icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院68巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

特集 NPMで公立病院は再生するか

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.193 - P.193

 自治体病院の経営悪化が深刻化している.公営企業としての病院事業総数669のうち,赤字事業数割合は,2004年度が66%,2005年度69%と増加傾向にあったが,2006年度は79%と急速に悪化した.運営されている病院数は2006年度で968病院,地方公営企業法の繰出し基準に基づいて一般会計等から総額約7,000億円の繰入金が投入されているが,なお2,000億円の赤字で,これまでの累積赤字総額は1兆9,000億円に上るという.

 自治体病院の特質は,強固な基盤に立った公務員組織が医療を提供するところにあり,住民からの一定の信頼を得る一方で,給与や人事の体系が硬直的で,環境に応じた柔軟な運用が困難であるために様々な問題を生じていると言える.今,改めて公立病院の経営のあり方が問われ,NPM(New Public Management)が提唱されている.そこで,NPMの概念とその意義,公立病院に適用された場合に期待される有効性などについて総論的に論じてもらうこととする.

公立病院の経営革新とNPM

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.194 - P.199

■公立病院経営を取り巻く環境

 公立病院の経営問題が全国的にこれほど注目されるのは,昭和30年代後半の全国一斉病院ストライキ以来のことであろう.今回の公立病院問題は,医師不足や病院経営問題であるとともに,病院の経営形態の選択という課題を含んでいる.そこで,公立病院の経営革新とNPM(New Public Management)という観点から,若干の私見を述べてみたい.

 わが国の医療供給体制において,都道府県立病院と市町村立病院は,重要な役割を担っているにもかかわらず,平均的に見れば経営状態は危機的状態にある.もちろん,役職員の懸命の努力により経営を継続している病院が多いが,公営企業として運営している病院事業主体の約8割が地方公営企業法上の法定繰入金を受けながらも損失を計上している現状を放置することは,開設者である地方自治体の財政基盤を揺るがせることにならざるをえない.

公立病院の再生に向けて

著者: 栄畑潤

ページ範囲:P.200 - P.204

 今,全国の公立病院は激動の真っただ中にある.昨年から今年にかけて,山形県立日本海病院と酒田市立病院の統合―地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構のスタート,富山県氷見市立病院の公設民営化(指定管理者:金沢医科大学)等とともに,千葉県銚子市民病院の休止,滋賀県近江八幡市立総合医療センターのPFIの廃止・直営化も起こり,医師不足や赤字経営に悩む公立病院は枚挙に暇がない.また,静岡県掛川市と袋井市,兵庫県三木市と小野市での市民病院の統合や大阪府市立松原病院の閉院も動き出している.このような中で総務省は平成19年暮に「公立病院改革ガイドライン」を定め,各地方自治体に平成20年度中に公立病院改革プランを策定し,公立病院改革に取り組むよう求めており,各自治体や病院で策定に向けた検討が進められている.

 このように,公立病院は今,大きな転換期にある.この激動を乗り越え地域医療の拠点として確固たる存在となるのか,激動に飲み込まれ消滅しその結果地域医療が危機に陥るのかの岐路にあると言える.

公立病院の経営形態とその見直しの動向

著者: 松田美幸

ページ範囲:P.205 - P.209

■公立病院改革における経営形態の見直しとNPMの視点

 平成19年12月の公立病院改革ガイドライン(以下,ガイドラインと記載する)に示された改革の3つの視点の1つに「経営形態の見直し」がある.ガイドラインは経営形態の見直しにあたって経営形態の選択肢を示すと共に,機能や用途転換も含めた事業形態の適否の検証という抜本的な見直しも求めている.

 NPM(New Public Management)理論には様々な定義があるが,筆者は3つの原則と4つの留意点を挙げる.原則は(1)民の力でできることは行政は手がけない,(2)企画部門(政策部門)と運営部門(執行部門)を組織的に分離する,(3)ニーズや環境変化に迅速に対応するために,現場の機関や第一線の職員にできるだけ権限委譲することである.留意点としては,(1)手続きやルールよりも顧客の視点や結果を重視することで,サービスの質と効率性を高める,(2)仕事の評価を行い改善につなげる,(3)評価結果を含む情報公開を徹底する,(4)良い仕事に対して報奨を与えるなどインセンティブを設けることが挙げられる.

