たな病院像が求められるようになってきた.

連載 ヘルスケアと緑・9

思い出を紡ぐ庭

著者: 浅野房世

ページ範囲:P.766 - P.767

 前回に引き続き,筆者が関わった庭について話を続けたい.すでに何回か取り上げられている関西労災病院の庭は,本誌の記事(第63巻第10号)などを参考にしていただくこととし,今回は医療施設ではない庭を選んだ.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・28

人工呼吸器装着児への退院支援の取り組み―生活を支える地域連携のネットワークづくり

著者: 小島好子

ページ範囲:P.818 - P.821

 当大学附属病院は医療制度上特定機能病院という位置づけにあり,その性格から難病,重症の患者(児)が多く,診療圏も広いという特徴をもっている.

 平成17年度厚生労働省大臣官房調査では「受け入れ条件が整わないために退院できない」患者(児)が実に19%に上るという結果がでている.つまり,医師がいかに「生命を維持する」ことを完遂したとしても,生活の場に安心して帰れる状況を創り出すことができなければ,退院できない事実がある.

 そこで,当院における在院日数1年を超える長期入院患児に対する医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)の退院支援の取り組みを報告する.

〈続〉基本からわかる医療経営学・6

医療における市場とは

著者: 金子勝規

ページ範囲:P.822 - P.825

 社会経済状況,人口および疾病構造,多様化する患者ニーズと意識の変化,技術進歩など,医療機関の経営に影響を及ぼす要因は数多く存在します.そして近年,医療機関の経営を取り巻く環境が大きく変化する中で,日本の医療制度は転換期を迎えようとしています.病院の倒産や診療科の閉鎖といった事態が現実に起こり,他の医療機関との差別化による経営力の強化が求められています.

 そこで今回は,医療経営や医療マーケティング,市場競争を考えるうえでの前提となる,医療における「市場」について考えてみたいと思います.

続クロストーク医療裁判・9

薬物アレルギーの既往を有する患者に対する抗生剤投与後の対応―抗生剤投与後ショック発症死亡事件―最高裁平成16年9月7日の判決から

著者: 渡邉隆浩 ,   大澤彩 ,   小川陽子

ページ範囲:P.826 - P.831

 本連載は65巻3号~66巻2月号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 第9,10回では,異なる論点の注射関係の判決をとりあげる.第9回は,S状結腸がん除去手術を受けた患者が,感染予防のため静脈注射により抗生剤(ペントシリン,ミノマイシン)の投与を受けた後に,アナフィラキシーショックに陥って死亡したケースにおいて,抗生剤投与後の経過観察義務,救急処置態勢の準備義務の有無が争われた事案である.本判決は,投与された抗生剤の能書き,問診において患者からアレルギー体質の申告があったことなどを予見可能性の根拠として,医師に,アナフィラキシーショックの発症に備えた措置(担当の看護婦に対する投与後の経過観察等の指示,発症後の救急処置を採り得る態勢に関する指示等)を怠った過失を認めており,上記注意義務の有無のほか,薬物投与の過失と能書きの関係,問診の在り方等も論点となり得るものである.

病院管理フォーラム ■医事法・17

医療紛争裁判の現状と課題(1)

著者: 植木哲

ページ範囲:P.832 - P.833

●最高裁の医事関係訴訟統計

 2001年7月に最高裁に設置された医事関係訴訟委員会は,医事訴訟の審理期間の短縮を目指して様々な調査・提言を行っています(同様の趣旨で設置されたのが建築関係訴訟委員会です).そこでは新しい「医事関係訴訟の現状」と題する統計が発表されるとともに,2005年6月には答申が出されました.統計資料によると,①医事関係訴訟事件の処理状況および平均審理期間,②医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数およびその割合,③地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率,④医事関係訴訟事件の診療科目別新受件数が一覧表として出されています.

 私も本連載の締めくくりとして,これらの統計から見えてくる医療裁判の現状を明らかにしつつ,裁判による医療紛争の解決には限界のあること,それに代わる裁判外の医療紛争処理機構(いわゆる医療ADR)が不可欠であることを強調したいと思います.

■エクセレント・ホスピタルの条件を探る・9

プロセス・マネジメントの概念

著者: 石井淳蔵 ,   水越康介

ページ範囲:P.834 - P.836

●プロセス・マネジメント

 医療経営を考えるうえで,戦略策定は重要な作業である.例えば,経営学におけるもはや古典にして定番ともいえる,Porter1)による競争戦略論はその一助となる.ファイブ・フォース(「新規参入の脅威」「代替品・サービスの脅威」「供給業者の交渉力」「顧客の交渉力」「競合」)と呼ばれる一連の環境状況を分析すれば,自らの取るべき道が見えてくる.あるいは逆に,環境に依存しない独自の経営路線を考えたいのならば,やはり定番といえるBarney2)らの資源依存論を参考にすればよい.VRIOモデル(「価値」「稀少性」「模倣不可能性」「組織」)に基づいて,自らの企業だけが提供できる価値を確認し,競争優位性を確立できる.