公立病院事業管理者の責任と権限

著者: 堺秀人

ページ範囲:P.210 - P.213

 平成19年に成立した「地方公共団体財政健全化法」と同年に総務省が示した「公立病院改革ガイドライン」によって,自治体病院を含む公立病院の改革が全国的に加速している.全国の自治体とその病院にはそれぞれ地域特性があるため,以下の本稿では神奈川県とその県立病院群について記すこととする.

公立病院PFI事業の意義を問う

著者: 井熊均

ページ範囲:P.214 - P.217

■病院PFI事業への期待

 1999年にPFI(Private Finance Initiative)が成立して以来,既に,300件を超える事業が実施段階に入っている.件数で見ると,学校や給食センター等が多くなっており,必ずしも公立病院が突出している訳ではないが,この間公立病院のPFI事業への関心は高かった.公立病院のPFI事業は規模の面でも付加価値の面でも他の分野の事業を圧倒する内容を有しているからだ.PFI事業の契約額の平均的な規模は100億円程度であるが,公立病院のPFI事業では2,000億円を超えるケースもある.病院施設の建設費が数百億円に届かないのが一般的であるにもかかわらず,契約額がこれほど巨額になるのは,公立病院のPFI事業が極めて広範な事業範囲を有しているからである.病院施設の設計,建設,維持管理といった一般的なPFI事業の業務に加えて,医療機器の整備・維持管理,医療関連サービスの提供,医療事務,調達,エネルギー供給,情報システムの提供,等が含まれている.公共団体が所有する施設としては最大級の病院施設に加え,その何倍ものサービス業務を含んでいるのが公立病院のPFI事業なのである.

 こうした事業を運営するためには,広範な業務に対応するための技術やノウハウを有する複数の企業をとりまとめ,これらが連携してサービスを提供できるようにマネジメントする能力が求められる.上述した施設の建設,維持管理以外の契約額は広範な業務のマネジメントへの期待と対価と解釈することができる.その付加価値の高さはPFIの本家イギリスの病院PFI事業をも凌駕している.「箱モノ」と揶揄され施設の建設・維持管理以外の付加価値が低い,あるいは10億,20億円程度の投資規模のPFI事業が多い日本市場で,民間企業が公立病院のPFI事業に関心を持ったのは当然と言える.

【事例】指定管理者・星総合病院の運営による町立三春病院―県立病院から生まれ変わって

著者: 星北斗

ページ範囲:P.218 - P.221

 経済成長の鈍化と地方自治の見直しの中で,全国の公立病院のあり方は大きな変化の時期を迎えている.これは自治体にとって財政基盤を圧迫する赤字病院の閉鎖や民間への移譲による経営(赤字補てん)からの避難という側面だけではない.反対に,戦後の医療提供体制に一定の役割を担ってきた地方の中小規模病院の,地域における再生の道を探るチャンスともなっていると考えるのは私だけだろうか.

 異論はあろうが,救急医療やへき地医療など政策的で採算性の低い医療の提供を理由に,自治体病院は長らくその経営にメスが入れられることはなかったとは言えないだろうか.近年になり,自治体病院の赤字経営は有権者にとっても看過できない問題として捉えられるようになり,地方の県立の病院にあってはその配置にもよるのだろうが,直接の利益を受けられない住民にとっての不要論を封殺できなくなり,一方では立地周辺の住民や市町村にとっては継続を求める声が日に日に増してくるという状況を招くことになった.

【事例】独立行政法人化後の国立病院の現状と経営課題

著者: 吉田学

ページ範囲:P.222 - P.225

 独立行政法人国立病院機構(NHO)が矢崎義雄理事長の下で発足して5年が経った.平成21年度からは第2期目の中期計画期間に入る.この間,求められる使命(ミッション)を達成すべく,診療・臨床研究・教育研修の3事業に邁進するとともに,国時代からの運営手法を大きく変え,経営の効率化・改善に取り組んできた(図1:NHO理念).

 「4疾病5事業」を掲げる都道府県医療計画の策定と地域診療連携の一層の深まり,困難を極める医師や看護師の確保,逐次の診療報酬改定といった医療・病院経営を取り巻く環境の変化の中で,NHOの現状と直面する経営課題を概説する.

【事例】地方独立行政法人化後の那覇市立病院

著者: 宜保哲也

ページ範囲:P.226 - P.230

■那覇市立病院の概要

 沖縄県には5つの医療圏が設定されている.そのうち最大の医療圏が本島南部医療圏で,那覇市立病院(以下,当院)はここに立地している.圏域人口は69万人(うち那覇市31万人),老齢化指数は84.1,圏内の医療施設は46病院9,793床,うち一般病床が4,675床,療養病床が1,945床であるのに対し,適正病床は5,404病床と設定され,1,216病床が過剰とされている.圏内に離島を抱えているものの,人口の大半から言えば都市型の医療圏である.当院の半径3km以内にも,県立病院,移転建設中の公的病院,大型民間有力病院多数がひしめいている,いわゆる医療激戦区である.

 当院は昭和55年に開設した470床を有する急性期型の病院で,小児科医が常駐する365日24時間の救急医療体制と,地域がん診療連携拠点病院を表看板にしている.ちなみに平成19年度の救急患者数は約5万人,うち救急車搬送は3,750件であった.現在のところ,圏域の救急医療ネットワークは有効に機能しており,全国的に課題となっている小児・妊婦のたらいまわしの事例は皆無である.

グラフ

医療を守る―兵庫県立柏原病院&県立柏原病院の小児科を守る会

ページ範囲:P.181 - P.184

「責任ある医療を提供できる自信がなくなりました」

 2007年4月,兵庫県立柏原病院小児科の和久祥三医長は辞職を宣言した.それまで小児科は3人体制だったが,前年に医師が1人退職し,さらに小児科部長だった酒井國安副院長の院長就任が決定.週に2~3日は輪番制の当番で病院へ泊まり込みという勤務状況に,心身ともに限界を感じていた.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・2

手術支援ロボットによる低侵襲治療

著者: 富川盛雅 ,   家入里志 ,   田上和夫 ,   橋爪誠

ページ範囲:P.186 - P.187

 手術支援ロボットとは,外科医が遂行する精密かつ低侵襲な手術を支援する装置であり,コンピュータ技術の発展に伴い可能となった.なかでも,マスター・スレーブシステム注)をもつロボットは近年急速に普及した内視鏡下外科手術に応用されている.外科医はロボットを操作することにより,高機能化した視覚を通して人間の手を越える精密な手術を行うことができる.本稿では,現在臨床に応用されているマスター・スレーブ型手術支援ロボットを中心に解説する.

続クロストーク医療裁判・14

チーム医療における医師の刑事責任―最高裁平成17年11月15日決定の事例から

著者: 小津亮太 ,   奥津康祐 ,   花澤豊行 ,   岡本美孝

ページ範囲:P.241 - P.247

 本連載は65巻3号~66巻2月号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.

 第14回は刑事事件の判例を取り上げる.大学附属病院の耳鼻咽喉科で,指導医-主治医-研修医から成るチーム内で治療方針を立案し医局会議にかけ,科長が最終的に治療方針を決定する体制であった.主治医が抗がん剤の投与計画の立案を誤り,週1回投与すべき抗がん剤を連日投与するとともに,その副作用に適切に対応することなく患者を死亡させた事案である.科長は,主治医から治療方法の報告を受け了承していたが,具体的な薬剤の投与計画内容までは検討していなかった.主治医の過失自体は争いようがない事案であるが,チーム医療の責任者がどのような義務を負い,刑事責任を問われるのかという点が議論となった.

〈続〉基本からわかる医療経営学・11【最終回】

医療における経営戦略

著者: 明石純

ページ範囲:P.248 - P.253

 最近,病院経営の世界でも「戦略」という言葉がよく使われるようになりました.「これからは病院経営にも戦略が必要だ」といった具合に経営全般の場面で使われるほか,部門業務でも「人事戦略」「財務戦略」などのように使われています.戦略という用語をつけると何となく積極的に聞こえたり,競争的・攻撃的な行動を想起しますが,そもそも経営戦略とはどのようなものなのでしょうか.今回は,病院の経営戦略について考えてみましょう.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・31

周産期医療と障害児―心に寄り添う支援

著者: 小島好子

ページ範囲:P.254 - P.257

 近年,周産期医療が発達し,1,000gにも満たない超低出生体重児が助かる時代を迎えた.その一方で,障害の受容を迫られ,葛藤に苦しみ続けながらも,かけがえのない命を必死で守ろうとしている両親の姿が存在する.

 命が助かり,当院での治療も終わり,退院後の生活の場(在宅あるいは施設)の選択を迫られる頃には,両親は医療的ケアが必要で,かつ障害を背負ったわが子と生活していかなければならない現実に直面する.

 今回,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)が,退院支援を通して両親の揺れる思いに寄り添うことができた事例を報告する.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・3

社会保障費の財源

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.258 - P.259

■社会保障の財源

 社会保障の財源は,「公費(税)」「社会保険料」「積立金の運用による資産収入」に大別される.