 とはいえ一方で,これらの戦略策定を過度に重視するのは危険である.なぜならば,大事なことは戦略の実行,さらには目的の達成にこそあるからである.戦略策定はあくまで手段であることを忘れてはならない.

■DPCによる地域医療分析・2

MDC01神経

著者: 河野一博 ,   真野俊樹

ページ範囲:P.837 - P.841

●「地域医療」と「選択と集中」

 連載1回目でわれわれは,これからの地域医療について,自らの病院だけでなく,地域医療の中での最適化すなわち最適な医療の提供こそが今の医療機関にもっとも必要とされていること,すなわち価値であることを示した.また,自院のみの利益ではなく,この価値を見直して「地域医療」の再構築を図る必要があることも提言した.

 そのためのキーワードの1つが「選択と集中」である.特に,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病といった4疾患,救急医療,災害医療,へき地医療,小児医療,周産期医療といった5事業を中心に医療資源を集中する方策が進む中,地域医療計画と組み合わせた地域における医療資源の「選択と集中」が必要となる.

DPC時代の医療経営管理塾・4

出来高と包括,入院総点数の求め方

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.842 - P.843

〈問1〉機能評価係数が0.05,調整係数1.05のDPC実施病院に,甲状腺の手術目的で入院し,「甲状腺悪性腫瘍手術」の手術を受けて11日目に退院した場合の入院総点数(出来高部分と包括部分の総計)を,計算式を示しながら,算定せよ.なお,DPCの包括部分の点数表は以下の通り,出来高合計点数は30,000点であったとする.


〈問2〉上記と同様の診断群で上記の病院に入院したケースで,入院期間が13日であり,指導管理1,000点,手術麻酔20,000点,注射5,000点,投薬3,000点,CT1,000点,その他の画像診断1,000点,リハ6,000点,診断穿刺・検体採取1,000点,処置(1,000点以上)2,000点,であった場合の入院総点数を計算せよ.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・12

マイナスも大切な遺産~私が思うこと

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.844 - P.845

愛犬との出会い

 妻との死別後の生活で一番悩んだのは,家族に会話がなくなったことだった.わが家は息子2人に妻の4人家族.紅一点の妻は陽気でにぎやかなムードメーカーだった.反して僕は「無口」.息子たちも僕に似て「無口」.そんな男どもが後に残されたのだから,たまったものではない.1日のおしゃべりは食事時の「いただきます」と「ごちそうさま」の二言だけだ.そんな暮らしに,さすがの僕も心配になる.

 そこで思いついたのが,「ペットでもいたらなぁ」だった.ところがその時の僕は,犬の値段さえも知らなかった.冷やかしでペットショップへ行き,「吠えない犬はいませんか?」と切りだした.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第164回

東急病院

著者: 福島祐二

ページ範囲:P.847 - P.852

はじめての駅上病院

 東急病院は東京急行電鉄の企業立病院として1953年に開院した.現在は特定の企業のための病院ではなく,東急沿線の方々が利用する一般病院として利用されている.しかし近年,施設の老朽化の問題,地域の求める医療ニーズに対応する医療環境・建築設備の限界が顕著となってきた.そこで,東急病院を地域に密着した医療施設として一層充実させることで地域社会へのさらなる貢献を図るとともに,沿線価値を向上させることを目的に,大岡山駅上部に移転新築することになった.

 東急大岡山駅は地下ホーム駅として1998年に改築され,人工地盤上を駅舎と商業施設および駐車場として利用されていた.今回の計画では駅舎は残して商業施設を取り壊し,駅上に専用駐車場部分とともに病院を建設することになった.

リレーエッセイ 医療の現場から

ヘルマンスキー・パドラック症候群との出会い

著者: 永田正子

ページ範囲:P.855 - P.855

 私は一児の子どもと主人と暮している46歳主婦です.先天性色素欠乏症で,金髪に,肌と眉・睫毛は真っ白に生まれました.3年ほど前にヘルマンスキー・パドラック症候群(以下,HPS)と診断されました.HPSは眼皮膚白皮症,血小板濃染顆粒の欠損による出血素因,セロイド蓄積症を3主徴とする常染色体劣性遺伝形式を有する疾患です.私のこれまでをお伝えすることで,日本では100症例以下と稀で治療困難なHPSの1例として参考になればと思います.

特別寄稿

診療区分を利用した部門別原価管理と損益計算

著者: 佐藤浩人 ,   田原孝 ,   平井孝治

ページ範囲:P.812 - P.816

要旨 本稿は病院におけるフィールドリサーチを元に,計算例を示しつつわれわれが検討を進めている「診区方式」の原価計算・損益計算の特徴を紹介するものである.この計算方式は,ワークショップを通じて医療従事者の実感を反映させた帰属行列を用いて,レセプトデータから取り出した収益を診療区分別にシェアリングすることで規準原価を算定,発生原価と突き合わせることで原価管理や損益計算につなげるものである.また,この帰属行列の逆行列をとることで感度分析を行うこともでき,意思決定に資するものとなると考えている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?