 社会保障の財源をどこに求めるかは,わが国だけでなく,世界のいずれの国・地域においても常に大きな課題になっていることである.かつてのソビエト連邦や以前の中国のような社会主義国家では,社会保障の内容(質・量)は別として,すべての財源は国家の支出であるため問題にならない.しかし,世界のほとんどの国々が自由競争主義経済の下で運営されている現在,いずれの国々でも社会的強者と弱者が生じ,格差は年々拡大している.弱者に一定の生活を確保して,社会不安を回避し,社会の安定化を図る施策「社会保障」は社会防衛手段として必須である.

 誰がどのように負担するか,まず議論になることは,「公費(税)」「社会保険料」のいずれを主たる財源とするかである.

DPC時代の医療経営管理塾・9【最終回】

新しい入院期間の評価方法

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.260 - P.261

 ある病院のある月の平均在院日数は式1で,入院効率は式2で計算できる.

 

 A病院,B病院とも毎月コンスタントに600人が入院し,600人が退院する.また両病院とも診断群1,2,3患者のみが入院し,各診断群別の患者数,各病院の診断群毎の平均在院日数と全国平均値(期待値)は表に示す値であったとする.

 

〈問1〉A病院とB病院の平均在院日数を求めよ.

〈問2〉A病院とB病院の入院効率を%表示で求めよ.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・18

―「あなたの家にかえろう」配布数20万部突破<3>―旅立ちまでの体の変化~私が思うこと~

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.262 - P.263

 制作チームで一番もめた部分は,やはり,冊子25ページにある「旅立ちまでの体の変化」の記載だった.チーム8名のうち,反対したのは僕だけで,多数決では負けが決まっている.したがって声を大にするしかなかった.するとどうだろう,みんなから「すかんたこ注)」をくらい,たちまち嫌われる.

病院管理フォーラム ■DPCによる地域医療分析・7【最終回】

医療資源の選択と集中―まとめ

著者: 河野一博 ,   真野俊樹

ページ範囲:P.264 - P.266

 ベンサコら1)は,戦略を体系化し遂行するためには,企業の境界,市場と競争分析,ポジションとダイナミクス,内部組織の4つの視点で経営戦略を策定する必要があると述べている.DPC(Diagnosis Procedure Combination)というすぐれた診断群分類は,この4つの視点で地域医療を考えるうえで有効な情報源となる.

 われわれは,この連載で厚生労働省が発表しているDPCデータ(2007年6月22日および11月12日に開催された厚生労働省・中央社会保険医療審議会,平成19年度第1回,第8回診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会の資料2))という客観的な情報を使って,地域医療における「選択と集中」という視点で分析を行ってきた.つまり,都道府県単位でみた「地域医療」とそこの医療機関が提供する医療サービスの集約度,別の見方をすると,医療資源の集約度を,一般に公開されているDPCデータを用いて検討してきた.この結果は地域医療の評価のみならず,その地域における最適な医療の提供を実現する病院経営の戦略を体系化して遂行するため,重要な情報の1つとなると考えられる.

■院内DPC支援

院内DPC支援体制(後編)―DPCデータの活用

著者: 福村文雄

ページ範囲:P.267 - P.269

 DPC制度は単なる包括支払いのツールではなく,レセプト情報および診療情報を統一規格で収集できる機会であり,医療における質と効率の向上を目指したものであるとされている1).個々の施設にとってはDPC制度を通して収集されたデータを活用することで,自らの施設の全国から見たポジションを確認するだけでなく,医療の質の向上への方向性を見出せると考えられる.

 DPCデータの活用方法は,どの立場から見るかによって異なってくる.患者側は診療成績に主な関心を向けるだろうし,病院マネジメント側は,診療成績はもちろん,在院日数や単価なども気になるだろう.行政側は,効率をはじめ地域医療体制などへの関心が強いかもしれない.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第170回

宏仁会高坂醫院

著者: 久保田秀男

ページ範囲:P.270 - P.274

■患者と家族のために

 埼玉県比企郡小川町にある宏仁会小川病院が,他2か所に展開している人工透析を主体とした診療所の新築移転である.拙著『患者に選ばれる病院づくり』(じほう,2001年)と『病院の改善と運営改善へのヒント』(同,2003年)を読まれた北川宏理事長より,「患者と家族のための医療施設をつくりたい」との思いを綴られた長いお手紙を頂き,何度かの「文通」の後,大学のある広島まで来られ,新クリニックの設計にかかわらせていただくこととなった.

 診療所を有床にすることは,昨今の厳しい医療環境の中では,時代に逆行するものであったが,病院にも福祉施設にも入れなくて困っている患者さんが多くおられるので,そうした方たちが安心して入れるところをつくりたい,という理事長の思いによる.折しも設計途上で,将来的に療養病床が減床され,それに伴い医療法人が有料老人ホームを経営できるようになったのは,理事長のこの思いにまさしく合致したことであり,迷いなく決断され,かくして,将来有料老人ホームなどの高齢者の「居住施設」にも転用できることを視野に入れての設計となった.

リレーエッセイ 医療の現場から

クライアントという鏡

著者: 広野優子

ページ範囲:P.275 - P.275

 ER・テレフォン・クリニックは小児科開業医の診療時間外を電話相談でフォローしています.お世話になった小児科の先生の後押しもあり,6年前に開設しました.電話での医療相談を立ち上げたのは20年前ですが,開業医に電話相談の導入を提案するのは初めてでした.最初の顧客は,ご自身で時間外の電話を受けていた先生.開設1年後には業務紹介も兼ねて,東日本外来小児科学研究会で成果を発表しましたが,「医者でもないのに何で『クリニック』なのか」「看護師じゃないのに医療機関の電話相談ができるのか」という声が聞こえる一方,当日朝一番の新幹線で大阪から聴きに来られた先生もいて,反応は様々でした.

 医療者は,ともすれば一般人の問題を専門家が解決するのが電話相談だと考えますが,これは診療現場というゴルフ場で医療者というゴルファーが一般人というボールを,いかに巧みにホールアウト(治癒)させるかが医療の日常だからでしょう.しかし,医療も生活の一部ですから,医療者の足場はむしろ生活現場にあるはずです.電話相談とは,この生活現場というゴルフ場でゴルファーである一般人が人生というボールをいかにうまく打てるかサポートするキャディなのです.ボールをうまく打てるかどうかは基本的にゴルファーの腕にかかっていますが,石川遼君じゃなくてもゴルフを楽しめるのは,様々なアクシデントを一緒に乗り越えてくれるキャディという存在があってこそ.優れたキャディがゴルファーの技術や癖を熟知し,最後までその腕を信じているように,一般人の生活感覚や価値観を把握したうえで彼らが最善の結果をつかむのを静かに見守っている,それが電話相談でもあります.

レポート【投稿】

公立病院経営改革の経験から―全適は医療の公共性と経済性の両立に最適

著者: 齋藤貴生

ページ範囲:P.231 - P.235

要旨 一部適用および全部適用の同規模類似公立病院に,それぞれほぼ同様の方法で経営改革を行い,全適化の経営改革に及ぼす実際の効果を検証した.①全適の病院では,一部適用の病院で困難であった経営管理体制の改革の目標をおおむね達成するとともに,それ以外の医療・経営全般の改革の目標も,一部適用の病院より迅速に達成した.それに伴い,収支均衡を一部適用の病院よりも早期に達成できた.②全適化の実際の効果は,法律上予測される効果よりはるかに大きかった.法律上の個別条項による効果は経営管理体制の改革に限定的であったが,病院事業管理者の設置による効果が医療・経営の改革全般に及び,かつ大きいことがその理由と考えられた.以上より,公立病院改革を行ううえで,全適は,現時点では医療の経済性と公共性を両立できる最適の経営形態であると思われる.

特別寄稿

コミュニティケアとクリニカルガバナンス(後編)

著者: 吉長成恭

ページ範囲:P.236 - P.240

■前回のまとめ

 英国における医療改革の大きな流れは,国民医療費など社会保障費用を抑制する目的を維持しつつ,①施設医療からコミュニティケアへシフト,②医療サービス提供は,患者や介護する立場にある生活者のニーズ主導であり,サービス供給側の主導ではない,③医療サービスの質や医療施設経営管理に関する戦略的責任は政府ではなく地方自治体へ移管,④擬似市場として営利,非営利組織の医療サービス提供組織が依存するケア市場(混合経済市場)の開発を政府が規定する,であった.

 表はコミュニティにおけるケアサービスについて,医療サービスを中心にまとめたものである.「ファーストクラス・サービス」の医療提供を行うために,病床数の削減を同時に進め,人的資本(human capital)への投資によるポジティヴウェルフェアの文脈で,医師や看護師の増員が積極的に進められた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?